M&Aのロックアップ条項(キーマン条項)とは、会社売却後も売り手の経営者が一定期間(一般的に2〜3年)会社に残り、経営や事業の引き継ぎに参画することを義務付ける契約条項です。 法律で定められた義務ではなく、M&A契約の中で当事者間が取り決める条項であり、IPOにおけるロックアップ(株式売却制限)とは意味が異なります。
この記事では、以下の内容をまとめています。
- ロックアップ条項の定義・目的と、IPOのロックアップとの違い
- 売り手に課される具体的な6つの制約
- 期間の相場と売却価格への影響
- 違反時に発生するペナルティの目安
- 契約前に売り手が確認・交渉すべきチェックリスト
- よくあるトラブルパターンと回避策
想定読者: 会社の売却を検討しているオーナー経営者、すでにM&A交渉に入っている経営者、ロックアップ条項の内容を事前に把握しておきたい方
注意: ロックアップ条項の内容は個別の契約条件や企業の状況により大きく異なります。具体的な契約内容の判断は、M&A専門の弁護士やアドバイザーにご相談ください。
M&Aのロックアップ条項(キーマン条項)とは
ロックアップ条項とは、M&Aにおいて売り手側の経営者やキーパーソンが、会社売却後も一定期間、会社に残って経営・事業の引き継ぎに参画することを義務付ける契約条項です。 「キーマン条項」とも呼ばれます。
ロックアップは法律用語ではなく、法律で規定された義務でもありません。M&Aの実務慣行として発展してきた契約条項であり、売り手と買い手の合意に基づいて設定されます(出典:弁護士・八木啓介コラム、2026年4月確認)。
なぜ買い手はロックアップを求めるのか
買い手がロックアップ条項を設ける目的は、主に以下の4つです。
- 事業継続リスクの軽減 — 売り手の経営者が突然退任すると、従業員の連鎖退職・取引先離れ・業績悪化が起きるリスクがある
- 暗黙知・ノウハウの引き継ぎ — 業務の流れ・判断基準・顧客との関係など、マニュアル化しにくい情報を確実に移転するため
- 従業員・取引先の信頼維持 — キーパーソンの残留が「この会社は大丈夫」というシグナルになる
- PMI(統合作業)の円滑化 — 買収後の経営統合をスムーズに進めるための環境づくり
(出典:M&Aキャピタルパートナーズ公式、日本M&Aセンター公式コラム、M&Aサクシード、2026年4月確認)
IPOのロックアップとの違い
「ロックアップ」という用語は、IPO(新規株式公開)とM&Aで意味が全く異なります。M&Aの売却を検討している方がIPOのロックアップの情報を読んで混乱しないよう、ここで整理します。
比較項目 | M&Aのロックアップ | IPOのロックアップ |
|---|---|---|
対象者 | 売り手側の経営者・キーパーソン | 上場前の既存株主 |
制限内容 | 会社に残って経営・引き継ぎに参画 | 上場直後の株式売却を一定期間禁止 |
目的 | 事業継続・引き継ぎの安定 | 株価の安定・需給バランスの維持 |
期間 | 1〜5年(2〜3年が主流) | 90日〜180日が一般的 |
法的根拠 | 当事者間の契約(法律上の義務ではない) | 証券会社との契約 |
(出典:パラダイムシフト、レガシィ税理士法人、2026年4月確認)
本記事では、M&Aにおけるロックアップ条項に絞って解説しています。
ロックアップで売り手に課される6つの制約

ロックアップ条項では、売り手側に以下のような義務・制約が課されるのが一般的です。契約内容は案件ごとに異なりますが、代表的な制約項目を整理します。
1. 会社への在籍・業務従事義務
売却後も一定期間、取締役・顧問などの肩書きで会社に残り、経営・事業に参画します。在籍形態は以下のように様々です。
- 代表取締役の続投
- 取締役(常勤または非常勤)
- 会長職
- 顧問・コンサルタント
