赤字・債務超過でも会社は売却できる?可能性・スキーム・経営者保証の実務ガイド
ホームお役立ち記事赤字・債務超過でも会社は売却できる?可能性・スキーム・経営者保証の実務ガイド
ガイド

赤字・債務超過でも会社は売却できる?可能性・スキーム・経営者保証の実務ガイド

赤字・債務超過の会社を売却できるのかを、公的統計・スキーム比較・経営者保証の扱い・資金の残り時間別の判断基準で整理。株式譲渡/事業譲渡/第二会社方式などの違い、価格が0円・1円になるケース、公的な無料相談窓口までを売り手オーナー向けに解説します。

M&A比較レビュー編集部2026/8/1612分で読める

赤字でも債務超過でも、会社の売却は可能です。ただし「株式をそのまま高く売る」という形になることは少なく、どのスキームを選び、誰に、いつ相談するかで結果がまったく変わります。

そもそも赤字であること自体は、日本の会社にとって例外的な状態ではありません。国税庁の会社標本調査(最新公表分)によれば、法人299万9,680社のうち欠損法人(赤字法人)は180万7,925社で、全法人の60.3%が赤字です(出典: 国税庁 会社標本調査、2026年8月17日確認)。「うちは赤字だから売れない」と最初から諦める必要はありません。

日本の法人の約6割が赤字法人であることを示す割合のイメージ図

この記事でわかること

  • 赤字・債務超過でも売却が成立する条件と、成立しにくくなる条件
  • 買い手が「赤字でも欲しい」と考える具体的な評価ポイント
  • 手元資金の残り月数によって変わる、取るべき行動と相談先
  • 株式譲渡・事業譲渡・会社分割・第二会社方式など6つの手法の違い
  • 譲渡価格が0円・1円になるケースと、それでも売却する意味
  • 借入金・経営者保証(個人保証)がどう扱われるか
  • 詐害行為・粉飾など、絶対に避けるべき進め方
  • 廃業・破産と比較したときの判断基準と、無料で使える公的相談窓口

こんな方に向けた記事です

  • 直近の決算が赤字、または純資産がマイナス(債務超過)になっている中小企業のオーナー
  • 借入金や個人保証があり、「会社を売っても保証が残るのでは」と不安を抱えている経営者
  • 廃業と売却のどちらを選ぶべきか迷っている方
  • 金融機関にリスケジュール(返済条件変更)を依頼している状態で、事業の出口を探している方

注意: 本記事は公表されている公的資料・ガイドラインをもとに整理した一般的な実務情報です。債務整理を伴うスキーム、低額での株式譲渡、債務免除益の税務処理などは、個別事情によって結論が大きく変わります。実際の判断は必ず弁護士・税理士等の専門家にご相談ください。

結論:赤字・債務超過でも売却はできる。決め手は「スキーム」と「残り時間」

赤字・債務超過の会社の売却可否は、決算書の見た目だけでは決まりません。実務上、成否を分けるのは次の5点です。

  1. 買い手が欲しがる資産・機能があるか(許認可・人材・顧客・技術・立地など)
  2. 赤字が一過性か、構造的か(説明できるかどうかを含む)
  3. 手元資金があと何ヶ月もつか(残り時間が最大の制約)
  4. 金融機関をはじめとする債権者の協力が得られるか
  5. 簿外債務・粉飾がないか(あると難易度が一段跳ね上がる)

逆に言えば、この5点のうち複数が揃っていれば、債務超過であっても買い手が現れる余地はあります。実際、事業承継・引継ぎ支援センター(全国47都道府県設置の公的窓口)の令和6年度の第三者承継(M&A)成約件数は2,132件で過去最高を更新しており、中小企業の第三者への引継ぎ自体は年々広がっています(出典: 中小機構プレスリリース(2025年5月30日)、2026年8月17日確認)。

一方で、東京商工リサーチの調査では2025年の休廃業・解散は6万7,210件と過去最多で、そのうち直前期が赤字だった企業は47.2%でした(出典: 東京商工リサーチ「2025年『休廃業・解散』企業動向調査」、2026年8月17日確認)。売却の可能性を検討しないまま市場から退出している赤字企業が、毎年相当数存在するということです。

この記事の結論を先に言えば、「赤字・債務超過の会社ほど、早い段階で公的窓口を含む専門家に相談することが、選択肢を残す唯一の方法」です。

赤字・債務超過・資金ショートは何が違うのか

まず前提として、この3つはまったく別の状態です。混同したまま相談に行くと、話が噛み合いません。

状態

どこに現れるか

意味

緊急度

赤字

損益計算書(P/L)

