事業譲渡の消費税とは?課税対象・計算方法・売り手の注意点を国税庁の事例で解説【2026年10月改正対応】
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事業譲渡の消費税とは?課税対象・計算方法・売り手の注意点を国税庁の事例で解説【2026年10月改正対応】

事業譲渡の消費税は、建物・設備・在庫・のれんなど課税資産に配分した対価に10%がかかり、土地・売掛金・有価証券は非課税です。国税庁の事例による計算方法、対価配分の決め方、課税売上割合・簡易課税・2026年10月のインボイス改正など売り手の注意点を解説します。

M&A比較レビュー編集部2026/10/1210分で読める

事業譲渡では、譲渡する資産のうち建物・設備・在庫・のれん(営業権)などの「課税資産」に配分した対価に消費税10%がかかり、土地・売掛金・有価証券などの「非課税資産」にはかかりません。 消費税を負担するのは買い手ですが、申告・納付するのは売り手です。この点は、譲渡対価そのものが非課税となる株式譲渡と大きく異なります。

この記事でわかること:

  • 事業譲渡で消費税がかかる資産・かからない資産(根拠付きの早見表)
  • 消費税額の計算方法(国税庁の事例と、中小企業を想定したモデルケースの2つ)
  • 負債を買い手が引き受ける場合に、課税対象額がどう決まるか
  • 契約書での対価配分(合理的な区分)の決め方
  • 課税売上割合・簡易課税・2026年10月のインボイス改正など、売り手が見落としやすい論点
  • 株式譲渡・会社分割・合併とのスキーム別の比較

この記事は、事業譲渡で事業を売却しようとしている法人オーナー・個人事業主と、その準備を担当する経理責任者に向けて書いています。

ご注意: 本記事は国税庁が公表している法令・通達・質疑応答事例にもとづく一般的な整理です(各出典の確認日は本文に記載しています)。消費税の扱いは、契約内容・資産の構成・採用している計算方式によって結論が変わります。実際の判断は必ず顧問税理士にご相談ください。


事業譲渡に消費税がかかる仕組み|「資産ごとの売買」として扱われる

事業譲渡は、消費税のうえでは「課税資産と非課税資産をまとめて売った取引」として扱われます。 このため、譲渡対価の総額にそのまま10%を掛けるのではなく、対価を資産ごとに区分し、課税資産の部分にだけ消費税がかかります。

国税庁は、営業(事業)譲渡の扱いを次のように示しています。

営業の譲渡は営業に係る資産、負債の一切を含めて譲渡する契約であり、資産の譲渡については、課税資産と非課税資産を一括して譲渡するものと認められますから、課税資産と非課税資産の対価の額を合理的に区分して課税することとなります。

関係法令通達:消費税法施行令第45条第3項

出典:国税庁 質疑応答事例「営業の譲渡をした場合の対価の額」(令和7年8月1日現在の法令・通達等/2026年10月13日確認)

納めるのは売り手、負担するのは買い手

消費税の納税義務者は、資産を譲渡した側、つまり売り手です。実務では、買い手が税抜の譲渡対価に消費税相当額を上乗せして支払い、売り手がそれを預かって確定申告で納付します。

ただし、売り手が免税事業者(原則として基準期間の課税売上高が1,000万円以下で、インボイス発行事業者の登録をしていない事業者)であれば、事業譲渡をしても売り手に消費税の納税義務は生じません。その場合に買い手側で生じる影響は後半の「インボイス制度」の節で説明します。

株式譲渡なら譲渡対価に消費税はかからない

株式の譲渡は有価証券の譲渡として非課税です(国税庁 タックスアンサー No.6201 非課税となる取引)。会社をまるごと売る株式譲渡と、資産を個別に移す事業譲渡とで、消費税の扱いがはっきり分かれる理由はここにあります。事業譲渡の仕組みそのものは「事業譲渡とは?わかりやすく解説」で整理しています。


