M&Aと独占禁止法・企業結合審査とは?届出基準・審査期間・中小企業への影響を解説
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M&Aと独占禁止法・企業結合審査とは?届出基準・審査期間・中小企業への影響を解説

M&Aで公正取引委員会への届出が必要になるのは、買い手グループの国内売上高が200億円超のときが基本です。スキーム別の届出基準、30日の禁止期間、令和7年度の最新統計まで、売り手オーナー向けに整理しました。

M&A比較レビュー編集部2026/7/912分で読める

M&Aで公正取引委員会への事前届出が必要になるのは、原則として「買い手の企業結合集団の国内売上高合計額が200億円を超える」場合です。 そのため、年商数千万〜数十億円規模の会社を売却する多くのケースでは、届出は不要になります。

ただし、「届出が不要」であることと「独占禁止法の適用を受けない」ことは別の話です。届出義務がなくても公正取引委員会が審査に入るケースは実在し、その件数は近年増えています。

この記事でわかること:

  • 自社のM&Aで公正取引委員会への届出が必要かどうかの判定手順
  • 株式取得・合併・分割・事業譲受けなど、スキーム別の届出基準金額
  • 届出後のスケジュール(30日の禁止期間・第1次審査・第2次審査)
  • 届出が不要でも独占禁止法の適用は受けるという事実
  • 令和7年度(2025年度)の最新統計(届出458件・第2次審査1件)
  • 違反した場合に何が起きるか

この記事は、会社の売却を検討している中小企業のオーナー経営者、および買い手候補に大手企業やファンドが挙がっていて審査リスクを把握しておきたい方に向けて書いています。

注意: 本記事は制度の一般的な解説であり、法的助言ではありません。個別のM&A案件で届出義務の有無や審査リスクを判断する際は、必ず独占禁止法に詳しい弁護士にご相談ください。

M&Aで独占禁止法が問題になるのはどんなときか

独占禁止法がM&Aに関わるのは、その企業結合によって「市場の競争が実質的に制限されることになるかどうか」という一点です。会社の売買そのものが規制されているわけではありません。

独占禁止法の企業結合規制は、大きく2つに分かれます。

規制の種類

何を防ぐか

主な条文

市場集中規制

特定の市場(一定の取引分野)で競争が実質的に制限されること

第10条・第15条・第15条の2・第15条の3・第16条

一般集中規制

特定の企業グループに事業支配力が過度に集中すること

第9条・第11条

M&Aの実務で問題になるのは、ほぼすべてが市場集中規制のほうです。行為の類型ごとに根拠条文が分かれています。

行為類型

根拠条文

株式取得

独占禁止法 第10条

合併

第15条

分割

第15条の2

共同株式移転

第15条の3

事業等の譲受け

第16条

出典: 企業結合|公正取引委員会(確認日 2026-07-10)

中小企業の売り手にとっての実際の意味

同じ市場で大きなシェアを持つ会社同士が結びつくと、価格が上がったり選択肢が減ったりする — 独占禁止法が警戒しているのはこの状況です。

年商数億円の会社を売却する場合、その会社が国内市場で大きなシェアを持っていることは通常ありません。したがって、独占禁止法が直接の障害になる場面は限られます。

問題になりうるのは、次のようなケースです。

  • 買い手が同業の大手企業で、買収によって業界内のシェアが大きく積み上がる
  • 買い手がすでに同業他社を複数買収しており、いわゆるロールアップ戦略の一環である
  • 買い手が売上高200億円を超える企業グループ(大手事業会社・上場企業・大型ファンドの傘下企業など)である

つまり、審査リスクは「売り手の規模」ではなく「買い手の規模と市場ポジション」で決まるというのが実務上の勘所です。

企業結合審査とは — 何を審査されるのか

市場における企業結合が競争に与える影響を示した図解

企業結合審査とは、公正取引委員会が、株式取得・合併・分割・共同株式移転・事業譲受けなどの企業結合について、「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるか」を審査する制度です。 制限することとなると判断された企業結合は、独占禁止法上禁止されます。

