過去に税務調査を受けた会社や追徴課税を払った会社でも、売却はできます。注意すべきなのは「調査歴があること」より「その内容を整理できていないこと・隠すこと」で、売り手がやるべきことは、①過去の調査結果を書類で示せるようにする、②まだ残っているリスクを顧問税理士と洗い出す、③そのリスクを価格調整・特別補償・エスクローのどれで扱うかを契約で決める、の3つです。
この記事でわかること
- 税務調査歴・追徴課税が、買い手の評価や売却条件にどう影響するか
- 追徴課税の中身(本税・加算税・延滞税)と、2026年時点の割合
- 税務調査がさかのぼる期間(5年・7年)と、売却後に売り手の責任が残る期間の関係
- 「解決済み」「心当たりがある」「売却中に調査通知が来た」など、6つの状況ごとの進め方
- 株式譲渡・事業譲渡・会社分割で、過去の税務債務がどこに残るか
- 売却前にそろえておきたい税務書類のチェックリスト
こんな方に向けた記事です:会社の売却(M&A)を考えている中小企業のオーナーで、過去に税務調査で指摘や追徴を受けたことがある方、申告処理に心当たりがある方、または売却手続きの途中で税務署から調査の連絡が来た方。
この記事は一般的な情報提供を目的としています。加算税・延滞税の計算、修正申告の要否、契約条項の書き方は会社ごとに判断が変わります。実際の判断は税理士・弁護士にご相談ください。
結論:調査歴は売却の障害ではなく、「整理して開示できるか」で条件が決まる
税務調査歴・追徴課税があっても売却はできます。条件を左右するのは、買い手が税務リスクの大きさを見積もれるかどうかです。
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」では、税務デューデリジェンス(税務DD)を「過去の申告内容の誤りによる追徴課税等」の潜在的な税務リスクを把握するための調査と位置づけています。調査手続きの例として「過去の税務調査・税務訴訟等の把握」も挙げられており、税務調査歴は買い手から必ず確認される項目だと考えておくべきです(出典:経済産業省「中小M&Aガイドラインを改訂しました」 /ガイドライン本文p.122 確認日2026-10-02)。
売り手が押さえておきたいポイントは次の3つです。
- 解決済みの調査は、書類があれば説明材料になる — 更正通知書や修正申告書、指摘事項のメモがそろっていれば、買い手は「どの期を、何について、いくら是正したか」を確認できます。
- 心当たりがあるなら、売却を打診する前に税理士と相談する — 税務署から調査の通知を受ける前に自分から修正申告すれば、過少申告加算税はかかりません(後述)。
- 隠すと、売却後に売り手の責任が重くなる — 事実と違う表明保証をすると、クロージング後に損害賠償を請求されるおそれがあります。
M&Aの全体像から確認したい方は「M&Aとは?」も参考にしてください。
税務調査・追徴課税があると、会社の売却にどう影響するか
影響は「売れるかどうか」より、価格と契約条件に出ます。買い手は、過去の税務処理の誤りが自社の負担になることを心配するからです。
株式譲渡では、過去の税務リスクは会社に残る
中小企業の売却で多い株式譲渡は、会社(法人格)をそのまま引き渡す方法です。中小M&Aガイドラインは、株式譲渡では簿外債務・偶発債務のリスクが比較的高くなりやすく、より詳しいDDが行われる傾向があると説明しています(同ガイドラインp.49)。
つまり、売却前の期間について後から追徴課税が決まった場合、税金を納めるのは会社で、その会社を持っているのは買い手です。そのため買い手は、税務リスクを次のような形で売り手側に負担してもらおうとします。
買い手の対応 | 内容 | 売り手への影響 |
|---|---|---|
価格に反映 | 想定される追徴額を差し引いて価格を決める | 手取りは減るが、売却後の負担は軽くなる |
表明保証 | 「税務申告は適正に行っている」などと売り手が約束し、違っていれば補償する | 内容を理解せずに約束すると、売却後に請求を受けるおそれ |
特別補償 | 分かっている税務リスクについて、実際に追徴されたら売り手が補償すると個別に定める | 上限・期間を決めておけば負担額を読める |
エスクロー | 売却代金の一部を第三者に預け、一定期間後に売り手へ支払う | 代金の一部をすぐ受け取れない |
