名義株は、株主名簿に名前が載っている人ではなく、実際に出資(払込み)をした人が株主と扱われるのが判例・通説(実質説)の考え方です。M&Aで会社を売る前にやるべきことは、名義株主との間で「確認書」を交わし、株主名簿を実質株主に書き換えて、誰が株主かを確定させておくことです。
ただし、実態の裏付けがないまま名義だけを動かすと、税務署から「名義株主から実質株主への贈与」と見られて贈与税が問題になることがあります。だからこそ、名義株の整理は「名義書換だけ」で終わらせず、証拠資料の収集とセットで進める必要があります。
中小企業庁『中小M&Aガイドライン(第3版)』(令和6年8月)も、売り手が自ら確認すべき事項として名義株の有無を挙げ、さらに「事前に名義株主と実質的な株主の間で株主たる地位等について確認する合意を締結しておく」ことを対応策として示しています(出典: 同ガイドライン p.37・p.127、確認日: 2026-09-01)。名義株の整理は、国が公式に売却準備のタスクとして位置づけている論点です。
この記事でわかること
- 名義株の法的な扱い(会社法・判例と税務の考え方が一致している理由)
- 名義株を放置したままM&Aを進めた場合に、デューデリジェンス(DD)や契約でどう跳ね返るか
- 名義株主が「協力する/協力しない/所在不明・死亡」の3ケース別の整理手順と期間の目安
- 確認書に盛り込むべき項目のチェックリスト
- 無償で名義を戻すときの贈与認定リスクと、有償買取に切り替える判断基準
- 売却時期から逆算した着手タイミングと、事前に突き合わせるべき資料一覧
この記事の対象読者
会社の売却(株式譲渡)を検討している中小企業のオーナー経営者。特に「1990年(平成2年)より前に設立した」「親族や知人、当時の従業員の名前が株主名簿に載っている」「株主名簿を何年も更新していない」といった会社の方に向けた内容です。
本記事は一般的な情報の整理であり、個別案件の判断ではありません。名義株の認定・税務の取扱いは個別事情に強く左右されます。実際の対応は弁護士・税理士・司法書士など専門家にご相談ください。
名義株とは|名簿上の名義人ではなく「出資した人」が株主
名義株とは、株主名簿に記載されている名義上の株主と、実際に出資(払込み)をした実質的な所有者が一致していない株式のことです。 名義を貸しただけの人(名義株主)は、原則として株主としての権利を持ちません。
この点は、会社法(判例)でも税法(通達)でも同じ結論になります。
判例・通説の立場(実質説)
最高裁昭和42年11月17日判決は、他人の名義を用いて株式を引き受けた場合、株主となるのは名義を貸した人ではなく、実質上の引受人(名義を借りて出資した人)であると判示しました。これが実質説と呼ばれる考え方で、現在の判例・通説の立場です(出典: 立命館法学 中村康江「他人名義による設立時発行株式の引受けをめぐる諸問題」、確認日: 2026-09-01)。
税務上の取扱い
国税庁の法令解釈通達も同じ方向です。
措置法令第23条の2第1項第5号に規定する「株主等」とは、株主名簿又は社員名簿に記載されている株主等をいうのであるが、株主名簿又は社員名簿に記載されている株主等が単なる名義人であって、当該名義人以外の者が実際の権利者である場合には、その実際の権利者をいうことに留意する。
— 国税庁 法令解釈通達 35の2−6「名義株についての株主等の判定」(確認日: 2026-09-01)
つまり、「名簿に書いてある人=株主」ではなく「実際に出した人=株主」で判定するという点で、会社法側も税務側も一貫しています。
ただし注意が必要なのは、これは「名義株だと立証できれば」の話だということです。名義株主が過去に配当を受け取っていた、株主総会で議決権を行使していた——といった実態があると、名義株主のほうが真の株主だと判断される余地が出てきます。名義株の整理は、法律論だけでなく「証拠が揃うか」の勝負でもあります。
なぜ中小企業に名義株が多いのか
最大の原因は、1990年(平成2年)の商法改正前の「発起人7名以上」という設立要件です。 中小企業庁も公式ガイドラインでこの経緯を明記しています。
