会社を売るタイミングと相続対策のタイミングは、切り離せない関係にある。自社株式を保有するオーナー経営者にとって、「売る前にどんな相続対策を打つか」と「売った後の現金をどう次世代に渡すか」はまったく別の問題であり、それぞれに最適な手法が異なる。両者をセットで設計しないと、税負担が想定外に膨らむリスクがある。
この記事では、会社売却(M&A)を検討中・または完了後のオーナー経営者を対象に、生前贈与・信託・事業承継税制の活用方法を2024〜2026年の最新法改正を踏まえて解説する。
この記事でわかること:
- 売却前と売却後で変わる「最適な相続対策」の全体像
- 暦年贈与・相続時精算課税の使い分けと2024年改正後の変化
- 家族信託と商事信託の違い、どちらがどんな場面に向くか
- 事業承継税制とM&Aを組み合わせると起きる取り消しリスク
- 2026〜2028年に予定される非上場株評価ルール見直しの影響
対象読者: 自社株式を保有し、会社売却(M&A)や後継者への事業承継を検討中の50〜70代オーナー経営者
⚠️ 法的注記: 本記事に含まれる税務・法務情報は一般的な解説であり、個別の状況により最適な対策は異なります。実際の判断は税理士・弁護士・司法書士等の専門家にご相談ください。
会社売却と相続対策を同時に考えるべき3つの理由

会社売却と相続対策を別々に考えると、取り返しのつかない損失が出る可能性がある。主な理由は次の3点だ。
① 自社株式は現金より評価圧縮の余地が大きい
自社株(非上場株式)は、評価方式によって相続税評価額を大きく変えられる。しかし会社を売却して現金化してしまうと、現金は評価100%で相続財産に計上される。「売る前に相続対策を完了させる」か「売った後の現金に別の対策を打つ」かで、最適な手法が変わる。
② 事業承継税制の利用後にM&Aを実施すると猶予取り消しリスクがある
事業承継税制を活用して株式を後継者に承継した後にM&Aで売却すると、猶予税額が取り消され、延滞税まで含めた全額を一括納付しなければならないケースがある。M&Aを数年以内に予定しているなら、事業承継税制は利用しない方が安全な場合が多い。
③ 2028年に非上場株の評価ルールが抜本的に見直される予定
国税庁は2026年4月から有識者会議を開始し、類似業種比準方式の見直しを進めている。2028年1月適用予定。現行の評価圧縮が封じられる前に手を打てるかどうかが、今後の対策コストを大きく左右する。
自社株式の相続税評価の基本を理解する
相続対策を設計する前提として、自社株式がどう評価されるかを把握しておく必要がある。
会社規模による評価方式の違い
取引相場のない非上場株式の相続税評価は、会社規模によって以下のように異なる(出典: 国税庁「No.4638 取引相場のない株式の評価」確認日: 2026年6月12日)。
会社規模 | 主な評価方式 | 評価の特徴 |
|---|---|---|
大会社 | 類似業種比準方式 | 同業種の上場企業と比較。評価額が低くなりやすい |
小会社 | 純資産価額方式 | 解散価値ベース。内部留保が多い会社は高くなりやすい |
中会社 | 両方式の加重平均 | 折衷割合(L)の値によって変動する |
評価が高くなりやすい会社の特徴: 内部留保が厚い、収益力が高い、不動産等の含み益がある中小企業。特に小会社区分で純資産価額方式が適用されると、実態より割高な評価になりやすい。
合法的な評価引き下げの手法(事業目的が必要)
以下は一般的に活用される自社株評価引き下げの手法だが、「租税回避」と認定されないよう合理的な事業目的が必要であり、必ず専門家の指導のもとで実施すること。
- 役員退職金の支給: 純資産と利益を同時に圧縮し、株価評価を下げる
- 設備投資・修繕費の計上: 利益を削減し、類似業種比準価額を下げる
- 含み損のある不動産の売却: 純資産を圧縮し、評価を引き下げる
会社売却前の相続対策①:生前贈与の活用方法

生前贈与は、自社株を後継者・家族に少しずつ移転することで相続財産を減らす基本的な手法だ。2024年1月から制度が改正され、使い方に変化が生じている。
暦年贈与(毎年110万円)の仕組みと7年ルール改正の影響
暦年贈与は年間110万円の基礎控除内で贈与税をかけずに財産を移転できる制度。ただし、相続開始前の一定期間内に行った贈与は相続財産に加算される(生前贈与加算)。
2024年1月からこの加算期間が段階的に延長されている(出典: 国税庁「No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」確認日: 2026年6月12日)。
相続発生時期 | 加算対象となる贈与の期間 |
|---|---|
〜2026年12月31日 | 相続開始前3年以内 |
