株主間契約(SHA/Shareholders Agreement)とは、同じ会社の株式を持つ複数の株主が、株式の譲渡・経営への関与・意思決定などのルールを定める契約です。 株式を一部だけ売って少数株主として残るオーナーにとっては、会社法上は持てなくなった権利を契約で取り戻すための、事実上唯一の手段になります。
会社の株式を51%売って49%を残す。ファンドに売却して一部を再出資する。資本業務提携で3割だけ買ってもらう——こうした「一部売却」では、譲渡比率と価格の交渉に意識が向きがちです。しかし売却後にオーナーの立場を決めるのは、比率そのものではなく株主間契約に何を書いたかです。
この記事でわかること:
- 株主間契約(SHA)の意味と、定款・種類株式・投資契約との違い
- 一部売却で株主間契約が必要になる3つの場面
- 持株比率ごとに会社法上で持てる権利と、1/3を切った瞬間に失うもの
- 株主間契約に定める主な条項(ガバナンス/情報/株式譲渡/デッドロック/終了)
- タグアロングとドラッグアロング、売り手にとってどちらが味方でどちらが地雷か
- 売り手が交渉で取りに行くべき条項と、飲まされがちな条項
- 契約違反があっても株主総会決議は無効にならないという限界(裁判例つき)
- 残した株式の価格に働くディスカウントと、配当・譲渡で分かれる税負担
この記事は、「会社の株式を全部ではなく一部だけ売る」「売却後も株主として残る」ことを検討している中小企業のオーナー経営者に向けて書いています。 すでに買い手から株主間契約のドラフトを提示されている方が、どこを読むべきかを判断できる内容にしました。
ご注意: 本記事は、2026年8月22日時点で確認した公表資料・法令・裁判例をもとにした一般的な整理です。株主間契約の効力や強制力は、条項の書き方・当事者の属性・締結の経緯によって結論が変わります。また税務の取扱いは個別事情で異なります。実際の締結・交渉にあたっては、必ずM&A実務に精通した弁護士・税理士にご相談ください。

株主間契約(SHA)とは|株主同士のルールを定める契約
株主間契約とは、同じ会社の株式を保有する複数の株主が、株式譲渡・経営への関与・意思決定などに関するルールを定める契約です。 株主間協定、英語表記の頭文字を取って「SHA(Shareholders Agreement)」とも呼ばれます(出典: M&Aキャピタルパートナーズ「株主間契約とは?」記事内表示2026年4月10日/2026年8月22日確認)。
ポイントは、会社法や定款だけではカバーしきれない事項を、当事者の合意だけで柔軟に決められるという点です。株主総会の決議も登記も不要で、内容を外部に公開する必要もありません。合弁会社やベンチャーの資金調達でよく使われてきましたが、中小企業のM&Aでも「一部だけ売る」案件では必ず論点になります。
株主間契約の効力は3層に分かれる
株主間契約を理解するうえで最も重要なのが、「誰に対して、どこまで効くのか」です。ここを誤解したまま署名すると、いざというときに何も守られません。
対象 | 効力 |
|---|---|
契約当事者の間 | 債権的な権利義務が発生する。違反があれば履行請求・損害賠償請求の根拠になる |
会社・契約に署名していない株主 | 当然には効力が及ばない。 会社に義務を負わせたいなら、会社自身を契約当事者に加える必要がある |
会社法上の決議 | 契約に違反する議決権行使があっても、株主総会の決議が当然に無効になるわけではない |
(出典: アイシア法律事務所「株主間契約とは|少数株主が確認すべき効力・拒否権・情報提供・売却条項」/NECキャピタルソリューション「株主間契約のしくみとM&Aでの機能と役割」2025年10月2日公開、いずれも2026年8月22日確認)
つまり株主間契約は、「約束を破られたら賠償を請求できる」タイプの武器であって、「約束に反する行為を物理的に止める」仕組みではありません。この性質が、後述する条項設計のすべてに関わってきます。
株式を一部だけ売るという選択肢そのものを整理したい方は、先にこちらをご覧ください。
関連記事:一部株式譲渡の売却ガイド|過半数・少数持分は何%残すべきか / 株式譲渡とは?わかりやすく解説
一部売却で株主間契約が必要になる3つの場面
一部売却の案件で株主間契約が登場するのは、主に次の3パターンです。 どれに当てはまるかで、交渉で優先すべき条項が変わります。
場面 | 状況 | 売り手が最も気にすべきこと |
|---|---|---|
① 段階的取得(セカンドクロージング型) | 買い手がまず51%などを取得し、残りを数年後に取得する前提 | 残りをいつ・いくらで買ってもらえるか(時期・価格算定式・買わなかった場合の措置) |
② 合弁・資本業務提携型 | 買い手と共同で会社を経営する。オーナーは経営に残る | 経営の意思決定ルール(役員指名権・事前承諾事項・デッドロック解消) |
③ ファンド売却+再出資(ロールオーバー)型 | PEファンドに売却し、対価の一部を買収持株会社に再出資する | ファンドのEXIT時期に自分の持分がどう扱われるか(同一条件での売却参加) |
(出典: NECキャピタルソリューション「株主間契約のしくみとM&Aでの機能と役割」2025年10月2日公開/2026年8月22日確認)
