小売業・スーパー・専門店の売却では、「小売・食品分野の成約実績があるか」「手数料を総資産と譲渡価格のどちらで計算するか」「酒類免許や店舗の賃貸借を引き継げる進め方を提案できるか」の3点で仲介会社を選ぶのが基本です。 特に店舗の土地・建物を自社で持つスーパーは総資産が大きくなるため、同じ「成功報酬5%」でも、計算の基準によって手数料が数千万円変わることがあります。
この記事でわかること
- 小売業の売却で候補になる7社(M&A仲介会社6社+マッチングサイト1社)の手数料と特徴(各社の公式サイトで2026年10月16日に確認)
- 店舗不動産を持つスーパーを例に、計算基準の違いで手数料がいくら変わるかの試算
- 酒類販売業免許・食品営業許可・医薬品販売・たばこ・大店立地法の、売却方法ごとの扱い
- テナント契約・不採算店・在庫・パート従業員など、小売業ならではの売却前の準備
- 年商・店舗数・業態に合わせた相談先の選び方
こんな方に向けた記事です
- 地方の食品スーパー(数店舗〜数十店舗、年商数億〜数十億円)のオーナー経営者
- 酒・米・衣料・家電・ホームセンター・書店・自転車などの専門店チェーンを経営している方
- 後継者がいない、またはドラッグストア・ディスカウント店との競争や物流費の上昇を受けて売却を考え始めた方
小売業・スーパー・専門店のM&Aは今どうなっているか

小売業の後継者不在率は55.2%で、全業種平均(50.1%)を上回り、8つの業種のうち建設業に次いで2番目に高い水準です。 一方で、地方の中堅スーパーも含めて、大手スーパー・ドラッグストア・ディスカウント店の買収意欲は強く、第三者への売却は現実的な選択肢になっています。
小売業の後継者不在率(2025年)
帝国データバンクの2025年調査では、小売業全体の後継者不在率は前年から1.6ポイント下がりました。ただし改善の幅は全業種平均(2.0ポイント)より小さく、専門店系の多くは5割を超えたままです。
区分 | 2024年 | 2025年 | 前年比 |
|---|---|---|---|
小売業(全体) | 56.8% | 55.2% | △1.6pt |
全国(全業種) | 52.1% | 50.1% | △2.0pt |
自動車・自転車小売 | 64.9% | 62.3% | △2.6pt(全49分類で最も高い) |
家具・什器・家庭用機械器具小売(家電店などを含む) | 58.3% | 57.4% | △0.9pt |
織物・衣服・身の回り品小売 | 54.2% | 53.3% | △0.9pt |
その他の小売(書籍・文具・スポーツ用品などを含む) | 52.8% | 51.9% | △0.9pt |
飲食料品小売(食品スーパー・酒・米・青果などを含む) | 51.0% | 48.9% | △2.1pt |
各種商品小売(総合スーパー・百貨店などを含む) | 44.4% | 41.2% | △3.2pt |
出典:帝国データバンク 全国「後継者不在率」動向調査(2025年)(2025年11月21日公表、確認日 2026年10月16日)
※カッコ内の業態の例は、読みやすさのために編集部が補足したものです。
同じ調査では、全業種で社長交代のうち「M&Aほか」による承継が20.6%(2025年速報値)を占めています。公的な相談窓口である事業承継・引継ぎ支援センターでも、令和7年度(2025年4月〜2026年3月)の第三者承継の成約は2,265件と過去最多でした(出典:中小機構 プレスリリース、2026年5月29日公表)。
スーパー・小売業で再編が進む背景
日本M&Aセンターのコラムによると、経営権が移るスーパーのM&Aは2015年以降おおむね年10〜20件で推移しています。相手の業種にも変化があり、2003〜2005年はスーパー同士の組み合わせが5割を超えていましたが、2021〜2023年は約4割に下がり、「スーパー×食品製造・卸」「スーパー×ドラッグストア」の組み合わせが増えています(出典:日本M&Aセンター「スーパー業界のM&Aと今後の戦略」、2023年10月26日更新、確認日 2026年10月16日。2024年以降の件数は確認できていません)。
再編の背景として、業界では主に次の4点が指摘されています。
- 人口減少による商圏の縮小
- ドラッグストア・ディスカウント店・コンビニとの食品の売り場の奪い合い
- 物流費・人件費・光熱費の上昇
- 後継者の不在
2026年の主な動き
