事業承継・M&A補助金の16次公募は、2026年10月2日(金)から11月6日(金)17:00までJグランツで申請を受け付けます(公募要領記載)。 会社を売る側のオーナーは「専門家活用枠」の売り手支援類型(補助率1/2〜2/3・上限600万円)か小規模売り手支援類型(補助率2/3・上限450万円)を使えば、M&A仲介会社やFAに払う費用の一部が補助されます。
ただし、16次では交付決定が2027年1月下旬以降になる予定です。仲介会社との契約は交付決定の後に結ぶ必要があるため、「今すぐ仲介契約を結んで売却を進めたい」方は補助対象にならない可能性が高い点に注意してください。
この記事でわかること
- 16次公募の申請期間・説明会・採択日などのスケジュール
- 15次公募から変わった点・変わらない点
- 売り手支援類型と小規模売り手支援類型の違いと、どちらを選ぶかの判断基準
- 仲介手数料300万円・600万円・900万円のときの補助額と自己負担額の試算
- 締切の11月6日から逆算した準備スケジュールと必要書類
- 補助金を使うべき売り手、使わないほうがよい売り手
この記事は、第三者への会社売却(M&A)を検討していて、仲介手数料などの負担を補助金で抑えたい中小企業・小規模事業者のオーナー向けです。 買い手向けの類型や親族内承継向けの枠は概要のみ触れます。
ご注意: 本記事は2026年9月14日時点で、事務局サイトと16次公募要領(Ver.1.0・2026年9月)を確認して作成しています。申請できるかどうか、どの類型を選ぶか、どの経費が対象になるかは、事業承継・M&A補助金事務局、認定経営革新等支援機関、M&A支援機関登録制度に登録された専門家などにご確認ください。補助金の税務処理は税理士への相談をおすすめします。
この記事の結論
- 申請は10月2日〜11月6日17:00、Jグランツのみ。 事前に必要なGビズIDプライムの取得に1〜2週間(混雑時は3週間程度)かかるため、9月中にGビズIDの申請を始めるのが安全です
- 仲介会社・FAとの契約と支払いは「交付決定後〜補助事業期間内(2028年3月中旬予定まで)」に限られます。 期間内にクロージングしないと成功報酬は補助されません
- 小規模事業者は2つの売り手向け類型から1つを選びます。 対象経費が小さいうちは小規模売り手支援類型、経費が大きく補助率2/3の条件も満たすなら売り手支援類型のほうが補助額が大きくなる場合があります
補助金制度全体の成り立ちや4つの枠の基本は、事業承継・M&A補助金とは?申請枠・補助額・活用法で解説しています(旧名称の「事業承継・引継ぎ補助金」で探している方も同じ制度です)。
16次公募のスケジュール|申請受付は10月2日〜11月6日17:00

16次公募の申請受付は2026年10月2日(金)〜11月6日(金)17:00です。公募要領には「厳守」と書かれており、締切を過ぎた申請は受け付けられません。
項目 | 日程 | 補足 |
|---|---|---|
公募要領の公開 | 2026年9月4日(金) | 公開済み |
公募説明会の申込 | 2026年9月9日(水)〜10月7日(水)17:00 | 事務局サイトの応募フォームから |
公募申請の受付 | 2026年10月2日(金)〜11月6日(金)17:00 | Jグランツで電子申請 |
公募説明会 | 2026年10月9日(金)14:00〜 | オンライン(Microsoft Teams)。全4枠が対象 |
採択日 | 2026年12月下旬以降(予定) | |
交付申請の受付 | 2027年1月上旬〜11月中旬(予定) | |
交付決定日 | 2027年1月下旬以降(予定) | 仲介会社・FAとの契約はこの日以降 |
補助事業期間 | 交付決定日〜2028年3月中旬(予定) | 公募要領上は交付決定(2027年1月下旬予定)から14か月以内 |
実績報告期間 | 2027年6月上旬〜2028年3月下旬(予定) | |
補助金の交付手続き | 2027年10月上旬以降(予定) | 精算払い(後払い) |
(出典:事業承継・M&A補助金 令和7年度補正予算ページ、16次公募要領(専門家活用枠)、確認日:2026年9月14日)
スケジュールで見落としやすいのは次の2点です。
- 公募説明会(10月9日)は申請受付の開始(10月2日)より後に開かれます。 説明会を聞いてから準備を始めると、締切まで約4週間しかありません。公募要領とガイドブックを先に読み、説明会は疑問点の確認に使うのが現実的です
