飲食業界のM&Aで売却先を探すなら、飲食特化型のプラットフォームか、業界実績のある総合型仲介会社の2択が基本になります。どちらが適切かは、売却規模(譲渡金額)と業態によって異なります。
この記事では、2026年4月現在の公式情報をもとに主要7社の手数料・対象規模・特徴を比較し、「1〜3店舗の個人経営」「5店舗以上の複数展開」など規模別のおすすめを整理しました。
この記事でわかること:
- 飲食業界のM&Aに対応している仲介会社7社の比較
- 手数料(公式確認済みの数値のみ)と対象規模
- 業態・規模別のおすすめの選び方
- 飲食業界特有の注意点(許認可・スキーム選択・最低報酬の落とし穴)
対象読者: 飲食店・外食チェーンの売却(事業承継・M&A)を検討しているオーナー経営者。買い手向けの情報は扱っていません。
飲食業界のM&Aとは?居抜き譲渡との違いも整理

飲食業界のM&Aとは、飲食店・外食チェーン・食品関連事業者が行う株式譲渡・事業譲渡を指します。単なる「お店の売却」ではなく、ブランド・スタッフ・レシピ・のれんを含む事業または会社そのものを引き継ぐ取引です。
よく混同される居抜き譲渡との違いは明確です。
項目 | 居抜き譲渡 | M&A(事業譲渡・株式譲渡) |
|---|---|---|
売るもの | 内装・厨房設備(造作) | 事業全体 or 株式(ブランド・スタッフ込み) |
相場 | 100万〜300万円程度(立地依存) | 年商の0.2〜1.0倍、営業利益の2〜4倍 |
手続き | 比較的シンプル | デューデリジェンス・契約書類が必要 |
適した場面 | 閉店後に設備だけ売りたい | ブランド・スタッフ・のれんを残して次のオーナーに任せたい |
設備の売却だけが目的なら居抜き譲渡で十分です。「これまで育てたブランドや従業員を守りたい」「後継者不在で店を閉めたくない」という場合はM&Aの対象になります。
飲食業界でM&Aの売却ニーズが高まっている背景:
- 飲食業界の80.5%が働き手不足を実感(帝国データバンク調査、M&A総合研究所コラムより)
- 2023年度の飲食店倒産件数は802件(前年度比56.0%増)で過去最多
- 黒字経営でも後継者不在・人手不足を理由に廃業を検討するケースが増加
市場規模は2023年で約14兆1,313億円(前年比約18.6%増)と拡大しており、インバウンド需要の定着もあって2026年現在も買い手側のニーズが旺盛です。
飲食業界のM&A仲介会社7社を比較

2026年4月時点の公式情報に基づき、主要7社を一覧で比較します。手数料は公式サイトで確認できた会社のみ具体的な数値を記載し、非公開の場合は「要問い合わせ」としています。
会社名 | 類型 | 売り手手数料(着手金) | 対象規模 | 飲食業界への専門性 |
|---|---|---|---|---|
飲食店ドットコムM&A | 飲食特化型 | 成功報酬制(5,000万円以下は350万円固定)、着手金なし | スモール〜中規模 | ★★★ 飲食業界特化 |
バトンズ(BATONZ) | プラットフォーム型 | 売り手は完全無料 | スモール〜小規模 | ★★★ 飲食・食品8,592件掲載 |
日本M&Aセンター | 総合型 | 成功報酬(レーマン方式、料率非公開)、着手金なし | 中規模〜大規模 | ★★ 食品業界専門グループあり |
M&A総合研究所 | 総合型 | 完全成功報酬(着手金・中間報酬・月額報酬なし、料率非公開) | 中小規模 | ★★ 飲食案件取扱実績あり |
ファンドブック | 総合型 | 要問い合わせ | 中小規模 | ★★ 飲食業界対応を明示 |
ストライク | 総合型 | オーナー受取額レーマン方式(料率非公開)、着手金無料 | 中小規模〜中堅 | ★★ 飲食業対応実績あり |
飲食店M&Aサポート | 飲食特化型 | 要問い合わせ | スモール〜小規模 | ★★★ 11年の飲食特化実績 |
※情報は2026年4月29日時点で各社公式サイトを確認。手数料は改定される場合があるため、最新情報は必ず各社公式サイトでご確認ください。
各社の詳細:特徴・手数料・向いている企業
1. 飲食店ドットコムM&A(株式会社シンクロ・フード)
