株式譲渡とは、株主が保有する株式を第三者(買い手企業や個人)に売却することで、会社の経営権を移転するM&Aの手法です。 中小企業のM&Aで最も広く利用されており、従業員の雇用や取引先との契約がそのまま引き継がれるため、「会社を丸ごと渡す」もっともシンプルな方法といえます。
この記事でわかること:
- 株式譲渡の仕組みと、事業譲渡との具体的な違い
- 売り手オーナーにとってのメリット・デメリット
- 譲渡制限株式の承認手続きから名義書換までの7ステップ
- 個人株主の税率20.315%の計算方法と、2026年度税制改正(ミニマムタックス強化)の影響
- 中小企業でありがちなトラブルと対処法
この記事は、会社の売却を検討している中小企業のオーナー経営者に向けて書いています。 「株式譲渡とは何か」の基本から、税金の計算、手続きの実務まで一通り把握できる内容です。
M&Aの基本的な仕組みや種類についてはこちらの記事で解説しています。
関連記事:M&Aとは?仕組み・種類・流れをわかりやすく解説
株式譲渡とは?基本の仕組みをわかりやすく解説
株式譲渡とは、株主が持っている株式を買い手に売却する取引です。 買い手は株式を取得することで会社の所有権(経営権)を手に入れ、売り手の株主は対価として現金を受け取ります。
ポイントは、会社そのものは何も変わらないということです。法人格はそのまま存続し、会社名・従業員・取引先との契約・銀行口座・許認可はすべて引き継がれます。変わるのは「誰が株主(オーナー)か」だけです。
株式譲渡が中小企業M&Aで最も選ばれる理由
株式譲渡は中小企業のM&Aにおいて最も利用頻度の高い手法です。その理由は主に3つあります。
- 手続きがシンプル — 株式の売買契約と名義書換で完了し、事業譲渡のように個別資産の移転登記や従業員の再契約が不要
- 事業の継続性が高い — 許認可や雇用契約がそのまま維持されるため、引き継ぎ後も事業が途切れにくい
- 売り手の手取りが有利になりやすい — 個人株主なら税率20.315%の申告分離課税で済む
株式譲渡の3つの取引方法
株式譲渡には以下の3つの方法があります。中小企業のM&Aでは、ほぼすべてが「相対取引」で行われます。
取引方法 | 概要 | 主な対象 |
|---|---|---|
相対取引 | 売り手と買い手が直接(または仲介会社を通じて)交渉し、価格・条件を決定 | 中小企業のM&A |
市場買付け | 証券取引所を通じて株式を取得 | 上場企業 |
公開買付け(TOB) | 不特定多数の株主から一定価格で株式を買い集める | 上場企業の買収 |
出典: M&Aキャピタルパートナーズ公式コラム、fundbook公式コラム(2026年4月確認)
株式譲渡と事業譲渡の違い【比較表付き】

株式譲渡と事業譲渡の最大の違いは、「会社を丸ごと渡すか、事業の一部だけを切り出すか」です。 どちらを選ぶかによって、手続きの複雑さ・税負担・引き継ぎの範囲が大きく変わります。
比較項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
譲渡対象 | 会社全体(株式) | 特定の事業・資産を選んで譲渡 |
取引の当事者 | 株主と買い手 | 法人(会社)と買い手法人 |
法人格 | そのまま存続 | 変わらない(事業だけ移る) |
従業員の雇用 | 自動的に承継される | 個別に同意を得て再雇用が必要 |
許認可 | 原則として継続 | 再取得が必要になる場合あり |
簿外債務のリスク | あり(包括的に承継) | なし(引き継ぐ資産を選べる) |
消費税 | 非課税 | 課税(10%) |
不動産取得税 | 非課税 | 課税 |
個人株主の所得税率 | 20.315%(申告分離課税) | ―(法人に入金→法人税 約30%) |
競業避止義務 | なし(契約で定める場合は別) | 会社法上20年間 |
手続きの煩雑さ | 比較的シンプル | 煩雑(個別資産の移転手続き) |
出典: 日本M&Aセンター公式コラム、fundbook公式コラム、M&Aキャピタルパートナーズ公式コラム(2026年4月確認)
株式譲渡が適しているケース
- 会社全体を引き継いでほしい(従業員・取引先・許認可をそのまま維持したい)
- 手続きをできるだけ簡潔に済ませたい
- 許認可の再取得が難しい業種(建設業・医療関連・飲食業など)
- 個人として売却益を受け取り、税負担を抑えたい
事業譲渡が適しているケース
- 複数の事業のうち、一部だけを売却したい