- 採択日以降の日程はすべて「予定」です。 中小企業庁の公表(ミラサポplus掲載)では申請期間にも「(予定)」が付いているため、申請前に事務局サイトで最新情報を確認してください
15次公募から変わった点・変わらない点
16次公募は15次と同じ令和7年度補正予算の枠で実施され、補助率・補助上限額・補助下限額は変わっていません。 大きく変わったのは、補助事業期間の開始時期です。
比較項目 | 15次公募 | 16次公募 |
|---|---|---|
申請期間 | 2026年6月19日〜7月24日 | 2026年10月2日〜11月6日 17:00 |
4つの枠と類型の構成 | 事業承継促進枠/専門家活用枠/PMI推進枠/廃業・再チャレンジ枠(小規模売り手支援類型を新設) | 同じ(小規模売り手支援類型も継続) |
補助率・上限額・下限額 | 16次と同じ | 変更なし(表記が「〜万円以内」から「〜万円」に変わったのみ) |
補助事業期間の開始 | 2026年9月下旬(予定) | 2027年1月下旬(予定)。14か月以内は同じ |
登録FA・仲介業者が自ら補助事業者になる場合の要件 | 補助対象者の代表者と委託先が同一でないこと | 自社や関連会社をFA・仲介の委託先にしないことに変更 |
(出典:15次・16次の各公募要領を編集部で比較、確認日:2026年9月14日)
売り手オーナーにとって実務上の影響が大きいのは補助事業期間の後ろ倒しです。16次で採択されても、仲介会社と契約できるのは早くて2027年1月下旬以降になります。一方で期間の終わりは2028年3月中旬の予定なので、そこまでにクロージング(株式譲渡代金の決済など)と費用の支払いを終えられるかが判断のポイントになります。
16次公募の4つの枠と補助率・上限額一覧
事業承継・M&A補助金には4つの枠があり、会社を第三者に売る売り手が使うのは「専門家活用枠」です。親族・従業員への承継なら事業承継促進枠、M&A後の統合作業ならPMI推進枠、売却できずに廃業する場合などは廃業・再チャレンジ枠が対象になります。
枠・類型 | 主な対象 | 補助率 | 補助下限額 | 補助上限額 | 廃業費を併用する場合 |
|---|---|---|---|---|---|
事業承継促進枠 | 5年以内に親族内・従業員承継を予定する企業の設備投資など | 小規模事業者等 2/3、それ以外 1/2 | 100万円 | 800万円(賃上げ要件を満たすと1,000万円。800万円超の部分は1/2) | +300万円 |
専門家活用枠:買い手支援類型 | M&Aで譲り受ける予定の企業 | 2/3 | 50万円 | 600万円(DD実施で800万円)、未成約時300万円 | +300万円 |
専門家活用枠:買い手支援類型(100億企業特例) | 同上 | 1,000万円以下の部分 1/2、1,000万円超〜2,000万円の部分 1/3 | 50万円 | 2,000万円、未成約時300万円 | +300万円 |
専門家活用枠:売り手支援類型 | M&Aで譲り渡す予定の中小企業者等 | 1/2(営業利益率の低下または赤字なら2/3) | 50万円 | 600万円 | +300万円 |
専門家活用枠:小規模売り手支援類型 | M&Aで譲り渡す予定の小規模事業者等 | 2/3 | なし | 450万円(未成約時50万円) | +150万円 |
PMI推進枠:PMI専門家活用類型 | M&A後の統合作業で専門家を活用 | 1/2 | 50万円 | 150万円 | 単独申請時+300万円 |
PMI推進枠:事業統合投資類型 | M&A後の統合のための設備投資など | 小規模事業者等 2/3、それ以外 1/2 | 100万円 | 800万円(賃上げ要件で1,000万円) | +300万円 |
廃業・再チャレンジ枠(単独申請) | M&Aで譲り渡せなかった企業の株主・個人事業主が再チャレンジのため廃業 | 2/3 | 50万円 | 300万円 | — |
(出典:16次公募要領 各枠「補助上限額、補助率等」、確認日:2026年9月14日。補助対象経費は税抜で計算します)
表の数値には次の前提があります。
- 補助金は後払い(精算払い)です。 仲介手数料などはいったん全額を自己資金で支払い、実績報告と確定検査の後に補助金が振り込まれます