2026年も、大手による地方スーパーの買収とグループ内の再編が同時に進んでいます。
時期 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
2026年1月(決定) | クスリのアオキHDが新潟県の食品スーパー運営会社など5社の株式取得を決定。別途、新潟市のキューピットのスーパーマーケット事業も事業譲受(2025年12月契約) | 日本M&Aセンター ニュース(報道の要約) |
2026年3月1日 | イオンが首都圏・近畿のスーパー子会社を再編(ダイエーの関東事業をマックスバリュ関東〔イオンフードスタイルに商号変更〕へ、ダイエーが光洋を吸収合併) | |
2026年4月1日 | H2Oリテイリング傘下で、イズミヤ・阪急オアシスが関西スーパーマーケットを吸収合併 | |
2026年7月1日 | PPIH(ドン・キホーテ)がOlympicグループを株式交換で完全子会社化。理由として商圏・立地の重なりが少ないことを挙げる |
(確認日 2026年10月16日。報道ベースの案件は、詳細を各社の適時開示でご確認ください)
スーパー・小売店の主な買い手
買い手のタイプによって、評価されるポイントも、つながりの強い仲介会社も変わります。自社を誰が欲しがりそうかを先に考えておくと、相談先を絞りやすくなります。
買い手のタイプ | 主な目的 | 評価されやすい点 |
|---|---|---|
同業のスーパー | 地域での店舗網の拡大(ドミナント)、物流・仕入れの効率化 | 自社の既存店と重ならない立地、生鮮の運営ノウハウ |
ドラッグストア | 食品の強化(フード&ドラッグ化) | 生鮮売場・惣菜の人材と仕組み |
ディスカウント店 | 出店地域の拡大 | 店舗網・立地 |
食品メーカー・食品卸 | 販売先の確保(製販一体) | 安定した販売量、地域での知名度 |
投資ファンド | 同じ業界の会社をまとめて価値を上げる | 改善の余地、経営陣の継続 |
異業種 | 新規事業・地域での事業基盤 | 地域の顧客基盤・人材(M&A総合研究所の公開事例では医療・福祉業の買い手も) |
食品メーカーや卸との統合を考えている場合は「食品業界に強いM&A仲介会社」「卸売業・商社のM&A仲介会社」もあわせてご覧ください。
小売業の売却で候補になるM&A仲介会社7社の比較表
小売業向けの特別料金を公表している会社は確認できず、手数料はどの会社も全業種共通です。 そのため比較では「小売・食品分野の実績を公開しているか」と「成功報酬を何に対して計算するか」を重視してください。7社のうちバトンズは仲介会社ではなく、売り手と買い手が直接つながるマッチングサイトで、小規模な店舗の選択肢として載せています。
手数料の比較(各社公式、税別)
会社 | 着手金 | 中間金 | 成功報酬の計算基準 | 料率 | 最低報酬 |
|---|---|---|---|---|---|
あり:簿価総資産2億円以下100万円〜50億円以下500万円(50億円超は0.1%)。成功報酬には充当されない | 報酬表に記載なし | 時価総資産(営業権を含む) | 5億円以下5%/5〜10億円4%/10〜50億円3%/50〜100億円2%/100億円超1% | 2,000万円 | |
無料(企業評価も無料) | 報酬総額の約10% | 取引価格(株価) | 5%/4%/3%/2%/1%(同じ区分) | 料金ページに記載なし | |
無料 | 基本合意時に100万〜300万円(総資産による) | オーナー受取額(譲渡対価に役員退職金・オーナー借入金の返済などを含む) | 4億円以下の部分は一律2,000万円/4〜5億円5%/5〜10億円4%/10〜50億円3%/50〜100億円2%/100億円超1% | 設定はあるが金額の記載なし | |
無料 | 無料 | 譲渡価格(負債を含めない) | 5%/4%/3%/2%/1% | 2,500万円 | |
無料 | 原則無料(合意により中間報酬がある契約形態も) | 譲渡対象資産額(営業権を含む) | 5億円以下の部分2,500万円/5〜10億円4%/10〜50億円3%/50〜100億円2%/100億円超1% | 記載なし(5億円以下の部分は2,500万円と表示) | |
インテグループ | 無料 | 無料 | 株式価値(クロージング完了時に発生) | 5%/4%/3%/2%/1% | 1,500万円 |
