M&A仲介会社に払う着手金・中間金・成功報酬には、すべて消費税10%がかかります。 一方で、株式譲渡そのものは消費税の非課税取引です。つまり「売買代金には消費税がかからないのに、手数料にだけ10%が上乗せされる」という状態が、中小企業のM&Aでは普通に起こります。
さらに厄介なのは、払った消費税を取り戻せるかどうかが、売り手の立場によって正反対になるという点です。個人オーナーが自社株を売る場合、その消費税は原則として1円も戻ってきません。
この記事でわかること:
- M&A手数料のどこに消費税がかかり、どこにかからないのか
- 「最低成功報酬2,000万円(税抜)」が実際いくらの請求になるのか(税込早見表付き)
- 個人オーナー/法人株主/事業譲渡の3パターン別に、消費税を控除できるかどうか
- 法人が子会社株式を売ると、課税売上割合が下がってその期の消費税負担が増える理由
- 仲介会社のインボイス登録番号を確認する手順と、請求書でチェックすべき6項目
- 2026年10月から変わる「免税事業者からの仕入れ」の経過措置(80%→70%)
この記事は、会社の売却を検討している中小企業のオーナー経営者、および子会社の売却を進めている法人の経理・財務担当者に向けて書いています。
ご注意: 本記事は2026年8月19日時点の法令・公表情報に基づく一般的な整理です。消費税の取扱いは契約内容・取引の実態・採用している計算方式によって結論が変わります。実際の判断は必ず顧問税理士にご確認ください。
結論|手数料には10%かかる。取り戻せるかは売り手のタイプで決まる
まず押さえるべき事実は3つです。
- M&A仲介手数料は課税取引 — 着手金・月額報酬・中間金・成功報酬はいずれも「役務の提供」の対価であり、標準税率10%(消費税7.8%+地方消費税2.2%)がかかります。軽減税率8%の対象ではありません。
- 株式の譲渡対価そのものは非課税 — 有価証券の譲渡は消費税法上の非課税取引です(国税庁 タックスアンサー No.6201)。
- 仲介会社の公表手数料は「税抜」が一般的 — 表示額の1.1倍が実際の請求額になります。手取り計算でここを見落とすと、数百万円単位でずれます。
そのうえで、支払った消費税を取り戻せる(仕入税額控除できる)かどうかは、売り手がどの立場にいるかで分かれます。
あなたの立場 | 手数料の消費税 | 取り戻せるか | 特に注意すべき点 |
|---|---|---|---|
A. 個人オーナーが自社株を売る | かかる(10%) | 取り戻せない | 消費税分は純粋なコスト。手取り計算に税込で織り込む |
B. 法人(親会社・持株会社)が子会社株式を売る | かかる(10%) | 個別対応方式では控除不可/一括比例配分方式なら課税売上割合分のみ | 株式売却により課税売上割合が下がり、他の仕入れの控除まで減る |
C. 事業譲渡で売る(法人・個人事業主) | かかる(10%) | 課税売上に対応する部分は控除の余地あり | 譲渡対価自体に消費税が発生。預かった消費税の納付資金を確保する |
中小企業のM&Aで最も多いのはパターンAです。この場合、消費税は「戻らない前提」で資金計画を立てる必要があります。

なぜ株式譲渡は非課税なのに、仲介手数料には消費税がかかるのか
「取引されるモノの性質」と「サービスの対価」を別々に判定するのが消費税のルールだからです。 株式は消費されるモノではなく資金の移転にすぎないため非課税、仲介会社の業務は国内で提供される役務であるため課税、という整理になります。
国税庁のタックスアンサー No.6201「非課税となる取引」は、非課税取引の一つとして次を挙げています。
(2)有価証券等の譲渡 ── 国債や株券などの有価証券、証券の発行がない国債、地方債、社債、株式等、合名会社などの社員の持分、抵当証券、金銭債権などの譲渡(ただし、株式・出資・預託の形態によるゴルフ会員権などの譲渡は非課税取引には当たりません)
出典:国税庁 タックスアンサー No.6201 非課税となる取引(2026年8月19日確認)