スキーム変更 | 株式譲渡をやめて事業譲渡にする | 売り手側で法人税と会社の清算が必要になり、手取りが変わる |
中止 | リスクが大きく、見積もれない場合 | 売却そのものが流れる |
(表は編集部作成。対応の4分類は税務研究会 ZEIKEN LINKS「M&A取引に伴う税務リスクとその対応」を参考に整理 確認日2026-10-02)
それぞれの仕組みは「M&Aの表明保証とは」「特別補償条項とは」「エスクロー・分割払いガイド」で詳しく解説しています。
税務調査は「他人事」ではない:国税庁の最新統計
国税庁が2025年12月に公表した「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」によると、法人税・消費税の実地調査は5.4万件行われ、追徴税額は合計3,407億円と直近10年で最も多くなりました。調査1件あたりの追徴税額は634万2千円です。国税庁は、AIも使って調査の必要性が高い法人を選んでいると説明しています。
項目 | 令和5事務年度 | 令和6事務年度 |
|---|---|---|
実地調査件数(法人税・消費税) | 5.9万件 | 5.4万件 |
追徴税額(加算税等を含む) | 3,197億円 | 3,407億円 |
調査1件あたりの追徴税額 | 549万7千円 | 634万2千円 |
(出典:国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」 対象は令和6年7月〜令和7年6月に終了した実地調査 確認日2026-10-02)
買い手が「この会社にも調査が来たら、いくら出ていくか」を気にするのは、こうした実態があるからです。
追徴課税の中身と金額の目安(2026年時点)

追徴課税とは、申告漏れが見つかったときに追加で納める「本税+加算税+延滞税」をまとめた呼び名です(法律上の用語ではありません)。このうち加算税は、いつ修正したかで大きく変わります。
過少申告加算税・重加算税の割合
修正のタイミング・内容 | 加算税の割合 |
|---|---|
調査の通知前に自分から修正申告した(調査を予知する前) | 0%(かからない) |
調査の通知を受けた後、調査で指摘されると予知する前に修正申告した | 5%(一定額を超える部分は10%) |
調査を受けた後に修正申告した・更正を受けた | 10%(一定額を超える部分は15%) |
事実の隠蔽・仮装があった(重加算税) | 35%(過去5年以内に同じ税目で重加算税などを受けていれば45%) |
- 「一定額」とは、当初の期限内申告税額と50万円のいずれか多い額です。
- 「調査の通知」とは、税務署から①実地の調査を行うこと、②対象の税目、③対象の期間の3つを知らされることを指します。
- 重加算税は、過少申告加算税に代えて課されます(両方が同時にかかるわけではありません)。
(出典:国税庁「加算税制度(国税通則法)の改正のあらまし」、国税庁タックスアンサーNo.2026(令和8年4月1日現在法令等) 確認日2026-10-02)
無申告の場合は無申告加算税という別の仕組みがあり、近年の改正で割合が見直されています。無申告の期がある場合は、必ず税理士に最新の割合を確認してください。
延滞税の割合(2026年)
延滞税は、本来の納期限から実際に納めるまでの日数に応じてかかる、利息のような税金です。
期間 | 2026年(令和8年) | 2025年(令和7年) |
|---|---|---|
納期限の翌日から2か月以内 | 年2.8% | 年2.4% |
納期限の翌日から2か月を過ぎた後 | 年9.1% | 年8.7% |
(出典:国税庁タックスアンサーNo.9205 延滞税について(令和8年4月1日現在法令等) 確認日2026-10-02)
期限内に申告していて1年以上たってから修正申告した場合などには、延滞税の計算期間の一部を除く特例があります。ただし適用できるかどうかはケースによって異なるため、税理士に確認してください。
試算:本税1,000万円の申告漏れがあった場合
同じ1,000万円の申告漏れでも、加算税は修正のタイミングと内容で次のように変わります。
ケース | 本税 | 加算税 | 合計(延滞税を除く) |
|---|---|---|---|