バトンズ(マッチング型) | 売り手は着手金・月額・成約手数料とも無料 | — | 成約価格(有料サポートを付ける場合) | サポート:500万円未満は50万円〜、4,000万円以上は5%/プレミアムサポート:1,000万円未満は200万円〜、3億円以上は5%(株式譲渡はプレミアムサポートが必須) | サポート50万円/プレミアムサポート200万円 |
出典(いずれも確認日 2026年10月16日):日本M&Aセンター 料金体系・譲渡・売却の報酬表/M&Aキャピタルパートナーズ 料金体系/ストライク 料金体系/M&A総合研究所 料金/fundbook 手数料/インテグループ 料金/バトンズ 料金体系(2026年7月1日以降の実名開示依頼に適用される料金表)
※料率の区分はレーマン方式(金額の段階ごとに料率を変える計算方法)です。手数料は改定されることがあり、細かい条件は公式ページに載っていない場合もあります。契約前に必ず見積書で確認してください。
小売業との関わり・サポート体制の比較
会社 | 上場区分 | 小売業との関わり(公式で確認できた範囲) | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
日本M&Aセンター | 東証プライム(日本M&AセンターHD) | 食品業界専門グループが外食・食品製造・食品卸・食品小売を担当。スーパー業界のコラムを公開。譲渡案件一覧に「小売(スーパー・コンビニ等)」の区分あり | 地方銀行・信用金庫・会計事務所との提携網。着手金と最低報酬2,000万円あり |
M&Aキャピタルパートナーズ | 東証プライム | スーパーマーケット業界の解説ページあり。成約実績に「中部の未上場スーパー→関東の上場投資会社・ファンド(株式譲渡)」などを掲載 | 着手金無料。取引価格ベース。最低報酬は料金ページに記載がないため見積もりで確認 |
ストライク | 東証プライム | 小売業の専門ページ・業種別件数は確認できず | 着手金無料。オーナー受取額4億円以下の部分は一律2,000万円 |
M&A総合研究所 | 親会社のクオンツ総研HDが東証プライム | スーパーマーケット専用ページあり(譲渡企業の売上規模 約1億〜約100億円に対応と表示)。九州の老舗スーパー(売上10億円規模、買い手は医療・福祉業)、関西のスーパー運営会社(売上20億円規模、事業再生型、買い手は食品卸)の成約事例を公開 | 着手金・中間金無料の完全成功報酬。譲渡価格ベース。同社の公表では成約までの期間は最短43日・平均7.2か月(2025年9月期) |
fundbook | 非上場(チェンジHDの完全子会社) | 小売業の専門チームは確認できず | 着手金・中間金原則無料 |
インテグループ | 東証グロース | 小売業の業種別実績は確認できず | 完全成功報酬、株式価値ベース、最低報酬1,500万円 |
バトンズ | 東証グロース | 小売・スーパー・コンビニの売り案件を業種・都道府県別に掲載。酒類小売免許付きの店舗を株式譲渡で売り出している案件も | 譲渡価格数千万円以下の小規模店の受け皿。売り手は基本無料 |
出典(いずれも確認日 2026年10月16日):日本M&Aセンター スーパー業界コラム/M&Aキャピタルパートナーズ スーパーマーケット業界・成約実績/M&A総合研究所 スーパーマーケットのM&A・成約事例119・成約事例198/バトンズ 小売の売り案件
※各社とも、小売業に限った累計成約件数は公表していません。そのため本記事では件数のランキングは作らず、「業界の専門チーム・専用ページの有無」「小売業の成約事例の公開」で小売業との関わりを整理しています。
小売業の売り手から見た各社のポイント
日本M&Aセンター:食品業界専門グループが食品小売を担当し、スーパー業界のコラムや「小売(スーパー・コンビニ等)」の譲渡案件区分もあります。一方で、着手金(簿価総資産に応じて100万〜500万円)と最低報酬2,000万円があり、成功報酬は時価総資産をもとに計算します。店舗不動産を持つスーパーは、次の章の試算のとおり、見積もりで手数料の総額を必ず確認してください。
M&Aキャピタルパートナーズ:着手金は無料で、成功報酬は取引価格(株価)をもとに計算します。スーパーマーケット業界の解説ページと、中部の未上場スーパーの成約実績を公開しています。中間金(報酬総額の約10%)がある点と、最低報酬が料金ページに載っていない点は、見積もりの段階で確認しましょう。