消費税がかかる資産・かからない資産の早見表

事業譲渡で引き継ぐ在庫・資材など課税資産のイメージ

土地・売掛金などの金銭債権・有価証券は非課税、それ以外の事業用資産(建物・設備・車両・在庫・のれん・知的財産など)は原則として課税です。 現金・預金は事業譲渡の対象から外すのが一般的です。

資産

消費税

根拠・補足

建物・建物付属設備・構築物

課税

有形資産の譲渡(タックスアンサー No.6145)

機械装置・車両・工具器具備品

課税

同上

在庫(棚卸資産)

課税

同上。食品の在庫を含む場合の税率区分は税理士に確認

のれん(営業権)

課税

国税庁 質疑応答事例「営業の譲渡をした場合の対価の額」

特許権・商標権などの知的財産

課税

無体財産権も「資産」に含まれる(No.6145)

ソフトウェアなどの無形資産

課税(一般的な扱い)

個別の扱いは税理士に確認

土地・借地権

非課税

土地の譲渡・貸付け(No.6201)

売掛金・貸付金などの金銭債権

非課税

有価証券等の譲渡に含まれる(No.6201)

有価証券(子会社株式など)

非課税

同上

現金・預金

消費税の対象外

支払手段の譲渡は非課税(No.6201)。通常は譲渡対象外

買い手が引き受ける負債

―

資産ではないため課税されない。課税対象は課税資産に配分された対価で決まる

出典:国税庁 タックスアンサー No.6145 課税の対象となる資産の譲渡、No.6201 非課税となる取引(いずれも令和8年4月1日現在法令等/2026年10月13日確認)

在庫に食品が含まれる場合

飲食料品は軽減税率8%の対象ですが、事業譲渡で食品の在庫を引き渡す場合の税率については、国税庁の公表資料で個別に明示された記載を確認できませんでした。食品の在庫が多い小売・卸売・製造業の事業を譲渡する場合は、税率の区分を税理士に確認してから契約書の金額を確定させてください。

のれんの考え方は「のれん(営業権)とは?M&A会計・税務の基礎」で詳しく解説しています。


事業譲渡の消費税の計算方法|基本式と2つの計算例

消費税額は「課税資産に配分した対価(税抜)× 10%」で計算します。 譲渡対価の総額から負債を差し引いた「支払額」に課税割合を掛けるのではない、という点が最大のポイントです。

基本の計算式

ケース

計算式

契約書で資産ごとの対価を区分している場合

消費税額 = 課税資産に配分した対価の合計(税抜)× 10%

対価が区分されていない(または区分が合理的でない)場合

課税資産の対価 = 譲渡対価の総額 ×(課税資産の時価 ÷ 課税資産と非課税資産の時価の合計)

区分されていない場合の扱いは、消費税法施行令45条3項と消費税法基本通達10-1-5(注)にもとづきます(出典:国税庁「消費税法基本通達 第10章第1節」、2026年10月13日確認)。

計算例1:国税庁の事例(負債を引き受ける場合)

国税庁の質疑応答事例では、次の内容の営業譲渡が示されています。

項目

金額

消費税

土地(時価評価額)

20億円

非課税

営業権(のれん)

10億円

課税

有形固定資産

10億円

課税

負債:預り保証金(買い手が引き受け)

▲5,000万円

―

差引支払金額

39億5,000万円

―

課税対象となる対価の額

20億円

営業権+有形固定資産

出典:国税庁 質疑応答事例「営業の譲渡をした場合の対価の額」(2026年10月13日確認)

国税庁の回答では、課税対象となる対価の額は営業権と有形固定資産の合計20億円で、土地の20億円は含めないとされています。現行の標準税率10%で計算すると、消費税額は2億円です(編集部による計算)。

ここで押さえたいのは、買い手が負債を引き受けて実際の支払額が39億5,000万円に減っても、課税対象額は課税資産に配分された20億円のままだという点です。「支払額39.5億円 × 課税資産の割合」のように計算すると金額がずれます。

