SES・受託開発会社の売却相談先は、「会社の規模」と「最低報酬が売却額に占める割合」で決めるのが現実的です。 売上10億円前後以上なら大手上場仲介(日本M&Aセンター・ストライク・M&Aキャピタルパートナーズ)、エンジニア30名前後・売上数億円ならSES対応を明記する中堅仲介(インテグループ・M&A総合研究所)やIT特化型(パラダイムシフト・ウィルゲートM&A)、エンジニア10名未満ならマッチングサイトも候補になります。
この記事でわかること
- SES・受託開発への対応を公式に明記している仲介会社8社の手数料・対象規模・IT実績の比較
- 想定売却額1億・3億・5億円のときの仲介手数料の目安(計算前提つき)
- エンジニア数・利益規模別の相談先の選び方
- 商流・稼働率・偽装請負・派遣許可など、SES・受託開発会社ならではの評価ポイントと売却前チェック
こんな方に向けた記事です
- SES(準委任での技術者提供)や受託開発を主力とする会社のオーナー経営者
- 後継者不在やエンジニア採用難を理由に、会社の売却・事業承継を検討し始めた方
- 「IT業界に強い」とされる仲介会社が多すぎて、どこに相談すべきか絞り込めない方
※本記事の手数料・実績は、各社公式サイトの掲載内容を2026年9月28日に確認したものです(金額は原則税別)。手数料体系は改定されることがあるため、契約前には必ず各社に最新条件をご確認ください。
SES・受託開発会社のM&A仲介会社おすすめ比較表
結論として、SES・受託開発を公式に対象業種として明記しているかと、最低報酬がいくらかの2点で候補は大きく絞れます。以下は本記事で取り上げる8社の比較です。
会社名 | タイプ | 着手金 | 成功報酬の計算基準 | 最低報酬 | SES・受託への対応 | IT領域の公表実績(時点) | 目安となる規模 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
日本M&Aセンター | 大手上場(東証プライム) | あり(簿価総資産2億円以下で100万円〜) | 時価総資産額のレーマン方式(5〜1%) | 2,000万円 | IT業界ページでSES・受託開発を明記 | IT企業の成約累計350件超(2023年1月時点) | 売上10億円前後〜 |
ストライク | 大手上場(東証プライム) | 0円 | オーナー受取額のレーマン方式 | 実質2,000万円 | IT・Web業界ページでSES・受託開発を明記 | IT/Web成約120件以上・成約総額500億円以上(時点記載なし) | 売上数億〜数十億円 |
M&Aキャピタルパートナーズ | 大手上場(東証プライム) | 0円(中間金は報酬総額の約10%) | 株価のレーマン方式(5〜1%) | 公式ページで未確認 | IT業界専門チームあり。受託開発の事例掲載 | IT専門チームで直近5年100社超(時点記載なし) | 売上10億円前後〜 |
M&A総合研究所 | 大手上場(親会社:東証プライム) | 0円(売り手は中間金も0円) | 譲渡価額のレーマン方式(5〜1%) | 1,500万円(売買金額3億円以下)※同社コラム記載 | SES業界向けの解説・事例を掲載 | M&A仲介全体で2025年9月期234件 | 売上数億円〜 |
インテグループ | 中堅上場(東証グロース) | 0円 | 株価のレーマン方式(5〜1%) | 1,500万円 | システム開発・SES企業向けの専用ページあり | 件数は非公表(事例掲載あり) | 売上3億円・エンジニア30名程度〜 |
パラダイムシフト | IT特化型(非上場) | 0円(初期費用が発生する場合ありと注記) | レーマン方式(詳細は要問い合わせ) | 公式ページで未確認 | SES会社特化の専用ページあり | IT領域で累計276件(2023年6月末時点) | 要問い合わせ |
ウィルゲートM&A | IT特化型(非上場) | 0円 | 完全成功報酬(詳細は要問い合わせ) | 公式ページで未確認 | 対応業種にSES・システム開発を明記 | 成約90組(サービス開始6年累計・時点記載なし) | 小規模〜 |
みつきコンサルティング | 独立系(税理士法人グループ) | 0円 | 完全成功報酬(詳細は要問い合わせ) | 公式ページで未確認 | SES売却の専用解説あり | 公式ページで未確認 | 要問い合わせ |