キーワードは「一定の取引分野」と「競争の実質的制限」の2つです。

  • 一定の取引分野: いわゆる「市場」のこと。商品の範囲(どこまでを代替品とみなすか)と地理的範囲(全国か、特定地域か)で画定される
  • 競争の実質的制限: その市場で、当事会社が価格や供給量をある程度自由に左右できる状態が生まれること

企業結合の3つの類型

公正取引委員会の運用指針では、企業結合を次の3類型に分けて分析します。競争への影響の見方が類型ごとに異なるためです。

類型

当事者の関係

競争上の主な懸念

水平型

同一市場の競争者同士

同業のドラッグストア同士の統合

シェアの単純合算による市場支配力

垂直型

サプライチェーンの上流と下流

部品メーカーと完成品メーカー

競争者への供給拒否・購入拒否(市場閉鎖)

混合型

上記以外

隣接市場・異業種の組み合わせ

潜在的競争の消滅、抱き合わせ

出典: 企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針|公正取引委員会(確認日 2026-07-10)

もっとも審査が厳しくなるのは水平型です。中小企業のM&Aは同業者に売却するケースが多く、形式上は水平型に該当しますが、後述するセーフハーバー基準に照らせば、シェアが小さい限り問題視されることはほぼありません。

【判定手順】自社のM&Aで公正取引委員会への届出は必要か

M&Aで公正取引委員会への届出が必要かを判定する手順を示した図解

届出義務があるかどうかは、次の順序で確認していきます。ここが本記事の中心です。

ステップ1: 買い手グループの国内売上高は200億円を超えるか

すべての届出基準に共通する第一関門が、買い手側の「企業結合集団の国内売上高合計額が200億円超」という条件です。

  • 企業結合集団とは、「会社の究極親会社およびその子会社から成る集団」を指します。孫会社も含まれます
  • 国内売上高合計額は、その集団に属する会社等の国内売上高を合計した額です。連結財務諸表の「本邦に係る売上高」を転用することもできます

出典: 企業結合に関する届出制度Q&A|公正取引委員会(確認日 2026-07-10)

ここが200億円以下であれば、株式取得・合併・分割・共同株式移転・事業譲受けのいずれについても、事前届出は不要です。買い手が中小企業や個人、小規模なファンドであれば、この段階で判定は終わります。

よくある誤解: ウェブ上の解説記事や自動翻訳された資料では、この「200億円」が「2,000億円」と誤記されている例が複数見つかります。公正取引委員会の公式ページで確認した正しい基準額は200億円超です。

ステップ2: スキームごとの基準に当てはまるか

買い手グループが200億円を超えている場合、次はスキーム(M&Aの手法)ごとの基準を見ます。ここでスキームによって基準額が変わる点が重要です。

  • 株式譲渡(株式取得)なら、売り手側の国内売上高が50億円超かどうか
  • 事業譲渡・会社分割なら、対象部分の国内売上高が30億円超かどうか

同じ会社を売る場合でも、株式譲渡なら届出不要、事業譲渡なら届出必要、ということが理論上は起こりえます。詳しい基準は次章の一覧表で確認してください。

ステップ3: 届出基準を満たさなくても、買収対価が400億円を超えないか

ステップ1・2で「届出不要」となっても、そこで終わりではありません。公正取引委員会は、買収に係る対価の総額が400億円を超えると見込まれ、かつ次のいずれかを満たす場合には、届出基準を満たさない企業結合についても審査を行うことがあると明示しています。

  1. 国内に事業拠点等が所在する
  2. 国内需要者を対象に営業活動を行っている
  3. 国内売上高合計額が1億円超である

出典: 企業結合審査の手続に関する対応方針|公正取引委員会(確認日 2026-07-10)

