事業承継税制「抜本見直し」とは?令和9年度改正要望の中身と、会社を売りたいオーナーへの影響
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事業承継税制「抜本見直し」とは?令和9年度改正要望の中身と、会社を売りたいオーナーへの影響

事業承継税制の「抜本見直し」は、2027年末で期限を迎える特例措置を「稼ぐ力」重視の制度へ作り直す経産省の要望で、2026年10月時点では未決定です。検討中の8論点、株式評価ルールの見直し、M&A売却を考えるオーナーへの影響を一次資料で整理しました。

M&A比較レビュー編集部2026/10/611分で読める

事業承継税制の「抜本見直し」は、2027年12月末で期限を迎える特例措置を、賃上げや設備投資など「稼ぐ力」の強化に取り組む中小企業を後押しする制度へ作り直すよう、経済産業省が令和9年度税制改正で求めている要望です。2026年10月7日時点では要望・検討の段階で、新しい制度の中身は何も決まっていません。

現行の期限(特例承継計画の提出は2027年9月30日、贈与・相続は2027年12月31日)は今も変わっていません。親族に継ぐ予定のオーナーは見直しの結論を待たずに準備を進めるべきです。M&A売却を考えているオーナーは、税制の行方よりも、同時に議論されている「非上場株式の評価ルールの見直し」と、自社の売却時期を先に確認するのが現実的です。

この記事でわかること

  • 経済産業省の要望書に書かれている「抜本見直し」の原文と、決まっていること・決まっていないこと
  • 中小企業庁の検討会の報告書(案)で示された、見直しの8つの論点
  • 経済産業省・日本商工会議所・経団連の主張の違い
  • 同時に進む「非上場株式の評価ルール見直し(残余利益方式)」の概要
  • 会社を売りたい・売るか迷っているオーナーへの影響(タイプ別)
  • 「見直しを待つ」か「今動く」かの判断ポイントと、2028年までのスケジュール

この記事は、自社株を親族に継ぐか、M&Aで第三者に売るかを検討している中小企業のオーナー経営者向けです。 制度の細かい手続きよりも、「今回の見直しで自分の判断が変わるのか」を確かめるための材料をまとめています。

ご注意: 本記事は、2026年10月7日時点で確認できた財務省・経済産業省・中小企業庁・国税庁の公表資料をもとにしています。ここで紹介する見直しの内容は、いずれも要望や検討段階のもので、決定事項ではありません。実際の税額や制度の使い方は会社や家族の状況で大きく変わるため、最終的な判断は税理士・認定経営革新等支援機関などの専門家にご相談ください。

この記事の結論

  1. 「廃止」でも「そのまま延長」でもなく、「作り直し」を求める要望です。 賃上げ・設備投資などに取り組む企業の後継者に、贈与税・相続税の「免除」を認める方向が検討されています。ただし要件・適用期間は決まっていません
  2. 今の特例措置の期限は動いていません。 結論は例年12月中旬に公表される与党税制改正大綱で示される見込みです。大綱から計画の提出期限(2027年9月30日)までは約9か月しかありません
  3. M&A売却を考えているオーナーへの直接の影響は限られます。 ただし、自社株の評価ルールの見直しが実現すると、「親族に継ぐ場合の税負担」が変わり、「継ぐか・売るか」の比較そのものが変わる可能性があります

特例措置の期限とM&A売却のどちらを選ぶかは、事業承継税制の特例期限とM&A売却の比較で詳しく扱っています。制度の基本から知りたい方は事業承継税制とは?特例措置の期限・要件を先にご覧ください。


事業承継税制の「抜本見直し」とは?要望書の原文と、決まっていないこと

「抜本見直し」は、経済産業省(中小企業庁)が2026年8月に出した令和9年度税制改正要望の項目名です。 対象は、自社株を後継者に引き継ぐときの贈与税・相続税を猶予・免除する「事業承継税制」で、とくに2018年に始まった10年間限定の特例措置をどうするかが焦点です。