出典:各社公式サイト(日本M&Aセンター「譲渡・売却の報酬表」「IT業界」、ストライク「報酬・料金体系」「IT・Web業界」、M&Aキャピタルパートナーズ「手数料」「IT業界チーム」、M&A総合研究所「M&Aの完全成功報酬とは」、インテグループ「料金体系」「システム開発・SES業界」、パラダイムシフト「SES特化ページ」、ウィルゲートM&A、みつきコンサルティング)。確認日:2026年9月28日。
表の読み方の注意点
- 実績件数は集計時点・定義が各社で異なるため、件数の多さでランキングはしていません。 2023年時点の数値も含まれます。
- 「目安となる規模」は、各社の公式情報(支援対象の目安・掲載事例・最低報酬の水準)をもとに当編集部が整理したもので、各社の受託基準ではありません。
- 「最低報酬:公式ページで未確認」の会社は、無料相談の段階で最低報酬額と計算基準を書面でもらうことをおすすめします。
- 「No.1」などの調査条件が明らかでない表記は、本記事では引用していません。
手数料体系そのものの仕組みは「M&A仲介会社の手数料比較」、業界を問わない売り手向けの比較は「M&A仲介会社比較(売り手向け)」で詳しく解説しています。
規模別|SES・受託開発会社におすすめの相談先
エンジニア数と営業利益の水準で、相談すべき仲介会社のタイプはほぼ決まります。 大手の最低報酬(2,000万円クラス)は、売却額が1億円前後の会社にとっては売却額の2割に相当するためです。
自社の規模の目安 | 想定される相談先のタイプ | 候補 | 選ぶ理由 |
|---|---|---|---|
エンジニア10名未満・営業利益が小さい | マッチングサイト+小規模に対応する仲介 | バトンズ、TRANBI、ウィルゲートM&A | 最低報酬の重さが売却額に見合わない可能性が高い。バトンズには「SES」で検索できる売却案件が343件掲載(2026年9月28日時点) |
エンジニア30名前後・売上3億円前後 | SES対応を明記する中堅仲介/IT特化型 | インテグループ、M&A総合研究所、パラダイムシフト、ウィルゲートM&A | 最低報酬1,500万円前後または非公開。SES専用ページがあり業態理解を確認しやすい |
売上5〜10億円・自社受託や元請け案件あり | 大手上場と中堅の併用比較 | ストライク、M&A総合研究所、インテグループ、日本M&Aセンター | 報酬額が最低報酬を超えてくる規模。買い手ネットワークの広さと計算基準で比較 |
売上10億円超・上流工程や保守を持つSIer | 大手上場仲介 | 日本M&Aセンター、M&Aキャピタルパートナーズ、ストライク | 上場企業・ファンドを含む広い買い手層にアプローチでき、最低報酬の負担比率も下がる |
※規模の目安は、インテグループ公式の支援対象目安(売上3億円程度・エンジニア30名程度)、M&Aキャピタルパートナーズ公式の受託開発事例(売上約10億円規模)等をもとに当編集部が整理したものです。各社の受託可否は個別判断になります。バトンズの掲載件数の出典は「バトンズ 売却案件一覧(SES)」(2026年9月28日確認)です。
大手と中小規模向けの仲介会社の違いは「大手M&A仲介会社と中小仲介会社の違い」もあわせてご覧ください。
おすすめ各社の特徴と相談に向く会社
ここからは8社を「大手上場」「SES対応の中堅」「IT特化型・独立系」の3グループに分けて解説します。どの会社も万能ではないため、自社の規模に合う2〜3社に絞って相談するのが一般的です。
日本M&Aセンター|2014年頃からIT業界特化チームを持つ大手上場仲介

日本M&Aセンター(日本M&Aセンターホールディングス、東証プライム)は、公式サイトによると2014年頃に上場仲介会社で初めてIT業界特化チームを設置し、IT企業の成約累計は350件超(2023年1月時点)としています。IT業界ページではSES・受託開発を対象に含め、評価で見られる指標として稼働率、単価(人月単価)、外注比率、検収遅延、赤字プロジェクト比率を挙げています。
- 手数料:着手金あり(簿価総資産2億円以下で100万円〜)。成功報酬は時価総資産額(営業権を含む)を基準としたレーマン方式で、最低報酬2,000万円
- こんな会社におすすめ:売上10億円前後以上で、地銀・会計事務所ネットワークを通じて全国から幅広く買い手を探したい会社
- 慎重に検討したい会社:想定売却額が1〜3億円程度の小規模SES。着手金と最低報酬の比率が高くなりやすい
会社の詳細は「日本M&Aセンターとは」で解説しています。
ストライク|SES・受託開発を明記、手取り基準の報酬体系

