SPA(Stock Purchase Agreement)とは、M&Aにおいて株式を譲渡する際に締結する最終契約書のことです。 売り手・買い手双方の権利義務やリスク分担を法的拘束力をもって確定させる、M&Aプロセスで最も重要な契約書といえます。
この記事では、以下の内容をわかりやすく解説します。
- SPAの定義と、基本合意書(LOI/MOU)との違い
- SPAに記載される主な10の条項と、それぞれの意味
- 表明保証・補償条項の仕組みと、売り手が特に注意すべきポイント
- 印紙税の取扱いや、会社法上の手続き
- SPA締結前に確認すべきチェックリスト
この記事は、会社の売却を検討している中小企業の経営者・オーナーの方に向けて書いています。 SPAは法律の専門用語が多い契約書ですが、売り手として「何が書かれていて、どこに注意すべきか」を押さえておくことが、M&Aの成功に直結します。
重要: SPAの条項は取引ごとに異なり、この記事の内容はあくまで一般的な解説です。実際のSPA作成・締結にあたっては、必ずM&Aに精通した弁護士によるリーガルチェックを受けてください。
SPAとは? — 株式譲渡契約書の定義と位置づけ
SPA(Stock Purchase Agreement)は、M&Aにおける「最終契約書(DA: Definitive Agreement)」の一つで、株式譲渡スキームを用いる場合に締結される契約書です。
日本語では「株式譲渡契約書」と呼ばれます。英語では「Share Transfer Agreement」と表記されることもあります。
SPAが持つ3つの核心的な役割を整理します。
役割 | 内容 |
|---|---|
取引条件の確定 | 譲渡価格、支払方法、対象株式、クロージング日などを確定させる |
リスク分担の明確化 | 表明保証・補償条項を通じて、売り手・買い手それぞれの責任範囲を定める |
履行義務の法的根拠 | SPAがなければ株式譲渡を法的に求める根拠がない。相手方が義務を果たさない場合に請求できる |
SPAとDA(最終契約書)の関係
DA(最終契約書)は上位概念であり、M&Aのスキームによって契約書の名称が変わります。
M&Aスキーム | 最終契約書(DA)の名称 |
|---|---|
株式譲渡 | SPA(株式譲渡契約書) |
事業譲渡 | 事業譲渡契約書 |
合併 | 合併契約書 |
中小企業のM&Aでは株式譲渡スキームが最も多く使われるため、「最終契約書=SPA」と理解して問題ないケースがほとんどです。株式譲渡の基本的な仕組みについては「株式譲渡とは?わかりやすく解説」で詳しく解説しています。
M&Aの基礎知識やスキームの種類については、「M&Aとは?仕組み・種類・メリットをわかりやすく解説」もあわせてご覧ください。
M&Aプロセスの全体像とSPAの位置づけ

SPAはM&Aプロセスの終盤で締結される契約書です。以下の表で、M&Aの流れの中でSPAがどこに位置するかを確認しましょう。
段階 | 文書・手続き | 法的拘束力 | ポイント |
|---|---|---|---|
① | NDA(秘密保持契約書) | あり | 情報開示に先立って締結 |
② | LOI(意向表明書) | 一部のみ | 買い手の意向を示す書面 |
③ | MOU / 基本合意書 | 一部のみ(独占交渉権等) | 大枠の条件を合意 |
④ | DD(デューデリジェンス) | — | 買い手による対象会社の調査 |
⑤ | SPA(株式譲渡契約書) | 全面的にあり | 最終条件の確定・法的拘束 |
⑥ | クロージング | — | 株式譲渡・対価支払いの実行 |
M&Aで売り手が署名する主な書類については、それぞれ個別の解説記事もあります。
- NDAについて: 「M&A NDA(秘密保持契約)とは」
- LOIについて: 「M&A LOI(意向表明書)とは」
売り手として特に理解しておくべきポイントは、LOI/MOUとSPAの法的拘束力の違いです。
- LOI/MOU(基本合意書): 独占交渉権や秘密保持など一部の条項にのみ法的拘束力がある。価格や取引条件は「仮の合意」であり、変更される可能性がある