- 不採算事業は手元に残したい(または逆に不採算事業だけ手放したい)
- 簿外債務のリスクを買い手側が懸念している
- 売却後も別の事業で会社を続けたい
事業承継の全体像や方法について詳しくはこちらをご覧ください。
関連記事:事業承継とは?方法・税金・手続きの全体像を解説
株式譲渡のメリット
株式譲渡の最大のメリットは、手続きがシンプルで事業の継続性が高く、売り手の税負担が比較的軽い点です。 ここでは売り手オーナーの視点を中心に、買い手側のメリットも含めて整理します。
売り手オーナーにとってのメリット
1. 手続きが簡便で完了までが早い
株式の売買契約を結び、株主名簿の名義を書き換えれば基本的に完了します。事業譲渡と異なり、個別の資産移転や契約の切替作業がないため、クロージングまでの期間が短くなりやすいです。
2. 従業員の雇用・取引先との関係がそのまま維持される
株主が変わるだけで会社の法人格は存続するため、従業員との雇用契約や取引先との契約は原則として影響を受けません。「従業員の雇用を守りたい」というオーナーにとって大きな安心材料です。
3. 売却益を株主個人が直接受け取れる
対価は株主個人に支払われるため、創業者利益の実現手段として明快です。事業譲渡のように法人口座に入金されてから個人に分配する(その過程で法人税がかかる)ケースと比べ、資金の受け取りがシンプルです。
4. 税率が比較的低い(個人株主の場合)
個人株主が株式を譲渡した場合の税率は20.315%(所得税15% + 住民税5% + 復興特別所得税0.315%)です。事業譲渡の場合に法人税として約30%課税されることと比較して、手取り額で有利になるケースが多いです。
5. 競業避止義務がない
事業譲渡では会社法上20年間の競業避止義務が発生しますが、株式譲渡にはそうした法律上の制限はありません。ただし、株式譲渡契約の中で個別に定める場合はあります。
買い手側のメリット
- 経営資源を包括的に取得できる — 人材・顧客基盤・ノウハウ・許認可を個別に承継する手間がない
- 事業拡大のスピードが速い — ブランドや販売網をそのまま活用できる
- 従業員との再契約が不要 — 雇用関係がそのまま承継されるため、人材流出リスクが低い
株式譲渡のデメリット・リスク
株式譲渡は手続きが簡便な一方で、「会社を丸ごと引き継ぐ」ことに伴う固有のリスクがあります。 特に売り手オーナーとしては、少数株主の対応や個人保証の問題に注意が必要です。
売り手側のデメリット
1. 株主全員の合意が必要になる場合がある
全株式を譲渡する場合、反対する株主や所在不明の株主がいると手続きが進みません。事前に株主構成を正確に把握し、少数株主との交渉を計画的に進める必要があります。
2. 不採算事業だけを切り離せない
株式譲渡は会社全体の売却です。「利益の出ている事業だけ売りたい」「不採算部門だけ手放したい」といった選択はできません。事業の一部だけを売却したい場合は事業譲渡を検討してください。
3. 譲渡制限株式の承認手続きが必要
中小企業のほとんどは定款で株式の譲渡制限を設けています。譲渡するには取締役会または株主総会での承認決議が必要であり、自由に売却できるわけではありません。
4. 個人保証が残るリスク
経営者が銀行借入に対して個人保証を提供している場合、株式を譲渡しただけでは保証債務は消えません。「経営権は手放したのに、借金の保証人のまま」という最悪のケースを防ぐため、クロージング前に金融機関と保証の解除・引継ぎについて協議することが不可欠です。
買い手側のデメリット
- 簿外債務を引き継ぐリスク — 帳簿に記載のない債務(未払残業代、環境汚染の処理費用、訴訟リスクなど)も包括的に承継してしまう。デューデリジェンス(買収前の調査)を徹底するしかない
- 多額の買収資金が必要 — 事業の一部ではなく会社全体を買い取るため、必要資金が大きくなりやすい
- 全株式取得が困難な場合がある — 株主が多数に分散している場合、交渉コストが増大する
株式譲渡の手続き・流れ【7ステップ】

中小企業の株式譲渡は、譲渡承認の請求から株主名簿の書換まで、7つのステップで完了します。 ほとんどの中小企業は「株式譲渡制限会社」であるため、会社の承認手続きが必要な前提で解説します。
ステップ1:株式譲渡承認の請求
譲渡人(売り手の株主)が、会社に対して「この株式をこの相手に譲渡したい」と承認を請求します。請求書には、譲渡する株式の種類・数量・譲受人の氏名(法人名)を記載します。
ステップ2:取締役会または株主総会での承認決議