- 売り手支援類型でもDD(デューデリジェンス)費用の上乗せで申請できる余地はありますが、事務局FAQでは「売り手が実施する必要性は実務上限定的と考えられるため、事務局から確認がある」旨が示されています。売り手が必ず上限800万円まで使えるわけではありません
- 廃業費の上乗せは、補助事業期間内に経営資源の引継ぎが実現しなかった場合は対象外です
PMI推進枠や廃業・再チャレンジ枠は、上限額や要件が売り手向け類型と大きく異なります。本記事では売り手向けの2類型に絞って解説します。
売り手支援類型と小規模売り手支援類型の違いと選び方

従業員数が小規模事業者の基準以下なら、2つの類型のどちらかを選べます(同じ公募回で両方への申請は不可)。 基準を超える中小企業は売り手支援類型のみが対象です。
2つの売り手向け類型の比較
比較項目 | 売り手支援類型 | 小規模売り手支援類型 |
|---|---|---|
対象 | 中小企業者等(小規模事業者も可) | 小規模事業者等のみ |
補助率 | 原則1/2。営業利益率が低下している、または直近決算で営業利益か経常利益が赤字なら2/3 | 2/3 |
補助下限額 | 50万円(補助額が50万円未満の申請は不可) | なし |
補助上限額 | 600万円 | 450万円 |
補助事業期間内にクロージングしなかった場合 | 対象経費は原則DD費用とシステム利用料のみ。上限額も大きく引き下げ(公募要領の表の注記上は300万円。申請前に事務局へ確認を) | 上限50万円。着手金・システム利用料・DD費用が対象 |
廃業費の上乗せ | +300万円 | +150万円 |
主な対象経費 | 仲介・FA費用などの専門家費用ほか(詳細は公募要領「補助対象経費」) | 謝金、委託費(仲介会社・FAの着手金・成功報酬、企業価値の算定費用など)、旅費、システム利用料(マッチングサイトなど)、保険料(表明保証保険) |
(出典:16次公募要領(専門家活用枠)、16次公募要領(小規模売り手支援類型)、小規模売り手支援類型ガイドブック、確認日:2026年9月14日)
売り手支援類型で未成約になった場合の上限額は、事務局FAQの記載とあわせて申請前に事務局へ確認することをおすすめします。
小規模事業者等に当たるかの基準
小規模事業者等は、常時使用する従業員数で判定します(会社・個人事業主とも)。
業種 | 常時使用する従業員数 |
|---|---|
製造業その他 | 20人以下 |
商業(卸売業・小売業)・サービス業 | 5人以下 |
宿泊業・娯楽業 | 20人以下 |
どちらを選ぶかの判断チャート
補助額だけで比べると、分かれ目は税抜の対象経費の総額と補助率2/3の条件を満たすかです(編集部試算。未成約時の扱いは別途考慮が必要です)。
- 従業員数が小規模事業者の基準を超える → 売り手支援類型
- 小規模事業者等に該当し、赤字または営業利益率の低下で2/3の対象になる
- 対象経費が675万円以下 → どちらも補助率2/3で補助額は同じ。未成約でも着手金が補助対象に含まれる小規模売り手支援類型が扱いやすい
- 対象経費が675万円を超える → 上限600万円の売り手支援類型のほうが補助額が大きくなる
- 小規模事業者等に該当するが、2/3の条件を満たさない
- 対象経費が900万円以下 → 補助率2/3の小規模売り手支援類型のほうが補助額が大きいか同額
- 対象経費が900万円を超える → 売り手支援類型(1/2・上限600万円)のほうが大きくなる可能性がある
- 対象経費が小さい(補助率1/2なら100万円未満、2/3なら75万円未満) → 売り手支援類型は補助額が下限50万円に届かず申請できないため、小規模売り手支援類型
営業利益率の低下は「直近期と2期前の通年比較」または「直近期と進行期の任意の連続3か月比較」で判定し、事務局サイトの計算書の雛型を使います。自社がどちらに当たるかは、顧問税理士や認定経営革新等支援機関と一緒に確認するのが確実です。
仲介手数料に対する補助額シミュレーション
税抜の仲介手数料(着手金+中間金+成功報酬)が600万円なら、補助額は300万〜400万円、自己負担は200万〜300万円が目安です。 経費が大きくなるほど上限額が効き、類型による差が開きます。
以下は、補助対象経費がすべて認められ、補助事業期間内にクロージングした場合の編集部試算です。
税抜の対象経費 | 小規模売り手支援類型(2/3・上限450万円) | 売り手支援類型(1/2・上限600万円) | 売り手支援類型(2/3・上限600万円) |
|---|---|---|---|