財務省のサイトに掲載された要望書には、次のように書かれています。

「平成30年に措置された『非上場株式等についての贈与税・相続税の免除の特例等』について10年間の時限的措置が今般期限を迎えることに伴い、事業承継を契機に『稼ぐ力』強化に取り組む中小企業等を後押しする措置へ抜本的に見直し・強化を行う。」

(出典:財務省「令和9年度税制改正要望事項(経済産業省中小企業庁事業環境部財務課)事業承継税制の抜本見直し」 33-1、確認日:2026年10月7日)

経済産業省の要望概要でも、特例措置を「事業承継時の贈与税・相続税負担を実質ゼロにする時限措置」と説明したうえで、「令和8年度与党税制改正大綱の記載を踏まえつつ、あり方を見直す」としています(出典:経済産業省「令和9年度税制改正に関する経済産業省要望【概要】」 p.4、確認日:2026年10月7日)。

決まっていること・決まっていないこと

要望書を読むと、「方向性」は書かれていても「新しい要件」は書かれていません。現時点の状況は次のとおりです。

項目

2026年10月7日時点の状況

根拠

現行の特例措置の期限

決まっている:計画提出 2027年9月30日/贈与・相続 2027年12月31日(法人版)

国税庁タックスアンサー No.4439

2028年以降の扱いを決める時期

決まっている:「令和9年度税制改正において結論を得る」

令和8年度与党税制改正大綱

見直しの方向性

要望段階:「稼ぐ力」強化に取り組む企業を後押しする措置へ

経産省要望書

新制度の要件・猶予割合・免除条件

決まっていない(要望書に具体的な記載なし)

経産省要望書

新制度の適用期間

決まっていない(要望書では「検討中」)

経産省要望書 33-1

減収見込額

「精査中」(参考:制度自体の減収額は約1,690億円)

経産省要望書 33-1

すでに税制を使った会社への扱い

示されていない

—

(出典:国税庁タックスアンサー No.4439(令和8年4月1日現在法令等)、財務省掲載の経産省要望書、経済産業省「令和9年度税制改正に関する経済産業省要望のポイント」 p.1、確認日:2026年10月7日)

報道でも同じ方向性が伝えられています。日本経済新聞は2026年8月22日、「中小の事業承継、成長投資・賃上げなら贈与・相続税免除 経産省要望へ」と報じました。今の「猶予したうえで、条件を満たせば実質免除」という仕組みから、成長投資や賃上げに取り組む後継者への「免除」へ切り替える案で、具体的な制度設計は年末にかけて政府・与党内で調整するとされています(出典:日本経済新聞 2026年8月22日、有料記事のため見出しと冒頭部分を確認、確認日:2026年10月7日)。

制度を一から確認したい方は、事業承継税制とは?特例措置の期限・要件をご覧ください。


なぜ今「抜本見直し」なのか:10年の時限措置と、効果検証の結果

見直しの理由は、特例措置が「10年間限定(2027年末まで)」の時限措置として作られたことと、効果検証で「事業承継は進んだが、成長投資にはあまりつながっていない」という結果が出たことの2つです。

理由1:もともと10年限定の制度だった

2025年12月の令和8年度与党税制改正大綱は、特例措置の期限後について次のように書いています。

「適用期限到来後のあり方については、世代交代の停滞や地域経済の成長への影響に係る懸念に加えて、本措置の適用状況や課税の公平性等の観点も踏まえて多角的な検討を行い、令和9年度税制改正において結論を得る。」

(出典:経済産業省「令和9年度税制改正に関する経済産業省要望のポイント」p.1に引用、確認日:2026年10月7日)

「世代交代の停滞」への懸念と同時に、「課税の公平性」も挙げられている点が重要です。今の特例措置が無条件に続くことを前提にした書き方ではありません。

理由2:承継は進んだが、「稼ぐ力」には結びつきにくかった

特例承継計画の申請件数は、毎年2,000〜3,000件前後で推移してきました。

年度

特例承継計画の申請件数

2018年度(平成30年度)

