M&A前の従業員持株会の解散・株式整理ガイド|手順・税金・注意点を解説
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M&A前の従業員持株会の解散・株式整理ガイド|手順・税金・注意点を解説

M&A(株式譲渡)で会社を売るには従業員持株会の解散と株式100%集約が欠かせません。解散の決議方法、自己株式取得とみなし配当の税金、少数株主のスクイーズアウト、従業員への配慮までを売り手オーナー目線で解説します。

M&A比較レビュー編集部2026/6/276分で読める

M&A(株式譲渡)で会社を売却する際、従業員持株会が自社株の一部を保有していると、買い手が望む「株式100%取得」の障害になります。そのため多くのケースで、M&A実行前に持株会を解散し、保有株を会社または買い手へ集約する株式整理が必要です。

ただし、整理の進め方を誤ると、従業員の不信感や想定外の高い税負担を招きます。本記事では、会社を売りたいオーナー経営者が押さえるべき「持株会の解散手順」「株式の集約方法」「みなし配当を含む税金」「同意しない少数株主への対応」「従業員への配慮」を、出典付きで整理します。

この記事でわかること

  • なぜM&A前に従業員持株会を解散・整理する必要があるのか
  • 解散から株式100%集約までの全体フロー
  • 解散決議は「全員同意」か「3分の2の多数決」か
  • 自己株式取得(みなし配当・最高約55%)と直接譲渡(20.315%)の税負担の違い
  • 同意しない少数株主を整理するスクイーズアウトの手法
  • 従業員の不信感・人材流出を防ぐための実務上の配慮
  • 売り手オーナー向けのチェックリスト

こんな方に向けた記事です

  • 自社に従業員持株会があり、株式譲渡による会社売却を検討しているオーナー経営者
  • 買い手から「株式100%を渡してほしい」と言われ、持株会の扱いに悩んでいる方
  • 持株会の解散にかかる税金・手続き・期間の全体像をまず把握したい方

⚠️ 本記事は2026年6月時点の公開情報・現行法令にもとづく一般的な解説です。会社法のスクイーズアウト要件や税率は改正される可能性があり、また持株会の規約は会社ごとに異なります。実際の手続き・税務判断は、必ず弁護士・税理士・M&A専門家にご相談ください。

まず結論:M&A前に持株会の解散と株式100%集約が必要

非上場の中小企業がM&Aで株式譲渡を行う場合、買い手(譲受企業)の多くは対象会社の株式を100%取得することを希望します。100%を保有していれば、株主総会の特別決議などを経ずに、迅速で柔軟な経営判断やPMI(買収後の統合)が可能になるためです。

従業員持株会が株式の一部を保有していると、この「完全子会社化」の障害になります。そのため、実務では次の流れで株式を整理します。

  1. 従業員持株会を解散する(組合員総会での解散決議)
  2. 持株会が保有していた株式を会社または買い手へ集約する(自己株式取得または直接譲渡)
  3. 解散後も同意しない個人株主が残る場合は、スクイーズアウトで100%に集約する

ポイントは、①解散の決議をどう正当に成立させるか、②株式の集約方法によって税負担が大きく変わること、③従業員に「不当に安く株を回収された」と感じさせない配慮、の3点です。以下で順に解説します。

出典:みつきコンサルティング日経BizGate(確認日 2026-06-28)

そもそも従業員持株会とは

従業員持株会とは、従業員が自社株の保有を目的に結成する団体です。給与・賞与からの天引きで資金を拠出し、持株会がまとめて自社株を取得して、拠出額に応じて各従業員へ持分を配分します。

  • 多くの企業で奨励金(拠出額の5〜10%程度)が会社から上乗せされる
  • 法的形態は「民法上の組合」「権利能力なき社団」「任意団体」の3種があるが、実務上はほとんどが民法上の組合として設立される
  • 規約で外部への株式譲渡を禁止し、退会時には持株会または会社が持分を買い取る旨を定めるのが一般的

従業員の財産形成や経営参加意識の向上、安定株主の確保といったメリットがある一方で、M&Aの局面では「株式が分散している」こと自体が論点になります。

出典:みつきコンサルティングM&AロイヤルアドバイザリーSOICO(確認日 2026-06-28)