①段階的取得型で起きやすいこと
「まず過半数を渡して、残りは3年後に」という設計は、引き継ぎ期間を確保したいオーナーに好まれます。ただし2回目の取得を買い手に義務づける条項がなければ、残った株式は宙に浮きます。 買い手には買う義務がなく、非上場の少数持分を買う第三者もいない。結果として「売れない株式に相続税だけがかかる」状態になり得ます。
②合弁・資本業務提携型で起きやすいこと
買い手に渡す出資比率が3分の1未満に留まるなら、オーナー側が引き続き会社をコントロールできます。逆に買い手が3分の1を超えると、買い手が特別決議を単独で否決できる立場になります。どちらが「止める力」を持つのかは比率で決まるため、契約交渉の前に比率設計を確定させる必要があります。
③ロールオーバー型で起きやすいこと
ファンドへの売却では、売却代金の一部を買収側の持株会社に再出資し、数年後のEXITでもう一度対価を得る設計が使われます。この場合、自分の持分の出口は完全にファンドのEXIT時期に連動します。 「いつ売れるか」を自分で決められないため、EXIT時に同一条件で売却に参加できる権利(後述のタグアロング)が生命線になります。

持株比率で変わる株主の権利|1/3を切ると何を失うのか
株主間契約の必要性を判断する出発点は、「会社法上、何%で何ができるか」です。 ここは交渉で動かせない線引きなので、まず現実を確認してください。
持株比率 | 主な権利 | 根拠(会社法) |
|---|---|---|
1株以上 | 議決権、剰余金配当請求権、残余財産分配請求権、株主代表訴訟提起権、違法行為差止請求権 | 105条、360条、847条 ほか |
1%以上 | 株主提案権(議決権300個以上でも可) | 303条 |
3%以上 | 株主総会招集請求権、会計帳簿閲覧謄写請求権、役員の解任の訴えの提起 | 297条、433条、854条 |
10%以上 | 会社の解散を求める訴えの提起 | 833条 |
1/3超 | 特別決議を単独で否決できる(事実上の拒否権) | 309条2項 |
過半数(1/2超) | 普通決議を単独で可決できる(取締役の選任・解任など) | 309条1項 |
2/3以上 | 特別決議を単独で可決できる(定款変更・組織再編など) | 309条2項 |
90%以上 | 特別支配株主として株式等売渡請求(スクイーズアウト)ができる | 179条 |
(出典: 会社法各条文/植野法律事務所「株主の権限(株主権)とは?持株比率ごとの権利と会社法手続きを整理して解説」2026年8月22日確認)
注意点: 上記は一般的な整理です。取締役会設置会社かどうか、公開会社か非公開会社か、定款で決議要件が加重されているかによって、実際の要件は変わります。また、株主提案権・株主総会招集請求権・株主代表訴訟提起権などは、公開会社では6か月前から引き続き株式を保有していることが要件となる場合があります。自社の定款と登記事項を必ず確認し、当てはめは弁護士に依頼してください。
この記事の核心:1/3以下になった瞬間、会社法上の拒否権は消える
一部売却を検討するオーナーが直視すべき事実はシンプルです。
- 1/3超を残せば、定款変更・組織再編・重要な事業譲渡といった特別決議事項を単独で止められる
- 1/3以下になれば、会社法上は「止める力」が一切なくなる。3%以上なら帳簿は見られるが、経営判断には関与できない
「51%売って49%残す」は、この線をぎりぎり守る設計です。一方で「67%売って33%残す」は、会計帳簿は見られるが経営は止められない株主になることを意味します。
だからこそ、NECキャピタルソリューションの解説でも「会社法上、少数株主の持株比率では拒否権がない事項についても、株主間契約における少数株主の事前承諾事項として規定しておくことが極めて重要になる」と指摘されています(2025年10月2日公開/2026年8月22日確認)。
株主間契約は、会社法で失った権利を契約で取り戻すための道具です。 この記事の残りは、そのための具体的な条項の話になります。
株主間契約に定める主な条項
株主間契約の条項は、大きく5つのグループに分かれます。 提示されたドラフトを読むときは、この5つのどれに当たるかを分類しながら読むと全体像を把握しやすくなります。
グループ | 代表的な条項 | 目的 |
|---|---|---|
① 持株比率 | 優先引受権(新株の優先購入権)、希薄化防止 | 増資で持分が薄まるのを防ぐ |
② ガバナンス | 役員指名権、取締役会の定足数加重、事前承諾事項 | 経営の意思決定に関与する |
③ 情報 | 計算書類・月次試算表・事業計画の提供義務 | 会社の状態を把握する |
④ 株式譲渡 | 譲渡制限、先買権(ROFR)、タグアロング、ドラッグアロング、プット/コールオプション | 出口を確保する・望まない譲渡を防ぐ |
⑤ 終了・解消 | 有効期間、終了事由、デッドロック解消手続き | 関係が壊れたときの処理を決める |
(出典: M&Aキャピタルパートナーズ/NECキャピタルソリューション/契約ウォッチ「株主間契約とは?」/アイシア法律事務所の各解説、いずれも2026年8月22日確認)
① 持株比率に関する条項