一方、M&A仲介会社が行うマッチング・企業評価・交渉支援・契約実務の支援は、国内における事業者の役務提供にあたり、非課税・免税・不課税のいずれにも該当しません。したがって課税取引となります。
対象 | 消費税の区分 | 理由 |
|---|---|---|
株式の譲渡対価(売買代金) | 非課税 | 有価証券の譲渡(消費税法上の非課税取引) |
M&A仲介手数料・FA報酬 | 課税10% | 国内における役務の提供 |
弁護士・税理士・会計士への報酬 | 課税10% | 同上 |
登録免許税・印紙税 | 不課税 | 税金の納付であり対価性がない |
株式譲渡の仕組みそのものについては「株式譲渡とは?仕組み・手続き・税金をわかりやすく解説」で詳しく整理しています。
M&A手数料の消費税一覧|着手金・中間金・成功報酬・実費の扱い
売り手が負担する費用のうち、税金の納付を除くほぼすべてに消費税10%がかかります。 手数料の名目が違っても、消費税の扱いは変わりません。
費用項目 | 消費税の扱い | 補足 |
|---|---|---|
相談料 | 課税10% | 無料としている会社が大半 |
着手金 | 課税10% | 破談でも返金されないのが一般的 |
月額報酬(リテイナーフィー) | 課税10% | 毎月の請求ごとに課税 |
中間金 | 課税10% | 基本合意時に発生 |
成功報酬 | 課税10% | 手数料の大部分を占める |
最低成功報酬(ミニマムフィー) | 課税10% | 公表額は税抜表示が一般的 |
デューデリジェンス関連の専門家報酬 | 課税10% | 弁護士・会計士等への役務対価 |
登録免許税・印紙税 | 不課税 | 税金のため消費税はかからない |
株式の譲渡対価 | 非課税 | 有価証券の譲渡 |
中小企業庁の公式資料も「×110%」で計算している
手数料に消費税がかかることは、中小企業庁の公式資料でも明確です。中小企業庁『中小M&Aガイドライン(第3版)』(令和6年8月)は、手数料の具体例をすべて税込で提示しています。
ガイドラインの事例 | 計算内容 | 手数料総額 |
|---|---|---|
事例1(譲渡額1億円) | 着手金100万円×110%=110万円/成功報酬 1億円×5%×110%=550万円 | 660万円(税込) |
事例2(譲渡額5億円・移動総資産10億円) | 中間金50万円×110%=55万円/成功報酬(5億円×5%+5億円×4%)×110%-55万円 | 4,950万円(税込) |
事例3(事業譲渡) | 着手金50万円×110%=55万円/月額報酬10万円×4か月×110%=44万円/最低手数料300万円×110%=330万円 | 429万円(税込) |
出典:中小企業庁『中小M&Aガイドライン(第3版)』令和6年8月、pp.66-67(2026年8月19日確認)。同資料では「消費税及び地方消費税は合計10%と仮定する」と注記されています。
つまり、着手金や最低手数料の公表額は税抜であり、実際の支払額は1.1倍になるというのが、行政の公式資料でも前提とされている実務です。
「税抜2,000万円」は実際いくら払うのか|税込早見表
公表されている手数料表がほぼ税抜である以上、支払額を知りたければ1.1倍する必要があります。 最低成功報酬が2,000万円(税抜)の場合、請求額は2,200万円(税込)で、差額は200万円です。
現時点で税抜表記が公式に明記されている例として、日本M&Aセンターの譲渡・売却の報酬表があります。同ページには成功報酬の最低額を2,000万円とする記載があり、ページ末尾に次の注記が置かれています。
※本ページに記載する金額は税抜きの金額です。すべて消費税が別途かかります。
出典:日本M&Aセンター「譲渡・売却の報酬表」(2026年8月19日確認)

なお、他社の手数料ページが税抜表示か税込表示かは会社ごとに異なります。公表されている数字が税抜か税込かは、契約前に必ず書面で確認してください。 表記が明示されていない場合、税抜であることが多いのが実情です。