ストライク(東証プライム)はIT・Web業界ページで、対応分野としてSES・受託開発を明記しています。公式サイトではIT/Web業界の成約120件以上、成約総額500億円以上、平均成約期間8ヶ月と表示しています(集計時点の記載なし)。
- 手数料:着手金0円・企業価値算定も無料。基本合意時に中間金(資産10億円以下で100万円)。成功報酬はオーナー受取額を基準としたレーマン方式で、4億円以下は一律2,000万円
- 特徴:受取額基準のため、借入金が多い会社でも「手取り以上の報酬」になりにくい設計
- こんな会社におすすめ:売上数億〜数十億円で、手取り額を基準に手数料を読みたい会社
- 慎重に検討したい会社:売却額が1億円前後の会社。実質的な最低報酬2,000万円の負担が大きい
詳しくは「ストライクとは」をご覧ください。
M&Aキャピタルパートナーズ|中堅SIer・受託開発会社向け

M&Aキャピタルパートナーズ(東証プライム)は、IT業界専門チームで直近5年に100社超の仲介実績があると公表しています。掲載事例には、上流工程から保守まで対応するソフトウェア開発会社(売上約10億円規模)の譲渡があります。
- 手数料:着手金0円。相手先決定時に報酬総額の約10%の中間金。成功報酬は株価を基準としたレーマン方式(5〜1%)で、売り手・買い手で同じ料率。最低報酬は今回の確認時点では公式ページで確認できなかったため、相談時に確認してください
- こんな会社におすすめ:元請け案件や保守契約を持つ売上10億円前後以上の受託開発会社・SIer
- 慎重に検討したい会社:エンジニア数名〜十数名のSES専業
M&A総合研究所|完全成功報酬でSES事例も多数掲載

M&A総合研究所は、東証プライム上場のクオンツ総研ホールディングス(2026年1月に「M&A総研ホールディングス」から商号変更)の子会社です。売り手は着手金・中間金0円の完全成功報酬で、SES業界向けの解説記事や事例を自社メディアで多数公開しています。2025年9月期のM&A仲介の成約件数は234件と説明されています(出典:ログミーFinance掲載の決算説明、2026年9月28日確認。正式な数値は同社IR資料でご確認ください)。
- 手数料:譲渡価額を基準とするレーマン方式(5〜1%)。最低報酬は1,500万円(売買金額3億円以下に適用)と同社コラムに記載されています。契約時は料金ページ・契約書で最新条件を確認してください
- こんな会社におすすめ:売上数億円規模で、成約まで費用を払いたくない会社
- 慎重に検討したい会社:想定売却額が1億円を下回る会社。最低報酬の比率が高くなる
商号変更の経緯は「M&A総研ホールディングスがクオンツ総研ホールディングスへ商号変更」で解説しています。
インテグループ|システム開発・SES企業向けの専用窓口

インテグループ(東証グロース)は、システム開発・SES企業向けの専用ページを設けています。支援対象の目安として「売上3億円程度・エンジニア30名程度」を示しており、掲載事例は売上2.5億〜20億円規模のSES企業・システム開発企業です。
- 手数料:着手金・中間金0円の完全成功報酬。株価を基準としたレーマン方式(5億円以下5%、〜10億円4%、〜50億円3%、〜100億円2%、100億円超1%)で、最低報酬1,500万円
- こんな会社におすすめ:エンジニア30名以上・売上3億円以上で、業態を理解した担当者に相談したい会社
- 慎重に検討したい会社:エンジニア十数名以下の会社(医療・金融特化型など一部を除き、公式の目安より小さい)
パラダイムシフト|SES会社特化の専用ページを持つIT特化アドバイザリー
パラダイムシフトはIT領域に特化したM&Aアドバイザリー会社で、SES会社特化の専用ページを公開しています。公式サイトではIT領域の累計276件(2023年6月末時点)、年間30〜40件の支援と説明しており、SESの評価では「エンジニアの定着」「シナジー」「収益の安定性」を重視するとしています。
- 手数料:着手金・中間金0円(独占交渉期間を設定する場合を除く)。「初期費用が発生する場合あり」の注記があるため、相談時に確認が必要です。料率・最低報酬は公式ページで確認できませんでした
- こんな会社におすすめ:IT業界の買い手の事情に詳しい担当者と、SES特有の評価論点を詰めたい会社
- 慎重に検討したい会社:非IT業種の買い手(異業種のDX目的の買収)まで広く探したい会社
ウィルゲートM&A|IT・Web領域の中小案件に対応