飲食店の出店支援プラットフォーム「飲食店ドットコム」を運営する株式会社シンクロ・フードが提供する、飲食業界に完全特化したM&Aサービスです。同サービスが保有する飲食業界の数万人の会員ネットワークを買い手候補の探索に活用できるのが最大の強みです。
手数料体系(2026年4月29日・公式サイト確認):
譲渡金額 | 成功報酬 |
|---|---|
5,000万円以下 | 350万円(固定額) |
5,000万円超〜1億円以下 | 7.00% |
1億円超〜3億円以下 | 6.00% |
3億円超〜5億円以下 | 5.00% |
5億円超〜10億円以下 | 4.00% |
10億円超 | 3.00% |
着手金・中間金:なし。成約まで通常3ヶ月程度。
アドバイザリープラン(上記料率)のほか、セルフプラン(掲載料・成約手数料ゼロ)も用意されており、交渉・契約を自分で進めたい場合はコストを大幅に削減できます。
注意点: 5,000万円以下の案件では成約金額にかかわらず350万円の最低報酬が発生します。たとえば1,000万円の売却額でも350万円の手数料がかかるため、スモール案件では実質的な手数料率が高くなります。小規模案件の場合はセルフプランへの切り替えも検討してください。
こんな飲食事業者に向いています:
- 飲食業界に精通したアドバイザーのサポートを受けたい
- 飲食店の業界ネットワークを活用して買い手を探したい
- 譲渡金額が5,000万円以上で手数料率を抑えたい
出典: 飲食店ドットコムM&A公式サイト(https://www.inshokuten.com/ma/plan/full/、2026年4月29日確認)
2. バトンズ(BATONZ / ブティックス株式会社)
国内最大規模のM&Aマッチングプラットフォームで、売り手(譲渡企業)は成約まで完全無料という料金体系が最大の特徴です。2026年4月に東証グロース市場に上場しました。
手数料体系(2026年4月29日・公式サイト確認):
- 売り手(譲渡企業):成約まで完全無料(着手金・中間金・成功報酬すべてゼロ)
- 買い手:成約価額の2%(最低報酬:税込275,000円)
飲食業界での実績: 飲食・食品カテゴリの売却案件が8,592件掲載(2026年4月時点)。カフェ・ラーメン・居酒屋・ファストフード・食品製造など43業種の細分化カテゴリに対応しており、5年連続で成約件数No.1・案件数No.1を記録(デロイトトーマツMIC経済研究所調査)。平均成約期間は約3ヶ月。
注意点: 原則としてマッチングプラットフォーム型のため、交渉・契約手続きの一部は自身で進める必要があります。専門家サポート付き案件と自己成約案件が混在しているため、サポートの深さを確認してから登録することを推奨します。買い手が費用を負担するモデルのため、買い手側の条件交渉が強くなる場合があります。
こんな飲食事業者に向いています:
- コストを最小限に抑えてM&Aを試したい個人経営の飲食店
- 幅広い買い手候補にアプローチしたい
- 1〜3店舗規模のスモール案件(数百万〜数千万円)
出典: バトンズ公式サイト(https://batonz.jp/、2026年4月29日確認)
3. 日本M&Aセンター(株式会社日本M&Aセンター)
1991年設立、東証プライム上場のM&A仲介業界最大手。M&A仲介成約件数でギネス世界記録5年連続認定(全業種横断)の実績を持ちます。
手数料体系(2026年4月確認):
- 着手金:なし(公式サイト記載)
- 成功報酬:レーマン方式(具体的な料率は非公開・要個別相談)
飲食業界向けには食品業界専門グループを設置。食のベンチャー企業のイグジット支援、創業100年超の老舗飲食店の事業承継、外食チェーンの多店舗展開支援など多様な案件に対応しています。全国の地方銀行・信用金庫との連携ネットワークも強みです。
注意点: 成功報酬の料率は非公開であるため、業界最大手の規模感から高水準の手数料になる可能性があります。スモール案件(〜5,000万円)への対応姿勢は要確認です。また、売り手・買い手双方から報酬を受け取る両手仲介モデルである点も事前に理解した上で相談することを推奨します。
こんな飲食事業者に向いています:
- 中規模〜大規模チェーン(譲渡金額1億円以上)を売却したい
- 全国の買い手企業ネットワークにアプローチしたい
- 外食大手・食品企業への売却を視野に入れている