持株会の解散から株式100%集約までの全体フロー

M&A前の株式整理は、大きく次のステップで進みます。自社の持株会の保有比率や同意の状況によって、必要なステップが変わります。

ステップ

内容

ポイント

① 規約・名簿の確認

持株会規約の買取条件・退会条件、組合員名簿、連絡不明者の有無を確認

すべての出発点。買取価格の算定方法が規約に書かれている

② 解散の意思決定

組合員総会で解散を決議

全員同意が理想。多数決の可否は論点(後述)

③ 株式の集約

会社による自己株式取得、または買い手への直接譲渡

集約方法で税負担が大きく変わる

④ 残存少数株主の整理

同意しない個人株主が残る場合、スクイーズアウト

株式併合(3分の2)または売渡請求(90%)

⑤ M&A(株式譲渡)の実行

100%集約後、買い手へ株式譲渡

クロージング

整理を始めるタイミングは、M&Aの基本合意の前後が一般的です。連絡不明株主がいる場合やスクイーズアウトが必要な場合は、最短でも2〜3か月かかるため、早めの着手が安全です。

出典:みつきコンサルティング(スクイーズアウト)日経BizGate(確認日 2026-06-28)

関連記事:M&Aで会社を売るまでの全体像は「M&A 売却の流れ」で詳しく解説しています。

解散決議は「全員同意」か「3分の2の多数決」か

結論として、法的には3分の2の多数決で解散できるとした裁判例がある一方、実務上は全会員の同意を得るのが最も無難です。

持株会の解散は、組合員の配当受領権などの既得権に影響します。そのため、決議方法をめぐっては争いになりやすい論点です。

参考になる裁判例(アットホーム事件)

東京地裁平成18年6月26日判決(アットホーム事件)では、持株会の解散について「3分の2の賛成で可決とするのが相当」と判断されました。一方で、解散により既得権が失われることから、全会員の同意を得るのが理想との考え方も示されています。

この事件では、136名中125名が同意書を提出し、反対者も精算金を受け入れたことで、組合員全体の受容が認定されました。また、株式を1,500〜2,000円で取得したものを3,000円で精算するなど、公正な価格設定が重視された点も実務上の参考になります。

決議方法

法的な位置づけ

実務上の評価

全会員の同意

最も争いがない

理想的・無難。可能な限りこれを目指す

3分の2の多数決

可決相当とした裁判例あり

成立しうるが、反対者への配慮・公正な精算が前提

実務対応としては、(1) 全会員同意を得るための丁寧な説明と根回し、(2) 買取価格を相応の水準にすること、(3) 同意しない会員が多く残る場合は手続きの正当性を再検討すること、が重要です。

出典:森井昭仁公認会計士税理士事務所(確認日 2026-06-28)

⚠️ 裁判例の事実認定は事案ごとに異なります。自社の決議方法の適法性は、必ず弁護士にご確認ください。

株式の集約方法と税金:自己株式取得か直接譲渡か

ここが株式整理スキーム設計の核心です。同じ「現金化」でも、会社が買い取る(自己株式取得)か、買い手など第三者へ直接譲渡するかで、従業員(個人株主)の税負担が大きく変わります。

パターンA:会社による自己株式取得(みなし配当に注意)

持株会を解散し、会社が持株会の保有株を自己株式として買い取る方法です。標準的な手法ですが、売り手側にみなし配当が生じる点に注意が必要です。

  • みなし配当 =(1株当たり譲渡額 − 1株当たり資本金等の額)× 株数
  • 個人株主の場合、みなし配当部分は総合課税(配当所得)として累進税率(最高約55%)が適用されうる
  • 法人株主の場合は受取配当金の益金不算入制度の対象になる

パターンB:買い手など第三者へ直接譲渡(株式譲渡益課税)

個人株主が、会社ではなく買い手企業へ直接株式を譲渡する方法です。この場合はみなし配当が発生せず、株式譲渡益課税(分離課税20.315%)が適用されます。

税負担の比較イメージ

下表は、税率の違いを示すための簡易イメージです。実際の税額は資本金等の額や取得価額によって変わります。

集約方法

課税の種類

税率の目安

会社による自己株式取得

みなし配当(総合課税・配当所得)