計算例2:中小企業を想定したモデルケース

税抜の譲渡対価総額1億5,000万円で、資産ごとの配分を契約書に明記したケースです(数値は解説用の架空のものです)。

資産

配分額(税抜)

区分

建物

3,000万円

課税

機械装置・備品

1,000万円

課税

在庫(棚卸資産)

1,000万円

課税

のれん(営業権)

4,000万円

課税

土地

4,000万円

非課税

売掛金

2,000万円

非課税

合計

1億5,000万円

課税資産 9,000万円

  • 消費税額:9,000万円 × 10% = 900万円
  • 買い手が支払う総額:1億5,000万円 + 900万円 = 1億5,900万円
  • 売り手は900万円を預かり、確定申告で納付する

参考:資産ごとの対価を決めていなかった場合

仮に同じ資産を「一括1億2,000万円」で売り、内訳を決めていなかったとします。課税資産の時価が9,000万円、非課税資産の時価が6,000万円であれば、課税資産の対価は次のように計算されます(数値は架空の例です)。

1億2,000万円 ×(9,000万円 ÷ 1億5,000万円)= 7,200万円 → 消費税額 720万円

総額だけを決めて内訳を空欄にしておくと、あとから時価の根拠を示して按分し直す作業が発生します。次の節で説明するとおり、内訳は契約書に明記しておくのが実務の基本です。


対価配分の決め方と契約書のポイント

事業譲渡契約書で資産ごとの対価配分を確認・署名する様子

資産ごとの対価は、時価を基礎に合理的に区分し、契約書に明記するのが原則です。 配分は消費税だけでなく法人税・所得税や不動産関連の税金にも影響するため、売り手と買い手の利害が分かれやすい論点です。

合理的な区分の考え方

消費税法基本通達10-1-5は、異なる区分の資産を同じ相手に同時に譲渡する場合、それぞれの対価を合理的に区分しなければならないとしています。合理的に区分されていない場合は、それぞれの資産の通常の取引価額(時価)を基礎に区分します。

実務では、次のような根拠資料をそろえて配分を決めるのが一般的です。

  • 土地・建物:不動産鑑定評価、固定資産税評価額、路線価など
  • 設備・車両:簿価、中古市場の相場、専門業者の評価
  • 在庫:引渡日時点の棚卸の結果
  • のれん:企業価値評価(バリュエーション)と純資産の差額

土地と建物を一括で譲渡する場合の按分方法は、税務調査や裁判で争われた例もあります。配分の根拠となった資料は、契約書とあわせて保存しておいてください。

契約書で確認しておきたい項目

  • ☐ 譲渡価額が「税抜」であり、消費税は別途受け取ることが明記されているか
  • ☐ 課税資産・非課税資産ごとの対価の内訳が記載されているか
  • ☐ 消費税相当額の支払時期(譲渡代金と同時か)が決まっているか
  • ☐ 在庫など引渡日までに金額が変わる資産について、価格調整の方法が決まっているか
  • ☐ 売り手がインボイス発行事業者かどうか、登録番号の記載方法
  • ☐ 食品の在庫を含む場合の税率区分

価格調整条項などで対価の額が期末までに確定しない場合、期末の現況で適正に見積もって計上し、確定後に差額をその確定した日の課税期間で調整する扱いがあります(消費税法基本通達10-1-20)。アーンアウト(成果連動の追加対価)を設定する場合も関係するため、契約前に税理士と処理方法を決めておくと安心です。

※契約条項の書き方や対価配分の税務上の妥当性は、税理士・弁護士への相談をおすすめします。

配分によって変わる売り手・買い手の損得

配分を増やす資産

売り手への影響

買い手への影響

のれん・設備・建物(課税資産)

消費税込みの請求額が増える(預かる消費税も増える)

支払う消費税が増え、一時的に資金負担が増える。仕入税額控除の対象になりうる

土地(非課税資産)

消費税は増えないが、課税売上割合が下がる可能性(後述)