300万円 | 補助200万円/自己負担100万円 | 補助150万円/自己負担150万円 | 補助200万円/自己負担100万円 |
600万円 | 補助400万円/自己負担200万円 | 補助300万円/自己負担300万円 | 補助400万円/自己負担200万円 |
900万円 | 補助450万円(上限)/自己負担450万円 | 補助450万円/自己負担450万円 | 補助600万円(上限)/自己負担300万円 |
※ 試算は税抜・例示です(補助率・上限額の出典:16次公募要領、確認日:2026年9月14日)。実際の補助額は審査、交付決定、実績報告後の確定検査で決まり、相見積の不備などで減額されることがあります。消費税、振込手数料、実績報告書の作成費用は対象外です。
試算を見るときの注意点は3つあります。
- 支払いの時点では、補助される分も含めて全額を自己資金で用意します。 成功報酬は一般的にクロージング前後に支払いますが、着手金や中間金は売却代金が入る前に支払うことになります
- 補助対象になるのは、M&A支援機関登録制度に登録されたFA・仲介業者の費用だけです。 相見積を取る2社目も登録業者である必要があります
- 仲介会社ごとの着手金・最低報酬・レーマン方式の料率は大きく違います。各社の手数料体系はM&A仲介会社の手数料比較 完全ガイド、計算方法はM&A費用・手数料相場とレーマン方式で確認できます
売却額から手数料や税金を差し引いた手取り額の目安は、会社売却の手取り額シミュレーションもあわせて参考にしてください。
申請できる売り手の要件と、対象外になるM&A
専門家活用枠の売り手として申請するには、中小企業者等であることに加え、決算3期分の完了など複数の要件を満たす必要があります。 親族への承継やグループ内再編は、そもそも対象になりません。
中小企業者等の範囲
業種 | 資本金 | 常時使用する従業員 |
|---|---|---|
製造業その他 | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
(出典:16次公募要領(専門家活用枠)「補助対象者」、確認日:2026年9月14日。ゴム製品製造業、ソフトウェア業・情報処理サービス業、旅館業には例外基準があります)
主な追加要件は次のとおりです。
- 法人は申請時点で3期分の決算・申告が完了していること。個人事業主は開業届と青色申告承認申請書の提出から5年が経過していること
- 雇用の維持や地域内での仕入など、地域経済に貢献していること
- 資本金5億円以上の法人に100%保有されている、直近3年の課税所得の年平均が15億円を超える、みなし大企業に当たる、といった場合は対象外
- 社会福祉法人・医療法人・一般社団法人・組合などは対象外
株式譲渡の場合は「会社+支配株主」の共同申請
株式譲渡で会社を売る場合は、株式を発行している対象会社と、議決権の過半数を持つ支配株主(1者)または株主代表が共同で申請します。 支配株主や株主代表が申請する場合、対象会社との共同申請が必須です。補助金は、それぞれが負担した補助対象経費の額に応じて交付されます。
補助対象外になる主なM&A
- グループ内の再編、物品や不動産だけの売買
- 親族間の事業承継(親族内承継は事業承継促進枠の対象)
- 取引価格が補助対象経費と比べて低すぎるなど、合理性が確認できないもの(事業譲渡0円、株価1円など)
- 事業譲渡で設備・従業員・顧客などを一体として引き継がないもの
- 株式譲渡の後、買い手の議決権が過半数に届かないもの
- 休眠会社や実態のない会社の売買
- 常時使用する従業員を1名以上引き継がないもの(売り手は申請時に従業員1名分の労働条件通知書を提出)
- 国の他の補助金と重複する事業
赤字の会社でも、要件を満たせば申請できます。赤字会社の売却の進め方は赤字・債務超過会社の売却は可能かで解説しています。
16次公募で売り手が注意すべき5つのリスク
最も注意すべきなのは「交付決定前に結んだ仲介契約・支払った着手金は補助対象外」というルールです。 16次のスケジュールでは交付決定が2027年1月下旬以降なので、補助金を使うなら仲介会社との契約をそれまで待つ必要があります。
1. 交付決定前の契約・発注・支払いは対象外
補助対象になるのは、交付決定日以降かつ補助事業期間内に契約・発注し、支払いまで終えた経費だけです。すでに仲介会社とアドバイザリー契約を結んでいる場合、その着手金は対象になりません。期間の開始前に最終契約を結び、覚書で最終契約日を期間内にずらすことも原則として認められていません。
