結論から言えば、黒字経営で従業員がいる会社なら、廃業よりもM&A(第三者への売却)の方が経営者の手取り額・従業員の雇用・取引先への影響すべてにおいて有利になるケースが大半です。
実際、2024年に廃業した企業の51.5%は黒字、65.1%は資産超過(=債務を完済できる状態)であり、M&Aという選択肢があれば廃業せずに済んだ可能性が高い企業が多数存在します(出典:東京商工リサーチ「2024年の休廃業・解散」、2026年4月確認)。
この記事でわかること:
- M&Aと廃業の違い(税金・手取り額・従業員・手続き期間など6項目で比較)
- 「自分の会社はどちらを選ぶべきか」を判断するチェックリスト
- 税金と手取り額の具体的なシミュレーション(同じ純資産2,000万円で579万円の差)
- 廃業・M&Aそれぞれにかかる費用の内訳
- 無料で相談できる公的機関の一覧
こんな方に向けた記事です:
- 後継者がおらず、会社をたたむか売却するか迷っている経営者
- 廃業を考えているが、従業員の雇用が気になっている方
- M&Aと廃業でどちらが手取り額が多いのか知りたい方
- まず何から始めればいいかわからない方
注意: 本記事の税率・費用情報は2026年4月時点の情報に基づいています。税制は改正される可能性があるため、実際の判断にあたっては必ず税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
M&Aと廃業の違いを一目で比較

M&Aと廃業は、どちらも「現在の経営者が会社の経営から離れる」という結果は同じですが、会社の存続・従業員の雇用・経営者の手取り額など、ほぼすべての面で大きな違いがあります。
M&A(売却)とは
M&Aとは、第三者(他の企業や個人)に株式または事業を譲渡し、経営権を移転することです。中小企業のM&Aでは「株式譲渡」が最も一般的な手法で、経営者が保有する株式を買い手に売却し、対価を受け取ります。
M&Aでは、会社の純資産に加えてのれん(営業権=将来の収益力を評価した金額)を上乗せした企業価値で評価されるため、廃業時の処分価格よりも高い金額での売却が期待できます。
M&Aの基本的な流れについては、「会社売却とは?流れ・手順を完全ガイド」で詳しく解説しています。
廃業とは
廃業とは、経営者が自主的に経営をやめ、会社を消滅させることです。倒産(債務を返済できずに事業が立ち行かなくなること)とは異なり、債務を完済したうえで自主的に事業を終了する行為を指します(出典:日本M&Aセンター公式サイト、2026年4月確認)。
廃業の手続きには、株主総会での解散決議・清算人の選任・解散登記・清算手続(債権回収・債務弁済・残余財産分配)・清算結了登記が必要で、最低でも2〜3ヶ月、通常は6ヶ月〜1年かかります。
M&Aと廃業の比較一覧表
比較項目 | M&A(売却) | 廃業(解散・清算) |
|---|---|---|
会社の存続 | 存続する(買い手のもとで事業継続) | 消滅する |
従業員の雇用 | 原則継続(買い手が引き継ぐ) | 全員失職 |
取引先への影響 | 取引関係は基本的に継続 | 取引断絶 |
経営者への対価 | 株式の売却代金(のれん含む) | 残余財産の分配金 |
企業の評価方法 | 純資産+のれん(将来の収益力を含む) | 資産を処分価格で個別評価 |
税率(個人株主の場合) | 一律20.315%(分離課税) | 最大約49.44%(二重課税) |
個人保証 | 買い手企業に引き継ぎ可能 | 債務完済まで残る |
所要期間 | 通常6ヶ月〜1年(最短3ヶ月も) | 最低2〜3ヶ月、通常6ヶ月〜1年 |
手続きの複雑さ | 仲介会社・専門家がサポート | 法定手続き多数(登記・公告等) |
この表で最も注目すべきは税率の差です。次のセクションで詳しく解説しますが、M&Aの一律20.315%に対し、廃業では最大約49%の税率がかかる「二重課税構造」になっており、同じ企業価値でも手取り額に数百万〜数千万円の差が生じます。
「うちはM&A?廃業?」判断チェックリスト

「結局、自分の会社はどちらを選ぶべきなのか」——この判断を体系的に行うためのチェックリストを用意しました。以下の4つの質問に答えるだけで、方向性が見えてきます。
チェック①:直近3年の経常利益は黒字か
