事業承継・M&A補助金は、中小企業がM&Aや事業承継を行う際の仲介手数料・専門家費用・設備投資などを国が補助する制度です。 最大2,000万円(専門家活用枠・100億企業宣言特例)の支援が受けられ、14次公募時点での採択率は約60%となっています。
この記事では、以下の内容をまとめています。
- 4つの申請枠それぞれの補助率・上限額・対象経費
- 会社を売りたいオーナーが使える「売り手支援類型」の具体的な活用法
- M&A仲介手数料を補助金でどこまでカバーできるかの試算例
- 採択率を上げるための加点項目と申請のコツ
- 次回公募に向けて今から準備すべきこと
この記事は、M&Aでの会社売却や親族・従業員への事業承継を検討している中小企業の経営者向けです。 補助金の活用で、M&Aにかかる費用負担を大幅に減らせる場合があります。
注意: 補助金の申請・活用に関する具体的な判断は、認定経営革新等支援機関・税理士・M&A専門家等にご相談ください。本記事は2026年4月時点の公式情報に基づいていますが、制度は公募回次ごとに変更される場合があります。
事業承継・M&A補助金の概要|名称変更と制度の位置づけ

事業承継・M&A補助金は、経済産業省 中小企業庁が所管し、中小企業基盤整備機構(中小機構)が実施する国の補助金制度です。中小企業の事業承継やM&Aに伴う設備投資、専門家活用費用、経営統合(PMI)費用などを支援します。
名称変更の経緯
この制度はもともと「事業承継・引継ぎ補助金」という名称でした。2025年(令和7年)の11次公募から現在の「事業承継・M&A補助金」に改称されています。
名称変更の背景には、M&Aを成長戦略として活用することを国として後押しするという政策方向の転換があります。旧名称で検索される方も多いですが、制度自体は同じものが発展的に継続しています。
(出典:ミラサポplus 中小企業庁担当者インタビュー、2026年4月確認)
制度の基本情報
項目 | 内容 |
|---|---|
正式名称 | 中小企業生産性革命推進事業「事業承継・M&A補助金」 |
所管 | 経済産業省 中小企業庁 |
実施機関 | 中小企業基盤整備機構(中小機構) |
事務局サイト | |
目的 | 事業承継・M&Aに伴う設備投資、専門家活用、PMI等の費用支援 |
旧名称 | 事業承継・引継ぎ補助金(〜10次公募まで) |
4つの申請枠を一覧比較|補助率・上限額・対象者

事業承継・M&A補助金には4つの申請枠があり、それぞれ対象者・補助率・上限額が異なります。自社の状況に合った枠を選ぶことが採択の第一歩です。
4枠の比較表(14次公募時点)
申請枠 | 対象者 | 補助率 | 補助上限 | 主な対象経費 |
|---|---|---|---|---|
事業承継促進枠 | 5年以内に親族内承継・従業員承継を予定する中小企業 | 1/2(小規模事業者2/3) | 800万円(賃上げ時1,000万円) | 設備費、外注費、委託費等 |
専門家活用枠(買い手I型) | M&Aで経営資源を譲り受ける予定の者 | 2/3 | 600万円(DD実施時800万円、100億企業宣言特例で最大2,000万円) | FA報酬、仲介手数料、DD費用等 |
専門家活用枠(売り手II型) | M&Aで経営資源を譲り渡す予定の者 | 1/2(赤字等の条件で2/3) | 600万円(M&A未成約時は300万円) | FA報酬、仲介手数料、DD費用等 |
PMI推進枠(専門家活用類型) | M&A後のPMIを実施する事業者 | 1/2 | 150万円(廃業併用時300万円) | コンサルティング費用等 |
PMI推進枠(事業統合投資類型) | M&A後のPMIを実施する事業者 | 1/2(小規模事業者2/3) | 800万円(賃上げ時1,000万円) | 設備費、外注費、委託費等 |
廃業・再チャレンジ枠 | 事業承継・M&Aに伴い既存事業を廃業する者 | 2/3 | 150万円 | 廃業支援費、在庫廃棄費、解体費等 |
(出典:事業承継・M&A補助金 公式サイト、14次公募要領、2026年4月確認)
各枠の詳細
事業承継促進枠
親族内承継や従業員承継を予定している企業が、承継に合わせて設備投資やDX導入、新商品開発などを行う際に使えます。M&Aではなく、社内での事業承継が対象です。
- 5年以内に事業承継を予定していることが要件
- 対象経費:機械装置、店舗改装、産業財産権関連経費、外注費など
- 小規模事業者は補助率が2/3に優遇される
専門家活用枠(売り手支援類型)
会社を売りたいオーナーにとって最も重要な枠です。 M&A仲介手数料やFA報酬、デューデリジェンス費用などが補助対象になります。
対象となる費用の例:
- M&A仲介会社への成功報酬
- FA(ファイナンシャル・アドバイザー)への報酬
