第三者への事業承継(M&A)完全ガイド|売り手オーナーが知るべき流れ・費用・注意点【2026年版】
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第三者への事業承継(M&A)完全ガイド|売り手オーナーが知るべき流れ・費用・注意点【2026年版】

後継者不在でも大丈夫。第三者への事業承継(M&A)の流れ・費用相場・リスク・仲介会社の選び方を売り手視点で徹底解説。中小M&Aガイドライン第3版・2027年税制変化にも対応。

M&A比較レビュー編集部2026/5/2911分で読める

「子どもには継がせたくない」「役員も引き受けてくれない」——後継者問題に直面する中小企業オーナーが取れる選択肢の中で、近年最も注目されているのが第三者へのM&A(会社売却)による事業承継です。

帝国データバンクの調査(2025年11月公表)によると、中小企業の後継者不在率は依然として51.2%と高水準が続いています。一方、第三者承継の成約件数は2015年比で約10倍に増加しており、「後継者がいない=廃業」という時代は終わりつつあります。

この記事は会社を売る側(売り手オーナー)の視点に特化した完全ガイドです。

この記事でわかること:

  • 第三者承継(M&A)の定義と、親族内承継・社内承継との違い
  • 相談開始からクロージングまでの全ステップ(9段階・期間の目安付き)
  • 売り手のメリット7つ・リスク8つの具体的な内容
  • 費用・手数料の相場と計算方法(2026年版)
  • M&A前にやるべき「磨き上げ」の具体チェックリスト
  • 信頼できる仲介会社の見分け方(中小M&Aガイドライン第3版対応)
  • 2027年以降の税制変化(ミニマムタックス)が売り手に与える影響

対象読者: 親族・社員に後継者候補がなく、会社を第三者に売却して事業承継を検討しているオーナー社長の方。

第三者への事業承継(M&A)とは何か

第三者への事業承継(M&A)とは、親族・役員・従業員以外の「社外の第三者(企業や個人)」に対し、株式譲渡・事業譲渡・会社分割などのM&Aスキームを使って会社または事業を引き継ぐ手法です。

事業承継には大きく3つの方法があります。

手法

概要

後継者候補

向いている状況

親族内承継

子・配偶者・親族に引き継ぐ

親族

意欲ある後継者がいる

社内承継(MBO・EBO)

役員・従業員に引き継ぐ

社内人材

経営を任せられる社員がいる

第三者承継(M&A)

社外の第三者企業・個人に引き継ぐ

第三者

後継者がいない、売却益を得たい

第三者承継は以前「後継者候補が誰もいない場合の最後の手段」と捉えられることもありましたが、現在では創業者利益(売却益)の獲得事業の成長加速を目的に積極的に選ぶオーナーが増えています。

事業承継全体の概要は「事業承継とは|3つの方法・メリット・公的支援を総合解説」で詳しく解説しています。

後継者不在50%超——第三者承継が急増する2026年の背景

後継者不在率の推移と第三者承継の急増背景

帝国データバンク「全国後継者不在率動向調査(2025年11月21日公表)」によると、2025年の後継者不在率は50.1%(中小企業に限ると51.2%)。7年連続で改善中とはいえ、依然として中小企業の2社に1社で後継者が見つかっていない状況です。

こうした背景のなか、事業承継・引継ぎ支援センター(各都道府県設置の公的機関)経由の第三者承継成約件数は2024年度に過去最高を更新し、2024年実績は約2,132件(2015年の209件から約10倍)となりました(出典: 中小企業庁)。

第三者承継が急増している主な理由:

  • 「団塊世代が全員75歳以上」となる2025年問題の現実化
  • M&A仲介インフラ(仲介会社・プラットフォーム)の整備拡充
  • 中小M&Aガイドライン整備による手続きの透明化・標準化
  • 廃業による地域経済への影響に対する危機意識の高まり

また2025年の日本全体のM&A取引総額は20兆3,870億円で過去最高水準を更新しています(出典: Houlihan Lokey「日本M&A市場の最新動向〜2025年の総括」)。