売上高は小さくても買収額が大きくなりうるスタートアップの買収などが、この枠組みで念頭に置かれています。

判定のまとめ

状況

事前届出

独占禁止法の実体規制

買い手グループの国内売上高が200億円以下

不要

適用される

買い手グループ200億円超・対象規模が基準未満

不要

適用される

買い手グループ200億円超・対象規模も基準超

必要

適用される

届出基準未満だが買収対価400億円超

不要(義務なし)

適用される。公取委が審査に入る可能性あり

結論として、年商数十億円規模の会社売却では、買い手が売上200億円超の大手企業やファンド系グループでない限り、公正取引委員会への届出は不要なケースがほとんどです。 ただし事業譲渡・会社分割では30億円のラインが使われる点、そして届出が不要でも独占禁止法そのものは適用され続ける点には注意が必要です。

スキーム別の届出基準一覧

スキームごとに異なる届出基準額(200億円・50億円・30億円)を比較した図解

公正取引委員会の公式ページで確認した現行の基準を、スキームごとに整理します(確認日 2026-07-10)。

全体の比較表

スキーム

根拠条文

買い手側の基準

対象側の基準

その他の要件

株式取得

第10条

企業結合集団の国内売上高 200億円超

株式発行会社とその子会社の国内売上高 50億円超

取得後の議決権保有割合が 20%または50%を超える

合併

第15条

いずれか1社が 200億円超

他のいずれか1社が 50億円超

同一企業結合集団内の合併は届出不要

共同株式移転

第15条の3

いずれか1社が 200億円超

他のいずれか1社が 50億円超

事業等の譲受け

第16条

譲受会社の企業結合集団の国内売上高 200億円超

対象事業(全部・重要部分・固定資産)の国内売上高 30億円超

分割

第15条の2

下記の個別表を参照

下記の個別表を参照

共同新設分割・吸収分割で基準が異なる

株式取得については、3つの要件をすべて満たしたときに届出義務が生じます。ひとつでも欠ければ届出は不要です。

出典: 株式取得 / 合併 / 共同株式移転 / 事業等の譲受け|公正取引委員会(いずれも確認日 2026-07-10)

なお、どのスキームを選ぶかという判断そのものは「M&Aスキームとは?種類と選び方」で全体像を解説しています。

株式譲渡は「50億円超」、事業譲渡・会社分割は「30億円超」

売り手オーナーにとって実務的に重要なのは、同じ事業を手放すのでも、スキームによって届出の判定ラインが変わるという点です。

スキーム

対象側の判定ライン

何を基準に測るか

株式譲渡

50億円超

対象会社+その子会社の国内売上高

事業譲渡(事業の全部)

30億円超

対象会社の国内売上高

事業譲渡(事業の重要部分)

30億円超

譲り渡す部分に係る国内売上高

会社分割

30億円超〜

承継対象部分に係る国内売上高(4パターン)

つまり、買い手が200億円超のグループである前提で、対象事業の売上が40億円だとすると、株式譲渡なら届出不要、事業譲渡なら届出必要となる可能性があります。届出が必要になれば、後述する30日の禁止期間が発生し、クロージング日程が後ろにずれます。

スキーム選択は税務・簿外債務・許認可の承継など複数の観点から決めるものですが、買い手が大手企業の場合はこの届出要否もスケジュール上の検討材料になるということです。株式譲渡と事業譲渡の違いそのものについては、「株式譲渡と事業譲渡はどっちがいい?違いを比較」で詳しく解説しています。

分割の届出基準(詳細)

分割は基準が細かく分かれています。実務で該当する売り手は限られますが、念のため掲載します。会社分割という手法自体の仕組みは「M&A 会社分割(分社型・分割型)とは」で解説しています。

共同新設分割(いずれかに該当すれば届出必要)

#

一方の会社

他方の会社

1

全部承継会社 200億円超

全部承継会社 50億円超

2

全部承継会社 200億円超

重要部分承継会社の承継対象部分 30億円超

3

全部承継会社 50億円超

重要部分承継会社の承継対象部分 100億円超

4

重要部分承継会社の承継対象部分 100億円超

重要部分承継会社の承継対象部分 30億円超

吸収分割(いずれかに該当すれば届出必要)