消費税はかからないが、不動産取得税・登録免許税の課税標準に関わる

在庫(課税資産)

引渡日までの変動で金額が動く

取得後の売上原価になる

法人税上ののれん(資産調整勘定)の償却や、譲渡益への課税も配分によって変わります。消費税だけを見て配分を決めず、法人税・所得税を含めた全体で検討してください。消費税以外の税金は「会社売却の税金・節税 完全ガイド」で解説しています。


売り手が見落としやすい5つの論点

事業譲渡の消費税で売り手に影響が大きいのは、①課税売上割合の低下、②簡易課税の事業区分、③インボイス制度、④譲渡後の納税義務、⑤預かった消費税の納付資金の5つです。 いずれも、売り手の手取りや譲渡後の資金繰りに直結します。

1. 土地を含む事業譲渡は課税売上割合を下げる

課税売上割合は「課税売上高 ÷ 総売上高(課税+免税+非課税)」で計算します。土地の譲渡対価は非課税売上として分母に入るため、土地を含む事業譲渡をした課税期間は、売り手の課税売上割合が下がることがあります。

原則として、課税売上割合が95%未満になる(または課税売上高が5億円を超える)と、仕入れにかかった消費税を全額は控除できなくなります。その結果、たとえばM&A仲介手数料にかかる消費税の一部が控除できなくなる、といった影響が出ます。

一方で、売掛金のように「資産の譲渡等の対価として取得した金銭債権」の譲渡は、分母にも分子にも含めません。 貸付金・預金など他の金銭債権や有価証券の譲渡は、譲渡対価の5%だけを分母に加えます(国税庁 タックスアンサー No.6405 課税売上割合の計算方法、2026年10月13日確認)。

モデルケース(架空の数値): 通常の年間課税売上が1億円の会社が、計算例2の事業譲渡(課税資産9,000万円、土地4,000万円、売掛金2,000万円)を行った場合

項目

金額

課税売上高(通常の売上1億円+課税資産9,000万円)

1億9,000万円

非課税売上高(土地)

4,000万円

売掛金の譲渡

計算に含めない

課税売上割合

1億9,000万円 ÷ 2億3,000万円 ≒ 82.6%

「課税売上割合に準ずる割合」の承認申請という選択肢

たまたま土地を譲渡しただけで事業の実態が変わらない場合は、税務署長の承認を受けて「課税売上割合に準ずる割合」を使える場合があります。国税庁の質疑応答事例で示されている主な条件は次のとおりです。

  • 土地の譲渡が単発のもので、譲渡がなかったとすれば事業の実態に変動がないこと
  • 過去3年間の課税売上割合の最高と最低の差が5%以内であること
  • 使える割合は「前3年の通算課税売上割合」と「前課税期間の課税売上割合」のいずれか低いほう
  • 適用したい課税期間の末日までに「消費税課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書」を提出し、末日の翌日から1か月以内に承認を受ければ、その課税期間から適用できる
  • 翌課税期間には不適用届出書を提出する

出典:国税庁 質疑応答事例「たまたま土地の譲渡があった場合の課税売上割合に準ずる割合の承認」(令和7年8月1日現在/2026年10月13日確認)

この承認は個別対応方式を採用している場合に使える仕組みで、一括比例配分方式では使えないと解説されています(出典:税務研究会 企業懇話会FAQ、2026年10月13日確認)。また、事業の大部分を売って実態が変わる場合(廃業に向けた売却など)は「事業の実態に変動がない」に当たらない可能性があります。 申請するかどうかは、必ず税理士と相談して判断してください。

2. 簡易課税の売り手は、固定資産の譲渡が「第4種事業」になる

売り手が簡易課税制度を選んでいる場合、自社で使っていた建物・付属設備・構築物・機械装置・車両・工具器具備品・無形固定資産などの譲渡は、本業が何であっても第4種事業(みなし仕入率60%)に区分されます(国税庁 タックスアンサー No.6509 簡易課税制度の事業区分 Q&A、2026年10月13日確認)。