調査通知の前に自主的に修正申告 | 1,000万円 | 0円 | 1,000万円 |
調査通知の後、調査による指摘の予知前に修正申告 | 1,000万円 | 50万円 | 1,050万円 |
調査を受けた後に修正申告 | 1,000万円 | 100万円 | 1,100万円 |
隠蔽・仮装ありと認定(重加算税) | 1,000万円 | 350万円 | 1,350万円 |
(編集部による概算。前提:当初の期限内申告税額が1,000万円以上あり、5%・10%の割合が上乗せされる部分が生じないケース。国税のみで、法人住民税・法人事業税など地方税の増加分と延滞税は含まない)
これに延滞税が加わります。2か月を過ぎた後の年9.1%で単純に計算すると、1,000万円の本税で1年あたり約91万円のペースで増えていきます。
売却を考える段階で心当たりがあるなら、「調査の通知が来る前に、税理士と自主修正の要否を検討する」ことが、追加負担を減らす現実的な方法です。ただし、自主修正しても本税と延滞税は発生します。
重加算税の後に起こりうる「青色申告の取消し」
隠蔽・仮装による不正が大きい場合、青色申告の承認を取り消されることがあります。国税庁の事務運営指針では、不正があった金額が更正後の所得金額の50%を超える場合(不正所得金額が500万円未満の場合を除く)などが基準として示されています(出典:国税庁「法人の青色申告の承認の取消しについて(事務運営指針)」 確認日2026-10-02)。
青色申告が取り消されると、繰越欠損金などの特典が使えなくなります。買い手が「欠損金で将来の税金が減る」ことを価格に織り込んでいた場合、評価そのものが変わる点に注意が必要です。
税務調査はどこまでさかのぼるか:5年と7年、売却後の責任期間
法人税・消費税などで税務署が税額を増やす更正ができる期間は、原則として法定申告期限から5年、偽りその他不正な行為で税金を免れていた場合は7年です(国税通則法70条)。
区分 | 更正できる期間 |
|---|---|
原則 | 法定申告期限から5年 |
偽りその他不正の行為で税額を免れた場合 | 法定申告期限から7年 |
(出典:国税不服審判所「偽りその他不正の行為」等で内容を確認 確認日2026-10-02)
よく誤解されますが、「申告していない=7年」ではなく、無申告でも原則は5年です。7年になるのは、隠蔽などの積極的な不正行為がある場合です。なお、欠損金に関する更正など例外もあるため、自社の期がどこまで対象になるかは税理士に確認してください。
売却後の責任期間との関係
この期間は、契約交渉にも影響します。売却後に税務調査が入り、売却前の期について追徴されると、買い手は表明保証違反や特別補償にもとづいて売り手に請求します。そのため、税務に関する補償期間は、一般の補償より長く設定されることがあります。
中小M&Aガイドラインは、表明保証の期間や責任の上限が決まっていないと、売り手が過大な責任を負って争いになるリスクがあると注意しています(同ガイドラインp.54)。具体的な年数は案件ごとの交渉で決まるため、「税務だけ期間がいつまでか」「上限はいくらか」を必ず確認しましょう。
【状況別】税務の問題を抱えた会社の売却の進め方
状況によって、買い手の見方も、売り手がやるべきことも変わります。自社がどれに当てはまるかを確認してください。
状況 | 買い手の見方 | 価格・条件への影響(一般的な傾向) | 売り手がやること |
|---|---|---|---|
① 過去に調査を受け、追徴を払い終えている | 是正済みの期は確認しやすい | 書類がそろっていれば影響は小さいことが多い | 更正通知書・修正申告書・指摘内容を整理して開示 |
② 指摘を受けたが、同じ処理が今も続いている | 是正していない期にも同じリスクがあると見る | 価格への反映、特別補償を求められやすい | 処理を改め、未調査の期への影響を税理士と試算 |
③ 長年調査を受けていない/申告に心当たりがある | 売却後に調査が来るかもしれないと警戒 | 税務DDが厚くなり、表明保証を広く求められやすい | 売却打診の前に税理士と点検し、自主修正の要否を検討 |
④ 売却手続きの途中で調査の通知が来た | 結果が出るまで金額が読めない | クロージングの延期、価格調整、エスクローが検討されやすい | 仲介会社・買い手にすぐ共有(次章) |
