会社売却の株主総会・特別決議 完全ガイド|株式譲渡は不要?必要なケースと3分の2の意味
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会社売却の株主総会・特別決議 完全ガイド|株式譲渡は不要?必要なケースと3分の2の意味

会社売却で株主総会の特別決議が必要になるのは事業譲渡・組織再編の場合。株式譲渡なら原則不要です。スキーム別の早見表、3分の2要件の正確な意味、議事録の作り方、3分の2が取れないときの対処法まで条文根拠付きで解説。

M&A比較レビュー編集部2026/7/1211分で読める

中小企業のM&Aで最も多い「株式譲渡」(オーナーが自分の持ち株を買い手に売る方法)では、株主総会の特別決議は原則として不要です。 必要なのは譲渡承認の決議で、取締役会設置会社なら取締役会、非設置会社なら株主総会の普通決議で足ります(会社法139条1項)。

一方、「事業譲渡」や「会社分割・株式交換・合併」で会社を売る場合は、売り手側に株主総会の特別決議が必要です(会社法467条1項、783条1項)。つまり「会社売却=必ず特別決議」ではなく、どのスキームで売るかによって必要な決議が変わります。

この記事でわかること:

  • 売却スキーム別に「特別決議が必要か」がひと目でわかる早見表
  • 特別決議の「3分の2」が何を指すのか(頭数ではなく議決権)
  • 見落としやすい「クロージング当日の臨時株主総会」で発生する特別決議
  • 株主総会の招集から議事録の10年保存までの手順と期限
  • 少数株主がいて3分の2を確保できないときの実務的な対処法
  • 決議を怠った場合に何が起きるか(決議取消しの訴え・事業譲渡の無効)

この記事は、自社の売却を検討している中小企業のオーナー経営者向けです。 「株主総会なんて何年も開いていない」「親族に少しだけ株を持たせている」という会社ほど、M&Aの手続きでつまずきます。何が必要で、何が不要なのかを条文根拠付きで整理します。

注意: 本記事は会社法の条文および公的資料に基づく一般的な解説です。「重要な一部の譲渡」に当たるかどうかの判断、決議の瑕疵の有無、少数株主対応の実行可否といった個別の法的判断は、必ず弁護士・司法書士にご相談ください。登記手続きは司法書士、税務は税理士の領域です。

【結論】会社売却で特別決議が必要になるケース早見表

会社売却のスキーム別に必要な株主総会決議を検討する経営会議のイメージ

売り手(あなたの会社/あなた自身)の立場で、どの決議が必要になるかを整理すると次のとおりです。

売却スキーム

売り手側で必要な決議

特別決議か

根拠条文

株式譲渡(オーナーが持ち株を売る)

譲渡承認決議(取締役会 or 株主総会の普通決議)

原則不要

会社法139条1項

事業譲渡(全部)

株主総会の承認

必要

467条1項1号、309条2項11号

事業譲渡(重要な一部)

株主総会の承認(総資産の5分の1超のとき)

必要

467条1項2号

子会社株式の譲渡(親会社が売る)

株主総会の承認(一定要件を満たすとき)

必要

467条1項2号の2

会社分割・株式交換・合併

株主総会の承認

必要

783条1項、309条2項12号

クロージング日の商号変更・目的変更(定款変更)

株主総会の承認

必要

466条、309条2項11号

(出典: 会社法/e-Gov法令検索、2026年7月13日確認)

ここから読み取れる実務上のポイントは3つです。

  1. 株式譲渡でのM&Aなら、特別決議のハードル(3分の2)は原則として関係ない。 ただし譲渡承認の決議と、その議事録は必須です。
  2. 事業譲渡・組織再編を選ぶなら、議決権の3分の2を押さえられるかが売却可否を左右する。
  3. 株式譲渡であっても、クロージング当日に商号変更や監査役の解任を行うなら、そこで特別決議が発生する。 ここを見落として当日バタつくケースが多く見られます。