2. 補助事業期間内にクロージングしないと成功報酬が出ない
成功報酬が対象になるのは、期間内に「専門家との契約書」と「買い手との最終契約書」の両方を締結し、期間内に支払った場合です。中間報酬は、期間内の専門家との契約と基本合意書の締結が条件で、意向表明書では足りません。事務局のガイドブックでも、買い手が見つかるまで数か月から1年ほどかかることがあるとされています。交付決定から約14か月でクロージングまで終えられる見込みがあるかを、仲介会社と事前にすり合わせてください。売却にかかる期間の目安はM&A売却にかかる期間・タイムラインで整理しています。
3. 登録支援機関以外への依頼、相見積の不備で対象外・減額
FA・仲介費用が補助対象になるのは、M&A支援機関登録制度に登録された業者への依頼に限られ、登録の有無は交付決定時に確認されます。見積は原則2者以上から取り、相見積先も登録業者である必要があります。「選定理由書」を出しても、相見積の代わりとして必ず認められるわけではありません。FAや仲介会社との契約書には、成功報酬を支払う旨の記載も必要です。
4. 事業化状況報告の義務と、不正受給のペナルティ
補助事業期間の終了後、3年間の事業化状況報告が必要です。報告しないと交付決定の取消や、類似の補助金に申請できなくなる可能性があります。不正受給が判明した場合は、交付取消と加算金(年10.95%)付きの返還、一定期間の交付停止、名称の公表に加え、補助金適正化法による刑事罰の対象にもなります。
5. 申請書類の有償作成を頼めるのは行政書士だけ
申請は事業者本人が行うのが原則です。行政書士(行政書士法人)以外の者が報酬を受け取って申請書類を作成すると、行政書士法違反や交付決定の取消につながるおそれがあります。 仲介会社などに手伝ってもらう場合は、どこまでが助言でどこからが作成代行かを確認してください。
過去にものづくり補助金などを受給した会社を売る場合は、財産処分の制限や返還義務も絡みます。詳しくは補助金受給企業のM&A 返還義務・承継の注意点をご覧ください。
16次公募の補助金活用をおすすめする売り手・おすすめしない売り手

2027年1月下旬以降に仲介会社と契約し、2028年3月中旬までにクロージングまで進められる見込みがある売り手なら、16次公募を検討する価値があります。 反対に、急いで売却を進めたい場合や、すでに仲介契約を結んでいる場合は、補助金を前提に計画を立てないほうが無難です。
16次公募の活用をおすすめする売り手
- まだ仲介会社・FAと契約していない、情報収集や相談の段階にある
- 売却の準備期間を取れる状況で、2027年春ごろからの本格始動でも問題ない
- 小規模事業者で、数百万円の手数料が売却の手取りに占める割合が大きい
- 直近決算が赤字、または物価高などで営業利益率が下がっており、補助率2/3の対象になる
- 決算書・株主名簿などが整っており、11月6日までに申請書類をそろえられる
16次公募の活用をおすすめしない売り手
- すでに仲介会社とアドバイザリー契約を結び、着手金を支払った(その費用は対象外)
- 健康上の理由などで、交付決定を待たずに売却を進めたい
- 買い手候補との交渉が長引きそうで、2028年3月中旬までのクロージングが見通せない
- 親族に承継する予定(→事業承継促進枠を検討)
- 設立3期未満の法人、開業5年未満の個人事業主
- 事業譲渡で従業員を引き継がない、または一部の資産だけを売る予定
- 依頼予定の仲介会社がM&A支援機関登録制度に登録されていない
補助金のために売却の時期を遅らせると、業績や買い手の状況が変わって条件が悪くなることもあります。補助額と「待つことのコスト」を比べて判断してください。 売却のタイミングの考え方は会社の売り時 判断基準5つが参考になります。
申請の流れと必要書類
申請はJグランツでの電子申請のみで、GビズIDプライムのアカウントが必須です。 採択された後も交付申請・交付決定を経てから、ようやく仲介会社との契約に進めます。
公募申請から補助金の受け取りまで
- 公募要領・ガイドブックで制度を確認する
- 事業承継・引継ぎ支援センターや登録支援機関に相談し、専門家の活用内容を検討する
- GビズIDプライムを取得する(1〜2週間程度、混雑時は3週間程度)
- 必要書類をそろえ、原則2者以上から見積を取る
- (任意)加点に使う書類を用意する