平成2年(1990年)の商法改正前は、株式会社設立に当たり、7人以上の発起人が必要であり、かつ各発起人が1株以上の株式を引き受ける必要があったため、他人の承諾を得て、他人名義を用いて株式の引受け・取得がなされるケースが多く存在した(いわゆる名義株)。
— 中小企業庁『中小M&Aガイドライン(第3版)』p.127(令和6年8月、確認日: 2026-09-01)
実務上は、これ以外にも次のような経緯で名義株が生まれています。
- 相続税・贈与税の負担を抑える目的で、子や配偶者の名義にした
- 破産歴・処分歴などの事情から、本人名義を避けた
- 従業員や取引先に「名前だけ」貸してもらった
- 名義株主が亡くなり、整理されないまま相続人へ形式上引き継がれた
設立から30年以上経っている同族会社は、まず名義株を疑ってよいというのが実務の感覚です。特に、創業時の株主に「なぜこの人が株主なのか説明できない名前」が混ざっている場合は、ほぼ確実に確認が必要です。
名義株以外にも株式が分散しているなら、M&A前の少数株主整理・株式集約 完全ガイド で全体像を確認してください。
名義株を放置したままM&Aを進めるとどうなるか

結論として、名義株を放置したまま売却を進めると「売主が確定できない」という一点で交渉が止まります。 買い手が最も嫌うのは、クロージング後に第三者から「私が株主だ」と主張されることだからです。
具体的には、次のような形で表面化します。
1. 株式譲渡契約を組めない
全株式を譲渡する取引では、原則として株主全員から株式を取得する必要があります。中小M&Aガイドライン p.37 も、全株式譲渡の場合は基本的に譲り渡し側経営者が全株式を保有しておく必要があるとしています(確認日: 2026-09-01)。誰が株主か確定しないと、そもそも契約書の当事者が決まりません。
2. 法務DDで必ず論点になる
株主名簿・登記の添付書面である株主リスト・法人税申告書 別表二——これらの間に食い違いがあれば、法務DDで即座に指摘されます。買い手側の弁護士にとって、株主の特定は最初に潰す確認事項です。
3. 表明保証違反・補償のリスク
株式譲渡契約(SPA)では、「発行済株式のすべてを適法かつ有効に保有していること」といった表明保証を売り手に求めるのが一般的です。事実と異なる表明保証をしてしまえば、クロージング後に損害賠償・補償の対象になり得ます。中小M&Aガイドライン第3版 p.123 も、経営者が表明保証の内容を十分理解しないまま事実に反する表明をしてしまうリスクに言及しています(確認日: 2026-09-01)。
4. 価格減額・クロージング条件化・エスクロー
「名義株の整理完了」を実行の前提条件(クロージング条件)に設定される、あるいは対価の一部を留保(エスクロー)される、といった着地になることがあります。いずれもスケジュールが延び、売り手の手取りにも影響します。
5. 株主総会決議の有効性が争われる
議決権の集計が誤っていれば、特別決議や組織再編の効力が後から争われる余地が残ります。
6. 相続税・贈与税の追徴
名義株は、実質株主の相続財産として課税対象になり得ます。名義預金と並んで税務調査で頻出の論点であり、M&Aとは別軸のリスクとして残り続けます。
表明保証の具体的な条項は M&Aの表明保証とは、契約全体の構造は M&A SPA(株式譲渡契約書)とは で解説しています。
誰が本当の株主か|実質株主を判断する5つのポイント
実質株主かどうかは、単一の書類ではなく複数の事実を総合して判断されます。 判例・実務で挙げられている主な考慮要素は次の5つです。
判断ポイント | 具体的に確認するもの | 名義株と認められやすい状態 |
|---|---|---|
① 払込金の出捐者 | 設立時・増資時の通帳、振込記録、経理資料 | オーナー(実質株主)の資金から払い込まれている |
② 名義人と実質株主の関係 | 親族関係、雇用関係、取引関係 | 名義を貸す合理的な関係がある(親族・従業員・知人) |