2,767件

2019年度(令和元年度)

3,246件

2020年度(令和2年度)

2,793件

2021年度(令和3年度)

2,658件

2022年度(令和4年度)

3,049件

2023年度(令和5年度)

5,546件(当時の提出期限前の駆け込み)

2024年度(令和6年度)

1,685件(反動減)

2025年度(令和7年度)

2,264件

(出典:財務省掲載の経産省要望書 33-6、2026年3月末時点、確認日:2026年10月7日。8年間の合計は約2.4万件=編集部集計)

一方で、中小企業庁が2025年6月に行ったアンケート(回答1,736社)では、税制を使った効果として「早期に事業承継に踏み切ることができた」が54.7%、「株式の集約が進んだ」が45.3%だったのに対し、「従業員の賃上げの実現」は5.2%(77社)、「設備投資の増加」は3.7%(54社)にとどまりました(出典:中小企業庁「今後の検討の方向性について」 2026年4月15日 p.15、確認日:2026年10月7日)。

つまり「税負担を気にせず株を渡せた」効果ははっきり出た一方で、「承継をきっかけに会社を伸ばす」効果は弱かった、というのが国側の評価です。 これが「稼ぐ力」を条件にした作り直しを求める根拠になっています。

なお、同じ資料では、利用を見送った理由として「提出書類や手続きが煩雑」(37.3%)、「納税猶予が取り消されるリスクがある」(23.5%)という東京商工会議所のアンケート結果も紹介されています(同資料 p.14)。


見直しで検討されている8つのポイント(検討会の報告書案より)

新しい制度の中身を知る手がかりとして、現時点でいちばん具体的なのは、中小企業庁「中小企業の親族内承継に関する検討会」が2026年8月5日に示した報告書(案)です。 大きな方向性は、「贈与による早めの承継を主眼に置く」「猶予から免除・評価減へ」「雇用人数の維持より成長への取り組みを重視する」の3つです。

論点

今の特例措置

報告書(案)で示された方向性(要約)

① 猶予の対象になる株式数

上限なし(一般措置は3分の2まで)

「2/3と上限を設けてしまうことは必ずしも妥当ではない」との記載

② 贈与と相続の差

どちらも100%猶予

贈与で承継した企業のほうが売上の伸びが大きいため、贈与による早期承継を主眼に。相続の場合の猶予割合は「適切に検討」

③ 猶予のしくみ

猶予したうえで、一定の場合に免除

賃上げ・設備投資・地域貢献などを実践した場合の「評価減」や「猶予税額の免除」を検討(課税逃れの防止策や上限設定もあわせて検討)

④ 雇用確保要件

5年平均8割を満たさなくても猶予継続が可能

人数の絶対水準ではなくほかの企業との比較(ベンチマーク)や、省力化投資・賃上げなど別の指標での判定を検討

⑤ 取り組みの開示

なし

税制を使う企業に、設備投資・賃上げなどの取り組み状況の開示を求める案

⑥ 海外子会社

猶予税額の計算では海外子会社株式の価値が除かれる

海外子会社の株式も対象にすることを検討

⑦ 後継者の人数

最大3名

1人に絞る案もあるが、複数後継者の実態(特例活用企業の約6%)を把握して検討

⑧ 手続き・その他

申告後も定期的な届出が必要

一定期間取り消しがなければ利子税を免除する制度、特例承継計画への数値目標の記載、報告手続きの簡素化

(出典:中小企業庁「中小企業の親族内承継に関する検討会 報告書(案)」 2026年8月5日、同「今後の検討の方向性について」2026年4月15日、確認日:2026年10月7日。最終的な報告書の公表は2026年10月7日時点で確認できていません)