⑤ 処分に不服を申し立てている(係争中) | 結果次第で負担が変わる | 結果に連動した特別補償・エスクローが検討されやすい | 争点・見込み額・今後の日程を資料にまとめる |
⑥ 税金を滞納している | 会社の負債そのもの | 価格からの差引き、クロージング前の完納を求められやすい | 納付計画を立て、可能なら売却前に完納 |
(表は編集部作成。価格・条件への影響は一般的な傾向であり、個別案件で異なります)
係争中の問題がある会社の売却については「係争中の会社は売却できる?」、簿外の負債全般は「簿外債務とは」もあわせてご覧ください。
税務DDで指摘されやすい項目
オーナー企業の税務DDでは、次のような項目がよく確認されます(専門家の解説記事にもとづく一般的な例で、すべての会社に当てはまるわけではありません)。
- 役員報酬・役員退職金が「不相当に高額」とされないか
- 個人的な支出(交際費、車両、家族への給与など)を会社の経費にしていないか
- 消費税の区分やインボイス対応
- 源泉所得税の徴収漏れ(会社が赤字でも発生する)
- 親族・グループ会社との取引価格や無利息の貸付け
- 売上・在庫の計上時期
- 過去の税務調査で受けた指摘を直しているか
(参考:税務研究会 ZEIKEN LINKS「M&A取引に伴う税務リスクとその対応」 確認日2026-10-02)
役員退職金の扱いは「M&Aの役員退職金と税金」、売却前に経費や資産を整理する方法は「売却前の財務クリーニング」で解説しています。
売却手続きの途中で税務調査の通知が来たら
すぐに仲介会社(またはFA)と買い手に伝えてください。 黙ったまま最終契約やクロージングに進むと、表明保証違反として損害賠償を請求されたり、契約を解除されたりするおそれがあります。
通知を受けた時期ごとに、一般的には次のように進めます。
通知が来た時期 | 主な対応 |
|---|---|
基本合意の前 | 企業概要書や初期の開示資料に調査中であることを書き、候補先に前提として伝える |
基本合意〜DD中 | DDの対象に含め、調査の対象期・税目・論点を共有する。価格や日程を見直すことがある |
最終契約の直前 | 開示別紙(ディスクロージャー・スケジュール)に記載し、特別補償やエスクローで手当てする |
最終契約後〜クロージング前 | 契約上の通知義務があるか確認し、クロージング条件や価格調整の扱いを協議する |
調査そのものには、顧問税理士と対応します。仲介会社は中立の立場からDDの中身の評価・判断に関わらないとされており(中小M&Aガイドラインp.74)、税務の見通しは税理士に聞く必要があります。
スキーム別:過去の税務債務はどこに残るか
「事業譲渡にすれば過去の税金は切り離せる」と考えがちですが、事業譲渡や会社分割でも、条件によっては買い手側に責任が及ぶことがあります。
スキーム | 過去の税務債務 | 注意点 |
|---|---|---|
株式譲渡 | 会社に残る(株主になった買い手が実質的に負担) | 売り手は表明保証・特別補償で責任を負うのが一般的 |
事業譲渡 | 原則として売り手の会社に残る | 親族・被支配会社などの特殊関係者に譲渡し、一定の要件を満たす場合、滞納国税について譲り受けた財産の価額を限度に第二次納税義務が生じることがある(国税徴収法38条。法定納期限の1年以上前の譲渡は除く) |
会社分割(分割型) | 分割した会社に残る | 事業を承継した会社は、分割前の国税について承継した財産の価額を限度に連帯納付責任を負う(国税通則法9条の3。分社型分割は対象外) |
(出典:国税庁 徴収法基本通達 第38条関係、国税庁 通則法基本通達 第9条の3関係、中小M&Aガイドラインp.49 確認日2026-10-02)
第二次納税義務は、第三者への通常のM&Aすべてに当てはまるものではありません。ただ、税務リスクが大きいと買い手から事業譲渡への切り替えを提案されることがあり、その場合は売り手の手取りが大きく変わります。事業譲渡では会社に法人税がかかり、その後に会社を清算する手間と税金も考える必要があるからです。手取りの比較は「会社売却の手取りはいくら?」で確認できます。
※第二次納税義務・連帯納付責任が自社の取引に当てはまるかどうかは、要件の細かな判断が必要です。スキームを変更する前に、税理士・弁護士へご相談ください。