ストライク:着手金は無料で、成功報酬はオーナー受取額をもとに計算し、4億円以下の部分は一律2,000万円です。役員退職金やオーナー借入金の返済も受取額に含まれるため、株式の代金だけでなく受け取る金額の合計を先に整理しておくと、他社と比べやすくなります。小売業の専門ページは確認できませんでした。
M&A総合研究所:スーパーマーケット専用ページ(売上約1億〜約100億円に対応と表示)があり、九州・関西のスーパーの成約事例も公開しています。着手金・中間金は無料で、譲渡価格をもとに計算するため不動産の多いスーパーでも手数料が膨らみにくい一方、最低報酬は2,500万円です。
fundbook:着手金・中間金は原則無料です。5億円以下の部分は2,500万円で、計算基準は営業権を含む「譲渡対象資産額」です。店舗の土地・建物がこの金額にどう含まれるかは料金ページから読み取れないため、見積もりで確認が必要です。
インテグループ:完全成功報酬で、株式価値をもとに計算します。最低報酬1,500万円は、本記事で比べた仲介会社のうち金額を公表している会社の中で最も低い水準です。小売業の業種別の実績は確認できなかったため、面談で近い業態の事例を聞いてみてください。
バトンズ:仲介会社ではなく、売り手と買い手が直接やり取りするマッチングサイトです。売り手は基本無料で、小売・スーパー・コンビニの案件が業種・都道府県別に掲載されています。ただし株式譲渡で売る場合はプレミアムサポート(1,000万円未満は200万円〜)の利用が必須です。
業種を問わない全体の比較は「売り手向けM&A仲介会社おすすめ比較」でまとめています。
スーパーは「手数料の計算基準」で数千万円の差が出る

スーパーや大型の専門店の売却では、料率よりも先に「何に料率を掛けるか」を確認してください。 店舗の土地・建物や在庫を抱える小売業は総資産が大きくなる一方、利益率が低いため株式の価値は小さくなりがちです。時価総資産ベースの会社と、譲渡価格・株式価値ベースの会社では、同じ5%でも手数料が大きく変わります。
試算:店舗不動産を自社で持つ食品スーパー(時価総資産15億円・譲渡価格2億円)
前提:時価総資産15億円(簿価の総資産12億円)、株式の譲渡価格2億円、役員退職金やオーナー借入金の返済はなし、とします。各社の公式料金表をそのまま当てはめた単純な試算です。
計算基準 | 会社 | 計算 | 成功報酬の目安 |
|---|---|---|---|
時価総資産 | 日本M&Aセンター | 5億×5%+5億×4%+5億×3% | 6,000万円(別途、着手金300万円) |
オーナー受取額 | ストライク | 4億円以下の部分は一律2,000万円 | 2,000万円(別途、基本合意報酬200万円) |
譲渡価格 | M&A総合研究所 | 2億×5%=1,000万円 → 最低報酬を下回る | 2,500万円 |
株式価値 | インテグループ | 2億×5%=1,000万円 → 最低報酬を下回る | 1,500万円 |
取引価格 | M&Aキャピタルパートナーズ | 2億×5% | 1,000万円(最低報酬が適用される場合あり。要確認) |
※fundbookは「譲渡対象資産額」に含まれる範囲が料金ページから読み取れないため、試算に入れていません。
※本試算は2026年10月16日に確認した公式料金表から機械的に計算した目安です。資産の範囲、割引、最低報酬の扱いは各社の契約内容で決まります。実際の金額は必ず見積書で確認してください。
この試算から言えるのは次の2点です。
- 店舗不動産を持ち、利益が薄いスーパーほど、譲渡価格・株式価値ベースの会社が有利になりやすい
- 譲渡価格が数億円以下なら、料率より最低報酬(1,500万〜2,500万円)が実際の手数料になりやすい
逆に、店舗をすべて賃借していて総資産が小さい専門店チェーンでは、計算基準による差は小さくなります。また時価総資産ベースの会社には、食品業界の専門グループや全国の金融機関ネットワークといった強みもあります。手数料の安さだけで決めず、「差額に見合う買い手探しの力があるか」で比べてください。
計算方法の詳細は「M&A成功報酬の比較」「M&A仲介会社の手数料比較」で解説しています。
見積もりで書面確認したい3点
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」(第3版)では、仲介会社などが契約前に、最低報酬を含む手数料の体系を説明することが求められています(詳しくは「中小M&Aガイドラインとは」)。見積もりを頼むときは、次の3点を書面でもらいましょう。