③ 名義借りの理由・経緯 | 設立時の定款、当時の議事録、関係者の記憶 | 発起人7名要件を満たすためなど、経緯を説明できる |
④ 配当金の受領者 | 配当の支払記録、源泉徴収の記録 | 名義人は配当を一度も受け取っていない |
⑤ 議決権の行使者 | 株主総会議事録、委任状 | 名義人は総会に出席・行使したことがない |
このうち実務で決定打になりやすいのは①の払込原資と、④の配当受領実績です。逆に、名義人が配当を受け取り、総会にも出席してきた実績があると、名義株と主張するのは難しくなります。
「名義株のはずだ」という認識が社内にあっても、それを裏づける資料が何も残っていないケースは珍しくありません。まずは資料の有無から確認してください(後述の資料一覧を参照)。
※ここに挙げた要素はあくまで一般的な判断材料です。最終的な認定は個別の事実関係によるため、法務・税務の詳細は弁護士・税理士への相談をおすすめします。
名義株の整理は3つのケースに分かれる
名義株主が「協力してくれるか」で、必要な手続き・期間・コストがまったく変わります。 自社がどのケースかを最初に見極めてください。
ケース | 状況 | 主な手段 | 期間の目安 | 難易度 |
|---|---|---|---|---|
ケース1 | 名義株主が健在で協力してくれる | 確認書の締結+株主名簿の名義書換 | 数週間〜数か月 | 低〜中 |
ケース2 | 協力しない/自分が株主だと主張する | 有償での買取交渉、株主権確認訴訟、スクイーズアウト | 数か月〜1年超 | 高 |
ケース3 | 所在不明・死亡している | 相続人全員からの確認書、会社法197条の手続き(特例の活用) | 半年〜数年 | 高 |
期間はあくまで実務上の一般的な目安であり、公的な統計にもとづく数値ではありません。名義株主の人数・関係性・資料の残り方によって大きく変わります。現実的な判断としては、ケース1で終えられるうちに動くことが最も安く早く済みます。名義株主が高齢化すればするほど、ケース3に移行するリスクが上がるためです。
【ケース1】名義株主が協力してくれる場合の整理手順
最も望ましく、実務上も最も多いパターンです。手順は「資料集め → 確認書の締結 → 名義書換 → 以後の運用」の4段階で進めます。
ステップ1:名義貸しの経緯と出資の事実を裏づける資料を集める
確認書を作る前に、事実関係を固めます。
- 設立時・増資時の払込記録(通帳、振込明細、当時の経理帳簿)
- 設立時の定款、発起人の一覧
- 過去の配当支払記録(誰に払ったか)
- 株主総会議事録(誰が出席・議決権行使したか)
- 株券発行会社の場合は株券の現物と保管状況
この資料集めが後の税務リスクを左右します。 確認書だけがあって裏づけがない状態は、税務調査の場では弱いと考えてください。
ステップ2:名義株主との間で「確認書(合意書)」を締結する
中小企業庁のガイドラインも、この方法を明示的に挙げています。
当該他人(名義株主)と実質的な株主の間で、株主たる地位や配当等の帰属を争う紛争が生じないよう、実質的な株主への株主名簿の名義書換等を進めておく必要がある。その際には、例えば事前に名義株主と実質的な株主の間で株主たる地位等について確認する合意を締結しておく等の方策が考えられる。
— 中小企業庁『中小M&Aガイドライン(第3版)』p.127(確認日: 2026-09-01)
確認書は実印による押印+印鑑証明書の添付が望ましいとされています。DDの場で買い手側弁護士に提示する証拠であり、税務調査でも使う書面だからです。
ステップ3:株主名簿の名義書換を行う
確認書を取得したら、株主名簿を実質株主名義に書き換えます。譲渡制限株式の場合は、定款で定められた承認機関(取締役会または株主総会)の承認決議を経て、株主名簿記載事項証明書の交付まで実施しておくと、DDで説明しやすくなります。
ステップ4:以後の配当・議決権行使を実質株主で統一する
名義を戻した後は、配当の支払先と議決権の行使者を実質株主に統一し、記録を残します。ここが揺れていると、せっかく整理した実態がまた曖昧になります。