レーマン方式の成功報酬 税込早見表
一般的なレーマン方式(5億円以下5%/5億円超10億円以下4%/10億円超50億円以下3%)で、株式の譲渡価額を基準に計算した場合の税抜・税込の対比です。
譲渡価額 | 成功報酬(税抜) | 消費税10% | 支払額(税込) |
|---|---|---|---|
1億円 | 500万円 | 50万円 | 550万円 |
3億円 | 1,500万円 | 150万円 | 1,650万円 |
5億円 | 2,500万円 | 250万円 | 2,750万円 |
10億円 | 4,500万円 | 450万円 | 4,950万円 |
20億円 | 7,500万円 | 750万円 | 8,250万円 |
50億円 | 1億6,500万円 | 1,650万円 | 1億8,150万円 |
(参考)最低報酬2,000万円適用時 | 2,000万円 | 200万円 | 2,200万円 |
※標準的なレーマン料率を株価基準で適用した概算です。実際の報酬基準額(移動総資産・オーナー受取額など)や料率区分は会社によって異なるため、自社の見積書の計算基準で確認してください。

計算基準そのものの違いで手数料が数百万〜数千万円変わる点は「レーマン方式とは?計算例付きでわかるM&A手数料の仕組み」で解説しています。手数料全体の相場感は「M&Aの費用・手数料相場」、各社比較は「M&A仲介会社の手数料比較 完全ガイド」もあわせてご覧ください。
【パターンA】個人オーナーが株式を売る場合|消費税は戻ってこない
個人オーナーが自社株を売却するケースでは、支払った消費税を取り戻す手段は原則としてありません。 個人株主は消費税の納税義務者ではないため、仕入税額控除という制度の土俵にそもそも立っていないからです。
この場合、消費税は「実質的に消費者として負担する費用」と同じ扱いになります。手数料2,000万円(税抜)の案件なら、200万円は純粋な持ち出しです。
インボイスをもらう意味はあるか
仕入税額控除ができない以上、適格請求書(インボイス)を受け取っても税務上の直接的な実益はありません。ただし、次の理由から請求書・領収書は必ず保管してください。
- 譲渡所得の確定申告で、必要経費(譲渡費用)を裏づける資料になる
- 支払額と支払先を後から確認できる
- 仲介契約の内容と実際の請求内容の整合を確認できる
消費税込みの手数料は譲渡所得の必要経費になる
株式を譲渡したときの所得は申告分離課税で、次のように計算します。
総収入金額(譲渡価額)-必要経費(取得費+委託手数料等)=一般株式等に係る譲渡所得等の金額
税率は所得税15%・住民税5%。令和19年までは復興特別所得税として基準所得税額×2.1%が加算されます。
出典:国税庁 タックスアンサー No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)(2026年8月19日確認)
個人は税込経理が前提となるため、必要経費に算入する仲介手数料も消費税込みの金額とするのが通常です。結果として、消費税200万円のうち約20.315%相当は税負担の軽減という形で間接的に回収されることになります。ただし、どの支出が「委託手数料等」として必要経費に認められるかは契約内容や支出の性質によって判断が分かれるため、申告前に必ず税理士へご確認ください。
手取り額の計算全体は「M&A売却の手取り額シミュレーション」、譲渡所得税の詳細は「会社売却の税金・節税 完全ガイド」で解説しています。
【パターンB】法人が子会社株式を売る場合|個別対応方式では控除できない
親会社や持株会社が子会社株式を売却する場合、その仲介手数料にかかる消費税は、個別対応方式では仕入税額控除の対象になりません。 株式の譲渡が非課税売上であるため、その譲渡のためだけに要した課税仕入れは「非課税売上げにのみ要する課税仕入れ」に区分されるからです。
株式を売却する際の委託売買手数料は、株式の譲渡のための費用ですから、非課税売上げにのみ要する課税仕入れの支払対価に該当し、個別対応方式により仕入控除税額を計算する場合は仕入税額控除の対象にはなりません。