契約で売り手を守る方法

既に分かっている税務リスクは、どの手段で扱うかを選び、上限と期間を決めることで売り手の負担を読めるようになります。
手段 | 向いている税務リスク | 売り手が確認すること |
|---|---|---|
価格に反映する | 追徴額をほぼ見積もれるもの | 差し引く金額の根拠(税理士の試算) |
特別補償 | 発生するかは不明だが、発生したら金額が読めるもの | 対象の期・税目・論点の特定、上限額、期間 |
エスクロー | 調査中・係争中で、結果が出るまで分からないもの | 預ける金額、払い戻しの条件と時期 |
開示して表明保証の対象から外す | 説明が済んでいて、買い手も了承したもの | 開示別紙の書き方が具体的か |
(表は編集部作成)
中小M&Aガイドラインは、経営者が表明保証の内容を正しく理解しないまま事実と違うことを表明保証してしまうおそれを指摘し、顧問税理士が弁護士などと連携して不利な条項がないか確認することを期待しています(同ガイドラインp.123)。税務の条項は、必ず税理士と弁護士の両方に見てもらいましょう。
表明保証保険(W&I保険)では、分かっている税務リスクはカバーされにくい
表明保証保険は、一般に売り手・買い手が既に知っているリスク、DDで見つかった事項、価格に反映済みのリスクを補償の対象外としています。過去の調査で指摘を受けた論点や、売り手が心当たりを開示した論点は、保険ではなく特別補償・価格調整・エスクローで扱うのが一般的です。保険の仕組みは「表明保証保険(W&I保険)とは」をご覧ください。
(参考:岩田合同法律事務所 ニューズレター(2025年6月) 確認日2026-10-02。補償の範囲や請求できる期間は保険会社・商品によって異なります)
価格調整の具体的な方法は「M&Aの価格調整条項の仕組み」で解説しています。
売却前に準備しておく税務書類チェックリスト

税務DDでは、次の書類をまとめて求められることが多いです。直近3〜5期分を目安に、顧問税理士と一緒にそろえておくと手続きが進めやすくなります。
申告関係
- 法人税・消費税・地方税の申告書(別表・勘定科目内訳明細書を含む)
- 源泉所得税の納付書・年末調整の資料
- 決算書と総勘定元帳
過去の税務調査関係
- 調査の通知を受けた日、対象税目・対象期間のメモ
- 更正通知書・修正申告書・加算税の賦課決定通知書
- 調査で受けた指摘事項と、その後どう改めたかの記録
- 不服申立てや税務訴訟の資料(ある場合)
- 納付済みであることがわかる書類、または納付計画
オーナー企業で特に確認されやすいもの
- 役員報酬・役員退職金の決定記録(株主総会・取締役会の議事録)
- 親族・関係会社との取引や貸付けの契約書
- 社用車・交際費など、個人利用と区別しにくい支出の内訳
DD全体の準備は「売り手のためのDDチェックリスト」、DDそのものの仕組みは「デューデリジェンスとは」で解説しています。
比較的進めやすい会社と、早めに専門家へ相談したい会社
同じ「調査歴あり」でも、進めやすさには差があります。
比較的スムーズに進めやすい会社
- 過去の調査で受けた追徴を払い終え、更正通知書などの書類がそろっている
- 指摘された処理を既に改めていて、その後の期は同じ問題がない
- 顧問税理士が過去の経緯を説明でき、DDの質問に答えられる
- 滞納がなく、係争中の税務案件もない
早めに税理士・弁護士へ相談したほうがよい会社
- 調査を受けたことがなく、申告処理に心当たりがある
- 過去に重加算税を受けた、または隠蔽・仮装と見られかねない処理がある
- 指摘された処理をまだ続けている
- 売却手続きの途中で調査の通知が来た
- 処分に不服を申し立てている、または滞納がある
- 買い手から事業譲渡や会社分割への切り替えを提案された
後者に当てはまる場合は、仲介会社を選ぶ段階で「税務の問題がある案件でも、税理士や弁護士と連携して進めてくれるか」を確認しておくと安心です。仲介会社の選び方は「M&A仲介会社の選び方」、各社の比較は「売り手向けM&A仲介会社比較」で紹介しています。中小M&Aガイドラインも、仲介者やFAの助言に不安がある場合は、契約前にほかの支援機関の意見を聞くことも有効だとしています(同ガイドラインp.49)。