在籍形態は買い手との交渉で決まるため、「どのような立場で、どの程度の裁量を持って」残るのかは契約前に確認しておくべきポイントです。
2. 競業避止義務
ロックアップ期間中、および期間終了後の一定期間において、売却した事業と競合する事業を行うことが禁止されます。具体的には以下のような行為が制限対象になります。
- 同業種での起業
- 競合他社での就業・役員就任
- 競合他社への技術・ノウハウ提供
競業の範囲(業種・地域・期間)は契約書で定められますが、範囲が過剰に広い場合は職業選択の自由を侵害する可能性があり、後述する法的な限界にも注意が必要です。
3. 個人的出資の禁止
競合他社への出資が禁止されます。買い手企業の競争優位性を守るための条項です。
4. 業務引き継ぎ義務
顧客対応、業務フロー、取引先との関係など、事業運営に必要な情報の引き継ぎを誠実に遂行する義務です。
5. 新規事業の立ち上げ制限
ロックアップ期間中は、新規事業の立ち上げや起業が制限されるのが一般的です。
6. 他社への転職制限
期間中は他社への転職・就職が制限されます。
(出典:M&Aキャピタルパートナーズ公式、M&A総合研究所、日本M&Aセンター公式コラム、チェスター税理士法人、2026年4月確認)
実際の契約文例(参考): 「売り手は経営者自らに加え、経営陣と従業員の○○氏を、クロージング日から起算して○年間、対象会社の業務に従事させるものとする」(出典:チェスター税理士法人コラム)
ロックアップの一般的な期間と相場
ロックアップの期間は2〜3年が最も多く、1年から5年の範囲で設定されるのが一般的です。 5年を超える長期のロックアップは実務上ほとんど見られません。
期間の目安
期間 | 該当するケース |
|---|---|
1年程度 | 引き継ぎが比較的容易な場合。事業の属人性が低く、業務フローが整備されている企業 |
2〜3年(最多) | 多くの中小企業のM&Aで標準的な期間。ノウハウの引き継ぎと組織の安定に必要な目安 |
3〜5年 | 大企業、複雑な事業、経営者への依存度が高い企業。技術系企業で特定技術者の残留が不可欠な場合 |
5年超 | 推奨されない。売り手のモチベーション低下により逆効果になるリスクが高い |
(出典:M&Aキャピタルパートナーズ、M&A総合研究所、パラダイムシフト、M&Aサクシード、2024〜2026年確認)
期間が長いほど売却価格が上がる傾向
一般的に、ロックアップ期間を長く受け入れるほど、売却価格にプラスに働く傾向があります。買い手にとっては「経営者が長く残ってくれる=事業リスクが低い」と評価するためです。
ただし、期間が長すぎると逆効果になるリスクもあります。売り手のモチベーションが低下し、結果として引き継ぎの質が落ちたり、契約違反につながったりする事例が報告されています(出典:M&A総合研究所)。
M&A総合研究所のコラムでは「5年以上は推奨されない」と明記されています。自分にとって無理のない期間を見極め、交渉の中で落としどころを探ることが重要です。
売り手にとってのメリットとデメリット

ロックアップ条項は「売り手を縛るだけの条項」と捉えられがちですが、売り手にとってのメリットもあります。ここでは両面を整理します。
売り手のメリット
1. 売却価格の上昇が見込める
ロックアップを受け入れることで、売却金額が有利になるケースがあります。M&A総合研究所のコラムでは「ロックアップを受け入れれば10億円のアップが見込めた」という事例も紹介されています。
2. 段階的なバトンタッチができる
急な引退ではなく、時間をかけて経営を引き渡せるため、従業員や取引先への配慮ができます。長年育ててきた会社を「無責任に手放した」という後悔を避けられる点は、売り手にとって精神的なメリットです。
3. アーンアウト条項による追加報酬の可能性
後述するアーンアウト条項と併用される場合、業績目標の達成に応じて追加の対価を受け取れる可能性があります。