2027年1月1日〜2030年12月31日 | 相続開始前3年超〜段階的に延長 |
2031年1月1日以降 | 相続開始前7年以内 |
経過措置: 延長分(4〜7年目)の贈与については、合計100万円まで相続財産への加算が控除される。
実務上の重要な含意: 7年ルールが完全適用される2031年以降を見据えるなら、今すぐ贈与を始めなければ効果が薄くなる。特に70代以上のオーナーは時間的余裕が限られており、早急な着手が不可欠だ。
⚠️ 注意点: 毎年同額・同時期に振り込む「定期贈与」とみなされると、全体に贈与税が発生するリスクがある。また、贈与契約書なし・口座管理を贈与者が続けている場合は「名義預金」と税務調査で認定されるリスクがある。毎年の贈与契約書作成と、贈与を受けた側による口座管理が必須だ。
相続時精算課税制度(2024年改正後)の自社株への活用
相続時精算課税は、合計2,500万円まで贈与税なしで贈与でき、相続時に精算する制度。2024年1月から年間110万円の基礎控除が新設された(改正前はこの基礎控除が存在しなかった)。
2024年1月改正後の主な変更点:
- 年間110万円以内の贈与は非課税(この分は相続時の合算対象外)
- 2,500万円の特別控除は従来通り(超過部分は一律20%課税)
- 一度選択すると暦年課税に変更できない(取り消し不可)
(出典: 国税庁「相続税及び贈与税の税制改正のあらまし」令和5年6月 確認日: 2026年6月12日)
自社株への活用が向くケース:
- 今の株価が低く、将来的に上昇する見込みがある場合(低い評価額のまま大量移転できる)
- 早期に経営権を後継者に集中させたい場合
- 2028年の評価ルール見直し前に株式を移転したい場合
慎重に判断すべきケース:
- 株価が今後下落する可能性がある場合(下落後の価値が相続税評価に反映されてしまう)
- 将来M&Aによる売却を予定している場合(売却益が精算課税の相続財産に影響する)
暦年贈与 vs 相続時精算課税:どちらを選ぶか
比較項目 | 暦年贈与 | 相続時精算課税 |
|---|---|---|
非課税枠 | 年間110万円 | 特別控除2,500万円+年間110万円(2024年〜) |
税率 | 10〜55%(累進) | 超過部分は一律20% |
相続時の扱い | 7年以内分を加算(2031年〜) | 全額合算(年間110万円の基礎控除分を除く) |
取り消し | 可(毎年選択) | 不可(一度選択したら変更できない) |
自社株への向き | 少量を毎年移転したい場合 | 株価上昇前に大量を一括移転したい場合 |
主な注意点 | 名義預金・7年加算リスク | 株価下落リスク・小規模宅地特例が使えない |
(出典: アタックス税理士法人「贈与をつかった自社株の相続税対策」確認日: 2026年6月12日)
会社売却前の相続対策②:信託(家族信託・商事信託)の活用方法

信託は、財産の管理・処分権限を家族や信託会社に移す法的仕組みだ。生前贈与と異なり、議決権(経営権)の移転と受益権(財産を受け取る権利)を分離できるという大きな特徴がある。
家族信託(民事信託)で経営権を守りながら移転する
家族信託は、家族間で行う非営利目的の信託だ。典型的な設計は以下の通り。
- 委託者(オーナー経営者): 自社株式を信託財産として後継者(受託者)に渡す
- 受託者(後継者): 議決権を行使して会社の経営を担う
- 受益者(オーナー経営者または家族): 配当等の利益を受け取る権利を持ち続ける
この仕組みにより、オーナーが認知症になっても後継者が安定して経営を継続できる体制を作れる。
費用の目安: 信託財産の約1%程度(設定・公正証書作成費用)。財産規模によって数十万〜数百万円。なお費用は依頼する司法書士・弁護士により異なるため、複数の専門家から見積もりを取ることをすすめる。
家族信託が有効な場面:
- オーナーが認知症になるリスクへの経営継続対策
- 後継者に議決権(経営権)を渡しつつ、財産権はまだ手放したくない場合
- 相続発生前から後継者に経営権を移行させたい場合
家族信託の重要な制限:
- 相続税の直接的な節税効果は限定的(財産を移転する仕組みであり、税額自体を下げる効果は小さい)
- 事業承継税制の特例は使えない(信託財産化すると特例対象外になる)
商事信託(事業承継信託)との違い
商事信託は信託銀行・信託会社が有償で提供するサービスで、専門機関が介在することで法的安定性が高い。遺言代用型・他益型・後継ぎ遺贈型など複数の種類がある。
比較項目 | 家族信託(民事信託) | 商事信託(事業承継信託) |
|---|---|---|
実施者 | 家族間(非営利) | 信託銀行・信託会社 |
費用 | 設定時に財産の約1%程度 | 信託財産の0.1〜0.3%/年程度(管理費) |
相続税への直接効果 | 限定的 | 限定的 |