#

分割会社

承継会社

1

全部承継 200億円超

50億円超

2

全部承継 50億円超

200億円超

3

分割対象部分 100億円超

50億円超

4

分割対象部分 30億円超

200億円超

出典: 分割の届出制度|公正取引委員会(確認日 2026-07-10)

届出後の流れと期間 — クロージングはどれだけ遅れるか

届出受理から30日の禁止期間を経てクロージングに至るまでの流れを示した図解

届出が必要になった場合、売り手にとっての最大の影響は費用ではなくスケジュールです。届出を出した瞬間から、一定期間はM&Aを実行できなくなります。

審査プロセスの全体像

段階

内容

期間の目安

届出前相談(任意)

届出予定の会社が、事前に公正取引委員会へ相談できる

案件により変動

届出受理

届出書が受理される

禁止期間(待機期間)

届出受理日から30日を経過するまで、企業結合を実行してはならない

30日

第1次審査

30日以内に、排除措置命令を行わない旨の通知、または報告等の要請(第2次審査へ移行)

30日以内

第2次審査

報告等の要請により開始。詳細な審査が行われる

下記参照

問題解消措置

当事会社が措置を申し出ることで「問題なし」と判断されるケースがある

出典: 企業結合審査の手続に関する対応方針|公正取引委員会(確認日 2026-07-10)

30日の禁止期間は短縮できる

届出受理日から30日間は、原則として企業結合を実行できません。ただし、この期間は短縮が認められています。

短縮が認められる要件は、次の2つです。

  1. 「競争を実質的に制限することとはならないことが明らかであること」
  2. 当事会社から書面による申し出があること

シェアが小さく、明らかに競争上の問題がない案件であれば、短縮の申し出により実行時期を前倒しできる余地があります。クロージング日程を組む際は、この点を弁護士と確認しておくと安全です。M&Aのクロージング手続そのものは「M&Aのクロージングとは?手続きと流れ」で解説しています。

第2次審査に進むと数ヶ月単位で遅れる

第1次審査の30日以内に、公正取引委員会が「さらに詳しく調べる必要がある」と判断すると、報告等の要請が行われ、第2次審査に移行します。

第2次審査では、次のいずれか遅い日までに判断が示されます。

  • 届出受理日から120日を経過した日
  • すべての報告等を受理した日から90日を経過した日

つまり第2次審査に進むと、クロージングは最低でも4ヶ月以上先になります。資料の提出が遅れれば、さらに後ろ倒しになります。

ただし、第2次審査に進む案件はごくわずか

スケジュールリスクとしては大きく見えますが、統計を見ると過度に恐れる必要はありません。後述するとおり、年間450件前後の届出のうち、第2次審査に移行するのは0〜1件です。届出案件のほぼすべてが30日の第1次審査で終わっています。

なお、届出書は持参・郵送に加え、電子メールによる提出も可能とされています(企業結合に係るすべての書類)。

出典: 企業結合に関する届出制度Q&A|公正取引委員会(確認日 2026-07-10)

M&A全体のスケジュール感については「M&A売却にかかる期間・タイムライン」も参考にしてください。

審査では何が見られるか — セーフハーバーと内部文書

セーフハーバー基準(水平型の場合)

公正取引委員会の運用指針は、水平型企業結合について「通常、競争を実質的に制限することとなるとは考えられない」場合を明示しています。いわゆるセーフハーバーです。

判断にはHHI(ハーフィンダール・ハーシュマン指数)が使われます。HHIは、その市場における各社の市場シェアを2乗して合計した数値です。1社独占なら10,000、多数の小さな会社がひしめく市場なら小さな値になります。

以下のいずれかに該当する場合、通常は問題とされません。

#

企業結合後のHHI

HHIの増分

1

1,500以下

問わない

2

1,500超 2,500以下

250以下

3

2,500超

150以下

加えて、企業結合後のHHIが2,500以下であり、かつ企業結合後の当事会社グループの市場シェアが35%以下である場合には、競争を実質的に制限することとなるおそれは小さいと通常考えられる、とされています。