- どの金額(時価総資産・譲渡価格・株式価値など)に料率を掛けるか。店舗不動産や差入保証金が含まれるか
- 最低報酬はいくらか
- 着手金・中間金は、成約しなかった場合に返ってくるか
なお、事業承継・M&A補助金(専門家活用枠)では、M&A支援機関登録制度に登録された支援機関への手数料の一部が補助対象になる場合があります。補助率・上限額・申請期間は公募回ごとに変わるため、最新の公募要領で確認してください(詳しくは「専門家活用枠の売り手向け活用ガイド」)。
小売業・スーパーに強い仲介会社の選び方(5つの比較ポイント)

小売業の売却では、業界実績・買い手とのつながり・手数料の計算基準・許認可と店舗契約への理解・情報管理の5点で仲介会社を比べます。 「大手だから安心」「手数料が安いから得」と一つの要素だけで決めると、店舗の契約が引き継げなかったり、手取りが想定より減ったりするおそれがあります。
1. 小売・食品分野の実績を公式に確認できるか
「スーパーに強い」と言える根拠は、公式に確認できる情報で判断しましょう。
- 小売・食品分野の専門グループや業界専用ページがあるか
- スーパーや専門店の成約事例を、地域・規模・買い手の業種がわかる形で公開しているか
- 自社と近い業態(食品スーパー、酒屋、衣料、家電、ホームセンターなど)の事例があるか
面談では「当社と同じ業態・規模の店舗で、直近どのような買い手と成約しましたか」と聞くと、担当者の経験の深さがわかります。
2. 想定する買い手につながっているか
同業スーパーに売りたいのか、ドラッグストアやディスカウント店、食品メーカー・卸、ファンドまで広げたいのかで、相性のよい会社は変わります。地方のスーパーであれば、地方銀行・信用金庫と提携している会社を通じて、地域内の買い手候補を紹介してもらえる場合があります。
3. 手数料の計算基準と最低報酬
前の章のとおり、店舗不動産を持つかどうかで計算基準の影響が大きく変わります。自社の数字を使った見積もりを2〜3社から取って比べてください。
4. 許認可と店舗契約の段取りを提案できるか
酒類販売業免許、食品の営業許可、医薬品の販売許可、テナント契約の貸主承諾など、小売業は売却時に確認すべき手続きが多い業種です。「株式譲渡と事業譲渡のどちらが自社に合うか」「一部の店舗だけ売る場合に何が必要か」を、具体的に説明できる担当者かどうかを確かめましょう。
5. 従業員・取引先・お客様に知られない進め方ができるか
小売業は、パート従業員や仕入先、地域のお客様に売却の話が早く広まると、退職や取引条件の見直し、来店客の減少につながるおそれがあります。匿名の案件概要(ノンネームシート)の書き方や、買い手候補への打診の範囲を事前に確認してください。伝える時期は「取引先へ売却を伝えるタイミング」で解説しています。
仲介会社の選び方全般は「M&A仲介会社の選び方ガイド」をご覧ください。
小売業が売却前に確認すること(許認可・店舗契約・在庫・労務)

小売業の売却で手続きが止まったり価格が下がったりする原因は、許認可、店舗の賃貸借契約、店舗ごとの採算、在庫、パート従業員の労務に集中しています。 仲介会社に相談する前から整理しておくと、査定の精度が上がり、買い手の不安も減らせます。
許認可・免許は売却方法で扱いが変わる
一般的に、株式譲渡は会社そのもの(法人格)が変わらないため、許認可は原則としてそのまま使えます(役員が変わる場合などは変更の届出が必要です)。事業譲渡では原則として許認可は引き継がれず、買い手側で取り直しが必要になります。許認可の多い小売業で株式譲渡が選ばれやすいのはこのためです。ただし、業種によって例外があります。
許認可 | 株式譲渡 | 事業譲渡 | 確認のポイント |
|---|---|---|---|
酒類販売業免許(酒屋、スーパーの酒売場) | 原則そのまま(役員変更などの届出は必要) | 個人事業者が事業の全部を譲る場合は、譲受人の申告で免許を受けたものとみなす扱いあり(一部の店舗だけの譲渡は対象外)。法人間の事業譲渡は、原則として買い手側で免許の手続きが必要と考えられる | 所轄の税務署(酒類指導官)に事前相談。出典:国税庁 酒類Q&A |
