会社とオーナー個人の間のお金と資産の混在は、原則としてM&Aの打診を始める前に整理します。 未整理のまま交渉に入っても売却自体はできますが、価格・スケジュール・買い手からの信頼のいずれかを必ず削ることになります。
整理すべき対象は、大きく3つです。①役員貸付金(会社がオーナーに貸している=会社の資産)、②役員借入金(オーナーが会社に貸している=会社の負債)、③役員社宅(会社名義の自宅、借上社宅、あるいはオーナー個人名義の物件を会社が使っている状態)。この3つは方向も税務上の論点もまったく違うのに、実務では同じ会社に同時に発生していることがほとんどです。
この記事でわかること:
- 役員貸付金・役員借入金・役員社宅の違いと、それぞれM&Aで何が問題になるのか
- 役員貸付金の解消方法7パターンと、それぞれが適するケース・適さないケース
- 認定利息の利率(令和8年分の取扱いと計算例)
- 役員借入金を「残して返済」する場合と「債務免除」する場合の手取り比較シミュレーション
- 役員社宅の賃貸料相当額の計算式と、80㎡マンションでの具体的な計算例
- オーナー個人名義の不動産を会社が使っている「逆パターン」への対応
- いつまでに何を終わらせるかの逆算スケジュールと、実行前チェックリスト
この記事は、会社の売却を検討していて、決算書に役員貸付金・役員借入金が載っている、あるいは自宅や本社が会社名義/個人名義で混在しているオーナー経営者に向けて書いています。
ご注意: 本記事は2026年8月14日時点で確認した国税庁・財務省・中小企業庁等の公表情報に基づく一般的な整理です。税務・法務の結論は、会社の資本構成、資産の内容、過去の経理処理、契約内容によって変わります。実際の判断と実行は、必ずM&A実務に精通した税理士・弁護士にご相談ください。
まず整理する3つの論点──「貸付金」と「借入金」は逆方向
最初にやるべきは、自社の決算書でどれに当てはまるかを確認することです。 「オーナー貸付金」という言葉は、会社から見た貸付なのか、オーナーから見た貸付なのかで意味が正反対になり、実務でも頻繁に混同されます。
項目 | 決算書上の位置 | お金の方向 | M&Aでの扱い | 原則的な対応 |
|---|---|---|---|---|
役員貸付金(オーナーへの貸付金・立替金・仮払金) | 貸借対照表の資産(借方) | 会社 → オーナー | 買い手は価値を認めない。実質はオーナーの個人債務 | クロージングまでに解消するのが原則 |
役員借入金(オーナーからの借入金・未払役員報酬) | 貸借対照表の負債(貸方) | オーナー → 会社 | 有利子負債として株式価値から控除されることが多い | 残して返済を受けるか、消すかを手取りで比較して選ぶ |
役員社宅(会社所有の自宅・借上社宅・個人名義物件の賃借) | 会社の固定資産 or 賃借契約 | 資産と居住の混在 | 非事業用資産・関連当事者取引として指摘対象 | 切り離すか、契約と家賃を適正化する |
役員貸付金は、勘定科目名が「貸付金」とは限りません。仮払金、立替金、未収入金、短期貸付金といった科目に、オーナー個人の支出や使途不明の出金が積み上がっているケースが実務では非常に多いです。まずは残高の中身を1件ずつ棚卸ししてください。
役員社宅も3つの型に分かれます。
- 会社所有の建物にオーナーが住んでいる(会社名義の自宅・分譲マンション)
- 会社が第三者から借りてオーナーに転貸している(借上社宅)
- オーナー個人所有の物件を会社が事務所・工場・店舗として借りている(逆パターン)
3番目は「社宅」とは呼びませんが、会社と個人の資産が混在しているという意味では同じ問題です。しかも本社や工場がオーナー個人名義というケースは中小企業で珍しくなく、買い手にとっては事業の根幹を売り手個人に握られたままになるため、実は最も重い論点になります。
関連記事: 売却前の決算書全体の整備は「M&A 売却前の財務クリーニング(簿外債務・在庫整理)」で解説しています。
なぜM&A前に整理が必要なのか──価格・時間・信用の3つに効く
理由は3つあります。価格が下がる、スケジュールが延びる、買い手の信頼を失う。この順で影響が大きくなります。
1. 価格:買い手は役員貸付金を「資産ゼロ」で評価する
中小企業のM&Aで一般的に使われる時価純資産法では、資産の含み損益や未計上債務を反映して修正純資産を算出します。マルチプル法(EBITDA倍率法)では、事業価値から純有利子負債を控除して株式価値を出します。
出典:中小機構 J-Net21「M&Aにおける企業価値の試算方法について教えてください」(確認日:2026年8月14日)
この構造の中で、役員貸付金は回収可能性が不明な資産として評価額ゼロに引き直されるのが通例です。つまり、貸付金3,000万円が計上されていれば、その分そのまま株式価値が下がります。逆に役員借入金は純有利子負債に含めて控除されるため、こちらも株式価値を押し下げます。
関連記事: 企業価値の算定方法そのものは「EBITDA倍率とは──M&A企業価値算定の基本」、価格の相場感は「会社売却はいくらで売れる?相場・算定方法」をご覧ください。