- SPA(最終契約書): 全条項に法的拘束力が発生する。 署名後は原則として契約内容に拘束される
つまり、基本合意で合意した条件がそのままSPAに反映されるとは限りません。デューデリジェンスの結果を受けて価格やその他の条件が修正されるケースは珍しくないため、SPA締結前の最終確認が極めて重要です。
M&Aの売却プロセス全体の流れは「会社売却の流れ完全ガイド」で解説しています。
SPAの主な記載事項 — 10の基本条項

SPAには多くの条項が盛り込まれますが、実務上重要とされる基本事項は主に10項目です。以下の表で全体像を確認したうえで、売り手として特に重要な条項を詳しく解説します。
No. | 条項 | 概要 | 売り手の注意度 |
|---|---|---|---|
1 | 当事者 | 売り手(譲渡人)と買い手(譲受人)の特定 | ★☆☆ |
2 | 取引の基本条件 | 株式譲渡の合意、取引対象の特定、実施時期 | ★★☆ |
3 | 譲渡価格 | 1株あたり・総額の価格、価格調整条項 | ★★★ |
4 | クロージング | 株式譲渡と対価支払いの手続き・条件 | ★★★ |
5 | 前提条件(CP) | クロージング実行の前提として充足すべき条件 | ★★★ |
6 | 表明保証 | 売り手・買い手による事実の正確性の保証 | ★★★ |
7 | 誓約事項(コベナンツ) | 契約前後の付随義務(競業避止等) | ★★★ |
8 | 補償(インデムニティ) | 表明保証・誓約違反時の損害補填 | ★★★ |
9 | 解除 | 契約解除の条件・手続き | ★★☆ |
10 | 一般条項 | 秘密保持、準拠法、裁判管轄、費用負担など | ★★☆ |
(出典: sogotcha.com「M&A・株式譲渡契約書で規定すべき10の基本事項」、各M&A仲介会社の公式解説を基に構成)
以下では、売り手にとって特に重要度が高い条項について詳しく解説します。
表明保証(Representations and Warranties)— 売り手が最も注意すべき条項

表明保証とは、契約の一定時点における事実について「その事実が真実かつ正確であること」を相手方に対して表明し、保証する条項です。 SPAのなかで売り手にとって最もリスクが大きい条項であり、内容を十分に理解したうえで署名する必要があります。
売り手(譲渡人)側の主な表明保証項目
SPAで売り手が表明保証を求められる項目は多岐にわたります。一般的な項目は次のとおりです。
- 契約締結の権限・権能があること
- 法令に違反していないこと
- 対象会社が適法に設立・存続していること
- 株式の内容・数が正確であること
- 計算書類(財務諸表)が正確であること
- 資産・負債の状態が良好に維持されていること
- 税務申告が適正に行われていること
- 未払い残業代などの労務問題がないこと
- 重要な契約が有効であること
- 必要な許認可が有効であること
- 訴訟・紛争が存在しないこと
- 反社会的勢力との関係がないこと
- 環境問題が存在しないこと
一方、買い手側の表明保証は「契約締結の権限」「法令違反の有無」「反社との無関係」程度であり、売り手と比べて範囲は限定的です。
表明保証が持つ3つの機能
表明保証は単なる「事実の確認」ではなく、M&A取引全体のリスク管理の仕組みとして3つの機能を果たしています。
機能 | 内容 | 売り手への影響 |
|---|---|---|
リスク分担機能 | 表明保証の対象範囲がリスク分担の分岐点。対象外の事由は買い手が負担する | 範囲を狭めれば売り手のリスクは減るが、買い手の抵抗が強くなる |
価格調整機能 | 表明保証違反が発覚した場合、補償請求を通じて事後的に取引条件が修正される | 事実に反する保証を行うと、クロージング後に損害賠償を請求される可能性がある |
情報開示機能 | 売り手が事前に問題点を開示(ディスクロージャー)するきっかけとなる | 既知の問題は事前に開示しておくことが、トラブル防止のカギ |