黒字 → M&Aが有力。 黒字経営の会社は「のれん」が評価され、純資産以上の価格で売却できる可能性が高くなります。
赤字 → 一概に廃業とは限らない。 赤字でも、技術力・顧客基盤・立地・許認可など「のれんに代わる価値」があれば、M&Aの対象になります。特にIT系・製造業・調剤薬局などでは、赤字企業のM&A成立事例も少なくありません。
ただし、慢性的な赤字で債務超過が大きく、買い手が見つかる見込みがない場合は、廃業を検討する段階です。
チェック②:後継者候補はいるか
親族・社内に後継者がいない → M&Aが有力。 後継者不在は中小企業M&Aの最大の動機です。2024年時点の全国後継者不在率は52.1%で、約半数の企業が後継者不在の状況にあります(出典:帝国データバンク「全国後継者不在率動向調査2024年」、2026年4月確認)。
M&Aは「第三者承継」と呼ばれ、後継者がいなくても事業を次の世代に引き継げる手段です。
チェック③:従業員の雇用を守りたいか
守りたい → M&Aが有力。 M&Aでは、株式譲渡契約に雇用維持条項を盛り込むことが一般的です。買い手にとっても、従業員は重要な経営資源であるため、雇用条件を維持したまま引き継がれるケースが大半です。
一方、廃業を選ぶと従業員は全員が失職します。退職金の支給も必要になり、廃業費用がさらに膨らみます。
チェック④:個人保証・連帯保証はあるか
個人保証がある → M&Aが有力。 M&Aでは、株式譲渡後に個人保証を買い手企業にスイッチ(切り替え)する交渉が行われます。多くの場合、経営者は個人保証から解放されます。
廃業の場合、会社が消滅しても借入金を完済するまで個人保証は残り続けます。会社の資産で完済できなければ、経営者個人の資産から弁済する必要があります。
判断の目安まとめ
条件 | 方向性 |
|---|---|
黒字経営+後継者不在 | M&Aを最優先で検討 |
従業員5人以上+取引先多数 | M&Aが望ましい(影響範囲が大きい) |
個人保証あり+返済余力に不安 | M&Aで保証スイッチを狙う |
赤字だが技術力・許認可あり | M&Aの可能性を専門家に相談 |
債務超過が大きい+買い手候補なし | 廃業を計画的に進める |
事業規模が極めて小さい(年商数百万円) | M&A仲介の最低報酬と見合うか確認してから判断 |
迷ったら、まず事業承継・引継ぎ支援センター(無料)に相談することをおすすめします。 M&Aと廃業の両面からアドバイスを受けられます。
【最重要】税金・手取り額のシミュレーション比較

M&Aか廃業かを判断するうえで、最も経済的なインパクトが大きいのが税金の違いです。同じ企業価値でも、M&Aと廃業では手取り額に数百万円単位の差が生じます。
M&A(株式譲渡)の場合:一律20.315%
株式譲渡によるM&Aの場合、経営者(個人株主)が受け取る売却益に対する税率は一律20.315%です。
- 所得税:15%
- 住民税:5%
- 復興特別所得税:0.315%
分離課税のため、売却益の大小に関わらず税率は一定です。1,000万円の利益でも1億円の利益でも同じ20.315%です。
計算式:
譲渡所得税 =(売却価額 − 株式の取得費 − 譲渡費用)× 20.315%
廃業(解散・清算)の場合:最大約49%の二重課税
廃業の場合、法人段階と個人段階で二重に課税される構造になっています。
第1段階(法人への課税):
残余財産(会社に残った資産)から資本金等を控除した金額に、法人税等(実効税率約30〜34%)が課税されます。
第2段階(個人への課税):
法人税を差し引いた残りの残余財産が株主に分配されますが、そのうち「みなし配当」部分に総合課税が適用されます。総合課税の最高税率は55.945%(配当控除後で最大約49.44%)です。
つまり廃業では、まず会社に約30%課税され、そこから個人に分配されたお金にさらに最大約49%課税されるという二重構造になります。
具体例:純資産2,000万円の会社で比較すると579万円の差
横浜信用金庫の試算をもとに、企業価値が同じ2,000万円相当の会社をM&Aした場合と廃業した場合の手取り額を比較します。
項目 | 廃業(解散・清算) | M&A(株式譲渡) |
|---|---|---|
企業価値(純資産等) | 2,000万円相当 | 2,000万円 |