第三者承継(M&A)の全ステップ——相談からクロージングまでの9段階

第三者への事業承継M&Aの全9ステップフロー図

相談開始からクロージングまでの目安は6ヶ月〜2年程度です。事前の磨き上げ期間を含めると、準備開始から数年に及ぶことも少なくありません。

Step 1:相談・専門家選定(数週間〜数ヶ月)

M&A仲介会社・FA(財務アドバイザー)・事業承継・引継ぎ支援センターへの相談から始まります。複数社への相見積もり・比較が重要で、この段階で手数料体系・担当者の実績・秘密保持のルールを確認します。

Step 2:企業価値評価・磨き上げ(1〜12ヶ月)

バリュエーション(企業価値評価)で売却可能な価格帯を把握します。同時に磨き上げ(Value Enhancement)として、財務・事業・法務面の整備を行います。詳細は後述の「M&A前の準備」セクションを参照してください。

Step 3:ノンネームシート作成・候補先探索(1〜3ヶ月)

企業名を伏せた匿名概要書(ノンネームシート)を作成し、仲介会社が候補先に打診します。この段階では社名が開示されないため、情報漏洩のリスクを最小限に抑えられます。

Step 4:秘密保持契約(NDA)締結・企業概要書(IM)開示(1〜2ヶ月)

候補先が関心を示した場合、秘密保持契約(NDA)を締結したうえで、より詳細な情報を記載した企業概要書(IM)を開示します。

⚠️ 社名の開示(ネームクリア)前に売り手の同意が必要です。中小M&Aガイドライン第3版(2024年8月)で事前同意なしのネームクリアは禁止されています。

Step 5:トップ面談(1〜3ヶ月)

売り手経営者と買い手候補のトップが直接会って話す場です。将来の経営方針・従業員の処遇・企業文化についての確認が行われます。「人として信頼できるか」という相性の確認も重要な判断材料です。

Step 6:意向表明書(LOI)受領・基本合意契約(MOU)締結(1〜2ヶ月)

買い手が条件を提示する意向表明書(LOI)を受領し、価格・スキーム・従業員処遇などを交渉して基本合意書(MOU)を締結します。この段階で通常独占交渉権が発生し、他の買い手との並行交渉ができなくなります。

Step 7:デューデリジェンス(DD)(1〜3ヶ月)

買い手側が財務・法務・税務・ビジネス・人事・ITなどの分野で詳細調査を行います。売り手には多量の資料提出・説明対応が求められ、かなりの負担になります。簿外債務やリスクが発覚した場合は価格引き下げ交渉が発生することもあります。

Step 8:最終契約締結・クロージング(1〜2ヶ月)

最終譲渡契約書(SPA)を締結し、株式または事業の権利移転・代金決済を行います。行政手続き・登記変更もこの段階で行います。

Step 9:PMI(経営統合)とロックアップ期間(クロージング後)

クロージング後はPMI(Post-Merger Integration)フェーズに入ります。従業員・取引先・金融機関への説明と業務プロセスの統合が進みます。前経営者には1〜3年のロックアップ期間として経営サポートが求められることが一般的で、この期間は競合事業の立ち上げが制限されます。

ステップ

所要期間の目安

相談・専門家選定

数週間〜数ヶ月

企業価値評価・磨き上げ

1〜12ヶ月

ノンネームシート・候補先探索

1〜3ヶ月

NDA締結・IM開示

1〜2ヶ月

トップ面談

1〜3ヶ月

基本合意(MOU)締結

1〜2ヶ月

デューデリジェンス(DD)

1〜3ヶ月

最終契約・クロージング

1〜2ヶ月

合計目安

6ヶ月〜2年

売り手オーナーが得られる7つのメリット

第三者承継(M&A)を選ぶオーナーにとって、複数のメリットが同時に実現できる点が大きな魅力です。

① 後継者問題の完全解決
親族・社内に後継者がいない場合でも、会社・事業を継続させることができます。廃業・清算と比べ、従業員・取引先・地域社会への悪影響を最小化できます。

② 従業員の雇用・処遇維持
M&Aでは従業員の雇用継続が引き継ぎ条件に含まれることが一般的です。人員整理なしに既存チームをそのまま維持できる可能性が高い点は、廃業との大きな違いです。

③ 創業者利益(売却益)の獲得
株式売却によるまとまった現金の獲得が第三者承継最大の特長のひとつです。親族内承継では通常こうした「現金化」が難しいため、引退後の生活資金・次の事業資金の確保を目的に積極的に選ぶオーナーも少なくありません。