関係法令通達:消費税法第30条第2項、消費税法基本通達11-2-15
出典:国税庁 質疑応答事例(消費税)「株式の売買に伴う課税仕入れ」(令和7年8月1日現在の法令・通達等に基づく/2026年8月19日確認)
一括比例配分方式を採用している場合は、課税売上割合を乗じた金額だけが控除されます。どちらの方式を採っているかで結論が変わるため、まず自社の計算方式を確認してください。
見落としやすいのは「課税売上割合が下がる」影響
株式を売ったこと自体が、その課税期間の課税売上割合を押し下げます。有価証券の譲渡対価は、その5%相当額が総売上高(分母)に加算されるためです。
総売上高に加える特定の有価証券等および貸付金、預金、売掛金その他の金銭債権(資産の譲渡等の対価として取得したものを除きます。)の譲渡対価の額は、その譲渡対価の額の5パーセントに相当する金額とされています。
根拠法令等:消法30、31/消令48、51
出典:国税庁 タックスアンサー No.6405 課税売上割合の計算方法(2026年8月19日確認)
具体例: 年間の課税売上が3億円、非課税売上がほぼゼロの法人が、子会社株式を10億円で売却したとします。
項目 | 金額 |
|---|---|
課税売上(分子) | 3億円 |
非課税売上に加算される額(10億円×5%) | 5,000万円 |
課税売上割合 | 3億円 ÷ 3億5,000万円 = 約85.7% |
課税売上割合が95%未満になると、これまで全額控除できていた株式売却とは無関係な通常の課税仕入れについても、控除額の調整が必要になります。仲介手数料の消費税が控除できないだけでなく、その期の消費税負担そのものが増えるという二重の影響が出ます。
決算期をまたぐタイミングでこの影響が変わるため、クロージング時期の設計と合わせて検討する価値があります。「M&A売却の決算期・タイミングと税務メリット」も参考にしてください。
なお、国税庁の質疑応答事例には「照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答であり、納税者が行う具体的な取引等に適用する場合においては、この回答内容と異なる課税関係が生ずることがある」旨の注記があります。自社のケースでの適用は税理士にご確認ください。
【パターンC】事業譲渡で売る場合|譲渡対価そのものに消費税がかかる
事業譲渡は株式譲渡と決定的に違い、譲渡対価のうち課税資産に対応する部分に消費税が発生します。 売り手が課税事業者であれば、買い手から預かった消費税を後日納付する義務を負います。
営業の譲渡は営業に係る資産、負債の一切を含めて譲渡する契約であり、資産の譲渡については、課税資産と非課税資産を一括して譲渡するものと認められますから、課税資産と非課税資産の対価の額を合理的に区分して課税することとなります。
関係法令通達:消費税法施行令第45条第3項
出典:国税庁 質疑応答事例(消費税)「営業の譲渡をした場合の対価の額」(令和7年8月1日現在/2026年8月19日確認)
同事例では、土地20億円・営業権10億円・有形固定資産10億円で構成される営業譲渡について、課税対象は営業権と有形固定資産の合計20億円であり、土地20億円は非課税のため算入しないと整理されています。
事業譲渡で課税されるもの・されないもの
区分 | 主な資産 |
|---|---|
課税 | のれん(営業権)、建物、機械装置・車両などの有形固定資産、棚卸資産、特許権・商標権などの無形固定資産 |
非課税 | 土地、有価証券、売掛金などの金銭債権 |
売り手が注意すべき3点
- 資金繰り — 買い手から受け取った消費税は預り金です。売却代金として使ってしまうと、納付時に資金が足りなくなります。
- インボイスの交付義務 — 売り手が適格請求書発行事業者であれば、買い手の求めに応じて適格請求書を交付し、その写しを保存する義務を負います。