出典: 日本M&Aセンター公式サイト(https://www.nihon-ma.co.jp/sector/restaurant.php、2026年4月29日確認)
4. M&A総合研究所(株式会社M&A総合研究所)
東証グロース上場。売り手は完全成功報酬制(着手金・中間報酬・月額報酬のいずれもゼロ)を掲げ、独自のAIマッチングシステムによるスピード成約に強みを持ちます。
手数料体系(2026年4月29日・公式サイト確認):
- 売り手:完全成功報酬(着手金・中間報酬・月額報酬なし)
- 成功報酬の料率:非公開(要個別問い合わせ)
実績: 最短43日・平均7.2ヶ月での成約(2025年9月期実績)。飲食業界での取扱事例として、居酒屋3店舗+焼肉1店舗の案件、5店舗展開飲食企業の案件などが公式コラムで確認できます。
注意点: 成功報酬の料率が非公開のため、比較検討時には必ず個別相談で確認が必要です。完全成功報酬制のモデルでは、アドバイザーが早期成約を優先するインセンティブが働く場合があるため、売却条件の詳細についてしっかりすり合わせることが重要です。
こんな飲食事業者に向いています:
- 着手金・中間報酬を一切払いたくない
- スピード感を重視して早期に売却を完了させたい
- 中小規模の飲食チェーン(5〜20店舗程度)
出典: M&A総合研究所公式サイト(https://masouken.com/en/charge、2026年4月29日確認)
5. ファンドブック(株式会社ファンドブック)
AIマッチングシステム「KEPL」を活用し、約10,000社の潜在バイヤーネットワークを強みに持つM&A仲介会社。財務・法務・戦略のワンストップ支援を提供し、飲食業界のM&Aへの対応を公式サイトで明示しています。
手数料体系: 公式サイトに具体的な記載なし(要個別問い合わせ)
AIマッチングにより候補企業の抽出をスピードアップし、業界特化チームによる専門サポートを組み合わせています。
注意点: 手数料体系が公式サイトに掲載されていないため、他社との比較は問い合わせ前に難しいです。飲食業界専任チームの有無・体制については公式確認が必要です。
こんな飲食事業者に向いています:
- 業界外(異業種からの参入企業など)を含む幅広い買い手候補を探したい
- 財務・法務のワンストップサポートを求めている
- 中小規模の食品関連事業者
出典: ファンドブック公式サイト(https://fundbook.co.jp/、2026年4月29日確認)
6. ストライク(株式会社ストライク)
1997年設立、東証プライム上場の独立系M&A仲介会社。3,300件超のM&A成約実績(創業以来累計)を持ち、年間成約組数は275組(2025年9月期)。金融機関系列ではない完全独立系であることが特徴で、特定の金融機関や業界の利害関係なく中立的なアドバイスを受けられます。
手数料体系(2026年4月確認):
- 着手金:無料
- 成功報酬:オーナー受取額レーマン方式(オーナーが実際に受け取る金額を基準に算出)
- 具体的な料率:非公開(要個別相談)
「オーナー受取額レーマン方式」は、譲渡価額全体ではなく、負債等を差し引いたオーナーの実際の受取額を基準にするため、手数料の計算上売り手に有利になることがあります。飲食業界向けには多店舗展開セミナーの主催実績(2025年12月)があり、飲食業界案件への対応を確認できます。
注意点: 最低報酬額が公式サイトに記載されていないため、スモール案件では事前に確認が必要です。飲食業界専門チームの有無は未確認のため、担当者の業界経験についても問い合わせ時に確認することを推奨します。
こんな飲食事業者に向いています:
- 中立的な独立系アドバイザーのサポートを求めている
- 着手金を払わずに相談を始めたい
- 中小規模から中堅(売上高数千万円〜百数十億円)の飲食チェーン
出典: ストライク公式サイト(https://www.strike.co.jp/、2026年4月29日確認)
7. 飲食店M&Aサポート(food-ma.jp)
「飲食業界M&Aサービス11年目」を掲げる飲食特化型のM&A支援サービスです。居抜き物件の買取にも対応しており、純粋なM&A(事業譲渡・株式譲渡)だけでなく造作譲渡まで幅広く扱います。東京・神奈川・大阪・東海エリアのほか、海外案件にも対応しています。
手数料体系: 公式サイトに具体的な記載なし(要個別問い合わせ)