会社が増資(募集株式の発行)をすると、参加しない株主の持分は薄まります。優先引受権は、新株発行時に既存の持株比率に応じて優先的に引き受けられる権利です。
一部売却後のオーナーにとって、これは単なる技術論ではありません。買い手が主導する増資が繰り返されれば、49%の持分が知らぬ間に30%を切ることもあり得ます。「増資を事前承諾事項に入れる」か「優先引受権を確保する」か、どちらかは必ず取ってください。
② ガバナンスに関する条項
経営への関与を確保する条項群です。中心は次の3つです。
- 役員指名権:「売り手は取締役を1名指名でき、買い手は指名された者の選任に賛成する議決権を行使する」という形で規定する
- 取締役会の定足数加重:売り手が指名した取締役が出席していなければ取締役会を成立させない、という設計。少数側の発言機会を制度的に確保する
- 事前承諾事項(拒否権条項):一定の重要事項について、売り手の事前の書面同意がなければ実行できないと定める
事前承諾事項の対象として一般的に挙げられるのは、合併・会社分割などの組織再編、重要な資産の売却、多額の借入、増資、事業計画・予算の承認、役員報酬の決定、配当方針の変更などです。
売り手の視点: 事前承諾事項は「多ければ多いほど良い」わけではありません。対象を広げすぎると買い手の経営スピードを落とすため交渉が難航し、締結後も日常的な摩擦の原因になります。自分の持分価値に直結する項目(増資・組織再編・重要資産の処分・配当方針)に絞るのが現実的です。
③ 情報提供に関する条項
3%以上を保有していれば会社法上の会計帳簿閲覧謄写請求権がありますが、これは「請求して初めて見られる」権利であり、しかも会社側が拒否できる事由も定められています。日常的に会社の状態を把握するには不十分です。
株主間契約では、次の点まで具体的に決めます。
- 提供する資料(月次試算表・四半期/年次の計算書類・事業計画・資金繰り表など)
- 提供の頻度と期限(例:月次試算表は翌月◯営業日以内)
- 秘密保持の条件と、開示できる相手(顧問税理士など)の範囲
派遣した取締役やオブザーバーを通じた情報アクセスを組み合わせておくと、より実効性が上がります。
④ 株式譲渡に関する条項
一部売却の売り手にとって、実質的に最重要のグループです。 代表的な条項を整理します。
条項 | 内容 | 売り手への意味 |
|---|---|---|
譲渡制限 | 他の株主の事前承諾なしに株式を譲渡できない | 買い手が勝手に第三者へ転売するのを防げる/自分も自由に売れなくなる |
先買権(ROFR) | 第三者へ売る前に、他の株主が同条件で優先的に買える | 買い手の転売を止める手段になる |
優先交渉権(ROFO) | 第三者に打診する前に、他の株主と先に交渉する義務 | 同上(ROFRより緩やか) |
タグアロング(共同売却権) | 大株主が第三者に売却する際、同一の価格・条件で自分も売却に参加できる | 売り手を守る条項 |
ドラッグアロング(強制売却権) | 一定比率以上の株主が売却に合意した場合、反対株主にも同一条件での売却を義務づける | 売り手のリスクになりうる条項 |
プットオプション | 一定の事由・時期に、自分の株式を相手に買い取らせる権利 | 残した株を現金化する確実性の高い手段 |
コールオプション | 相手が一定の事由・時期に、自分の株式を買い取れる権利 | 意図しないタイミングで持分を失う可能性 |
⑤ デッドロック解消・契約終了に関する条項
合弁型で経営が行き詰まったときの処理を定めます。一般的には、①一定期間の協議 → ②第三者(調停人など)の関与 → ③一方が他方の株式を買い取る仕組み(ロシアンルーレット、テキサスシュートアウト等) → ④それでも解決しなければ合弁解消・解散、という段階的な設計が取られます。
契約終了条項で見落とされやすいのが、「持株比率が一定の水準を下回った場合に権利が消滅する」という定めです。増資や一部譲渡で比率が下がった瞬間に、事前承諾権も情報提供請求権も消える設計になっていないか、必ず確認してください。
タグアロングとドラッグアロング|売り手の味方と地雷
この2つは名前が似ていますが、売り手にとっての意味は正反対です。 一部売却で株を残すなら、ここだけは自分で理解しておく必要があります。
比較ポイント | タグアロング(共同売却権) | ドラッグアロング(強制売却権) |
|---|---|---|
誰の権利か | 少数株主(=残った売り手)の権利 | 大株主(=買い手)の権利 |
内容 | 大株主が第三者に売却する際、少数株主も同一価格・同一条件で売却に参加できる | 大株主が売却に合意した場合、反対する少数株主にも同一条件での売却を強制できる |
発動する場面 | 買い手が持分を第三者に転売するとき | 買い手が会社全体を第三者に売却したいとき |
売り手にとって | メリット。 取り残されずに一緒に現金化できる | リスク。 想定より早い時期・不本意な価格で売らされる可能性がある |
交渉方針 | 必ず入れる | 発動条件(最低価格・時期・比率要件)を交渉する |
(出典: M&Aキャピタルパートナーズ「タグアロング(売却参加権)とは?」/レバレジーズM&Aアドバイザリー/アイシア法律事務所の各解説、2026年8月22日確認)
タグアロングを必ず取るべき理由