この表から読み取れるのは、次の3点です。

  • 「親が元気なうちに贈与で渡す」会社は、今より有利になる可能性があります。 一方で、相続まで待つ会社は猶予割合が下がる方向も議論されています
  • 「猶予」が「免除」に変われば、将来の納税リスクを抱え続ける負担は軽くなります。 その代わり、賃上げ・設備投資などの取り組みや、その開示が条件になる可能性があります
  • 手続きが今より簡単になるとは限りません。 数値目標や開示の要件が加わると、むしろ手間が増える会社もあり得ます

2025年12月の中間とりまとめでは、「例えば10年間事業を継続すれば免除」という案にも触れられていました。また、2026年4月の検討会では、委員から「現状の特例措置の延長は、基本的には無いという前提に立って議論することが大事」という意見も出ています(出典:中小企業庁 2026年4月15日資料 p.5、確認日:2026年10月7日)。これは委員の意見で、政府の決定ではありません。

ここまでの内容は、いずれも検討会の報告書(案)や委員の意見です。 最終的な制度は、財務省・与党税制調査会との調整で大きく変わることも、通らないこともあり得ます。


経産省・日本商工会議所・経団連の立場の違い

事業承継税制の見直しについて意見を公表した日本商工会議所の公式ロゴ画像

見直しをめぐっては、「作り直し」を求める経済産業省と、「今の特例措置を残してほしい」とする経済団体とで主張が分かれています。 年末の結論がどこに落ち着くかを読むうえで、関係者の立場を押さえておくと役立ちます。

立場

主な主張

非上場株式の評価見直しへの姿勢

経済産業省(2026年8月要望)

特例措置を「稼ぐ力」強化に取り組む企業を後押しする措置へ抜本的に見直し・強化

(要望書では言及なし)

中小企業庁の検討会(2026年8月報告書案)

贈与による早期承継を主眼に、評価減・免除、雇用要件の見直し、開示などを検討

—

日本商工会議所(2026年9月18日意見)

特例措置の恒久化(2028年以降も全株式対象・相続も100%猶予・雇用要件の弾力化)、成長志向企業への納税免除、税制を使えない企業向けの一律の評価減

残余利益方式に「多くの中小企業の事業承継が崩壊するのではないかと強く懸念」

経団連(2026年9月15日提言)

特例措置の適用期限を延長すべき

「負担が急増することのないよう慎重な見直しが必要」

(出典:経済産業省要望概要 p.4、日本商工会議所「令和9年度税制改正に関する意見」、経団連「令和9年度税制改正に関する提言」、確認日:2026年10月7日)

「成長に取り組む企業への免除」という点では、経済産業省と日本商工会議所の方向性は重なっています。違いは、「今の手厚い特例措置をベースに残すか(日商・経団連)」「条件つきの新しい制度に作り直すか(経産省)」です。どちらに近い形になるかで、2028年以降に親族へ株を渡す会社の税負担は大きく変わります。


同時に進む「非上場株式の評価ルール見直し」とは

事業承継税制の見直しと並行して、国税庁は「取引相場のない株式(非上場株式)」の評価方法の見直しを進めています。 会社を売りたいオーナーにとっては、事業承継税制そのものより、こちらの見直しのほうが判断に影響しやすいテーマです。

何が議論されているか

国税庁は2026年4月に「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を立ち上げました。2026年8月20日の第5回会合では、国税庁が次のような方向性を示しています。

  • 会社の簿価純資産をベースに、将来の超過収益を加味する「残余利益方式」を評価の軸にする
  • 上場企業の株価と比べる「類似業種比準方式」は存置が難しいのではないか
  • 会社の規模による区分(大会社・中会社・小会社)を廃止する

(出典:国税庁 有識者会議 第5回資料、確認日:2026年10月7日)

2026年9月16日に第6回会合が開かれましたが、とりまとめは2026年10月7日時点で公表されていません。新しいルールは2028年1月以降の相続・贈与から適用を目指していると専門家の解説で説明されていますが、国税庁の公式なスケジュールとしては確認できていません。