法人段階の課税 | 720万円(残余財産1,800万円×法人税等40%) | なし |
個人段階の課税 | 219万円(源泉所得税) | 400万円(譲渡所得税20%) |
株主の手取り額 | 1,061万円 | 1,640万円 |
差額 | — | +579万円(M&Aが有利) |
(出典:横浜信用金庫「解散とM&Aによる譲渡を比較する」概算。税制は随時変更の可能性あり、2026年4月確認)
同じ企業価値でも、M&Aの方が約579万円多く手元に残る計算です。 企業規模が大きくなるほど、この差額はさらに拡大します。
なお、M&Aでは純資産に加えて「のれん(営業権)」が上乗せされるため、実際の売却価格は廃業時の処分価格よりも高くなるのが一般的です。日本M&Aセンターの事例では、廃業なら2億円の個人負債が発生するケースが、M&Aなら2億円が手元に残るケースとして紹介されており、差額4億円に達する可能性も示されています(出典:日本M&Aセンター「廃業とは」公式ページ、2026年4月確認)。
2025年度〜「ミニマムタックス」の影響(高額譲渡の場合)
2025年度から導入されたミニマムタックス(追加最低税)により、年間合計所得が3.3億円を超える個人は、株式譲渡所得の実質税率が20.315%から最大27.5%に上昇する場合があります。
ただし、対象者は国税庁の試算で全国数百人程度とされており、中小企業の一般的なM&A(数千万〜数億円規模)ではほとんど影響がありません(出典:日本財務戦略センター「2026年M&Aの罠『ミニマムタックス』」、2026年4月確認)。
譲渡益10億円規模のM&Aを検討している場合は、事前に税理士と相談のうえ、ミニマムタックスの影響を試算しておくことをおすすめします。
税金の詳細については「会社売却の税金・節税 完全ガイド」で解説しています。
M&Aを選ぶメリット・デメリット
M&Aは多くのケースで廃業より有利ですが、万能ではありません。メリットとデメリットの両面を把握したうえで判断してください。
M&Aのメリット
1. 手取り額が大きくなりやすい
前述のとおり、M&Aでは税率が一律20.315%の分離課税です。さらに、のれん(営業権)を含めた企業評価になるため、廃業時の処分価格を大幅に上回る売却価格が期待できます。
2. 従業員の雇用を守れる
株式譲渡契約に雇用維持条項を設けることが一般的で、従業員の雇用はほぼそのまま引き継がれます。経営者として「従業員を路頭に迷わせたくない」という想いを実現できる手段です。
3. 取引先との関係が維持される
廃業では取引先との契約がすべて断絶しますが、M&Aなら既存の取引関係が原則として継続します。得意先・仕入先への迷惑を最小限に抑えられます。
4. 個人保証から解放される
経営者保証に関するガイドラインに基づき、M&A成立後に個人保証を買い手にスイッチする交渉が行われるのが一般的です。長年の個人保証による精神的負担から解放される点は、経営者にとって大きな安心材料です。
5. 創業者利益を得られる
長年積み上げてきた事業の価値が「のれん」として金銭的に評価されるため、引退後の生活資金やセカンドキャリアの原資を得ることができます。
M&Aのデメリット・注意点
1. 仲介手数料がかかる
M&A仲介会社を利用する場合、成功報酬として売却価額の数%〜(レーマン方式が一般的)の手数料が発生します。最低報酬を設定している仲介会社も多く、小規模案件では手数料負担が相対的に大きくなります。
手数料の詳細は「M&A費用・手数料相場 完全ガイド」をご確認ください。
2. 買い手が見つかるまで時間がかかる場合がある
中小企業のM&Aでは、マッチングから成約までに通常6ヶ月〜1年程度かかります。業種・地域・事業内容によっては、適切な買い手が見つかるまでさらに時間を要する場合もあります。
3. 条件面で希望どおりにならない場合がある
売却価格・雇用条件・事業の継続方針など、すべてが経営者の希望どおりになるとは限りません。買い手との交渉が必要であり、一定の妥協が求められるケースもあります。
4. 秘密保持に注意が必要
M&Aの検討段階で従業員や取引先に情報が漏れると、不安から退職者が出たり取引条件が変更されたりするリスクがあります。情報管理は慎重に行う必要があります。