売り手が陥りやすい表明保証の落とし穴
千代田中央法律事務所や経済産業省の中小M&Aガイドラインでは、以下のようなトラブル事例が指摘されています。
① 内容を十分に理解しないまま署名する
中小企業では、表明保証の内容を十分に理解しないまま「弁護士に任せている」として署名してしまうケースがあります。しかし、表明保証違反の責任を負うのは売り手自身です。すべての項目について「この事実は確かに正しいか」を自分で確認してください。
② 知っている問題を開示しない
売り手が認識している問題(過去の税務調査の指摘、未解決の労務問題など)を開示せずに表明保証を行うと、クロージング後に表明保証違反として補償請求される可能性があります。「知っていたが言わなかった」は、交渉上も法的にも不利な立場に置かれます。
③ 表明保証の範囲が広すぎる契約を受け入れる
買い手側は表明保証の範囲を広くしたいと考えます。売り手としては、重大な影響がない事項について「除く」として対象外にする交渉が重要です。また、表明保証に「売り手の知り得る限り」などの限定文言(Knowledge Qualifier)を付すことも交渉テクニックの一つです。
専門家への相談をおすすめします: 表明保証の範囲・文言は、M&A後のトラブルリスクに直結します。必ずM&Aに精通した弁護士に相談し、リーガルチェックを受けてください。
表明保証の詳細な仕組みについては「M&A表明保証とは?わかりやすく解説」もあわせてご覧ください。
補償条項(Indemnity)— クロージング後のリスク管理
補償条項とは、表明保証違反や誓約事項違反によって相手方に損害が発生した場合に、その損害を金銭的に補填することを定めた条項です。 売り手にとっては「M&A成立後にどこまでの責任を負うか」を決める極めて重要な条項です。
補償条項の主な交渉ポイント
論点 | 内容 | 売り手としての交渉方向 |
|---|---|---|
補償期間 | 通常1〜3年。期間内に発覚した問題が補償対象 | 短い方が売り手に有利 |
補償上限額(Cap) | 譲渡価格の一定割合(20〜30%程度が多い) | 低い方が売り手に有利 |
最低請求額(バスケット条項) | 一定額以下の少額損害は補償対象外とする仕組み | 高い方が売り手に有利(少額の請求を排除できる) |
特別補償 | 契約時に両者が認識している個別の問題について通常より広い範囲で規定 | 対象を限定的にする交渉が必要 |
補償の実務上のポイント
クロージング後に表明保証違反が判明した場合、一般的には契約を解除するのではなく、補償条項に基づく金銭的な解決が行われます。これは、すでに会社の経営権が移転しているため、「なかったことにする」のが現実的でないからです。
売り手として押さえておくべきポイントは次の3つです。
- 補償上限額と補償期間は必ず設定する — 上限や期間の定めがないと、理論上は売り手のリスクが際限なく膨らむ
- バスケット条項を入れる — 少額の損害まで一つずつ補償請求を受けるのを防ぐ
- ディスクロージャー(事前開示)を徹底する — 事前に開示した事項は表明保証違反にならないため、補償リスクを下げられる
誓約事項(Covenants)— 契約前後の義務
誓約事項とは、SPAの契約当事者が果たすべき付随的な義務を定めた条項です。 時期によって「プレクロージング事項」と「ポストクロージング事項」の2つに分かれます。
プレクロージング事項(契約締結〜クロージングまで)
この期間に売り手に求められる主な義務は次のとおりです。
- 通常の事業運営の継続: 重要な資産処分や新規借入などを行わない
- DD検出事項への対応: デューデリジェンスで指摘された事項の是正
- 過渡期の運営方針の遵守: 買い手と合意した方針に沿った経営
- 各種手続きの実施: 許認可の申請、独禁法届出など
ポストクロージング事項(クロージング後)
クロージング後に売り手に求められる代表的な義務は以下の3つです。
① 競業避止義務
売り手が一定期間、対象会社と同じ業種・地域での事業を行わないことを約束する条項です。期間と地域の範囲を合理的に設定する必要があり、過度に広い競業避止義務は裁判で無効と判断されるリスクがあります。
