複数の関連会社・グループをまとめて売却する方法|3つの方法と手数料の注意点
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複数の関連会社・グループをまとめて売却する方法|3つの方法と手数料の注意点

2社以上を保有するオーナー向けに、グループをまとめて売る3つの方法(同時株式譲渡/持株会社化/会社分割)を比較。一括売却と個別売却の損得、複数社案件の仲介手数料の計算方法、売却前に整理すべきグループ特有の10項目を解説します。

M&A比較レビュー編集部2026/8/911分で読める

オーナーが保有する複数の会社をまとめて売ることは可能です。ただし方法は1つではなく、実務上は「①各社の株式を同時に譲渡する」「②持株会社(HD)に集約してからHD株を売る」「③会社分割・事業譲渡で対象を組み替えてから売る」の3つに整理できます。

どれを選ぶかで、売却までの期間・手取り額・仲介手数料・買い手の見つけやすさがすべて変わります。とくに見落とされやすいのが、複数社を売るときに仲介手数料が「合算1案件」で計算されるか「社数分」で計算されるかという論点です。同じ譲渡総額でも、契約の設計次第で報酬額が数千万円単位で変わり得ます。

この記事でわかること

  • 複数の会社をまとめて売る3つの方法と、それぞれの向き・不向き
  • 一括で売るのと1社ずつ売るのは、価格・期間・手数料・税金の4点でどう違うか
  • 持株会社に集約する段階では、原則として個人株主に譲渡所得課税が生じない理由(根拠条文つき)
  • 組織再編でよくある3つの落とし穴(繰延と免除の違い/5年ルール/否認リスク)
  • 複数社案件で仲介契約を結ぶ前に、必ず書面で確認すべき5つの質問
  • 売却前に整理しておくべきグループ特有の10項目(貸付金・相互保証・共通経費など)

こんな方に向けた記事です

  • 兄弟会社・関連会社を2社以上保有し、まとめて手放したいと考えているオーナー社長
  • 事業ごとに会社を分けて運営してきたが、出口をどう設計すべきか整理できていない方
  • 「不動産を持っている会社だけ手元に残したい」「1社は残して他を売りたい」という希望がある方
  • すでに仲介会社に相談を始めたが、手数料の見積もりの妥当性が判断できない方

ご注意:本記事は2026年8月時点で確認できる公的情報に基づく一般的な整理です。組織再編税制は適格要件を1つ欠くだけで多額の課税が生じる設計になっており、適用の可否は資本構成・時間軸・事業実態によって大きく変わります。実行前に必ず、M&A実績のある税理士・弁護士にご相談ください。

複数の会社をまとめて売る3つの方法【比較表】

オーナーが保有する複数の関連会社と、まとめて売却する3つの方法の全体像を示した図解

まず全体像です。「グループをまとめて売る」と一言でいっても、資本関係をそのままにして同時に売るのか、事前に組み替えてから売るのかで、必要な期間も税務リスクもまったく異なります。

比較項目

①各社株式を同時譲渡

②持株会社化してからHD株を売却

③会社分割・事業譲渡で組み替えてから売却

やること

オーナーが保有する各社株式を、同一の買い手へ同時に譲渡

株式移転・株式交換で各社をHD傘下に集約し、HD株式を譲渡

売る事業と残す資産を分けたうえで、対象会社の株式等を譲渡

事前再編

不要

必要(数か月)

必要(数か月〜)

売主

オーナー個人

オーナー個人(HD株主)

設計により個人または法人

手続きの重さ

軽い

中〜重(株主総会・登記)

重い(債権者保護手続き・登記・許認可)