④ 個人保証・連帯保証の解除
多くの中小企業オーナーが金融機関に提供している個人保証を、M&Aのクロージング時に交渉次第で解除できる機会が生まれます。ただし金融機関の判断に委ねられるため、事前交渉が不可欠です。

⑤ 事業の成長加速
買い手企業のリソース(資金・ネットワーク・技術・人材)を活用することで、単独では困難だった事業成長が見込めます。

⑥ 既存取引先・顧客との関係継続
廃業と異なり、既存の顧客・取引先との関係をそのまま継続できます。

⑦ 地域経済・社会への貢献継続
地域に根ざした事業を廃業させず継続させることは、地域の雇用・産業維持にもつながります。

売り手が直面するリスク・デメリット

メリットが多い一方、第三者承継には固有のリスクがあります。事前に把握し、対策を講じておくことが重要です。

① 情報漏洩リスク
M&Aを検討していることが従業員や取引先に漏れると、「会社が売られる」という不安から従業員が離職したり、取引先が関係を見直す可能性があります。ノンネームシートの徹底活用と、ネームクリア前の売り手同意(ガイドライン第3版で義務化)が不可欠です。

② 希望価格での売却が難しいケースがある
企業価値評価は買い手の視点で行われるため、オーナーが期待する価格と乖離が生じることがあります。特定顧客への依存度が高い会社や、オーナー個人の属人的スキルに依存した事業は評価が低くなりやすいです。

③ 交渉・手続きに時間がかかる
相談からクロージングまで6ヶ月〜2年を要します。本業の経営と並行してM&Aプロセスに対応する負担は相当なものになります。

④ 経営方針・文化の変化
売却後は経営権が買い手に移るため、以前の経営方針・社風を維持できない場合があります。「自分の会社ではなくなる」という心理的な準備も必要です。

⑤ ロックアップ条項による制約
成約後一定期間(通常1〜3年)、前経営者が競合事業を立ち上げることを禁じるロックアップ条項が設けられることが一般的です。次のビジネス計画に影響します。

⑥ 経営者保証が解除されない可能性
金融機関が保証解除に応じない場合、クロージング後も保証が残ります。M&Aプロセス開始前から金融機関との交渉を始めておくことが重要です。

⑦ 表明保証(レプ&ワランティ)補償リスク
最終契約後に簿外債務や未開示のリスクが判明した場合、売り手が補償義務を負うことがあります。事前の法務・会計整備とM&A専門の弁護士・会計士への相談で対策できます。

⑧ 適切な買い手が見つからないリスク
業種・規模・事業特性によっては希望に合う買い手が見つからないこともあります。複数の仲介会社に当たること、マッチしない相手は断る判断も大切です。

M&Aにかかる費用・手数料の相場(2026年版)

M&A仲介手数料レーマン方式の計算方法図解

売り手が仲介会社・FAに支払う手数料の一般的な市場相場です(2026年5月現在)。

手数料の種類

種類

相場

備考

着手金

無料〜200万円程度

近年は無料化傾向。複数社比較の際の重要な確認ポイント

中間金

無料〜成功報酬の10〜20%

基本合意(MOU)締結時に発生するケースが多い

成功報酬

取引金額の1〜5%(レーマン方式)

最低報酬1,000万〜2,000万円を設定している会社が多い

レーマン方式による成功報酬の計算例

成功報酬は取引金額が大きいほど料率が下がるレーマン方式で計算されることが一般的です(各社で料率・区分が異なります)。

取引金額の区分

料率の目安

5億円以下の部分

5%

5億円超〜10億円以下

4%

10億円超〜50億円以下

3%

50億円超〜100億円以下

2%

100億円超

1%

計算例: 売却金額3億円の場合 → 3億円 × 5% = 成功報酬1,500万円(目安)

⚠️ 重要な注意点:

  • 上記は一般的な市場相場の目安であり、各社の正式な料金は必ず個別に確認してください。
  • 「株式譲渡価額」ではなく「移動総資産(負債込み)」を計算基準に採用する仲介会社では、同じ条件でも実質費用が高くなるケースがあります。契約前に計算式を明確に確認することが必須です。
  • 最低報酬(ミニマムフィー)が設定されている場合、売却金額が小さくても最低限の費用が発生します。