無料相談・秘密厳守を掲げており、売却の意思決定前の相談にも対応しています。
注意点: 公式サイトから会社の資本規模・詳細な実績件数が確認しにくいため、相談前に会社概要を問い合わせることを推奨します。手数料の透明性については個別確認が必要です。
こんな飲食事業者に向いています:
- 居抜き譲渡とM&Aのどちらが適切か判断したい
- 小規模案件で飲食に精通した専門家に相談したい
- 関東・関西・東海エリアの個人経営店
出典: 飲食店M&Aサポート公式サイト(https://food-ma.jp/、2026年4月29日確認)
規模・業態別のおすすめ
飲食業界のM&Aでは、「何店舗を、いくらで売るか」によって最適な相談先が変わります。
スモール案件(譲渡金額〜5,000万円 / 1〜3店舗の個人経営)
おすすめ: バトンズ、飲食店ドットコムM&A(セルフプラン)、飲食店M&Aサポート
1〜3店舗の個人経営では、売却金額が数百万〜数千万円になることが多く、手数料の負担が相対的に大きくなります。
バトンズは売り手完全無料のため、最もコストを抑えられます。飲食・食品だけで8,592件の案件が掲載されており(2026年4月時点)、買い手候補の数は業界最大規模です。交渉・手続きをある程度自分で進める意思がある場合は、最初の相談先として有力です。
飲食店ドットコムM&Aはアドバイザリープランを使うと5,000万円以下では350万円の固定手数料が発生しますが、セルフプラン(無料)を選べばコストを抑えられます。飲食業界のネットワークに特化した点は強みです。
注意点: 最低報酬の落とし穴
5,000万円以下の案件で飲食店ドットコムM&AのアドバイザリープランやM&A総合研究所など着手金なし・成功報酬制の会社を使う場合、最低報酬の確認が不可欠です。売却金額が500万円でも最低報酬が350万円なら、実質的な手数料率は70%になります。小規模案件では「最低報酬がいくらか」を最初の問い合わせ時に必ず確認してください。
中規模案件(譲渡金額5,000万円〜3億円 / 5〜20店舗の複数展開チェーン)
おすすめ: M&A総合研究所、ストライク、飲食店ドットコムM&A(アドバイザリープラン)
複数店舗を展開し、組織・スタッフ・調理システムをまとめて引き継ぎたい場合は、フルサポート型の仲介会社が向いています。
M&A総合研究所は完全成功報酬制(着手金なし)でAIマッチングによるスピード成約に強く、5〜20店舗規模の飲食案件での取扱実績があります。ストライクは3,300件超の実績と独立系の中立性が強みで、着手金不要で相談を始められます。
飲食店ドットコムM&Aはこの規模帯では手数料率が7%と業界標準的な水準で、飲食業界特化のネットワークが活きます。
大規模案件(譲渡金額3億円以上 / 外食チェーン・食品製造業)
おすすめ: 日本M&Aセンター、ファンドブック
年商数億円〜数十億円規模の外食チェーンや食品製造・卸売業のM&Aでは、大手企業への売却交渉力・全国ネットワーク・デューデリジェンス対応力が求められます。
日本M&Aセンターは東証プライム上場企業を含む広範なバイヤーネットワークと、ギネス記録の成約実績を持ちます。食品業界専門グループが存在し、中規模チェーンから大手外食グループへの売却案件に対応しています。
ファンドブックは約10,000社の潜在バイヤーを保有し、異業種からの参入企業も含む幅広い候補とのマッチングが可能です。
飲食業界のM&A仲介会社を選ぶ際の5つのチェックポイント

1. 飲食業界の案件実績・専門知識があるか
FL比率(食材費+人件費の割合)・座席回転率・ランチ/ディナー比率など、飲食業界特有の経営指標を理解した上で価値評価してくれるかどうかは、売却価格の精度に直結します。「飲食業界での取扱実績は何件か」「担当者に飲食業界の知識はあるか」を最初の面談で確認しましょう。
2. 手数料体系が明確か(最低報酬額を必ず確認)
成功報酬制で「着手金なし・完全成功報酬」と謳っていても、最低報酬額の設定がある場合があります。スモール案件ほどこの影響が大きくなります。問い合わせ時に「私のケース(売却想定額・店舗数)では最低報酬はいくらか」を具体的に聞くことが重要です。
3. 許認可対応の知識があるか
