従業員承継とは、経営者が親族ではなく自社の役員や従業員に会社(株式・経営権)を引き継ぐ事業承継の方法です。役員クラスに引き継ぐ場合をMBO(Management Buy Out)、一般従業員に引き継ぐ場合をEBO(Employee Buy Out)と呼びます。
この記事では、会社を売りたい・引き継がせたいオーナー経営者の視点で、MBO・EBOの仕組み、資金調達スキーム、事業承継税制(2027年末までの特例措置)、M&A(第三者承継)との違い、向いている会社・向いていない会社の判断基準をまとめました。
この記事でわかること
- MBOとEBO、MEBO、LBOの違い
- 従業員承継の進め方(ステップ)と資金調達3パターン
- 事業承継税制(特例措置)の最新期限(2027年12月31日/特例承継計画2027年9月30日提出期限)
- M&A・親族内承継との比較と、判断基準
- メリット・デメリット、失敗を避けるための注意点
想定読者
- 親族に後継者がいない中小企業オーナー
- 役員・幹部社員への承継を具体的に検討中の経営者
- 従業員承継とM&A、どちらが自社に適しているか迷っている方
従業員承継とは|事業承継の3類型のうちの1つ
従業員承継は、中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)」で整理されている事業承継の3類型の1つです。結論から言えば、親族に後継者がいない中小企業にとって、M&Aと並ぶ現実的な選択肢です。
中小企業庁は事業承継を次の3つに分類しています。
類型 | 引き継ぐ相手 | 主な手法 |
|---|---|---|
① 親族内承継 | 子・兄弟など親族 | 株式贈与・相続、生前贈与 |
② 従業員承継(親族外承継) | 自社の役員・従業員 | MBO / EBO / MEBO |
③ 第三者承継 | 社外の第三者企業・個人 | M&A(株式譲渡・事業譲渡) |
※出典: 中小企業庁「事業承継ガイドライン」(第3版、2022年改訂)/確認日: 2026-04-24
かつて中小企業の事業承継は親族内承継が中心でしたが、少子化と後継者不足により、近年は従業員承継とM&A(第三者承継)の割合が増加しています。特に「長年会社を支えてくれた役員・幹部に引き継ぎたい」というオーナーの意向が強い場合、従業員承継は有力な選択肢となります。
事業承継全体の基礎から押さえたい方は、事業承継とは|3つの承継方法と進め方も併せてご覧ください。
MBOとEBOの違い|承継者は「役員」か「従業員」か
MBOとEBOの最も大きな違いは、株式・経営権を引き継ぐのが役員クラスか、一般従業員かという点です。
MBO(Management Buy Out/マネジメント・バイアウト)
- 現経営陣・役員クラスが自社の株式を取得して経営権を承継する手法
- 後継者は役員・経営層(常務、取締役、事業部長など)
- 欧米では上場企業の非公開化スキームとしても使われるが、日本の中小企業では事業承継型MBOとして活用されるケースが主流
EBO(Employee Buy Out/エンプロイー・バイアウト)
- 役員ではない一般従業員が株式を取得し、事業を承継する手法
- 後継者は現場の従業員(課長・部長クラスが多い)
- MBOに比べて資金調達のハードルが高く、実行件数はMBOより少ない
MBOとEBOの違い(比較表)
項目 | MBO | EBO |
|---|---|---|
承継者 | 役員・経営陣 | 一般従業員 |
経営ノウハウ | 経営視点を持つ | 現場視点は強いが経営経験不足になりがち |
組織の新陳代謝 | 起きにくい(既存経営継続) | 起きやすい |
資金調達余力 | EBOよりは個人資産が厚いことが多い | 個人の資金負担が特に大きい |
実行件数 | 多い | 少なめ |
派生スキーム:MEBOとLBO
- MEBO(Management and Employee Buy Out): 経営陣と従業員が共同で株式を取得するスキーム。1人では資金が足りない場合に有効