タグアロングがないと、次の事態が起こり得ます。買い手が自分の持分(例:51%)を別の会社やファンドに高値で売却する。新しい支配株主は自分にとって見ず知らずの相手で、しかも自分の49%を買う義務は誰にもない。 会社の方針は変わり、配当も出ず、持分だけが手元に残ります。
タグアロングがあれば、少なくとも「支配株主が売るときは自分も同じ条件で降りられる」状態を確保できます。
ドラッグアロングは一律に拒否しなくてよい
ドラッグアロングは、買い手から必ずと言ってよいほど要求されます。買い手(特にファンド)にとっては、将来のEXIT時に100%まとめて売れることが投資の前提だからです。
売り手にとっては「意思に反して売らされる」リスクですが、同一条件での売却が保証されるなら、換金の機会でもあります。 実務的には、一律に拒否するのではなく発動条件を交渉するのが現実的です。
ドラッグアロングを受け入れる場合の交渉ポイント:
- 最低価格の下限を設ける(例:1株あたり◯円、または初回譲渡価格を下回らない)
- 発動できる時期を制限する(例:クロージングから3年経過後)
- 発動に必要な賛成比率を引き上げる
- 売却先に競合他社や反社会的勢力を含めないなどの制限を付ける
- 自分が負う表明保証・補償の範囲を、持株比率に応じた範囲に限定する
売り手が取りに行くべき条項/飲まされがちな条項
株主間契約の交渉は、買い手と売り手で欲しいものが正面から対立します。 何を守り、何を譲るかを事前に決めておかないと、ドラフトの分量に押されてそのまま署名することになります。
売り手が取りに行くべき条項 | 売り手が警戒すべき条項 |
|---|---|
事前承諾事項(増資・組織再編・重要資産の処分・配当方針) | ドラッグアロング(発動条件の制限がないもの) |
タグアロング(同一条件での売却参加権) | 一方的なコールオプション(相手だけが買い取れる権利) |
取締役指名権・取締役会の定足数加重 | 持株比率の低下によって権利が消滅する条項 |
情報提供義務(月次・四半期・年次の資料と提供期限) | 優先引受権のない増資条項(希薄化を止められない) |
プットオプション+価格算定式+行使期間 | 過度な譲渡制限(自分の出口が完全に塞がる) |
配当方針・役員報酬に関する取り決め | 「協議のうえ決定する」など内容が特定できない条項 |
「協議のうえ決定する」が最も危険
法律事務所の解説で共通して指摘されているのが、抽象的な条項は実効性を持たないという点です。「誰が・何を・いつまでに実行すべきか」が特定できない条項は、いざ争いになったときに何を請求してよいのか裁判所に示せません(出典: アイシア法律事務所/マクサス・コーポレートアドバイザリーの各解説、2026年8月22日確認)。
特にプットオプション(買取請求権)は、明示的な条項がなければ発生しません。 「契約に違反されたのだから買い取ってもらえるはずだ」という理解は誤りです。買い取らせたいのであれば、次の要素をすべて書面に落とす必要があります。
- 発動事由(何が起きたら行使できるのか。契約違反を事由とするなら、その重大性の基準も)
- 通知の方法と、違反を是正するための猶予期間(治癒期間)
- 請求する相手(買い手企業か、その親会社か。相手に資力がなければ権利があっても回収できません)
- 価格の算定方法と、算定を行う者(第三者機関か、合意した算定式か)
- 行使できる期間
株主間契約の限界|違反されても決議は無効にならない
株主間契約には、契約である以上どうしても超えられない限界があります。 期待値を正しく持たないまま署名すると、後で「契約したのに何も守られなかった」ということになりかねません。
限界①:会社法上の決議は覆らない
契約に反する議決権行使があっても、それによって成立した株主総会決議が当然に無効になるわけではありません。 会社が実施した行為の効力も原則として失われず、救済手段は主に損害賠償請求になります(出典: NECキャピタルソリューション/アイシア法律事務所の各解説、2026年8月22日確認)。
限界②:契約に署名していない者には及ばない
株主間契約は当事者間にのみ効力を持ちます。会社に義務を負わせたいなら会社を当事者に加える必要がありますし、後から株主になる者を拘束したいなら「新たに株主となる者は本契約に加入する」旨の条項(加入契約)が必要です。
限界③:強制力は条項の書き方で変わる
一方で、株主間契約に何の強制力もないわけではありません。裁判例の状況を整理すると次のようになります。
- 議決権拘束契約(議決権の行使方法をあらかじめ合意する契約)の有効性は、東京高裁 平成12年5月30日判決がこれを認めた裁判例として法律事務所の解説で参照されており、現在は有効とする見解が主流とされています(出典: スパークル法律事務所「株主間契約(議決権拘束契約)違反があった場合の対応」2026年8月22日確認)
- 議決権行使の履行を仮処分で認めた例として、東京地裁 令和4年6月24日決定が、株主間契約の当事者に対し「株主総会で申立人を取締役に選任する議決権行使」「取締役会で指名取締役を代表取締役に選定すること」「申立人を代表取締役から解職しないこと」を求める仮処分を認容し、同年7月26日の異議審決定でも原決定が認可されています(出典: 牛島総合法律事務所 クライアントアラート、2026年8月22日確認)