取締役会設置会社であれば取締役会で、それ以外の会社では株主総会で承認の決議を行います。会社は請求日から2週間以内に通知する義務があり、期限内に通知がなければ「承認したもの」とみなされます(会社法145条)。
ステップ3:承認・不承認の通知
会社から譲渡人に対して、決議の結果(承認または不承認)が通知されます。
ステップ4:株式譲渡契約(SPA)の締結
承認を得たら、譲渡人と譲受人(買い手)の間で株式譲渡契約書を締結します。主な記載事項は以下のとおりです。
- 譲渡対象の株式数と種類
- 譲渡価額
- 支払方法・期日
- 表明保証(売り手が「簿外債務はない」等を保証する条項)
- クロージング条件
- 損害賠償・補償条項
実務上のポイント: 株式譲渡契約書(SPA)は売り手の保護にも直結します。とくに「表明保証」の範囲や、譲渡後に発覚した問題に対する補償の上限額・期間は、弁護士と相談の上で慎重に交渉してください。
ステップ5:売買代金の決済(クロージング)
契約で定めた条件が満たされたことを確認し、株式の譲渡代金を支払います。株券発行会社の場合は、この時点で株券の交付も行います。
ステップ6:株主名簿の名義書換
譲渡人と譲受人が共同で会社に対し、株主名簿の名義書換を請求します。この書換が完了して初めて、買い手は会社に対して株主としての権利を主張できます。
ステップ7:株主名簿記載事項証明書の交付
名義書換が完了したことを証明する書類です。買い手はこの証明書をもって、正式に株主であることが確認されます。
必要書類の一覧
書類 | 作成するタイミング |
|---|---|
株式譲渡承認請求書 | ステップ1 |
取締役会議事録 または 株主総会議事録 | ステップ2 |
株式譲渡契約書(SPA) | ステップ4 |
株主名義書換請求書 | ステップ6 |
株主名簿 | ステップ6(更新) |
株主名簿記載事項証明書 | ステップ7 |
出典: fundbook公式コラム、M&Aキャピタルパートナーズ公式コラム、M&A総合研究所公式コラム(2026年4月確認)
会社売却の全体の流れ(M&A仲介への相談からクロージングまで)はこちらで詳しく解説しています。
関連記事:M&A 売却の流れを徹底解説
株式譲渡にかかる税金と計算方法

個人株主が株式を譲渡した場合の税率は20.315%(所得税15% + 住民税5% + 復興特別所得税0.315%)で、申告分離課税として他の所得とは分けて計算されます。
個人株主の場合
計算式:
譲渡所得 = 譲渡価額 − 取得費 − 譲渡費用
税額 = 譲渡所得 × 20.315%
- 譲渡価額 — 株式を売った金額
- 取得費 — その株式を取得するために要した金額(設立時の出資金や購入代金)。不明な場合は譲渡価額の5%を概算取得費として使える
- 譲渡費用 — 譲渡のために直接かかった費用(M&A仲介手数料、弁護士費用など)
計算例: 譲渡価額3億円、取得費1,000万円、譲渡費用(仲介手数料等)2,000万円の場合
譲渡所得 = 3億円 − 1,000万円 − 2,000万円 = 2億7,000万円
税額 = 2億7,000万円 × 20.315% = 約5,485万円
手取り額 = 3億円 − 2,000万円(譲渡費用)− 5,485万円(税金)= 約2億2,515万円
法人株主の場合
法人が株式を譲渡した場合、譲渡益は他の事業利益と合算され、法人税等が課税されます。実効税率は企業規模や所得額によって異なりますが、概ね30〜34%です。
時価と異なる価額で譲渡した場合の注意点
適正な時価から大きく外れた価額で取引すると、追加の課税が発生する場合があります。
ケース | 課税の扱い |
|---|---|
時価の1/2未満で譲渡(低額譲渡) | 差額部分に贈与税が課税される可能性 |
時価を大幅に超える価額で譲渡 | 超過部分に贈与税、時価部分に譲渡所得税 |
親族間や関連会社間での株式譲渡では、こうした「みなし課税」のリスクが特に高まります。税理士に相談のうえ、適正な株価算定を行うことを強くおすすめします。
買い手側の課税
適正な時価での取引であれば、買い手には株式取得時点で課税されません。 また、株式譲渡は消費税が非課税です。これは事業譲渡(消費税10%が課税)と比べた場合の大きな違いです。
出典: 国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1463.htm)、M&Aキャピタルパートナーズ公式コラム(2026年4月確認)
【2026年最新】税制改正で株式譲渡の税負担はどう変わる?