- Jグランツにログインし、申請情報を入力する
- 必要書類をPDFで添付する(パスワード付きPDFは不可)
- 提出を完了し、差し戻しや再提出の依頼があれば速やかに対応する
- 採択(2026年12月下旬以降予定)→ 交付申請 → 交付決定(2027年1月下旬以降予定)
- 交付決定後に仲介会社・FAと契約 → 買い手探し・交渉 → 最終契約・クロージング → 支払い
- 実績報告 → 確定検査 → 補助金の交付 → 3年間の事業化状況報告
GビズIDプライムの取得には、3か月以内に発行された印鑑証明書の原本、代表者印を押した申請書、代表者本人のメールアドレスとSMSを受け取れる電話番号が必要です。
公募申請時の主な必要書類(株式譲渡で売る場合)
提出者 | 主な書類 |
|---|---|
対象会社 | 履歴事項全部証明書(3か月以内)、直近の確定申告書(別表一・二・四)、直近3期分の決算書、株主名簿(代表者の原本証明付き)、常時使用する従業員1名分の労働条件通知書 |
対象会社の代表者 | 住民票(3か月以内、マイナンバーは墨消し) |
共同申請者(支配株主・株主代表) | 住民票または履歴事項全部証明書、株主代表に係る確認書 |
補助率2/3を希望する場合 | 営業利益率低下に関する計算書と損益計算書・試算表など、または赤字を示す損益計算書 |
加点を希望する場合 | 各認定・計画などの証明書類 |
行政書士に作成を委任する場合 | 行政書士証票の写し、委任契約書の写し |
(出典:16次公募要領(専門家活用枠)、確認日:2026年9月14日。電子申告の場合は受信通知などの追加書類が必要です)
決算書や株主名簿の整理は、補助金の申請だけでなく売却準備そのものにも必要です。会社売却の準備チェックリストで抜け漏れを確認しておくと、DDの段階で慌てずに済みます。
締切11月6日から逆算した準備スケジュール
9月中にGビズIDプライムの申請を済ませ、10月中旬までに見積2者と書類をそろえ、11月第1週の前半には提出を終えるのが安全なペースです。 締切間際はアクセスが集中しやすく、書類の不備に気づいても修正する時間が残らないためです。
時期 | やること | ポイント |
|---|---|---|
2026年9月中旬〜下旬 | GビズIDプライムの申請、公募要領・ガイドブックの通読 | 印鑑証明書の取り寄せから始める |
9月下旬〜10月中旬 | 事業承継・引継ぎ支援センターや登録支援機関に相談、見積を2者以上から取得 | この段階では契約しない。相見積先も登録業者か確認 |
10月2日(金) | 申請受付開始 | |
10月7日(水)17:00 | 公募説明会の申込締切 | |
10月9日(金)14:00〜 | 公募説明会(オンライン) | 疑問点を整理して参加 |
10月中旬〜下旬 | 決算書・株主名簿・労働条件通知書・営業利益率低下の計算書などを準備し、Jグランツに入力 | 共同申請者の書類も忘れずに |
11月第1週前半 | 提出完了 | 締切間際は避ける |
11月6日(金)17:00 | 申請締切 | 時間厳守 |
2026年12月下旬以降 | 採択発表 | |
2027年1月上旬以降 | 交付申請 | |
2027年1月下旬以降 | 交付決定 → ここで初めて仲介会社・FAと契約 | |
〜2028年3月中旬 | 補助事業期間の終了(クロージングと支払いを完了) | 実績報告は2028年3月下旬まで |
補助事業期間の終了後3年間 | 事業化状況報告 |
(スケジュールは16次公募要領と事務局サイトをもとに編集部で作成。採択日以降はすべて予定です)
売却プロセス全体の流れは、会社売却とは・流れ完全ガイドで確認できます。
採択率の推移と加点項目
13次〜15次公募の採択率は約61%前後で推移しており、申請者の約4割は不採択です。 審査料はかかりませんが、事務局は不採択の理由の問い合わせに応じないため、要件の確認と加点の準備が重要になります。
13次〜15次公募の採択結果
公募回 | 採択の公表日 | 申請件数 | 採択件数 | 採択率(編集部算出) |
|---|---|---|---|---|
13次 | 2026年1月15日 | 481件 | 293件 | 約60.9% |
14次 | 2026年5月15日 | 512件 | 311件 | 約60.7% |
15次 | 2026年9月11日 | 551件 | 338件 | 約61.3% |
15次公募の枠別の採択結果