4. 従業員・取引先への責任を果たせる
急な退任による混乱を防ぎ、自分が採用した従業員や取引先に対する責任を果たす形になります。
売り手のデメリット
1. キャリア選択の自由が制限される
ロックアップ期間中は、新規事業の立ち上げ・起業・転職などが制限されます。M&A後のセカンドライフを早く始めたい方にとっては大きなデメリットです。
2. 精神的・肉体的な負担
「オーナー社長」から「雇われの立場」に変わることによる心理的なストレスは、実務上かなり多くの売り手が感じる問題です。買い手の経営方針と合わない場合、日々の業務が苦痛になるリスクもあります。
3. リタイア計画の延期
体調やライフプランの都合で早期にリタイアしたい場合でも、契約上の義務として会社に残り続ける必要があります。
4. 違反時の損害賠償リスク
契約に違反した場合(途中退職など)、損害賠償やペナルティが発生する可能性があります。詳細は次章で解説します。
(出典:M&Aキャピタルパートナーズ、日本M&Aセンター、M&A総合研究所、パラダイムシフト、2026年4月確認)
ロックアップ違反時のペナルティと法的リスク
ロックアップ条項に違反した場合、売り手には経済的なペナルティが発生する可能性があります。 ここでは実務上よく用いられるペナルティの仕組みと、法的な限界について解説します。
4つの経済的調整メカニズム
ロックアップ違反時のペナルティには、主に以下の4つの仕組みが用いられています。
メカニズム | 内容 | 目安 |
|---|---|---|
アーンアウト(後払い)の不支給 | 譲渡対価の一部を後払いにし、在籍継続を条件とする。途中退職で支給権が消滅 | 譲渡価額の20〜30%程度 |
クローバック条項(対価返還) | 一度受け取った対価の一部を、自己都合退職時に買い手へ払い戻す | 譲渡価額の10〜20%程度 |
表明保証違反による損害賠償請求 | 顧客流出や業績悪化を根拠に損害賠償を請求される | 個別事案による |
対価分割払いの停止 | 分割払いにしている譲渡対価の支払いが停止される | 個別事案による |
(出典:primary.co.jp、2026年4月確認)
注意: 上記の数値はあくまで実務上の目安です。実際のペナルティ額は個別の契約内容や企業の状況により大きく異なります。契約書の内容を弁護士に確認してもらうことを強くおすすめします。
オーナー依存度別のペナルティの目安
ペナルティの大きさは、その会社がオーナー経営者にどの程度依存しているかによって変わります。
オーナー依存度 | 経済的拘束の目安 | 該当する企業の例 |
|---|---|---|
低い | 譲渡価額の5〜10%程度 | 管理体制が整っており、経営者不在でも事業が回る企業 |
中程度 | 譲渡価額の10〜30%程度 | 経営者の人脈・判断に一定の依存があるが、幹部社員が育っている企業 |
高い | 譲渡価額の30〜50%超 | 経営者の技術力・人脈・ブランド力に大きく依存する企業 |
(出典:primary.co.jp、2026年4月確認)
法的な限界 — 職業選択の自由との関係
ロックアップ条項にも法的な限界があります。
「いかなる理由があっても辞めることを許さない」という条項は、憲法22条(職業選択の自由)に照らして公序良俗に反し、法的に無効となる可能性が極めて高いとされています(出典:弁護士・八木啓介コラム)。
また、競業避止義務についても「売主の職業選択の自由に対する制限となるため慎重な検討が必要」とされており、範囲が過剰に広い場合は一部が無効と判断されるリスクがあります。
なお、M&Aにおけるロックアップや競業避止義務の有効性に関する裁判例はまだ十分に蓄積されていません。近年M&A件数の増加に伴い、ロックアップをめぐるトラブル・紛争が増加傾向にあることが指摘されています。