出典: 企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針|公正取引委員会(確認日 2026-07-10)

中小企業のM&Aでは、統合後のシェアが35%に達することはまずありません。この点からも、審査リスクは限定的だと言えます。

内部文書の提出を求められることがある

見落とされがちですが、審査が本格化すると、公正取引委員会は当事会社に対して内部文書の提出を求めることがあります。公正取引委員会は、提出を求めうる文書として次のようなものを挙げています。

  • 取締役会等の会議資料・議事録
  • 企業結合の目的・効果を検討した資料
  • 役員・従業員の電子メール
  • 事業計画・経営戦略文書
  • 競争者の分析資料
  • 価格・数量・市場予測に関するマーケティング報告書
  • 組織図、従業員リスト

出典: 企業結合審査における内部文書の提出に係る公正取引委員会の実務|公正取引委員会(確認日 2026-07-10)

「シェアを取って値上げできる」といった趣旨のメールや社内資料が残っていれば、当然ながら審査上不利に働きます。買い手側の話ではありますが、売り手も社内資料の管理と整理を意識しておく価値はあります。この観点は買い手のデューデリジェンスにも直結します。準備の具体的な手順は「M&A DD(デューデリジェンス)売り手の準備チェックリスト」を参照してください。

届出が不要でも独占禁止法の適用は受ける

これが本記事でもっとも誤解されやすい論点です。「届出不要=独占禁止法の適用外」ではありません。

第10条をはじめとする実体規制、すなわち「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる企業結合の禁止」は、届出義務の有無にかかわらず適用されます。 届出制度は、公正取引委員会が事前に企業結合を把握するための手続にすぎず、規制そのものの適用範囲を画定するものではありません。

実際に、届出不要案件の審査は増えている

公正取引委員会の年次公表資料には、「届出を要しない企業結合計画の審査終了件数」という項目があります。

年度

届出を要しない企業結合計画の審査終了件数

令和6年度(2024年度)

7件

令和7年度(2025年度)

15件

出典: 令和7年度における企業結合関係届出等の状況及び主要な企業結合事例について(令和8年6月24日) / 令和6年度における企業結合関係届出の状況及び主要な企業結合事例について(令和7年6月18日)|公正取引委員会(確認日 2026-07-10)

1年で7件から15件へと倍増しています。件数自体は多くありませんが、届出基準を下回る企業結合であっても公正取引委員会は見ているという事実の裏付けになります。

加えて、2025年10月15日には公正取引委員会が企業結合に関する情報提供フォームを開設しました。競合他社や取引先など第三者から情報が寄せられる経路が整備されたということです。

中小企業の売り手が現実的に気をつけるべきこと

とはいえ、年商数億円の会社の売却が実体規制に抵触することは、通常ありません。現実的に注意すべきは次のケースに限られます。

  • 地域に事業者が数社しかない業界(地方の特定サービス業、地域インフラ関連など)で、その1社を同地域の最大手に売却する
  • 買い手が同業を次々と買収しており、統合後に地域シェアが極端に高くなる
  • 買収対価が400億円を超える見込みがある

これらに該当しそうな場合は、基本合意の前の段階で弁護士に相談し、必要に応じて届出前相談の利用を検討してください。

違反するとどうなるか

違反の種類によって、科される措置が異なります。ここを混同している解説記事が少なくないため、正確に整理します。

違反の種類

具体例

主な措置

届出義務違反

届出を怠る、虚偽の届出をする、禁止期間中に企業結合を実行する(ガンジャンピング)

200万円以下の罰金(第91条の2)

実体規制違反

競争を実質的に制限することとなる企業結合を実行した

排除措置命令(第17条の2)— 株式の処分、事業の一部譲渡等

届出義務違反については、独占禁止法第91条の2が、株式取得(第3号)・合併(第5号)・分割(第7号)・共同株式移転(第9号)・事業等の譲受け(第11号)のそれぞれについて罰金を定めています。