廃業を選ぶメリット・デメリット
「廃業=失敗」ではありません。経営者が計画的に事業を終了する判断は、場合によっては合理的な選択です。ただし、廃業にはデメリットも多いため、十分に検討したうえで判断すべきです。
廃業のメリット
1. 経営の負担から完全に解放される
廃業後は、売上・資金繰り・人事労務・クレーム対応など、経営に関するすべてのストレスから解放されます。M&Aのように「引き継ぎ期間中の残留」を求められることもありません。
2. 自分のペースで計画的に終了できる
M&Aは相手(買い手)があるため、スケジュールが読みにくい面があります。廃業なら、自分のタイミングで計画を立て、段階的に事業を縮小・終了できます。
3. 第三者に経営を委ねる必要がない
「自分が育てた会社を他人に渡したくない」という感情面でのハードルがある経営者にとって、廃業は心理的に受け入れやすい選択肢です。
廃業のデメリット・注意点
1. 従業員が全員失職する
廃業の最大のデメリットです。従業員は全員が職を失い、再就職先を探す必要があります。退職金の支給も必要になり、就業規則に規定がある場合は法的義務として支払う必要があります。
2. 二重課税で手取りが大幅に減る
前述のとおり、法人段階と個人段階で二重に課税されるため、M&Aと比較して手取り額が大幅に少なくなります。
3. 資産が処分価格で評価される
廃業では、設備・在庫・不動産などの資産を「使い続ける前提の価値」ではなく「売り払う前提の処分価格」で評価するため、帳簿価額を大きく下回るのが一般的です。のれんの評価もありません。
4. 取引先・地域経済に影響が及ぶ
長年の取引先は別の仕入先・外注先を探す必要があり、地域の雇用や経済にもマイナスの影響が生じます。
5. 廃業にも準備期間と費用がかかる
「廃業は簡単にできる」と思われがちですが、実際には法的手続き・設備処分・原状回復・退職金支払いなど、1〜3年程度の準備期間が推奨されています(出典:東京商工会議所)。費用も数十万〜数百万円以上かかります。
廃業にかかる費用の内訳
「廃業は安く済む」と考える経営者も少なくありませんが、実際にはさまざまな費用が発生します。
法定費用(登記・官報公告)
費目 | 金額 |
|---|---|
解散登記(登録免許税) | 30,000円 |
清算人選任登記 | 9,000円 |
清算結了登記 | 2,000円 |
登記費用 小計 | 41,000円 |
官報公告掲載料 | 約32,000〜40,000円 |
登記事項証明書等 | 約1,300〜1,500円+郵送代 |
法定費用だけなら約7〜8万円で済みますが、これはあくまで最低限の手続き費用です。
(出典:M&A総合研究所「廃業の費用」、fundbook公式コラム、2026年4月確認)
専門家報酬・設備処分・退職金
費目 | 金額の目安 |
|---|---|
司法書士報酬 | 約8〜12万円 |
税理士報酬(確定申告・清算手続き) | 約8万円〜数十万円 |
設備・在庫の処分費 | 数万円〜1,000万円超(業種による) |
物件の原状回復費 | 坪あたり数万〜10万円 |
従業員の退職金 | 就業規則・雇用契約による |
専門家に依頼する場合の総費用は、おおむね30〜50万円以上が目安です。ただし、製造業で大型設備がある場合や、店舗の原状回復が必要な場合は、数百万〜1,000万円超になることもあります。
従業員規模別の費用感は以下のとおりです。
従業員数 | 50万円未満の割合 |
|---|---|
0人 | 53.0% |
1〜5人 | 44.4% |
6人以上 | 24.4% |
(出典:M&A総合研究所、2026年4月確認)
従業員が6人以上の企業では、4分の3以上が廃業に50万円以上かかっていることがわかります。
M&Aにかかる費用の目安
M&Aにも当然費用がかかりますが、売却代金の中から支払えるため、「手出しゼロ」で進められるケースも多くあります。
仲介手数料の相場
M&A仲介会社の報酬体系は会社によって異なりますが、一般的な構成は以下のとおりです。
費目 | 内容 | 相場 |
|---|---|---|
着手金 | 契約時に支払う初期費用 | 無料〜200万円(完全成功報酬型なら無料) |
中間金 | 基本合意時に支払う | 無料〜成功報酬の10〜20% |