最高約55%(累進)

買い手など第三者への直接譲渡

株式譲渡益課税(分離課税)

20.315%(一律)

このように、集約方法によって税率に大きな差が生じうるため、どの手法を選ぶかは税理士を交えて事前にシミュレーションすることが欠かせません。

出典:みつきコンサルティング(スクイーズアウト)M&Aサクシードトランビfundbook(みなし配当)(確認日 2026-06-28)

⚠️ みなし配当の発生有無や有利な手法の選択は、個別事情で大きく変わります。必ず税理士にご相談のうえで意思決定してください。 税率は2026年6月時点のものであり、税制改正の可能性があります。

関連記事:株式譲渡と事業譲渡の税務・手続きの違いは「株式譲渡 vs 事業譲渡 どっちがいい」、事業承継全般の税金は「事業承継 税金・節税」で解説しています。

同意しない少数株主が残る場合:スクイーズアウト

持株会を解散しても、同意しない個人株主や退会者が少数株主として残るケースがあります。この場合、会社法上のスクイーズアウト(少数株主の排除)で株式を100%に集約します。

手法

必要議決権

株主総会

特徴

株式併合

3分の2以上

特別決議が必要

最も多用。複数株を1株に統合し、端数化で少数株主を整理

特別支配株主の株式等売渡請求

90%以上

不要(取締役会承認のみ)

迅速。90%超を保有しているときに有効

株式併合の手続きフロー

  1. 取締役会で総会招集を決議
  2. 事前開示書類の備置(総会の2週間前〜効力発生後6か月)
  3. 株主総会で特別決議(3分の2以上の賛成)
  4. 株主への個別通知(効力発生日の20日前まで)
  5. 効力発生・端数の買取
  6. 事後開示書類の備置(6か月)

期間の目安は最短でも2〜3か月です。連絡が取れない株主がいると整理にさらに時間を要するため、組合員名簿の整備と早めの着手が重要です。

出典:みつきコンサルティング(スクイーズアウト)M&A総合研究所(確認日 2026-06-28)

⚠️ スクイーズアウトの議決権要件・手続きは現行の会社法にもとづくものです。手続きの設計は弁護士にご相談ください。

従業員の不信感・人材流出を防ぐための配慮

株式整理は、手続きの適法性だけでなく従業員の納得感が成否を左右します。配慮を欠くと、買い手が評価していた人材の流出を招き、M&Aそのものの価値を損ないかねません。

  • 価格設定への配慮:非上場の持株会は額面など低い価額で株を取得しているケースが多く、M&Aで株価が数十〜数百倍に跳ね上がることがあります。持株会の解散からM&Aまでの期間が短いほど、従業員が「不当に安く回収された」と感じやすく、不信感やモチベーション低下につながります。功労金・特別退職金の上乗せなどの配慮が有効です。
  • 既得権の尊重:前述のとおり、解散決議は全員同意が無難です。
  • 情報管理:M&A情報の漏洩リスクに注意し、持株会解散の理由説明やインサイダー的観点に配慮します。説明のタイミングと範囲を専門家と設計しましょう。

出典:みつきコンサルティング日経BizGate森井昭仁公認会計士税理士事務所(確認日 2026-06-28)

売り手オーナー向け:株式整理チェックリスト

M&A前の持株会整理で、オーナーが確認・準備すべき項目を整理しました。

  • 持株会規約を確認した(買取価格の算定方法・退会条件・解散規定)
  • 組合員名簿を整備し、連絡不明者の有無を確認した
  • 持株会・少数株主の保有比率を把握した
  • 解散決議の方法(全員同意/3分の2)を弁護士と確認した
  • 株式の集約方法(自己株式取得 or 直接譲渡)を税理士とシミュレーションした
  • みなし配当の発生有無と税負担を試算した
  • スクイーズアウトの要否(同意しない株主の有無)を確認した
  • 従業員への買取価格・功労金の方針を決めた
  • 従業員への説明のタイミング・範囲を設計した
  • 整理にかかる期間をM&Aスケジュールに織り込んだ