スキームそのものの選び方については「株式譲渡 vs 事業譲渡 どっちがいい?メリット・デメリット比較」で詳しく解説しています。スキーム全体を横断して比べたい方は「M&Aスキームとは 種類・選び方ガイド」を、売却全体の流れは「会社売却とは・流れ完全ガイド」をご覧ください。

特別決議とは — 「3分の2」の正確な意味

株主総会の特別決議で議決権の3分の2以上の賛成を集める場面のイメージ

特別決議とは、議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成で成立する決議です(会社法309条2項)。普通決議より要件が重く、会社の基礎的な変更に関わる事項に使われます。

定足数と決議要件を分けて理解する

項目

特別決議

普通決議

定足数(出席要件)

議決権の過半数を持つ株主の出席。定款で3分の1以上まで引下げ可

議決権の過半数を持つ株主の出席。定款で撤廃可(中小企業ではほぼ撤廃済み)

決議要件(賛成要件)

出席株主の議決権の3分の2以上

出席株主の議決権の過半数

定款による加重

3分の2を上回る割合に引上げ可。「一定数以上の株主の賛成」等の上乗せも可

加重可

定款による緩和

3分の2未満への引下げは不可

根拠

309条2項

309条1項

(出典: 会社法309条/e-Gov法令検索、2026年7月13日確認)

よくある誤解: 「3分の2」は株主の人数ではない

3分の2は「議決権の数」で数えます。株主の頭数ではありません。

  • 原則として1株につき1議決権(会社法308条1項)
  • 自己株式(会社が持っている自社株)には議決権がありません(308条2項)。分母から外して計算します
  • 単元株制度を採用している場合は、1単元につき1議決権

たとえば発行済株式1,000株のうち自己株式が100株ある会社では、議決権のある株式は900株です。特別決議の可決に必要な賛成は、全株主が出席した場合で600株分(900株の3分の2)となります。

最初にやるべきことは「自社の定款の確認」

会社法は多くの場面で「定款で別段の定めができる」としています。定足数の引下げ、決議要件の加重、譲渡承認機関の変更、招集通知期間の短縮——いずれも定款次第で扱いが変わります。

M&Aの検討を始めたら、まず定款の原本を確認してください。 「登記簿は取ったが定款が見当たらない」という会社は珍しくありませんが、デューデリジェンス(買い手による調査)では必ず提出を求められます。定款・登記・株主名簿の整備手順は「M&A売却前の登記・株主名簿整備 チェックリスト」に、準備すべき書類全般は「M&A DD 売り手の準備チェックリスト」にまとめています。

【株式譲渡で売る場合】特別決議は原則不要。必要なのは「譲渡承認」

株式譲渡でM&Aを行う場合、売り手側で必要なのは「譲渡承認」の決議であり、特別決議ではありません。

非上場の中小企業のほぼすべては、定款で全株式に譲渡制限を設けています(いわゆる譲渡制限株式)。この株式を第三者に譲渡するには、会社の承認が必要です。

承認機関はどこか(会社法139条1項)

会社の類型

承認機関

決議の種類

取締役会設置会社

取締役会

取締役会決議(過半数出席・過半数賛成)。株主総会は不要

取締役会非設置会社

株主総会

普通決議。特別決議ではない

定款に別段の定めがある場合

定款の定めによる(例: 代表取締役の承認で足りる)

(出典: 会社法139条1項/e-Gov法令検索、2026年7月13日確認)

手続きの流れ

  1. 譲渡承認請求 — 株主(売り手オーナー)が会社に対し、譲渡の承認を求める
  2. 承認機関の決議 — 取締役会または株主総会で承認を決議
  3. 承認の通知 — 会社が請求者に結果を通知
  4. 株主名簿の書換え — 買い手を株主として記載
  5. 議事録の作成・保存

