会社売却とは?流れ・費用・税金・手取り額まで売り手経営者向けに徹底解説【2026年最新】
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会社売却とは?流れ・費用・税金・手取り額まで売り手経営者向けに徹底解説【2026年最新】

会社売却の定義から具体的な流れ、手数料・税金の計算例、手取り額シミュレーション、仲介会社の選び方まで、売却を検討する中小企業オーナー向けに網羅的に解説します。

M&A比較レビュー編集部2026/4/510分で読める

会社売却とは、企業の所有権(経営権)を第三者に譲渡し、その対価として金銭等を受け取る取引のことです。 中小企業では株式譲渡による売却が最も一般的で、完了までの期間は6ヶ月〜1年以上が目安となります。

この記事でわかること:

  • 会社売却の定義と主な方法(株式譲渡・事業譲渡の違い)
  • 準備開始からクロージングまでの15ステップの具体的な流れ
  • 仲介手数料・税金を含めた「手取り額」のシミュレーション
  • 売却前にやるべき準備チェックリスト
  • 2026年に使える公的支援制度(補助金・無料相談窓口)
  • 仲介会社の選び方と判断基準

この記事は、会社の売却を検討し始めた中小企業のオーナー経営者の方に向けて書いています。 「売却すると手元にいくら残るのか」「何から始めればいいのか」といった疑問に、具体的な数字と手順でお答えします。

会社売却の基本 ― 定義・方法・M&Aとの関係

会社売却はM&A(Mergers & Acquisitions)の一形態で、「売り手目線」での表現です。M&Aには合併・買収・提携など広い意味が含まれますが、会社売却は経営権の譲渡と対価の受け取りに焦点を当てた取引を指します。

会社の資産・負債だけでなく、取引先との関係・従業員・ブランド・ノウハウなども含めた包括的な譲渡となるのが特徴です。

M&Aの基本的な仕組みについては「M&Aとは?仕組み・種類・メリットをわかりやすく解説」で詳しく解説しています。

会社売却の主な方法(スキーム比較)

中小企業の会社売却で使われる主な方法は以下の4つです。

スキーム

概要

メリット

デメリット

向いているケース

株式譲渡

株主が保有株式を買い手に譲渡し経営権を移転

手続きが比較的簡易。会社を丸ごと譲渡できる

簿外債務も引き継がれる

中小企業で最も一般的。 会社全体を売却したい場合

事業譲渡

会社の事業の全部または一部を譲渡

必要な資産・事業のみ選択可。売り手法人は存続

個別の契約移転・許認可の再取得が必要

一部事業のみ売却したい場合。不採算部門の切り離し

合併

2社以上が1社に統合

適格合併なら税制優遇あり

手続きが複雑。債権者保護手続きが必要

経営統合を目的とする場合

会社分割

事業を分割して他社に承継

包括承継のため個別の契約移転が不要

手続きが複雑

株式譲渡と組み合わせた応用スキーム

結論として、中小企業のオーナー経営者が「会社を売りたい」と考える場合、まず検討すべきは株式譲渡です。 手続きの簡便さと、会社を包括的に譲渡できる点が選ばれる理由です。

一方、「この事業だけ手放したい」「法人は残したい」という場合は事業譲渡が選択肢になります。

株式譲渡と事業譲渡 ― どちらを選ぶべきか

比較項目

株式譲渡

事業譲渡

譲渡対象

会社全体(株式)

選択した事業・資産

売り手法人の存続

存続しない(経営権移転)

存続する

手続きの簡便さ

比較的簡易

個別資産・契約ごとに移転手続きが必要

許認可

原則そのまま承継

再取得が必要な場合あり

簿外債務リスク

買い手が引き継ぐ

買い手は選択した資産のみ引き継ぐ

税金(個人株主)

譲渡所得税20.315%

法人に法人税(約30〜34%)

競業避止義務

契約で定める

会社法上20年(特約で最大30年)

消費税

非課税

課税対象(土地を除く)

こんな場合は株式譲渡向き:

  • 会社をまるごと売却したい
  • 手続きをできるだけシンプルにしたい
  • 個人株主として売却益を受け取りたい(税率20.315%)

こんな場合は事業譲渡向き:

  • 一部の事業だけ売却し、法人は存続させたい
  • 買い手側が簿外債務のリスクを懸念している
  • 複数事業のうち、ノンコア事業を切り離したい

会社売却の流れ ― 準備からクロージングまで15ステップ

会社売却の準備からクロージングまでの流れを示すプロセスフロー図

会社売却の全体像は「準備」「マッチング・交渉」「最終契約・実行」の3フェーズに分かれます。全体で6ヶ月〜1年以上かかるのが一般的で、準備期間を含めると2〜3年前から着手するのが理想です。

フェーズ1: 準備段階(1〜3ヶ月)

この段階で売却の成否が大きく左右されます。「磨き上げ」と呼ばれる企業価値向上の取り組みを含め、できれば売却の1〜2年前から着手するのが望ましいです。

ステップ1. 売却目的の明確化

なぜ売るのかを整理します。後継者不在、イグジット(創業者利益の確定)、選択と集中など、目的によって売却条件の優先順位が変わります。

売却後も守りたい条件(従業員の雇用継続、取引先との関係維持、ブランドの存続など)もこの段階で明確にしておきます。

ステップ2. 自社情報の整理・磨き上げ

買い手に評価されるための準備です。具体的には以下を行います。

  • 財務諸表の整備(過去3〜5期分)
  • 簿外債務の確認と処理
  • 不採算部門の整理
  • 事業の強みの言語化(技術力・顧客基盤・ブランド等)
  • 経営者個人への依存度の低減(属人化の解消)

ステップ3. M&A専門家の選定・アドバイザリー契約の締結

M&A仲介会社またはFA(ファイナンシャルアドバイザー)を選定し、契約を締結します。この選定が売却の成功を大きく左右するため、複数社に相談してから決めることを推奨します。

仲介会社の選び方については「M&A仲介会社おすすめ比較」で詳しく解説しています。

フェーズ2: マッチング・交渉段階(2〜4ヶ月)

ステップ4. 買い手候補の選定(ソーシング)

仲介会社・FAが買い手候補のロングリストを作成し、ショートリストへ絞り込みます。この段階では会社名を伏せた「ノンネームシート」で買い手候補に打診します。

ステップ5. 秘密保持契約(NDA)の締結

関心を示した買い手候補と秘密保持契約を締結します。これが情報開示の前提条件になります。

売り手の注意点: 売却検討が外部に漏れると、従業員の動揺・取引先の不安・金融機関の対応変化など、経営に悪影響が出る恐れがあります。情報管理は徹底してください。

ステップ6. 企業概要書(IM)の提示・検討

NDA締結後、買い手候補に詳細な事業・財務情報をまとめた企業概要書(Information Memorandum)を開示します。

ステップ7. トップ面談

経営者同士が直接会い、経営理念・企業文化・事業への想いを共有します。数字だけでは見えない「人と人との相性」を確認する重要なステップです。

ステップ8. 意向表明書(LOI)の受領

買い手候補から、買収の意向・想定価格・条件をまとめた意向表明書を受け取ります。

ステップ9. 基本合意書(MOU)の締結

大枠の条件で合意し、独占交渉権を設定します。ここから本格的なデューデリジェンスに進みます。

フェーズ3: 最終契約・実行段階(2〜4ヶ月)

ステップ10. デューデリジェンス(DD)

買い手が財務・法務・税務・事業・人事等の詳細調査を実施します。売り手にとっては資料提出・質問対応の負担が大きいフェーズです。

売り手が事前に準備しておくべきこと:

  • 決算書・税務申告書(過去3〜5期分)
  • 主要取引先との契約書
  • 従業員名簿・就業規則
  • 許認可証書
  • 不動産関連書類
  • 借入契約・リース契約の一覧

ステップ11. 最終条件交渉

DD結果を踏まえた価格・条件の最終調整です。DDで新たなリスクが見つかった場合、価格の減額交渉が入ることもあります。

ステップ12. 最終契約書(SPA)の締結

株式譲渡契約書(Stock Purchase Agreement)を締結します。譲渡価格・表明保証・補償条項・クロージング条件などを定めます。

ステップ13. クロージング

株式の移転と対価の支払いを実行します。この時点で正式に経営権が移転します。

ステップ14. ステークホルダーへの情報開示

従業員・取引先・金融機関等への説明を行います。特に従業員への説明は丁寧に行う必要があります。

ステップ15. PMI(経営統合)