食品衛生法の営業許可(惣菜・鮮魚・精肉の加工、食肉販売業、魚介類販売業など) | 原則そのまま(変更の届出) | 2023年12月13日以降、事業譲渡でも届出で営業者の地位を引き継げる(新たな許可は不要) | 自治体によっては届出後に立入検査あり。出典:厚生労働省 パンフレット |
医薬品の店舗販売業許可(ドラッグストア、スーパーの医薬品売場) | 原則そのまま(役員変更などの届出) | 経営者が変わる場合は新規の許可申請が必要とする自治体の例あり | 販売を止めずに切り替える段取りが必要。扱いは自治体に確認。出典:堺市 |
製造たばこ小売販売業許可 | 原則そのまま | 承継の届出の対象は相続・合併・分割と、財務省が定める特定の承継に限られる。法人間の事業譲渡は新規許可が必要になる可能性 | 所轄の財務局に確認。出典:財務省 承継の届出 |
大規模小売店舗立地法(店舗面積1,000㎡超) | 設置者・小売業者の名称などが変わる場合は変更届 | 設置者の地位が移る場合は承継届と変更届。営業時間・駐車場などが変わる場合は別の届出 | 都道府県(政令市)に確認。出典:青森県 |
古物商許可(リユース・買取併設店) | 原則そのまま(変更の届出) | 一般に引き継げず、買い手側で新たな取得が必要になると考えられる | 扱いは所轄の警察署に事前に確認 |
(確認日 2026年10月16日)
食品の営業許可は2023年12月の改正で事業譲渡でも引き継ぎやすくなった一方、酒類・医薬品・たばこは事業譲渡では取り直しになる可能性が残ります。「一部の店舗だけを売る」「不採算店を除いて売る」場合は事業譲渡や会社分割になりやすく、これらの手続きが増える点を押さえておきましょう。業種ごとの全体像は「会社売却時の許認可・免許の承継ガイド」、売却方法の違いは「株式譲渡と事業譲渡の違い」で解説しています。
店舗の賃貸借契約(テナント・借地)
テナント出店やロードサイドの借地店舗が多い小売業では、貸主との契約が売却の成否を左右することがあります。
- 事業譲渡の場合:賃借権を買い手に移すには、貸主の承諾が必要です(民法612条)。承諾なしに譲渡すると契約解除の原因になるため、店舗ごとに承諾を取る段取りが必要です
- 株式譲渡の場合:契約の当事者(会社)は変わりませんが、契約書にチェンジ・オブ・コントロール条項(株主や代表者が変わったときに通知・承諾を求めたり、解除できたりする条項)があると、賃料の増額や解除を求められるおそれがあります。ショッピングセンター内のテナント契約は特に確認が必要です
- 共通:契約の残りの期間、原状回復の義務、差入保証金・建設協力金の返還条件は、売却価格や表明保証(売り手が事実を保証する条項)に影響します
詳しくは「会社売却時のリース・賃貸借契約の承継手続き」「チェンジ・オブ・コントロール条項とは」をご覧ください。
小売業でよく確認される項目
確認項目 | 何を確認するか | 価格・交渉への影響 |
|---|---|---|
店舗ごとの損益 | 不採算店の有無、閉店する場合の費用(原状回復・中途解約の違約金) | 買い手が一部の店舗だけ欲しがる場合があり、閉店費用は減額の要因になる |
立地・商圏 | 買い手の既存店と商圏が重なるか | 重ならない立地は店舗網の拡大として評価されやすい |
在庫 | 滞留在庫・季節品・賞味期限の管理、帳簿と実地の差 | 差があれば価格調整の対象になる |
パート・アルバイトの労務 | 社会保険の加入状況、未払い残業代、有給休暇 | 店舗数・パート比率が高いほど隠れた負債になりやすい |
ポイントカード・会員データ | 未使用ポイントの残高、会員の個人情報の扱い | 未使用ポイントは実質的な負債として見られる |
仕入先・共同仕入 | 卸・メーカーとの特約、共同仕入組織(ボランタリーチェーン等)の加盟契約のチェンジ・オブ・コントロール条項 | 仕入条件が変わると利益に直結する |
物流 | 自社の配送センター・車両の有無、委託の条件 | 物流費の上昇が続くなか、評価が分かれやすい |
会員データの引き継ぎは「顧客データ・個人情報の移転ガイド」、在庫や簿外債務の整理は「売却前の財務クリーニング」、パート従業員の社会保険や未払い残業代の点検は「売却前の労務リスク対策」で解説しています。コンビニなどフランチャイズ加盟店の場合は本部の承諾が関わるため、「フランチャイズ・加盟店のM&A」を参照してください。
ご注意: 許認可の扱いは業種・自治体・個別の事情によって異なり、法改正もあります。契約の解除リスク、表明保証の範囲、売却時の税金も会社ごとに判断が変わります。実際の手続きと判断は、所轄の行政機関に事前に相談したうえで、弁護士・税理士・行政書士などの専門家にご相談ください。