ウィルゲートM&Aは、Webマーケティング支援の株式会社ウィルゲートが運営するM&A仲介サービスです。公式サイトではサービス開始6年で成約90組、評価額40億円以上の成約実績、買い手ネットワーク17,400社以上と表示しており(2026年9月28日確認)、対応業種にSES・システム開発を明記しています。
- 手数料:着手金・中間金0円の完全成功報酬。料率・最低報酬は今回の確認時点では公式ページに記載が見当たらなかったため、相談時に確認してください
- こんな会社におすすめ:数名〜数十名規模のSES・受託開発会社で、大手の最低報酬が合わない会社
- 慎重に検討したい会社:売上数十億円規模で、上場企業・ファンドなど大型の買い手を幅広く当たりたい会社
詳しくは「ウィルゲートM&Aとは」をご覧ください。
みつきコンサルティング|税理士法人グループの独立系
みつきコンサルティングは税理士法人グループの独立系M&A仲介会社で、SES運営会社の売却に関する専用解説を公開しています(2026年3月19日付)。着手金・月額報酬0円の完全成功報酬制を表示しています。
- 手数料:完全成功報酬制。料率・最低報酬・実績件数は公式ページで確認できませんでした
- こんな会社におすすめ:売却後の税務(株式譲渡益・退職金の組み合わせ等)も含めて、税理士グループと一体で相談したい会社
- 慎重に検討したい会社:IT業界の買い手とのつながりの厚さを最優先したい会社(IT特化型との併用がおすすめです)
※株式譲渡益や役員退職金の課税関係は個別の状況で変わります。税務の詳細は税理士への相談をおすすめします。
補足:小規模SESはマッチングサイトも選択肢
エンジニア10名未満のSESでは、仲介会社よりもM&Aマッチングサイトのほうが費用面で現実的な場合があります。バトンズでは「SES」で検索できる売却案件が343件(2026年9月28日時点)、TRANBIにもSES関連の売却案件カテゴリがあります。売り手無料のM&Aクラウドなど、IT企業向けプラットフォームは「IT・Web業界のM&A仲介会社おすすめ」で比較しています。
ただし、マッチングサイトは交渉・契約・デューデリジェンス対応を自社で進める場面が増えます。契約書のチェックは弁護士、株価や税金の確認は税理士など、必要に応じて専門家への依頼を検討してください。
SES・受託開発会社の仲介手数料シミュレーション
想定売却額が1億円の会社では、大手の最低報酬2,000万円は売却額の20%に相当します。 同じ「5%レーマン」でも、最低報酬と計算基準の違いで実際の負担は大きく変わります。
計算の前提
- 株式譲渡で、各社の計算基準となる金額が「譲渡価額(株価)」と同額になると仮定
- レーマン方式は「5億円以下の部分5%」で計算(公式の料率区分に基づく)
- 着手金・中間金は含めず、成功報酬のみ・税別
想定売却額 | 日本M&Aセンター | ストライク | M&A総合研究所 | インテグループ | M&Aキャピタルパートナーズ |
|---|---|---|---|---|---|
1億円 | 2,000万円(最低報酬)=20% | 2,000万円=20% | 1,500万円(最低報酬)=15% | 1,500万円(最低報酬)=15% | 料率計算では500万円(最低報酬の適用有無は要確認) |
3億円 | 2,000万円(最低報酬)=6.7% | 2,000万円=6.7% | 1,500万円(最低報酬)=5% | 1,500万円(最低報酬)=5% | 料率計算では1,500万円(最低報酬の適用有無は要確認) |
5億円 | 2,500万円=5% | 2,500万円=5% | 2,500万円=5% | 2,500万円=5% | 2,500万円=5% |
※確認日:2026年9月28日。各社公式の料金ページ(M&A総合研究所は同社コラム)をもとに当編集部で試算。実際の報酬は契約内容により異なります。
シミュレーションからわかること
- 売却額3億円以下では、最低報酬が支払額を決める。 料率よりも最低報酬の金額を先に比べるほうが合理的です
- 日本M&Aセンターは「時価総資産」基準のため、上表より高くなる可能性がある。 株価に負債分が加わるため、借入金や買掛金が多い会社ほど差が開きます。別途着手金も発生します
- ストライクには基本合意時の中間金(資産10億円以下で100万円)がある。 成功報酬との関係は相談時に確認してください
SES企業は設備などの有形資産が小さい一方、売掛金や現預金が厚い会社も多く、基準額の違いによる差は会社ごとに変わります。自社の決算書で試算してもらうのが確実です。計算基準の違いは「M&A成功報酬の比較」で詳しく解説しています。