買い手企業との統合プロセスが始まります。売り手経営者はロックアップ(キーマン条項)により、一定期間(通常1〜3年)経営に関与を求められることがあります。

会社売却の費用 ― 仲介手数料の仕組みと相場

会社売却にかかる仲介手数料・費用の仕組みを示すイメージ図

会社売却にかかる費用は、主にM&A仲介会社への手数料とデューデリジェンス費用です。費用の大部分を占めるのは成功報酬です。

費用項目の一覧と相場

費用項目

相場(2026年時点)

発生タイミング

備考

相談料

無料〜1万円

初回相談時

多くの仲介会社で無料

着手金

無料〜200万円

契約締結時

完全成功報酬制の会社では無料

月額報酬(リテイナーフィー)

無料〜200万円/月

毎月

FAで発生する場合あり

中間金

無料〜200万円

基本合意時

一部の仲介会社で発生

成功報酬

レーマン方式で算定

クロージング時

最大の費用項目

DD費用

数十万〜200万円

DD実施時

会計士・弁護士への報酬

出典: M&Aキャピタルパートナーズ公式、日本M&Aセンター公式、M&A総合研究所(2026年4月確認)

レーマン方式の料率と計算例

成功報酬の算定に広く使われるのが「レーマン方式」です。取引金額に応じた段階的な料率が適用されます。

基準額

料率

5億円以下の部分

5%

5億円超〜10億円以下の部分

4%

10億円超〜50億円以下の部分

3%

50億円超〜100億円以下の部分

2%

100億円超の部分

1%

計算例: 譲渡価額18億円の場合

  • 5億円 × 5% = 2,500万円
  • 5億円 × 4% = 2,000万円
  • 8億円 × 3% = 2,400万円
  • 合計: 6,900万円(税別)

注意すべきポイント:

  • 基準額の定義が仲介会社により異なります。「譲渡価額基準」「企業価値基準」「移動総資産基準」のどれを使うかで手数料が大きく変わります。契約前に必ず確認してください
  • 最低報酬額(ミニマムチャージ) が設定されている場合が多く、相場は500万〜2,000万円です。小規模案件ほど割高感が出やすい点に注意が必要です
  • 消費税が別途かかります

仲介手数料の詳しい比較は「M&A費用・手数料の相場ガイド」をご覧ください。

会社売却の税金 ― スキーム別の税率と計算例

売却方法によって課される税金の種類と税率が大きく異なります。手取り額に直結するため、スキーム選定の重要な判断材料です。

株式譲渡の場合(個人株主)

中小企業のオーナー経営者が株式を売却する場合、最も一般的なパターンです。

  • 税率: 20.315%(所得税15% + 住民税5% + 復興特別所得税0.315%)
  • 譲渡所得 = 譲渡価額 − 取得費 − 譲渡費用(仲介手数料等)

計算例:

  • 譲渡価額: 1億円
  • 取得費 + 譲渡費用: 2,000万円
  • 譲渡所得: 8,000万円
  • 税額: 約1,625万円

株式譲渡の税率は他の所得と分離して計算される「申告分離課税」です。給与所得や事業所得の税率(累進課税で最大55%)に比べて低い税率が適用されるのが特徴です。

事業譲渡の場合

  • 売り手法人に法人税等(約30〜34%) が課されます
  • 譲渡資産に対して消費税10%(土地を除く)が発生します
  • 買い手側にも不動産取得税・登録免許税等がかかります

事業譲渡は法人に課税されるため、その利益を個人が受け取る際にさらに所得税がかかる「二重課税」の構造になりやすい点に注意が必要です。

合併の場合

  • 適格合併の要件を満たせば非課税(組織再編税制の適用)
  • 非適格合併の場合は時価課税

重要: 税務判断は個別の事情(退職金スキーム、配当還元、繰越欠損金の有無など)によって大きく異なります。必ず税理士・公認会計士に相談した上で判断してください。

事業承継に関わる税金の全体像は「事業承継の税金・節税ガイド」で詳しく解説しています。

手取り額シミュレーション ― 結局いくら残るのか

会社売却後の手取り額シミュレーションのイメージ図

会社売却で最も気になるのは「結局いくら手元に残るのか」でしょう。ここでは、株式譲渡(個人株主)を前提に、仲介手数料と税金を差し引いた手取り額を試算します。

シミュレーション例1: 譲渡価額3億円の場合

項目

金額

譲渡価額

3億円

取得費(出資額等)