2. スケジュール:デューデリジェンスで必ず論点化する
役員貸付金の認定利息未計上、社宅家賃の徴収不足、オーナー個人の支出の経費混入は、税務デューデリジェンス(DD)で定番の指摘項目です。DD段階で発覚すると、追加資料の要求、過年度の修正計算、価格調整交渉、表明保証条項の追加といった作業が発生し、2週間から1か月以上のロスにつながります。
関連記事: DDで何を見られるかは「M&A DD(デューデリジェンス)売り手の準備チェックリスト」で詳しく整理しています。
3. 信用:「会社と個人が分離できていない会社」という評価
これはM&Aに限った話ではありません。全国銀行協会・日本商工会議所が事務局を務める「経営者保証に関するガイドライン」は、保証を不要とし得る経営状況の第一要件として「法人と経営者との関係の明確な区分・分離」を掲げ、法人の業務・経理・資産所有等について法人と経営者の関係を明確に区分・分離すること、および法人と経営者の間の資金のやりとり(役員報酬・賞与、配当、オーナーへの貸付等)を社会通念上適切な範囲を超えないものとする体制整備を求めています。
出典:全国銀行協会「経営者保証に関するガイドライン」(PDF)(確認日:2026年8月14日)
同ガイドラインでは、経営者個人所有の車を事業に使っている場合は法人名義への変更が望ましいこと、自宅兼事務所などで分離が困難な場合は弁護士・公認会計士・税理士に使用状況を検証してもらい結果を金融機関に開示することも示されています。
また、中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」(2024年8月30日公表、2025年1月1日適用)では、契約締結前に書面で説明すべき事項の明確化に加えて、譲り渡し側経営者の個人保証の取扱いに関する記載が追加されています。オーナー個人と法人の債権債務・保証の整理は、行政のガイドライン上も売り手側の重要論点として位置づけられていると理解しておくとよいでしょう。
出典:中小企業庁「中小M&Aガイドライン」、経済産業省「中小M&Aガイドライン(第3版)の策定について」(確認日:2026年8月14日)
関連記事: 個人保証の外し方は「会社売却時の個人保証・連帯保証の解除方法」で解説しています。
役員貸付金(会社→オーナー)の整理方法

結論から言えば、役員貸付金は原則としてクロージングまでにゼロにします。 M&Aの有無にかかわらず、放置しておくメリットが実質的にないためです。
放置するとどうなるか
リスク | 内容 |
|---|---|
株式価値の目減り | 買い手は評価額ゼロとみなし、その分を価格から差し引く |
売却後も債務が残る | 株式を譲渡しても貸付金は会社に残る。旧オーナーが新経営陣に借金している状態が続く |
認定利息の課税 | 無利息・低利で貸していると、適正利率との差額が役員給与として課税される |
賞与認定リスク | 長期間まったく返済がない場合、税務調査で役員賞与と認定され、損金不算入+源泉徴収漏れの指摘を受けることがある |
金融機関評価の低下 | 実質的な資産価値がないとみなされ、自己資本から控除して審査されることがある |
相続時の二重の問題 | オーナー側では債務、会社側では資産として、相続税・法人税の双方に影響する |
認定利息の利率と計算方法
国税庁タックスアンサーNo.2606では、役員または使用人に金銭を貸し付けた場合、所定の利率で計算した利息の額と実際に支払う利息の額との差額が、給与として課税されるとされています。
適用する利率は、会社が他から借り入れて貸し付けた場合はその借入金の利率、それ以外の場合は年ごとに定められた利率です。
貸付けを行った年 | 利率 |
|---|---|
平成22年〜25年 | 4.3% |
平成26年 | 1.9% |
平成27年〜28年 | 1.8% |
平成29年 | 1.7% |
平成30年〜令和2年 | 1.6% |
令和3年 | 1.0% |
令和4年〜令和7年 | 0.9% |
出典:国税庁 タックスアンサー No.2606「金銭を貸し付けたとき」(確認日:2026年8月14日/同ページは令和7年4月1日現在の法令等に基づく内容)
令和8年(2026年)分の利率は、現時点では確定情報として扱わないでください。 2025年11月28日に公布された財務省告示(租税特別措置法第93条第2項に基づく平均貸付割合の告示)により、令和8年の平均貸付割合は年0.8%とされています。認定利息の利率は利子税特例基準割合(平均貸付割合+0.5%)を参考に定められる建て付けであるため、令和8年分は年1.3%になると見込まれます(要確認)。ただし本記事の確認時点(2026年8月14日)で、国税庁タックスアンサーNo.2606は改訂前の内容のままです。実際に適用する利率は、国税庁の最新公表内容と顧問税理士への確認をもって確定させてください。
出典:財務省「延滞税等の割合の推移」(PDF)(確認日:2026年8月14日)
課税されない例外(No.2606) も押さえておきましょう。