当期純損益がマイナス。フロー(1年間の成績)の問題

中(慢性化すると高)

債務超過

貸借対照表(B/S)

負債総額が資産総額を上回り、純資産がマイナス。ストック(積み重ね)の問題

資金ショート

資金繰り表・預金残高

支払いに必要な現金が足りない状態

最高(即倒産に直結)

押さえておくべき事実関係は3つです。

赤字=債務超過ではありません。 赤字が続いた結果として利益剰余金が食い潰され、やがて純資産がマイナスになる、という順序で債務超過に至ります。単年度赤字の段階と、10年分の赤字が積み上がった債務超過とでは、買い手の見方は大きく変わります。

債務超過でも、直ちに倒産するわけではありません。 資金繰りが回っている限り事業は継続できます。M&Aの検討も当然できます。

帳簿上は資産超過でも、実質債務超過というケースは中小企業では珍しくありません。 不良在庫、回収見込みのない売掛金・貸付金、含み損を抱えた不動産などを時価評価し直すと純資産がマイナスになる、という状態です。これは買い手のデューデリジェンス(買収監査)で必ず論点になります。自社が該当しそうな場合は、交渉前に自分で把握しておくべきです(参考: M&A 簿外債務・偶発債務とはM&A 売却前の財務クリーニング)。

赤字でも買い手が評価する8つの要素

買い手は「過去の利益」ではなく「自社が手に入れられるもの」を買います。 赤字であっても、次のいずれかを持っていれば買収対象になり得ます。自社に当てはまるものがないか確認してください。

赤字企業でも買い手が評価する許認可・人材・顧客基盤・技術・立地を表したイメージ図

評価される要素

具体例

買い手にとっての意味

許認可・免許

建設業許可、産業廃棄物処理業、一般貨物自動車運送事業、介護事業所指定、薬局開設許可、酒類販売免許

新規取得に年単位の時間と要件充足が必要。買収が最短ルートになる

人材

施工管理技士・薬剤師・介護福祉士・大型ドライバー等の有資格者、熟練工

採用難の職種は「人ごと引き継ぐ」価値がある

顧客基盤・取引口座

大手企業との継続取引、元請口座、指定業者登録

新規開拓のコストと時間を丸ごと省ける

技術・特許・ノウハウ

独自製法、金型、レシピ、自社開発ソフトウェア

内製化するより買収したほうが早い

立地・不動産・設備

好立地の店舗、稼働中の工場・生産設備

同じものを再現するには多額の投資が必要

ブランド・商圏

地域での知名度、EC・SNSの顧客リスト

マーケティングコストの代替になる

シナジー

仕入の統合、間接部門の集約、販路の共有

買い手の体制に組み込めば黒字化できる見込みが立つ

繰越欠損金

過去の赤字の税務上の繰越

制度上の制限が厳しく、単独の売り文句にはならない(後述)

「なぜ赤字なのか」を数字で説明できるかが交渉力を決める

同じ赤字でも、買い手の受け止め方はまったく異なります。

  • 一過性の赤字(大型設備投資、一時的な訴訟費用、大口取引先の撤退、感染症の影響、役員報酬の取りすぎ)→ 説明できれば評価は下がりにくい
  • 構造的な赤字(売上が毎年減少、粗利率が業界平均を大きく下回る、固定費が売上規模に見合わない)→ 買い手側で改善できる根拠が必要

実務では、役員報酬・オーナー個人の経費・過大な保険料などを戻して算出した正常収益力(調整後EBITDA)を提示するのが定石です。「実質的には黒字だが、節税のために赤字にしていた」というケースは中小企業では多く、その説明を裏づけ資料つきで出せるかどうかが価格に直結します(参考: EBITDA倍率とは)。