出典: 企業結合に関する届出制度Q&A|公正取引委員会(確認日 2026-07-10)

「課徴金」との違いに注意

企業結合規制に関する解説記事の中には、違反時の措置として課徴金納付命令を挙げているものがあります。しかし課徴金は、主として不当な取引制限(カルテル・入札談合)や私的独占などを対象とする制度です。企業結合規制(第10条・第15条等)の違反に対して法定されている措置は、排除措置命令が中心となります。

この整理は編集部による条文の読み解きに基づくものです。実際の案件でどのような措置がとられうるかは事案によって異なります。独占禁止法に詳しい弁護士に必ずご確認ください。

排除措置命令が出れば、いったん取得した株式の処分や事業の一部譲渡を命じられる可能性があります。M&Aが成立した後に覆されるリスクがあるという意味で、届出義務違反の罰金額(200万円以下)以上に重い帰結です。

【最新データ】令和7年度の企業結合届出の状況

令和7年度の企業結合届出件数と審査状況の推移を示した統計イメージ

公正取引委員会は毎年6月ごろ、前年度の企業結合届出の状況を公表しています。令和7年度(2025年度)の数値は、令和8年(2026年)6月24日に公表されたものです。

項目

令和7年度

令和6年度

届出受理件数

458件(前年度比 4.8%増)

437件(前年度比 26.7%増)

第1次審査で問題なしと通知

449件

423件

第1次審査中に取下げ

8件

14件

第2次審査に移行

1件

0件

届出を要しない企業結合計画の審査終了

15件

7件

問題解消措置を前提に問題なしとした件数

5件

3件

公表された主要な企業結合事例

11事例

出典: 令和7年度における企業結合関係届出等の状況及び主要な企業結合事例について(令和8年6月24日)|公正取引委員会(確認日 2026-07-10)

同じ公表資料によれば、令和7年度に公表された11事例のうち、内部文書の提出を求めた事例が3件、経済分析の結果を紹介した事例が2件、海外の競争当局と情報交換を行った事例が1件でした。

このデータから読み取れること

1. 届出が出たとしても、ほぼ確実に30日で終わる

458件のうち449件が第1次審査で問題なしと通知されています。第2次審査に移行したのは1件(令和6年度は0件)です。届出が必要になっても、実務上のスケジュール影響は30日程度と見込むのが現実的です。

2. 届出を要しない案件の審査が増えている

前述のとおり7件から15件へ倍増しました。届出基準を下回る企業結合への監視が強まっている傾向がうかがえます。

3. 問題解消措置を前提とする承認が増えている

3件から5件に増えました。「そのままでは問題があるが、一部事業の切り離しなどの措置を講じるなら認める」という運用が定着しつつあることを示します。

なお、企業結合審査の手続に関する対応方針は、平成23年6月14日の策定以降、平成27年・平成30年・令和元年と改定を重ね、直近では令和8年(2026年)2月2日に改定されています。改定の具体的な内容は公表資料からは確認できないため、最新の運用については公正取引委員会の公式ページを直接ご確認ください。

M&A市場全体の件数・金額の動向は「M&A市場動向2026年最新」でまとめています。

公正取引委員会の公式資料をどう使うか

企業結合審査については、公正取引委員会が一次情報を無料で公開しています。有料の専門書を買う前に、まずこちらを確認するのが効率的です。

資料・制度

内容

使いどころ

企業結合審査ガイドブック(令和7年6月11日 初公表)

審査の概要・基準・手続の流れを図解と平易な表現で解説した公式の入門資料。独占禁止法第10条等/第9条/第11条の3分冊

制度の全体像をつかむとき

企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針

実体規制の判断基準(市場画定・HHI・セーフハーバー等)