1,000万円

仲介手数料(レーマン方式・税込)

約1,650万円

譲渡所得

3億円 − 1,000万円 − 1,650万円 = 2億7,350万円

税額(20.315%)

約5,556万円

手取り額

約2億2,794万円

シミュレーション例2: 譲渡価額1億円の場合

項目

金額

譲渡価額

1億円

取得費(出資額等)

500万円

仲介手数料(レーマン方式・税込)

約550万円 ※最低報酬額が適用される場合あり

譲渡所得

1億円 − 500万円 − 550万円 = 8,950万円

税額(20.315%)

約1,818万円

手取り額

約7,632万円

シミュレーション例3: 譲渡価額5,000万円の場合

項目

金額

譲渡価額

5,000万円

取得費(出資額等)

300万円

仲介手数料(税込)

約550万円 ※最低報酬額が適用される可能性が高い

譲渡所得

5,000万円 − 300万円 − 550万円 = 4,150万円

税額(20.315%)

約843万円

手取り額

約3,607万円

注意: 上記はあくまで概算です。実際の手取り額は取得費の算定方法、退職金の活用、仲介手数料の計算基準などによって変動します。正確な試算は税理士にご相談ください。

小規模案件ほど仲介手数料の割合が高くなる傾向があります。 譲渡価額が5,000万円以下の場合、最低報酬額(500万〜2,000万円)が適用され、手取り額への影響が大きくなります。

売却価格の目安 ― 企業価値の算定方法

「自分の会社はいくらで売れるのか」は、売却検討の出発点となる疑問です。企業価値の算定には主に3つのアプローチがあります。

3つの基本アプローチ

アプローチ

代表的手法

特徴

よく使われる場面

コストアプローチ

時価純資産法、年買法(年倍法)

帳簿ベースで算出。わかりやすい

中小企業で最もよく使われる

マーケットアプローチ

類似会社比較法(マルチプル法)

類似上場企業の株価倍率を参考に算出

比較対象となる上場企業がある場合

インカムアプローチ

DCF法

将来キャッシュフローを現在価値に割引

成長性の高い企業向け

年買法の計算式(中小企業で最もポピュラー)

売却価格 = 時価純資産 + 営業利益 × 2〜5年分(のれん代)

「のれん代」の倍率(2〜5年)は、業種・成長性・収益の安定性・市場環境によって変わります。

計算例:

  • 時価純資産: 6億円
  • 営業利益: 5,000万円/年
  • のれん倍率: 3〜5年
  • 算定価格: 7.5億〜8.5億円

価格帯の目安

企業規模

売却価格の目安

小規模企業・個人事業

数百万〜数千万円

中小企業

数億円前後

中堅企業

数十億円

重要: 算定価格はあくまで「目安」であり、最終的な売却価格は買い手との交渉で決まります。同じ企業でも、買い手が見出すシナジー(相乗効果)によって提示価格が大きく変わることがあります。

会社売却のメリット ― 売り手経営者が得るもの

会社売却は、廃業と比較して経営者・従業員・取引先のすべてにとってメリットが大きい選択肢です。

1. 後継者問題の解決

後継者がいなくても、第三者への売却によって事業・雇用・取引先との関係を存続させることができます。中小企業の後継者不在率は52.7%(出典: 帝国データバンク「全国企業『後継者不在率』動向調査」、2026年確認)と高水準であり、会社売却による事業承継は有力な選択肢です。

2. 創業者利益(売却益)の獲得

長年にわたって築いた企業価値を現金化できます。老後の生活資金、新規事業の原資、社会貢献活動への投資など、セカンドキャリアの選択肢が広がります。

3. 個人保証からの解放

中小企業の経営者は金融機関からの借入に対して個人保証(連帯保証・担保提供)を提供しているケースが大半です。会社売却により、これらの保証が買い手に移転し、個人のリスクから解放されます。