飲食店のM&Aには、食品衛生責任者・食品衛生法に基づく営業許可・酒類販売免許・深夜酒類提供飲食店営業許可などの許認可が絡みます。M&Aのスキーム(株式譲渡か事業譲渡か)によって許認可の引き継ぎ方法が変わるため、行政書士との連携体制があるかどうかも確認ポイントです。
4. プラットフォーム型か仲介型か、自分のニーズに合っているか
バトンズのようなプラットフォーム型は費用を最小化できますが、アドバイスの深さは仲介型に劣ります。フルサポートの仲介型は費用がかかりますが、交渉・書類作成・デューデリジェンス対応まで一貫してサポートを受けられます。「自分でどこまで対応できるか」を基準に選択してください。
5. 秘密保持への対応が徹底されているか
飲食店の売却情報が従業員・取引先・顧客に漏れると、スタッフの離職・取引先の関係悪化・常連客の離反につながります。秘密保持契約(NDA)のタイミング・情報開示の範囲について、事前に会社のポリシーを確認することを強く推奨します。
飲食業界M&Aで注意すべき4つのポイント
許認可の引き継ぎは事前確認が必須
飲食店のM&Aでは、成約後に許認可の引き継ぎ・再取得が必要になる場合があります。
- 株式譲渡の場合: 法人格が変わらないため、多くの許認可はそのまま引き継がれます
- 事業譲渡の場合: 許認可は原則として引き継ぎできず、新たに取得が必要になります
特に酒類販売免許(税務署の許可)や深夜酒類提供飲食店営業許可(警察署の許可)は取得まで時間がかかるため、M&A成約後の営業継続に影響することがあります。実際の許認可対応については、行政書士・弁護士にご相談ください。
株式譲渡 vs 事業譲渡、どちらを選ぶか
個人経営の飲食店(個人事業主)のM&Aは事業譲渡が一般的です。法人が経営する場合は株式譲渡も選択肢に入りますが、税務インパクトが大きく異なります。
- 売り手にとっての税務面: 株式譲渡による売却益は原則として申告分離課税(税率約20.315%)。事業譲渡による売却益は原則として総合課税の対象で、所得税率が高くなる場合があります
- 買い手側のリスク引き受け: 株式譲渡では会社が抱える簿外債務(過去の未払いリース・原状回復義務等)ごと引き継ぐリスクがあります
税務・法務面の判断は必ず税理士・弁護士に相談することを強くお勧めします。
簿外債務・設備リスクのデューデリジェンス
飲食店は厨房設備の老朽化・未払いリース料・原状回復義務(閉店時の原状回復コスト)・未払い残業代などの簿外債務が発覚しやすい業種です。M&A成約後に想定外のコストが発生するリスクを避けるため、買い手によるデューデリジェンスに誠実に対応し、懸念事項は事前に開示することが結果的に良い成約につながります。
両手仲介と利益相反の理解
M&A仲介会社の多くは、売り手と買い手の双方から報酬を受け取る「両手仲介」モデルを採用しています。この場合、会社の利益は「取引を成立させること」にあるため、売り手に最も有利な条件を追求してもらえるとは限りません。この点を理解した上で、自社の売却条件を明確に伝え、条件交渉における仲介会社の立場について事前に確認することが重要です。
こんな飲食事業者にM&Aが向いています
以下に該当する場合、M&Aによる売却を前向きに検討する価値があります。
M&Aが向いているケース:
- 後継者がいないが、スタッフや常連客のためにお店を継続させたい
- 人手不足や食材費・光熱費の高騰で経営が厳しく、経営再建の見通しが立ちにくい
- 複数店舗を経営しており、組織ごとまとめて次のオーナーに引き継ぎたい
- ブランド・レシピ・調理システムに独自の価値があり、それを正当に評価してもらいたい
- 経営からは引退したいが、廃業には踏み切れない
こんな場合はM&A以外も検討してください
一方で、M&Aが必ずしも最適な選択ではないケースもあります。
M&A以外も検討すべきケース:
- 設備・内装だけを売りたい場合 → 居抜き譲渡(造作譲渡)が適切
- 赤字が長期間続いており、買い手側に引き継ぐメリットが見当たらない場合 → 専門家に相談し、廃業・清算の選択肢も含めた判断が必要
- 特定の人物(家族・知人)に引き継ぎ先が決まっている場合 → 仲介会社を通さない直接交渉を専門家のサポート付きで進める選択肢もある
- 秘密保持を最優先にしており、プラットフォームへの情報掲載に抵抗がある場合 → 非公開案件対応の仲介型会社を選ぶ
よくある質問
Q1. 飲食店を売却した場合、いくらくらいになりますか?