- デューデリジェンス(DD)費用
- セカンドオピニオン費用
- 表明保証保険料
- M&Aプラットフォームのシステム利用料
重要な条件として、M&A支援機関登録制度に登録されたFA・仲介業者を利用する必要があります。 登録されていない業者の費用は補助対象外となるため、仲介会社選びの段階で確認が必要です。
また、赤字企業や営業利益率が低下している企業は補助率が1/2から2/3に引き上げられます。業績が厳しい状況での売却を検討している場合、より手厚い支援を受けられます。
PMI推進枠
M&Aの成立後、買い手側が経営統合(PMI)を進めるための費用を支援する枠です。「専門家活用類型」と「事業統合投資類型」の2つがあり、コンサルティング費用や統合後の設備投資に使えます。
廃業・再チャレンジ枠
M&Aや事業承継に伴い既存事業を廃業する場合、廃業にかかる費用(在庫処分、原状回復、リース解約など)を支援します。他の枠と併用して申請するケースが多い枠です。
売り手オーナーの補助金活用シミュレーション

会社の売却を検討しているオーナーが専門家活用枠(売り手支援類型)を使った場合、M&A仲介費用をどの程度カバーできるのか、具体的に試算してみます。
ケース1:一般的な中小企業の売却
項目 | 金額 |
|---|---|
M&A仲介手数料(成功報酬) | 500万円 |
補助率 | 1/2 |
補助金額 | 250万円 |
実質的な自己負担 | 250万円 |
ケース2:赤字企業・営業利益率低下企業の売却
項目 | 金額 |
|---|---|
M&A仲介手数料(成功報酬) | 500万円 |
DD費用 | 100万円 |
合計対象経費 | 600万円 |
補助率 | 2/3(赤字企業のため引き上げ) |
補助金額 | 400万円 |
実質的な自己負担 | 200万円 |
ケース3:M&Aが成約しなかった場合
M&Aが成約に至らなかった場合でも、上限300万円までは補助対象となります。仲介会社への着手金やリテーナーフィー(月額報酬)が発生している場合に、一定の費用をカバーできます。
試算の注意点
- 上記はあくまで概算です。実際の補助金額は審査結果と経費の精算に基づきます
- 補助金は後払い(精算払い)です。先に自己資金で全額支払い、事業完了後に補助金が交付される仕組みです
- 補助金は課税対象です。法人税・所得税がかかるため、手取りは補助金額から税負担を差し引いた金額になります
- 交付決定前の契約・発注は原則として補助対象外です(14次公募で事前着手制度が原則廃止)
※税務処理の詳細は、顧問税理士・税務の専門家にご相談ください。
M&A仲介会社の手数料体系について詳しく知りたい方は、「M&A仲介手数料の相場と比較」もあわせてご確認ください。
申請から受給までの流れ|現実的なタイムラインで解説

補助金の申請はJグランツ(jGrants)での電子申請のみ対応しています。紙の申請は受け付けていません。申請にはGビズIDプライムアカウントが必要で、取得には2〜3週間かかるため、早めの準備が不可欠です。
申請の8ステップ
- GビズIDプライム取得(申請の2〜3週間前まで)
- 必要書類の準備(事業計画書、見積書等)
- Jグランツで電子申請(公募期間内に提出)
- 審査・採択発表(申請締切から約1〜2ヶ月後)
- 交付決定(採択発表後に正式決定)
- 経費の支出開始(交付決定後の契約・発注が原則必須)
- 事業実施・実績報告(証拠書類の提出)
- 確定検査・補助金交付(精算払い)
14次公募のスケジュール(参考)
項目 | 日程 |
|---|---|
公募要領公表 | 2026年1月30日 |
申請受付開始 | 2026年2月27日 |
申請受付締切 | 2026年4月3日 17:00 |
採択発表 | 2026年5月中旬(予定) |
交付申請受付 | 2026年5月下旬〜9月下旬 |
事業実施期間 | 交付決定日〜2027年6月上旬 |
補助金交付 | 2027年1月下旬以降(順次) |
(出典:中小企業庁 14次公募公表、2026年4月確認)
14次公募の申請受付は2026年4月3日に締め切られています。 次回(15次)公募の日程は2026年4月4日時点で未公表ですが、過去の実績から数ヶ月以内に公表される見通しです。次回公募に向けた準備については後述します。
申請時の重要な注意事項
- 事前着手制度が原則廃止:14次公募では、交付決定通知の前に契約・発注した経費は補助対象外です。仲介会社との契約タイミングに注意してください
- 相見積が原則必須:外注費・委託費は原則2者以上から見積もりを取る必要があります
- M&A支援機関登録の確認:専門家活用枠では、登録制度に登録されたFA・仲介業者の利用が必須条件です