4. 従業員の雇用確保

廃業を選ぶと従業員は職を失いますが、売却であれば原則として雇用が維持されます。従業員とその家族の生活を守れるのは、経営者として大きな安心材料です。

5. 事業の成長加速

買い手企業のリソース(資本力・販路・技術・人材)と組み合わせることで、自社単独では実現できなかった成長が期待できます。

6. 廃業コストの回避

廃業する場合、設備の処分費用・原状回復費用・従業員の退職金・在庫処分など、多額のコストが発生します。売却であれば対価を受け取れるため、経済合理性の面でも優位です。

廃業と会社売却の比較

比較項目

廃業

会社売却

経営者の収入

清算後の残余財産のみ

売却対価(企業価値に応じた金額)

従業員の雇用

失われる

原則維持

取引先との関係

終了

維持される

個人保証

返済が残る可能性

買い手に移転

コスト

処分費・退職金等が発生

仲介手数料が発生するが対価で相殺

ブランド・ノウハウ

消滅

引き継がれる

会社売却のデメリット・注意点 ― 事前に知っておくべきリスク

メリットが多い一方で、会社売却にはリスクや注意点もあります。事前に把握し、対策を講じることが重要です。

1. ロックアップ(キーマン条項)

売却後も1〜3年程度、経営に関与を求められることがあります。「売ったらすぐにリタイアできる」とは限りません。ロックアップ期間・条件は契約交渉の重要なポイントです。

2. 競業避止義務

株式譲渡の場合は契約で定めます。事業譲渡の場合は会社法上、同一の事業を同一市町村及び隣接市町村で20年間(特約で最大30年間)営むことが禁止されます。売却後に同業種で起業を考えている場合は要注意です。

3. 期待価格との乖離

希望する価格で売却できるとは限りません。デューデリジェンスで問題が発見された場合、当初提示額から減額されることもあります。

4. 従業員・取引先への影響

経営者の交代は従業員の不安を招き、離職リスクが高まる場合があります。取引先から取引条件の見直しを求められることもあります。売却後の丁寧なコミュニケーションが不可欠です。

5. 情報漏洩リスク

売却検討が外部に漏れると、従業員の動揺・取引先の不安・競合他社による引き抜きなど、経営に悪影響が生じます。情報管理の徹底と、開示タイミングの慎重な判断が求められます。

6. COC条項(チェンジオブコントロール条項)

取引先・金融機関との契約にCOC条項がある場合、経営権の変更時に事前同意が必要です。最悪の場合、契約解除の引き金になるため、事前に契約内容を確認してください。

7. 完了までの時間と精神的負担

売却完了まで6ヶ月〜1年以上かかるのが一般的です。その間、通常の経営業務に加えて売却対応の負担が重なります。経営者の精神的な負担も見過ごせません。

売却前の準備チェックリスト

売却をスムーズに進め、企業価値を最大化するためには事前準備が欠かせません。以下は売却検討を始めた段階で確認すべき項目です。

財務・会計面

  • 過去3〜5期分の決算書が整備されているか
  • 簿外債務(退職給付引当金、未払残業代、偶発債務等)を把握しているか
  • 私的な経費が会社の経費に混入していないか
  • 売掛金の回収状況は健全か
  • 在庫の実態と帳簿が一致しているか

法務・契約面

  • 重要な契約書(取引先・金融機関・不動産)を整理しているか
  • COC条項のある契約を把握しているか
  • 許認可・免許の有効期限を確認しているか
  • 訴訟・紛争リスクを整理しているか
  • 知的財産権(特許・商標等)の帰属を確認しているか

組織・人事面

  • 組織図と従業員名簿が最新か
  • 就業規則・賃金規程を整備しているか
  • 経営者への属人化を解消する取り組みをしているか(キーマンリスクの低減)
  • 主要メンバーの離職リスクを把握しているか

事業面

  • 自社の強み・競争優位性を言語化できているか
  • 事業計画・将来の成長ストーリーを説明できるか
  • 不採算部門の整理を検討したか
  • 顧客基盤の集中リスク(特定顧客への依存度)を把握しているか