名義書換とあわせて登記・議事録も整えるなら M&A売却前の登記・株主名簿整備チェックリスト を確認してください。
確認書に盛り込むべき項目チェックリスト
実務で作成される確認書には、おおむね次の内容が盛り込まれます。個別事情によって必要な条項は変わるため、実際の作成は弁護士に依頼することをおすすめします。
- 対象株式の特定(株式の種類・株数・取得日・株券番号)
- 名義を貸すに至った経緯
- 払込金の出捐者が実質株主であること
- 名義株主は当該株式について何らの権利も有しないこと
- 過去に配当を受領していないこと・議決権を行使していないこと(受領実績がある場合はその処理を明記)
- 株主名簿の名義書換に同意すること
- 今後、当該株式について一切の請求をしないこと
- 当事者双方の署名・実印押印、印鑑証明書の添付
- 作成日(可能であれば公証役場での確定日付の取得)
【ケース2】名義株主が協力しない・株主だと主張する場合

協力が得られない場合、選択肢は「有償で買い取る」「訴訟で確定させる」「株式を集約する」の3つに整理できます。 どれを選ぶかは、資料の揃い方と保有議決権割合で決まります。
選択肢1:有償で買い取る(現実的な着地になりやすい)
実質株主であることの立証が難しい、あるいは争いたくない場合は、名義株主から株式を買い取って決着させる方法があります。争いを避けられ、時間も短く済むことが多い一方、買取価格が税務上の時価より著しく低いと、みなし贈与(相続税法7条)や低額譲渡の論点が生じます。
非上場株式の税務上の時価は、所得税基本通達59-6や財産評価基本通達178〜189-7に基づいて算定されます(出典: 国税庁 所得税基本通達59-6、確認日: 2026-09-01)。価格設定は必ず税理士と相談し、算定根拠を書面で残してください。
選択肢2:株主権確認訴訟
会社側(実質株主側)が、自らが株主であることの確認を求める訴訟を提起する方法です。①払込原資の出所、②配当の実績、③議決権行使の実態といった客観資料が揃っていることが前提になります。
M&Aのスケジュールとは相性が悪い選択肢です。審理期間についての公的統計は確認できていませんが、相応の期間を要するため、売却時期が決まっている段階から始める手段ではありません。
選択肢3:スクイーズアウトで株式を集約する
名義株主が少数株主として残ってしまう場合、株式を大株主に集約する法的手続きもあります。中小M&Aガイドラインも次の手法に触れています。
特別支配株主による株式等売渡請求(会社法第179条以下)や株式併合手続(会社法第180条)を利用する等して株式を大株主に集約する方法(いわゆるスクイーズ・アウト)もある。
— 中小企業庁『中小M&Aガイドライン(第3版)』p.127-128(確認日: 2026-09-01)
特別支配株主の株式等売渡請求は議決権の90%以上の保有が要件で、株式併合は株主総会の特別決議(議決権の3分の2以上)が必要です(出典: e-Gov 法令検索 会社法179条・180条・309条、確認日: 2026-09-01)。いずれも対価の妥当性が争われる余地があるため、株価算定書の取得と弁護士のサポートが前提になります。
スクイーズアウト3手法の詳しい比較は M&A前の少数株主整理・株式集約 完全ガイド、株主総会の決議要件は 会社売却の株主総会・特別決議 手続きガイド を参照してください。
【ケース3】名義株主が所在不明・死亡している場合
このケースは最も時間がかかります。売却を意識した段階で真っ先に着手すべき類型です。
名義株主が死亡している場合
名義株主が亡くなっている場合、確認書は相続人全員から署名・押印を得る必要があります。相続がさらに重なっていれば関係者は増え、1人でも所在が分からない、あるいは協力を拒む相続人がいれば手続きは止まります。相続が二次・三次に及んでいる会社では、関係者が十数人になることもあります。
つまり、確認書は「名義株主が健在で連絡が取れるうち」に取っておくのが原則です。
所在が分からない場合(会社法197条の手続き)