主な税務論点

各社ごとの譲渡所得計算

適格要件の判定/簿価の引継ぎ

適格要件/流通税/グループ内譲渡損益の繰延

買い手から見た分かりやすさ

社数が多いと煩雑

1社の株式を買うだけで完結し分かりやすい

対象が絞られ検討しやすい

向いているケース

2〜3社で資本関係が単純/時間をかけたくない

社数が多い/株主が分散/実質一体運営

買い手が一部だけ希望/不動産等を手元に残したい

判断の起点はシンプルです。社数が少なく、株主がオーナー1人(または一族のみ)で、全社を同じ買い手に売ってよいなら①で足ります。社数が4社を超える、株主構成が会社ごとにバラバラ、あるいは実態として一体運営しているなら②を検討します。売りたくない資産・会社が混ざっているなら③が必要になります。

関連記事:スキーム全体の考え方は「M&Aスキームとは|種類・選び方」、すでにHD体制がある場合は「持株会社(ホールディングス)体制の会社売却ガイド」、1社ずつ売る場合の手続きは「子会社・事業部門の売却方法 完全ガイド」で整理しています。

方法①:各社の株式を同時に譲渡する

もっとも手数が少ないのがこの方法です。オーナーが保有するA社株式・B社株式・C社株式を、同一の買い手に対して同じ日にまとめて譲渡します。事前の組織再編を挟まないため、条件がそろえば最短で進みます。

仕組みと契約の形

契約書(株式譲渡契約書=SPA)は、次のいずれかの形になります。

  • 1本のSPAで全社を対象にする — 譲渡対象株式の一覧として各社の株式を列挙する形。管理が一元化される
  • 会社ごとにSPAを分ける — 会社ごとに実行時期や条件を変えられるが、書類量が増える

中小企業庁は株式譲渡契約書のサンプルを公開しており、記載すべき基本項目(譲渡対象・価額・実行日・表明保証・補償など)を確認できます(出典:中小企業庁「株式譲渡契約書サンプル」(PDF)、確認日:2026年8月10日)。

この方法のメリット

注意点

社数が増えるほど、買い手側の負担が跳ね上がります。デューデリジェンス(買収監査)は原則として会社単位で実施されるため、5社あれば5社分の資料開示・Q&A対応が発生します。売り手側の実務負荷も社数に比例して増えると考えておくべきです。

また、会社ごとに株主構成が違う場合(A社は100%オーナー保有、B社は親族が30%保有など)、少数株主全員から株式を集めるか、譲渡に同意してもらう必要があります。ここが進まないと全体が止まります。株式の買取価格の算定や手続きは法務・税務の両面が絡むため、着手前に弁護士・税理士に確認してください。

関連記事:株式譲渡の基本手続きは「株式譲渡とは|わかりやすく解説」、少数株主の整理は「M&A前の少数株主整理・株式集約 完全ガイド」、DDへの備えは「DD(デューデリジェンス)売り手の準備チェックリスト」をご覧ください。

方法②:持株会社にまとめてから売る

株式移転により複数の兄弟会社を新設持株会社の完全子会社に集約する流れの図解

社数が多い場合や、株主が分散している場合に有効なのがこの方法です。株式移転・株式交換によって既存の各社を1つの持株会社(HD)の完全子会社にし、そのうえでHDの株式を売却します。買い手は「HD株式を100%取得する」だけでグループ全体を取得でき、取引が単純になります。

株式移転と株式交換の違い

手法

内容

使いどころ

株式移転

既存の会社が新たに親会社を設立し、その親会社に発行済株式の全部を取得させる。複数社が共同で行う「共同株式移転」により、兄弟会社を新設HDの100%子会社にできる

対等な兄弟会社を並列で束ねたいとき

株式交換

既存の会社を完全親会社として、他社を完全子会社化する

グループ内に中核会社があり、そこを親にしたいとき

(根拠:会社法772条以下/出典:国税庁 No.1527国税庁 No.1526、確認日:2026年8月10日)

集約の段階では、オーナー個人に課税されないのが原則

「持株会社を作った時点で税金がかかる」という誤解が根強くありますが、株式のみを対価とする限り、集約段階でオーナー個人に譲渡所得課税は生じないのが原則です。

国税庁は株式移転について、次のとおり整理しています。

株式移転完全親法人の株式以外の資産(…反対株主の買取請求に基づく対価として交付される金銭その他の資産を除きます。)が交付されなかったもの
国税庁 タックスアンサー No.1527「株式移転により株式を譲渡した場合の譲渡所得等の特例」(確認日:2026年8月10日)