売り手として押さえるべきポイント: 過度に不利な条件を提示された場合は、弁護士に相談して法的な有効性を確認してもらうことが重要です。「契約に書いてあるから絶対に従わなければならない」とは限りません。
アーンアウト条項・競業避止義務との関係
ロックアップ条項は、アーンアウト条項や競業避止義務と組み合わせて設定されることが多くあります。この3つの条項は混同されやすいため、違いと関係性を整理します。
3つの条項の違い【比較表】
比較項目 | ロックアップ条項 | アーンアウト条項 | 競業避止義務 |
|---|---|---|---|
目的 | キーパーソンの残留・引き継ぎ | 業績達成によるインセンティブ | 競合行為の禁止 |
制限内容 | 会社に残って業務に従事 | 業績目標の達成義務 | 同業での起業・就職の禁止 |
期間 | 1〜5年(2〜3年が主流) | 1〜3年が多い | ロックアップ後さらに1〜2年が典型 |
報酬との関係 | 間接的(売却価格の引き上げ要素) | 直接的(目標達成で追加報酬) | なし(義務のみ) |
違反時のペナルティ | 対価返還・後払い不支給など | 追加報酬の不支給 | 損害賠償請求 |
法的位置づけ | 契約上の取り決め | 契約上の取り決め | 事業譲渡の場合は会社法第21条に基づく法定義務あり |
アーンアウト条項との併用
アーンアウト条項は、M&A成立後に特定の業績目標(売上・利益など)を達成した場合に、買い手が売り手に追加の対価を支払う仕組みです。
ロックアップと併用することで「会社に残るだけでなく、成果を出すこと」にインセンティブが働きます。売り手のモチベーション維持に効果的な一方、以下の注意点があります。
- 目標設定の合理性 — 非現実的な目標や、買い手側の裁量で達成が困難になるような条件になっていないか
- 計算基準の明確化 — 買い手が親会社管理費を配賦して利益を圧縮するなど、「後出しジャンケン」になるリスクがないか
- 評価方法の第三者性 — 業績の計算方法が契約書で明確に定められているか
(出典:M&Aキャピタルパートナーズ、日本M&Aセンター、M&A総合研究所、2026年4月確認)
競業避止義務との違い
競業避止義務は、ロックアップ期間中だけでなく、ロックアップ終了後にも一定期間続くことがあります。ロックアップが「会社に残る義務」であるのに対し、競業避止は「退任後も同業で活動しない義務」であり、制限の性質が異なります。
なお、事業譲渡によるM&Aの場合は、会社法第21条により売り手に対する競業避止義務が法定されています。株式譲渡の場合は同条の直接的な適用はなく、競業避止義務は契約で個別に定める必要があります。※税務・法務の詳細は弁護士等の専門家への相談をおすすめします。
よくあるトラブルパターンと回避策
ロックアップ条項をめぐるトラブルは、近年のM&A件数増加に伴い増えています。実務上よく見られるトラブルパターンと、その回避策を整理します。
パターン1:身分の急転換による心理的ストレス
問題: 「オーナー社長」として意思決定してきた経営者が、M&A後は「雇われの立場」になり、心理的に耐えられなくなるケースです。「お金はいらないから辞めたい」という感情的な決断に至ることもあります。
回避策:
- 契約時に在籍形態を「取締役」ではなく「顧問・コンサルタント」にする
- 権限や裁量権の範囲を事前に明確化する
- 週3日勤務など、勤務日数の調整を交渉する
- 買い手の経営チームとの事前面談を重ね、相性を確認する
パターン2:文化摩擦・経営方針の衝突
問題: 中小企業の「即断即決」のカルチャーと、大企業の「ガバナンス手続き」のカルチャーが衝突するケースです。元オーナーが買い手の方針を無視して独断で動き、善管注意義務違反に問われるリスクもあります。
回避策:
- M&A交渉の段階で買い手の企業文化・意思決定プロセスを十分に理解する
- PMI(統合作業)の計画段階から売り手側も参画する