- 一方で、取締役選任に関する株主間の合意について、議決権行使の履行強制を可能とする法的拘束力までは認めなかった裁判例も存在します(出典: 加藤&パートナーズ法律事務所/S&W国際法律事務所の各解説、2026年8月22日確認)
つまり、結論は一律ではありません。 裁判所は当事者の属性、契約の内容、締結に至った経緯、持株比率などから当事者の合理的意思を認定し、①損害賠償にとどまるのか、②議決権行使の履行まで強制できるのか、を判断していると考えられます。
売り手として押さえるべき実務的な結論は次の2点です。
- 条項の書き方次第で強制力が変わる。 「誰が・何を・どの会議で・いつまで」を特定して書く
- 違反されてからでは遅い場面がある。 重要な決議が目前に迫っている場合は、仮処分の申立てを含めて早期に弁護士へ相談する
専門家への相談をおすすめします: 履行強制が認められるかどうかは、個別の契約文言と事案の事情に大きく左右されます。本記事の裁判例の紹介は一般的な傾向の説明であり、特定の結論を保証するものではありません。必ず弁護士にご相談ください。
定款・種類株式・投資契約との違い
「株主間契約でやるべきか、定款や種類株式を使うべきか」は、実務上よく問題になります。 効力の及ぶ範囲と手続きの重さが違うため、目的に応じて使い分けます。
比較ポイント | 株主間契約 | 定款 | 種類株式 | 投資契約 |
|---|---|---|---|---|
効力が及ぶ範囲 | 契約当事者のみ | 全株主・第三者に及ぶ | 株式そのものに権利が付着し、譲渡されても承継される | 契約当事者のみ |
内容の公開 | 非公開(登記不要) | 会社法に基づく開示の対象 | 登記事項として公示される | 非公開 |
必要な手続き | 当事者の合意のみ。株主総会決議は不要 | 株主総会の特別決議 | 定款変更(特別決議)+登記 | 当事者の合意のみ |
主な役割 | 株主同士の継続的なルール | 会社の基本規則 | 権利内容を株式に固定する | 投資実行までの条件を定める |
競合したときの優先関係 | — | 定款が優先 | — | — |
(出典: M&Aキャピタルパートナーズ「株主間契約とは?」記事内表示2026年4月10日/2026年8月22日確認)
売り手としての使い分けの考え方
- 柔軟性・機動性を重視するなら株主間契約:合意だけで成立し、内容を非公開にできる。当事者が少ない一部売却案件では第一選択になります
- 権利を確実に残したいなら種類株式の併用も検討:株主間契約は相手が変われば効かなくなりますが、拒否権付種類株式(いわゆる黄金株)のように株式に権利を付着させれば、株式が動いても権利は付いていきます。ただし定款変更と登記が必要で、買い手が強く抵抗するケースが多いのが実情です
- 定款は最後の砦だが動かしにくい:定款変更には特別決議が必要で、一部売却後に自分の持分が2/3に届かなければ単独では変更できません。定款で確保したい事項があるなら、クロージング前に手当てしておく必要があります

残した株式の「出口」と手取り|価格と税金の落とし穴
一部売却の売り手が最後に直面するのは、「残した株式は結局いくらになるのか」という問題です。 ここには、契約書の条項とは別に、価格算定と税務という2つの論点があります。
落とし穴①:残した持分は按分価格にならない
「会社全体で10億円なら、49%は4.9億円」という計算は、実務では成立しないのが一般的です。理由は2つあります。
要素 | 内容 |
|---|---|
マイノリティ・ディスカウント | 株式を取得しても議決権の過半数に届かず少数株主にとどまる点に着目して、対価から割り引かれる。支配株主としての価値との差額がコントロール・プレミアムに相当する |
非流動性ディスカウント | 非上場株式は市場で自由に売買できず、自ら買い手を探す必要があるため、換金性の低さが価格に反映される |
(出典: 山田コンサルティンググループ M&A用語集/みつきコンサルティングの各解説、2026年8月22日確認)
ここから導かれる結論は、「先に売る支配権付きの部分は高く、後に残す少数持分は安く評価されやすい」ということです。 「51%を先に売り、値上がりしてから残り49%を売れば合計で得をする」というシナリオは、必ずしも成立しません。
対策は一つです。残した株式の価格算定方法を、最初の契約で決めておくこと。 具体的には、①タグアロングによって支配株主と同一条件での売却を保証する、②プットオプションの行使価格を算定式(EBITDA倍率・純資産法など)で固定する、のいずれかを確保します。
注意点: ディスカウントの具体的な率については、現時点で一次情報として確認できる公表データがありません。「一般に割り引かれる」という事実にとどめ、特定の率を前提に資金計画を立てるのは避けてください。実際の水準は株価算定を行う公認会計士・税理士に個別に確認する必要があります。
落とし穴②:配当で回収するか、譲渡で回収するかで税負担が変わる
「株を残して配当で回収する」という発想は、税務上は不利になる可能性があります。 以下は2026年8月22日時点で確認した現行制度の整理です。
回収方法 | 課税の扱い | 税率の目安 |