なお、一定の要件を満たすと、仲介手数料の一部が「事業承継・M&A補助金(専門家活用枠)」の補助対象になる場合があります。公募回ごとに条件が変わるため、「事業承継・M&A補助金の専門家活用枠(売り手向け)」で最新情報を確認してください。
SES・受託開発会社が仲介会社を選ぶ5つのポイント
「IT業界に強い」という看板よりも、SES・受託開発の評価の仕方を具体的に説明できるかで選びましょう。 面談時に確認したいポイントは次の5つです。
1. SES・受託開発の評価方法を具体的に説明できるか
SESの企業価値は、稼働率・人月単価・商流(元請け/二次請け以降)・エンジニアの定着率で大きく変わります。面談で「当社の商流や稼働率を、評価額にどう反映しますか」と聞き、具体的な答えが返ってくるかを確認してください。
2. 手数料の計算基準と最低報酬
前章のとおり、売却額が小さいほど最低報酬の影響が大きくなります。「計算基準(株価/総資産/受取額)」「最低報酬」「着手金・中間金」の3点を書面で確認するのが基本です。
3. 買い手ネットワークの種類
SES・受託開発会社の買い手は、エンジニアを確保したい同業のIT企業、DXを進めたい事業会社、投資ファンドなどさまざまです。大手は異業種を含めた広いネットワーク、IT特化型はIT業界内の濃い接点が強みになる傾向があります。
4. SES案件の実績の「時点」と「件数」
公表実績には2023年時点の数値も含まれます。「直近1〜2年でSES・受託開発の成約は何件ありますか」と、時点を区切って質問するのがおすすめです。
5. 専任契約・テール条項の範囲
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」は、仲介者に手数料・業務内容・利益相反の事前説明を求めており、専任条項やテール条項(契約終了後も一定期間報酬が発生する条項)の範囲も確認事項に挙げています。あわせて、候補の会社が中小企業庁の「M&A支援機関登録制度」に登録されているかも確認しておくと安心です(登録支援機関は手数料の算定基準の開示が求められています)。
面談で使える質問リスト:
- 当社の商流(元請け比率)と稼働率は、評価額にどう反映されますか
- 直近1〜2年のSES・受託開発の成約件数と、買い手の業種を教えてください
- 当社の規模で想定される報酬額を、最低報酬を含めて試算してもらえますか
- 専任期間・テール条項の期間と対象範囲はどうなっていますか
- 偽装請負や派遣許可の論点は、どの段階で誰が確認しますか
仲介会社選び全般の手順は「M&A仲介会社の選び方」で詳しく解説しています。
買い手がSES・受託開発会社を評価するポイント
買い手が見ているのは「エンジニアと取引口座が、売却後も残るかどうか」です。 日本M&Aセンターも、SES・受託開発で見られる指標として稼働率・単価・外注比率・検収遅延・赤字プロジェクト比率を挙げています。
評価ポイント | 評価されやすい状態 | 評価が下がりやすい状態 |
|---|---|---|
商流 | エンド企業・元請けとの直接取引(プライム比率が高い) | 三次請け以降が中心で単価交渉力が弱い |
稼働率・単価 | 待機要員が少なく、単価が継続的に上がっている | 待機が多い、単価が長期間据え置き |
エンジニアの定着 | 離職率が低く、採用の仕組みがある | 離職が多い、経営者個人の人脈で採用している |
外注(BP)比率 | 自社社員が中心で、BPとの契約が整備されている | BP依存が高く、契約書や条件明示が不十分 |
顧客の集中度 | 取引先が分散している | 1〜2社で売上の大半を占める |
受託案件の管理 | 赤字プロジェクトや検収遅延が少ない | 赤字案件や検収トラブルを抱えている |
技術領域 | クラウド・セキュリティ・AIなど需要の強い領域 | レガシー保守のみで先細りが見える |
背景として、経済産業省「IT人材需給に関する調査」(2019年4月公表)は、2030年に最大約79万人のIT人材が不足すると試算しています(2019年時点の試算です)。エンジニアをまとめて確保できるSES・受託開発会社は、買い手にとって採用の代替手段になり得ます。
一方で、生成AIによる開発生産性の向上を、人月単価で売上を積み上げるビジネスのリスクとして評価する買い手もいる、との指摘が一部の専門家から出ています。自社のAI活用や上流工程へのシフトを説明できるように準備しておくと、交渉材料になります。評価額の算定方法は「M&Aの企業価値評価(バリュエーション)」「EBITDA倍率とは」、評価を上げる準備は「会社を高く売るためのポイント」をご覧ください。