- 災害や病気などで臨時に多額の生活資金が必要となった役員・使用人に、合理的と認められる返済期間で貸し付けた場合
- 会社の借入金の平均調達金利など、合理的と認められる貸付利率を定めて貸し付けた場合
- 上記以外で、利息の差額が1年間で5,000円以下である場合
計算例(令和8年分の想定利率1.3%で試算した場合): 役員貸付金の残高3,000万円を無利息で貸しているとすると、3,000万円 × 1.3% = 年39万円。この39万円が役員給与として課税対象になり、会社側には源泉徴収義務が生じます。3年分をまとめて指摘されれば、給与課税ベースだけで約117万円、これに源泉所得税の本税と加算税・延滞税が乗ります。金額そのものは大きくなくても、「経理が適正でない会社」という心証を買い手に与えることのほうがM&A上のダメージは大きくなります。
※上記は想定利率による試算です。適用年の利率は必ず国税庁の最新公表内容と顧問税理士に確認してください。
解消の7つの選択肢
方法 | 内容 | 適するケース | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
①個人資産で一括返済 | 預貯金・有価証券・不動産売却資金で返済する | 返済原資があり、交渉開始まで時間がある | 最もクリーン。DD前に完了していれば論点にならない |
②役員報酬から分割返済 | 毎月の役員報酬から天引きして返済する | 売却まで1年以上の余裕がある | 完済まで時間がかかる。報酬増額は法人税負担とセットで検討 |
③役員退職慰労金と相殺 | 退職慰労金の支給額から貸付金を差し引く | 売却と同時にオーナーが退任する | 過大役員退職給与は損金不算入。退職の事実認定にも注意 |
④役員借入金と相殺 | 貸付金と借入金の両方がある場合に相殺する | 双方が同時に計上されている | 相殺の合意書・取締役会議事録を必ず整備する |
⑤生命保険の解約返戻金を原資にする | 法人契約の保険を解約し、返戻金で処理する | 含み益のある法人保険がある | 解約返戻金は益金計上。株価と法人税に影響 |
⑥債権放棄(貸倒処理) | 会社が回収を放棄する | 実務上は最終手段 | 原則として役員給与(賞与)認定→損金不算入+源泉徴収。安易に選べない |
⑦譲渡代金でクロージング日に返済 | 株式譲渡代金を受け取り、同日に会社へ返済する | 手元資金がなく、売却が確定している | 契約書・資金移動の順序を事前に確定させる必要がある |
多くの中小企業で現実的なのは①・②・⑦の組み合わせです。 ③と④は使えれば有効ですが、退職慰労金の金額算定や議事録整備が伴うため、単独のスキームとして先に決め打ちしないほうが安全です。⑥は税負担が読みにくく、買い手からも「なぜこのタイミングで放棄したのか」を問われるため、原則として避けてください。
※どの方法を選ぶかは法人税・所得税・源泉所得税の三方向に影響します。実行前に必ず税理士に試算を依頼してください。
関連記事: 退職慰労金を使った整理は「M&A 役員退職慰労金の活用・節税ガイド」、保険の整理は「会社売却時の法人保険・役員退職金プランの整理」で解説しています。
クロージング当日に譲渡代金で返済する実務
⑦を選ぶ場合は、「誰から誰に、いくらを、どの順番で送金するか」を株式譲渡契約(SPA)の締結前に確定させてください。 当日に決めようとすると必ず揉めます。
実務では、次のような順序が一般的です。
- 買い手 → 売り手個人へ、株式譲渡代金を送金
- 売り手個人 → 対象会社へ、役員貸付金の元本+未収利息を返済
- 対象会社で入金確認、貸付金勘定の消込
- 残高証明・入金記録を買い手に提示
SPAには、クロージングの前提条件(CP)として「役員貸付金が全額返済されていること」が入るケースが多くあります。この場合、返済が完了しないとクロージング自体が成立しません。「売却代金が入らないと返せないが、返さないと売却が成立しない」という状態にならないよう、同日決済の段取りを仲介会社・弁護士と事前に詰めておく必要があります。
関連記事: 当日の流れは「M&A クロージングとは──手続き・流れ」、契約書の条項は「M&A SPA(株式譲渡契約書)とは」をご覧ください。
役員借入金(オーナー→会社)の整理方法

役員借入金は、貸付金と違って「必ず消すべきもの」ではありません。 むしろ、残したままクロージング時に返済を受けたほうが、手取りが増えるケースが多くあります。理由は、元本の返済は譲渡所得ではないため課税されないからです。
株式譲渡では買い手に自動的に引き継がれる
株式譲渡では会社の権利義務関係がそのまま存続するため、オーナーと会社の間の金銭消費貸借契約も自動的に承継されます。売却後、旧オーナーは新体制の会社に対する債権者という立場になります。
ここで実務上必要になるのが、返済のタイミングと方法を売買条件に明記しておくことです。何も決めずに売却すると、新経営陣が「資金繰りの都合で待ってほしい」と言い出したときに打つ手がなくなります。多くの案件では、株式譲渡代金とは別枠で、クロージング日に会社から一括返済するという条件が設計されます。