株主の所在が不明な場合、会社法には所在不明株主の株式を競売・売却したり、会社が自己株式として取得したりする手続きがあります(会社法196条・197条)。原則要件は次の2つです。
- 5年以上継続して、株主に対する会社からの通知・催告が到達しないこと
- 5年間継続して、株主が剰余金の配当を受領していないこと
さらに、裁判所への売却許可の申立ても必要になります(出典: 東京地方裁判所「所在不明株主の株式売却許可申立事件Q&A」、確認日: 2026-09-01)。
「5年→1年」に短縮できる特例(令和3年8月施行)
事業承継ニーズの高い非上場の中小企業者については、経営承継円滑化法にもとづき、都道府県知事の認定と所要の手続きを前提として、この「5年」の期間要件を「1年」に短縮できる特例があります(中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律12条1項1号ホ・15条。令和3年(2021年)8月施行。出典: 中小企業庁『中小M&Aガイドライン(第3版)』p.127、岡山県 経営支援課ページ。確認日: 2026-09-01)。
ただし、この特例で短縮されるのは期間要件だけです。 公告・個別催告といった手続きそのものが省略されるわけではなく、裁判所への売却許可申立ても別途必要になります(出典: 岡山県ホームページ、確認日: 2026-09-01)。「1年に短縮されるから1年で終わる」わけではない点に注意してください。
株券発行会社で株券の所在が分からない場合の論点は 株券不交付の株式譲渡・最高裁判例解説(令和6年) もあわせてご覧ください。
名義株の整理で注意したい税金

名義株の整理で最も注意すべきなのは、「名義を無償で戻したら贈与とみなされる」リスクです。 会社法上は名義を実態に合わせる行為でも、税務上は「名義株主から実質株主への株式の贈与」と評価されることがあります。
リスク1:名義書換が贈与と認定される
名義株であることを客観的に立証できないまま名義だけを書き換えると、税務署から贈与と認定され、贈与税の課税対象になり得ます(出典: 円満相続税理士法人・辻・本郷 相続センターほか税務専門事務所の実務解説、確認日: 2026-09-01)。
特に名義株主が過去に配当を受け取っていた/株主総会で議決権を行使していた場合は、名義株主のほうが真の株主と判断されやすく、無償の名義変更は贈与認定されやすくなります。
対策は次の2点です。
- ステップ1で挙げた払込原資・配当・議決権行使の資料を揃え、名義株であることの説明を書面で残す
- 立証が難しければ、無償の名義書換ではなく有償の買取(株式譲渡)で決着させる
リスク2:買取価格が低すぎるとみなし贈与になる
有償買取に切り替えても、価格が税務上の時価より著しく低ければ、みなし贈与(相続税法7条)や低額譲渡の問題が生じます。非上場株式の時価は、所得税基本通達59-6・財産評価基本通達178〜189-7にもとづいて算定するのが基本です(出典: 国税庁 所得税基本通達59-6、確認日: 2026-09-01)。
なお、支配株主が取得する場合と少数株主が取得する場合で適用される評価方式が異なるため、「どちらの立場での時価か」を税理士に確認したうえで価格を決めてください。
リスク3:相続税の課税対象として残り続ける
名義株は、実質株主の相続財産として相続税の課税対象になり得ます。名義預金と同様、税務調査で頻出の論点です。M&Aをするかどうかにかかわらず、放置すればいずれ相続の場面で顕在化するという性質のものです。
名義株の税務上の取扱いは個別事情によって結論が変わります。「確認書を作れば必ず贈与税がかからない」といった単純な整理はできません。※税務の詳細な判断は必ず税理士にご相談ください。
売却時の税負担全体は 会社売却の税金・節税 完全ガイド、相続とあわせた設計は 会社売却と相続対策(生前贈与・信託の活用) で解説しています。
いつから着手すべきか|売却から逆算したタイムライン
目安は「売却希望時期の1年前」です。 ケース1で終わるなら数か月で済みますが、ケース2・ケース3に転がった瞬間に、必要期間は年単位に跳ね上がります。