成功報酬 | 成約時に支払う | レーマン方式(売却価額の1〜5%) |
最低報酬 | 成功報酬の最低金額 | 500万〜2,500万円(会社による) |
近年は完全成功報酬型(着手金・中間金なし、成約しなければ費用ゼロ)の仲介会社が増えており、売り手のリスクは低減しています。
レーマン方式の計算例(売却価額ベースの場合):
売却価額 | 成功報酬(目安) |
|---|---|
5,000万円 | 250万円(5%) |
1億円 | 500万円(5%) |
3億円 | 1,200万円(4%計算部分含む) |
5億円 | 1,700万円 |
手数料の詳細な比較は「M&A費用・手数料相場 レーマン方式」で解説しています。仲介会社選びは「M&A仲介会社 比較(売り手向け)」をご参照ください。
その他の費用
費目 | 負担者 | 相場 |
|---|---|---|
デューデリジェンス(買収監査) | 買い手負担が一般的 | 100万〜500万円 |
弁護士費用(契約書作成等) | 各自負担 | 50万〜200万円 |
税理士費用(譲渡所得の申告等) | 売り手負担 | 10万〜50万円 |
売り手側の実際の負担は、仲介手数料+税理士費用が中心です。デューデリジェンス費用は買い手が負担するのが一般的なため、売り手の追加負担は限定的です。
こんな会社はM&Aがおすすめ / 廃業を検討すべきケース
ここまでの比較を踏まえ、M&Aと廃業それぞれに向いている企業のパターンを整理します。
M&Aをおすすめする企業
- 黒字経営だが後継者がいない — のれんを含めた高い評価での売却が期待できます
- 従業員の雇用を守りたい — M&Aなら原則として雇用が継続されます
- 個人保証から解放されたい — 買い手企業への保証スイッチが可能です
- 手取り額を最大化したい — 一律20.315%の分離課税で、手取りが大きくなります
- 取引先や地域への影響を最小化したい — 事業が継続するため、ステークホルダーへの影響が小さい
- 技術力・ブランド・許認可など、無形の価値がある — 赤字でもM&Aの対象になり得ます
廃業を検討すべきケース
- 債務超過が大きく、買い手が見つかる見込みがない — M&Aの交渉が成立しない場合は、廃業を計画的に進める方が傷を浅くできます
- 事業の将来性がなく、のれん価値がほぼつかない — 売却してもほぼ手取りがない場合、廃業の方がシンプルです
- 事業規模が極めて小さく、M&A仲介の最低報酬に見合わない — 年商数百万円規模で仲介手数料500万円以上を支払うのは合理的ではありません。ただし、バトンズなどのマッチングプラットフォームなら小規模案件にも対応しています
- 経営者の健康上の理由で、M&Aの交渉期間(数ヶ月〜1年)を確保できない — ただし、M&Aも最短3ヶ月で成約した事例があるため、まずは相談してみることをおすすめします
業種別の判断ポイント
業種 | M&A向きの理由 | 廃業リスクが高い理由 |
|---|---|---|
製造業 | 設備・技術力・熟練工のノウハウに買い手がつきやすい | 大型設備の処分費が高額。原状回復に数百万〜数千万円 |
小売・飲食業 | 立地・ブランド・顧客基盤が評価される | 原状回復費・在庫処分費が発生。店舗数が多いと廃業費用が膨大に |
IT・Web業 | エンジニア人材・技術資産・顧客基盤に高い需要 | 人材流出リスクが高く、廃業を決めると一気に価値が毀損 |
建設業 | 許認可(建設業許可等)に価値がある | 許認可の取り直しが困難なため、廃業は資源の無駄になりやすい |
調剤薬局 | 薬局開設許可・処方箋応需実績が高く評価される | 地域の医療インフラに影響。社会的損失が大きい |
運送・物流業 | 2026年物流改正法施行で再編加速。運行管理許可に価値 | ドライバー不足で人材が戻らない。廃業後の復帰が困難 |
廃業の深刻な現状【2024年最新データ】
M&Aか廃業かの判断をする前に、日本の廃業がいまどのような状況にあるかを知っておくことも重要です。
休廃業・解散は過去最多の6万件超
年 | 休廃業・解散件数 | 前年比 |
|---|---|---|
2020年 | 49,698件 | +14.65% |
2023年 | 49,788件 | +0.3% |