「残して返済」と「債務免除」で手取りはどう変わるか
数字で見たほうが早いので、単純化した試算例を示します。
前提条件
- 事業価値(役員借入金控除前の株式価値ベース):1億5,000万円
- 役員借入金:3,000万円(他に有利子負債なし)
- オーナーの株式取得費:1,000万円
- 譲渡所得への課税:20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)
- 法人実効税率:33%と仮定
パターンA:役員借入金を残したまま売却し、クロージング日に会社から返済を受ける
項目 | 金額 |
|---|---|
株式譲渡価格(1億5,000万円 − 3,000万円) | 1億2,000万円 |
譲渡所得(1億2,000万円 − 取得費1,000万円) | 1億1,000万円 |
譲渡所得税等(1億1,000万円 × 20.315%) | ▲2,234.7万円 |
株式譲渡による手取り | 9,765.3万円 |
役員借入金の返済(非課税) | +3,000万円 |
合計手取り | 約1億2,765万円 |
パターンB:売却前に債務免除(債権放棄)し、株価に載せて売却する(繰越欠損金なし)
項目 | 金額 |
|---|---|
会社に生じる債務免除益 | 3,000万円 |
法人税等(3,000万円 × 33%) | ▲990万円 |
株式譲渡価格(1億5,000万円 − 未払法人税990万円) | 1億4,010万円 |
譲渡所得(1億4,010万円 − 取得費1,000万円) | 1億3,010万円 |
譲渡所得税等(1億3,010万円 × 20.315%) | ▲2,642.4万円 |
合計手取り | 約1億1,368万円 |
パターンC:売却前に債務免除するが、繰越欠損金3,000万円があり法人税が生じない場合
項目 | 金額 |
|---|---|
債務免除益3,000万円 − 繰越欠損金3,000万円 | 課税所得なし |
株式譲渡価格 | 1億5,000万円 |
譲渡所得(1億5,000万円 − 取得費1,000万円) | 1億4,000万円 |
譲渡所得税等(1億4,000万円 × 20.315%) | ▲2,844.1万円 |
合計手取り | 約1億2,156万円 |
この試算からわかることは1つです。
債務免除をすると、本来なら非課税で回収できたはずの3,000万円が譲渡所得に置き換わり、20.315%(約609万円)が課税される。繰越欠損金がなければ、さらに法人税等の負担が上乗せされる。
パターンA(残して返済)が最も手取りが多く、Cとの差は約609万円、Bとの差は約1,398万円になりました。
ただし、パターンAが常に正解というわけではありません。 次のような場合は、事前の債務免除やDESを検討する余地があります。
- 債務超過を解消しないと買い手が現れない場合(債務超過の会社は候補が大きく絞られる)
- 繰越欠損金の期限切れが迫っており、免除益をぶつけて有効活用できる場合
- 買い手が「借入金付きの会社は買いたくない」と明確に言っている場合
- 金額が小さく(数百万円程度)、手続コストのほうが大きい場合
※上記は単純化した試算例です。実際には株式の取得費、繰越欠損金の残高と期限、他の有利子負債、消費税の課否、役員報酬との関係など多数の要素が絡みます。税務の詳細は必ず税理士に個別に試算を依頼してください。
関連記事: 手取り額の全体計算は「M&A 売却の手取り額シミュレーション・計算ガイド」、税率の詳細は「会社売却の税金・節税 完全ガイド」で解説しています。
DES(デット・エクイティ・スワップ)を選ぶ前に確認したいこと
DESは「借入金を資本に振り替えるだけ」ではありません。 検討する場合は、少なくとも次の3点を税理士と確認してください。
- 債務消滅益の認識 — 現物出資される債権の時価が券面額を下回る場合、その差額が債務消滅益として益金に計上されます。会社の財政状態が悪いほど時価は下がるため、債務超過会社ほど益金が大きくなるという逆説的な結果になります。
- 資本金増加による副作用 — 資本金が増えることで、法人住民税の均等割が上がる、中小企業向けの軽減税率や特例措置の適用対象から外れる、といった影響が出ることがあります。
- 既存株主へのみなし贈与 — オーナー以外に株主がいる場合、DESによって他の株主が保有する株式の価値が上がると、みなし贈与として課税される可能性があります。
DESは選択肢としては存在しますが、中小企業のM&A準備において第一候補になることは多くありません。まずはパターンAとBの比較から始めるのが実務的です。
役員社宅の整理方法

役員社宅で問われるのは2つです。①賃貸料相当額以上の家賃を役員から受け取っているか、②その物件を売却対象に含めるのか外すのか。 ①は税務DDで、②はスキーム設計で必ず論点になります。
賃貸料相当額はいくらか