売却できる会社と、難しい会社の分かれ目

現時点の実務感覚として、条件を整理すると次のようになります。断定はできませんが、相談前の自己診断の目安として使ってください。

項目

売却の可能性が高い

売却が難しくなる

赤字の性質

単年度・一過性で原因を説明できる

5年以上の慢性赤字で改善策がない

事業の中身

許認可・有資格者・継続取引先がある

特定の1社への依存が強く、その1社も離脱見込み

資金繰り

12ヶ月以上の運転資金の目処がある

3ヶ月以内に資金が尽きる

債務の内容

金融債務中心で、金融機関と対話できている

税金・社会保険料の長期滞納、私的な借入が混在

情報の正確性

試算表・資金繰り表がすぐ出せる

粉飾・簿外債務があり実態が不明

経営者の姿勢

譲渡価格ゼロでも事業存続を優先できる

「最低○億円でなければ売らない」と価格に固執

税金・社会保険料の滞納は特に注意が必要です。 これらは他の債権に優先し、差押えのリスクもあるため、買い手・金融機関の双方が強く警戒します。滞納がある場合は、まず分納協議の状況を整理してから相談してください。

手元資金の残り時間で、取るべき行動は変わる

赤字・債務超過の案件で最大の制約は「時間」です。 M&Aは通常6ヶ月〜1年、再生スキームを絡めるとさらに長期化します。資金が尽きてから相談しても、選べる選択肢はほぼ破産だけになります。

手元資金の残り月数によって取るべき行動が分岐することを示すイメージ図

手元資金の残り

現実的に取れる選択肢

最初に相談すべき先

12ヶ月以上

通常のM&A(株式譲渡・事業譲渡)。買い手を複数比較でき、条件交渉の余地も大きい

M&A仲介・FA、事業承継・引継ぎ支援センター

6〜12ヶ月

M&Aは可能だが買い手の選択肢は狭まる。同時に金融機関との条件変更(リスケ)も検討

事業承継・引継ぎ支援センター、メインバンク

3〜6ヶ月

スポンサー型再生、第二会社方式など再生系スキームの検討。単独のM&Aは間に合わない可能性

中小企業活性化協議会、事業再生に強い弁護士

3ヶ月未満

資金繰りの確保が最優先。並行して私的整理・法的整理の準備

中小企業活性化協議会、弁護士(即日相談)

「まだ大丈夫」と思っている時期が、実は最も選択肢が多い

赤字企業の相談で最も多いのが「もっと早く来ていれば」というケースです。業績が悪化してから買い手を探すと、価格も条件も足元を見られます。リスケジュール中でも売却は可能ですが、金融機関との情報共有が前提になるため、独断で進めないでください。

売却全体のスケジュール感はM&A 売却にかかる期間・タイムラインで整理しています。

赤字・債務超過会社の売却スキーム6種類を比較

債務超過の会社を売る場合、「どの手法を使うか」が価格そのものより重要です。 負債がどこへ行くか、オーナーの手元に何が残るか、許認可が引き継げるかがすべて変わります。

株式譲渡・事業譲渡・会社分割・第二会社方式で負債の行き先が異なることを示すイメージ図

手法

負債の行き先

オーナーの手取り

許認可

難易度

主な留意点

株式譲渡

会社ごと移転し、負債も買い手側へ

株式の譲渡代金(債務超過だと0円〜1円になりやすい)

そのまま維持

簿外債務も承継されるため買い手が慎重に。経営者保証は自動では外れない

事業譲渡

原則として旧会社に残る

代金は会社に入る。オーナー個人には直接入らない

原則として再取得が必要

契約の巻き直し・従業員の再雇用手続が必要。代金は残債務の弁済原資に充てるのが基本

会社分割

分割契約・計画で指定した範囲が移転

対価の設計による

承継できるものが多い

中〜高

債権者保護手続が必要。詐害的分割と評価されるリスク

第二会社方式

優良事業は新会社、過剰債務は旧会社に残して清算

原則としてほぼ残らない

産業競争力強化法の認定を受ければ承継しやすくなる

金融機関の同意が事実上必須。弁護士・公的機関の関与が前提

スポンサー型再生

債権カット後にスポンサーへ承継

原則としてほぼ残らない

手続による

私的整理なら対象債権者全員の同意、法的整理なら裁判所手続が必要

DES(デット・エクイティ・スワップ)

借入金を資本に振り替えて債務超過を解消

直接の対価はなし。M&Aの前段階の措置

影響なし

債務消滅益への課税、金融機関の同意、既存株主の持分希薄化

株式譲渡:手続きは最も簡単だが、価格はつきにくい

会社の株式をそのまま買い手に譲る方法です。従業員の雇用契約・取引契約・許認可がそのまま維持されるため、事業への影響が最も小さくて済みます。

一方で、債務超過の会社は時価純資産がマイナスなので、株式の評価額は0円または備忘価額1円になることが実務上あります。買い手は負債もまとめて引き受けるため、簿外債務のチェックが厳しくなります。