注意すべきは「みなし承認」です。 譲渡承認請求の日から2週間以内に会社が承認・不承認を通知しない場合、承認したものとみなされます(会社法145条1号。定款で期間短縮可)。放置してよいという意味ではなく、議事録が残らないことがDDでの指摘対象になります。

例外: 親会社としてグループ会社を売る場合は特別決議が必要になりうる

あなたの会社が「親会社」として子会社株式を売却する場合は、株式譲渡でも親会社側で株主総会の特別決議が必要になることがあります。

会社法467条1項2号の2により、次の2要件を両方満たす子会社株式の譲渡は、事業譲渡と同様に株主総会の承認(特別決議)が必要です。

  • 譲渡する株式等の帳簿価額が、親会社の総資産額の5分の1を超える
  • 効力発生日に、親会社が当該子会社の議決権の過半数を有しなくなる

グループ会社の一部だけを売る事業再編では、見落としやすいポイントです。

株式譲渡の基本は「株式譲渡とは わかりやすく解説」で解説しています。

【事業譲渡で売る場合】特別決議が必要(会社法467条)

事業譲渡で会社(または事業)を売る場合、売り手側は効力発生日の前日までに株主総会の特別決議で契約の承認を受けなければなりません(会社法467条1項)。

特別決議が必要な行為(467条1項)

対象行為

補足

1号

事業の全部の譲渡

例外なく必要

2号

事業の重要な一部の譲渡

譲り渡す資産の帳簿価額が総資産額の5分の1以下なら不要(定款で引下げ可)

2号の2

子会社株式・持分の譲渡

帳簿価額が総資産の5分の1超 かつ 譲渡後に議決権の過半数を失う場合

3号

他の会社の事業全部の譲受け

買い手側の決議

4号

事業全部の賃貸・経営委任・損益共通契約等

5号

設立後2年以内の事後設立

純資産額の5分の1超のとき

(出典: 会社法467条/e-Gov法令検索、2026年7月13日確認)

「総資産額の5分の1」の計算方法に要注意

ここは実務で最も誤解が多い箇所です。「純資産の5分の1」ではありません。

会社法施行規則134条1項は、総資産額を次のように定めています(要約)。

資本金+資本準備金+利益準備金+剰余金+評価・換算差額等+株式引受権+新株予約権+最終事業年度末日の負債計上額+(吸収合併等による承継負債)− 自己株式・自己新株予約権の帳簿価額

負債を含めた「総資産」がベースであり、純資産よりも大きな数字になります。分母を純資産と取り違えると、「決議不要」と判断していたものが実は決議必要だった、という致命的な誤りにつながります。

「重要な一部」に当たるかどうかは、5分の1という形式基準を下回っていても実質的に重要と判断される余地があります。判断は必ず弁護士に確認してください。

株主総会が不要になる例外

例外

要件

根拠

略式事業譲渡

契約の相手方が「特別支配会社」(議決権の10分の9以上を保有)である場合

468条1項

簡易な事業の譲受け

事業全部を譲り受ける側で、対価の帳簿価額が譲受会社の純資産額の5分の1以下の場合

468条2項

※簡易の場合でも、一定数の株主が通知・公告から2週間以内に反対の通知をすれば決議が必要

468条3項

(出典: 会社法468条/e-Gov法令検索、2026年7月13日確認)

事業譲渡の全体像は「事業譲渡とは わかりやすく解説」をご覧ください。

【会社分割・株式交換・合併の場合】原則として特別決議が必要

組織再編で会社を売る場合も、売り手側(消滅会社・分割会社等)は効力発生日の前日までに株主総会の特別決議が必要です(会社法783条1項、309条2項12号)。買い手側(存続会社等)も同様に特別決議が必要です(795条1項)。

主な例外は次の2つです。

例外

内容

根拠

略式組織再編

相手方が特別支配会社(議決権の10分の9以上を保有)である場合、決議不要

784条1項、796条1項

簡易組織再編

吸収分割で承継させる資産が総資産の5分の1以下/存続会社の交付対価が純資産額の5分の1以下の場合、決議不要。ただし一定数の株主が2週間以内に反対通知をすれば決議が必要