評価額は上がる会社も、下がる会社もある

評価額がどう変わるかは、試算の前提によって結論が分かれています。

  • 日本商工会議所の試算として、仮想の2万社のうち41.5%で評価額が上がり、売上6.5億円・従業員10人の製造業では評価額が3.8倍、相続税が5,600万円増える例があると日本経済新聞が報じています(出典:日本経済新聞 2026年9月「非上場株相続の新評価法、日商が反対」、確認日:2026年10月7日。日商の公式ページでは試算の数値までは確認できていません)
  • 一方で、税理士法人の解説では、第6回時点の国税庁の試算で約48.6%の会社の評価額が現行より下がるとされています(出典:辻・本郷 税理士法人の解説、確認日:2026年10月7日。国税庁の公表資料での数値は編集部では未確認)

どちらが正しいかではなく、「純資産が厚く、利益も安定している会社」ほど評価額が上がりやすい方向の見直しだと理解しておくのが安全です。 自社がどちらに当たるかは、顧問税理士に現行ルールと新ルール案の両方で試算してもらうしかありません。今の評価方法の基本は非上場株式の評価方法で解説しています。

なぜ売り手に関係するのか

M&Aで第三者に売るときの価格は、買い手との交渉で決まります。評価ルールが変わっても、M&Aの売却価格そのものが直接変わるわけではありません。 関係してくるのは、次の2つの場面です。

  1. 親族に継ぐ場合の贈与税・相続税が変わる:評価額が上がる会社では、親族に渡したときの税負担が重くなり、相対的にM&A売却が選ばれやすくなります。逆に評価額が下がる会社では、親族承継の負担が軽くなります
  2. 売らずに持ち続けて相続を迎えた場合の税負担が変わる:「いずれ売るつもりだが、まだ決めていない」まま相続が起きると、新しい評価ルールで相続税が計算される可能性があります

会社を売りたいオーナーへの影響(タイプ別)

今回の見直しで判断が大きく変わるのは、「親族に継ぐか、売るか」を決めかねている会社です。 すでにM&A売却を決めている会社への直接の影響は限られます。

オーナーのタイプ

抜本見直しの影響

評価ルール見直しの影響

今やっておきたいこと

① 親族の後継者が決まっていて、5年以上は売らない

大きい。2027年末までに今の特例措置を使うか、新制度を待つかの判断が必要

大きい(2028年以降に贈与・相続する場合)

2027年9月30日までに特例承継計画を出せる準備。12月の大綱を確認

② 後継者が未定で、M&Aも選択肢に入っている

中程度。新制度の内容しだいで親族承継の魅力が変わる

大きい。評価額が上がる会社ほどM&Aが相対的に有利になりやすい

自社株の評価額試算と、M&Aでの売却価格の目安を同時に把握する

③ 数年以内にM&A売却をする予定

小さい。事業承継税制は使わない前提のため

小さい(売却価格は交渉で決まる)。ただし売却前に相続が起きた場合は影響あり

税制の行方より、売却時期・手取り額・仲介会社選びを優先

④ すでに事業承継税制を使っていて、将来売る可能性がある

不明。新制度が既適用の会社に及ぶかは示されていない

小さい(猶予税額は適用時の評価で計算済み)

売却時の猶予税額の納付額を税理士と試算。大綱で既適用者の扱いを確認

(編集部作成。各欄の影響度は、2026年10月7日時点の要望・報告書(案)の方向性から整理した目安で、制度の決定を前提にしたものではありません)