主な目的 | 認知症対策・経営権の安定継続 | 確実な株式承継・遺言代用 |
事業承継税制との組み合わせ | 使えない | 使えない |
注意点 | 相続税の直接節税には向かない | 費用がかかる。死亡後を前提にした設計が多い |
(出典: M&Aキャピタルパートナーズ「事業承継信託とは」確認日: 2026年6月12日)
費用の確認: 商事信託の管理費は信託銀行・信託会社により大きく異なる。正確な費用は各社に直接問い合わせること。
生前贈与と信託:目的別の選び方
- 相続税を直接減らしたい → 生前贈与(暦年贈与または相続時精算課税)
- 議決権を後継者に移しつつ、配当収入はまだ確保したい → 家族信託
- 認知症になっても会社経営が止まらないようにしたい → 家族信託
- 株価が低い今のうちに大量の株式を移転したい → 相続時精算課税による生前贈与
- 法的安定性を高めた形で確実に後継者に渡したい → 商事信託
会社売却後(現金になってから)の相続対策
会社を売却して現金を受け取った後は、相続財産の性質が「評価圧縮しやすい自社株」から「評価100%の現金」に変わる。この変化が売却後の相続対策の出発点だ。
売却後に取り得る主な相続対策
① 暦年贈与(年間110万円 × 複数の相続人へ)
最も基本的な対策。複数の相続人・家族に贈与することで年間の移転額を増やせる。例えば子ども3人に年間110万円ずつ贈与すれば、年間330万円を非課税で移転できる。7年ルールを踏まえると、できるだけ早く始めることが重要だ。
② 相続時精算課税(2024年改正後)の活用
2024年以降は年間110万円の基礎控除が新設されたため、長期的な活用では暦年贈与と同等の非課税効果が得られる。2,500万円の特別控除は早期に大量移転したい場合に有効。
③ 生命保険の活用
生命保険の死亡保険金には「500万円 × 法定相続人の人数」の非課税枠がある。現金を保険料として支払い、この非課税枠を活用するのは広く使われる手法だ。
④ 不動産等への資産替え(流動性低下に注意)
不動産は相続税評価額が購入価格より低くなるため、評価圧縮効果がある。ただし流動性が下がるため、「相続税を払うための現金が確保できるか」を必ず試算すること。
⑤ 孫への贈与(7年ルールの例外を活用)
孫は法定相続人でないため、原則として生前贈与加算(7年ルール)の対象外。ただし代襲相続人の孫は対象になる。また孫への贈与・遺贈には相続税の「2割加算」が適用される点に注意が必要だ。
売却前 vs 売却後の対策比較
比較項目 | 会社売却前(自社株保有中) | 会社売却後(現金保有中) |
|---|---|---|
財産の性質 | 非上場株式(評価圧縮の余地あり) | 現金(評価100%) |
主な対策手法 | 評価引き下げ・生前贈与・信託 | 暦年贈与・保険・不動産・信託 |
評価圧縮のしやすさ | 高い(評価方式によって圧縮可) | 低い(現金は評価100%) |
経営権の問題 | あり(誰が議決権を持つか) | なし(会社はすでに売却済み) |
事業承継税制 | 活用可(M&A予定がない場合) | 活用不可(すでに売却済み) |
信託の有用性 | 高い(経営権移転+認知症対策) | 中程度(財産管理・承継に活用) |
(出典: 三菱UFJ銀行「遺産相続と生前贈与の違い オーナー経営者が上手に資産承継する方法」確認日: 2026年6月12日)
事業承継税制を使うなら「M&A予定の有無」を先に確認すること
事業承継税制(非上場株式の特例措置)は、後継者への株式承継時に相続税・贈与税の大半を猶予・免除できる強力な制度だ。しかし、M&Aを予定しているオーナーには適さない可能性が高い。
事業承継税制後にM&Aを実施すると起きること
事業承継税制を使って株式を後継者に承継した後、M&Aでその株式を売却すると納税猶予が取り消されるケースがある。取り消された場合は、猶予されていた税額に加え、延滞税まで含めた全額を一括で支払わなければならない。
(出典: みつきコンサルティング「事業承継税制とM&Aの関係」https://mitsukijapan.com/ma/column/business-succession-taxation/ 確認日: 2026年6月12日)
⚠️ 実務上の判断基準: 「10〜20年以内にM&Aを実施する可能性がある」なら、事業承継税制は利用しないことを検討すべきだ。事業承継税制優先かM&A優先かは、税理士・会計士と十分に協議した上で決定すること。
事業承継税制(特例措置)の現在の期限(2026年6月時点)
令和8年度税制改正大綱により、特例承継計画の提出期限が延長された。
手続き | 期限 |
|---|---|
特例承継計画の提出 | 2027年9月30日(旧期限: 2026年3月31日から延長) |