SES・受託開発会社が売却前に確認したい法務リスク
SES・受託開発会社のM&Aでは、偽装請負・派遣許可・下請取引の論点がデューデリジェンス(買収前調査)で確認されやすくなります。 売却を決める前に、自社の状況を洗い出しておきましょう。
偽装請負のリスク
SESは準委任契約でエンジニアを客先に常駐させる形が多いものの、客先が作業指示・勤怠管理・人選を行っている場合、実態は労働者派遣と判断されるおそれがあります。判断基準は厚生労働省の「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号)です。派遣許可を持たずに実態が派遣と判断されると、労働者派遣法上の罰則の対象になり得るため、買い手は現場の運用まで確認します。
派遣許可の扱いはスキームで変わる
労働者派遣事業の許可は法人に付与されるため、株式譲渡であれば許可は会社に残ります(役員変更などの届出は必要)。一方、事業譲渡では譲受側で新たに許可を取る必要があり、申請から許可までに一定の期間がかかります。合併・会社分割の手続きは厚生労働省「合併・事業譲渡等マニュアル」(令和6年9月19日改訂版)に整理されています。
事業譲渡ではエンジニア一人ひとりの同意が必要
事業譲渡でエンジニアの雇用を引き継ぐ場合、労働契約の移転には労働者本人の個別の承諾が必要です(民法625条1項)。株式譲渡では雇用契約は会社に残るため、SES・受託開発会社の売却では株式譲渡が選ばれることが多い傾向にあります。従業員への影響は「M&Aで従業員はどうなる?」で解説しています。
取適法(改正下請法)・フリーランス法への対応
2026年1月1日に、下請法が改正され「中小受託取引適正化法(取適法)」として施行されました。システム開発などの情報成果物作成委託も対象で、従業員数による適用基準の追加や、協議に応じない一方的な代金決定の禁止などが定められています(出典:公正取引委員会リーフレット、政府広報オンライン、確認日2026年9月28日)。
多重下請けの下位にいるSES企業にとっては交渉力を高める追い風になる一方、自社がBP(ビジネスパートナー)やフリーランスに再委託する立場では、発注者側としての義務を守れているかが確認対象になります。2024年11月に施行されたフリーランス法(取引条件の明示義務など)への対応状況もあわせて整理しておきましょう。
大口顧客との契約の「支配権変更条項」
元請けや大口顧客との基本契約に、株主が変わった場合の解除条項(チェンジ・オブ・コントロール条項)が入っていると、株式譲渡でも取引が継続できないリスクがあります。売却前に主要契約の条項を確認しておくことが重要です。
ご注意: 偽装請負・派遣許可・取適法・雇用承継の判断は、契約書だけでなく現場の運用実態によって変わります。実際の判断は、弁護士・社会保険労務士などの専門家への相談をおすすめします。売却にかかる税金は税理士にご確認ください。
売却前のセルフチェック
- 客先常駐のエンジニアに、客先が直接作業指示や勤怠管理をしていないか
- 派遣と準委任の契約・運用が混在していないか(派遣許可の有無を含む)
- BP・フリーランスとの契約書、取引条件の明示、支払期日は整っているか
- 主要顧客との基本契約に支配権変更条項がないか
- 赤字プロジェクトや検収遅延の案件を把握し、説明できるか
- 経営者がいなくても営業・採用が回る体制があるか
IT企業の売却全般の注意点は「IT・SaaS企業の会社売却の注意点」、派遣事業を併営している場合は「人材派遣会社のM&A仲介会社おすすめ」も参考になります。
SES・受託開発会社のM&A市場の状況
国内のM&A件数は増加傾向が続いており、IT人材の確保を目的とした買収ニーズも背景にあります。 レコフデータの集計では、2026年1〜6月の国内M&A件数は2,647件(前年同期比5.1%増)で、上半期として3年連続で過去最多となりました(出典:MARR Online、2026年7月1日公表)。
ただし、市場全体の件数が多いことと、自社が希望価格で売れることは別の話です。買い手が多い今のうちに、前章の評価ポイントと法務リスクを整理しておくことが、売却条件を良くする近道になります。AI関連事業を持つ場合は「AI・DX企業の会社売却ガイド」、パッケージソフトやSaaSを持つ場合は「SaaS・ソフトウェア業のM&A仲介会社おすすめ」も参考にしてください。