2025年12月に閣議決定された2026年度税制改正大綱により、高額の株式譲渡益に対する「ミニマムタックス(極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置)」が大幅に強化されます。 適用は2027年分の所得税からですが、M&Aの「いつ売るか」の判断に直結する重要な改正です。
ミニマムタックスの改正内容
項目 | 改正前(2025年分まで) | 改正後(2027年分から) |
|---|---|---|
控除額 | 3.3億円 | 1.65億円(半減) |
税率 | 22.5% | 30%(引き上げ) |
追加課税が発生する目安 | 所得約9.9億円超 | 所得約3.3億円超 |
最高実効税率(復興税・住民税込み) | — | 35.63% |
計算式(改正後): (基準所得金額 − 1.65億円) × 30% − 基準所得税額
具体的な影響シミュレーション
従来は「超富裕層向け」とされていたミニマムタックスですが、改正後は5億円規模の中規模M&Aでも追加の税負担が発生する可能性があります。
株式譲渡の規模 | 改正前の追加税額 | 改正後の追加税額(概算) |
|---|---|---|
3億円 | なし | なし〜少額 |
5億円 | なし | 発生する可能性あり |
10億円 | 少額 | 数千万円規模 |
20億円 | あり | 約1.75億円の追加負担増 |
重要な注意点:
- 適用は2027年分の所得税から。2026年中に譲渡が完了すれば改正前の税率が適用される
- ミニマムタックスは株式譲渡所得など「分離課税所得の割合が高い個人」が対象。給与所得・事業所得のみの場合は対象外
- 上記は2025年12月の税制改正大綱に基づく内容であり、国会審議の過程で変更される可能性がある
売却のタイミングに迷っている場合は、税理士やM&A専門家に相談のうえ、税制改正の影響を踏まえた判断をしてください。
出典: 大和総研「超富裕層の株式譲渡所得への税率はミニマムタックス込みで最高35.63%に」(2026年2月9日公開、https://www.dir.co.jp/report/research/law-research/tax/20260209_025578.html)、マクサスCPA(https://maxus.co.jp/columns/10678)(2026年4月確認)
事業承継税制(特例措置)との関係
事業承継税制は、後継者が贈与・相続により非上場株式を取得した場合に納税が猶予・免除される制度です。株式譲渡(売買)には適用されません。
- 特例承継計画の提出期限は、2026年度税制改正により2027年9月末まで延長された
- 親族内承継で贈与・相続を検討している場合は、事業承継税制の活用も選択肢に入る
- 適用要件や実行期限の詳細は、中小企業庁の最新情報を確認してください
※事業承継税制の詳細は制度が複雑なため、適用を検討する場合は税理士等の専門家に相談することをおすすめします。
事業承継の税金対策について詳しくはこちらの記事で解説しています。
関連記事:事業承継の税金・節税対策を徹底解説
中小企業の株式譲渡で注意すべき9つのポイント
中小企業のM&Aでは、上場企業にはない特有の問題が発生しやすいです。 事前に把握しておくことで、交渉の遅延やトラブルを防げます。
1. 株主が分散している
創業時に親族や知人に株式を持たせたまま整理していないケースは珍しくありません。全株式を譲渡するには全株主の同意が必要です。大株主に交渉を一任する委任状の取り付けや、事前の株式集約が有効です。
2. 名義株がある
名義上の株主と実際に出資した人が異なる「名義株」が残っている場合があります。議決権の行使状況や配当金の受取状況を確認し、実質的な株主を特定して名簿を是正する必要があります。
3. 所在不明の株主がいる
連絡が取れない株主がいる場合、会社法に基づき裁判所の許可を得て売却する方法があります。手続きに時間がかかるため、M&Aの検討段階で早めに対処を始めてください。
4. 株主が認知症になっている
判断能力が不十分な株主がいる場合、成年後見制度の利用を検討します。手続きには数か月かかることもあるため、早期の対応が重要です。
5. 個人保証・担保の引継ぎ
経営者が銀行借入に対して個人保証を提供している場合、株式を売却しただけでは保証は解除されません。 クロージング前に金融機関と協議し、保証の引継ぎまたは解除を取り決めることが不可欠です。「経営者保証に関するガイドライン」に基づく対応を金融機関に求めることもできます。