枠 | 申請件数 | 採択件数 | 採択率(編集部算出) |
|---|---|---|---|
事業承継促進枠 | 190件 | 115件 | 約60.5% |
専門家活用枠 | 312件 | 194件 | 約62.2% |
PMI推進枠 | 47件 | 28件 | 約59.6% |
廃業・再チャレンジ枠 | 2件 | 1件 | 50.0% |
合計 | 551件 | 338件 | 約61.3% |
(出典:14次・15次は事業承継・M&A補助金 事務局サイト、ミラサポplus 15次公募の採択結果、中小機構 補助金活用ナビ 14次採択結果、確認日:2026年9月14日。13次は中小企業庁の公表資料による(確認日:2026年4月4日)。採択率は採択件数÷申請件数で編集部が算出。15次で新設された小規模売り手支援類型だけの件数は、確認できた公表資料には載っていません)
過去の採択率が約6割で推移しているからといって、16次も同じ水準になるとは限りません。16次の採択予定件数や予算額は、確認時点で公表されていません。
審査で見られるポイント(売り手支援類型)
- 補助事業期間内に、経営資源の引継ぎに適切に取り組める計画か
- 譲り渡す目的・必要性
- 譲り渡しによる効果や、地域経済への影響
専門家活用枠の主な加点項目
- 中小会計要領または中小会計指針を適用している
- 経営力向上計画の認定、経営革新計画の承認、先端設備等導入計画の認定を受けている
- 地域未来牽引企業に選定されている
- 小規模事業者等に該当する
- 事業継続力強化計画(連携を含む)の認定を受けている
- えるぼし・くるみん認定を受けている、または従業員100人以下で行動計画を公表している
- 健康経営優良法人に認定されている
- サイバーセキュリティお助け隊サービスを利用している
- 賃上げ(1人当たり給与支給総額+2%以上)を従業員に表明している
- 米国の追加関税措置で大きな影響を受けている
賃上げの加点には注意が必要です。 売り手が使う場合は、M&A後に買い手などが賃上げを実施することへの合意と誓約書が必要です。未達成だと、その後18か月間、中小企業庁が所管する補助金の審査で大幅に減点されます。売却後の経営に売り手が関与できない場合は、安易に加点を狙わないほうがよいでしょう。
(出典:16次公募要領(専門家活用枠)「加点事由」、確認日:2026年9月14日)
申請前に相談できる窓口

補助金の申請と仲介会社選びを並行して進めるなら、まず公的な窓口で制度と自社の状況を整理し、そのうえで登録支援機関に見積を依頼する順番が安全です。
相談先 | 相談できること | 費用 |
|---|---|---|
事業承継・M&A補助金事務局(専門家活用枠のコールセンター:050-3145-3812、平日9:30〜12:00/13:00〜17:00) | 要件・対象経費・申請手続き | 無料 |
事業承継・引継ぎ支援センター(全国47都道府県) | 売却の進め方全般、支援機関の紹介 | 無料 |
商工会・商工会議所、取引金融機関 | 補助金の概要、地域の支援機関の紹介 | 原則無料 |
M&A支援機関登録制度に登録された仲介会社・FA | 見積の取得、補助事業期間内の成約見込みの確認 | 相談料の有無は会社により異なる(各社の公式サイトで確認。契約後は手数料が発生) |
認定経営革新等支援機関・税理士・中小企業診断士 | 営業利益率低下の判定、決算書類の確認、補助金の税務処理 | 依頼内容による |
(コールセンターの番号・受付時間は事務局の案内に基づく、確認日:2026年9月14日。事業承継促進枠・PMI推進枠などの窓口は事務局サイトで確認してください)
公的な相談窓口の使い方は事業承継・引継ぎ支援センターとは、仲介会社への無料相談で確認すべき点はM&A無料相談の選び方・注意点で解説しています。売り手向けに仲介会社を比べたい場合はM&A仲介会社 比較(売り手向け)をご覧ください。
よくある質問
Q. 15次公募で不採択でした。16次公募に申請し直せますか?
A. 16次公募の要件を満たしていれば、改めて申請を検討できます。ただし、事務局は不採択理由の問い合わせに応じないため、前回の計画内容や加点書類、見積の取り方を自分で見直す必要があります。また、過去の公募回で交付を受けたことがある事業者は、事業化状況報告を適切に行っているかどうかも問われます。自社の状況で申請できるかは、事務局の「よくある質問」やコールセンターで確認してください。