- 仲介手数料の消費税 — 事業譲渡は課税売上を伴う取引であるため、これに対応する仲介手数料の消費税は、株式譲渡と異なり控除の余地があります。区分方法は個別対応方式か一括比例配分方式かによって異なります。
事業譲渡の仕組み全体は「事業譲渡とは?わかりやすく解説」、のれんの考え方は「のれん(営業権)とは」で扱っています。
スキーム別の消費税を一覧で比較
同じ会社を売るのでも、株式譲渡か事業譲渡かで消費税の損得が変わります。 税負担だけでスキームを決めるべきではありませんが、判断材料としては押さえておく価値があります。
比較項目 | 株式譲渡(個人株主) | 株式譲渡(法人株主) | 事業譲渡 |
|---|---|---|---|
譲渡対価への消費税 | 非課税 | 非課税 | 課税資産部分に10% |
仲介手数料の消費税 | 課税10% | 課税10% | 課税10% |
手数料の消費税を控除できるか | 不可(納税義務者でない) | 個別対応方式では不可 | 課税売上対応部分は控除の余地あり |
課税売上割合への影響 | ― | 譲渡対価の5%が分母に加算 | 課税売上が増え割合は上がりやすい |
インボイスの実益 | 実益なし(保管はする) | 一括比例配分方式なら必要 | 必要(受領・交付の両面) |
資金繰りの注意点 | 消費税分の持ち出し | 控除できない前提で予算化 | 預かった消費税の納付資金を確保 |
株式譲渡と事業譲渡の総合的な比較は「株式譲渡 vs 事業譲渡|どっちがいい?」で整理しています。
インボイス制度で売り手が確認すべきこと

インボイス(適格請求書)が必要になるのは、仕入税額控除を行う立場にある売り手だけです。 個人オーナーの株式譲渡では実益がなく、法人株主や事業譲渡の売り手では実務対応が必要になります。
適格請求書は、税務署長の登録を受けた適格請求書発行事業者でなければ交付できません。登録番号の構成は、法人番号を有する課税事業者は「T+法人番号」、それ以外は「T+13桁の数字」です。
出典:国税庁 タックスアンサー No.6498 適格請求書等保存方式(インボイス制度)(2026年8月19日確認)
仲介会社からの請求書でチェックする6項目
# | 記載事項 |
|---|---|
1 | 書類作成者の氏名または名称および登録番号 |
2 | 取引年月日 |
3 | 取引内容(軽減税率の対象品目である旨) |
4 | 税率ごとに区分して合計した対価の額および適用税率 |
5 | 税率ごとに区分した消費税額等 |
6 | 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称 |
出典:国税庁 タックスアンサー No.6625 適格請求書等の記載事項(2026年8月19日確認)
保存期間は、受領した日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間です(6年目・7年目は帳簿または請求書等のいずれか一方でよいとされています)。
仲介会社の登録番号を確認する手順
契約前に確認しておけば、後から「インボイスが出ない」と気づく事態を避けられます。
- 国税庁「法人番号公表サイト」で、仲介会社の商号から13桁の法人番号を検索する
- 国税庁「適格請求書発行事業者公表サイト」で、その番号(Tを除く13桁)を入力して登録の有無・登録年月日を確認する
- 契約書または見積書に記載された登録番号と一致するかを照合する
上場している大手仲介会社であっても、請求書に記載された登録番号は必ず照合してください。 特に注意すべきは、個人のM&Aアドバイザーや小規模なFAに依頼するケースです。相手が免税事業者であれば適格請求書は交付されず、控除できる金額が経過措置の範囲に限られます。
立場別・インボイスの必要性
売り手の立場 | インボイスの実益 |
|---|---|
個人オーナーが株式を売る | 実益なし(証憑として保管) |
法人が子会社株式を売る(個別対応方式) | 保存しても控除できない |
法人が子会社株式を売る(一括比例配分方式) | 課税売上割合分の控除に必要 |