6. チェンジオブコントロール(COC)条項
取引先との契約に「経営権が変わった場合は契約を解除できる」というCOC条項が含まれていることがあります。M&Aの前に主要な契約書を確認し、COC条項の有無を把握しておきましょう。
7. 簿外債務のリスク
未払残業代、環境汚染の処理費用、係争中の訴訟など、帳簿に載っていない債務は株式譲渡で包括的に引き継がれます。買い手はデューデリジェンス(DD)を通じて徹底的に調査しますが、売り手としても事前にリスクを洗い出し、誠実に情報開示することがスムーズな取引につながります。
8. 従業員持株会の株式
従業員持株会が株式を保有している場合、全会員の同意取得または持株会の解散・清算手続きが必要になります。会員数が多いと時間がかかるため、早めの対応が必要です。
9. 未成年の株主がいる
未成年の株主がいる場合は、親権者等の法定代理人による同意が必要です。
出典: M&Aキャピタルパートナーズ公式コラム、M&A総合研究所公式コラム(2026年4月確認)
株式譲渡の企業価値算定方法
株式の譲渡価額を決めるには、企業価値の算定(バリュエーション)が必要です。 中小企業のM&Aでは「時価純資産+営業権」の方式が最も多く使われていますが、会社の特性に応じて複数の方法を組み合わせることもあります。
算定方法 | 概要 | 適しているケース |
|---|---|---|
時価純資産法 | 資産・負債を時価に修正して純資産を算出 | 中小企業で最も一般的。 安定した事業、資産が多い会社 |
類似企業比較法(マルチプル法) | 上場している類似企業の指標をもとに算出 | 比較可能な上場企業がある場合。中小企業では参考値として利用 |
DCF法(割引キャッシュフロー法) | 将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて算出 | 成長企業、将来性を重視する場合。大企業のM&Aで多用 |
中小企業でよく使われる「時価純資産+営業権」方式
実務では、時価純資産に「営業権(のれん)」を加算する方法が広く使われています。営業権は一般的に「直近数年間の修正後営業利益 × 年数(2〜5年程度)」で概算されることが多いですが、具体的な算定は案件ごとに異なります。
算定結果はあくまで「目安」であり、最終的な譲渡価額は売り手と買い手の交渉で決まります。 適正な株価算定を行うには、M&A仲介会社や公認会計士に依頼することをおすすめします。
M&Aにかかる費用や手数料の相場はこちらで詳しく解説しています。
関連記事:M&A費用・手数料の相場を徹底解説
株式譲渡はこんな企業におすすめ / おすすめしないケース
株式譲渡が適している企業
特徴 | 理由 |
|---|---|
後継者がいない中小企業 | 第三者への会社全体の引継ぎに最適。従業員・取引先がそのまま維持される |
許認可が事業の根幹にある企業 | 建設業許可・飲食業許可・薬局開設許可など、再取得が困難な許認可をそのまま引き継げる |
オーナーが引退して創業者利益を得たい | 売却益が個人に直接入り、税率20.315%で済む |
手続きをシンプルに済ませたい | 事業譲渡と比較して、契約切替・資産移転の手間が大幅に少ない |
従業員の雇用維持を最優先にしたい | 雇用契約がそのまま承継されるため、従業員への影響が最小限 |
株式譲渡をおすすめしないケース
特徴 | 理由 |
|---|---|
一部の事業だけ売却したい | 株式譲渡は会社全体の売却。一部事業の切り離しには事業譲渡が適切 |
簿外債務(未払残業代・訴訟リスク等)が多い | 買い手が株式譲渡を敬遠する可能性が高い。事業譲渡の方が買い手にとってリスクが限定的 |
株主が多数に分散しており整理が困難 | 全株主の合意取得に時間と労力がかかりすぎる |
売却後も同業で事業を続けたい(競業避止なし前提で) | 株式譲渡では制限はないが、契約で競業避止を求められるケースも。事業譲渡の方が柔軟に対応できる場合あり |
株式譲渡を成功させるための相談先の選び方

株式譲渡を含むM&Aは、専門家のサポートなしで進めることは現実的ではありません。 相談先の選び方は、会社の規模や売却の希望条件によって異なります。
主な相談先と特徴
相談先 | 特徴 | 向いているケース |
|---|---|---|