Q. 仲介会社から「補助金の申請書も作ります」と言われました。任せて大丈夫ですか?
A. 公募要領では、申請は事業者本人が行うのが原則とされています。行政書士(行政書士法人)以外が報酬を得て申請書類を作成すると行政書士法に違反するおそれがあり、交付決定の取消につながる可能性もあります。仲介会社から助言を受けること自体とは区別し、書類作成を有償で依頼する場合は相手が行政書士かどうかを確認してください。行政書士に委任する場合は、証票の写しと委任契約書の写しを申請時に提出します。
Q. 補助金を受け取ったら税金はかかりますか?
A. 一般的に、法人が受け取る補助金は益金として法人税の課税対象になり、個人が受け取る場合も課税関係が生じます。株式譲渡では会社と支配株主が共同申請し、それぞれの負担額に応じて補助金が交付されるため、誰にどう課税されるかはケースで変わります。株式の譲渡所得にかかる税金とあわせて、具体的な処理は税理士にご相談ください。売却時の税金の全体像は会社売却の税金・節税 完全ガイドで解説しています。
Q. M&Aマッチングサイトの利用料や表明保証保険の保険料も対象になりますか?
A. 小規模売り手支援類型のガイドブックでは、マッチングサイトなどの利用料は「システム利用料」、表明保証保険の保険料は「保険料」として、補助対象経費の区分に挙げられています。ただし、交付決定後に契約・支払いをすることなどの共通ルールは同じです。売り手支援類型を選ぶ場合や、利用するサービスの料金がどの区分に当たるか判断しにくい場合は、申請前に事務局へ確認しておくと安心です。
Q. 個人事業主でも使えますか?
A. 使えます。個人事業主は、開業届と青色申告承認申請書を提出してから5年が経過していることが要件です。小規模売り手支援類型のガイドブックでは、従業員5名の美容サロンが第三者への譲り渡しで専門家費用の一部に活用するイメージも紹介されています。個人事業の場合は事業譲渡になるため、設備・従業員・顧客などを一体として引き継ぐ内容であることが求められます。
Q. 16次公募に間に合わなかった場合、17次公募はありますか?
A. 2026年9月14日時点で、17次公募の実施の有無や時期は公式に発表されていません。2026年は13次〜16次の公募・採択が続いてきましたが、次回があるかは予算の状況などで変わります。次の公募を待つ場合も、GビズIDプライムの取得や決算書類の整理を先に進めておけば、発表後すぐに申請準備に入れます。
まとめ|16次公募は「契約のタイミング」を決めてから申請する
事業承継・M&A補助金の16次公募は、2026年10月2日(金)〜11月6日(金)17:00にJグランツで申請を受け付けます。 会社を売りたいオーナーが押さえるべき点は次のとおりです。
- 売り手が使うのは専門家活用枠の売り手支援類型(1/2〜2/3・上限600万円)か小規模売り手支援類型(2/3・上限450万円)。小規模事業者はどちらか一方を選ぶ
- 補助率・上限額は15次から変わらないが、交付決定は2027年1月下旬以降の予定。仲介会社・FAとの契約はその後になる
- 補助事業期間(2028年3月中旬予定まで)にクロージングと支払いを終えないと、成功報酬は補助されない
- 依頼先はM&A支援機関登録制度の登録業者に限られ、見積は原則2者以上が必要
- 13次〜15次の採択率は約61%前後。GビズIDプライムの取得は9月中に始める
補助金は仲介手数料の負担を大きく減らせる一方、使うためには売却の進め方やスケジュールを補助金のルールに合わせる必要があります。「補助金を待つか、今すぐ進めるか」を決めるために、まずは事業承継・引継ぎ支援センターや登録支援機関に相談し、自社の売却スケジュールと補助事業期間が合うかを確認することをおすすめします。
補助金制度の全体像は事業承継・M&A補助金とは、M&Aと廃業で迷っている場合はM&Aか廃業か 比較・判断基準もあわせてご覧ください。
本記事は、事業承継・M&A補助金の16次公募要領(2026年9月・Ver.1.0)、事務局サイト、中小企業庁・中小機構の公表資料をもとに作成しています。申請の可否や経費の該当性は事務局・専門家に、税務の取り扱いは税理士に、契約内容は弁護士にご確認ください。