② 秘密保守義務
M&Aのプロセスで知り得た情報を第三者に開示しない義務です。
③ 引継ぎ・継続サポート
売り手に一定期間の事業引継ぎ支援を求める条項が入ることがあります。
売り手の注意点: 競業避止義務の期間が長すぎる、地域範囲が広すぎる場合は、売却後の自分の活動が大きく制約されます。「何年間」「どの地域で」「何ができなくなるのか」を具体的に確認し、納得できる範囲で合意してください。
前提条件(Conditions Precedent: CP)— クロージングの「関門」
前提条件とは、クロージング(株式譲渡と代金支払いの実行)の前に充足すべき条件のことです。 前提条件が満たされない場合、原則としてクロージングは実行されません。
SPAに規定される主な前提条件は次のとおりです。
- 表明保証が真実かつ正確であること
- 誓約事項が遵守されていること
- 許認可の取得が完了していること
- 独占禁止法に基づく届出(必要な場合)が完了していること
- 担保権の解除が完了していること
- 連帯保証人の変更が完了していること
- MAC事由が発生していないこと
- 譲渡制限株式の承認手続きが完了していること
MAC条項(Material Adverse Change)とは
MAC条項は、契約締結後からクロージングまでの間に、対象会社の財務状態や経営状態に重大な悪影響を及ぼす事象が発生した場合、買い手が取引を中止できるようにする条項です。
日本のM&A実務では、MAC事由を「売り手の表明保証の対象とする方法」が多い傾向にあります(出典: 近江法律事務所)。
MAC条項から除外される事由(カーブアウト)の例:
- 一般的な経済情勢・政治情勢の変化
- 対象会社の業界全体に影響を及ぼす事由
- 法令の変更
- 戦争・テロの発生
- 当該M&A取引の公表自体による影響
売り手としては、MAC条項のカーブアウト(除外事由)の範囲を広げる交渉が重要です。カーブアウトが狭いと、売り手に責任のない事象(例: 業界全体の景気悪化)でもクロージングが中止されるリスクがあります。
価格調整・アーンアウト・エスクロー — 価格に関する重要条項
SPAには、譲渡価格に関連して以下の特殊な条項が入ることがあります。売り手にとって「実際に手元にいくら残るか」に直結するため、仕組みを正確に理解しておく必要があります。
価格調整条項
契約締結日からクロージング日までの間に生じた企業価値の変動を反映して、事後的に価格を調整する条項です。
2つの方式:
方式 | 特徴 | 売り手への影響 |
|---|---|---|
Completion Adjustment方式 | クロージング時点で価格調整を実施 | クロージング後に調整金の追加支払い・返還が発生しうる |
Locked Box方式 | クロージング時点で価格調整を行わない | 基準日以降の売り手によるリーケージ(漏出)が禁止される |
3つの調整方法:
方式 | 対象 | 特徴 |
|---|---|---|
ネット・デット方式 | 有利子負債−現金 | 簡便性が高い |
運転資本方式 | 売上債権+棚卸資産−仕入債務 | 流動資産に焦点を当てる |
純資産方式 | 総資産−総負債 | 最も包括的 |
注意: 同一の財務数値でも、ネット・デット方式と運転資本方式で調整の方向が正反対になるケースがあります。どの方式で調整するかは、売り手にとって有利・不利が変わる重要な交渉ポイントです(出典: マクサス・コーポレートアドバイザリー)。
アーンアウト条項(Earn-out)
クロージング後に一定期間(通常1〜3年)の業績目標が達成された場合、追加の対価が支払われる条項です。
売り手にとっては「売却金額の一部が業績に連動する」ということを意味します。買い手のリスクを軽減する効果がある一方、売り手にとっては確実に受け取れる金額が減る点に注意が必要です。
アーンアウト条項が入る場合は、以下を確認してください。
- 業績目標の算定基準(売上?営業利益?EBITDA?)