2024年 | 62,695件(TSR) / 69,019件(TDB) | +25.9%(TSR) / +16.8%(TDB) |
2025年 | 67,210件(速報) | +7.2% |
(出典:東京商工リサーチ / 帝国データバンク、2026年4月確認。集計基準の違いにより両社で件数に差がある)
2024年は過去最多を更新し、6万件を超える企業が休廃業・解散しました。この増加傾向は続いており、2025年も速報値で67,210件に達しています。
廃業企業の半数以上が黒字
2024年に廃業した企業のうち、51.5%が黒字(過去最低水準ではあるが依然として過半数)、65.1%が資産超過(債務を完済できる状態)でした(出典:東京商工リサーチ「2024年の休廃業・解散」、2026年4月確認)。
つまり、廃業企業の半数以上は「経営的には問題ないのに廃業を選んでいる」のです。最大の原因は後継者不在と経営者の高齢化です。
- 代表者の平均年齢:72.6歳
- 60代以上の割合:87.6%(過去最高)
- 70代の割合:41.6%(最多層)
- 80代以上の割合:26.2%
中小企業庁の試算では、このまま後継者不在の廃業が続くと、約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる可能性があるとされています(出典:中小企業庁「事業承継・M&Aに関する現状分析」令和6年6月)。
「黒字なのに廃業」という事態を避けるために、早めの段階でM&Aの可能性を検討しておくことが重要です。
まず何をすべきか?無料相談先と第一歩

M&Aか廃業かの判断に迷っている場合、いきなり仲介会社に依頼する必要はありません。まずは無料で利用できる公的機関に相談し、自社の状況を客観的に整理するところから始めましょう。
ステップ1:事業承継・引継ぎ支援センターに相談する(無料)
事業承継・引継ぎ支援センターは、国(中小企業基盤整備機構)の委託を受けて全国47都道府県の商工会議所内に設置されている公的な相談窓口です。
- 相談料:完全無料
- 対応内容:事業承継計画の策定支援、M&Aマッチング支援、民間仲介会社の紹介
- 特徴:M&Aと廃業の両方について中立的なアドバイスが受けられる
(出典:中小企業基盤整備機構「事業承継・引継ぎポータル」、2026年4月確認)
ステップ2:企業価値の簡易算定を受ける
「自分の会社がいくらで売れるのか」がわからないと、M&Aと廃業の経済的な比較ができません。事業承継・引継ぎ支援センターでは簡易的な企業価値算定を行ってくれるケースもあります。
また、多くのM&A仲介会社が無料の企業価値算定サービスを提供しています。複数社に依頼すると、自社の価値の目安を把握できます。
企業価値の算定方法については、「会社売却 いくらで売れる?相場・算定方法」で詳しく解説しています。
ステップ3:M&Aと廃業、両方の見積もりを取る
最終判断をする前に、M&Aの場合の手取り見込みと廃業の場合のコスト見積もりを並べて比較してみましょう。
- M&A側:仲介会社に相談し、想定売却価格と手数料の概算を聞く
- 廃業側:税理士・司法書士に相談し、清算費用の概算を出す
両方の数字が出れば、「どちらが経済的に有利か」は明確になります。
その他の無料相談先
相談先 | 特徴 |
|---|---|
よろず支援拠点(中小企業庁) | 経営全般の相談。廃業・M&Aの初期相談に対応 |
日本政策金融公庫 | 事業承継マッチング支援。融資の相談も可能 |
各地の商工会議所・商工会 | 地域密着の相談窓口。専門家の紹介も |
活用できる補助金
事業承継・M&A補助金(中小企業庁)では、M&A関連費用(仲介手数料・DD費用等)の一部が補助される枠があります。廃業・再チャレンジ枠もあり、廃業に伴う費用の一部も補助対象です。
補助金の詳細は「事業承継・M&A補助金(2026年最新)」をご確認ください。
M&A仲介会社の選び方に迷ったら、「M&A仲介会社 おすすめ比較(売り手向け)」で手数料・特徴・対応規模を比較しています。無料相談の活用法は「M&A無料相談 選び方・注意点」をご参照ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 赤字の会社でもM&Aはできますか?