この条件(いわゆる金銭等不交付要件)を満たす場合、旧株の譲渡はなかったものとみなされ、新たに取得するHD株式の取得価額には旧株の取得価額が引き継がれます(根拠条文:所得税法57条の4第2項)。株式の端数調整として金銭が交付された場合は、その金銭部分のみが課税対象になります。株式交換についても同様の特例が用意されています(国税庁 No.1526)。

つまり「課税されない」のではなく「課税が先送りされ、最終的にHD株式を外部に売ったときに一度で精算される」という構造です。取得価額が引き継がれるため、HD化しても譲渡益が減るわけではない点は理解しておく必要があります。

法人段階の適格要件は別途判定が必要

個人株主が課税されないことと、法人段階で適格株式移転になるかは別の話です。適格と判定されなければ、時価評価による課税が生じ得ます。要件は支配関係の程度で異なります。

区分

主な要件

完全支配関係がある場合

対価がHD株式のみ(端数買取代金等の例外あり)/完全支配関係の継続

支配関係内(50%超100%未満)

上記に加えて、従業者の概ね80%以上の継続従事/事業の継続

支配関係なし(共同事業)

上記に加えて、20%以上保有株主のHD株式継続保有/子会社同士の事業関連性/規模が概ね5倍以内、または特定役員の1名以上残存

(出典:M&Aキャピタルパートナーズ「適格株式移転とは」日本M&Aセンター「組織再編税制とは」国税庁「3 組織再編成」、確認日:2026年8月10日)

オーナー一族が全社を100%保有しているケースは中小企業に多く、その場合は「完全支配関係」の区分で判定されることが一般的です。ただし、名義株が残っている、従業員持株会がある、親族の一部が少数株式を持っているといった事情があると判定区分が変わります。株主名簿の実態確認は再編検討の最初にやるべき作業です。

関連記事:従業員持株会がある場合の整理は「M&A 従業員持株会の解散・株式整理ガイド」で解説しています。

見落としやすい3つの落とし穴

1. グループ法人税制の「繰延」は免除ではない

100%グループ内の法人間で譲渡損益調整資産(固定資産・土地・有価証券・金銭債権・繰延資産のうち、譲渡直前の税務上の帳簿価額が1,000万円以上のもの。売買目的有価証券等は除く)を譲渡した場合、譲渡損益は譲渡法人で繰り延べられます。ただし、譲受法人側で譲渡・償却・除却などの事由が生じた時点で実現します(出典:EY Japan「グループ法人税制に関する税効果会計」、確認日:2026年8月10日)。

グループ内で不動産や子会社株式を動かす再編は、その瞬間だけ見れば税負担ゼロに見えます。しかしその後に外部へ売却すると、繰り延べていた損益が実現します。「再編時は無税だった」という記憶のまま資金計画を立てると、売却年度に想定外の納税が発生します。

2. 売却前に合併するなら「5年ルール」を確認する

「身軽にしてから売ろう」と考えて、売却前にグループ内の数社を合併するケースがあります。ここで問題になるのが繰越欠損金です。

  • 適格合併でなければ繰越欠損金は引き継げない
  • 50%超の支配関係が生じてから5年以内の適格合併には、繰越欠損金の引継ぎに制限がかかる(みなし共同事業要件を満たす場合の例外あり)
  • 対価が株式のみであることが前提で、現金や不動産を対価に交付すると非適格になる

(出典:M&Aキャピタルパートナーズ「適格合併とは」fundbook「適格合併とは」CINC Capital、確認日:2026年8月10日)

直近に買収した会社や、最近設立した会社が混ざっている場合はとくに注意が必要です。時間軸の制約があるため、「売却の直前に思いついて実行する」設計とは相性が悪い論点です。