規模・業態別:小売店はどこに相談すべきか
相談先は、年商より「想定される譲渡価格」と「店舗不動産を持っているか」で決めるのが実務的です。 小売業は年商が大きくても利益が薄く、譲渡価格は小さくなることがあるため、年商だけで判断しないようにしましょう。
想定される譲渡価格 | 典型的な店舗・会社 | 主な相談先のタイプ | 候補になる会社の例 | 考え方 |
|---|---|---|---|---|
数千万円以下 | 個人経営の酒屋・米穀店・衣料品店、1〜2店舗の専門店 | マッチング型、公的窓口、地域の金融機関 | バトンズ、事業承継・引継ぎ支援センター | 最低報酬1,500万〜2,500万円の仲介会社では、手数料が売却額の大半を占めるおそれがある |
数千万〜数億円 | 数店舗の地域スーパー、専門店チェーン | 譲渡価格・株式価値ベースの仲介会社、大手仲介 | M&A総合研究所、インテグループ、ストライク、M&Aキャピタルパートナーズ | 最低報酬が実際の手数料になりやすい。最低報酬の金額で比べる |
10億円超 | 十数店舗以上の中堅スーパー、広域の専門店チェーン | 大手仲介会社、FA(売り手だけの助言者) | 日本M&Aセンター、M&Aキャピタルパートナーズ、ストライク、fundbook | 上場スーパー・ドラッグストア・ファンドを含む広い買い手探しと交渉力を重視。計算基準による手数料の差も大きくなる |
※会社名は、公式の手数料体系と小売業との関わりから見た一例です。対応の可否や条件は各社に確認してください。
売却価格の目安として、中小M&Aでは「時価純資産+営業利益の2〜5年分」(年買法)がよく使われます。ただし小売業は利益率が低いため、店舗不動産・差入保証金・在庫の実際の価値(純資産)が価格を大きく左右します。小売業専用の倍率を示す公的な統計は確認できていないため、あくまで目安として扱ってください。詳しくは「会社の売却価格の算定方法」をご覧ください。
こんなスーパー・専門店におすすめ/おすすめしない相談先
大手の仲介会社は、譲渡価格が大きく、上場スーパーやドラッグストアまで広く買い手を比べたい会社に向いています。小規模な店舗や、手数料を抑えたい会社は、計算基準と最低報酬を見て相談先を選んでください。
大手仲介会社(日本M&Aセンター、M&Aキャピタルパートナーズ、ストライク等)が合う会社
- 譲渡価格が数億円以上見込め、上場スーパー・ドラッグストア・ファンドまで買い手候補を広げたい
- 食品スーパーで、食品業界の専門グループや業界ページがある会社に相談したい
- 地方のスーパーで、地元の金融機関経由の買い手紹介も期待したい(日本M&Aセンター等)
大手仲介会社をおすすめしない会社
- 譲渡価格が数千万円程度で、最低報酬を払うと手取りがほとんど残らない
- 店舗不動産を持ち総資産が大きいのに株式価値が小さく、時価総資産ベースでは手数料が重くなる(この場合は譲渡価格・株式価値ベースの会社と見積もりを比べる)
完全成功報酬型(M&A総合研究所、インテグループ等)が合う会社
- 着手金・中間金を払わず、成約したときだけ費用を払いたい
- 年商数億〜数十億円のスーパーで、スーパー専用ページや公開事例がある会社に相談したい(M&A総合研究所)
- 譲渡価格が数千万〜数億円で、最低報酬(1,500万〜2,500万円)を払っても手取りに見合う
完全成功報酬型をおすすめしない会社
- 譲渡価格が数千万円以下で、最低報酬が売却額の大半を占めてしまう
- 業界専門グループや地域の金融機関網を通じた買い手探しを最優先したい
マッチング型(バトンズ等)が合う店舗
- 個人経営の酒屋・食品店・衣料品店などで、譲渡価格が数千万円以下
- 地元で店を継いでくれる個人や小さな会社にも売りたい
- 買い手とのやり取りをある程度自分で進められる
マッチング型をおすすめしない会社
- 複数店舗のテナント契約や、酒類・医薬品の許認可の調整など、交渉が複雑になりそうな案件
- 従業員や地域に知られないよう、打診先を慎重に絞りたい
迷う場合は、2〜3社に同じ資料(直近3期の決算書、店舗ごとの損益、店舗の賃貸借契約の一覧、許認可の一覧)を渡して相談し、見積もりと提案を並べて比べるのがおすすめです。小規模な会社向けの比較は「小規模M&Aに対応する仲介会社の比較」も参考になります。