計算例2の建物3,000万円と機械装置・備品1,000万円だけを取り出すと、売上にかかる消費税400万円に対し、みなし仕入率60%で控除できる額は240万円で、この部分の納付額は160万円という計算になります(複数の事業区分がある場合の実際の計算はより複雑です)。

在庫(棚卸資産)は通常の販売と同じ事業区分になると考えられますが、のれん(営業権)をどの事業区分にするかは、国税庁の公表資料で明確な記載を確認できませんでした。簡易課税の売り手は、事業区分の判断を税理士に確認してください。

3. インボイス制度:売り手が免税事業者だと価格交渉で不利になりうる

買い手が仕入税額控除を受けるには、原則として売り手が交付する適格請求書(インボイス)が必要です。売り手が免税事業者などインボイス発行事業者以外の場合、買い手は経過措置の範囲でしか控除を受けられません。

令和8年度税制改正で、この経過措置は次のように見直されました。

期間

免税事業者等からの課税仕入れの控除可能割合

2023年10月〜2026年9月

80%

2026年10月〜2028年9月

70%

2028年10月〜2030年9月

50%

2030年10月〜2031年9月

30%

2031年10月以降

控除不可

さらに、一の免税事業者等からの課税仕入れが年間(事業年度)で1億円(改正前は10億円)を超える場合、超えた部分には経過措置が使えません。 この上限は、令和8年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。

出典:国税庁「令和8年度税制改正特集(インボイス制度)」、国税庁パンフレット「令和8年4月 消費税法等の改正」(2026年10月13日確認)

売り手への影響を整理すると、次のとおりです。

  • 売り手が免税事業者だと、買い手は消費税相当額の全額を控除できない。その分、譲渡価格の引き下げを求められる可能性がある
  • 課税仕入れが1億円を超える規模の事業譲渡では、超過部分に経過措置が使えないため、影響はさらに大きくなる
  • 実際にどの割合が適用されるかは買い手の課税期間の開始日にも左右されるため、交渉前に双方の税理士で確認しておく

インボイス登録をするかどうかは、登録後の自社の納税負担とあわせて判断する必要があります。仲介手数料側のインボイス対応は「M&A仲介手数料の消費税・インボイス対応ガイド」で解説しています。

4. 譲渡した期の売上が「2年後の納税義務」に影響する

事業用の固定資産の売却代金も、納税義務の判定に使う課税売上高に含まれます(国税庁 質疑応答事例「課税売上高の範囲」、2026年10月13日確認)。

そのため、事業譲渡をした課税期間は課税売上高が一時的に大きくなり、2年後の課税期間について次の判定に影響することがあります。

  • 基準期間の課税売上高が1,000万円を超え、課税事業者になる
  • 基準期間の課税売上高が5,000万円を超え、簡易課税を選べなくなる

会社を清算する予定なら影響は限定的ですが、一部の事業だけを譲渡して残りの事業を続ける法人や個人事業主は要注意です。

5. 預かった消費税は「手取り」ではない

計算例2では、売り手は1億5,900万円を受け取りますが、そのうち900万円は後で納付する消費税です。法人は原則として事業年度終了の日の翌日から2か月以内、個人事業主は翌年3月31日までに申告・納付します。

譲渡代金を借入金の返済や役員への分配に充ててしまい、納付期限に資金が足りなくなるケースを避けるため、消費税相当額は別口座で管理するなど、手取り額と分けて考えてください。手取りの計算方法は「M&A売却の手取り額シミュレーション」で解説しています。


株式譲渡・会社分割・合併との消費税比較

株式譲渡・会社分割・合併などM&Aスキームを検討する会議室

譲渡対価に消費税がかかるのは、主なスキームのなかで事業譲渡だけです。 株式譲渡は非課税です。合併・会社分割は包括承継のため「資産の譲渡等」に当たらず、消費税の対象外(不課税)と整理されています(税務専門誌の解説による)。