国税庁タックスアンサーNo.2600によれば、役員に社宅を貸す場合、1か月あたり「賃貸料相当額」以上を受け取っていれば給与として課税されません。無償で貸していれば賃貸料相当額の全額が、賃貸料相当額より低い家賃なら差額が、給与として課税されます。
まず、小規模な住宅に当たるかを判定します。
建物の法定耐用年数 | 小規模な住宅とされる床面積 |
|---|---|
30年以下 | 132㎡以下 |
30年超 | 99㎡以下 |
※区分所有の建物は、共用部分の床面積を按分して加えた面積で判定します。
小規模な住宅の場合の賃貸料相当額は、次の①〜③の合計額です。
- その年度の建物の固定資産税の課税標準額 × 0.2%
- 12円 ×(その建物の総床面積㎡ ÷ 3.3㎡)
- その年度の敷地の固定資産税の課税標準額 × 0.22%
小規模な住宅に当たらない場合は、次のように計算します。
- 自社所有の社宅 …(建物の固定資産税課税標準額 × 12%[法定耐用年数30年超なら10%]+ 敷地の固定資産税課税標準額 × 6%)× 1/12
- 他から借り受けた社宅 … 会社が支払う家賃の50%と、上記算式で計算した額のいずれか多いほうの金額
豪華社宅(床面積240㎡超のもののうち、取得価額・支払賃貸料・内外装の状況等を総合勘案して判定。プール等の設備がある場合は240㎡以下でも該当し得る)に該当すると上記の算式は使えず、通常支払うべき使用料に相当する額、つまり近隣相場並みの家賃が賃貸料相当額になります。
出典:国税庁 タックスアンサー No.2600「役員に社宅などを貸したとき」(確認日:2026年8月14日)
なお、従業員(使用人)に社宅を貸す場合は、賃貸料相当額の50%以上を受け取っていれば差額は給与課税されません。役員にはこの50%ルールが使えない点が決定的な違いです。
出典:国税庁 タックスアンサー No.2597「使用人に社宅や寮などを貸したとき」(確認日:2026年8月14日)
計算例:80㎡の会社所有マンションにオーナーが住んでいる場合
前提条件
- 鉄筋コンクリート造マンション(法定耐用年数47年=30年超)
- 床面積80㎡ → 99㎡以下なので小規模な住宅に該当
- 建物の固定資産税課税標準額:1,200万円
- 敷地(按分後)の固定資産税課税標準額:800万円
計算項目 | 計算式 | 金額 |
|---|---|---|
① 建物 | 1,200万円 × 0.2% | 24,000円 |
② 床面積 | 12円 ×(80㎡ ÷ 3.3㎡) | 約291円 |
③ 敷地 | 800万円 × 0.22% | 17,600円 |
賃貸料相当額(月額) | ①+②+③ | 約41,900円 |
このケースでは、役員から月41,900円以上を受け取っていれば給与課税は生じません。近隣の相場家賃が月20万円の物件であっても、算式上の賃貸料相当額はこの水準です。逆に、家賃をまったく徴収していなければ年間約50万円が役員給与として課税され、会社には源泉徴収義務が生じます。
参考:小規模な住宅に当たらない場合(自社所有、床面積150㎡、法定耐用年数30年超、建物課税標準額3,000万円、敷地課税標準額2,000万円)
(3,000万円 × 10% + 2,000万円 × 6%)× 1/12 =(300万円+120万円)÷ 12 = 月35万円
同じ「会社所有の社宅」でも、面積基準を1㎡超えるだけで賃貸料相当額が桁違いに変わります。まず面積を測って判定するところから始めてください。
※固定資産税の課税標準額は、市区町村から届く固定資産税の課税明細書、または固定資産評価証明書で確認できます。判定と計算の最終確認は顧問税理士に依頼してください。
借上社宅(会社が借りて役員に転貸している場合)
借上社宅では、「会社が払う家賃の50%」と「算式で計算した額」のいずれか多いほうが賃貸料相当額になります(小規模な住宅に当たる場合は算式のみで判定します)。
M&Aで論点になりやすいのは次の2点です。
- 賃貸借契約の名義が会社になっている — 売却後もオーナーが住み続けるなら、名義をオーナー個人に変更するか、退去するかを決めておく必要があります。買い手が「旧オーナーが住む部屋の家賃を会社が払い続ける」状態を引き継ぐことは、まずありません。
- 水道光熱費・管理費・修繕費を会社が負担している — これらは賃貸料相当額とは別の経済的利益として、給与課税の対象になり得ます。DDで通帳と経費明細を突き合わせれば簡単に見つかります。
オーナー個人所有の物件を会社が使っている「逆パターン」
本社・工場・店舗の土地建物がオーナー個人名義で、会社が賃借している。中小企業では非常に多い形ですが、買い手にとっては最も気になる論点です。 売却後に賃貸借契約を解除されれば、事業そのものが止まるためです。
対応は次の3つのいずれかを、打診前に決めておく必要があります。
対応 | 内容 | 適するケース | 注意点 |
|---|---|---|---|
①会社(または買い手)が買い取る | M&Aと同時に、または前後して所有権を移す | 買い手が不動産の保有を望む。オーナーが手放してよい | 個人→法人の譲渡が時価の1/2未満だと、時価で譲渡したものとみなして譲渡所得を計算する(みなし譲渡)。高すぎれば法人側で寄付金・役員給与認定のリスク |
