株式譲渡の表明保証違反とは?薬局M&A判例から学ぶリスクと対策
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判例解説

株式譲渡の表明保証違反とは?薬局M&A判例から学ぶリスクと対策

薬局M&Aにおける表明保証違反の判例(札幌地裁令和2年判決)を詳しく解説。売り手・買い手が知るべきリスクと契約時のチェックポイントを整理しました。

M&A比較レビュー編集部2026/4/6更新日: 2026/4/79分で読める

表明保証違反とは、M&Aの株式譲渡契約で「真実かつ正確である」と保証した内容に反する事実が発覚した場合に、補償義務が生じる契約上の問題です。 薬局M&Aでは調剤報酬の不正請求や薬機法違反など業界特有のリスクが多く、一般的なM&Aよりも表明保証条項の設計が重要になります。

この記事では、薬局の株式譲渡で表明保証違反が争われた札幌地裁令和2年判決を中心に、売り手オーナーが訴訟リスクを避けるための具体的な対策を解説します。

この記事でわかること:

  • 表明保証(レプワラ)の基本的な仕組みと法的機能
  • 薬局M&Aで実際に争われた判例の詳細と裁判所の判断
  • 売り手が表明保証違反で訴えられないためのチェックリスト
  • 薬局M&A特有の表明保証条項の設計ポイント

こんな方に向けた記事です:

  • 薬局の売却を検討しているオーナー薬剤師
  • 薬局の買収を検討している企業の経営者・担当者
  • M&A仲介会社を通じて薬局の譲渡交渉を進めている方

注意: この記事は法律の一般的な解説であり、個別の法的判断を提供するものではありません。実際のM&A取引における表明保証条項の設計・交渉は、M&Aに精通した弁護士にご相談ください。

表明保証(レプワラ)の基本 ── M&Aにおける役割と法的機能

M&Aにおける表明保証の法的機能を示すイメージ図

表明保証(Representations and Warranties、通称「レプワラ」)とは、M&A取引の契約書において、当事者が「対象会社に関する一定の事項が真実かつ正確であること」を相手方に保証する条項です。

株式譲渡契約書(SPA)で用いられるこの条項は、主に3つの機能を果たします。

表明保証の3つの法的機能:

  • デューデリジェンス(DD)の補完 ── DDでは対象会社のすべての情報を確認することは現実的に不可能です。表明保証条項がDDでカバーしきれないリスクを埋める役割を持ちます
  • 情報の非対称性の解消 ── 売り手は買い手よりも対象会社の情報を多く持っています。表明保証により、売り手が持つ情報を契約上の責任に結びつけ、リスクを適正に配分します
  • 損害填補の根拠 ── 表明保証に違反があった場合、補償請求の法的な根拠となります

ここで重要なのは、表明保証条項それ自体は法的効果を直接定めるものではないという点です。補償条項・損害賠償条項・解除条項と組み合わせて初めて実効性を持ちます(出典:松尾綜合法律事務所コラム、2026年4月確認)。

つまり、「表明保証に違反した=自動的に損害賠償を払う」わけではなく、契約書内に「違反した場合にどう補償するか」が別途定められている必要があります。

【判例解説】札幌地裁 令和2年12月25日判決 ── 薬局M&Aの表明保証違反が争われた事例

薬局M&Aの表明保証違反が争われた札幌地裁判決のイメージ

薬局の株式譲渡において表明保証違反が正面から争われた裁判例として、札幌地裁令和2年(2020年)12月25日判決があります。 結論として、買主の約2.6億円の補償請求は全面棄却されました。

この判例は、薬局M&Aにおける表明保証違反の主張がどのように審理されるかを示す貴重な事例です。

事件の基本情報

項目

内容

事件番号

平成29年(ワ)第1617号

事件名

損失補償請求事件

裁判所

札幌地方裁判所

判決日

令和2年(2020年)12月25日

請求額

2億5,960万7,276円+遅延損害金

結論

原告(買主)の請求棄却

(出典:弁護士法人M&A総合法律事務所 判例解説記事、2026年4月確認)

注記: 本判例の分析は弁護士法人M&A総合法律事務所の判例解説記事に基づいています。判決全文は下級審判例のため裁判所サイトでは未公開の可能性があります。

当事者と対象会社

原告(買主): 在宅調剤事業への参入を目指していた企業。自社では在宅調剤専門薬局を保有しておらず、買収によって事業展開を企図していました。

被告(売主): 在宅調剤専門薬局を運営する子会社の全株式を保有していた企業。

対象会社の概要:

  • 平成21年(2009年)設立の在宅調剤専門薬局
  • 介護付き有料老人ホーム等の施設を薬剤師が訪問する形態
  • 薬剤師3名(代表者含む)
  • 取引施設 約50箇所(平成28年12月時点)
  • 月間売上 約3,129万円(平成29年1月時点)

株式譲渡の時系列

日付

出来事

平成28年11月10日

売主がM&A仲介業者に売却を相談

平成28年12月7日

買主が意向証明書を提出

平成28年12月21日

株式譲渡を実行

平成29年1月5日

株式譲渡契約の正式締結・代金支払い

平成29年2月3日

買主が売主に表明保証違反の通知を送付

注目すべき点は、契約締結から表明保証違反の通知までわずか約1ヶ月であること、また意向証明書の提出からクロージングまでわずか2週間という異例の短期間で取引が進められたことです。

契約書の表明保証条項(第10条)の内容

株式譲渡契約書の第10条には、以下の表明保証条項が含まれていました。

条項番号

保証内容

5号

開示した文書・情報がすべて真実であり、重要な不実記載がないこと

6号

薬機法・薬担規則等の法令を遵守しており、違反に関するクレームがないこと

18号

開示外の多額または重大な債務が存在しないこと

買主が主張した4つの表明保証違反

買主は以下の4つの違反を主張し、約2.6億円の損失補償を請求しました。

1. 居宅療養管理指導費・在宅患者調剤加算料の不正請求 薬歴簿の記載に不備があり、処方内容が正確に反映されていないまま報酬請求がなされていたと主張。

2. 医師の同意のない処方内容の変更 処方箋と異なる医薬品を医師の同意なく調剤していたと主張。

3. 患者本人負担金の減免 8施設の患者について、薬担規則に違反する形で本人負担金を減免していたと主張。

4. 薬剤師資格のない従業員による薬剤師業務 調剤業務・薬品販売等を薬剤師資格のない者が行っていたと主張。

買主の主張の核心は、「これらの違反により保険薬局指定の取消処分を受けるリスクがあり、事業継続が不可能になった」というものでした。

裁判所の判断 ── なぜ請求は棄却されたのか

裁判所は、買主が主張した4項目すべてについて請求を退けました。その判断の概要は以下のとおりです。

1・3について:表明保証違反に該当しないと判断 居宅療養管理指導費の請求や患者負担金の減免について、裁判所は表明保証違反には当たらないと判断しました。

2・4について:主張の事実自体が認められない 医師の同意のない処方変更や無資格者による薬剤師業務については、そもそもそのような事実が存在したとは認められないと判断しました。

さらに重要な「因果関係の否定」: 裁判所は、仮に表明保証違反があったとしても、買主が主張する損失との因果関係を否定しました。その根拠は以下の3点です。

  • 買主はDD時点で、従業員が土日も休まず夜遅くまで働いている状況を認識していた
  • 増加した労務費には派遣人員の交通費・宿泊費等の一時的費用が含まれており、その後は契約前と同水準に戻った
  • 事業悪化の主因は薬剤師の退職(3名全員)と取引先の約50箇所→20〜30箇所への激減であり、表明保証違反との因果関係は認められない

つまり、対象会社の月間売上が約3,129万円から約1,190万円に落ち込んだ原因は、表明保証違反ではなく、買収後の運営体制の崩壊にあると認定されたのです。

この判例から得られる5つの実務上の教訓

札幌地裁判決から、薬局M&Aに関わる売り手・買い手双方が学ぶべき教訓を整理します。

教訓1:表明保証違反の「立証」は買主にとって容易ではない

表明保証違反に基づく補償請求では、買主側に立証責任があります。「違反があった」と主張するだけでなく、具体的な証拠をもって裏付ける必要があります。本件では、4つの主張のうち2つは事実自体が認定されませんでした。

教訓2:「因果関係」が否定されれば損害額はゼロになる

表明保証違反が認められたとしても、それと損害との間に因果関係がなければ補償は認められません。本件では、事業悪化の原因が「人材流出」にあると認定され、仮に表明保証違反があっても損害との因果関係が否定されました。