- 意思決定の権限範囲を契約書に明文化する
パターン3:アーンアウト目標の後出し変更
問題: 買い手が親会社の管理費を子会社(旧売り手企業)に配賦することで利益を圧縮し、アーンアウトの業績目標達成を困難にするケースです。
回避策:
- アーンアウトの計算基準(どの利益指標を使うか、配賦費用の扱いなど)を契約書で具体的に定める
- 第三者(会計士など)による業績評価の仕組みを入れる
- 配賦費用の上限や計算方法を事前に合意する
(出典:primary.co.jp、2026年4月確認)
売り手が契約前に確認すべき8つのチェックリスト

ロックアップ条項は一度合意すると変更が困難です。契約前に以下の8項目を必ず確認・交渉してください。
No. | 確認項目 | 確認のポイント |
|---|---|---|
1 | 期間の妥当性 | 引き継ぎに本当に必要な期間はどのくらいか。「とりあえず3年」ではなく、具体的な引き継ぎ項目から逆算する |
2 | Good Leaver/Bad Leaverの定義 | 病気・介護・家族の事情など不可抗力での退職時にペナルティが発生するのか。正当な理由(Good Leaver)と自己都合(Bad Leaver)の区別を明確にする |
3 | 役職・裁量権・勤務条件 | どのような肩書きで残るのか、意思決定の裁量はあるか、勤務日数・時間はどうなるか |
4 | 報酬条件の明文化 | ロックアップ期間中の役員報酬・給与の金額、支払い方法、変更条件 |
5 | アーンアウト目標の合理性 | 業績目標は達成可能な水準か。買い手側の裁量で不利にならない計算基準になっているか |
6 | 競業避止の範囲 | 業種・地域・期間が過剰に広くないか。ロックアップ終了後にどこまで制限が続くか |
7 | 退職時のペナルティ条件 | 途中退職時の違約金・クローバック条件の具体的な金額・計算方法 |
8 | 買い手企業の信用度 | 買い手の経営者・担当者は信頼できるか。ロックアップ期間中の自分の待遇がどうなるか |
特に重要なのは「Good Leaver/Bad Leaver」の定義です。 多くの競合記事ではこの点に触れていませんが、ロックアップ期間中に病気や家族の介護が発生した場合の扱いを契約時点で決めておかないと、不可抗力の退職でもペナルティが発生するリスクがあります。
(出典:primary.co.jp、日本M&Aセンター、M&A総合研究所、レバレジーズM&Aアドバイザリー、2026年4月確認)
ロックアップ条項が設定されやすい企業・設定されにくい企業
すべてのM&Aでロックアップ条項が設定されるわけではありません。企業の特性によって、ロックアップの必要性は大きく異なります。
ロックアップが設定されやすい企業(引き継ぎに時間がかかるケース)
- 経営者の人脈・知名度に依存している企業 — 経営者個人と取引先の関係が深く、後任への引き継ぎに時間がかかる
- 特定の技術者がいないと事業継続が困難な企業 — 製造業やIT企業で、特定技術者のノウハウが事業の根幹にある
- 士業事務所(弁護士・税理士・会計士等) — 顧客が特定の専門家を懇意にしており、担当者変更で顧客離れが起きやすい
- 異業種の買い手によるM&A — 買い手側に業界知識がなく、引き継ぎに長期間を要する
- 従業員数が多く、組織管理が属人的な企業 — 経営者の判断がなければ日常業務が回らない
ロックアップが設定されにくい企業(引き継ぎが比較的容易なケース)
- 業務マニュアルや管理体制が整備されている企業 — 経営者不在でも事業が回る仕組みが構築済み
- 同業種の買い手によるM&A — 買い手側に業界知識があり、短期間で引き継ぎが完了できる
- 後継者(幹部社員)が育っている企業 — 経営者への依存度が低く、すでに実質的な経営移行が進んでいる
- 売り手が高齢・健康上の理由で長期残留が困難 — 現実的にロックアップが難しいと判断される場合