事業譲渡:負債を切り離せるため成立しやすい

買い手が引き継ぐ資産・契約・従業員を個別に選んで譲り受ける方法です。債務は原則として旧会社に残るため、買い手にとってリスクが遮断しやすく、赤字企業のM&Aでは現実的な選択肢になります。

ただし注意点が2つあります。ひとつは、代金が入るのは会社であって、オーナー個人ではないこと。受け取った代金は借入金などの弁済に充てるのが基本です。もうひとつは、取引契約の巻き直しや従業員の再雇用手続、許認可の再取得が必要になり、手間と時間がかかることです。

株式譲渡と事業譲渡の違いは株式譲渡 vs 事業譲渡 どっちがいいで詳しく比較しています。

会社分割:包括承継できるが債権者保護手続が必要

事業に関する権利義務を、分割契約または分割計画で定めた範囲でまとめて承継させる方法です。個別の契約巻き直しが少なくて済む一方、債権者保護手続(官報公告・個別催告等)が必要で、残された債権者を害する内容だと問題になります(参考: M&A 会社分割とは)。

第二会社方式:過剰債務を切り離す手法だが、必ず債権者の合意が前提

採算の取れる事業だけを会社分割または事業譲渡で新会社(第二会社)に移し、不採算事業と過剰債務が残った旧会社を清算する再生手法です。産業競争力強化法に基づく認定を受けた場合、許認可の第二会社への承継や登録免許税・不動産取得税の軽減、日本政策金融公庫の融資制度といった支援措置の対象になり得ます(出典: 中小機構 J-Net21、2026年8月17日確認。具体的な認定要件・軽減内容は最新の制度内容を個別に確認してください)。

ただし、「債務だけを置き去りにできる便利な方法」ではありません。 金融機関をはじめとする債権者の同意と、第三者の評価に基づく適正な対価の設定が事実上の前提条件です。これを欠くと、次章で述べる詐害行為の問題に直結します。弁護士および中小企業活性化協議会等の公的枠組みの関与を前提に検討してください。

スポンサー型再生・DES:債務を圧縮してからM&Aの土俵に乗せる

金融債務を私的整理や法的整理で圧縮したうえで、スポンサー(買い手)に事業を承継させる方法です。中小企業向けには「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」(令和4年3月策定・令和6年1月一部改定)が整備されており、再生型私的整理手続(対象債権者全員の同意で返済猶予・債務減免)と廃業型私的整理手続(弁済計画に全員が同意し、一部弁済のうえ残債務を免除)の2つの手続が用意されています(出典: 全国銀行協会、2026年8月17日確認)。

DESは借入金を資本に振り替えてB/Sを改善する手法で、債務超過を解消してM&Aの検討に入れるようにする前段階の措置です。債務消滅益への課税が論点になるため、税理士の関与が必須です。

各手法の全体像はM&Aスキームとは 種類・選び方も参考にしてください。

売却価格はどう決まるか:0円・1円でも売る意味がある

債務超過の会社の株式譲渡価格は、0円または1円になることが現実にあります。 時価純資産法で評価すると株式価値がマイナスになるためです。それでも売却する意味があるかどうかは、価格だけでは判断できません。

価格がつくケースとつかないケース

  • つきにくい:時価純資産がマイナスで、将来キャッシュフローの見通しも立たない場合
  • つく可能性がある:純資産はマイナスでも、事業単体では営業キャッシュフローが黒字で、過剰債務を切り離せば収益力がある場合(インカムアプローチで正の価値が出る)
  • 事業譲渡なら値がつきやすい:譲渡対象の資産+のれんに対して価格が設定されるため、負債の重さと切り離して評価される

算定手法の考え方はM&A バリュエーション手法比較、相場観は会社売却 いくらで売れる?相場・算定方法で解説しています。

手取りゼロでも売却を選ぶ理由

譲渡代金が事実上ゼロでも、売り手にとって次の便益があります。ここを踏まえずに「タダなら売らない」と判断すると、結果的に破産という最も損失の大きい出口になりかねません。

  1. 経営者保証の解除交渉ができる(買い手が借入を引き継ぐ/リファイナンスする形で個人保証を外す道が開ける)
  2. 従業員の雇用が維持される
  3. 廃業コストを負担せずに済む(設備処分費・原状回復費・退職金・清算費用は数十万〜数千万円規模になり得る)
  4. 取引先との関係が断絶しない
  5. 保証履行や個人破産に至るリスクを回避できる可能性がある