よくある質問
Q. SES企業の売却は、顧客や社員に知られずに進められますか?
一般的に、仲介会社は秘密保持契約を結んだうえで、社名を伏せた概要資料(ノンネームシート)で買い手を探します。社員や顧客への開示は、最終契約の前後に買い手と相談しながら段階的に行うのが通常です。ただしSESでは、エンジニアの面談や主要顧客の契約確認がデューデリジェンスで必要になる場合があるため、開示の範囲と時期は仲介会社と事前にすり合わせてください。
Q. 派遣許可を持っていないと、売却で不利になりますか?
派遣許可がないこと自体が不利になるわけではありません。問題になりやすいのは、許可がないのに実態が派遣になっている(偽装請負の疑いがある)ケースです。準委任として指揮命令系統が整理されていれば、許可の有無より運用の実態が確認されます。判断に迷う場合は社会保険労務士・弁護士への相談をおすすめします。
Q. BP(協力会社)への再委託が多くても買い手はつきますか?
買い手はつきますが、自社社員中心の会社と比べると評価が慎重になる傾向があります。売上のうちBP経由の比率、BPとの契約期間や条件、取適法・フリーランス法に沿った取引条件の明示ができているかを資料で説明できると、買い手の不安を減らせます。
Q. 仲介会社には何社くらい相談すべきですか?
規模に合う2〜3社に相談し、評価の考え方と報酬試算を比べるのが一般的です。専任契約を結ぶと他社に並行して依頼できなくなることが多いため、専任契約を結ぶ前に比較を終えておくのがポイントです。
Q. 売却の準備はいつから始めればよいですか?
ストライクは公式サイトでIT/Web業界の平均成約期間を8ヶ月としています。そのうえで、偽装請負のリスク点検やBP契約の整備、経営者に頼らない営業体制づくりには時間がかかるため、売却希望時期の1〜2年前から準備を始めると余裕を持って進められます。
まとめ|規模に合う2〜3社を選び、手数料と評価の考え方を比べる
SES・受託開発会社の仲介会社選びは、次の順で進めるとスムーズです。
- 自社の規模を確認する:エンジニア数・売上・営業利益から、大手上場/SES対応の中堅・IT特化型/マッチングサイトのどれが合うかを判断する
- 手数料を試算する:計算基準・最低報酬・着手金を確認し、想定売却額に対する割合で比べる
- SESの評価方法を聞く:商流・稼働率・エンジニア定着をどう評価するか、直近のSES成約実績を確認する
- 法務リスクを点検する:偽装請負・派遣許可・BP契約・支配権変更条項を、専門家とともに洗い出す
売上10億円前後以上なら日本M&Aセンター・M&Aキャピタルパートナーズ・ストライク、エンジニア30名前後ならインテグループ・M&A総合研究所・パラダイムシフト・ウィルゲートM&A、10名未満ならマッチングサイトも含めて検討するのが一つの目安です。
仲介会社の選び方全般は「M&A仲介会社の選び方」、業種を問わない売り手向けの比較は「M&A仲介会社比較(売り手向け)」もあわせてご覧ください。
※本記事は2026年9月28日時点の各社公式情報に基づく一般的な情報提供であり、特定の取引を推奨するものではありません。税務・法務・労務の個別判断は、税理士・弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