- 売り手がロックアップなしを強く希望し、買い手が許容する場合 — 売却価格への影響は出る可能性がある
ポイント: M&Aの売却を検討する段階から、自社の「経営者依存度」を下げる準備をしておくと、ロックアップの期間短縮や条件緩和の交渉材料になります。業務のマニュアル化、幹部社員への権限委譲、取引先との関係の組織化などが具体的な対策です。
ロックアップの実際の事例
事例1:期間が長すぎて失敗した例
キーマン条項の期間を5年と設定したが、期間が長すぎたため売り手経営者の引き継ぎ意欲が低下。結果として契約違反となり、違約金を支払って合意内容を解消することになった。
教訓: 期間は「長ければ良い」わけではない。売り手のモチベーションを維持できる現実的な期間設定が重要。
(出典:M&A総合研究所)
事例2:自由を優先してロックアップなしを選んだ例
ロックアップを盛り込めば売却価格が10億円アップする見込みだったが、売り手経営者は自身の時間的自由を優先し、ロックアップなしでM&A契約を締結した。
教訓: ロックアップの受け入れは義務ではない。売却金額と自分の人生設計を天秤にかけて判断する選択肢がある。
(出典:M&A総合研究所)
事例3:士業事務所でのロックアップ
弁護士事務所や税理士事務所のM&Aでは、顧客が特定の専門家を懇意にしているため、ロックアップが設定されるケースが多い。専門家の交代が顧客離れに直結するため、引き継ぎ期間の確保が特に重要になる。
(出典:M&Aサクシード/M&Aストーリー)
事例4:あえてロックアップを設けない企業方針
クックパッド株式会社はM&Aにおいてロックアップを設けない方針を取っている。売り手側の精神的負担への配慮が理由とされている。
(出典:M&Aサクシード/M&Aストーリー)
ロックアップ期間中の待遇と過ごし方
ロックアップ期間中の具体的な待遇は、契約内容によって異なります。以下は一般的な傾向です。
役職・肩書き
子会社の社長、取締役、会長、顧問・コンサルタントなど、売り手の要望に合わせて調整される傾向があります。ただし、事前に交渉しておかないと買い手主導で決まってしまうため、契約前の確認が重要です。
報酬
M&Aの売却益の一部をロックアップ期間に役員報酬として分割払いにする契約が結ばれることもあります。報酬額・支払い方法は必ず契約書で明文化しておくべきです。
勤務条件
「週3日勤務」「月に数日の出社」など、勤務日数の調整が可能なケースもあります。フルタイムの在籍を求められるのか、緩やかな関与でよいのかは交渉次第です。
(出典:日本M&Aセンター、M&Aキャピタルパートナーズ、2026年4月確認)
ロックアップ条項の交渉で頼れる専門家
ロックアップ条項の内容は、M&Aの最終契約(DA)の中で定められます。自分だけで判断せず、専門家のサポートを受けることをおすすめします。
相談先 | 役割 | ロックアップに関するサポート |
|---|---|---|
M&A仲介会社 | M&A全体のプロセスを仲介 | ロックアップ条件の交渉サポート、相場観の提供、買い手との調整 |
M&A専門の弁護士 | 契約書のリーガルチェック | 条項の法的有効性の確認、不利な条件の修正提案、Good Leaver条項の設計 |
FA(財務アドバイザー) | 売り手の立場で助言 | 売却価格とロックアップ期間のバランス交渉、アーンアウト条件の設計 |
税理士・公認会計士 | 税務・財務面のアドバイス | アーンアウトの税務処理、分割払い対価の税務影響 |
M&A仲介会社は売り手・買い手の双方と関わるため、ロックアップ条件の交渉では売り手専属のFA(財務アドバイザー)や弁護士を別途つける選択肢も検討してください。
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よくある質問(FAQ)