2024〜2026年の手数料動向

  • 中小M&Aガイドライン第3版(2024年8月)により、手数料の透明性説明が義務化
  • 売り手への完全成功報酬制(着手金・中間金なし)を採用する仲介会社が増加
  • M&Aプラットフォーム(バトンズ等)ではさらに低コストな体系も登場

出典: 中小企業庁「中小M&Aガイドライン第3版(2024年8月)」

費用の詳細な内訳・計算例は「M&A仲介手数料の相場・計算方法ガイド【2026年版】」で解説しています。

株式譲渡 vs 事業譲渡:スキームの選択

第三者承継で使われる主なスキームは株式譲渡事業譲渡です。どちらを選ぶかは売り手・買い手の税務・法務状況によって異なります。

比較項目

株式譲渡

事業譲渡

概要

会社の株式を買い手に譲渡

特定の事業・資産を買い手に売却

売り手の税率

株式譲渡所得(現行20.315%)

事業所得または譲渡所得(実効税率35〜40%超のケースも)

手続きの複雑さ

比較的シンプル

個別の資産移転・契約変更が必要

リスクの引き継ぎ

会社のすべての権利義務を引き継ぐ

選択した事業・資産のみ移転

許認可

そのまま引き継がれる

再取得が必要なケースが多い

従業員

会社ごと引き継がれる

雇用契約を個別に移転

中小企業での選択傾向

◎ 大多数

△ 一部の事業切り出しケース

一般的に中小企業の第三者承継では株式譲渡が多く選ばれます。ただし最適なスキームは個々の状況(財務状態・許認可・税務・個人資産の分離度)によって異なるため、税理士・弁護士への事前相談が必須です。

詳細な比較は「株式譲渡 vs 事業譲渡:売り手オーナーのスキーム選び完全比較」を参照してください。

M&A仲介会社 vs FA(財務アドバイザー)の違い

事業承継M&Aを進める際、仲介会社FA(財務アドバイザー)のどちらを使うかも重要な判断です。

比較項目

M&A仲介会社

FA(財務アドバイザー)

立場

売り手・買い手の双方の橋渡し

売り手専属(または買い手専属)

費用負担

売り手・買い手双方から成功報酬

依頼側(売り手)のみから報酬

利益相反

あり(双方代理)。ガイドラインで制限強化

なし(一方代理)

成約スピード

比較的早い傾向(広いネットワーク活用)

やや時間がかかる傾向

売却価格の最大化

双方の利益調整が入る

売り手利益を最大化しやすい

向いているケース

中小企業の友好的M&A・速やかな成約希望

大型案件・売却価格の最大化を優先したい場合

中小企業向けM&Aでは仲介会社の利用が多数派です。ただし、売却額が大きくなる場合や「できるだけ高く売りたい」という強い希望がある場合はFAの活用も検討する価値があります。

⚠️ 仲介会社の利益相反リスクに注意: 仲介会社は売り手・買い手の両方に手数料を請求します。中小M&Aガイドライン第3版では、リピーター買い手への不当な優遇や譲渡額の意図的な低誘導が明示的に禁止されましたが、売り手としてこのリスクを認識したうえで担当者と向き合うことが重要です。

信頼できる仲介会社の選び方——中小M&Aガイドライン第3版のポイント

中小M&Aガイドライン第3版の売り手向け重要ポイント

中小企業庁は2024年8月30日に「中小M&Aガイドライン(第3版)」を策定・公表しました。このガイドラインは仲介会社・FAが守るべき行動規範を定めており、売り手が権利を主張するための根拠になります。

中小M&Aガイドライン第3版で売り手が知っておくべき主な変更点

  1. 手数料の透明性説明が義務化
    契約締結前に、手数料の算定基準・提供業務・担当者の経験・成約実績等を具体的に説明する義務が生じました。
  2. 広告・営業の停止権
    売り手が希望すれば即座に広告・営業活動を停止させる権利があります。
  3. ネームクリアの事前同意義務化
    社名の開示前に売り手の事前同意が必要です。無断開示は禁止。
  4. テール条項の明確化
    契約終了後に成約した場合の手数料発生条件が厳格化されました。
  5. 経営者保証の解除手続きの明記
    M&Aを通じた個人保証の解除・移行の手続きを最終契約に位置付けることが明記されました。
  6. 不適切な買い手の排除義務
    仲介会社に買い手側の適切性を調査・報告する義務が設けられました。