784条2項、796条2項・3項

(出典: 会社法783条・784条・795条・796条/e-Gov法令検索、2026年7月13日確認)

なお、対価が持分等である場合など、総株主の同意が必要になる特則もあります(783条2項)。組織再編スキームは中小企業のM&Aでは選択される場面が限られますが、グループ再編を伴う売却では検討対象になります。会社分割の仕組みそのものは「M&A 会社分割(分社型・分割型)とは わかりやすく解説」で解説しています。

見落としやすい:クロージング当日の臨時株主総会で発生する特別決議

M&Aクロージング当日に株式譲渡契約を締結し臨時株主総会を開催する場面

「株式譲渡だから特別決議は不要」と思っていても、クロージング当日の臨時株主総会で特別決議が発生するケースが少なくありません。 ここは多くの解説記事が触れていない、実務直結のポイントです。

M&Aのクロージング日には、買い手が新体制をつくるため臨時株主総会(および取締役会)を開催するのが通常です。そこで扱われる主な議案は次のとおりです。

決議事項

決議の種類

根拠・補足

株式譲渡の承認

取締役会決議(非設置会社は株主総会の普通決議)

139条1項。契約前〜クロージング前に実施

取締役の選任・解任

普通決議

329条、339条1項

監査役の解任

特別決議

339条1項、309条2項7号

商号変更・事業目的の変更・本店移転(定款変更)

特別決議

466条、309条2項11号

役員退職慰労金の支給

定款に定めがなければ株主総会の決議(一般には普通決議とされます)

361条1項の「報酬等」に含まれると解されています

(出典: 会社法/e-Gov法令検索、2026年7月13日確認)

つまり、株式譲渡スキームであっても、買い手が商号を変える・監査役を解任するといった議案を出す場合は、その場で特別決議が必要になります。 クロージング日には株式の名義がすでに買い手に移っているため、通常は買い手が単独で可決できますが、議事録の作成と後続の登記手続きに直結するため、事前に議案を整理しておく必要があります。

クロージング当日の流れ全体は「M&Aクロージングとは?手続き・流れ・必要書類」で詳しく解説しています。

株主総会の進め方 — 招集から議事録保存までの手順と期限

招集手続きの期限

項目

内容

根拠

招集の決定

原則、取締役(取締役会設置会社は取締役会決議で招集事項を決定)

296条3項、298条

招集通知の期限(公開会社

総会日の2週間前まで

299条1項

招集通知の期限(非公開会社

1週間前まで。取締役会非設置会社は定款でさらに短縮可

299条1項

書面通知の要否

取締役会設置会社、または書面・電子投票を定めた場合は書面(承諾があれば電磁的方法)

299条2項・3項

(出典: 会社法/e-Gov法令検索、2026年7月13日確認)

オーナーが100%株主なら「招集手続の省略」「書面決議」が使える

中小企業のM&Aでは、実際に会議室に全員を集めて総会を開くケースは多くありません。会社法は次の2つの簡略化手段を用意しています。

手段

要件

根拠

招集手続の省略

株主全員の同意があれば、招集手続を経ずに総会を開催できる(書面・電子投票を定めた場合を除く)

300条

書面決議(みなし決議)

取締役または株主の提案に、議決権を行使できる株主全員が書面または電磁的記録で同意すれば、可決の決議があったものとみなされる

319条1項

ただし「何もしなくていい」わけではありません。 書面決議の場合も議事録の作成義務があり、同意書面は決議があったとみなされた日から10年間本店に備え置く必要があります(319条2項)。

株主が自分1人でも、議事録は必ず作成してください。 M&Aのデューデリジェンスでは過去の議事録が確認され、未整備だと必ず指摘されます。

議事録の書き方と保存 — 記載必須項目・10年保存・登記の株主リスト

株主総会議事録を作成し10年間本店に備え置く書類管理のイメージ

株主総会議事録は、法務省令で定める記載事項を満たしたうえで、本店に10年間、支店に写しを5年間備え置く義務があります(会社法318条)。株主・債権者は営業時間内いつでも閲覧・謄写を請求できます。