このチェックリストは出発点です。具体的な進め方は、M&A仲介・税理士・弁護士と連携して詰めてください。

こんな企業は早めに専門家へ相談すべき

早めの株式整理が特に重要な企業

  • 持株会が比較的大きな比率の株式を保有している
  • 組合員数が多く、全員同意のハードルが高い
  • 退会者・連絡不明の少数株主がいる
  • M&Aのスケジュールがすでに具体化している
  • 株価が取得時から大きく上昇している(みなし配当の負担が大きくなりやすい)

自社単独での処理が難しいケース

  • 解散決議に反対する組合員がいる
  • 規約に買取価格や解散の規定が明確にない
  • スクイーズアウトが必要だが手続きの経験がない
  • 従業員への説明・価格設定で社内に不満が生じている

いずれも、法務・税務・M&A実務が複雑に絡む領域です。手続きの順序や税負担の最適化を誤ると取り返しがつかないため、早い段階でM&A仲介会社・税理士・弁護士に相談することをおすすめします。

関連記事:M&Aの相談先の選び方は「M&A仲介会社の選び方・おすすめ比較」、M&Aの全体像は「M&Aとは」をご覧ください。

よくある質問(FAQ)

Q. 従業員持株会は必ず解散しなければならないのですか?

買い手が株式100%取得を希望する場合は、解散と株式の集約が事実上の前提になります。買い手によっては一部残存を許容するケースもありますが、完全子会社化を望む買い手が多いため、解散・整理を前提に準備しておくのが安全です。

Q. 解散のとき、従業員に支払う買取価格はいくらにすべきですか?

規約で算定方法が定められている場合はそれが基準になりますが、M&A時価との乖離が大きいと従業員の不信感を招きます。裁判例でも公正な価格設定が重視されており、功労金や特別退職金の上乗せを検討するケースもあります。具体的な水準は専門家と相談して決めてください。

Q. 自己株式取得と直接譲渡、どちらが税金面で有利ですか?

一般に、株式譲渡益課税(20.315%)が適用される直接譲渡のほうが税率は低く、自己株式取得ではみなし配当(最高約55%)が生じうるため不利になりやすい傾向があります。ただし資本金等の額や取得価額によって結果は変わるため、必ず税理士に試算を依頼してください。

Q. 株式整理にはどのくらい期間がかかりますか?

スクイーズアウトを伴う場合、株式併合の手続きだけでも最短2〜3か月が目安です。連絡不明株主がいるとさらに長くなります。M&Aのスケジュールから逆算し、早めに着手してください。

Q. 持株会の解散を従業員に説明するタイミングは?

M&A情報の漏洩リスクや従業員の動揺を考慮し、説明のタイミング・範囲は専門家と慎重に設計する必要があります。インサイダー的な観点にも配慮しましょう。

まとめ

M&A(株式譲渡)で会社を売却する際は、買い手が望む株式100%取得のために、従業員持株会の解散と株式の集約が必要になることがほとんどです。要点を整理します。

  • 解散決議は3分の2の多数決を認めた裁判例があるが、全員同意が無難
  • 株式の集約方法で税負担が大きく変わる(自己株式取得=みなし配当最高約55% / 直接譲渡=20.315%)
  • 同意しない少数株主が残る場合はスクイーズアウト(株式併合3分の2 or 売渡請求90%)
  • 従業員の不信感・人材流出を防ぐ価格設定と説明が成否を左右する
  • 手続きには時間がかかるため早めの着手が安全

法務・税務・M&A実務が複雑に絡むため、自社の規約確認を出発点に、弁護士・税理士・M&A専門家と連携して進めることを強くおすすめします。

次に読む:M&A 売却の流れM&A仲介会社の選び方・おすすめ比較M&Aとは

参考・出典

※本記事は2026年6月時点の公開情報・現行法令にもとづく一般的な解説です。税率・会社法の要件は改正される可能性があり、持株会の規約は会社ごとに異なります。実際の手続き・税務判断は必ず弁護士・税理士・M&A専門家にご相談ください。

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