低額譲渡には税務上の論点がある

実態とかけ離れた低額での株式譲渡は、みなし贈与(相続税法9条)や法人税法上の寄附金認定を指摘される可能性があります。第三者間の独立した取引であること、算定根拠の資料を残していることが重要です。譲渡価格の設定は、必ず事前に税理士に確認してください。

借入金と経営者保証(個人保証)はどうなるか

株式譲渡でも事業譲渡でも、オーナー個人の連帯保証は自動的には外れません。 保証契約は金融機関とオーナー個人の間の契約であり、株主が変わっただけでは効力に影響しないためです。ここは売り手にとって最大の論点です。

M&A後に経営者保証(個人保証)を解除する複数のルートを表したイメージ図

保証を外すための実務上の選択肢

方法

内容

実現のポイント

保証人の差し替え

買い手の代表者・買い手企業が新たに保証人となる

買い手の信用力次第。金融機関の承諾が必要

買い手による一括返済(リファイナンス)

買い手が既存借入を返済し、自社の枠で借り換える

買い手の資金力が前提。最も確実

三者協議

売り手・買い手・金融機関で解除条件を協議

早い段階から金融機関を巻き込む必要がある

経営者保証GLに基づく保証債務整理

保証履行が避けられない場合に、残存資産を協議したうえで整理する

私的整理・特定調停等の枠組みを用いる

契約に「保証解除」を組み込む

実務では、株式譲渡契約(SPA)のクロージング条件(前提条件)として「対象会社の借入に関する売主の連帯保証が解除されること」を明記します。保証解除の見通しが立たないまま契約を締結・実行してはいけません。 保証が残ったままM&A後に会社が破綻すれば、旧オーナーに保証履行を求められます。

中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」は2024年8月30日に第3版が公表され、経営者保証に関するトラブルへの対応や、譲り受け側(買い手)に関する調査、重要事項説明の充実などが盛り込まれました(出典: 中小企業庁経済産業省プレスリリース、2026年8月17日確認)。仲介会社・FAを選ぶ際は、このガイドラインの遵守を宣言しているかを確認してください。

保証債務の整理が避けられない場合

「経営者保証に関するガイドライン」では、保証債務を整理する際に保証人の手元に残せる残存資産として、破産手続における自由財産、一定期間の生計費、華美でない自宅などが認められる場合があります。生計費については「標準的な生計費(月額33万円)×雇用保険の給付期間(90〜330日)」を参考とする運用が示されていますが、これはあくまで目安であり、必ずこの金額が認められるわけではありません。廃業時の考え方については金融庁が公表している「廃業時における『経営者保証に関するガイドライン』の基本的考え方」が参考になります(2026年8月17日確認)。

保証債務の整理は個別性が極めて高い領域です。残存資産の範囲や手続の選択は、必ず弁護士に相談したうえで進めてください。

保証解除の具体的な進め方は会社売却 個人保証・連帯保証 解除方法で詳しく解説しています。

金融機関への伝え方とタイミング

赤字・債務超過の案件では、通常のM&Aと金融機関対応の考え方が変わります。 財務に問題のない会社のM&Aでは最終契約後に報告するのが原則ですが、債務整理や債権カットを伴う場合は、メインバンクが事実上の同意者になるため、早い段階からの相談が前提になります。

判断の目安は次のとおりです。

  • 通常のM&A(債務は買い手が引き継ぐ/完済できる見込みがある):情報漏洩リスクを避けるため、原則として最終契約前後の報告。仲介会社・弁護士と協議のうえタイミングを決める
  • リスケ中・債権カットを伴う可能性がある:事前相談が必須。無断でスキームを進めると信頼関係が決定的に損なわれ、その後の協議が成立しなくなる
  • 第二会社方式・私的整理を検討する:全対象債権者の同意が必要になるため、公的枠組み(中小企業活性化協議会等)を通じた協議の場を設けるのが実務的

金融機関への対応全般は会社売却 銀行・金融機関への対応方法にまとめています。

やってはいけない5つのこと

赤字・債務超過の会社の売却では、進め方を誤ると民事・刑事の責任を問われる可能性があります。以下は避けてください。

1. 粉飾・簿外債務を隠したまま譲渡する

デューデリジェンスで発見されれば破談、契約後に発覚すれば表明保証違反による損害賠償請求、悪質な場合は詐欺として刑事責任が問われる可能性もあります。過去には粉飾を隠した売却について賠償が認められた事例もあります(参考: 粉飾決算M&A・詐欺的売却の判例解説)。先に開示したほうが、結果として条件を守れます。