M&A仲介会社 | 売り手・買い手の双方をマッチング。中小企業M&Aの実績が豊富 | 年商1億〜数十億円規模の中小企業。幅広い買い手候補を探したい場合 |
FA(財務アドバイザー) | 売り手側(または買い手側)の立場に立って助言・交渉を代行 | 交渉力を重視する場合。利益相反を避けたい場合 |
M&Aマッチングプラットフォーム | オンラインで買い手・売り手を探すサービス | 小規模案件(年商数千万〜数億円)。まずは費用を抑えて相手を探したい場合 |
税理士・公認会計士 | 株式評価、税金の計算、確定申告の支援 | 株価算定や税務面の相談。M&A仲介会社と併用することが多い |
弁護士 | 株式譲渡契約書の作成・レビュー、デューデリジェンス | 契約交渉、法的リスクの洗い出し |
事業承継・引継ぎ支援センター | 国が設置した公的相談窓口。無料で相談可能 | 「何から始めればいいかわからない」段階の初期相談 |
仲介会社を選ぶ際のチェックポイント
- 自社の規模・業種での実績があるか — 大手仲介会社は年商1億円未満の案件を受けない場合もある
- 手数料体系が明確か — 着手金の有無、成功報酬の計算方式(レーマン方式の基準額が「譲渡価額」か「移動総資産」かで金額が変わる)
- 担当者の専門性 — 自社の業種に詳しい担当者がつくか
- 最低手数料の有無 — 小規模案件では最低手数料の確認が重要
M&A仲介会社の比較や選び方について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
関連記事:M&A仲介会社おすすめ比較ランキング
よくある質問(FAQ)
Q. 株式譲渡と事業譲渡、どちらを選べばいいですか?
会社を丸ごと引き継いでほしい場合は株式譲渡、特定の事業だけを売却したい場合は事業譲渡が適しています。許認可の継続が重要な業種(建設業・医療関連など)では株式譲渡が有利です。判断に迷う場合は、M&A仲介会社や税理士に相談することをおすすめします。
Q. 株式譲渡にかかる税金はいくらですか?
個人株主の場合、譲渡所得に対して20.315%(所得税15% + 住民税5% + 復興特別所得税0.315%)が課税されます。ただし、2027年分以降は高額の譲渡所得に対してミニマムタックス(追加課税)が強化される予定です。法人株主の場合は法人税等(実効税率約30〜34%)が課税されます。
Q. 株式譲渡に消費税はかかりますか?
株式譲渡は消費税の非課税取引です。 事業譲渡では資産の移転に対して消費税10%が課税されるため、この点は株式譲渡の大きなメリットのひとつです。
Q. 株式の譲渡制限がある場合、売却できないのですか?
売却できないわけではありません。取締役会(または株主総会)に承認を請求し、承認決議を得れば譲渡可能です。会社は請求から2週間以内に結果を通知する義務があり、通知がなければ承認したものとみなされます。
Q. 株式譲渡でM&A仲介会社に払う手数料の相場は?
仲介手数料は多くの場合「レーマン方式」で計算され、譲渡価額に対して1〜5%が目安です。ただし、最低手数料(500万〜2,500万円程度)を設定している仲介会社もあります。詳しくはM&A費用・手数料の相場の記事をご覧ください。
Q. 2026年度の税制改正はいつから適用されますか?
ミニマムタックスの見直しは2027年分の所得税から適用される予定です(2025年12月閣議決定の税制改正大綱に基づく)。2026年中に株式譲渡が完了すれば、現行の税率が適用されます。
Q. 株式譲渡の手続きにはどのくらいの期間がかかりますか?
案件の規模や複雑さによりますが、M&A仲介会社への相談開始からクロージングまで一般的に6か月〜1年程度かかることが多いです。株式譲渡の法的手続き自体は数週間で完了しますが、買い手探し・デューデリジェンス・条件交渉に時間を要します。
Q. 株式譲渡で個人保証はどうなりますか?
株式を譲渡しただけでは、経営者の個人保証は自動的に解除されません。クロージング前に金融機関と協議し、買い手への保証の引継ぎや保証の解除について合意を取り付ける必要があります。「経営者保証に関するガイドライン」を活用して交渉することも有効です。
※ 本記事に記載の税率・税制改正の内容は、2026年4月時点の情報に基づいています。税務に関する具体的な判断は、必ず税理士等の専門家にご相談ください。
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