Q. ロックアップ条項は必ず設定されるのですか?
いいえ、必ず設定されるわけではありません。事業の属人性が低い企業や、買い手が同業種で引き継ぎが容易な場合は、ロックアップなしで契約が成立するケースもあります。また、クックパッドのように企業方針としてロックアップを設けない買い手も存在します。ただし、中小企業のM&Aでは設定されることが多い傾向にあります。
Q. ロックアップ期間の長さは交渉できますか?
交渉できます。ロックアップの期間は法律で決まっているものではなく、売り手と買い手の合意で決まります。一般的に買い手は長い期間を希望し、売り手は短い期間を希望するため、引き継ぎに必要な期間を具体的に説明しながら交渉することが重要です。M&A仲介会社やFAに交渉をサポートしてもらうこともできます。
Q. ロックアップ期間中に病気で働けなくなったらどうなりますか?
契約内容によります。Good Leaver(正当な理由による退職)とBad Leaver(自己都合による退職)を区別する条項が設定されていれば、病気や介護などの不可抗力はGood Leaverとして扱われ、ペナルティが軽減される可能性があります。ただし、この区別が契約書に明記されていない場合は、自己都合と同じ扱いになるリスクがあるため、契約前にGood Leaver条項を入れてもらうよう交渉することが極めて重要です。
Q. ロックアップ条項に違反したら必ず損害賠償を請求されますか?
必ず請求されるとは限りませんが、契約上のペナルティが発生する可能性があります。アーンアウト(後払い対価)の不支給、クローバック(対価の返還)、損害賠償請求などが考えられます。ペナルティの内容は契約書の条項次第であり、「いかなる場合も辞められない」という条項は法的に無効と判断される可能性がある点も覚えておいてください。
Q. ロックアップ中の役職や報酬はどのように決まりますか?
売り手と買い手の交渉で決まります。代表取締役の続投、取締役、会長、顧問など様々なパターンがあり、報酬額・勤務条件も個別の交渉次第です。契約前に「肩書き」「裁量権の範囲」「勤務日数」「報酬額と支払い方法」を明文化しておくことが、後のトラブル防止につながります。
Q. 事業譲渡と株式譲渡でロックアップの扱いは変わりますか?
ロックアップ条項自体は、事業譲渡・株式譲渡のいずれでも設定される可能性があります。ただし、競業避止義務については株式譲渡と事業譲渡で法的な扱いが異なります。事業譲渡の場合は会社法第21条により法定の競業避止義務が発生しますが、株式譲渡の場合は契約で個別に定める必要があります。※詳細は弁護士にご確認ください。
まとめ
M&Aのロックアップ条項(キーマン条項)は、売り手にとって自由を制限する一方で、売却価格の引き上げや段階的な引き継ぎといったメリットもある契約条項です。
売り手が押さえるべきポイント:
- ロックアップは法律上の義務ではなく、交渉で期間・条件を調整できる
- 期間は2〜3年が一般的で、5年以上は売り手にとってもリスクが高い
- Good Leaver/Bad Leaverの定義を契約前に必ず確認する
- 違反時のペナルティ(アーンアウト不支給・クローバックなど)の具体的な条件を把握する
- 役職・裁量権・報酬・勤務条件は「決まるもの」ではなく「交渉するもの」
- M&A専門の弁護士やFAのサポートを受けて、不利な条項を事前に修正する
ロックアップ条項は「受け入れるか、拒否するか」の二択ではなく、条件を交渉して自分にとって無理のない形に調整することが重要です。M&Aの売却を検討している方は、早い段階からロックアップの条件について専門家に相談することをおすすめします。
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