2. 債権者に無断で優良事業だけを移す

優良事業を新会社に移し、旧会社に債務だけを残す構成は、対価が不相当に低い場合などに詐害行為(民法424条)と評価されるおそれがあります。会社法上も、詐害的な会社分割における残存債権者の履行請求(会社法759条4項等)、詐害的な事業譲渡における残存債権者の請求(会社法23条の2)、商号を続用した譲受会社の弁済責任(会社法22条)といった規定が置かれています。

避けるための実務は明確です。①第三者評価に基づく適正な対価、②債権者への事前説明と同意取得、③公的枠組み(中小企業活性化協議会・私的整理ガイドライン等)の利用、④弁護士の関与。この4点を欠いたスキームは実行しないでください。

3. 経営者保証の解除見通しがないまま契約を締結する

前述のとおり、保証が残ったままM&Aを実行し、その後に会社が破綻すると、旧オーナーに保証履行請求が及びます。クロージング条件として明記できないなら、条件を再交渉すべき場面です。

4. 従業員・取引先に先に伝えてしまう

情報が漏れると人材流出・取引条件の変更が起き、企業価値がさらに毀損します。赤字企業ほどこのダメージが致命的になります(参考: 会社売却 従業員への説明タイミング)。

5. 資金が尽きるまで相談を先延ばしにする

最も多く、最も取り返しがつかない失敗です。残り3ヶ月を切ると、事実上M&Aは間に合いません。

税金の注意点:繰越欠損金・債務免除益・低額譲渡

税務は赤字企業のM&Aで最も誤解の多い領域です。以下は概要にとどめます。実際の適用可否は必ず税理士に確認してください。

繰越欠損金は「買い手の魅力」になりにくい

「赤字が溜まっているから節税目的で買ってもらえる」という期待は、税制上ほとんど成立しません。

  • 単純な株式譲渡では法人格が存続するため繰越欠損金はその会社に残りますが、「特定株主等によって支配された欠損等法人」に該当し、事業廃止+新事業開始などの一定の事由があると、繰越欠損金の使用が制限されます(法人税法57条の2)
  • 適格合併で被合併法人の繰越欠損金を引き継ぐ場合も、支配関係5年超か、みなし共同事業要件(事業関連性・事業規模・事業規模の継続等)を満たす必要があります(法人税法57条3項)

(参考: 税務研究会の解説、2026年8月17日確認。制度改正の可能性があるため、適用時点の規定を税理士に確認してください)

債務免除益への課税

金融機関から債権放棄を受けると、会計・税務上は債務免除益が発生します。繰越欠損金や資産の評価損と相殺できるかが実務上の焦点で、私的整理ガイドラインや中小企業活性化協議会のスキームでは、期限切れ欠損金の損金算入等の特例が論点になります。ここを詰めずに債権カットの合意だけ進めると、想定外の納税が発生する可能性があります。

消費税の扱いの違い

株式譲渡は非課税取引ですが、事業譲渡は原則として課税取引です(棚卸資産・のれん等)。譲渡対価の設計時に見落とされやすい点です。

売却全般の税務は会社売却の税金・節税 完全ガイドにまとめています。

廃業・破産と比較したときの判断

売却が難しい場合でも、いきなり破産を選ぶ必要はありません。選択肢は段階的に用意されています。

選択肢

事業の存続

従業員

オーナーの保証債務

費用感

M&A(株式譲渡・事業譲渡)

存続

雇用が維持されやすい

交渉で解除を目指す

仲介手数料等

第二会社方式・スポンサー型再生

中核事業のみ存続

新会社へ転籍

経営者保証GLに基づき整理

専門家費用が重い

廃業型私的整理

終了

解雇(退職金・未払賃金の手当が論点)

経営者保証GLに基づき整理し得る

中程度

破産(法的整理)

終了

解雇

保証履行・個人破産に至る場合がある

予納金・弁護士費用

判断の順序は「M&A → 再生型スキーム → 廃業型私的整理 → 破産」です。 上から順に検討し、成立しないものを消していくのが、オーナー個人の資産と従業員の雇用を最も守れる進め方です。

なお、廃業を選ぶ場合でも、一部事業だけを譲渡して残りを廃業するという組み合わせが可能で、事業承継・M&A補助金には「廃業・再チャレンジ枠」も用意されています(参考: 事業承継・M&A補助金。公募回ごとに要件・補助額が変わるため、申請前に事務局の最新公募要領を確認してください)。M&Aと廃業の詳細な比較はM&Aか廃業か 比較・判断基準をご覧ください。