事業譲渡で売る(課税事業者) | 受領・交付の両方で必要 |
依頼先が免税事業者 | 適格請求書が出ない。経過措置の範囲のみ控除 |
2026年10月から変わる|免税事業者からの仕入れの経過措置
免税事業者などインボイス発行事業者以外からの課税仕入れについて、控除できる割合が令和8年度税制改正で見直されました。 従来「80%→50%」と説明されていた段階が、「80%→70%→50%→30%」に変更され、適用期限も2年延長されています。
免税事業者などインボイス発行事業者以外の者から行った課税仕入れにつき、その一定割合を控除できる経過措置について、適用期限を2年間延長した上で、控除可能割合が見直されました(=7・5・3割控除)。
7・5・3割控除については、一のインボイス発行事業者以外の者からの課税仕入れの合計額(税込み)が、その年又は事業年度で 1億円(改正前:10億円) を超える場合には、その超えた部分の課税仕入れについて適用できません。
※ 令和8年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。
出典:国税庁「令和8年度税制改正特集(インボイス制度)」(2026年8月19日確認)
控除可能割合の推移
期間 | 控除可能割合 |
|---|---|
2023年10月〜2026年9月(令和5年10月〜令和8年9月) | 80% |
2026年10月〜2028年9月(令和8年10月〜令和10年9月) | 70% |
2028年10月〜2030年9月(令和10年10月〜令和12年9月) | 50% |
2030年10月〜2031年9月(令和12年10月〜令和13年9月) | 30% |
2031年10月以降 | 適用なし |
※上表は暦のうえでの区切りを示したものです。改正後の割合は「令和8年10月1日以後に開始する課税期間」から適用されるため、実際に何%を適用するかは自社の事業年度(暦年)の開始日で判定します。
「いつから自社に適用されるか」に注意
70%控除は「令和8年10月1日以後に開始する課税期間」から適用されます。 2026年10月1日を過ぎればすぐ切り替わるわけではありません。
- 3月決算法人:2026年4月1日開始の期は80%のまま。2027年4月1日開始の期から70%
- 12月決算法人・個人事業者:2027年1月1日開始の課税期間から70%
免税事業者のアドバイザーに依頼している場合、この切り替え時期をまたぐかどうかで控除額が変わります。案件が長期化しているケースでは、請求のタイミングも含めて確認しておくとよいでしょう。
なお、同じ改正で個人事業者向けの「3割特例」(インボイス登録により免税事業者から課税事業者となった個人事業者について、令和9年分・令和10年分の納付税額を売上税額の3割とできる特例)が創設されています。適用には、個人事業者であること、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であること、インボイス発行事業者の登録を受けていることなどの要件があります。個人事業の売却を検討している方は「個人事業主・フリーランスの事業売却」もあわせてご確認ください。

見落としやすい落とし穴3つ
1. 補助金は「税抜額」が対象。消費税分は自己負担で残る
事業承継・M&A補助金の専門家活用枠を使えば仲介手数料の一部が補助されますが、補助対象経費は税抜額で申請します。
Q. 補助対象経費の申請は、税抜/税込どちらでの記入となりますか。
A. 補助対象経費の申請は、税抜額を記入してください。出典:事業承継・M&A補助金 12次公募 専門家活用枠「よくある質問」(2026年8月19日確認)
つまり、成功報酬2,000万円(税抜)+消費税200万円を支払った場合、補助率1/2で補助されるのは税抜2,000万円をベースとした金額であり、消費税200万円は補助の対象外です。「補助金が出るから実質負担は半分」と考えていると、この200万円が計算から抜け落ちます。なお、公募要領やFAQは回次ごとに変わるため、申請時点の最新の公募要領を必ず確認してください。補助金の詳細は「事業承継・M&A補助金とは?」で解説しています。