|---|---|---|
第三者(買い手企業・ファンド)へ譲渡 | 譲渡所得として申告分離課税 | 所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%=20.315% |
非上場株式の配当を受け取る | 原則として総合課税(上場株式とは扱いが異なる) | 所得税5〜45%の超過累進+住民税10%。高所得層では合計で最大約55%の水準になり得る。源泉徴収は20.42%(地方税なし) |
発行会社(自社)に買い取らせる | 資本金等の額に対応する部分を超える金額がみなし配当として配当所得の対象になり得る | 上記の配当と同様に総合課税の対象 |
(出典: 国税庁タックスアンサー各項/国税庁「確定申告書等作成コーナー」/小谷野税理士法人の解説、いずれも2026年8月22日確認)
なお、総合課税を選択した配当所得には配当控除の適用があるため、実効的な負担は単純合算より下がる場合があります。また、非上場株式の配当のうち一定額以下のもの(いわゆる少額配当)については、所得税の確定申告をしないことを選べる制度もあります(出典: 国税庁タックスアンサー「配当金を受け取ったとき(配当所得)」2026年8月22日確認)。それでも、20.315%で完結する第三者への譲渡と比べると、負担の差は無視できません。
また、同一銘柄の株式を2回以上に分けて取得している場合、譲渡時の取得費は総平均法に準ずる方法で計算します(国税庁タックスアンサー No.1466/2026年8月22日確認)。一部だけを譲渡した場合、譲渡した株数に対応する取得費のみが計上され、残りは将来の売却時まで持ち越されます。
専門家への相談をおすすめします: 税務の結論は、株主構成・資本金等の額・過去の贈与や相続の履歴によって変わります。「配当で回収するか、譲渡で回収するか」の判断は、必ず税理士に試算を依頼したうえで決めてください。

一部売却する売り手のチェックリスト
提示された株主間契約のドラフトは、次の10項目に沿って読んでください。 一つでも「わからない」「書いていない」があれば、その時点で弁護士に確認すべきサインです。
# | 確認項目 | 見るべきポイント |
|---|---|---|
1 | 契約当事者 | 自分・買い手・会社・他の株主のうち、誰が署名しているか。会社が当事者に入っているか。新たに株主になる者の加入条項はあるか |
2 | 有効期間・終了事由 | いつまで有効か。持株比率が一定を下回ると権利が消滅する定めがないか |
3 | 事前承諾事項 | 対象事項は何か。承諾権者は誰か。回答期限と、期限内に回答しない場合の扱い。例外規定はあるか |
4 | 情報提供 | 対象資料・提供頻度・提供期限・秘密保持の条件。顧問税理士等への開示が認められているか |
5 | 取締役指名権 | 何名を指名できるか。他の株主に賛成投票の義務があるか。指名した取締役が解任される場合の手続きは |
6 | 議決権拘束 | 対象となる会議・議案・期間。文言が具体的で、履行を求められる内容になっているか |
7 | タグアロング | 入っているか。同一価格・同一条件が明記されているか。通知義務と期限は |
8 | ドラッグアロング | 発動要件(賛成比率・時期)は何か。最低価格の下限があるか。自分が負う表明保証・補償の範囲は限定されているか |
9 | プットオプション | 発動事由・通知方法・治癒期間・請求相手・価格算定方法・行使期間がすべて特定されているか。請求相手に資力があるか |
10 | 増資・希薄化 | 優先引受権があるか。増資が事前承諾事項に含まれているか |
(出典: アイシア法律事務所「少数株主が確認すべき事項」/NECキャピタルソリューション「少数株主(残存株主)の留意事項」を基に、売り手視点で再構成。2026年8月22日確認)
特に見落とされやすい3点
① 会社が契約当事者になっているか
情報提供義務や配当方針は、本来は会社が履行するものです。会社が契約当事者に入っていなければ、買い手に対して「会社にやらせろ」と請求する形になり、実効性が一段落ちます。
② プットオプションの請求相手に資力があるか
買い取り義務を負うのが買収目的で設立されたSPC(特別目的会社)だった場合、そのSPCに買取資金がなければ、権利があっても回収できません。親会社の保証を付けられないかを交渉してください。
③ 経営者保証との関係
一部売却では、オーナーが少数株主・役員として会社に残るケースが多くなります。このとき最も危険なのは、会社の借入に対する個人保証が残ったまま、経営の主導権だけを買い手に渡してしまう状態です。資金繰りや投資の決定権がないのに、連帯保証人であり続けることになります。
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版・2024年8月30日改訂)」では、譲り渡し側の経営者保証の扱いが記載され、経営者保証を譲り受け側に移行させる想定であったにもかかわらず移行しないケースが問題として指摘されています(出典: 中小企業庁/経済産業省プレスリリース、2026年8月22日確認)。
株主間契約の交渉と並行して、経営者保証の解除・移行を最終契約の条件に組み込んでください。