- 事業継続義務:補助事業完了後3〜5年の事業継続が求められる場合があります
採択率と採択率を上げるポイント
直近の採択率データ
14次公募の前回にあたる第13次公募(2026年1月15日発表)の結果は以下の通りです。
枠 | 申請件数 | 採択件数 | 採択率 |
|---|---|---|---|
事業承継促進枠 | 182件 | 111件 | 61.0% |
専門家活用枠 | 267件 | 163件 | 61.0% |
PMI推進枠 | 32件 | 19件 | 59.4% |
全体 | 481件 | 293件 | 60.9% |
(出典:中小企業庁 13次公募採択結果、2026年4月確認)
採択率は約60%で安定的に推移しています。つまり約4割は不採択です。採択率を上げるには、加点項目を意識した申請が重要になります。
採択率を上げる加点項目
審査では基本的な要件審査に加え、加点項目によって評価にプラスされます。以下の項目に該当する場合は、申請書に明記しましょう。
- 賃上げ:事業場内最低賃金+30円以上の引き上げ
- 経営革新計画の認定:都道府県知事の認定を取得済み
- 中小会計要領の適用:会計基準の遵守
- 健康経営優良法人の認定:経済産業省の認定制度
- 地域未来牽引企業の認定:経済産業省の認定制度
- サイバーセキュリティ関連の取り組み
- DX推進・地域貢献の取り組み
不採択を避けるためのチェックポイント
- 事業計画書の「事業の具体性」が不十分だと不採択になりやすい
- 対象経費の見積根拠が曖昧な場合は減点される
- 申請枠の要件を満たしていない(グループ内再編、実質的な経営権移行なし等)
- 記載内容に矛盾がある、数値の整合性がとれていない
補助対象外となるケース|申請前に必ず確認
以下に該当する場合、事業承継・M&A補助金の対象外となります。申請前に必ず確認してください。
- グループ内再編:親会社・子会社間の事業移管など
- 物品・不動産のみの売買:事業全体の承継を伴わない取引
- 従業員の引継ぎなし:人材を含まない資産譲渡
- 実質的な経営権移行がない:議決権の過半数が移転しないケース
- 取引価格が極端に低額:適正価格から著しく乖離する取引
他の支援制度との併用|補助金だけで終わらせない
事業承継・M&A補助金と併せて活用できる支援制度があります。制度を組み合わせることで、事業承継やM&Aにかかる総合的なコストを抑えられます。
併用可能な主な支援制度
制度名 | 概要 | 管轄 |
|---|---|---|
事業承継税制(特例措置) | 贈与税・相続税の納税猶予・免除。親族内承継向け | 国税庁 |
経営資源集約化税制 | M&Aに伴う設備投資の減税措置 | 経済産業省 |
事業承継・引継ぎ支援センター | 全国47都道府県に設置。無料でマッチング支援・相談対応 | 中小企業庁 |
M&A支援機関登録制度 | 登録FA・仲介業者の検索、セカンドオピニオンの提供 | 中小企業庁 |
活用パターンの例
パターンA:M&Aで売却 + 補助金 + 経営資源集約化税制
M&A仲介費用を補助金でカバーしつつ、買い手側は経営資源集約化税制で設備投資の減税を受ける。売り手にとっては仲介費用の軽減、買い手にとっては投資コストの圧縮につながります。
パターンB:親族内承継 + 事業承継税制 + 補助金
事業承継税制で贈与税・相続税の納税を猶予しつつ、承継に伴う設備投資を補助金(事業承継促進枠)でカバーします。
パターンC:無料相談 → 補助金申請 → M&A実行
まず事業承継・引継ぎ支援センター(無料)で相談し、方針が固まったら補助金を申請。交付決定後に仲介会社と正式契約してM&Aを進めます。
※事業承継税制や経営資源集約化税制の適用条件・税務処理は複雑です。具体的な判断は税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
事業承継税制について詳しくは「事業承継税制とは?特例措置の期限・要件を解説」をご覧ください。
次回公募に向けた準備チェックリスト
14次公募の申請受付は終了しましたが、次回(15次)公募に備えて今から準備できることがあります。以下のチェックリストを参考にしてください。
今すぐ着手すべき準備
- GビズIDプライムの取得:未取得の場合、申請開始の3週間前までに手続きを完了させる
- M&A支援機関登録の確認:利用予定の仲介会社・FAがM&A支援機関登録制度に登録されているか確認
- 見積もりの取得:M&A仲介会社2社以上から見積もりを取得(相見積の要件対応)
- 事業計画書のドラフト作成:補助事業の目的、期待される効果、スケジュールの素案
- 加点項目の確認:賃上げ計画、経営革新計画の認定取得など、該当する加点項目を整理
注意事項