教訓3:薬局M&Aでは「人」に依存するリスクが極めて大きい

薬剤師3名全員が退職し、取引先が半減した本件は、薬局M&Aにおける「キーパーソンリスク」を如実に示しています。表明保証条項だけではこのリスクをカバーできません。

教訓4:DDで認識していた事実は「想定内のリスク」として扱われ得る

裁判所は、買主がDD時点で従業員の過重労働を認識していた点を指摘しました。DDで把握した情報については、表明保証違反の主張が認められにくくなる傾向があります。

教訓5:短期間での取引進行はリスクを高める

意向証明書の提出からクロージングまでわずか2週間という短期間は、十分なDDを実施する時間が確保されていたか疑問が残ります。急いで成約することが、後のトラブルの一因となった可能性があります。

比較判例 ── 表明保証違反が認められたケースとの違い

薬局M&Aの札幌地裁判決だけでは、表明保証違反の裁判例の全体像は見えません。表明保証違反が認められたケースと比較することで、請求が認容される条件と棄却される条件の分岐点が明確になります。

主要判例の比較表

判例

業種

結論

請求額

認容額

分岐ポイント

札幌地裁 R2.12.25

薬局

棄却

約2.6億円

0円

違反の立証不十分+因果関係否定

東京地裁 H18.1.17(アルコ事件)

消費者金融

認容

約3.1億円

財務諸表の虚偽+買主に重過失なし

東京地裁 H24.1.27

認容

是正工事費用

コンプライアンス違反の是正費用

東京地裁 H19.7.26

認容

約1,945万円

譲渡代金500万円を超える損害認容

東京地裁 H23.4.15

棄却

0円

DCF法評価差額の損害性否定

(出典:BUSINESS LAWYERS「M&A契約の表明保証違反の裁判例で、損害はどのように認定されているか」、弁護士法人M&A総合法律事務所 各判例解説、2026年4月確認)

アルコ事件(東京地裁平成18年1月17日判決)── 認容の代表例

薬局M&Aの判例と対比するうえで重要なのが、表明保証違反が認められた代表例であるアルコ事件です。

事案の概要: 消費者金融会社の全株式を取得した買主が、対象会社の財務諸表に虚偽があった(和解債権の弁済充当方法を変更して赤字を隠蔽していた)として、約3.1億円の損害賠償を請求し、認容されました。

薬局M&A判例との決定的な違い:

  • 財務諸表の虚偽が客観的に立証された ── アルコ事件では、会計処理自体が不適切であることが明白でした。一方、薬局M&Aでは調剤報酬の請求が「不正」であったかどうか自体が争われ、裁判所は不正を認定しませんでした
  • 買主に重過失がなかった ── アルコ事件の裁判所は「買主が善意であることが重大な過失に基づくと認められる場合には、売主は責任を免れる余地がある」と判示しつつ、本件では買主に重過失はないと結論づけました

損害認定のパターン ── 裁判所はどのように損害額を算定するか

表明保証違反が認められた場合でも、損害の算定方法は事案によって異なります。

損害の類型

算定方法

認められやすさ

純資産額減少型

簿価純資産額の減少分がそのまま損害

認められやすい

是正費用型

法令違反の是正に必要かつ合理的な費用

認められやすい

簿外債務型

簿外債務の金額をそのまま損害

認められやすい

DCF法評価減型

DCF法による評価額の差異

認められにくい

特筆すべきは、損害額が譲渡価格を超える場合もあるという点です。東京地裁平成19年7月26日判決では、譲渡代金500万円に対して損害額1,945万5,000円が認容されました。つまり、売り手にとっては「受け取った売却代金以上の補償義務を負うリスクがある」ということです。

(出典:BUSINESS LAWYERS 同上記事、2026年4月確認)

薬局M&Aで表明保証違反が問題になりやすい4つの領域

薬局は薬機法・健康保険法・薬担規則など多くの規制を受ける業種です。一般的なM&Aの表明保証条項に加え、薬局特有のリスク領域を押さえておく必要があります。

1. 調剤報酬請求の適法性

薬局M&Aで最もトラブルになりやすい領域です。札幌地裁の判例でも、居宅療養管理指導費や在宅患者調剤加算料の不正請求が主要な争点でした。

チェックすべきポイント:

  • 過去の個別指導・監査・返戻・査定・改善報告の有無と内容
  • 調剤基本料の算定根拠の適正性
  • 施設基準の届出状況
  • 薬歴簿の記載が処方内容を正確に反映しているか

調剤報酬の返還請求は「当局がいつ調査を行うかという不確定的な事象に左右される側面が大きい」ため、一般的なM&Aよりも長期の補償期間を設定する必要があるとされています(出典:Business & Law「薬局M&Aにおける法務DDの実務」2025年3月公開)。

2. 薬機法コンプライアンス

薬局開設許可の維持に関わる法令遵守状況は、事業の継続性に直結します。

チェックすべきポイント:

  • 薬局開設許可証の確認
  • 許可保有主体と実質的な運営主体が一致しているか(無許可営業リスク)
  • 管理薬剤師の雇用形態・勤務実態
  • 各種変更届の提出履歴の完全性
  • 帳簿の作成・保存状況

3. 患者負担金の徴収と近隣医療機関との関係

薬担規則では患者負担金の適正な徴収や、医療機関からの患者誘導の対償としての利益供与が禁止されています。

チェックすべきポイント:

  • 患者負担金の減免の有無と根拠
  • 近隣医療機関への賃料補助・広告協力費の実態
  • 紹介料・人的支援の有無

4. 従業員・キーパーソンの状況

札幌地裁の判例が示すように、薬局M&Aでは人材の流出が事業価値を大きく毀損します。

チェックすべきポイント:

  • 薬剤師の雇用契約の内容(競業避止義務・退職制限など)
  • 管理薬剤師の継続勤務の意思確認
  • 従業員一覧と各薬剤師の勤務実態

(出典:弁護士 尾又比呂人「薬局・ドラッグストアのM&Aにおける法務DDの重要ポイント」、Business & Law 同上記事、2026年4月確認)

売り手オーナーが契約前に確認すべきチェックリスト

薬局M&A契約前に売り手が確認すべきチェックリスト

薬局を売却するオーナーが、表明保証違反で訴えられるリスクを最小限にするために、契約前に確認すべき項目をまとめました。

調剤報酬・法令遵守の自己点検

  • 過去3年分の調剤報酬請求に不適切な算定がないか
  • 個別指導や監査の履歴があれば、改善報告の内容と実施状況を整理しているか
  • 薬歴簿の記載が処方内容を正確に反映しているか
  • 患者負担金の減免を行っている場合、その法的根拠を説明できるか
  • 薬剤師の勤務実態が届出内容と一致しているか

契約条項の確認

  • 表明保証の範囲が過度に広くないか(包括的な表明は後の違反リスクを高める)
  • 補償上限額(キャップ)は設定されているか
  • 補償期間は合理的な範囲か(薬局M&Aでは一般的なクロージング後1年では不十分とされる)
  • どのような場合に補償義務が免除されるか(デミニマス条項・バスケット条項)
  • サンドバッギング条項の有無を確認しているか

開示の完全性

  • DD資料として提供した情報に虚偽や重要な欠落がないか
  • 口頭で説明した事項も含め、開示内容を書面で記録しているか
  • 既知の問題点(法令違反のリスク、係争中の案件等)は開示スケジュールに記載したか

実務上のアドバイス: 表明保証違反のリスクを減らす最も確実な方法は、「知っていることをすべて正直に開示すること」です。隠した情報が後に発覚した場合、表明保証違反の主張が認められやすくなります。一方、開示スケジュールに記載して買主に知らせた事項については、買主が「知っていた」として補償請求が認められにくくなる傾向があります。

買い手が表明保証条項で押さえるべきポイント

薬局を買収する側も、表明保証条項を適切に設計しなければ、問題が発覚しても補償を受けられない可能性があります。

薬局M&Aで入れるべき表明保証条項

Business & Law(2025年3月公開)の実務解説に基づき、薬局M&Aで特に重要な表明保証条項を整理します。

法令遵守関連:

  • 薬機法および健康保険法を含む「適用あるすべての法令を遵守していること」
  • 調剤報酬業務につき「過大請求をしている事実はなく、調剤報酬の返還が生じるおそれはないこと」
  • 患者の個人情報を「適法かつ適切に管理しており、漏洩事由はないこと」

資産・許認可関連:

  • 店舗の所有権が「第三者に対抗できる適法かつ有効なものであること」
  • 賃貸借契約が「適法かつ有効であり、解除および更新拒絶事由はないこと」
  • 隣接医療機関について「具体的な移転計画は存在していないこと」

補償期間の設計 ── 薬局M&Aでは長期が必要

一般的なM&Aではクロージング日から1年の補償期間が多いとされますが、薬局M&Aではこれでは不十分です。

その理由は、調剤報酬の不正請求に関する行政調査が「いつ行われるか予測できない」ためです。クロージングから1年以上経ってから当局の調査が入り、不正が発覚するケースも十分にあり得ます。

専門家の間では、薬局M&Aの場合は2〜3年程度の補償期間を設定するニーズが高いとされています(出典:Business & Law 同上記事)。

株式譲渡と事業譲渡 ── 薬局M&Aのストラクチャ別リスク

薬局M&Aでは、取引のストラクチャ(株式譲渡か事業譲渡か)によって許認可の取扱いが大きく異なります。

項目

株式譲渡

事業譲渡

薬局開設許可

そのまま維持される

新たに店舗ごとに取得が必要

手続き

役員変更届・管理薬剤師変更届

既存許可の廃止+新規許可取得

表明保証のリスク

対象会社の過去の法令違反リスクを引き継ぐ

事業資産のみ取得のため限定的

実務上の難易度

比較的シンプル

クロージング日での許可取得が課題

株式譲渡は「最も基本的なストラクチャ」(Business & Law記事)とされますが、対象会社の過去の法令違反リスクもそのまま引き継ぐ点に注意が必要です。 事業譲渡であれば過去のリスクを遮断できますが、薬局開設許可を新たに取得する手間とリスクが生じます。

(出典:Business & Law「薬局M&Aにおける法務DDの実務」2025年3月公開、2026年4月確認)

表明保証違反を避けるために ── 売り手・買い手別の対策まとめ

こんな薬局オーナーは特に注意が必要

以下に該当する薬局オーナーは、売却時に表明保証違反のリスクが高いため、M&Aに精通した弁護士への事前相談を強くおすすめします。

  • 過去に個別指導・監査を受けた経験がある
  • 調剤報酬の算定方法に自信がない部分がある
  • 患者負担金の減免を慣行的に行っている
  • 管理薬剤師の勤務実態と届出内容にズレがある
  • 薬歴簿の記載が不十分な期間がある

こんな買い手企業は特に慎重なDDが必要

以下に該当する場合、通常以上に徹底したDDと表明保証条項の設計が求められます。

  • 薬局業界への新規参入であり、業界特有のリスクに不案内
  • 短期間(数週間)でのクロージングを求められている
  • 対象薬局の薬剤師がオーナー兼管理薬剤師で、売却後の継続勤務が不確実
  • 特定の医療機関に売上の大部分を依存している

この記事の内容が直接当てはまらないケース

  • 病院・クリニックのM&A(医療法人特有の規制があり、薬局M&Aとは論点が異なります)
  • ドラッグストアチェーンの大規模M&A(上場企業間の取引は契約設計が大きく異なります)
  • M&Aプラットフォームを利用した小規模な薬局譲渡(表明保証条項が簡素化されている場合が多い)

表明保証保険という選択肢

近年のM&A実務では、表明保証保険(Warranty & Indemnity Insurance)の活用が広がっています。

表明保証保険とは、表明保証違反が発覚した場合の損害を保険でカバーする仕組みです。買主が保険に加入する「買主ポリシー」が一般的で、売り手に直接補償を求めることなく損害をカバーできます。

メリット:

  • 売り手は売却代金の一部をエスクローに留め置く必要がなくなる
  • 買い手は売り手の資力に依存せず補償を受けられる
  • 双方にとって交渉がスムーズになる

留意点:

  • 保険料は譲渡価格や補償範囲によって変動する
  • 既知のリスク(DD等で把握済みの問題)は免責となるのが一般的
  • 薬局M&Aのような規模の取引でコスト対効果が合うかは個別判断が必要

※表明保証保険の加入を検討する場合は、M&Aの表明保証保険を取り扱う保険ブローカーや弁護士にご相談ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 表明保証違反が発覚した場合、契約を解除できますか?