よくある質問
Q. 過去の税務調査のことを言わなければ、買い手には分からないのでは?
税務DDでは過去の申告書や調査歴の確認が一般的な手続きとされており、隠しきれると考えるのは危険です。加えて、最終契約では「税務申告は適正」「税務当局から指摘を受けていない」などを表明保証するのが一般的で、事実と違えば売却後に損害賠償を請求されるおそれがあります。開示したうえで条件を交渉するほうが、売り手にとって結果的に負担が読みやすくなります。
Q. 追徴課税をすべて払い終えていれば、売却への影響はありませんか?
払い終えた期そのものの影響は小さくなりますが、ゼロとは限りません。買い手は「同じ処理がほかの期にも残っていないか」を確認します。指摘された処理をその後の期で改めていることを示せるかどうかが重要です。
Q. 重加算税を受けたことがある会社は売れませんか?
売れないわけではありません。ただし、買い手は管理体制や、ほかの期にも問題がないかを慎重に確認するため、税務DDが厚くなり、特別補償やエスクローを求められやすくなります。過去5年以内に同じ税目で重加算税を受けていると、次に重加算税が課される場合の割合が45%に上がる点も、買い手は気にします。
Q. 売却した後に、売却前の期について税務調査が来たら誰が払いますか?
株式譲渡の場合、追徴課税を納めるのは会社です。そのうえで、契約の表明保証や特別補償の定めに従い、買い手が売り手に補償を求める形になります。売り手がいくらまで、いつまで負担するかは契約で決まるため、税務の補償の上限と期間を必ず確認してください。売り手個人の譲渡所得の申告については「会社売却後の確定申告」で解説しています。
Q. 売却前に自分から修正申告したほうがよいですか?
申告漏れがはっきりしているなら、調査の通知前に修正申告すれば過少申告加算税はかかりません。一方で、本当に誤りなのか判断が分かれる論点もあり、修正すべきかどうかは個別の判断になります。売却の打診を始める前に、顧問税理士(必要ならM&Aに詳しい別の税理士)に相談することをおすすめします。
Q. 売却手続きが進んでいる最中に修正申告をすると、買い手に悪い印象を与えませんか?
隠したまま進めて後から発覚するほうが、信頼の損失も金銭的な負担も大きくなりやすいです。修正の内容と金額、その後の処理の改善を説明できれば、買い手はリスクを見積もりやすくなります。伝え方やタイミングは仲介会社・税理士と相談して決めましょう。
まとめ:税務の問題は「隠さず・整理して・契約で切り分ける」
- 税務調査歴・追徴課税があっても会社は売れる。条件を決めるのは、リスクを書類で説明できるかどうか
- 加算税は修正のタイミングで0%〜35%(前歴があれば45%)まで変わる。心当たりがあれば、調査の通知前に税理士と相談する
- 更正できる期間は原則5年、不正があれば7年。税務の補償期間・上限は契約で必ず確認する
- 事業譲渡や会社分割でも、条件によっては税務の責任が完全には切れない
- 分かっているリスクは表明保証保険ではカバーされにくい。価格調整・特別補償・エスクローで扱う
税務の問題がある会社の売却は、税理士・弁護士・仲介会社の連携が欠かせません。まずは顧問税理士に過去の調査内容とリスクの棚卸しを頼み、そのうえで、税務の論点がある案件にも慣れた仲介会社に相談するのがおすすめです。仲介会社の比較は「売り手向けM&A仲介会社比較」、売却にかかる費用は「M&A仲介手数料・成功報酬の比較」をご覧ください。
本記事の加算税・延滞税の割合や期間は、各出典に記した確認日時点の国税庁・中小企業庁の公表資料にもとづいています。税制は改正されることがあり、個別の事情によって扱いも変わります。実際の修正申告・税務調査への対応・契約条項の判断は、必ず税理士・弁護士にご相談ください。