3. 節税目的だけのHD化は否認リスクがある

経済合理性が乏しく、税負担の減少のみを目的とした組織再編は、同族会社の行為計算の否認の対象となり得ます。グループ統括機能の集約、意思決定の一元化、承継の受け皿づくりなど、税務以外の事業上の目的を説明できる形で設計することが実務上の前提です。

※上記はいずれも制度の概要です。適格判定・繰越欠損金の可否・否認リスクの評価は個別事情で結論が変わるため、税務の詳細は必ず税理士にご相談ください。

方法③:会社分割・事業譲渡で組み替えてから売る

会社分割で事業を切り出し、残す資産と売却する会社を分けてから譲渡する流れの図解

「全部は売りたくない」「買い手が一部だけ欲しいと言っている」という場合は、売る範囲を先に作り替えます。会社分割で事業を切り出し、その受け皿会社の株式を譲渡する「先分割・後譲渡」は、中小M&Aの実務で広く使われています。

よくある2つのパターン

パターンA:売却対象を切り出す
不採算部門や過大な借入を抱えた会社をそのまま売ろうとすると、買い手は慎重になります。買い手が評価している事業だけを新設会社に移し、その株式を売る形にすれば、買い手が付きやすくなる傾向があります(出典:M&A総合研究所「子会社売却の流れ」、確認日:2026年8月10日)。

パターンB:残したい資産を抜く
本社不動産、賃貸物件、社長個人の趣味的資産などを、売却対象から外してから譲渡します。オーナーが不動産保有会社や資産管理会社を別に持っている場合、これを譲渡対象に含めるか外すかは早い段階で決めておくべき論点です。

なお、不動産を保有する会社そのものを売る「不動産M&A」という選択肢もあります。清算すると残余財産の分配に伴う課税(みなし配当など)が生じ得るため、清算ありきで考えず、株式売却という出口も並べて比較するのが実務的です(出典:三菱UFJ銀行「不動産M&Aとは」みつきコンサルティング「不動産M&Aとは」、確認日:2026年8月10日)。

会社分割で不動産が動くときの流通税

会社分割で不動産の所有権が移る場合、次の2つの税を確認します。

税目

概要

不動産取得税

一定の要件(分割対価が分割承継法人の株式のみである等)を満たせば非課税となり得る

登録免許税

会社分割による所有権移転登記には課される。かつての軽減措置は終了しており、原則として不動産の評価額に対する所定の税率で計算する

(出典:M&Aキャピタルパートナーズ「会社分割の不動産取得税」M&A総合研究所「会社分割の不動産取得税」、確認日:2026年8月10日)

税率や非課税要件は地方税法・租税特別措置法の改正で変動します。具体的な金額は必ず所轄自治体および税理士に確認してください。不動産の評価額が大きいほど流通税の絶対額も大きくなるため、「再編コストが売却で得られるメリットを上回らないか」を事前に試算する必要があります。

関連記事:スキームの詳細は「会社分割とは」「株式譲渡 vs 事業譲渡|どっちがいい?」、不要資産の切り離しは「M&A前の遊休不動産・社用資産の切り離し」で解説しています。

一括で売るのと1社ずつ売るのは、どちらが得か

結論から言えば、「グループとして一体で機能している会社群」は一括、「事業内容も顧客も別々の会社群」は個別に検討する価値があります。判断材料を4つの観点で整理します。