時期 | やること |
|---|---|
売却検討を始めた時点(12か月以上前) | 株主名簿・別表二・株主リスト・定款を突き合わせ、名義株の有無を洗い出す。名義株主の生存・連絡可否を確認する |
12〜6か月前 | 払込原資・配当・議決権行使の資料を収集。名義株主と接触し、確認書の締結交渉を開始。税理士に贈与認定リスクと買取価格を相談 |
6〜3か月前 | 確認書の締結、株主名簿の名義書換、承認決議・記載事項証明書の交付まで完了させる |
3か月前〜DD開始前 | 株主名簿・登記・株主リストの整合を最終確認。仲介会社・買い手に提示できる状態に整える |
交渉中に発覚した場合 | 隠さず仲介会社・買い手に開示する。未整理のままクロージング条件化される前提でスケジュールを組み直す |
優先順位が最も高いのは「名義株主が健在か」の確認です。 高齢の名義株主がいる場合、その方が亡くなればケース3(相続人全員の同意)に移行します。確認書1枚で終わったはずの話が、相続人10人との交渉に変わることがあります。
売却全体の逆算スケジュールは 会社売却チェックリスト(6ヶ月前・3ヶ月前・1ヶ月前)、準備の全体像は 会社売却の準備チェックリスト をご覧ください。
株主を確定させるために突き合わせる資料一覧

名義株の有無は、複数の資料を突き合わせて初めて見えてきます。 株主名簿だけを眺めても判断できません。
確認対象 | 見るポイント |
|---|---|
株主名簿 | 会社法121条の法定記載事項(氏名・住所・株式の種類と数・取得日等)が揃っているか。最終更新はいつか |
法人税申告書 別表二(同族会社等の判定に関する明細書) | 毎期の株主構成の推移。株主名簿と食い違っていないか |
株主リスト(登記の添付書面) | 平成28年(2016年)10月1日以降、株主総会決議にもとづく登記申請には株主リストの添付が必要(出典: 法務省「『株主リスト』が登記の添付書面となりました」、確認日: 2026-09-01)。過去に提出した内容と現状が整合しているか |
設立時の定款・発起人 | 発起人7名要件の時代に設立されたか。名義株が潜んでいる典型パターン |
払込みの原資 | 設立時・増資時の通帳、振込記録。誰の資金で払い込まれたか |
配当の支払記録 | 誰に配当を支払ってきたか。名義株主が受領していないか |
株主総会議事録 | 誰が出席し、議決権を行使してきたか |
株券(株券発行会社の場合) | 株券が現存するか、誰が保管しているか |
特に効くのが「別表二の推移」と「株主リストとの照合」です。 税務申告と登記添付書類は毎年・都度提出されているため、株主名簿より実態を反映していることがあります。ここで名前が食い違えば、DDでも同じ指摘を受けると考えてください。
中小M&Aガイドライン p.119 も、中小企業では株主名簿や議事録の整備が不十分な場合が少なくないと指摘しています(確認日: 2026-09-01)。「うちはちゃんとしている」という前提を一度外して確認するのが安全です。
売り手として何を準備しておくべきかは M&A DD(デューデリジェンス)売り手の準備チェックリスト にまとめています。
すぐ整理すべき会社/急がなくてよい会社
自社がどちらに近いかで、着手の優先度を判断してください。
今すぐ名義株の確認・整理に着手すべき会社
- 1990年(平成2年)より前に設立され、設立時の発起人が7名以上いる
- 株主名簿に、出資した記憶のない親族・知人・元従業員の名前がある
- 株主名簿を10年以上更新していない、あるいは株主名簿自体が見当たらない
- 別表二の株主構成と株主名簿の内容が一致していない
- 名義株主とみられる人が高齢、または既に亡くなっている
- 名義株主に一度も配当を支払ったことがない(=名義株の可能性が高い一方、証拠も乏しい)
- 3年以内にM&Aによる売却を考えている
- 株券発行会社のままで、株券の所在が把握できていない
このいずれかに当てはまるなら、仲介会社に相談するより先に、弁護士・税理士への相談と資料の洗い出しを始めることをおすすめします。