②長期の賃貸借契約を締結し直す | 契約期間・更新条件・解約条件を明確化する | オーナーが賃料収入を残したい | 期間が短い、口頭契約、更新条項が曖昧といった状態は必ず是正する |
③賃料を近隣相場に是正する | 過大/過小な賃料を適正水準に直す | 相場と乖離している | 賃料が高すぎれば役員給与認定、安すぎれば会社側の受贈益の論点になる |
みなし譲渡の根拠は所得税法第59条・同施行令第169条で、個人が法人へ時価の2分の1未満の対価で譲渡した場合、時価で譲渡したものとみなして譲渡所得を計算するとされています。
出典:国税庁 タックスアンサー No.3217「時価より低い価額で売ったとき」(確認日:2026年8月14日)
契約書が存在しないケースも珍しくありません。 その場合は、DD開始前に賃貸借契約書を作成し、直近の賃料の授受記録とあわせて提出できる状態にしておいてください。「実態はあるが書面がない」は、買い手にとって最もリスクが読めない状態です。契約書の作成・是正は弁護士に依頼するのが確実です。
会社所有の社宅をオーナーが買い取るときの税金
社宅を売却対象から外す最も一般的な方法は、オーナー個人が時価で買い取ることです。 ただし、動かせば税金がかかります。
税目 | 誰にかかるか | 内容(2026年8月14日確認時点) |
|---|---|---|
法人税等 | 会社 | 簿価と時価の差額(譲渡益)に課税。含み益が大きいほど負担が重い |
役員給与認定 | 会社・オーナー | 時価より著しく低い価額で譲渡すると、差額が役員給与(原則損金不算入)または寄付金として扱われ、オーナー側も経済的利益として給与課税される |
消費税 | 会社 | 建物部分は課税取引(土地は非課税)。課税事業者なら消費税負担が発生する |
不動産取得税 | オーナー | 本則4%。令和9年3月31日までに取得する土地および住宅は3%に軽減。住宅以外の家屋(店舗・事務所・倉庫等)は4%。宅地は同日まで課税標準を1/2に軽減 |
登録免許税 | オーナー | 所有権移転登記に課税 |
印紙税 | 双方 | 不動産譲渡契約書に契約金額に応じて課税 |
出典:国税庁 タックスアンサー No.3217、東京都主税局「不動産取得税」(確認日:2026年8月14日)
※不動産取得税は都道府県税です。税率・特例の運用や申告書式は都道府県ごとに案内が異なるため、実行前に物件所在地の都道府県の公式サイトまたは県税事務所で確認してください。軽減措置の適用期限は税制改正により変わり得ます。税務・法務の詳細は専門家への相談をおすすめします。
時価の決め方は実務上の悩みどころですが、目安は次の通りです。
- 土地・建物 … 相続税路線価や固定資産税評価額を一定のルールで割り戻した金額を用いるのが実務的。金額が大きい場合は不動産鑑定評価を取得する
- 収益用不動産 … 近隣の売買事例、収益還元価額
- 車両 … 中古車買取業者の見積額
- 保険契約 … 解約返戻金の額
買い取り資金が用意できない場合は、役員退職慰労金の一部を不動産で現物支給する方法や、資産が複数あるなら分割型分割で別会社に移す方法も選択肢になります。
関連記事: 不動産・社用資産の切り離し手法は「M&A前の遊休不動産・社用資産の切り離しガイド」、社用車やゴルフ会員権の処理は「社用車・ゴルフ会員権・保養所の処理ガイド」で解説しています。
デューデリジェンスで実際に指摘されるポイント
買い手のDDチームは、通帳・総勘定元帳・固定資産台帳・議事録を突き合わせて、会社と個人の資金の流れを追います。 実務では、次の項目はほぼ確実に確認されます。
- 役員貸付金・仮払金・立替金の残高の内訳と発生原因、直近3年の増減
- 役員貸付金に対する認定利息の計上有無(未計上なら源泉所得税・法人税の指摘対象)
- 長期にわたり返済実績がない貸付金の回収可能性と賞与認定リスク
- 役員社宅の賃貸料相当額の計算根拠と、実際に徴収している家賃の額
- 豪華社宅該当の判定漏れ
- 社宅の水道光熱費・修繕費・固定資産税を会社が負担していないか
- オーナー個人のカード払い・旅費・交際費が会社経費に混入していないか
- オーナー・親族・関係会社との関連当事者取引の網羅的な開示
- ゴルフ会員権・別荘・社用車・美術品の名義と実態の一致
- オーナー個人名義の事業用不動産についての賃貸借契約書の有無と賃料水準
「指摘されないようにする」のではなく、「先に自分から開示する」のが正解です。 未整理の項目があっても、経緯と是正計画を先に説明していれば、価格交渉の材料にはなっても信頼の毀損にはなりません。逆に、DDで買い手が先に見つけると、他の開示内容まで疑われます。
関連記事: 開示すべき資料の全体像は「M&A DD(デューデリジェンス)売り手の準備チェックリスト」、隠れた債務の論点は「M&A 簿外債務・偶発債務とは」をご覧ください。
いつまでに何を終わらせるか──逆算スケジュール