2. 最低報酬が適用される小規模案件ほど、消費税の負担率が重い
譲渡価額5,000万円の案件で最低報酬2,000万円(税抜)が適用されると、支払額は2,200万円(税込)です。譲渡価額に対する負担率は44%に達します。小規模案件では、最低報酬の水準そのものが手取りを左右します。「最低報酬が安いM&A仲介会社の比較」もご覧ください。
3. デューデリジェンス費用や専門家報酬にも消費税がかかる
仲介手数料だけを見て予算を組むと、弁護士のリーガルチェック費用や税理士報酬に上乗せされる消費税が抜けます。売り手側で発生する実費は「デューデリジェンス費用の相場・準備ガイド」で確認できます。
契約前チェックリスト|税抜/税込の確認項目
中小M&Aガイドライン(第3版)は、仲介者・FAに対し、契約締結前に書面を交付して手数料の算定基準を説明することを求めています。
成功報酬において採用される報酬率、報酬基準額(譲渡額/純資産/移動総資産等)、最低手数料の額、報酬の発生タイミング(着手金/月額報酬/中間金/成功報酬)等の手数料の算定基準や提供する具体的な業務の内容について書面を交付して(メール送付等といった電磁的方法による提供を含む。)、説明しなければならない。
出典:中小企業庁『中小M&Aガイドライン(第3版)』令和6年8月、p.88(2026年8月19日確認)
この説明を受ける場が、税抜/税込を確認する絶好のタイミングです。以下を口頭ではなく書面で確認してください。
- 提示された手数料額は税抜か税込か(見積書に明記されているか)
- 最低成功報酬の額は税抜か税込か
- 着手金・中間金それぞれの税込金額はいくらか
- 消費税の請求タイミング(各報酬の請求時か、成約時一括か)
- 実費・立替金に消費税が加算されるか、実費精算なのか
- 仲介会社の適格請求書発行事業者としての登録番号
- 中間金が返金される場合、消費税相当額も返金されるか
- 補助金申請を予定している場合、税抜額ベースの見積書を出してもらえるか
なお、中小M&Aガイドラインが「税抜/税込の別を説明せよ」と明文で定めているわけではありません。あくまで、手数料の算定基準を明確に説明する義務の一環として確認する項目です。契約書全般の注意点は「M&A仲介契約の注意点・チェックリスト」で整理しています。

消費税の影響が特に大きい売り手・限定的な売り手
消費税の負担を重く見るべきケース
- 譲渡価額が1億円以下で、最低報酬が適用される個人オーナー — 消費税200万円前後が丸ごと持ち出しになり、手取りへの影響が相対的に大きい
- 子会社株式の売却を予定している法人(親会社・持株会社) — 手数料の消費税が控除できないうえ、課税売上割合の低下で通常の仕入れの控除まで減る
- 事業譲渡で売却する法人・個人事業主 — 譲渡対価に消費税が乗るため、預かった消費税の納付資金を確保しないと資金繰りが破綻しうる
- 免税事業者のアドバイザーに依頼している課税事業者 — 経過措置の範囲でしか控除できず、2026年10月以後開始の課税期間からは割合がさらに下がる
消費税の影響が相対的に小さいケース
- 譲渡価額が大きく、手数料の負担率が下がる案件 — 消費税の絶対額は増えますが、譲渡価額に対する比率は下がります
- もともと課税売上割合が低い法人 — 追加的な悪影響は相対的に小さくなります(ただし控除できない前提での予算化は必要)
- 手数料を税込で提示している仲介会社と契約する場合 — 見積時点で支払総額が確定しており、資金計画がぶれにくくなります
いずれのケースでも、消費税は「値引き交渉できない固定コスト」である点は共通です。交渉できるのは本体価格(報酬率・最低報酬・着手金の有無)であり、消費税だけを免除してもらうことはできません。手数料そのものを下げたい場合は「完全成功報酬のM&A仲介会社比較」「着手金なしのM&A仲介会社比較」を参考に、料金体系から選び直すのが現実的です。