タイプ③(数年内に売る予定)の方が気にすべきこと

M&A売却を決めているなら、事業承継税制の見直しを待つ理由はほとんどありません。それよりも、次の点のほうが手取り額に直結します。

  • 株式の譲渡益にかかる税金:個人が株式を売ったときの譲渡益には、原則20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%)がかかります(出典:国税庁タックスアンサー No.1463、確認日:2026年10月7日)
  • 2027年分から強化される高額所得者への追加課税:売却益が数億円規模になる場合は、売却の年によって税額が変わる可能性があります。詳しくはM&A売却と決算期・税金のタイミングをご覧ください
  • 仲介会社の手数料:同じ売却価格でも、手数料体系で手取りは変わります

売却で手元にいくら残るかはM&A売却の手取り額シミュレーション、税金全体はM&A売却の税金ガイドで確認できます。

タイプ④(すでに税制を使っている)の方が気にすべきこと

今の制度では、事業承継税制を使ったあとにM&Aで株式を売ると、原則として猶予されていた税額を利子税とあわせて納めることになります。特例措置では、5年経過後に事業の継続が難しい一定の事情があって売る場合に、売却価格をもとに計算し直した税額との差額が免除される仕組みもあります(出典:国税庁タックスアンサー No.4439、確認日:2026年10月7日)。

見直しで「猶予から免除へ」の仕組みが入った場合、売却という出口の扱いが変わる可能性はあります。ただし、すでに税制を使った会社に新しいルールが及ぶかどうかは、現時点で何も示されていません。 「免除になるかもしれないから売却を先延ばしする」という判断は避け、売却の話が出たら、まず現行ルールでの納付額を税理士と試算してください。

買い手側の税制も見直し要望が出ている

売り手には直接関係しませんが、経済産業省は同じ要望で、M&Aの買い手が株式取得額の一部を準備金として損金に算入できる「中堅・中小グループ化税制(中小企業事業再編投資損失準備金)」の3年延長なども求めています(経産省要望概要 p.10)。延長されれば、中小企業を買う側の意欲を下支えする要因になり得ます。

なお、同時に要望されている「事業ポートフォリオ転換・強化促進税制」は、法人が事業を売って別の事業を買うときの売却益の課税を繰り延べる仕組みで、オーナー個人が自社株を売るときの譲渡益(20.315%)には直接関係しません(同 p.26)。


見直しを待つべき?今動くべき?判断のポイント

結論として、「見直しを待てば今より有利になる」と考えて現行の期限を見送るのはおすすめできません。 新しい制度が今の特例措置より使いやすくなる保証はなく、要件が増える可能性もあるためです。

「待つ」ことのリスク

リスク

内容

新制度のほうが不利になる可能性

賃上げ・設備投資・開示などの条件が加わると、今の特例措置(猶予100%、雇用要件の緩和済み)より使いにくくなる会社がある

相続の扱いが厳しくなる可能性

報告書(案)は贈与を主眼に置いており、相続の場合の猶予割合が下がる方向も議論されている

経過措置が決まっていない

2027年中に計画を出した会社が、2028年以降に新制度へ移れるかなどは示されていない

準備期間が短い

大綱が例年どおり12月中旬に出ても、計画の提出期限(2027年9月30日)まで約9か月しかない

評価ルールの変更が重なる

新しい評価ルールが2028年以降に適用されると、評価額が上がる会社は贈与・相続の税負担が増える

タイプ別の判断の目安

  • 親族の後継者が決まっている:見直しを待たず、2027年9月30日までに特例承継計画を出せる準備を進める。12月の大綱を見て、2027年中に贈与するか、新制度を待つかを最終判断する
  • 継ぐか売るかで迷っている:2026年中に「自社株の評価額(現行ルールと新ルール案)」と「M&Aでの売却価格の目安」の2つの数字をそろえる。この2つを比べないまま税制の結論だけを待つのが、いちばん判断を遅らせる進め方です
  • 売却を決めている:税制の見直しを待つ理由は小さいため、売却の準備を優先する