記載必須項目(会社法施行規則72条3項)

  1. 開催の日時・場所(役員や株主がその場にいない形で出席した場合は、その出席方法も記載)
  2. 議事の経過の要領およびその結果
  3. 一定の意見・発言があった場合はその概要(監査役の意見等)
  4. 出席した取締役・監査役・会計監査人等の氏名
  5. 議長の氏名
  6. 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名

書面決議(319条)の場合の記載項目(施行規則72条4項1号)

書面決議では「議事の経過」が存在しないため、記載事項が異なります。

  1. 決議があったものとみなされた事項の内容
  2. 提案をした者の氏名
  3. 決議があったものとみなされた日
  4. 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名

「書面決議だから議事録は不要」は誤りです。 形式が違うだけで、作成義務は変わりません。

登記には「株主リスト」の添付が必要

M&Aのクロージング日には、役員変更・商号変更などの登記を申請するのが通常です。このとき、株主総会決議を要する登記申請には「株主リスト」の添付が必要です(商業登記規則61条2項・3項。平成28年10月1日以降)。

株主リストに記載するのは、次のいずれか少ない人数の株主です。

  • 議決権割合が上位10名の株主
  • 議決権割合を上位から加算して3分の2に達するまでの株主

(出典: 法務省「株主リスト」が登記の添付書面となりました、2026年7月13日確認)

なお、書面決議(319条)による場合は、議事録に代えて「決議があったものとみなされる場合に該当することを証する書面」を添付します(商業登記法46条3項)。登記実務の詳細は司法書士にご確認ください。

3分の2を確保できない場合の対処法

議決権の3分の1超を他の株主に持たれていると、その株主は単独で特別決議を否決できます。 事業譲渡や組織再編を選ぶ場合、これは売却そのものを止められることを意味します。

中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版・2024年8月改訂)」でも、譲渡側の留意点として「株式・事業用資産等の整理・集約」が挙げられ、経営者以外に株式が分散している場合はM&Aに着手する前に自身に集約しておくべきとされています。

(出典: 中小企業庁 中小M&Aガイドライン(第3版)経済産業省プレスリリース(2024年8月30日)、2026年7月13日確認。現時点では第3版が最新版です)

対処法①: M&A着手前の株式集約(最優先)

もっとも確実なのは、買い手を探し始める前に、分散した株式を任意の売買・贈与で買い集めておくことです。M&A交渉が進んでから少数株主に打診すると、足元を見られて買取価格が高騰したり、情報が漏洩したりするリスクがあります。

  • 相手が親族・元役員で協力的 → 任意の株式譲渡契約で集約
  • 名義株(実質はオーナーの株だが他人名義になっている)→ 名義株主から確認書を取得し、名義を戻す

具体的な集約手順は「M&A前の少数株主整理・株式集約 完全ガイド」で詳しく解説しています。

対処法②: 所在不明株主がいる場合 — 経営承継円滑化法の会社法特例

先代からの相続などで、連絡が取れない株主(所在不明株主)がいるケースは珍しくありません。

会社法上、所在不明株主の株式を競売・売却するには「5年間継続して通知が到達しない」等の要件が必要ですが、非上場の中小企業者が都道府県知事の認定を受けることで、この「5年」を「1年」に短縮できます(経営承継円滑化法の会社法特例。令和3年8月2日施行)。

認定の主な要件:

  • 代表者が年齢・健康状態等により、継続的・安定的な経営が困難であること
  • 一部株主の所在不明により円滑な事業承継が困難であること(円滑承継困難要件)

(出典: 中小企業庁「経営承継円滑化法による支援」、2026年7月13日確認)

対処法③: スクイーズアウト(少数株主の締め出し)