よくある質問
Q. 「完全成功報酬制」の仲介会社でも消費税はかかりますか?
かかります。完全成功報酬制とは着手金・中間金が発生しないという意味であり、成約時に支払う成功報酬は課税取引です。成功報酬が税抜表示であれば、支払額は1.1倍になります。
Q. 消費税は成約時に一括で請求されますか?
各報酬の請求時に、その都度課税されるのが一般的です。着手金の請求時には着手金分の消費税、成功報酬の請求時には成功報酬分の消費税がかかります。複数回に分けて支払う契約では、どの時点でいくら必要になるかを事前に確認しておくと資金計画が立てやすくなります。
Q. 中間金が返金されたら、消費税相当額も戻ってきますか?
契約条件次第です。返金の取扱いは仲介契約書の条項によるため、返金の有無・範囲・消費税相当額の扱いを契約前に確認してください。そもそも着手金・中間金は返金されない契約が一般的です。
Q. 仲介会社が適格請求書を出してくれない場合はどうすればよいですか?
適格請求書発行事業者は、課税事業者である取引相手の求めに応じて適格請求書を交付する義務を負います。まず登録番号を照会し、登録事業者であれば交付を依頼してください。登録がない事業者であれば適格請求書は交付されないため、経過措置の範囲で控除することになります。契約前の確認が最も確実です。
Q. 経過措置の70%控除は、自社にいつから適用されますか?
令和8年(2026年)10月1日以後に開始する課税期間からです。3月決算法人であれば2027年4月1日開始の事業年度から、暦年で計算する個人事業者であれば2027年1月1日からとなります。2026年10月1日を過ぎた時点で自動的に切り替わるわけではない点にご注意ください。
Q. 株式譲渡と事業譲渡、消費税だけで選んでよいですか?
おすすめしません。消費税は判断材料の一つにすぎず、譲渡所得税・法人税、許認可や契約の引継ぎ、簿外債務のリスク、買い手の希望など、他の要素のほうが結論を左右することが多いためです。スキームの選択は、税理士とM&Aアドバイザーの双方に相談したうえで決めてください。
まとめ
- M&A仲介手数料(着手金・月額報酬・中間金・成功報酬)には消費税10%がかかる。株式の譲渡対価そのものは非課税
- 公表されている手数料額は税抜が一般的。最低成功報酬2,000万円(税抜)は税込2,200万円で、差額は200万円
- 個人オーナーの株式譲渡では、支払った消費税を取り戻す手段は原則としてない。譲渡所得の必要経費として税込金額を算入するのが通常
- 法人が子会社株式を売る場合、個別対応方式では控除不可。加えて譲渡対価の5%が課税売上割合の分母に加算され、その期の消費税負担が増えうる
- 事業譲渡では譲渡対価の課税資産部分に消費税が発生する。預かった消費税の納付資金を確保する
- 令和8年度税制改正により、免税事業者等からの課税仕入れの経過措置は「80%→70%→50%→30%」へ。70%控除は令和8年10月1日以後に開始する課税期間から
- 事業承継・M&A補助金の補助対象は税抜額。消費税分は自己負担で残る
税務判断についての注記: 本記事は2026年8月19日時点で公表されている法令・通達・行政資料に基づく一般的な整理です。具体的な税務上の取扱いは、取引内容・契約条件・採用している計算方式・会社の状況によって異なります。実際の判断は必ず顧問税理士にご相談ください。
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