仲介会社・FAの選び方 ― 5つの判断基準

M&A仲介会社・FAを選ぶ際の判断基準を示すイメージ図

会社売却の成否は、パートナーとなるM&A仲介会社やFA(ファイナンシャルアドバイザー)の選定に大きく左右されます。以下の5つの基準で比較検討してください。

判断基準1: 手数料体系の透明性

手数料の仕組みは仲介会社によって大きく異なります。「完全成功報酬制」を謳っていても最低報酬額が高額に設定されている場合があるため、以下を必ず確認してください。

  • レーマン方式の基準額(譲渡価額?企業価値?移動総資産?)
  • 最低報酬額(ミニマムチャージ)
  • 着手金・中間金の有無
  • 消費税込みの総額

判断基準2: 自社の規模・業種との適合性

大手仲介会社は年商数億円以上の案件を得意とし、小規模案件は対象外としているケースがあります。自社の規模に合った仲介会社を選ぶことが重要です。

仲介会社の種類

得意とする案件規模

特徴

大手仲介会社

年商数億〜数百億円

買い手ネットワークが広い。手数料は高め

中堅仲介会社

年商1億〜数十億円

特定業種に強みがあることも

M&Aマッチングプラットフォーム

年商数千万〜数億円

手数料が比較的安い。小規模案件に対応

事業承継・引継ぎ支援センター

小規模案件全般

公的機関のため原則無料

判断基準3: 買い手ネットワークの広さ

自社にとって最適な買い手を見つけられるかは、仲介会社が持つ買い手候補のネットワーク次第です。「何社の買い手候補にアプローチできるか」を確認しましょう。

判断基準4: 担当者の経験と相性

M&Aは経営者にとって一生に一度の取引です。担当アドバイザーの業界知識・交渉経験・コミュニケーション力は非常に重要です。初回面談で以下を確認してください。

  • 同業種・同規模の成約実績があるか
  • 売り手側の立場で交渉してくれるか
  • レスポンスの速さ・丁寧さ

判断基準5: M&A支援機関登録の有無

経済産業省の「M&A支援機関登録制度」に登録されている会社は、手数料等の情報開示義務を負っています。登録の有無はM&A支援機関データベースで検索できます。

主要なM&A仲介会社の比較は「M&A仲介会社おすすめ比較」で詳しくまとめています。

こんな企業におすすめ/おすすめしないケース

会社売却が向いている企業

  • 後継者が不在で、事業は黒字or安定している — 廃業よりも売却で事業を存続させるメリットが大きい
  • 経営者が引退を考えており、従業員の雇用を守りたい — 売却であれば雇用継続が期待できる
  • 個人保証から解放されたい — 売却により連帯保証が買い手に移転する
  • 大手企業のリソースで事業を成長させたい — 資本力・販路・技術のシナジー
  • ノンコア事業を整理し、コア事業に集中したい — 事業譲渡で一部事業を売却

会社売却をおすすめしないケース

  • 「とにかく高く売りたい」だけで準備不足 — 磨き上げなしでは買い手がつかない、または大幅な減額になるリスクが高い
  • 経営者が引き続き完全に自由に経営したい — 売却後はロックアップや買い手の経営方針に従う必要がある
  • 短期間(1〜2ヶ月)で売りたい — M&Aは最低でも半年以上かかる。焦りは不利な条件での売却につながる
  • 赤字が慢性化し、独自の強み(技術・ブランド・顧客基盤等)もない — 買い手が見つからない可能性が高い

2026年に使える公的支援制度

会社売却にかかる費用を軽減できる公的支援制度があります。活用できるものは積極的に利用しましょう。

事業承継・M&A補助金(中小企業庁)

2026年は「事業承継・M&A補助金」として公募が行われています(旧称: 事業承継・引継ぎ補助金)。

  • 支援枠: 事業承継促進枠、専門家活用枠、PMI推進枠、廃業・再チャレンジ枠の4枠
  • 補助上限: 条件により最大2,000万円
  • 対象経費: M&A仲介手数料、DD費用、PMI費用等
  • 14次公募: 2026年2月27日〜4月3日(公募期間は随時更新されるため、最新情報は中小企業庁公式サイトで確認してください)

出典: 中小企業庁公式(2026年4月確認)

事業承継・引継ぎ支援センター

全国47都道府県に設置された公的な相談窓口で、M&Aマッチング支援を原則無料で実施しています。小規模案件にも対応しており、「まず相談したいが費用が心配」という場合の第一歩として最適です。