贈与・相続の実施期限 | 2027年12月31日(この期限はこれ以上延長しない旨を明記) |
(出典: 令和8年度税制改正大綱 確認日: 2026年6月12日)
「提出期限が過ぎた」と諦めていたオーナーにも、2027年9月末まではチャンスがある。ただし、実施期限の2027年12月31日に向けてスケジュールを逆算する必要があり、余裕は多くない。
2026〜2028年に向けた重要な制度変更
現在進行中・施行予定の制度変更を把握していないと、対策が意図せず無効になる可能性がある。以下3点は特に重要だ。
① 非上場株式の相続税評価ルール見直し(2028年1月適用予定)
2026年4月から国税庁で「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」が開始された。現行の類似業種比準方式では、評価額が純資産価額の約27.2%にとどまる事例があり、この不均衡を是正する方向で議論が進んでいる。
スケジュール(現時点での予定):
- 2026年秋: 有識者会議取りまとめ
- 2026年12月: 税制改正大綱に反映
- 2027年4月: パブリックコメント
- 2028年1月: 新ルール適用開始
(出典: 国税庁有識者会議資料 2026年4月20日 https://www.nta.go.jp/about/council/nai-hyoka/20260420/pdf/01shiryo_kabukaigi.pdf 確認日: 2026年6月12日)
対策上の含意: 現行の類似業種比準方式による評価圧縮が使えなくなる可能性がある。「評価が低い今のうちに贈与や承継を進める」という判断が合理的になり得る。2026年秋の取りまとめを注視しつつ、専門家と早めに対策を相談しておくことをすすめる。
② 生前贈与加算の段階的な7年延長(2024年1月〜経過措置適用中)
2024年1月施行済みの改正。現在は経過措置が進行中であり、2031年1月以降の相続では相続開始前7年以内の贈与が加算対象となる。延長分(4〜7年目)は合計100万円まで控除がある。
③ 相続時精算課税への年間110万円基礎控除の新設(2024年1月〜)
2023年末まで年間の基礎控除がなかった相続時精算課税に、2024年1月から年間110万円の非課税枠が加わった。この分は相続時の合算対象外となり、制度の使い勝手が向上している。
(出典: 国税庁「相続税及び贈与税の税制改正のあらまし」令和5年6月 確認日: 2026年6月12日)
古い情報に注意: 相続時精算課税について「年間の基礎控除がない」と記載している記事は2023年以前の旧情報。また、生前贈与加算を「3年ルール」と紹介している記事も旧情報。2024年以降は上記改正が施行されている。
状況別の判断基準:どの対策があなたに向くか
こんなオーナーは今すぐ動くべき
以下の状況に当てはまる場合は、早急に専門家と相談することを強くすすめる。
- 60代以降で後継者が決まっていない
- 自社株評価が高く、万一の際に相続税を払う現金が足りない可能性がある
- M&A(会社売却)を5年以内に実施したいが、相続対策もセットで考えたい
- 2028年の非上場株評価ルール見直し前に生前贈与・承継を進めておきたい
手法別おすすめと向かないケース
手法 | こんなオーナーに向く | 向かない・注意すべきケース |
|---|---|---|
暦年贈与(年110万円) | 時間をかけて少しずつ移転したい・子どもや孫が複数いる | 70代以降で時間的余裕が少ない・高額資産を一気に移転したい |
相続時精算課税 | 株価が低い今のうちに大量移転したい・2,500万円を早期に一括承継したい | 株価下落リスクがある・暦年課税に戻す可能性が残っている |
家族信託 | 認知症対策が必要・議決権を移しつつ配当収入は確保したい | 相続税の直接節税が主目的(効果が限定的) |
商事信託 | 専門機関に任せて確実性を高めたい・遺言代用型の承継を希望する | コスト最小化が優先・事業承継税制との組み合わせを希望する |
事業承継税制 | M&A予定がなく、子・孫への事業承継を選択した | M&Aを10〜20年以内に実施する可能性がある |
M&A(会社売却) | 後継者がいない・株式を現金化して相続税納税資金を確保したい | 事業承継税制使用中(猶予取り消しリスク) |
組み合わせ時の注意点
- 「事業承継税制 + M&A(売却)」の組み合わせは原則NG → 猶予税額の取り消しリスク
- 「相続時精算課税 + 株価下落局面」は損になりやすい → 高い評価額で一択した後に株価が下落すると不利
- 「信託 + 事業承継税制の特例」は同時使用不可 → 信託財産化すると特例対象外になる
よくある質問(FAQ)
Q1. 生前贈与と信託、「相続税対策」として効果が高いのはどちらですか?