- LBO(Leveraged Buy Out): 対象会社のキャッシュフローや資産を担保に借入を行い、その資金で買収する手法。MBO・EBOの資金調達手段として併用されるケースがほとんど
現在の中小企業の事業承継型MBO・EBOでは、SPC(特別目的会社)を経由したLBOスキームが主流です。詳しくは次章で解説します。
従業員承継の進め方|8ステップで理解する実務フロー
MBO・EBOは一般的に以下のステップで進みます。最短でも6か月〜1年、複雑なケースでは2年以上かかることもあります。
ステップ1:後継者候補の選定・打診
経営者として適性のある役員・従業員をリストアップし、本人に承継の意思を確認します。後継者候補が「自分が経営者になる」という認識を持っていないケースが多いため、早めに打診し、数年単位で育成することが重要です。
ステップ2:株主構成・保有割合の整理
現在の株主(創業メンバー・親族・取引先など)を洗い出し、どの株式を、誰から、誰が、いくらで取得するのかを整理します。少数株主が散在している場合は、先に買い集めや整理が必要になることもあります。
ステップ3:株式評価(時価算定)
税理士・公認会計士が株価を算定します。評価方法は複数あり、案件によって使い分けられます。
評価方法 | 概要 |
|---|---|
純資産方式 | 貸借対照表上の純資産をベースに算定 |
類似業種比準方式 | 上場している類似業種の株価指標と比較 |
DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法) | 将来キャッシュフローを現在価値に割引 |
収益還元法 | 将来収益を資本還元率で割り戻す |
※株価評価は節税・売買双方に大きく影響します。必ず税理士・公認会計士にご相談ください。
ステップ4:資金調達手段の検討
後継者個人の資金・金融機関融資・ファンド活用のいずれか(もしくは組み合わせ)を検討します。詳細は次章で解説します。
ステップ5:SPC(特別目的会社)設立
融資型スキームを使う場合、後継者が株式買取専用のSPCを設立します。SPCが金融機関から借入を実行して旧経営者の株式を買い取る構造です。
ステップ6:株式譲渡契約・譲渡実行
株式譲渡契約書(SPA)を締結し、譲渡対価の支払いと株式の移転を行います。
ステップ7:SPCと対象会社の合併・経営者交代
SPCと対象会社を合併し、借入返済は対象会社のキャッシュフローで行います。同時に代表取締役の交代・役員登記を行います。
ステップ8:経営者保証の切替・従業員/取引先への周知
旧経営者が負っていた金融機関への個人保証の解除、または後継者への切替を交渉します。取引先・従業員への新体制の周知もこのタイミングで実施します。
MBO・EBOの資金調達3パターン|SPC+LBOが主流
従業員承継で最大のハードルは資金調達です。中小企業の株式でも評価額が数千万〜数十億円に上るケースは珍しくなく、後継者個人の貯蓄だけで賄うのは現実的ではありません。
1. 自己資金型
後継者個人の資産で株式を取得する方法です。
- メリット: 借入リスクなし。経営の自由度が最も高い
- デメリット: 対象会社の株価が数千万円を超えると現実的でない。中小企業でこのパターンが成立するのは比較的小規模の会社のみ
2. 融資型(SPC+LBO活用)
現在の事業承継型MBO・EBOで最も一般的なスキームです。
- 後継者がSPC(特別目的会社/持株会社)を設立
- SPCが金融機関から買収資金を借入
- SPCが旧経営者から株式を買取
- SPCと対象会社を合併(対象会社が存続)
- 借入返済は対象会社のキャッシュフローで行う
メガバンク(三菱UFJ銀行・みずほ銀行など)が買収ファイナンス商品を提供しており、地方銀行・信用金庫でも対応が広がっています。
- メリット: 後継者個人の資金負担を大きく軽減できる
- デメリット: 借入金利の負担、返済計画の制約、個人保証が求められるケース
3. ファンド型
PE(プライベート・エクイティ)ファンドやVC(ベンチャーキャピタル)が出資して株式の一部または大部分を取得し、後継者と共同で経営する方法です。