任意の交渉で集約できない場合の法的手段です。いずれも手続きが複雑で、価格をめぐる紛争リスクを伴うため、弁護士の関与が必須です。

手法

必要な決議・要件

根拠

株式併合

株主総会の特別決議

180条2項、309条2項4号

特別支配株主の株式等売渡請求

議決権の10分の9以上を保有していれば、株主総会決議なしで全株式の売渡しを請求できる(対象会社の承認等は必要)

179条

全部取得条項付種類株式の取得

特別決議(+定款変更の特別決議)

171条1項、309条2項3号

(出典: 会社法/e-Gov法令検索、2026年7月13日確認)

注意: 株式併合や全部取得条項付種類株式の取得には特別決議が必要です。つまり「3分の2が取れないから株式併合で締め出す」という順序は成立しません。すでに3分の2以上を確保しているが、残りの少数株主を完全に排除したい場合の手段です。

※ スクイーズアウトの実行可否・買取価格の妥当性・税務上の取扱いは個別性が高い論点です。必ず弁護士・税理士にご相談ください。

後継者不在で株式が分散しているケースの整理は「事業承継 後継者不在 解決策」もあわせてご覧ください。

反対株主の株式買取請求への備え

事業譲渡や組織再編を行う場合、反対株主は会社に対して「公正な価格」での株式買取りを請求できます(会社法469条)。決議で可決できても、買取請求への対応コストと時間が発生する点に注意が必要です。

項目

内容

反対株主とは

株主総会に先立って反対を通知し、かつ総会でも反対した株主/議決権を行使できない株主(469条2項)

会社からの通知期限

効力発生日の20日前までに株主へ通知(公開会社で株主総会の承認を受けた場合等は公告で代替可)(469条3項・4項)

買取請求の期間

効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日まで(469条5項)

主な適用除外

事業の全部を譲渡し、同時に解散の決議をした場合等(469条1項1号・2号)

(出典: 会社法469条/e-Gov法令検索、2026年7月13日確認)

価格の折り合いがつかなければ、裁判所への価格決定申立てに発展します。 反対しそうな株主が存在する場合は、決議前に個別に説明・交渉しておくことが実務上の定石です。

手続きを誤るとどうなるか

決議に瑕疵があると、M&A自体が覆るリスクがあります。 買い手のデューデリジェンスでも必ず確認される領域です。

株主総会決議取消しの訴え(会社法831条1項)

決議の日から3か月以内に、株主等が決議の取消しを求めて提訴できます。取消事由は次の3つです。

  1. 招集手続または決議方法が法令・定款に違反、もしくは著しく不公正なとき
  2. 決議の内容が定款に違反するとき
  3. 特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことにより、著しく不当な決議がされたとき

(出典: 会社法831条1項/e-Gov法令検索、2026年7月13日確認)

3号は、MBO(経営陣による買収)・親族間譲渡・オーナーが買い手側に関与する事業譲渡で問題になりえます。 株主総会では、取締役会と異なり特別利害関係人の議決権行使自体は制限されませんが、その結果として著しく不当な決議がなされた場合は取消事由となります。オーナーが買い手側に立つスキームでは、価格の合理性(第三者算定など)を確保しておくことが防御になります。

なお、違反が重大でなく決議に影響を及ぼさないと裁判所が認めるときは、請求が棄却されることもあります(裁量棄却。831条2項)。

事業譲渡で特別決議を欠いた場合

株主総会の特別決議を経ずに行われた事業譲渡は、一般に無効と解されています。 条文に明文があるわけではなく、判例・通説に基づく理解です。譲渡代金を受け取った後に無効を主張される事態は、売り手にとっても致命的です。