観点

一括売却

個別売却

価格の付き方

グループ全体のシナジー・売上規模で評価されやすい。一方、赤字会社が混ざると全体の評価を押し下げる

事業ごとに最も高く評価する買い手を探せる。ただし単体では規模が小さく評価が伸びにくい

所要期間

交渉相手が1社で完結し、全体では短くなりやすい

案件ごとに買い手探索・DD・交渉が発生し、通算では長期化しやすい

手数料

合算1案件として扱われれば料率区分が下がる可能性がある

案件ごとに最低報酬が発生し、総額が膨らむ可能性がある

買い手の見つけやすさ

一度に複数事業を取得できる規模の買い手に限られる

事業単位なら買い手候補の裾野が広がる

一括のほうが向いているケース

  • 各社が同じ顧客基盤・仕入先・従業員を共有しており、切り離すと事業が成立しない
  • 経理・人事などの管理部門を1社に集約しており、他社は単独で運営できない
  • オーナーが全社から一斉に退く前提で、承継後の関与を残したくない

個別のほうが検討に値するケース

  • 事業内容がまったく異なり、それぞれ別の業界の買い手が想定される
  • 1社だけ突出して収益性が高く、他社と束ねると評価が薄まる
  • 赤字会社や係争を抱えた会社があり、それを含めると全体の交渉が難航する

注意:一括売却でどの程度の価格プレミアム(またはディスカウント)が生じるかについて、信頼できる公的な統計データは確認できていません。「まとめると必ず高い/安い」と断定する情報には根拠を確認してください。実際の価格は、買い手が各社をどう評価するかで決まります。

関連記事:価格の考え方は「会社売却はいくらで売れる?相場・算定方法」、手取りの計算は「売却手取り額シミュレーション・計算ガイド」、税金の全体像は「会社売却の税金・節税 完全ガイド」をご覧ください。

複数社案件の仲介手数料はどう計算されるか

レーマン方式の逓減料率と、報酬基準額を合算する場合と社数分に分ける場合の違いを示した比較図

ここが複数社売却でもっとも見落とされる論点です。同じ譲渡総額でも、報酬の計算方法によって支払額が大きく変わります。契約前に必ず書面で確認してください。

変数は「報酬基準額の定義」と「最低報酬の数え方」の2つ

M&A仲介の成功報酬は、レーマン方式(譲渡金額の階層ごとに逓減する料率を掛けて合算する方式)で計算されるのが一般的です。ここで料率を掛ける対象を「報酬基準額」と呼びますが、その定義は会社によって異なります。

報酬基準額の定義

内容

株式価額基準

株式の譲渡対価のみを基準にする。基準額が最も小さくなりやすい

企業価値基準

株式価額に有利子負債を加えた額を基準にする

移動総資産基準

株式価額に負債総額を加えた額を基準にする。基準額が最も大きくなりやすい

(出典:M&Aキャピタルパートナーズ「M&A手数料の相場と種類」トランビ「レーマン方式とは」、確認日:2026年8月10日)

複数社を売る場合、これにもう2つの変数が加わります。

  1. 報酬基準額を全社合算で見るか、1社ごとに見るか — レーマン方式は基準額が大きいほど上位階層の低い料率が適用されるため、合算のほうが総額が下がる方向に働きます。逆に1社ごとに計算すると、全社が最も高い料率区分で計算されることになります
  2. 最低報酬(ミニマムフィー)が1案件分か社数分か — 最低報酬が1案件ごとに設定されている契約で、各社を別案件として扱われると、最低報酬が社数分発生する可能性があります

なお、各社が複数社案件でどちらの計算方法を採るかは、公式サイト等では明示されていないのが実情です。「一般的にこうなる」と決めつけず、自分の案件について書面で確認するのが唯一確実な方法です。

契約前に、この5つを書面で確認する

中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」は2024年8月30日に第3版へ改訂され、2025年1月1日から適用されています。この改訂により、仲介契約・FA契約の締結前に書面で説明すべき事項が明示されました。レーマン方式の料率テーブル、最低手数料、手数料の算定基準、担当者の保有資格・成約実績などが対象です(出典:中小企業庁「中小M&Aガイドライン」経済産業省 プレスリリース(2024年8月30日)、確認日:2026年8月10日)。