出典: 中小企業庁「中小M&Aガイドライン」(https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/m_and_a_guideline.html

仲介会社を選ぶ際に確認すべき5つの質問

  1. 手数料の計算基準は何か(株式譲渡価額基準か、移動総資産基準か)
  2. 担当者の経験・成約実績はどの程度か(何年目のコンサルタントが担当するか)
  3. 完全成功報酬制か、着手金・中間金があるか
  4. 専任契約か非専任契約か、テール条項はどうなっているか
  5. ネームクリア・情報開示のルールはどうなっているか

M&A支援機関登録制度を活用する

中小企業庁は2021年から「M&A支援機関登録制度」を導入しています。2026年2月20日時点で登録支援機関数は3,235件(出典: 中小企業庁)。登録機関はガイドライン遵守を宣言しており、初回相談先の目安になります。

仲介会社の詳細比較・選び方は「M&A仲介会社おすすめ比較【2026年版】」を参照してください。

M&A前の準備「磨き上げ」でやるべきこと

磨き上げとは、M&Aプロセスに入る前に自社の企業価値を高め、売却をスムーズに進めるための事前準備です。M&A開始の6ヶ月〜1年前から着手することを推奨します。

磨き上げを行うと、企業価値評価が上がり高い売却価格につながるだけでなく、デューデリジェンス(DD)の負担が軽くなり、買い手候補も増えやすくなります。

財務面の磨き上げチェックリスト

  • 不採算部門・遊休資産の整理・売却
  • 役員報酬の適正化(高すぎる役員報酬の是正)
  • 個人的な経費と会社経費の明確な切り分け
  • 借入金の計画的な圧縮
  • 棚卸資産・売掛金の整理

事業面の磨き上げチェックリスト

  • 特定顧客への依存度の分散(1社依存50%超は要注意)
  • 主要人材の定着施策(キーパーソンの流出防止)
  • 許認可・特許・知的財産権のリスト整備・更新
  • 重要契約の確認(チェンジオブコントロール条項の有無)
  • 売上・利益の見える化(管理会計の整備)

法務・コンプライアンス面の磨き上げチェックリスト

  • 未解決の労務問題(未払い残業・ハラスメント等)の解消
  • 未登記不動産の登記整備
  • 株主名簿・定款・議事録の整備
  • 個人資産と会社資産の明確な分離

出典: 中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)」(https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/shoukei_guideline.pdf

売却にかかる税金——2027年ミニマムタックス問題

⚠️ 重要: 以下は一般的な解説です。個別の税務判断は必ず税理士にご相談ください。

現行の株式譲渡所得税率(2026年5月現在)

個人オーナーが株式を譲渡して得た利益(株式譲渡所得)には、現行20.315%(所得税15.315%+住民税5%)の分離課税が適用されます。

計算例: 売却益1億円の場合 → 税額目安は約2,031万円

2027年以降に予定されるミニマムタックスの影響

2026年度税制改正では、2027年(令和9年)分以降にミニマムタックス(防衛特別税・復興特別税の見直し)が施行される予定です。特別控除額の引き下げ(1.65億円)・乗率の引き上げ(30%)により、売却益が数億円を超える大型案件では、実質的な税負担が現行の20.315%を上回る可能性があります。

出典: マクサス・コーポレートアドバイザリー「2026年度税制改正速報ミニマムタックス」(https://maxus.co.jp/columns/10678

売り手への示唆: 数億円規模の大型売却を検討中のオーナーは、2026年中のクロージングを選択肢として検討する価値があります。ただし、実際の税負担は個人の課税状況・売却スキームによって大きく異なるため、税理士に具体的な試算を依頼することが前提です。

事業承継特例税制(親族内承継用)との関係

なお、贈与税・相続税の猶予・免除が受けられる事業承継特例税制(特例承継計画の提出期限: 2027年12月31日)は、原則としてM&A(第三者承継)では対象外です。「特例を使うか、M&Aに切り替えるか」の最終判断が必要な時期に来ています。