また、議事録の未作成や虚偽記載は過料の対象となりえます(会社法976条)。

決議の有効性に少しでも不安がある場合は、契約締結前に弁護士のリーガルチェックを受けてください。

M&Aで実際に起きたトラブルの類型は「M&A 仲介 トラブル事例・対処法」で整理しています。

会社売却のスケジュール逆算タイムライン

効力発生日(クロージング日)を「D-Day」として、事業譲渡を行う場合の逆算スケジュールの一例です。

時期

やること

D-90日以前

定款・株主名簿の確認。株式の分散状況を把握し、必要なら集約に着手

D-60日頃

事業譲渡契約の条件交渉。「重要な一部」に当たるかを弁護士と確認。総資産額(施行規則134条ベース)を算定

D-30日頃

取締役会で株主総会の招集を決定。議案・議事録案を準備

D-21日〜D-20日

反対株主への通知(効力発生日の20日前まで)。買取請求期間の起算

D-14日(公開会社)/D-7日(非公開会社)

招集通知の発送。※株主全員の同意があれば招集手続は省略可(300条)

D-1日まで

株主総会で特別決議による契約承認(467条1項。効力発生日の前日までに実施)

D-Day

事業譲渡の効力発生。対価の決済・資産の引渡し

D-Day〜D+14日

議事録の作成・本店備置(10年)。必要な登記の申請(司法書士へ株主リストを提出)

株式譲渡スキームの場合は、上記のうち「反対株主への通知」「特別決議」が不要となり、代わりに譲渡承認決議(取締役会または株主総会の普通決議)を契約締結前後に行います。

売却全体にかかる期間の目安は「M&A 売却にかかる期間・タイムライン」で解説しています。

この手続きが特に重要になる会社/あまり心配しなくてよい会社

特に注意が必要なケース

  • オーナー以外に株主がいる会社 — 親族・元役員・従業員持株会などに株式が分散している。事業譲渡を選ぶなら3分の2の確保が最優先課題
  • 相続で株式が分散した会社 — 先代の相続で株式が複数の相続人に散り、一部と連絡が取れない
  • 名義株がある会社 — 設立時の発起人要件を満たすために他人名義を借りた株式が残っている
  • グループ会社の一部を売る会社 — 子会社株式の譲渡(467条1項2号の2)に該当すると、親会社で特別決議が必要
  • 事業譲渡・会社分割スキームを選ぶ会社 — 特別決議に加え、反対株主の買取請求への対応が必要

手続き負担が比較的軽いケース

  • オーナーが議決権100%を保有する会社 — 招集手続の省略(300条)や書面決議(319条)で完結できる。ただし議事録の作成は必須
  • 株式譲渡スキームで、買い手が商号変更等を行わない場合 — 特別決議が発生しない可能性が高い
  • 取締役会設置会社で、譲渡承認を取締役会で完結できる会社 — 株主総会自体を開催せずに済む

ただし「軽い」ことと「不要」は違います。 議事録の不備は、どの規模の会社でもデューデリジェンスで指摘されます。株主総会・取締役会の議事録が過去数年分そろっているか、いま一度確認してください。

よくある質問(FAQ)

Q. 株主が自分1人(100%オーナー)でも、株主総会は開かないといけませんか?

物理的な会議の開催は不要ですが、決議と議事録は必要です。 株主全員の同意で招集手続を省略できますし(会社法300条)、書面決議(319条)を使えば書面への同意だけで決議があったものとみなされます。ただし、いずれの場合も議事録の作成義務は残ります(施行規則72条)。「1人だから何もしなくていい」と考えて議事録を残さないと、後のデューデリジェンスで必ず問題になります。

Q. 過去の株主総会議事録を作っていません。M&Aはできますか?

売却自体が不可能になるわけではありませんが、デューデリジェンスで必ず指摘されます。 役員の選任・重任、定款変更など、本来決議が必要だった事項について議事録が存在しない場合、買い手は「決議の有効性に疑義がある」と判断し、価格の減額や表明保証条項の強化を求めてくる可能性があります。遡って整備できる範囲があるかどうかは、弁護士・司法書士に早めに相談してください。