どこに相談すべきか:赤字案件は「公的窓口が先」

赤字・債務超過の案件では、いきなり民間のM&A仲介会社に行く前に、無料の公的窓口を使うのが現実的です。 一般に赤字案件は難易度が高く、成功報酬型の仲介会社では受託可否が会社ごとに分かれるため、事前確認が必要になります。

赤字・債務超過企業は公的窓口から相談すべきことを示す相談先の優先順位のイメージ図

相談先

費用

得意領域

こんなときに

事業承継・引継ぎ支援センター

無料

第三者承継(M&A)のマッチング、初期の方向づけ

まず何をすべきか整理したい。全国47都道府県に設置

中小企業活性化協議会

無料相談あり

収益力改善・再生支援・再チャレンジ支援

過剰債務・リスケ中で、再生型スキームが必要なとき

メインバンク

資金繰り、債務整理の同意

債務整理を伴う場合。ただし伝えるタイミングは専門家と相談

事業再生に強い弁護士

有料

第二会社方式、私的整理、詐害行為の回避設計

スキーム設計が必要な段階

M&A仲介会社・FA

主に成功報酬

買い手探索、条件交渉

事業自体に買い手がつく見込みがあるとき

M&Aマッチングプラットフォーム

比較的低額

小規模案件

事業規模が小さく、仲介手数料と見合わないとき

※費用の記載は各窓口が公表している一般的な取扱いに基づく整理です。民間の仲介会社・プラットフォームの手数料体系は各社で異なるため、契約前に必ず最新の料金表を確認してください。

中小企業活性化協議会は産業競争力強化法に基づき47都道府県に設置された公的機関で、2022年3月の「中小企業活性化パッケージ」により中小企業再生支援協議会と経営改善支援センターが統合されて発足しました(出典: 中小企業庁、2026年8月17日確認)。

民間に依頼する場合はM&A支援機関登録制度の登録を確認する

中小企業庁は、中小M&Aガイドラインの遵守を宣言した仲介者・FAを登録・公表するM&A支援機関登録制度を運用しています(登録機関検索はこちら)。赤字案件は進め方の難易度が高いため、登録の有無は最低限の確認事項として押さえておきましょう。

相談先の選び方全般はM&Aの相談先一覧、小規模案件向けの選択肢はスモールM&A仲介会社 比較・おすすめで整理しています。

売却を目指すべき企業 / 慎重に判断すべきケース

売却(M&A)を優先して検討すべき企業

  • 許認可・有資格者を抱えている — 建設業、運送業、産廃、介護、調剤薬局など。事業そのものに希少価値があり、赤字でも買い手がつきやすい
  • 赤字の原因を数字で説明できる — 一過性の投資・費用が原因で、正常収益力ベースでは黒字が見込める
  • 手元資金に6ヶ月以上の余裕がある — 買い手を比較し、条件交渉できる時間がある
  • 従業員の雇用を守りたい — 廃業では全員が職を失う。M&Aなら雇用継続の可能性が残る
  • 個人保証を外したい — 買い手への保証差し替えやリファイナンスは、M&Aでなければ実現しにくい
  • 税金・社会保険料の滞納がない、または分納協議が整っている — 買い手・金融機関の警戒感が下がる

売却以外の選択肢も並行して検討すべきケース

  • 手元資金が3ヶ月を切っている — 単独のM&Aは時間的に間に合わない可能性が高い。中小企業活性化協議会・弁護士への即時相談を優先
  • 粉飾決算があり、実態の把握ができていない — まず実態B/Sを作り直すところから。開示前提での再構築が必要
  • 事業に固有の資産・許認可・人材がなく、売上も継続的に減少している — 買い手が評価する要素が乏しい。廃業型私的整理を含めた整理を検討
  • 「最低○億円でなければ売らない」と価格に固執している — 債務超過案件では価格が0円〜1円になり得る前提を受け入れられないと、交渉が始まらない
  • 事業規模が極めて小さく、仲介手数料の最低報酬に見合わない — マッチングプラットフォームや事業承継・引継ぎ支援センターの活用が現実的

よくある質問(FAQ)