つまり、以下は「聞きにくいこと」ではなく、本来説明されるべき事項です。そのまま質問文として使えます。

  1. 「当社は3社を同一の買い手に譲渡する想定です。報酬基準額は3社合算で計算されますか、それとも1社ごとに計算されますか
  2. 最低報酬は案件全体で1回分ですか、対象会社ごとに発生しますか
  3. 「報酬基準額の定義は株式価額基準・企業価値基準・移動総資産基準のいずれですか。負債は含みますか
  4. 「事前に持株会社化する場合、その再編にかかる報酬は成功報酬と別に発生しますか
  5. 「途中で1社だけ売却対象から外れた場合、報酬の計算はどう変わりますか

この5点の回答を、口頭ではなく書面で受け取ってください。回答が得られない、あるいは「案件が進んでから決めます」と言われる場合は、契約を急がず他社の見積もりと比較すべきです。

関連記事:手数料の基本は「M&A費用・手数料相場|レーマン方式の計算」、各社の比較は「M&A仲介会社 手数料比較」、相見積もりの取り方は「M&A仲介会社に複数相談するメリット」で解説しています。

売却前に整理しておくべきグループ特有の10項目

複数社を保有していると、単体の会社にはない論点がDDで必ず問われます。グループ会社間の取引条件や経費負担が曖昧になっているケースは実務で多く指摘されており、対応策として売却前に第三者間取引の基準に基づく実態損益計算書を作成しておくことが推奨されています(出典:Frontier Eyes Online「オーナー経営者の出口戦略③」、確認日:2026年8月10日)。

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確認項目

ありがちな問題

1

グループ間の貸付金・借入金

返済実態がなく、実質的に資本になっている。金利設定がない

2

相互の連帯保証・担保提供

A社の借入にB社が保証。1社だけ売ると保証関係が残る

3

共通経費の配分

本社家賃・システム費用を1社が全額負担し、他社が実力以上に黒字に見える

4

役員報酬・人件費の配分

社長が3社から報酬を受けている。実際は1社でしか稼働していない

5

グループ間取引の価格妥当性

第三者価格とかけ離れた仕切り値。売却後に利益構造が崩れる

6

株主名簿の実態

名義株、旧商法時代の発起人名義、所在不明株主が残っている

7

不動産保有会社・資産管理会社の扱い

売るのか残すのか、賃貸借契約はどうするのかが未決定

8

各社の決算期のズレ

決算期が違うとグループの実態損益が把握しにくく、DDが長引く

9

許認可の帰属

事業に必要な許認可がどの会社に紐づいているか不明確。再編で承継できない可能性

10

従業員の兼務・出向

雇用契約はA社だが実際はB社で勤務。売却後の所属が整理されていない

これらは「売ると決めてから」着手すると間に合いません。とくに1〜5は過去の決算に遡って整理する必要があり、実態損益計算書の作成には数か月かかることがあります。買い手のDDで初めて指摘されると、価格の引き下げ交渉の材料にされます。

関連記事:数字の整え方は「売却前の財務クリーニング」、保証の外し方は「会社売却の個人保証・連帯保証 解除方法」、準備全体は「会社売却 準備チェックリスト」をご覧ください。

買い手が「1社だけ欲しい」と言ってきたときの考え方

複数社を売りに出すと、高い確率でこの状況が起きます。買い手にとって、関心のない会社まで引き受けるのはリスクだからです。判断は次の順で行います。

ステップ1:残る会社が単独で存続できるかを確認する
売却対象から外れた会社が、共通の管理部門・仕入先・システムを失っても回るかを確認します。回らないなら、部分売却は選べません。

ステップ2:残る会社の出口を先に決める
1社だけ残しても、いずれ廃業か別途売却かの判断が必要になります。廃業コストや残余財産の課税を含めて、「全部まとめて売った場合の手取り」と「1社売却+残り1社の処理」の総額で比較します。

ステップ3:それでも部分売却を選ぶなら、事前に切り分ける
相互保証の解除、グループ間貸付金の精算、共通経費の付け替え、兼務者の所属整理を、クロージングまでに完了させる必要があります。