出典: 国税庁「事業承継税制特集」(https://www.nta.go.jp/publication/pamph/jigyo-shokei/index.htm

税金の詳細は「事業承継の税金・節税対策ガイド【2026年版】」で解説しています。

公的支援・補助金の活用

事業承継・引継ぎ支援センター(無料相談)

各都道府県に設置されている公的機関で、無料で第三者承継(M&A)の相談ができます。専門家の紹介も受けられるため、M&Aを検討し始めた段階での初回相談先として最適です。

  • 対象: 中小企業・小規模事業者のオーナー
  • 費用: 相談は無料(専門家へ繋ぐ場合は別途費用が発生する場合あり)
  • 窓口: 各都道府県の商工会議所・中小企業支援センター等

事業承継・M&A補助金(参考:14次公募)

中小企業庁が実施する補助金制度で、M&A仲介手数料・デューデリジェンス費用・PMI費用等の一部を補助します。

支援枠

内容

専門家活用枠

M&A仲介手数料・DD費用等を補助

PMI推進枠

M&A後の統合コストを補助

事業承継促進枠

引き継いだ経営資源を活用した設備投資等

廃業・再チャレンジ枠

廃業費用の補助

⚠️ 2026年5月現在の状況: 14次公募は2026年4月3日に締め切り済みです。次回公募(15次)の詳細は公式サイト(https://shoukei-mahojokin.go.jp/)でご確認ください。

出典: 中小企業庁「事業承継・M&A補助金 14次公募」(https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/hojyokin/kobo/2026/260130001.html

こんな会社に向いている/おすすめしない企業の特徴

第三者承継(M&A)が特に向いている会社

状況

理由

親族・役員・社員に後継者候補がいない

後継者不在問題の根本的解決になる

廃業させたくない、雇用を守りたい

M&Aで事業継続・雇用維持が実現できる

引退後の資金を確保したい

株式売却で創業者利益を得られる

個人保証(連帯保証)を外したい

M&Aで保証解除を交渉できる機会になる

事業をさらに成長させたい

買い手のリソースを活用した発展が期待できる

業績が良い時期・売り時に売りたい

企業価値が最大化した局面での売却が可能

オーナーの健康・年齢的な問題がある

準備期間が短くても対応できる仲介会社がある

第三者承継よりも他の手法が向いている可能性がある会社

状況

より向いている手法

意欲ある後継者候補が親族・社内にいる

親族内承継・社内承継(MBO/EBO)

経営理念・ブランドを100%引き継ぎたい

親族内承継

支配権・経営権を手放したくない

親族内承継・社内承継

事業規模が極端に小さい(年商1,000万円未満等)

M&Aプラットフォーム(バトンズ等)の活用

自社の評価額が低く、買い手が見つかりにくい

まず事業承継・引継ぎ支援センターに無料相談

迷っている場合は、まず事業承継・引継ぎ支援センター(無料)またはM&A仲介会社の無料相談を活用して、自社の状況を第三者の目で評価してもらうことをお勧めします。

よくある失敗パターンと対策

失敗パターン①:情報漏洩による従業員・取引先の動揺

原因: ノンネームシートの段階で特定できる情報が記載されていた、関係者への事前説明なしに情報が広まった

対策: 社名・業種・地域をぼかしたノンネームシートの徹底管理。ネームクリア前の売り手同意(ガイドライン第3版で義務化)を確認する。

失敗パターン②:表明保証違反による補償請求

原因: クロージング後に判明した未処理の訴訟リスク・未払い労務費等に対し補償を求められた

対策: M&A弁護士・公認会計士を活用した事前の法務・財務整備。表明保証保険(W&I保険)の活用検討。

失敗パターン③:経営者保証が解除されなかった

原因: クロージング後も金融機関が保証解除に応じなかった、事前交渉が不十分だった

対策: M&Aプロセス開始前から金融機関との交渉を開始する。クロージング条件に保証解除を含めることを交渉する。

失敗パターン④:希望価格より大幅に低い売却になった

原因: 磨き上げ不足、特定顧客依存度が高い事業構造、オーナー依存型の経営

対策: 十分な準備期間を確保した磨き上げ。複数の仲介会社への相見積もりで相場感を把握する。

失敗パターン⑤:PMI後の従業員離職・事業悪化

原因: 企業文化・経営方針の急激な変化、前経営者のサポートが不十分

対策: トップ面談での文化的適合性の確認を重視する。ロックアップ期間中の前経営者のサポート体制を契約で明確化する。

よくある質問(FAQ)

Q1. 後継者不在で廃業も検討しているが、M&Aと廃業のどちらがよいか?