よくある質問
Q. 赤字のスーパーでも売却できますか?
売却できる可能性はあります。小売業の買い手は、利益よりも立地、店舗網、生鮮の運営ノウハウ、地域の顧客基盤に価値を見いだすことがあるためです。実際にM&A総合研究所は、関西のスーパー運営会社の事業再生型の成約事例を公開しています。ただし譲渡価格が小さくなると、最低報酬のある仲介会社では手数料の負担が重くなります。進め方は「赤字・債務超過会社の売却ガイド」で解説しています。
Q. 一部の店舗だけを売ることはできますか?
可能です。一般的には事業譲渡や会社分割で、売りたい店舗だけを切り出します。ただしこの方法では、店舗ごとの貸主の承諾や、酒類販売業免許・医薬品の販売許可などの取り直しが必要になる場合があり、会社ごと売る株式譲渡より手続きが増えます。残る店舗の採算や従業員の配置もあわせて考える必要があるため、早めに仲介会社と税理士に相談してください。
Q. パートやアルバイトの雇用はどうなりますか?
株式譲渡では、会社と従業員の雇用契約はそのまま続きます。事業譲渡では、雇用を買い手に移すために従業員一人ひとりの同意が必要です。人手不足が続く小売業では、従業員の継続雇用を買い手が重視することが多く、最終契約で雇用の維持を条件に入れるケースもあります。説明の時期は「従業員へ売却を伝えるタイミング」も参考にしてください。※雇用契約の移し方や労働条件の扱いは、社会保険労務士・弁護士への相談をおすすめします。
Q. 店舗の土地・建物をオーナー個人で持っている場合はどうなりますか?
会社の株式とは別に、不動産を買い手に売るか、オーナーが貸し続けるかを決める必要があります。貸し続ける場合は賃料や契約期間が交渉の対象になり、売る場合は株式とは別に税金がかかります。どちらが有利かは状況によって変わるため、税理士にご相談ください。
Q. 複数の仲介会社に同時に相談してもよいですか?
面談や見積もりの段階であれば問題ありません(詳しくは「M&A仲介会社に複数相談するメリット・注意点」)。ただし正式に依頼するときに専任契約を結ぶと、契約期間中は他社に依頼できないのが一般的です。また契約終了後も一定期間、紹介を受けた買い手との成約で報酬が発生する「テール条項」が付くことがあるため、契約書を確認してから署名してください。
まとめ:小売業の売却は「計算基準」と「許認可・店舗契約の段取り」で選ぶ
- 小売業の後継者不在率は55.2%(2025年)で、全業種平均を上回る。第三者への売却は現実的な選択肢
- 小売業向けの特別料金はなく、手数料は全業種共通。店舗不動産を持つスーパーでは、時価総資産ベースか譲渡価格・株式価値ベースかで、手数料が数千万円変わることがある
- 譲渡価格が数億円以下なら、最低報酬が実際の手数料になりやすい。数千万円以下の小さな店舗は、マッチング型や公的窓口も検討する
- 「小売に強い」かどうかは、業界の専門チーム・専用ページの有無と、近い業態の成約事例で判断する
- 酒類免許・医薬品・たばこの許可、テナント契約は売却方法で扱いが変わる。一部の店舗だけ売る場合は特に手続きが増える
まずは自社の数字(総資産・純資産・営業利益・店舗ごとの損益)と、店舗の契約・許認可の一覧を用意し、計算基準の違う2〜3社から見積もりを取って比べるところから始めてください。各社の詳細は、日本M&Aセンター、M&Aキャピタルパートナーズ、ストライク、M&A総合研究所、fundbook、バトンズの各記事で解説しています。アパレル店やネット通販も手がけている方は「アパレル・繊維業のM&A仲介会社」「EC・ネット通販業のM&A仲介会社」もあわせてご覧ください。
※本記事の手数料・統計は、各公式サイト・公表資料で2026年10月16日に確認した内容です。手数料は改定されることがあるため、依頼前に各社の最新の料金ページと見積書で確認してください。許認可・税務・法務の判断は、所轄の行政機関や税理士・弁護士などの専門家にご相談ください。