比較項目

株式譲渡

事業譲渡

会社分割

合併

譲渡対価への消費税

かからない(非課税)

課税資産の部分に10%

かからない(不課税)

かからない(不課税)

資産の移り方

会社ごと(株主が変わるだけ)

資産・契約を個別に移転

包括承継

包括承継

売り手の申告・納付

不要

必要(課税事業者の場合)

不要

不要

課税売上割合への影響

法人株主は譲渡対価の5%が分母に加算

土地を含むと低下しうる

―

―

仲介手数料の消費税

10%かかる

10%かかる

10%かかる

10%かかる

一部の事業だけ売れるか

不可(会社全体)

可能

可能

不可

出典:国税庁 タックスアンサー No.6201(株式譲渡の非課税)、国税庁 質疑応答事例「営業の譲渡をした場合の対価の額」(事業譲渡)、税務研究会「組織再編における消費税率引上げの影響」(合併・会社分割)。いずれも2026年10月13日確認。会社分割・合併の具体的な取扱いは、実行前に税理士へ確認してください。

ただし、消費税だけでスキームを選ぶのはおすすめしません。事業譲渡では消費税を買い手が負担するため、売り手にとっては「納付資金の管理」と「課税売上割合などの周辺の影響」が主な論点で、手取り額を大きく左右するのは法人税・所得税のほうです。許認可や従業員の移り方の違いも含めた比較は「株式譲渡と事業譲渡はどっちがいい?」、会社分割の仕組みは「会社分割とは?わかりやすく解説」をご覧ください。


個人事業主が事業譲渡する場合の注意点

個人事業主の事業譲渡も、課税事業者であれば法人と同じく課税資産の部分に消費税がかかります。 個人事業主の場合は、免税事業者かどうか、インボイス登録の有無、2026年の特例の見直しが特に影響します。

  • 免税事業者のまま譲渡する場合:売り手に納税義務はありませんが、買い手は経過措置の範囲(2026年10月以降は原則70%)でしか控除できず、価格交渉に影響する可能性があります
  • 2割特例は終了へ:インボイス登録で課税事業者になった小規模事業者向けの2割特例は、令和8年9月30日の属する課税期間までで終了します。暦年で申告する個人事業主の場合、令和8年分の申告が最後の適用対象です
  • 3割特例の創設:免税事業者からインボイス登録をして課税事業者になった個人事業者は、令和9年分・令和10年分の申告で、納付税額を売上税額の3割とすることができます(基準期間の課税売上高1,000万円以下などが要件。法人は対象外)
  • 一部の事業を続ける場合:譲渡した年の課税売上高が、2年後の納税義務・簡易課税の判定に影響します

出典:国税庁「令和8年度税制改正特集(インボイス制度)」(2026年10月13日確認)

2割特例・3割特例が事業譲渡の売上にどう適用されるか、譲渡のタイミングで有利・不利が出るかは個別の事情によって変わるため、税理士に試算を依頼してください。個人事業の売却全体の流れは「個人事業主・フリーランスの事業売却 完全ガイド」で解説しています。


消費税の影響を特に確認すべき売り手・影響が小さい売り手

事前に税理士と試算しておきたいケース

  • 土地を含む事業を譲渡し、売却後も他の事業を続ける法人:課税売上割合の低下で、その期の仕入税額控除が減る可能性があります
  • 簡易課税を選択している売り手:固定資産は第4種、のれんの区分は要確認で、納付額の見込みが変わります
  • 免税事業者の個人事業主・小規模法人:インボイス未登録のままだと、買い手から価格調整を求められる可能性があります
  • 課税資産の対価が大きい事業譲渡(のれん・建物の比率が高い):預かる消費税が大きくなり、納付資金の管理が重要になります
  • 一部事業を売って残りの事業を続ける売り手:2年後の納税義務・簡易課税の判定が変わる可能性があります
  • 食品の在庫が多い事業:税率区分の確認が必要です