- 目標値の妥当性
- 目標未達の場合の取扱い
- 対象期間中の経営への関与の程度
エスクロー条項
譲渡対価の一部を第三者(エスクロー・エージェント)に預託し、一定条件の充足後に売り手へ支払う仕組みです。
買い手が将来の補償請求の実効性を確保する目的で設定されます。売り手としては、エスクローに預託される金額・期間・解放条件を確認し、手取り額と時期を正確に把握しておくことが重要です。
印紙税の取扱い — 原則として非課税
結論から言うと、株式譲渡契約書(SPA)は印紙税法上、原則として非課税です。 株式譲渡は「株式の売買」であり、印紙税法上の課税文書には該当しません。
ただし、以下の例外があります。
印紙が必要になるケース
- 契約書に代金の受領文言がある場合: 「代金を受領した」等の記載があると、第17号文書(受取書)に該当し、印紙税がかかる
- 株券発行会社で未発行の株券を新たに発行する場合
印紙税額の目安(第17号文書に該当する場合)
受取金額 | 印紙税額 |
|---|---|
5万円未満 | 非課税 |
5万円以上〜100万円以下 | 200円 |
100万円超〜500万円以下 | 600〜1,000円 |
500万円超〜1,000万円以下 | 2,000円 |
1,000万円超〜5,000万円以下 | 4,000〜10,000円 |
5,000万円超〜1億円以下 | 20,000円 |
1億円超〜5億円以下 | 40,000〜100,000円 |
5億円超〜10億円以下 | 150,000円 |
10億円超 | 200,000円 |
(出典: M&Aロイヤルアドバイザリー、CINC Capital、2026年4月確認)
電子契約なら印紙税は不要
電子契約(電子署名)でSPAを締結する場合は、法的に印紙税の課税対象外となります。M&A取引額が大きい場合、電子契約を活用することで印紙税のコストを完全に回避できます。
会社法上の手続き — 譲渡制限株式の場合
中小企業の大多数は定款で株式の譲渡制限を設けています。 そのため、M&Aで株式を譲渡する際には、会社法に基づく以下の手続きがほぼ必ず必要です。
株式譲渡の手続きの流れ
ステップ | 手続き | 根拠 |
|---|---|---|
① | 株式譲渡承認請求 | 売主が会社に対して、譲渡する株式数と譲受人を記載した書面を提出(会社法138条) |
② | 株式譲渡承認決議 | 取締役会設置会社は取締役会、それ以外は株主総会で承認。定款に別段の定めがある場合はそれに従う |
③ | SPA(株式譲渡契約書)の締結 | 売主・買主が署名・押印 |
④ | 株主名簿の書換請求 | 売主・買主が共同で会社に請求(会社法133条)。対抗要件となる |
(出典: 契約ウォッチ「株式譲渡契約書とは?」、会社法133条・138条)
売り手の注意点: 譲渡制限株式の承認が下りなければ、SPAを締結しても株式譲渡は実行できません。自社の定款で承認機関がどこか(取締役会?株主総会?)を事前に確認し、登記簿謄本でも裏取りしておくことを推奨します。
SPA締結前の売り手チェックリスト
ここまで解説した内容を踏まえ、売り手としてSPA署名前に必ず確認すべきポイントをチェックリスト形式でまとめます。
価格・支払いに関する確認
- 譲渡価格が合意した金額と一致しているか
- 支払方法(一括?分割?エスクロー?)を理解しているか
- 価格調整条項がある場合、調整方式と計算方法を把握しているか
- アーンアウト条項がある場合、目標値と期間が妥当か
表明保証に関する確認
- すべての表明保証項目について「事実として正しい」と自信を持って言えるか
- 知っている問題点は事前に開示(ディスクロージャー)したか
- 表明保証の範囲が不当に広すぎないか
- 「知り得る限り」などの限定文言は入っているか
補償条項に関する確認
- 補償期間は合理的な範囲か(一般的には1〜3年)
- 補償上限額(Cap)が設定されているか
- バスケット条項(最低請求額)が設定されているか
- 特別補償の対象は限定されているか
誓約事項に関する確認
- 競業避止義務の期間・地域・業種の範囲は納得できるか
- プレクロージング期間中の事業運営制限を理解しているか
- 引継ぎサポートの内容・期間は明確か
その他の確認
- 前提条件(CP)の充足見込みはあるか
- 譲渡制限株式の承認手続きのスケジュールは立っているか