特例承継計画については、提出しても贈与が義務づけられるわけではないと専門家の解説では説明されています。計画を出して選択肢を残しつつ、M&Aの可能性を並行して確かめる進め方は事業承継税制の特例期限とM&A売却の比較で詳しく説明しています。計画の扱いは個別の状況で異なるため、提出前に中小企業庁の手引きを確認し、税理士・認定経営革新等支援機関にご相談ください。


2028年までのスケジュールとやること

事業承継税制の特例措置の期限と見直しスケジュールを確認するためのカレンダー

12月の与党税制改正大綱で方向性が示されてから、2027年9月30日の計画提出期限までが実質的な判断期間です。 それまでに、税制を使うかどうかを判断するための数字をそろえておくことが大切です。

時期

制度の動き(見込みを含む)

オーナーがやっておきたいこと

2026年10〜11月

国税庁の有識者会議のとりまとめ(時期未定)

顧問税理士に自社株の評価額を試算してもらう。M&A仲介会社や公的な支援センターで売却価格の目安を聞く

2026年12月中旬(見込み)

令和9年度与党税制改正大綱で結論が示される見込み(日程は未確定)

大綱の内容を確認し、親族承継とM&A売却のどちらを軸にするか決める

2027年1〜3月

税制改正法案の国会審議(例年の流れ)

親族承継の場合は後継者・贈与する株数を固める

2027年9月30日

特例承継計画の提出期限(法人版)

今の特例措置を使う場合は計画を提出

2027年12月31日

特例措置の贈与・相続の期限(法人版)

今の特例措置を使う場合は贈与を実行

2028年1月〜

新制度・新しい評価ルールの適用開始が想定されている(いずれも未確定)

新制度の要件を確認。個人版は計画提出 2028年9月30日、贈与・相続 2028年12月31日まで

(出典:国税庁タックスアンサー No.4439、経済産業省要望概要 p.4、確認日:2026年10月7日。2026年12月以降の制度の動きは例年の流れや専門家の解説をもとにした見込みで、日程は確定していません)

個人事業主の方の手続きは個人版事業承継税制の個人事業承継計画ガイド、専門家費用の補助を使いたい方は事業承継・M&A補助金 16次公募の申請ガイドをご覧ください。


今回の見直しを特に注視すべき会社・あまり気にしなくてよい会社

見直しの結論しだいで判断が変わるのは、「株価が高く、親族承継も選択肢に残っている会社」です。

12月の大綱を必ず確認したい会社

  • 親族や役員に継がせる方向で、2028年以降の贈与・相続も視野に入れている
  • 純資産が厚く利益も安定していて、評価ルールの見直しで株価が上がりそうな会社
  • 継ぐか売るかをまだ決めておらず、税負担の差で判断したいと考えている
  • すでに事業承継税制を使っていて、将来の売却や事業の縮小を考えている

見直しの結論を待たずに動いてよい会社

  • 後継者がいないなど、M&Aでの第三者への売却をすでに決めている
  • 自社株の評価額が低く、通常の贈与・相続でも税負担が小さい
  • 引退資金としてまとまった現金が必要で、親族への無償の承継は考えていない

親族承継とM&Aの全体の比較は親族内承継とM&Aの比較、役員・従業員に引き継ぐ方法は従業員承継とはで解説しています。


相談先:税制は税理士、売却の可能性は仲介会社・公的機関へ

中小機構が運営する事業承継・引継ぎポータルの公式画像(事業承継・引継ぎ支援センターなど公的な相談先)

税制の見直しへの対応は税理士・認定経営革新等支援機関、売却価格の目安は M&A仲介会社や事業承継・引継ぎ支援センター、というように相談先を分けるのがおすすめです。 ひとつの相談先だけで決めると、その相談先が得意な方法に話が寄りやすくなります。

相談先

相談できること

注意点

税理士・認定経営革新等支援機関

自社株の評価額試算(現行・新ルール案)、特例承継計画の作成、贈与・相続税と譲渡所得税の比較

事業承継税制や評価見直しへの詳しさは税理士によって差がある

事業承継・引継ぎ支援センター(公的機関)