Q. 債務超過だと、そもそも買い手は現れないのでは?

「株式を有償で買う」買い手は限られますが、「事業を引き継ぐ」買い手なら現れる可能性があります。事業譲渡や会社分割であれば、買い手は過剰債務を引き受けずに必要な資産・人材・許認可だけを取得できるためです。買い手が見ているのは純資産ではなく、引き継いだ後に自社で黒字化できるかどうかです。

Q. 銀行に返済のリスケジュールを依頼中ですが、売却できますか?

可能です。ただし、リスケ中は金融機関との情報共有が前提になります。無断でスキームを進めると、その後の協議が成立しなくなる可能性があります。相談の順序と伝え方について、事前に弁護士やM&Aアドバイザーと打ち合わせてください。

Q. 売却したら、社長個人の借金(保証)はゼロになりますか?

自動的にはゼロになりません。保証契約は金融機関と個人の間の契約であるため、金融機関が解除に応じる必要があります。買い手による保証の差し替えや借入の一括返済によって解除される道はありますが、契約前に見通しを立てることが必須です。

Q. 譲渡価格が1円というのは、本当にあるのですか?

債務超過の株式譲渡では、備忘価額として1円で取引されるケースが実務上あります。この場合、売り手が得るのは金銭ではなく、保証解除の道筋・雇用の維持・廃業コストの回避といった非金銭的な便益です。なお、実態と乖離した低額譲渡には税務上の論点があるため、算定根拠を残し、税理士に確認してください。

Q. 赤字が溜まっているので、繰越欠損金を目当てに買ってもらえませんか?

期待しすぎないほうがよいでしょう。繰越欠損金の使用には法人税法上の制限(欠損等法人の規定、適格合併時のみなし共同事業要件等)があり、「節税目的の買収」は成立しにくい制度設計になっています。買い手が本当に評価するのは、許認可・人材・顧客基盤といった事業資産です。

Q. 従業員には、いつ伝えればよいですか?

原則として、最終契約前後まで開示しないのが実務です。赤字企業では情報漏洩による人材流出のダメージが特に大きく、それ自体が破談の原因になります。伝え方・タイミングは買い手と協議して決めてください。

Q. 相談は無料でできますか?

事業承継・引継ぎ支援センターと中小企業活性化協議会は、いずれも公的機関で初期相談は無料です。全国47都道府県に窓口があります。民間のM&A仲介会社も初回相談を無料としているところが多いですが、契約前に手数料体系(着手金・中間金・最低報酬)を必ず確認してください。

Q. 廃業したほうが早いのでは?

廃業にも費用と時間がかかります。設備処分費・原状回復費・退職金・登記費用・専門家報酬が発生し、業種によっては数百万円以上になることもあります。さらに、廃業しても借入が残れば個人保証は消えません。「廃業のほうが安く早い」とは限らないため、M&Aの可能性を確認してから判断してください。

まとめ

  • 赤字・債務超過でも売却は可能。 日本の法人の60.3%は赤字であり、赤字であること自体は特殊な状態ではない
  • 決め手はスキーム選択。 株式譲渡だけでなく、事業譲渡・会社分割・第二会社方式・スポンサー型再生まで含めて検討する
  • 買い手が見ているのは純資産ではなく事業資産。 許認可・有資格者・顧客基盤・技術・立地が評価される
  • 最大の制約は時間。 手元資金が3ヶ月を切ると、選べる選択肢はほぼなくなる
  • 経営者保証は自動では外れない。 解除の見通しが立たない条件で契約してはいけない
  • 債権者に無断のスキームは詐害行為のリスク。 適正な対価・事前同意・弁護士の関与が前提
  • 相談は公的窓口から。 事業承継・引継ぎ支援センターと中小企業活性化協議会は無料で使える

「もう手遅れかもしれない」と感じている段階が、実はまだ選択肢が残っている時期であることは少なくありません。まずは無料の公的窓口で現状を整理するところから始めてください。なお、本記事の内容は一般的な実務情報であり、税務・法務の最終判断は必ず税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。

関連記事:
会社売却とは?流れ・手順を完全ガイド
M&Aか廃業か 比較・判断基準
株式譲渡 vs 事業譲渡 どっちがいい
会社売却 個人保証・連帯保証 解除方法
会社売却 銀行・金融機関への対応方法
会社売却の税金・節税 完全ガイド
M&Aの相談先一覧(税理士・銀行・仲介会社)

M&A比較レビュー編集部 のプロフィール画像

M&A比較レビュー編集部

M&A仲介会社の選び方・費用・実績を徹底調査する専門編集部です。