- メリット: 大型案件でも資金調達が可能。ファンドの経営支援を受けられる
- デメリット: ファンドが議決権を保有するため、経営の自由度に制約。数年後のEXIT(売却・上場)が前提のため経営方針に影響
節税スキームの代表例
- 退職金支給スキーム: 旧経営者に退職金を支給して純資産を圧縮し、株価を下げてから株式譲渡する。退職所得控除・1/2課税・分離課税が適用され、旧経営者の税負担も軽減
- 持株会社スキーム: 株価総額30百万円超の案件で推奨されるケースが多い。借入金利と本業利益の損益通算が可能
※出典: クレジオ・パートナーズ「MBOとは?従業員承継のメリット・デメリット」(確認日: 2026-04-24)
※節税スキームの適用可否は個別事情により異なります。必ず税理士にご相談ください。
事業承継税制(特例措置)|2027年末までに実行すれば納税100%猶予
従業員承継で株式を贈与するケースでは、後継者が従業員であっても一定の要件を満たせば事業承継税制(特例措置)の対象となり、贈与税・相続税の納税を100%猶予できます。
現時点で最も重要な期限は以下の2つです。
項目 | 期限 |
|---|---|
特例承継計画の提出期限 | 2027年9月30日まで(従来の2026年3月31日から延長/令和7年度税制改正) |
贈与・相続の実行期限 | 2027年12月31日まで |
※出典: 国税庁「法人版事業承継税制」/確認日: 2026-04-24
特例措置の主なポイント
- 対象: 中小企業の非上場株式
- 猶予対象: 贈与税・相続税(100%猶予)
- 要件: 特例承継計画を都道府県に提出、認定経営革新等支援機関の指導・助言、雇用確保要件(実質緩和済み)等
一般措置との違い
項目 | 一般措置 | 特例措置 |
|---|---|---|
対象株式 | 発行済議決権株式の2/3 | 全株式(100%) |
納税猶予割合 | 贈与100%/相続80% | 贈与・相続ともに100% |
雇用確保要件 | 厳格 | 実質的に緩和 |
期限 | 恒久措置 | 2027年12月31日まで |
従業員承継を税制優遇付きで進めたいオーナーは、2027年9月30日までに特例承継計画を提出しておく必要があります。
事業承継税制の詳細は、事業承継税制とは|特例措置の期限・要件をわかりやすく解説で別途詳しくまとめています。
※税制適用には細かな要件があります。実際の適用可否は税理士・公認会計士へご相談ください。
経営者保証ガイドラインと個人保証の引継ぎ
従業員承継のもう1つの大きな論点が経営者保証(個人保証・連帯保証)です。「後継者が個人保証を引き継ぐのが怖くて承継が進まない」という例は少なくありません。
経営者保証ガイドラインの要点
- 日本商工会議所・全国銀行協会が策定、中小企業庁・金融庁が後押しする自主的ルール
- 次の3要件を満たせば、個人保証を不要または解除できる可能性がある
- 法人と個人の資産・経理が明確に分離されている
- 財務基盤が強固で、法人のみの資産・収益力で返済が可能
- 経営の透明性が確保されている(適時・適切な情報開示)
実務上のポイント
- 2022年12月からの経営者保証改革プログラムにより、金融機関の対応が大きく変わりつつある
- MBO・EBO実行前に、まず旧経営者の保証解除を金融機関と交渉しておく
- 後継者への保証引継ぎを回避できるか、事業承継・引継ぎ支援センターや顧問弁護士に相談する
※出典: 中小企業庁「経営者保証」/確認日: 2026-04-24
会社売却時の個人保証の扱いは会社売却で個人保証・連帯保証を解除する方法でより詳しく解説しています。
MBO・EBOのメリット|経営の連続性と秘密保持がしやすい
従業員承継には、第三者承継(M&A)にはない独自のメリットがあります。
1. 企業文化・経営方針を引き継げる
社内で長年働いてきた人物が後継者になるため、経営方針や社風、取引先との関係性が断絶しにくい点が最大のメリットです。
2. 従業員・取引先の納得感が高い
面識のある人物が経営者になるため、「知らない会社に買われた」という心理的抵抗感がありません。従業員の離職リスク・取引先の離反リスクを抑えられます。