株主間契約の締結をおすすめするケース/慎重に考えるべきケース
株主間契約を必ず締結すべきケース
状況 | 理由 | 特に重視すべき条項 |
|---|---|---|
株式の一部を売却し、少数株主として残る | 会社法上の権利だけでは経営に関与できず、残した株を現金化する手段もない | 事前承諾事項/タグアロング/プットオプション |
段階的に売却する(セカンドクロージング型) | 2回目以降の取得を買い手に義務づける根拠が必要 | 譲渡時期・比率・価格算定式/買わなかった場合の措置 |
PEファンドに売却し、一部を再出資する | 出口がファンドのEXIT時期に完全に連動する | タグアロング/EXIT時の分配ルール/情報提供 |
資本業務提携で3割前後の出資を受け入れる | 提携が破綻したときの解消手続きがないと身動きが取れなくなる | デッドロック解消/譲渡制限/先買権 |
売却後も社長として経営を続ける | 過半数を渡した時点で、取締役の選任・解任権は買い手に移る | 役員の在任期間・報酬/取締役指名権 |
オーナー以外にも株主がいる | 契約に署名していない株主には効力が及ばない | 全株主の当事者化/加入条項 |
株主間契約より先に検討すべきケース
すべての一部売却で株主間契約が最適解になるわけではありません。 次のような場合は、契約を精緻化する前に前提そのものを見直したほうが良いことがあります。
状況 | 理由 | 代わりに検討すべきこと |
|---|---|---|
早期に確実な現金化が必要 | 残した株はいつ現金化できるか不確実。契約で担保しても時間はかかる | 100%譲渡を優先する |
引退後は会社に一切関わりたくない | 少数株主として残ると、情報も権利も中途半端な状態が続く | 100%譲渡でシンプルに終える |
買い手がプットオプション・タグアロングに一切応じない | 残った株式が塩漬けになる典型パターン | 別の買い手を探す/100%譲渡に切り替える |
事業承継税制の納税猶予を受けており、経営承継期間内 | 一部譲渡でも納税猶予が打ち切りになる可能性がある | 期間の確認を優先し、税理士と全体設計を組み直す |
オーナー以外の少数株主が多数いて株主構成が複雑 | 全員を契約当事者にできなければ実効性が落ちる | 先に株式の集約を行う |
経営者保証の解除見通しが立たない | 決定権がないのに保証だけ残る構図になる | 100%譲渡+保証解除を条件にする |
株主間契約の進め方と相談先
株主間契約は、株式譲渡契約(SPA)の付属物ではありません。 一部売却の売り手にとっては、SPAと同等かそれ以上に自分の将来を左右する契約です。進め方のポイントを整理します。
① 基本合意の段階で「残す株の扱い」を交渉項目に載せる
最終契約の直前になって株主間契約の話を持ち出すと、価格交渉がすべて終わった後の追加要求と受け取られ、通りにくくなります。基本合意(LOI/MOU)の段階で、残した株式の出口を交渉項目として明示しておくのが実務的です。
② SPAと株主間契約の役割分担を理解する
契約 | 主に定めること | 効力の及ぶ期間 |
|---|---|---|
SPA(株式譲渡契約書) | 今回の取引の条件(価格・クロージング・表明保証・補償・競業避止など) | 取引の実行と、その後の補償期間 |
株主間契約(SHA) | クロージング後の株主同士の関係(経営・情報・追加の譲渡) | 契約期間中、継続的に |
「今回いくらで売るか」はSPA、「その後どう付き合うか」は株主間契約、という分担です。両方を同じ弁護士に一体で見てもらうのが望ましい形になります。
③ 自社側で弁護士を立てる
買い手側の弁護士が作成したドラフトは、当然ながら買い手に有利な設計になっています。中小企業庁の中小M&Aガイドライン(第3版・2024年8月30日改訂)でも、仲介者・FAに対して最終契約に含まれるリスク事項について当事者への詳細な説明が求められています。ただし、仲介会社の説明は法務助言の代わりにはなりません。 自社側でM&A実務に精通した弁護士のレビューを受けてください。
費用について: 株主間契約のドラフト作成・レビューにかかる弁護士報酬は、事務所や案件規模によって幅が大きく、公的な相場データは現時点で確認できていません。複数の事務所に見積もりを取って比較することをおすすめします。
④ 一部売却に対応できる仲介会社・FAを選ぶ
一部譲渡や段階的売却は、100%譲渡に比べて設計の難易度が上がります。相談の初期段階で「一部だけ売りたい」「株を残したい」という条件を明示し、対応実績があるかを確認してください。
関連記事:M&A仲介会社の選び方(売り手向け) / M&A仲介会社の比較(売り手向け) / M&A仲介 vs FA(財務アドバイザー)の違い比較
よくある質問
Q1. 株主間契約は必ず書面で作る必要がありますか?
法律上、契約は口頭でも成立し得ますが、株主間契約に関しては書面化が事実上の前提です。理由は、争いになったときに「誰が・何を・いつまでに実行すべきか」を裁判所に示せなければ、履行請求も損害賠償請求も難しくなるためです。特にプットオプションや価格算定式は、口頭の約束では機能しないと考えてください。
Q2. 株主間契約の内容は登記されますか?取引先に知られますか?