相対的に急がなくてよい会社
- 発行済株式の100%をオーナー1名(または配偶者との2名)が保有し、出資の経緯が明確
- 設立が2000年代以降で、発起人1名の会社
- 株主名簿・別表二・株主リストの3点が一致している
- すべての株主に配当実績があり、株主総会にも実際に関与している
ただし、この場合でも株主名簿の記載が会社法121条の要件を満たしているかの確認はしておいてください。DDでは「名簿が存在するか」ではなく「要件を満たしているか」を見られます。
誰に相談すればよいか|専門家の役割分担

名義株の整理は、1つの専門家で完結しません。 中小M&Aガイドラインも、弁護士(p.127)と公認会計士・税理士(p.114)の双方の支援領域として名義株を挙げています。
専門家 | 主な役割 |
|---|---|
弁護士 | 確認書・合意書の作成、名義株主との交渉、株主権確認訴訟、スクイーズアウトの手続き、SPAの表明保証への反映 |
税理士 | 名義書換の贈与認定リスクの検討、買取価格(税務上の時価)の算定、相続税・譲渡所得への影響の確認 |
司法書士 | 株主名簿の整備、譲渡承認手続きの整理、関連する登記の確認・申請 |
M&A仲介会社・FA | 買い手への説明方法の設計、DD・クロージング条件との調整、専門家の紹介と進行管理 |
ガイドライン p.114 は、名義株や所在不明株主の問題がある場合には「必要に応じて弁護士等と連携し、整理をしておくことが望ましい」としています(確認日: 2026-09-01)。税務と法務の両面から検討することが前提です。
相談先の全体像は M&Aの相談先一覧(税理士・銀行・仲介会社)、仲介会社の選定基準は M&A仲介会社の選び方完全ガイド を参照してください。
よくある質問
Q. 名義株に時効はありますか。放置していれば名義人のものになりますか。
「何年経てば名義株が消える」といった明確な公的ルールがあるわけではありません。ただし、名義人が長年にわたって配当を受領し、株主として扱われてきた実態が積み上がるほど、名義人が真の株主だと判断される方向に働きます。時間の経過は実質株主にとって不利に働くと考え、早く整理するのが実務的な結論です。個別の法的評価は弁護士にご確認ください。
Q. 名義株主が「自分の株だ」と主張してきたら、買い取るしかないのでしょうか。
買取が唯一の選択肢ではありません。払込原資・配当・議決権行使の資料が揃っていれば、株主権確認訴訟で確定させる道があります。ただし訴訟は時間がかかるため、売却時期が決まっている場合は有償買取で決着させる判断も現実的です。どちらを選ぶかは、資料の充実度と売却スケジュールのバランスで決めることになります。
Q. 確認書に印鑑証明書は必須ですか。
法律上の必須要件ではありませんが、実印による押印と印鑑証明書の添付が実務では望ましいとされています。理由は、この書面がDDで買い手側弁護士に提示され、税務調査でも証拠として扱われるからです。本人の意思にもとづく書面であることを後から争われないようにする意味でも、実印+印鑑証明書、可能であれば公証役場での確定日付の取得まで行っておくと安心です。
Q. 名義株を整理せずに株式譲渡してしまったらどうなりますか。
クロージング後に名義株主(またはその相続人)から株主としての権利を主張されると、買い手との間で表明保証違反・補償の問題に発展する可能性があります。契約上、売り手が責任を負う構成になっているのが一般的です。DDの段階で開示していれば、価格やクロージング条件で調整する余地がありますが、隠したまま進めるのは最も避けるべき対応です。
Q. 従業員名義の株はすべて名義株ですか。
いいえ。従業員が実際に自分の資金で出資していれば、それは名義株ではなく正当な株主です。名義株かどうかは「誰の資金で払い込まれたか」で判断されます。従業員持株会を通じた保有など、制度として設計されているケースは別の整理が必要です。詳しくは M&A前の従業員持株会の解散・株式整理ガイド をご覧ください。