自社の市場シェアが気になるとき

企業結合審査の手続に関する対応方針

届出前相談・審査期間・届出不要案件の取扱い

スケジュールを組むとき

届出制度Q&A

企業結合集団の範囲、国内売上高の算定方法などの実務論点

届出要否を精査するとき

届出前相談

届出予定の会社が事前に公正取引委員会へ相談できる制度

判断に迷うとき

企業結合に関する情報提供フォーム(令和7年10月15日 開設)

第三者からの情報提供窓口

(買い手・売り手の立場では利用機会は限定的)

企業結合審査ガイドブックは公正取引委員会の公式ページから入手できます。日本商工会議所も会員向けに周知しており、中小企業経営者が読むことも想定された資料です。

国内売上高の細かい算定方法(外国会社の扱い、企業結合集団内の内部取引の控除など)は、届出制度Q&Aに詳しく記載されています。数字が基準額の近辺にある場合は、必ず原典を確認するか、弁護士に判断を仰いでください。

例外: 独占禁止法特例法(乗合バス・地域銀行)

対象は極めて限定的ですが、独占禁止法の適用が除外される制度も存在します。

独占禁止法特例法(正式名称は「地域における一般乗合旅客自動車運送事業及び銀行業に係る基盤的なサービスの提供の維持を図るための私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の特例に関する法律」)は、2020年11月27日に施行されました。

項目

内容

対象

乗合バス事業者および地域銀行

内容

主務大臣の認可を受けて行う合併等について、独占禁止法の適用を除外する

期限

施行日から10年以内に廃止する時限措置

背景

人口減少により、地域の基盤的サービスの維持が困難になっていること

出典: 法律本文(e-Gov法令検索) / 国土交通省 公共交通政策 / 金融庁(確認日 2026-07-10)

地方で乗合バス事業や地域金融機関に関わる事業を営んでいる場合は、この特例法の対象になりうるか確認する価値があります。それ以外の業種には適用されません。 一般的な中小企業のM&Aで登場する制度ではないと考えて差し支えありません。

独占禁止法の審査を意識すべき売り手 / ほとんど気にしなくてよい売り手

注意が必要な売り手

  • 買い手候補が売上200億円超の企業グループ(上場企業・大手事業会社・大型ファンドの傘下企業)である
    → 届出義務の有無を必ず確認する。30日の禁止期間がスケジュールに乗るかを早期に検討する
  • 自社の売上(子会社含む)が50億円を超えている
    → 株式譲渡でも届出基準に触れる可能性がある
  • 事業譲渡・会社分割のスキームで、対象部分の売上が30億円を超えている
    → 株式譲渡より低いラインで届出義務が発生する
  • 地域内で事業者が数社しかない業界に属している
    → 地理的市場が狭く画定されると、統合後シェアが高く算定される可能性がある
  • 買収対価が400億円を超える見込みがある
    → 届出義務がなくても公正取引委員会が審査に入る可能性がある
  • 買い手が同業を連続して買収している
    → 過去の買収の積み上がりを含めて市場シェアが評価されうる

ほとんど気にしなくてよい売り手

  • 買い手が中小企業・個人・小規模なファンドで、企業結合集団の国内売上高が200億円以下
    → スキームを問わず、事前届出は不要
  • 自社の売上が数億円規模で、業界に多数の同業他社が存在する
    → セーフハーバー基準(統合後シェア35%以下等)に余裕をもって収まる
  • 買い手が異業種で、自社の市場と重なりがない
    → 混合型企業結合にあたり、競争上の懸念が生じにくい

ただし、「気にしなくてよい」のはあくまで独占禁止法の観点に限った話です。届出が不要であっても、契約内容・表明保証・税務・個人保証の解除といった論点は残ります。売却の全体像は「M&Aとは?初めてでもわかる基本と流れ」および「会社売却とは・流れ完全ガイド」で確認してください。

自社に合った仲介会社の選定については「M&A仲介会社の比較(売り手向け)」も参考になります。買い手候補に大手企業が挙がる可能性がある場合は、独占禁止法対応の経験がある仲介会社・FAを選ぶ判断材料になります。