- 弁護士によるリーガルチェックを受けたか
- 税理士に税務面の影響を確認したか
重要: このチェックリストは一般的な確認項目をまとめたものです。取引の規模・内容によって確認すべき事項は異なりますので、必ず弁護士・税理士等の専門家のアドバイスを受けてください。
ひな形・テンプレートの活用と注意点
公的機関が提供するひな形
経済産業省が策定した「中小M&Aガイドライン(第3版、2024年8月改訂)」の参考資料7に、株式譲渡契約書を含む各種契約書のサンプルが掲載されています。
中小M&Aガイドラインは中小企業のM&Aに特化した公的なガイドラインであり、2024年8月の第3版改訂では最終契約(株式譲渡契約等)におけるトラブル事例と対応策が追記されています。
参照先: 経済産業省「中小M&Aガイドライン」(2024年8月30日改訂)
ひな形利用時の3つの注意点
① ひな形はそのまま使えない
ひな形は一般的な状況を想定して作られています。表明保証・補償条項・誓約事項は取引ごとに内容が大きく異なるため、個別の取引に合わせたカスタマイズが必須です。
② 法律・規制の変更に対応しているか確認する
ひな形の作成時期によっては、その後の法改正に対応していない場合があります。使用前に最新の法令に照らして確認してください。
③ 必ず弁護士のリーガルチェックを受ける
SPAは高額取引の条件を確定させる法的文書です。ひな形をベースにしたとしても、必ずM&Aに精通した弁護士によるリーガルチェックを経てから署名してください。
株式譲渡益の税金 — 2025年以降の税制改正に注意
株式譲渡によるM&Aで売り手が受け取る対価には、株式譲渡益に対する課税が発生します。
基本的な税率
個人が株式を譲渡した場合の税率は、原則として所得税15.315%+住民税5%=合計20.315%(分離課税)です。
2025年以降の税制改正(ミニマムタックス)
2025年分以降、極めて高い水準の所得がある場合に追加課税される「ミニマムタックス」が施行されています。株式譲渡益が高額になるケースでは、従来の一律20.315%を上回り、最大で27.5%(所得税22.5%+住民税5%)の税率が適用される可能性があります(出典: 令和5年度税制改正大綱に基づく所得税法改正、2026年4月確認)。
高額な株式譲渡を検討している場合は、事前に税理士に相談し、手取り額のシミュレーションを行うことを強くおすすめします。
会社売却に伴う税金・節税対策の詳細は「会社売却の税金・節税 完全ガイド」で解説しています。M&Aの費用全体像については「M&A費用の相場と手数料ガイド」もあわせてご覧ください。
専門家への相談をおすすめします: 税務の判断は個別の状況によって大きく変わります。必ず税理士にご相談のうえ、最新の税制を確認してください。
こんなケースでSPAの理解が特に重要
以下のようなケースでは、SPAの内容が売却の成否や手取り額に大きく影響します。
SPAを特に慎重に確認すべきケース
ケース | 理由 |
|---|---|
売却額が1億円を超える | 補償上限額(Cap)の金額が大きくなり、表明保証違反時のリスクが高い |
対象会社に労務問題・税務リスクがある | 表明保証で問題が顕在化し、補償請求につながる可能性がある |
許認可が事業の根幹に関わる | 前提条件(CP)として許認可の承継が必要。承継できない許認可がある場合は取引自体が成立しないリスク |
売却後も同業で事業を行いたい | 競業避止義務の範囲が売却後の活動を大きく制約する可能性がある |
買い手がアーンアウト条項を求めている | 売却金額の一部が不確実になるため、条件を慎重に検討する必要がある |
M&A仲介会社・FAの活用を検討すべきケース
SPAは法的・財務的に高度な内容を含む契約書であり、売り手が単独で交渉・確認するのは困難です。以下のような場合は、M&A仲介会社やFA(ファイナンシャル・アドバイザー)のサポートを受けることを検討してください。
- 初めてのM&A(売却)で、プロセス全体の進め方がわからない
- SPAの条項について、自分(売り手)にとって有利な交渉ポイントを知りたい
- 弁護士・税理士等の専門家チームの手配も含めてサポートしてほしい
M&A仲介会社の選び方については「M&A仲介会社おすすめ比較(売り手向け)」で各社の手数料・特徴を比較しています。
よくある質問(FAQ)