目安は「打診の12か月前に着手、DD開始までに完了」です。 決算期をまたぐ処理が多いため、想像よりも時間がかかります。
時期 | やること | ゴール |
|---|---|---|
打診の12か月前〜 | 残高の棚卸し(貸付金・借入金の内訳確認)、社宅の面積・固定資産税課税標準額の確認、個人名義不動産の洗い出し、返済原資の目処づけ | 「何がいくらあるか」を1枚に整理 |
打診の6〜12か月前 | 役員報酬からの分割返済開始、社宅家賃の是正(賃貸料相当額の計算と徴収開始)、認定利息の計上開始 | 決算書に是正後の姿が反映される |
打診〜基本合意前 | 役員借入金の扱い方針を決定(残すか消すか)、個人名義不動産の対応方針を決定、買い取りが必要なら時価算定に着手 | 買い手に方針を説明できる状態 |
基本合意〜DD開始前 | 貸付金の返済完了(または返済計画の書面化)、賃貸借契約書・議事録・時価資料の整備、開示資料一式の準備 | DDで論点が新たに出ない状態 |
クロージング当日 | 譲渡代金による貸付金返済、役員借入金の返済、社宅の所有権移転登記(同日実行の場合) | 会社に個人債権債務が残らない |
売却後 | 個人名義不動産の賃貸借契約の履行、退任後の社宅退去または名義変更 | 契約どおりに運用される |
「もう打診してしまった」という場合でも、着手が遅すぎるということはありません。 基本合意までに方針を固め、DD前に書面を揃えられれば、実務上は十分に間に合います。むしろ最悪なのは、方針が決まらないままDDに突入することです。
関連記事: 売却全体の期間感は「M&A 売却にかかる期間・タイムライン」、準備項目の全体像は「会社売却 準備チェックリスト」で解説しています。
実行前チェックリスト
打ち合わせ前に、次の項目を確認して埋めてください。埋まらない欄がある時点で、それが最初にやるべきことです。
役員貸付金
- 貸付金・仮払金・立替金・未収入金の残高合計はいくらか
- その内訳(いつ・何のために発生したか)を説明できるか
- 金銭消費貸借契約書はあるか。取締役会(株主総会)議事録はあるか
- 認定利息を毎期計上しているか。利率の根拠は何か
- 直近3年間に返済実績があるか
- クロージングまでに全額返済できる原資と方法が決まっているか
役員借入金
- 残高合計はいくらか。契約書・議事録はあるか
- 利息を支払っているか。支払っている場合、オーナー側で雑所得として申告しているか
- 「残して返済」と「事前に消す」で手取りを試算したか
- クロージング時の返済条件を売買条件に含める合意があるか
役員社宅
- 床面積は何㎡か。法定耐用年数は30年超か以下か
- 建物・敷地の固定資産税課税標準額はいくらか(課税明細書で確認)
- 賃貸料相当額を計算したか。実際の徴収額は上回っているか
- 240㎡超、またはプール等の設備がある物件はないか
- 水道光熱費・修繕費・管理費を会社が負担していないか
- 売却対象に含めるのか、切り離すのかを決めたか
- 切り離す場合、時価算定と買い取り資金の手当てはできているか
個人名義の事業用不動産
- 会社が使用している個人名義の不動産(本社・工場・店舗・駐車場)を洗い出したか
- 賃貸借契約書はあるか。期間・更新条件・解約条件は明確か
- 賃料は近隣相場と比べて妥当か
- 売却後の扱い(買い取り/賃貸継続)を決めたか
その他
- オーナー個人の支出が会社経費に混入していないか
- 社用車・ゴルフ会員権・保険契約の名義と実態は一致しているか
- 親族・関係会社との取引を一覧化できているか
早めに着手すべき企業/急がなくてよいケース
早めに着手すべき企業
- 役員貸付金が純資産の10%以上ある — 価格交渉で必ず論点になります。金額が大きいほど返済原資の準備に時間がかかります
- 認定利息を一度も計上したことがない — 過年度の是正が必要になる可能性があります。決算期をまたぐ処理になるため早期着手が有利です
- 社宅の家賃を徴収していない、または金額の根拠がない — 源泉徴収漏れの指摘対象です。計算根拠を作るところから始めてください
- 本社・工場がオーナー個人名義 — 買い手の意思決定に直結します。方針が決まっていないと打診自体が進みません
- 床面積240㎡超の会社所有物件にオーナーが住んでいる — 豪華社宅該当の判定が必要です。近隣相場並みの家賃徴収が求められる可能性があります
- 経営者保証の解除も同時に進めたい — 会社と個人の分離は保証解除の前提要件でもあります
急がなくてよい、または整理しないほうがよいケース
- 金額が小さい(数十万円程度) — 返済して消せば済みます。凝ったスキームを検討するコストのほうが高くつきます
- 役員借入金だけがあり、貸付金・社宅の論点がない — 残したままクロージング時に返済を受けるほうが手取りが増えるケースが多いため、慌てて債務免除しないでください
- 社宅を買い手がそのまま引き継ぐ意向を示している — 従業員用の社宅として活用される場合など。切り離すと逆に流通税と買い取り資金が無駄になります