よくある質問

Q. 届出は売り手と買い手のどちらが行うのですか?

株式取得の場合、届出義務を負うのは株式を取得する側(買い手)です。合併・共同株式移転・共同新設分割のように複数の会社が当事者となる類型では、当事会社が共同で届出を行います。

売り手は届出義務者ではありませんが、届出書には対象会社の売上高や事業内容に関する情報が必要になるため、資料の提供を求められます。禁止期間の分だけクロージングが後ろにずれる点でも、売り手にとって無関係な手続ではありません。

Q. 届出にかかる費用はどれくらいですか?

公正取引委員会への届出そのものに手数料は課されません。実務上のコストは、届出書類の作成や市場画定の検討を依頼する弁護士費用が中心になります。金額は案件の複雑さによって大きく変わるため、複数の法律事務所に見積りを取ることをおすすめします。

Q. 一度届出をした後で条件を変更した場合、届出はやり直しですか?

企業結合の内容に変更が生じた場合の取扱いは、変更の内容と程度によって判断が分かれます。届出後に取得株式数やスキームを変更する予定がある場合は、事前に公正取引委員会へ相談するか、弁護士に確認してください。届出制度Q&Aにも関連する記載があります。

Q. 海外の企業に会社を売る場合、日本以外の当局への届出も必要ですか?

買い手が海外企業である場合や、対象会社が海外に売上を有する場合には、日本の独占禁止法とは別に、米国のHSR法、EUの合併規則、中国の独占禁止法などに基づく届出が必要になることがあります。それぞれ基準額と手続が異なり、審査期間も国ごとに異なります。クロスボーダー案件では、日本国内の判断だけで実行時期を決めないでください。

Q. 議決権を19%だけ取得する場合はどうなりますか?

株式取得の届出義務は、取得後の議決権保有割合が20%または50%を超える場合に生じます。19%であれば、この要件を満たさないため届出は不要です。ただし、段階的に買い増して20%を超える時点では、あらためて基準に照らして判定する必要があります。

Q. 公正取引委員会に相談したことが取引先に知られる心配はありませんか?

届出前相談は、届出を予定している会社が公正取引委員会に対して行う制度です。企業結合の届出そのものは、受理後に公表される運用があります。秘密保持の観点でどのタイミングまで非公表を維持できるかは案件によって異なるため、情報管理の設計は弁護士とM&Aアドバイザーを交えて事前に決めておくべきです。秘密保持全般の考え方は「M&Aの秘密保持・情報漏洩リスク対策」で解説しています。

まとめ

M&Aと独占禁止法の関係について、売り手オーナーが押さえるべきポイントは次のとおりです。

  • 事前届出が必要になる第一条件は、買い手の企業結合集団の国内売上高が200億円超であること。 ここを下回れば、スキームを問わず届出は不要
  • スキームによって対象側の判定ラインが変わる。 株式譲渡は50億円超、事業譲渡・会社分割は30億円超
  • 届出が必要になっても、スケジュール影響は原則30日。 令和7年度の届出458件のうち、第2次審査に移行したのは1件のみ
  • 「届出不要=独占禁止法の適用外」ではない。 届出を要しない企業結合計画の審査終了件数は、令和6年度7件から令和7年度15件へ増えている
  • 違反時の措置は、届出義務違反なら200万円以下の罰金、実体規制違反なら排除措置命令が中心
  • 公正取引委員会は「企業結合審査ガイドブック」(令和7年6月公表)という公式の入門資料を無料で公開している

多くの中小企業の売り手にとって、独占禁止法はM&Aの障害にはなりません。しかし、買い手候補に大手企業やファンドが挙がった瞬間に、届出要否とクロージング日程の検討が必要になります。基本合意の前に、この点を仲介会社・FAと確認しておいてください。

本記事は公正取引委員会の公式資料(2026年7月10日確認)に基づく一般的な解説であり、法的助言ではありません。届出義務の有無、市場画定、審査リスクの評価は、事案ごとの個別判断を要します。具体的な案件については、独占禁止法に詳しい弁護士に必ずご相談ください。

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