事業収益力が残っている段階であれば、一般的にはM&Aのほうが廃業(清算)よりも得られる価値は大きくなります。廃業では残余財産の分配のみですが、M&Aでは事業継続価値を含めた評価が受けられます。まず事業承継・引継ぎ支援センター(無料)に相談し、売却可能性を確認することをお勧めします。

Q2. 会社の規模が小さくても(年商数千万円)M&Aは現実的か?

現実的です。近年はM&Aプラットフォーム(バトンズ等)や小規模案件に強い仲介会社も増えており、小規模での成約事例は多数あります。ただし最低報酬を設けている大手仲介会社では費用対効果が合わない場合もあるため、自社の規模・条件に合った仲介会社・方法を選ぶことが重要です。

Q3. M&Aの検討を始めたことが従業員に知られないか?

適切に進めれば、ノンネームシートの段階では社名は伏せられます。ただし完全なリスクゼロは難しいため、情報管理の徹底と、成約後の従業員への適切な説明計画の準備が重要です。

Q4. 仲介会社との契約で特に注意することは?

主に以下の点を必ず確認してください。①手数料の計算基準(株式価額か移動総資産か)、②専任・非専任の区別、③テール条項の内容(契約終了後の成約に手数料が発生するか)、④解約条件。中小M&Aガイドライン第3版では契約前の説明義務が強化されているため、不明点は遠慮なく質問してください。

Q5. 第三者承継(M&A)と親族内承継の税金はどちらが有利か?

一概には言えません。株式譲渡の場合、現行税率は20.315%ですが、親族内承継で使える事業承継特例税制(贈与税・相続税の猶予・免除)は第三者承継では原則適用外です。一方、第三者承継では売却益という現金が手元に入ります。個人の税務状況・売却規模・希望する承継後の関わり方等を含めて、税理士に総合的な試算・相談をすることをお勧めします。

Q6. M&Aの相談を始めるのに適した時期は?

「売ろうかと思い始めた」段階でも相談は可能です。ただし磨き上げ期間(6ヶ月〜1年)を含めると、希望引退時期の1〜3年前から動き始めることを推奨します。業績が良い時期・オーナーが元気な時期に動き始めることで交渉力が高まり、好条件での売却につながりやすくなります。

まとめ:第三者への事業承継(M&A)を成功させる5つのポイント

  1. 早めに動く — 業績が良い時期・オーナーが健康なうちに準備を始める
  2. 磨き上げに時間をかける — M&A開始の6ヶ月〜1年前から財務・事業・法務を整備する
  3. 複数の仲介会社に相談する — 相見積もりで費用・担当者・方針を比較する
  4. 中小M&Aガイドライン第3版の内容を把握し、権利を主張する — 手数料の透明性・ネームクリアの事前同意等は売り手の権利
  5. 税務・法務の専門家(税理士・弁護士)と連携する — 特に大型案件は2027年税制変化も考慮して早めに計画する

会社売却の具体的な流れは「M&A売却の流れ・タイムライン完全ガイド」でもまとめています。仲介会社の比較・選び方は「M&A仲介会社おすすめ比較【2026年版】」を参考にしてください。

⚠️ 免責事項: 本記事に含まれる税金・費用・法律に関する情報は一般的な解説であり、個別の判断の根拠になるものではありません。実際のM&A・事業承継の進め方については、税理士・弁護士・公認会計士等の専門家にご相談ください。

数値・制度情報の確認日: 2026年5月30日

主要出典: 帝国データバンク「全国後継者不在率動向調査(2025年11月公表)」、中小企業庁「中小M&Aガイドライン第3版(2024年8月)」、中小企業庁「事業承継・M&A補助金 14次公募」

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