3. 後継者問題の解決策になる
親族に後継者がいない、または親族に継がせる意思がないオーナーにとって、従業員承継は廃業・M&Aと並ぶ有力な選択肢です。
4. 秘密保持がしやすい
M&Aのように外部へ相手探しを依頼しないため、情報漏洩のリスクが低く抑えられます。売却活動が社外に知られにくいのは大きなメリットです。
5. 引継ぎ期間が短縮できる
後継者が事業内容・取引先・従業員を熟知しているため、引継ぎ期間が短く、経営判断のスピードも維持できます。
MBO・EBOのデメリット・リスク|資金と個人保証が二大ハードル
メリットの裏返しとして、以下のデメリットも正直に押さえておく必要があります。
1. 資金調達の難易度
株式買取資金(数千万〜数十億円)を個人で調達するのは困難です。SPC+LBOで解決する方法はありますが、借入返済が会社経営の重荷になる可能性があります。
2. 個人保証・連帯保証の心理的負担
後継者が個人保証を引き継ぐケースでは、心理的プレッシャーが大きく、承継が頓挫する原因になります。
3. 売却額がM&Aより低くなる傾向
第三者のM&Aでは、同業者や上場企業がシナジー目的で高値買収するケースがありますが、従業員承継では後継者個人の資金力で価格が決まるため、オーナーの手取りが相対的に低くなる傾向があります。
4. 株価交渉の利害対立
旧オーナーは「できるだけ高く売りたい」、後継者は「できるだけ安く買いたい」と、利害が対立します。第三者(税理士・M&A仲介・FA)を入れて客観的な株価を示す必要があります。
5. 親族からの反発
株式を親族以外に譲る・贈与することに対して、親族(特に相続人)が不満を持つケースがあります。相続財産の配分を事前に調整することが重要です。
6. 既存の経営体質が継続する
良くも悪くも既存路線が続きやすく、抜本的な経営改革が必要な会社では不利に働くことがあります。構造的な問題を抱える会社はM&Aの方が向く場合も。
7. 旧経営者の影響力残存リスク
会長・顧問として残る場合、後継者の経営判断に口を出し続けてしまい、承継がうまくいかないケースがあります。旧経営者が退任後に「どの程度関与するか」を事前にすり合わせることが成功の鍵です。
従業員承継 vs M&A vs 親族内承継|どれを選ぶべきか
3つの承継方法には、それぞれ向き不向きがあります。
比較ポイント | 親族内承継 | 従業員承継(MBO・EBO) | 第三者承継(M&A) |
|---|---|---|---|
後継者候補 | 子・親族 | 役員・従業員 | 社外の企業・個人 |
経営の連続性 | ◎ | ◎ | △(買い手次第) |
売却対価(オーナー手取り) | 低〜中(贈与中心) | 中 | 中〜高 |
資金調達の負担 | 低(相続・贈与) | 高(個人で買取) | 低(買い手が支払う) |
秘密保持のしやすさ | ◎ | ◎ | △(相手探しで情報拡散) |
税制優遇 | 事業承継税制◎ | 事業承継税制◎ | 一部(経営資源集約化税制等) |
個人保証の引継ぎ | 引き継ぐケース多 | 引き継ぐリスクあり | 解除しやすい |
実行期間の目安 | 数年〜長期 | 6か月〜2年 | 6か月〜1年半 |
従業員承継が向いているオーナー・会社
- 親族に後継者がいない、または親族が承継を望んでいない
- 長年会社を支えてくれた役員・幹部に引き継ぎたい気持ちが強い
- 企業文化・社風・取引先との関係性を守りたい
- 売却額よりも「会社を残すこと」を優先したい
- 後継者候補に経営者としての素養があり、本人にも意欲がある
従業員承継が向いていないオーナー・会社
- 最大限の売却対価(創業者利益)を得たい
- 後継者候補となる役員・従業員がいない、または本人に経営意欲がない
- 会社に抜本的な経営改革が必要で、既存路線の継続では立ち行かない
- 株価が高額で、SPC+LBOスキームでも返済が現実的でない
- オーナー個人の個人保証解除が見込めず、後継者への引継ぎも難しい
迷った場合の判断フロー:
- 親族に意欲ある後継者がいるか → YES なら親族内承継を優先検討
- 社内に経営者適性のある役員・幹部がいて、本人に意欲があるか → YES なら従業員承継
- 上記が両方NO、または最大限の対価を得たい → M&A(第三者承継)
比較検討が必要な場合は、M&A仲介会社おすすめ比較や事業承継 後継者不在 解決策も参考にしてください。
従業員承継を成功させる5つのポイント
従業員承継で陥りがちな失敗を避けるため、実務でよく指摘される成功のポイントをまとめます。
1. 早期に後継者候補を選定・育成する
後継者候補が「自分が経営者になる」と腹を決めるまでには時間がかかります。承継実行の5〜10年前から候補者の選定・育成を始めるのが理想です。
2. 株式評価・税務を専門家に任せる
株価評価は複数の方法があり、選び方次第で譲渡価格が大きく変わります。税理士・公認会計士に時価算定を依頼し、節税スキーム(退職金支給・持株会社活用)も含めて設計してもらいましょう。
3. 資金調達スキームを早めに固める
SPC+LBOを使うのか、ファンドを入れるのか、自己資金でまかなうのかを早期に決定します。メガバンク・地方銀行・M&Aアドバイザーと並行して相談するのが効率的です。
4. 経営者保証の扱いを事前に交渉する
旧経営者の保証解除・後継者への保証引継ぎ回避は、経営者保証ガイドラインを根拠に金融機関と交渉します。早期に話し合いを始めることで、承継実行時の交渉がスムーズになります。
5. 旧経営者の「退任後の関与」を事前にすり合わせる
会長・顧問として残る場合の役割・権限・期間を事前に文書化します。「経営には口を出さず、人脈紹介のみ」といった線引きが現実的です。承継後の混乱を避けるため、旧経営者が完全に引退するか、顧問として関わるかを明確にしておきましょう。
従業員承継にかかる費用の目安
従業員承継そのものに定型の「手数料」はありませんが、実行時には以下のコストが発生します。
項目 | 概要 |
|---|---|
株式評価・税務顧問費用 | 税理士・公認会計士への依頼費用。案件規模により変動 |
法務費用 | 弁護士への株式譲渡契約書作成、司法書士への登記費用 |
仲介・FA報酬 | M&A仲介会社・FAを活用する場合、着手金・中間金・成功報酬 |
借入関連費用 | 金融機関融資の場合、保証料・事務手数料・利息 |
登録免許税・印紙税 | 株式譲渡・組織再編時の公的費用 |
※具体的な金額は案件規模・複雑度により大きく異なるため、本記事では相場を断定しません。複数の専門家から見積もりを取ることをおすすめします。
M&A仲介会社の手数料体系の詳細は、M&A費用・手数料相場ガイドをご覧ください。
どこに相談すればいいか|従業員承継の相談先
従業員承継の相談先には、以下のような選択肢があります。
1. 事業承継・引継ぎ支援センター(公的・無料)
全国47都道府県に設置された中小企業庁管轄の公的機関です。従業員承継・親族内承継・M&Aの無料相談とマッチング支援を行います。まずは最初の相談窓口として活用するのが現実的です。
2. 顧問税理士・公認会計士
日頃の経理・税務を見てくれている税理士は、自社の財務状況を最も理解している存在です。株価評価・事業承継税制の適用可否の一次相談に適しています。
3. M&A仲介会社・FA(フィナンシャル・アドバイザー)
従業員承継の実務経験がある仲介会社・FAに依頼すると、資金調達スキーム設計・株価交渉・契約書作成までワンストップで支援してもらえます。
4. 金融機関(メインバンク)
資金調達を融資型スキームで行う場合、メインバンクとの早期協議が不可欠です。買収ファイナンス商品の有無・個人保証の扱いも含めて相談しましょう。
5. 弁護士(M&A・事業承継に強い事務所)
株式譲渡契約書の作成・デューデリジェンス・少数株主対応など、法務面のサポートが必要なフェーズで相談します。
※公式機関・専門家の選定については、M&A仲介会社の選び方も併せてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 従業員承継とM&A、どちらがオーナーにとって得ですか?