M&A支援機関登録制度

経済産業省が運営する制度で、登録された仲介会社・FAは手数料等の情報開示義務を負います。M&A支援機関データベースで、登録支援機関の検索・比較が可能です。

補助金の詳しい申請方法や最新情報は「事業承継・M&A補助金ガイド」で解説しています。

会社売却で失敗しないための5つのポイント

ポイント1: 準備は早めに始める

売却の2〜3年前から「磨き上げ」を意識することで、企業価値を高め、交渉を有利に進められます。決算書の整備、属人化の解消、不採算事業の整理は時間がかかるため、早期着手が重要です。

ポイント2: 複数の仲介会社に相談する

1社だけで決めず、最低でも2〜3社に相談しましょう。手数料体系・買い手ネットワーク・担当者の質を比較することで、自社に最適なパートナーを見つけやすくなります。

ポイント3: 情報管理を徹底する

売却検討が社内外に漏れると、従業員の離職・取引先の不安・競合の動きなど、経営に悪影響が出ます。情報の開示範囲と開示タイミングは慎重に管理してください。

ポイント4: 税務・法務の専門家を早期に巻き込む

仲介会社とは別に、顧問税理士・弁護士にも早い段階で相談しましょう。特にスキーム選定(株式譲渡か事業譲渡か)は税負担に大きく影響するため、税務の観点からの助言が不可欠です。

ポイント5: 感情的にならない

会社は経営者にとって「我が子」のような存在ですが、交渉では冷静さが求められます。感情的な判断で条件を決めたり、交渉を決裂させたりしないよう、信頼できるアドバイザーの意見を聞きながら進めましょう。

よくある質問(FAQ)

Q. 赤字の会社でも売却できますか?

赤字であっても売却できるケースはあります。ただし、買い手が魅力を感じる要素(独自技術・ブランド力・顧客基盤・優秀な人材・立地など)がある場合に限られます。赤字だから売れない、黒字だから売れる、という単純な話ではありません。2026年現在、DX推進のためのIT人材・ノウハウを求めた買収は増加傾向にあり、技術力やデジタル資産が評価されるケースが増えています。

Q. 従業員に知られずに売却を進められますか?

基本合意書の締結まで、従業員に知らせずに進めるのが一般的です。M&A仲介会社もこの前提で情報管理を徹底しています。ただし、デューデリジェンス以降は一部の経営幹部への開示が必要になることがあります。全従業員への説明は、最終契約締結後かクロージング後に行うケースが多いです。

Q. 売却にかかる期間はどれくらいですか?

仲介会社への相談からクロージングまで、一般的には6ヶ月〜1年以上です。準備段階の「磨き上げ」を含めると、理想的には2〜3年前から取り組みを始めるのが望ましいです。案件規模が大きいほど、買い手の意思決定プロセスも長くなる傾向があります。

Q. 売却後、すぐにリタイアできますか?

ロックアップ条項(キーマン条項)が設定される場合は、売却後も1〜3年程度、経営に関与を求められます。条項の内容は契約交渉で決まるため、「売却後すぐにリタイアしたい」場合はその旨を交渉時に明確に伝えることが重要です。

Q. 売却時に従業員の雇用は守られますか?

株式譲渡の場合、雇用契約はそのまま引き継がれます。ただし、買い手の経営方針や経営統合(PMI)の過程で、将来的に組織変更や人員調整が行われる可能性はゼロではありません。売却交渉の中で、雇用維持を条件として明記するケースもあります。

Q. 個人保証はどうなりますか?

経営者保証は買い手に移転します。ただし、金融機関との交渉が必要な場合もあり、クロージング時に必ず保証が解除されるとは限りません。「経営者保証に関するガイドライン」(全国銀行協会)に基づき、保証解除を求めることが一般的です。

まとめ

会社売却は、後継者問題の解決・創業者利益の獲得・従業員の雇用確保を同時に実現できる有力な選択肢です。

押さえておくべきポイント:

  • 中小企業の会社売却は株式譲渡が最も一般的
  • 完了までの期間は6ヶ月〜1年以上。準備は早めに
  • 手取り額は「譲渡価額 − 仲介手数料 − 税金」で試算できる
  • 税率は株式譲渡(個人株主)で20.315%
  • 仲介会社は複数社に相談してから決める
  • 事業承継・M&A補助金で費用を軽減できる可能性がある

まずは無料相談から始めるのが第一歩です。仲介会社への相談は多くの場合無料ですし、公的機関である事業承継・引継ぎ支援センターも無料で利用できます。

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