Q. SPAと基本合意書(LOI/MOU)の違いは何ですか?
基本合意書(LOI/MOU)はM&Aプロセスの中盤で締結され、独占交渉権や秘密保持など一部の条項にのみ法的拘束力があります。一方、SPAは最終契約書であり、全条項に法的拘束力が発生します。基本合意の段階で合意した条件が、DDの結果を受けてSPAで変更されることは珍しくありません。
Q. SPAに印紙税はかかりますか?
原則として、株式譲渡契約書は印紙税の課税対象外(非課税)です。ただし、契約書に代金の受領文言がある場合は第17号文書に該当し、印紙税が発生します。電子契約で締結すれば印紙税は不要です。
Q. SPAのひな形をそのまま使っても大丈夫ですか?
ひな形をそのまま使うことはおすすめしません。表明保証・補償条項・誓約事項は取引ごとに内容が異なるため、個別のカスタマイズが必須です。経済産業省の「中小M&Aガイドライン」にサンプルがありますが、必ず弁護士のリーガルチェックを受けてください。
Q. 表明保証に違反した場合はどうなりますか?
クロージング後に表明保証違反が発覚した場合、補償条項に基づいて売り手が買い手に対して金銭的な損害補填を求められるのが一般的です。補償の上限額・期間はSPAで定められます。違反が重大な場合は、クロージング前であれば契約解除となる可能性もあります。
Q. SPAの契約書は何年間保管する必要がありますか?
法人の場合は7年間、個人で確定申告に使用した場合は5年間の保管が必要です。M&Aは高額取引であり、税務調査への対応を考えると、保管期間を超えてもすぐに廃棄せず、長期保管しておくことをおすすめします。
Q. 中小企業のM&Aでも価格調整条項は入りますか?
必ずしも入るとは限りません。中小M&A案件では、価格調整条項を入れずに固定価格でクロージングするケースも多くあります。価格調整条項を入れるかどうかは、取引の規模や複雑性、売り手・買い手の協議によって決まります。
まとめ
SPA(株式譲渡契約書)は、M&Aにおいて売り手・買い手の権利義務を最終的に確定させる、最も重要な契約書です。
売り手として特に押さえるべきポイントを改めて整理します。
- 表明保証は最も注意すべき条項。 すべての項目を自分で確認し、知っている問題は必ず事前に開示する
- 補償条項では上限額・期間を必ず設定する。 バスケット条項の有無も確認
- 競業避止義務の範囲は、売却後の活動に直結する。 期間・地域・業種を具体的に確認
- SPAの内容は弁護士のリーガルチェックが必須。 ひな形のまま使わない
- 2025年以降のミニマムタックスにより、高額譲渡益の税率が変わる可能性がある。 税理士に事前確認を
M&Aによる会社売却を成功させるには、SPAの内容を「理解したうえで署名する」ことが大前提です。信頼できるM&A仲介会社やFA、そして弁護士・税理士等の専門家チームのサポートを受けて、納得のいく取引を実現してください。
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