手取りの金額だけで比較すれば、第三者のM&A(特に同業者や上場企業による買収)の方が高くなる傾向があります。一方、従業員承継は企業文化の継続・従業員の雇用維持・秘密保持のしやすさで優れます。「対価を最大化したいならM&A、会社を残すことを優先するなら従業員承継」という整理が実務的です。
Q2. 後継者候補に株式買取の資金がありません。どうすればいいですか?
最も一般的なのはSPC(特別目的会社)を設立し、金融機関からの借入(LBO)で買収資金を調達する方法です。返済は対象会社のキャッシュフローで行います。ファンドを入れる選択肢もありますが、経営の自由度とのトレードオフがあります。
Q3. 事業承継税制は従業員承継でも使えますか?
はい。従業員に贈与で株式を引き継ぐケースでも、特例承継計画を提出し要件を満たせば特例措置(納税100%猶予)が適用可能です。ただし特例承継計画の提出期限は2027年9月30日、実行期限は2027年12月31日までです。
Q4. 後継者が個人保証を引き継ぎたくないと言っています。解除できますか?
経営者保証ガイドラインの要件(法人と個人の資産分離・財務基盤・経営の透明性)を満たせば、金融機関と交渉して解除・不要化できる可能性があります。2022年の経営者保証改革プログラム以降、対応は改善しつつあります。早期にメインバンクと協議しましょう。
Q5. MBO・EBOはどれくらいの期間がかかりますか?
案件にもよりますが、準備から実行・登記完了まで6か月〜2年が一般的です。後継者育成期間を含めると、さらに数年単位で計画しておくのが現実的です。
Q6. 親族から「なぜ他人に会社を渡すのか」と反発されそうです。
株式の無償贈与などに対して親族が不満を持つケースは少なくありません。相続財産の配分を事前に調整する、株式評価を適正価格で有償譲渡する、弁護士を入れて家族間で合意書を作成するなどの対応が有効です。
Q7. EBO(従業員承継)で本当に経営を任せられるか不安です。
後継者候補の経営者適性を見極めるため、承継実行の数年前から経営幹部として経営会議に参加させる・責任範囲を広げるといった段階的な育成が重要です。不安が大きい場合はMEBO(経営陣+従業員の共同取得)でリスク分散する方法もあります。
まとめ|従業員承継は「会社を残す」選択肢。ただし資金と期限に注意
従業員承継(MBO・EBO)は、親族に後継者がいない中小企業にとって、会社を残すための有力な選択肢です。
重要なポイントをおさらいします。
- 従業員承継は事業承継の3類型の1つ(親族内承継・従業員承継・第三者承継)
- MBOは役員、EBOは従業員が後継者。MEBOやLBOとの併用が一般的
- 最大の課題は資金調達。SPC+LBOスキームが現在の主流
- 事業承継税制(特例措置)の実行期限は2027年12月31日、特例承継計画提出は2027年9月30日まで
- 経営者保証の扱いは早期に金融機関と交渉する
- M&A(第三者承継)と比較し、対価は低めだが企業文化・秘密保持で優位
- 成功の鍵は「後継者の早期育成」「資金スキーム設計」「旧経営者の関与ルール」
税制優遇を使うなら2027年末までが実質的な期限です。検討中のオーナーは、事業承継・引継ぎ支援センターや顧問税理士・M&A仲介会社など、信頼できる専門家に早めに相談することをおすすめします。
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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。事業承継税制の適用、株式評価、個人保証の解除、契約書作成などの個別判断については、必ず税理士・公認会計士・弁護士など専門家にご相談ください。