親族承継・第三者承継の両方について中立的な相談

売却の実務までは担わないことが多い

M&A仲介会社・FA

売却価格の目安、買い手の見つかりやすさ、売却の進め方

報酬の多くが成約時の成功報酬のため、売却を前提にした提案になりやすい点は意識しておく

公的な窓口の使い方は事業承継・引継ぎ支援センターとは、相談先ごとの違いはM&Aの無料相談先の比較、仲介会社の選び方はM&A仲介会社の選び方で解説しています。


よくある質問

Q. 12月の大綱で「特例措置の延長」が決まる可能性はありますか?

ゼロではありません。日本商工会議所は恒久化を、経団連は期限延長を求めています。ただし、経済産業省自身が「作り直し」を要望しており、検討会でも「単純延長は前提にしない」という意見が出ています。延長を前提に準備を止めるのは避けたほうが安全です。

Q. 2027年12月までに今の特例措置で贈与した場合、2028年からの新制度に乗り換えられますか?

2026年10月7日時点では示されていません。今の特例措置で贈与した会社に新しい免除の仕組みが及ぶかどうかは、大綱や法案の経過措置で決まります。乗り換えを前提に贈与の時期を決めるのは避け、大綱が出た時点で税理士に確認してください。

Q. 見直し後の制度は、親族以外の役員や従業員に継ぐ場合でも使えますか?

今の事業承継税制は、平成25年度税制改正(2015年1月以降の贈与・相続から適用)で、親族以外の後継者も対象になっています。新制度で後継者の範囲がどうなるかは示されていません。検討会の名前は「親族内承継に関する検討会」ですが、それだけで親族外が対象外になると判断する根拠にはなりません。

Q. 自社株の評価額が低い会社でも、今回の見直しは関係ありますか?

報告書(案)でも、相続税の基礎控除の範囲内などで、そもそも税負担が出ない会社があることが触れられています。こうした会社への影響は小さいと考えられます。ただし、評価ルールの見直しで評価額が上がる可能性があるため、「今は低い」と判断した根拠が現行ルールの計算だけなら、新ルール案でも試算しておくと安心です。

Q. 経済産業省の「事業ポートフォリオ転換・強化促進税制」は、会社を売るオーナーの税金を軽くするものですか?

いいえ。この要望は、法人が事業を売却して別の事業を買う場合の売却益への課税繰延を求めるもので、オーナー個人が自社株を売ったときの譲渡益課税(20.315%)を軽くする制度ではありません。


まとめ:見直しの結論を待つより、判断に必要な数字を先にそろえる

  • 事業承継税制の「抜本見直し」は、特例措置を「稼ぐ力」に取り組む企業を後押しする制度へ作り直すよう求める経済産業省の要望で、2026年10月7日時点では新制度の中身は決まっていない
  • 検討会の報告書(案)では、贈与による早期承継の重視、猶予から免除・評価減へ、雇用要件の見直し、取り組みの開示などが論点になっている
  • 今の期限(計画提出 2027年9月30日/贈与・相続 2027年12月31日)は変わっていない。結論は例年12月中旬の与党税制改正大綱で示される見込み
  • 同時に進む非上場株式の評価見直しは、親族承継の税負担を変え、「継ぐか売るか」の比較に影響し得る
  • M&A売却を決めている会社への直接の影響は小さく、税制の行方より売却時期・手取り額・相談先選びを優先してよい

大綱が公表されたら、決まった内容と自社への影響をあらためて確認してください。税額の試算や手続きは個別の事情で大きく変わるため、最終的な判断は、税理士・認定経営革新等支援機関などの専門家にご相談ください。 M&A売却も選択肢に入っている方は、M&A仲介会社の選び方とM&A仲介会社の成功報酬比較で相談先を比べたうえで、複数の窓口に売却価格の目安を聞いてみることをおすすめします。

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