相続税を直接減らす効果は生前贈与(暦年贈与・相続時精算課税)が明確に上。信託は財産管理・経営権移転の仕組みであり、相続税の税額そのものを下げる効果は限定的だ。「相続税対策=生前贈与、経営権の安定的な移転・認知症対策=信託」という使い分けが基本になる。
Q2. 会社を売却すると決めた後でも、生前贈与を続ける意味はありますか?
ある。売却後の現金は評価100%で相続財産になるため、暦年贈与や相続時精算課税で少しずつ移転することが引き続き有効だ。7年ルールの経過措置を考えると、売却後もできるだけ早く贈与を開始・継続することが重要になる。
Q3. M&Aで会社を売ると、相続税はどうなりますか?
売却で得た現金は相続財産になり、評価100%で課税される。ただし、現金は「相続税の納税資金として使いやすい」という実務上のメリットがある。自社株のまま相続すると、株式を売却しないと納税資金を確保できないケースがあるため、M&Aで現金化することで相続税の支払い自体は楽になる面がある。
Q4. 孫への贈与は7年ルールの対象外と聞きましたが、本当ですか?
孫が法定相続人でない場合は、原則として生前贈与加算(7年ルール)の対象外となる。ただし、親が先に亡くなって孫が代襲相続人になっている場合は対象になる。また、孫への贈与・遺贈には相続税の「2割加算」が適用されることに注意が必要だ(出典: 国税庁「相続税の申告の仕方」確認日: 2026年6月12日)。
Q5. 事業承継税制の特例承継計画の提出期限は本当に延長されましたか?
はい。令和8年度税制改正大綱により、特例承継計画の提出期限が2027年9月30日に延長された。ただし、贈与・相続の実施期限は2027年12月31日で、この期限はこれ以上延長しない旨が大綱に明記されている(出典: 令和8年度税制改正大綱 確認日: 2026年6月12日)。
Q6. 相続時精算課税を一度選択すると取り消しできないのですか?
はい。相続時精算課税は一度選択すると、同一の贈与者からの贈与に関して暦年課税には戻せない(取り消し不可)。株価が下落する可能性がある場合や、将来の計画が不確定な場合は、選択前に税理士と十分に検討することが不可欠だ。
まとめ:相続対策は早期スタートが鍵。まず専門家に相談を
会社売却と相続対策に共通するのは、「時間が短ければ選択肢が狭まる」という事実だ。
- 暦年贈与の7年ルール: 早く始めるほど相続財産から除外できる金額が増える
- 相続時精算課税: 株価が低い今のうちに活用するほど効果が大きい
- 事業承継税制: 2027年12月31日の実施期限に向けてスケジュールを逆算する必要がある
- 非上場株評価の見直し: 2028年1月適用前に対策を打つかどうかの判断を急ぐ必要がある
M&Aによる会社売却と相続対策を同時進行させる場合は、税理士・M&A仲介会社・弁護士が連携した体制で進めることが重要だ。特に事業承継税制とM&Aの「組み合わせリスク」は、専門家なしに独自判断すると、猶予税額の一括請求という取り返しのつかない事態を招きかねない。
相続対策は「いつか始めよう」では間に合わない。まずはM&Aアドバイザーまたは税理士への相談から着手することをすすめる。
※税務・法務の詳細は専門家への相談をおすすめします。
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