消費税の影響が比較的小さいケース

  • 譲渡資産の大部分が土地・売掛金などの非課税資産で、譲渡後に会社を清算する予定の法人:課税対象額が小さく、譲渡後の判定の影響も限定的です
  • 株式譲渡を選べる会社:会社ごと売る場合は、譲渡対価に消費税はかかりません

M&Aの基本用語を確認したい方は「M&A用語集35選」もあわせてご覧ください。


よくある質問

Q. 契約書に「譲渡価額1億円」とだけ書き、消費税に触れていなかった場合はどうなりますか?

税込か税抜かが明記されていないと、1億円が消費税込みの金額だと解釈され、売り手が受け取った1億円の中から消費税を納めることになるおそれがあります。後から買い手に消費税相当額を請求できるかは契約の解釈の問題になるため、契約書には「税抜」「消費税は別途」と明記してください。

Q. 赤字の事業を譲渡しても消費税はかかりますか?

かかります。消費税は利益ではなく取引(資産の譲渡)に対して課税されるため、事業が赤字でも、譲渡に損失が出ても、課税資産に配分した対価があれば消費税の対象になります。

Q. 役員や親族の会社に安く事業を譲渡した場合、消費税はどう計算しますか?

法人が自社の役員に資産を譲渡し、その対価が時価の50%に満たない場合は、時価で譲渡したものとみなして消費税を計算します(消費税法基本通達10-1-2)。役員以外の第三者への低額譲渡の扱いは個別の事情で判断が分かれるため、事前に税理士へ確認してください。

Q. 買い手が支払った消費税は、買い手側で取り戻せますか?

買い手が課税事業者で、売り手からインボイスを受け取っていれば、原則として仕入税額控除の対象になります。ただし、買い手が簡易課税を選択している場合や、課税売上割合が低い場合は全額を控除できないこともあります。買い手の事情は譲渡価格の交渉にも関わるため、条件交渉の段階で双方の税務の前提をそろえておくとスムーズです。

Q. 消費税はいつ申告・納付しますか?

事業譲渡の引渡日(資産を譲渡した日)を含む課税期間の確定申告で申告・納付します。法人は原則として事業年度終了の日の翌日から2か月以内、個人事業主は翌年3月31日までです。中間申告の対象になっている場合は、その納付も考慮して資金を確保してください。


まとめ

  • 事業譲渡は消費税では「課税資産と非課税資産の一括譲渡」として扱われ、課税資産に配分した対価にだけ10%がかかる
  • 課税:建物・設備・車両・在庫・のれん・知的財産など/非課税:土地・売掛金などの金銭債権・有価証券
  • 納税義務者は売り手。買い手から預かった消費税は手取りではなく、確定申告で納付する
  • 買い手が負債を引き受けても、課税対象額は課税資産に配分された対価で決まる(国税庁の事例)
  • 資産ごとの対価は時価を基礎に合理的に区分し、「税抜」とあわせて契約書に明記する
  • 売り手は、課税売上割合の低下、簡易課税の事業区分、インボイス改正(2026年10月から70%控除・1億円上限)、譲渡後の納税義務の判定もあわせて確認する
  • 株式譲渡は非課税、合併・会社分割は不課税。ただしスキームは消費税だけで選ばない

税務判断についての注記: 本記事は国税庁が公表している法令・通達・質疑応答事例にもとづく一般的な整理です。国税庁の質疑応答事例にも「照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答であり、具体的な取引に適用する場合は回答内容と異なる課税関係が生ずることがある」と明記されています。対価配分・課税売上割合に準ずる割合の申請・簡易課税の事業区分・インボイス登録の判断は、必ず顧問税理士にご相談ください。

事業譲渡を含む売却を進める際は、税務に強い専門家と連携できるM&A仲介会社を選ぶことも大切です。依頼先の選び方は「M&A仲介会社の選び方」、手数料の比較は「M&A仲介会社の成功報酬・手数料比較」で整理しています。

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