契約書に解除条項が含まれている場合は、表明保証違反を理由に契約を解除できる可能性があります。ただし、クロージング後の解除は実務的に困難であり、通常は補償請求(金銭的な解決)が中心になります。解除の可否は契約書の規定次第であるため、具体的なケースでは弁護士にご確認ください。

Q2. 表明保証違反の補償に時効はありますか?

補償の請求期限は、通常は契約書の補償条項で定められた期間(一般的にはクロージングから1〜3年)に従います。契約に定めがない場合は、民法の債権の消滅時効(権利を行使できることを知った時から5年、権利を行使できる時から10年)が適用され得ますが、契約上の合意が優先されるのが原則です。

Q3. DDで問題を把握していた場合でも、表明保証違反を主張できますか?

アルコ事件(東京地裁平成18年判決)では、「買主が善意であることが重大な過失に基づく場合は、悪意と同視し売主は責任を免れる余地がある」と判示されました。つまり、買主がDDで問題を容易に発見できたにもかかわらず見落とした場合は、補償請求が認められない可能性があります。一方、「サンドバッギング条項」を契約に入れることで、買主が認識していても補償請求できると定めることも実務上は行われています。

Q4. 損害額が売却価格を超えることはありますか?

あり得ます。東京地裁平成19年7月26日判決では、譲渡代金500万円に対して損害額1,945万5,000円が認容されています。「譲渡価格が補償義務の上限ではない」と裁判所が判示した事例です。このリスクを避けるため、売り手は契約時に補償上限額(キャップ)の設定を交渉することが重要です。

Q5. 仲介会社を使えば表明保証違反のリスクは軽減されますか?

M&A仲介会社は成約を支援する立場であり、表明保証条項の法的な設計は業務範囲外であるのが一般的です。表明保証条項の内容は、必ずM&Aに精通した弁護士に確認してもらうことをおすすめします。札幌地裁の判例でも仲介会社を通じた取引でしたが、表明保証をめぐるトラブルは防げませんでした。

まとめ ── 薬局M&Aの表明保証で押さえるべきポイント

薬局M&Aにおける表明保証違反のリスクを整理すると、以下の3点が重要です。

1. 表明保証違反の立証は容易ではないが、リスクはゼロではない 札幌地裁判決では買主の請求が棄却されましたが、アルコ事件のように億単位の損害が認容された裁判例もあります。表明保証条項を安易に考えるのは危険です。

2. 薬局M&Aでは業界特有のリスク(調剤報酬・薬機法・キーパーソン)に対応した条項設計が不可欠 一般的なM&Aの表明保証条項をそのまま使うのではなく、薬局業界の規制環境を踏まえた条項の追加・修正が必要です。

3. 表明保証条項だけでは防げないリスクがある 札幌地裁判決が示すように、薬局の事業価値は人材に大きく依存します。表明保証条項の設計に加え、キーパーソンの継続勤務に関する合意や、引き継ぎ期間の設定など、契約全体でリスクに対応する視点が必要です。

薬局の売却・買収を検討されている方は、M&Aの実務経験が豊富な弁護士に早めにご相談されることをおすすめします。 表明保証条項は一度契約を締結してしまうと変更が困難です。契約交渉の段階から専門家のサポートを受けることが、トラブル防止の最善策です。

※税務・法務の詳細な判断は、個別の状況により異なります。実際のM&A取引では、M&Aに精通した弁護士・税理士への相談をおすすめします。

関連記事:

出典一覧:

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ソース

確認日

1

弁護士法人M&A総合法律事務所「薬局買収の表明保証違反損失補償請求事件を紹介!」

2026-04-08

2

BUSINESS LAWYERS「M&A契約の表明保証違反の裁判例で、損害はどのように認定されているか」

2026-04-08

3

BUSINESS LAWYERS「M&A契約の表明保証において、買主の主観的事情はどのように影響するか」

2026-04-08

4

Business & Law「薬局M&Aにおける法務DDの実務」(2025年3月公開)

2026-04-08

5

弁護士 尾又比呂人「薬局・ドラッグストアのM&Aにおける法務DDの重要ポイント」

2026-04-08

6

松尾綜合法律事務所「M&Aにおける表明保証違反の損害補償(賠償)について」

2026-04-08

7

弁護士八木啓介「医療法人M&Aと表明保証違反」

2026-04-08

8

厚生労働省 東海北陸厚生局「不正請求等が行われた場合の取扱い」

2026-04-08

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