一般的には年商の0.2〜1.0倍、または営業利益の2〜4倍が目安とされています(M&A仲介各社コラム・複数ソース共通)。たとえば年商3,000万円の小規模飲食店であれば600万円〜1,000万円前後が参考値です。ただし、立地・ブランド力・店舗数・収益性・設備状態によって大きく変動します。正確な査定は、M&A仲介会社または公認会計士・税理士にご相談ください。なお、上記はあくまで参考値であり、個別案件の価格を保証するものではありません。
Q2. 飲食店のM&Aにはどれくらいの期間がかかりますか?
一般的には3〜12ヶ月が目安です。バトンズは平均3ヶ月、M&A総合研究所は最短43日・平均7.2ヶ月(2025年9月期実績)、飲食店ドットコムM&Aは通常3ヶ月程度。スモール案件ほどマッチングが早く、大規模案件ほどデューデリジェンスや条件交渉に時間がかかる傾向があります。
Q3. 完全成功報酬制と書いてある会社は本当に費用ゼロですか?
「完全成功報酬制」は着手金・中間報酬がゼロという意味で、成約時の成功報酬は別途発生します。バトンズは売り手の成功報酬もゼロですが、他の会社では成約額に応じた成功報酬が発生します。また、最低報酬額の設定がある会社も多いため、問い合わせ時に必ず確認してください。
Q4. 食品衛生責任者の資格や酒類販売免許はM&A後にどうなりますか?
M&Aのスキームによって異なります。株式譲渡の場合は法人格が変わらないため多くの許認可がそのまま引き継がれる場合がありますが、事業譲渡の場合は許認可の再取得が必要になることが一般的です。特に酒類販売免許は税務署での手続きが必要で、深夜酒類提供飲食店営業許可は警察署での手続きが必要です。実際の対応は行政書士・弁護士にご相談ください。
Q5. 個人経営(個人事業主)の飲食店はM&Aできますか?
できます。個人事業主の場合は事業譲渡が主なスキームとなり、営業権(のれん)・設備・スタッフ・仕入れ先との契約などを含む形で事業を引き継いでもらうことになります。バトンズや飲食店ドットコムM&Aは個人経営の小規模案件にも多数の実績があります。ただし、個人事業主と法人では税務上の取り扱いが異なるため、税理士への相談を強く推奨します。
Q6. 相談したことが従業員に知られないようにできますか?
仲介会社との秘密保持契約(NDA)の締結、および買い手候補との交渉段階でのNDA締結が一般的です。ただし、デューデリジェンスの段階では経営情報の開示が必要になります。従業員への情報開示のタイミング・範囲は、仲介会社と事前に方針を決めておくことが重要です。
まとめ:飲食業界のM&A仲介会社の選び方
飲食業界のM&Aで最適な仲介会社を選ぶには、売却規模と自分がどこまでサポートを必要としているかの2軸で判断するのが効率的です。
こんな状況 | おすすめの相談先 |
|---|---|
1〜3店舗・コストを最小化したい | バトンズ(売り手完全無料) |
1〜3店舗・飲食業界の専門家にサポートしてほしい | 飲食店ドットコムM&A(アドバイザリープラン) |
5〜20店舗・着手金なしで早期成約を目指したい | M&A総合研究所、ストライク |
20店舗以上の大規模チェーン・食品製造業 | 日本M&Aセンター、ファンドブック |
まず幅広く相談・比較したい | 複数社に同時相談(秘密保持の確認は必須) |
飲食業界は許認可・スキーム選択・簿外債務リスクなど業界固有の論点が多く、仲介会社に業界知識があるかどうかが売却の成否を左右します。費用よりも「担当者の業界理解度」を最初の面談で見極めることを優先してください。
M&A仲介会社全般の選び方については、M&A仲介会社の選び方・比較(売り手向け)も参考にしてください。M&Aの手数料・相場についてはM&A費用・手数料の相場と内訳で詳しく解説しています。
注意事項: 本記事に掲載している手数料・実績数値は各社公式サイトの2026年4月29日時点の情報に基づいています。内容は変更される場合があるため、最新情報は必ず各社公式サイトでご確認ください。税務・法務に関する事項の判断は税理士・弁護士・M&A専門家にご相談ください。