Q. 名義株の整理には結局どれくらい費用がかかりますか。
名義株の整理にかかる弁護士・税理士費用について、公的な統計や統一的な料金表は確認できていません(確認日: 2026-09-01)。手続きの内容(確認書の作成のみか、交渉・訴訟まで及ぶか)や名義株主の人数によって大きく変わるため、複数の専門家から見積もりを取って比較することをおすすめします。少なくとも、確認書1通で済むケースと訴訟に至るケースでは費用の桁が変わると考えておいてください。
まとめ|株主の確定は、売却準備の最初の一歩
名義株の整理について、押さえるべき点を改めて整理します。
- 名義株は、名簿上の名義人ではなく実際に出資した人が株主というのが判例・通説の立場であり、税務上も同じ考え方(国税庁 法令解釈通達 35の2−6)
- 中小企業庁『中小M&Aガイドライン(第3版)』は、名義株の確認を売り手自身の事前準備タスクと位置づけ、確認書の締結を対応策として明示している
- 放置したままM&Aを進めると、売主が確定できず契約が組めない、DDで論点化する、表明保証違反・価格減額につながる
- 整理は「協力する/協力しない/所在不明・死亡」の3ケースで手順も期間もまったく異なる。ケース1で終えられるうちに動くのが最も安く早い
- 無償の名義書換は贈与認定のリスクがある。立証が難しければ有償買取に切り替え、時価の算定根拠を残す
- 所在不明株主の「5年→1年」特例は期間要件の短縮のみで、公告・催告や裁判所の許可は省略されない
- 着手の目安は売却希望時期の1年前。名義株主が健在で連絡が取れるうちに確認書を取っておく
まず今日できることは、株主名簿・法人税申告書 別表二・株主リスト・設立時の定款を並べて、記載が一致しているかを確認することです。ここで食い違いが見つかったら、それが名義株整理のスタート地点になります。
名義株の認定と税務上の取扱いは、個別の事実関係に大きく左右されます。本記事の内容を自社の判断にそのまま当てはめず、※税務・法務の詳細は弁護士・税理士・司法書士など専門家に個別にご相談ください。
関連記事
- M&A前の少数株主整理・株式集約 完全ガイド — 名義株以外の分散株主をどう集約するか
- M&A売却前の登記・株主名簿整備チェックリスト — 登記・議事録まで含めた整備の全体像
- 株式譲渡とは?仕組み・手続き・税金 — 売却スキームの基本
- M&Aの表明保証とは — 株主に関する表明保証違反のリスク
- M&A DD(デューデリジェンス)売り手の準備チェックリスト — DDで何を見られるか
- 会社売却の準備チェックリスト — 売却準備の全体像
出典一覧
内容 | 出典 | 確認日 |
|---|---|---|
名義株の発生経緯、確認書の締結、スクイーズアウト、所在不明株主特例 | 中小企業庁『中小M&Aガイドライン(第3版)』令和6年8月 p.37 / p.114 / p.119 / p.123 / p.127-128 | 2026-09-01 |
名義株についての株主等の判定(税務) | 国税庁 法令解釈通達 35の2−6 | 2026-09-01 |
非上場株式の税務上の時価 | 国税庁 所得税基本通達59-6、財産評価基本通達178〜189-7 | 2026-09-01 |
株主リストの登記添付書面化(平成28年10月1日〜) | 法務省「『株主リスト』が登記の添付書面となりました」 | 2026-09-01 |
所在不明株主の株式売却許可申立ての手続き | 東京地方裁判所 所在不明株主の株式売却許可申立事件Q&A | 2026-09-01 |
所在不明株主特例(5年→1年)の要件と手続き上の留意点 | 岡山県 経営支援課 | 2026-09-01 |
実質説(最判昭和42年11月17日)の解説 | 立命館法学 中村康江「他人名義による設立時発行株式の引受けをめぐる諸問題」 | 2026-09-01 |
会社法121条(株主名簿)、196条・197条(所在不明株主)、179条以下・180条・309条(スクイーズアウト・決議要件) | e-Gov 法令検索 会社法 | 2026-09-01 |