ステップ4:「全社まとめてでなければ売らない」という選択も残す
買い手が複数いる状況をつくれれば、一括での買い手が見つかる可能性は上がります。1社目の提案に合わせて設計を変える前に、他の候補にも打診する価値があります。

契約・クロージングで複数社案件だけに出てくる論点

単体の会社を売る場合には出てこない論点が、契約書の設計段階で4つ増えます。いずれも金額インパクトが大きいため、弁護士を早い段階で関与させることをおすすめします。

論点

選択肢

考え方

SPAの本数

1本にまとめる/会社ごとに分ける

実行日を揃えるなら1本が管理しやすい。会社ごとに条件が違うなら分割

クロスコンディション

入れる/入れない

「1社でも実行条件が不成就なら全体不成立」とする条項。売り手は全社売却を確実にできるが、1社の些細な問題で全体が流れるリスクもある

表明保証の付け方

会社ごとに個別/グループ一体

会社ごとに事業リスクが違うなら個別に。一体で付すと1社の問題が全体の補償対象になり得る

補償上限(キャップ)

全体で1つ/会社ごとに設定

売り手は全体で1つの上限にしたい。買い手は会社ごとに求めることがある

株式譲渡契約には取引実行の前提条件(CP)が設けられ、表明保証の真実性やクロージング前の履行事項が条件化されます。クロージングは売主・買主が同席し、書類の引渡しと代金支払いを同時に行うのが実務の基本です(出典:弁護士法人クラフトマン「M&A・株式譲渡契約のサンプルとポイント解説」山田コンサルティンググループ「クロージング」、確認日:2026年8月10日)。

上記はあくまで一般的な設計上の選択肢です。個別案件でどう設計すべきかは、必ず弁護士の判断を仰いでください。

関連記事:契約の基本は「M&A SPA(株式譲渡契約書)とは」「M&A 表明保証とは」「M&A クロージングとは」で解説しています。

こんなケースにおすすめ/おすすめしないケース

まとめて売却がおすすめのケース

  • 各社が実質一体で運営されている — 顧客・仕入先・従業員・管理部門を共有しており、切り離すと事業が成立しない
  • オーナーが全社から一斉に退きたい — 段階的な売却では、残った会社の経営を続ける必要がある
  • 社数が多く、個別に売ると通算で年単位の時間がかかる — 3社を1社ずつ売れば、探索からクロージングまでを3周することになる
  • 株主が分散しており、一度の再編で整理したい — 株式移転・株式交換で株主構成を単純化できる
  • 後継者が不在で、グループ全体の承継先を探している — 買い手にとっても引き継ぎ範囲が明確になる

まとめて売却をおすすめしないケース

  • 1社だけ突出して収益性が高い — 束ねると評価が薄まり、その会社を単独で高く買う相手を逃す可能性がある
  • 売りたくない会社・資産が混ざっている — 先に会社分割等で切り分ける工程が必要で、そのまま一括で出すべきではない
  • 直近1〜2年以内に資本関係を作った会社がある — 合併を絡める場合、繰越欠損金の引継ぎ制限(5年ルール)に抵触する可能性がある
  • 売却まで半年を切っている — 持株会社化には登記・株主総会・債権者対応が必要で、時間が足りない
  • 節税だけが再編の動機になっている — 経済合理性を説明できない再編は否認リスクを抱える

進め方と相談先

複数社案件は、税理士・弁護士・仲介会社の3者が早い段階から関与する設計が現実的です。順序としては次のように進めます。

  1. 株主名簿と資本関係の棚卸し — 誰が何株持っているか、名義株がないかを確認する。ここが不明確なままではスキームを決められない
  2. 顧問税理士に「再編を伴う可能性がある」と伝える — 組織再編税制の実務経験がない場合、M&A専門の税理士へのセカンドオピニオンを検討する
  3. 仲介会社・FAに相談し、複数社を扱った経験と報酬計算方法を確認する — 前述の5つの質問を書面で
  4. 並行してグループ特有の10項目を整理する — DDまでに実態損益が説明できる状態にする
  5. 買い手候補の反応を見てからスキームを最終決定する — 「一括で買いたい相手がいるか」で最適な進め方は変わる