Q. 特別決議の「3分の2」は株主の頭数ですか、株数ですか?

議決権の数(原則として株数)です。 頭数ではありません。自己株式には議決権がないため(会社法308条2項)、分母から除いて計算します。ただし、種類株式や属人的定めがある場合は議決権の数え方が変わるため、定款と株主名簿を突き合わせて確認する必要があります。

Q. 定款で特別決議の要件を厳しくしています。どちらが優先されますか?

定款の定めが優先されます。 会社法309条2項は、定足数を3分の1以上まで引き下げること、決議要件を3分の2超に引き上げること、さらに「一定数以上の株主の賛成を要する」といった上乗せ要件を設けることを認めています。M&Aの検討では、まず自社の定款で特別決議の要件を確認するところから始めてください。

Q. 少数株主の親族に反対されたら、会社を売却できませんか?

スキームによります。 株式譲渡であなた自身の持ち株だけを売る場合、他の株主の同意は原則不要です(会社の譲渡承認は必要)。ただし、買い手は通常100%の株式取得を望むため、少数株主が売却に応じなければ交渉が難航します。事業譲渡・組織再編の場合は、3分の1超を持たれていると特別決議を単独で否決されます。 いずれにせよ、M&Aに着手する前の株式集約が最善の対策です。

Q. 「事業の重要な一部の譲渡」に当たるかどうかは、誰がどう判断しますか?

帳簿価額が総資産額の5分の1を超えるかどうかが形式基準ですが(会社法467条1項2号)、これを下回っていても実質的に「重要」と判断される余地があります。 判断を誤ると事業譲渡そのものが無効とされるリスクがあるため、必ず弁護士に確認してください。 なお総資産額の算定は会社法施行規則134条に定めがあり、負債を含む点に注意が必要です。

Q. 2026年の会社法改正で、この手続きは変わりますか?

現時点(2026年7月)では、非上場中小企業の株主総会実務に直接影響する改正は施行されていません。 法務省の法制審議会「会社法制(株式・株主総会等関係)部会」で審議が進んでおり、2026年3月に中間試案が取りまとめられ、パブリックコメント手続に付されました。論点はバーチャルオンリー株主総会や実質株主の確認制度などで、上場会社の実務が中心です。中間試案の段階であり、答申は2027年3月頃までとされています(今後の審議により変動しうるため、最新情報は法務省の公表資料でご確認ください)。

(出典: 法務省 会社法の一部を改正する法律について、2026年7月13日確認)

まとめ — 会社売却前にやるべき3つのこと

  1. 自社の定款を確認する。 特別決議の要件、譲渡承認機関、招集通知の期間はすべて定款で変えられます。ここを見ずに手続きを設計することはできません。
  2. 株主名簿を確認し、議決権の分散状況を把握する。 3分の1超を他人に持たれていると、事業譲渡・組織再編スキームは使えなくなる可能性があります。M&Aに着手する前に集約するのが鉄則です。
  3. 過去の議事録の整備状況を確認する。 買い手は必ず見ます。不備があれば、専門家に相談して早期に対応してください。

そのうえで、「株式譲渡なら特別決議は原則不要/事業譲渡・組織再編なら必要」という原則を押さえ、クロージング当日の定款変更で特別決議が発生する点も忘れないようにしてください。

こうした手続きの設計・専門家の手配は、M&A仲介会社の支援範囲に含まれるのが一般的です。どの仲介会社を選ぶかによって、法務面のサポート体制は大きく異なります。「M&A仲介会社 比較(売り手向け)」で、各社の対応範囲と手数料を比較しています。まずは何から手をつけるべきかを整理したい方は「会社売却 準備チェックリスト」もあわせてご覧ください。

免責事項: 本記事は2026年7月13日時点の会社法・会社法施行規則・商業登記法および公的資料に基づく一般的な解説です。個別の事案における決議の要否・有効性の判断、登記手続き、税務上の取扱いについては、必ず弁護士・司法書士・税理士にご相談ください。

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