- 含み益が大きい不動産で、切り離しコストが価格上昇分を上回る — 法人税・消費税・不動産取得税・登録免許税を合計すると、そのまま引き継いでもらったほうが有利なことがあります
判断の軸は「買い手が欲しがるか/オーナーが手元に残したいか」の2つです。 どちらも「いいえ」なら切り離す、どちらも「はい」なら売却対象に含める、意見が割れるなら価格に反映させて交渉する、というのが実務の整理の仕方です。
よくある質問
Q. 役員貸付金を返済せずに売却することはできますか。
制度上は可能です。買い手が「貸付金を資産価値ゼロとして評価したうえで、旧オーナーが売却後も分割返済する」ことに同意すれば成立します。ただし、返済条件・遅延時の取扱い・連帯保証の要否をSPAや別途の合意書に明記する必要があり、交渉項目が増えます。また、売却後も旧オーナーが新経営陣に対して債務を負い続けるため、精神的な負担も残ります。実務では、クロージング時に譲渡代金で一括返済する形に落ち着くケースが大半です。
Q. 認定利息は、過去の分もさかのぼって計上し直す必要がありますか。
一律に「何年分」と決まっているものではなく、金額の重要性、税務調査の対象期間、修正申告の要否などを踏まえた個別判断になります。実務では、顧問税理士と相談のうえ、当期からの計上開始にとどめるか、過年度分を修正申告するかを決めることになります。M&Aの局面では、買い手側に「いつから、どういう理由でこう処理している」と説明できる状態にしておくことが重要です。
Q. 役員借入金の利息を受け取っている場合、個人側の申告はどうなりますか。
会社から受け取る利息は、原則としてオーナー個人の雑所得として総合課税の対象になります(預貯金の利子とは異なり、源泉分離課税ではありません)。無申告のまま長年経過しているケースがDDで発覚することがあるため、契約書と申告状況を事前に確認してください。
Q. 社宅を売却対象に含めたまま、売却後もそのまま住み続けることはできますか。
買い手の同意があれば可能ですが、その場合は賃貸料相当額以上の家賃を新会社に支払うか、通常の賃貸借契約に切り替える必要があります。旧オーナーが役員を退任すれば「役員社宅」ではなくなるため、第三者との賃貸借として相場家賃での契約が求められるのが自然です。売却後のトラブルを避けるため、居住継続の条件はSPA交渉の段階で書面化してください。
Q. 妻や子どもが役員になっていて、その人たちにも貸付金があります。同じ扱いですか。
役員である以上、認定利息・社宅の賃貸料相当額の考え方は同じです。ただし、実態として勤務実績のない親族役員への報酬・貸付は、DDで「不相当に高額な役員給与」「事業に関係のない支出」として指摘されやすい項目です。売却前に役員構成と報酬の妥当性を整理しておくことをおすすめします。
Q. まず誰に相談すればよいですか。
残高の把握と税務処理の是正は顧問税理士、契約書の整備は弁護士、売却スキーム全体の設計はM&A仲介会社またはFAが担当領域です。ただし、顧問税理士がM&A実務に慣れていない場合、認定利息やみなし譲渡の論点で判断が分かれることがあります。金額が大きい案件では、M&A税務に精通した税理士へのセカンドオピニオンを検討してください。
関連記事: 相談先の選び方は「M&Aの相談先一覧(税理士・銀行・仲介会社)」、仲介会社の選定基準は「M&A仲介会社の選び方ガイド」で解説しています。
まとめ
- 役員貸付金(会社→オーナー)は、原則クロージングまでにゼロにする。 買い手は評価額ゼロとみなすため株価が下がり、放置すれば認定利息・賞与認定のリスクも残ります
- 役員借入金(オーナー→会社)は、必ずしも消す必要はない。 元本の返済は課税されないため、残してクロージング時に返済を受けたほうが手取りが増えるケースが多く、本記事の試算例では債務免除との差が数百万円〜1,000万円超になりました
- 役員社宅は、まず床面積を測って「小規模な住宅」に当たるかを判定する。 該当すれば賃貸料相当額は算式で計算でき、月数万円の徴収で給与課税を避けられます。240㎡超は豪華社宅の判定が別途必要です
- 本社・工場がオーナー個人名義の「逆パターン」は、打診前に方針を決める。 買い取り・長期契約の再締結・賃料是正のいずれかを選び、契約書を整備してください
- 着手の目安は打診の12か月前、完了はDD開始前。 決算期をまたぐ処理が多いため、思っているより時間がかかります
会社と個人のお金の混在は、多くの中小企業にとって「昔からそうだった」だけの話であり、悪意があるわけではありません。ただ、買い手から見れば数字の裏側が読めない状態です。早めに手をつけるほど、価格でも交渉でも有利になります。
本記事の内容は、2026年8月14日時点で確認した公表情報に基づく一般的な整理です。個別の税務・法務判断は、会社の状況によって結論が変わります。実際の処理と実行にあたっては、必ず税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
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