無料で相談できる公的窓口として、各都道府県の事業承継・引継ぎ支援センターがあります。特定の仲介会社に寄らない立場で全体設計の相談ができるため、最初の整理には有効です。

関連記事:相談先の選び方は「M&Aの相談先一覧(税理士・銀行・仲介会社)」、公的窓口は「事業承継・引継ぎ支援センターとは」、仲介会社の選定は「M&A仲介会社の選び方」で解説しています。

よくある質問

Q. 3社を売りますが、譲渡価額は会社ごとに分けて決めるのですか。
A. 実務では、総額を先に合意したうえで会社ごとに配分するケースと、会社ごとに算定して積み上げるケースの両方があります。配分の仕方によって各社の譲渡損益が変わるため、税務上の影響を税理士に確認してから合意してください。買い手側も、のれんの計上額や将来の減損リスクに関わるため配分に関心を持ちます。

Q. 赤字会社が1社あります。売却対象から外すべきですか。
A. 一概には言えません。赤字会社が他社の受注や人材供給を支えている場合、外すと残るグループの価値も下がります。逆に、事業の関連性が薄く単独で赤字なら、外して別途整理したほうが交渉が進みやすいことがあります。「赤字だから外す」ではなく「他社との依存関係があるか」で判断してください。

Q. 持株会社を作ってから売ると、税金は安くなりますか。
A. HD化そのものが税額を下げるわけではありません。株式移転で取得したHD株式には旧株の取得価額が引き継がれるため、最終的な譲渡益は原則として変わらないと考えるべきです。HD化のメリットは、取引を単純化して買い手を探しやすくすること、株主構成を整理できることにあります。節税を主目的とした再編は否認リスクを伴います。

Q. 会社ごとに顧問税理士が違います。そのままで進められますか。
A. 進められますが、グループ全体の実態損益を1つの基準で説明する必要があるため、取りまとめ役を1人決めることをおすすめします。会社ごとに会計処理の方針が異なると、DDで整合性を問われます。

Q. 従業員には、どの段階で伝えればよいですか。
A. 一般的にはクロージング後、または基本合意後の限定的な範囲での開示が実務の基本です。複数社の場合、1社の従業員に伝わると他社にも伝播しやすいため、単体案件より情報管理の設計を厳格にする必要があります。詳しくは「会社売却 従業員への説明タイミング」をご覧ください。

Q. 売却後に「別の1社も買いたい」と言われたら応じられますか。
A. 可能ですが、最初の契約に競業避止義務やロックアップ条項が含まれていると制約を受ける場合があります。部分売却を選ぶ時点で、将来の追加売却の可能性を契約に織り込んでおくことを検討してください。

まとめ

複数の関連会社をまとめて売る方法は、①各社株式の同時譲渡、②持株会社化してからHD株を売却、③会社分割等で組み替えてから売却、の3つです。社数が少なく資本関係が単純なら①、社数が多い・株主が分散しているなら②、売りたくない資産が混ざっているなら③が起点になります。

判断で押さえるべき点は3つです。

  • 組織再編の税務は時間軸が効く。5年ルールや繰延損益の実現時期があり、売却直前に思いついて実行できる設計ではない
  • 手数料は契約前に確認できる。報酬基準額が合算か社数分か、最低報酬が何件分かは、中小M&Aガイドライン第3版により書面で説明されるべき事項に含まれる
  • グループ特有の10項目は、売ると決める前から整理を始める。貸付金・相互保証・共通経費の曖昧さは、DDで価格交渉の材料になる

組織再編税制は要件を1つ欠くだけで課税関係が大きく変わります。実際の設計と実行は、必ずM&A実績のある税理士・弁護士にご相談ください。

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