- 次回公募の具体的な日程・要件は2026年4月4日時点で未公表です
- 補助率・補助上限額は公募回次ごとに変更される場合があります
- 交付決定前の契約は補助対象外となるため、仲介会社との正式契約のタイミングには注意が必要です
公式サイト(https://shoukei-mahojokin.go.jp/)で最新の公募情報を定期的にチェックしてください。
こんな企業におすすめ/おすすめしないケース
補助金の活用をおすすめする企業
- M&Aでの会社売却を検討しており、仲介手数料の負担が気になる方:専門家活用枠(売り手支援類型)で仲介費用の1/2〜2/3が補助されます
- 後継者不在で、親族または従業員への事業承継を5年以内に予定している方:事業承継促進枠で設備投資の補助が受けられます
- 業績が厳しく、赤字や営業利益率の低下がある中での売却を考えている方:補助率が2/3に引き上げられる優遇措置があります
- M&A成立後のPMI(経営統合)に専門家の支援が必要な方:PMI推進枠で専門家費用を補助金でカバーできます
補助金活用をおすすめしない(向いていない)ケース
- すでにM&A仲介会社と契約済みで、交付決定を待てない方:交付決定前の契約は補助対象外です。スケジュールの制約が大きいため、急ぎの案件には向きません
- グループ内再編や、実質的な経営権移行を伴わない取引:制度の対象外です
- 自己資金で先に全額支払う余裕がない方:補助金は後払い(精算払い)です。先に自己資金で支出する必要があります
- 採択の不確実性を許容できない方:採択率は約60%。不採択になった場合の代替プランも検討しておく必要があります
M&A仲介会社の選び方については「M&A仲介会社の選び方ガイド」、各社の比較は「M&A仲介会社おすすめ比較」をご参照ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 事業承継・M&A補助金と事業承継・引継ぎ補助金は同じものですか?
はい、同じ制度です。2025年の11次公募から「事業承継・引継ぎ補助金」から「事業承継・M&A補助金」に名称が変更されました。M&Aの活用を重視する政策方向を反映した改称で、制度の基本的な枠組みは継続しています。
Q. 補助金はいつ受け取れますか?
補助金は後払い(精算払い)です。事業完了後に実績報告書と証拠書類を提出し、確定検査を経て交付されます。14次公募の場合、補助金交付は2027年1月下旬以降の見通しです。先に自己資金で全額を支払う必要がある点にご注意ください。
Q. M&Aが成約しなかった場合も補助金は出ますか?
専門家活用枠(売り手支援類型)では、M&Aが成約しなかった場合でも上限300万円までは補助対象となります。ただし、成約時の上限600万円より低い金額になります。
Q. どの仲介会社でも補助金の対象になりますか?
いいえ。専門家活用枠では、M&A支援機関登録制度に登録されたFA・仲介業者の利用が必須条件です。登録されていない業者の費用は補助対象外です。仲介会社選びの段階で登録状況を確認してください。登録機関はM&A支援機関登録制度のサイトで検索できます。
Q. 補助金を受け取った後に税金はかかりますか?
はい、補助金は課税対象です。法人であれば法人税、個人事業主であれば所得税がかかります。補助金額がそのまま手取りにならない点を資金計画に織り込んでおく必要があります。具体的な税務処理については、顧問税理士にご相談ください。
Q. 「100億企業宣言」特例とは何ですか?
専門家活用枠(買い手支援類型)で、M&A譲渡価額5億円以上かつ「100億企業宣言」を行っている場合、補助上限が最大2,000万円に引き上げられる特例です。大規模なM&Aを予定している買い手企業が対象で、売り手側には直接適用されません。
まとめ|事業承継・M&A補助金を活用するための3つのポイント
事業承継・M&A補助金は、M&Aや事業承継にかかる費用負担を大幅に軽減できる制度です。最後に、活用のための重要ポイントを整理します。
1. 自社に合った申請枠を見極める
会社売却なら「専門家活用枠(売り手支援類型)」、親族・従業員承継なら「事業承継促進枠」と、状況に応じた枠選びが重要です。
2. スケジュールを逆算して準備する
GビズIDの取得、M&A支援機関登録の確認、相見積の取得など、申請前の準備に時間がかかります。公募開始前から動き始めましょう。
3. 専門家に相談してから進める
採択率は約60%で、申請書の完成度が採否を左右します。認定経営革新等支援機関、税理士、M&A専門家に相談し、万全の態勢で申請に臨むことをおすすめします。
事業承継やM&Aの全体像については「事業承継とは?基本から流れまで解説」、M&Aの基礎知識は「M&Aとは?仕組み・種類・メリットをわかりやすく解説」もあわせてご覧ください。