株主間契約は登記事項ではなく、内容を公開する義務もありません。この非公開性が定款・種類株式との大きな違いです。ただし、非公開であるがゆえに、契約に署名していない第三者には主張できません。
Q3. 買い手が株主間契約の締結自体を渋る場合はどうすればよいですか?
まず理由を確認してください。「100%取得を前提としているので不要」という趣旨であれば、そもそも一部譲渡の相手として適切かを再考する必要があります。一方、「条項が多すぎて経営が回らない」という懸念であれば、事前承諾事項を持分価値に直結する項目に絞る、情報提供の頻度を四半期に緩めるといった調整で折り合える余地があります。タグアロングとプットオプションだけは譲らないという優先順位で臨むのが現実的です。
Q4. 株主間契約を締結した後、内容を変更できますか?
契約当事者全員の合意があれば変更できます。ただし、クロージング後は買い手が支配株主になっているため、売り手に有利な方向への変更に応じてもらえる可能性は下がります。「後で直せばよい」という前提で署名しないでください。
Q5. 買い手が契約に違反して株式を第三者に売却してしまった場合、その譲渡は無効になりますか?
株主間契約は当事者間の債権的な合意であるため、違反があっても譲渡そのものが当然に無効になるとは限りません。救済手段は主に損害賠償請求になります。そのため実務では、違約金条項を定めておく、違反を発動事由とするプットオプションを置く、といった事前の備えが重要になります。なお、譲渡制限株式であれば会社の承認手続きという別のブレーキも働きますので、自社の定款も確認してください。
Q6. 少数株主として残っている間、会社の帳簿を見せてもらえますか?
議決権または発行済株式の3%以上を保有していれば、会社法433条に基づき会計帳簿の閲覧謄写を請求できます。ただしこれは請求して初めて行使できる権利で、会社側が拒否できる事由も定められています。日常的に会社の状態を把握したいのであれば、株主間契約で月次資料の提供義務を定めておくほうが確実です。
Q7. 株主間契約と種類株式(黄金株)はどちらを選ぶべきですか?
目的によります。株主間契約は合意だけで成立して非公開にできる反面、株式が第三者に移れば効力が及びません。種類株式は権利が株式そのものに付着するため株式が動いても権利が残りますが、定款変更と登記が必要で、内容が公示されます。「相手が変わっても効かせたい」重要な拒否権は種類株式、日常的な経営ルールは株主間契約、という併用も選択肢です。どちらが適切かは弁護士に相談してください。
Q8. 株主間契約があれば、社長を続けられることは保証されますか?
契約に在任期間・役職・報酬を明記していれば、買い手には契約上の義務が生じます。ただし、買い手が過半数を握っていれば株主総会で取締役を解任すること自体は会社法上可能で、その決議が契約違反を理由に無効になるとは限りません。実務上は、解任された場合の損害賠償額や、解任を発動事由とするプットオプションをあわせて定めておくことで実効性を高めます。
関連記事:M&Aロックアップ条項とは(売り手の制約) / M&A キーマン条項とは / チェンジオブコントロール(COC)条項とは
まとめ|株主間契約は「会社法で失った権利」を取り戻す契約
株主間契約(SHA)は、株主同士のルールを定める契約です。一部売却で株を残すオーナーにとっては、会社法上の持株比率では持てなくなった権利を、契約によって取り戻すための手段という位置づけになります。
要点を整理します。
- 1/3以下になると、会社法上の拒否権は消える。 だからこそ、契約上の事前承諾事項で「止める力」を確保する
- タグアロングは必ず取り、ドラッグアロングは発動条件を交渉する。 前者は取り残されないための権利、後者は同一条件が保証されるなら換金機会にもなる
- プットオプションは明示的な条項がなければ発生しない。 発動事由・価格算定式・行使期間・請求相手の資力まで確認する
- 契約違反があっても株主総会決議は無効にならない。 救済は主に損害賠償。だからこそ違約金やプットで実効性を補う
- 抽象的な条項は機能しない。 「協議のうえ決定する」で済ませず、誰が・何を・いつまでにを特定する
- 残した株式は按分価格にならず、回収方法で税負担も変わる。 価格算定方法を契約に書き込み、配当か譲渡かは税理士と試算する
「何%売るか」を決める前に、「残した株にどんな権利を付けるか」を決めてください。 一部売却の成否は、譲渡比率ではなく契約書の条項で決まります。
なお、本記事の法務・税務に関する記述は、2026年8月22日時点で確認した公表資料に基づく一般的な整理です。株主間契約の効力は条項の書き方と個別事情によって変わります。具体的な判断は、必ずM&A実務に精通した弁護士・税理士にご相談ください。
次に読むべき記事
- 一部株式譲渡の売却ガイド|過半数・少数持分は何%残すべきか — 比率設計・価格・税金の全体像
- M&A SPA(株式譲渡契約書)とは?主要条項を解説 — 株主間契約と対になる最終契約
- M&Aとは?仕組み・種類・流れをわかりやすく解説 — M&A全体の基礎
- 会社売却の税金・節税 完全ガイド — 譲渡と配当の税務
- M&A仲介会社の比較(売り手向け) — 一部譲渡に対応できる相談先を探す