はい、赤字でもM&Aが成立するケースは少なくありません。特にIT・Web系企業のエンジニア人材、製造業の技術力・設備、小売業の立地・ブランド、調剤薬局の開設許可など、財務諸表に表れない無形の価値を評価してくれる買い手が見つかる場合があります。ただし、慢性的な赤字で債務超過が大きい場合は難しくなるため、まずは専門家に相談して可能性を確認することをおすすめします。
Q. 廃業とM&A、手続きにかかる期間はどちらが長いですか?
どちらも通常6ヶ月〜1年が一般的な目安です。廃業は官報公告期間(最低2ヶ月)が法律で定められているため、最低でも2〜3ヶ月はかかります。M&Aは最短3ヶ月で成約した事例もありますが、買い手とのマッチングに時間がかかる場合もあります。重要なのは、どちらを選ぶにしても「早めに動き始めること」です。特にM&Aは業績が良いうちに始める方が有利な条件を引き出せます。
Q. 従業員に知られずにM&Aの相談はできますか?
はい、M&Aの初期段階(相談・企業価値算定・買い手候補の探索)は秘密裏に進めるのが基本です。仲介会社も秘密保持を前提に動きます。従業員への通知は、基本合意〜最終契約の段階で行うのが一般的です。情報管理の方法については、仲介会社に具体的なアドバイスを求めてください。
Q. 個人事業主でもM&Aは可能ですか?
はい、個人事業主でもM&A(事業譲渡)は可能です。ただし、法人の株式譲渡と比べて手法や税務面が異なるため、事前に税理士に相談することをおすすめします。また、事業規模が極めて小さい場合は、仲介会社の最低報酬と見合わない場合もあるため、バトンズなどの小規模案件向けマッチングプラットフォームの利用も選択肢になります。
Q. M&Aの相談は「いつ」始めるべきですか?
業界の専門家が共通して指摘しているのは、「ちょっと早いかな?と思うくらいが適切」ということです。具体的には以下のタイミングが推奨されています。
- 業績が良いとき — 企業価値・交渉力が最も高い
- 経営者が健康なうち — 体調を崩してからでは選択肢が狭まる
- 借入金が少ないとき — 企業価値の大部分を手取りにできる
「まだ先の話だから」と後回しにせず、60代のうちに一度は専門家に相談しておくことをおすすめします。会社の売り時の判断基準については「会社の売り時 判断基準5つ」で解説しています。
Q. M&Aか廃業かの相談は、どこに行けば中立的なアドバイスがもらえますか?
事業承継・引継ぎ支援センター(全国47都道府県に設置、相談無料)が最も中立的な相談先です。M&A仲介会社はM&Aを勧める立場にあるため、中立的な意見がほしい場合は、まず公的機関に相談してからM&A仲介会社に依頼する順序がおすすめです。
まとめ
M&Aと廃業の判断で最も重要なポイントを整理します。
- 税金面ではM&Aが圧倒的に有利:一律20.315%の分離課税 vs 最大約49%の二重課税
- 同じ企業価値でも手取り額に数百万円の差が生じる(のれん評価を含めるとさらに拡大)
- 黒字企業なら、廃業より先にM&Aを検討すべき(廃業企業の51.5%が黒字)
- 従業員の雇用・取引先との関係もM&Aなら維持できる
- 廃業にも費用と準備期間(1〜3年)がかかることを忘れずに
- 判断に迷ったら、まず事業承継・引継ぎ支援センター(無料)に相談
「もう手遅れかもしれない」と思う前に、まず一歩踏み出すことが大切です。M&Aは業績が良く、経営者が健康なうちに検討を始めるほど有利な結果につながります。
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