会社売却後に顧問・アドバイザーとして残る働き方|契約形態・報酬相場・税務の注意点
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会社売却後に顧問・アドバイザーとして残る働き方|契約形態・報酬相場・税務の注意点

会社売却後に顧問・アドバイザーとして残る働き方を解説。非常勤役員/雇用型顧問/業務委託型顧問の違い、報酬相場、期間、役員退職金が否認されるリスク、契約書チェック17項目を公式資料をもとに整理します。

M&A比較レビュー編集部2026/9/1115分で読める

会社売却後に「顧問」として残るかどうかを決める前に、まず押さえるべきことが1つあります。「顧問」は会社法上の役職ではなく登記もされないため、肩書きだけでは権限・報酬・期間・責任のどれも決まらず、すべて個別の契約で定めることになるという点です。 そして、その契約を「非常勤役員」「雇用契約の顧問」「業務委託の顧問」のどれで組むかによって、報酬の税務上の扱い、社会保険への加入義務、年金の減額、そして役員退職金が税務上認められるかどうかまで変わります。

とくに見落とされやすいのが退職金の論点です。中小企業庁の『中小PMIガイドライン』は、譲渡側経営者が顧問等としてこれまでどおりの勤務形態・報酬で残ると、M&A成立時に支給した役員退職金の損金性が否認されるおそれがあると明記しています(出典: 中小企業庁『中小PMIガイドライン』令和4年3月・P.45/確認日2026年9月12日)。手取り最大化のために組んだ退職金スキームが、残り方の設計ミスで崩れることがあるということです。

この記事でわかること:

  • 「顧問として残る」の3つの契約形態と、税務・社会保険・拘束力の違い(比較表)
  • 中小企業庁『中小PMIガイドライン』が示す、処遇の決め方の3つのルール
  • 報酬相場の考え方(複数出典の幅+変動要因+段階的に減額していく設計例)
  • 期間の目安が契約形態によって違う理由
  • 役員退職金が否認される仕組み(法人税基本通達9-2-32)と「みなし役員」(同9-2-1)
  • 業務委託にした場合の源泉徴収10.21%・消費税・インボイスの実務
  • 社会保険と、65歳以上のオーナーが気にすべき在職老齢年金(2026年度基準額65万円)への影響
  • 顧問契約書で必ず確認したい17項目のチェックリスト
  • ロックアップ条項・競業避止義務との関係と、残らない選択との比較

この記事は、株式譲渡による会社売却が具体化しつつあり、買い手から「しばらく顧問として残ってほしい」と言われている、あるいは自分から残留を提案しようとしている中小企業のオーナー経営者に向けて書いています。

ご注意: 役員退職金の損金算入可否、みなし役員への該当性、源泉徴収の要否、社会保険の加入判定は、いずれも契約書の文言ではなく実態にもとづく総合判断です。形式的に要件を満たせば安全というものではありません。実際の判断は必ず税理士・社会保険労務士・弁護士にご相談ください。中小PMIガイドライン自体も、この論点について「適宜税理士等に相談する」と明記しています(P.45)。

結論:先に決めるべきは「肩書き」ではなく「契約形態」

要点は3つです。

  1. 「顧問」という肩書きを選んでも、何も決まらない。 顧問は会社法上の機関ではなく登記対象でもないため、権限も義務も報酬も期間も、すべて契約で定めるしかありません。この曖昧さを放置すると、「役割が与えられない名ばかり顧問」と「社長時代と変わらない負荷」の両極端のどちらにも転びます。
  2. 税務・社会保険・年金は「契約形態」で決まる。 非常勤役員(委任)なのか、雇用契約の顧問なのか、業務委託(準委任)の顧問なのか。ここが変わると、報酬の所得区分、源泉徴収の方法、消費税の扱い、社会保険の加入義務、在職老齢年金による年金カットの有無が連動して変わります。
  3. 処遇はM&A成立前に書面で決める。 中小企業庁はこれを明確に推奨しています。「M&Aの最終契約時には、M&A成立後における譲渡側経営者の処遇に関する条件を書面で明確にし、引継ぎ後に譲渡側経営者と処遇について争いにならないようにする」(出典: 中小企業庁『中小PMIガイドライン』P.44/確認日2026年9月12日)。クロージング後に交渉しようとすると、株式も議決権も手放した後になるため、売り手の交渉力は大きく落ちます。

なお「残る/残らない」の判断そのもの、引き継ぎ期間全体の設計については会社売却後 社長の引き継ぎ期間・役割で扱っています。本記事は、その中でも「顧問・アドバイザーという形で残る」と決めた場合に、契約をどう組むかに絞って解説します。

前経営者が残るのは例外ではない — 公式データで確認する

「売ったのに残るのは中途半端ではないか」と感じる方もいますが、統合作業(PMI)の実務では前経営者の関与はむしろ一般的です。

中小企業庁『中小PMIガイドライン』(P.35)が示す、中規模・大規模案件のPMI推進体制に関するアンケート結果(n=52・複数回答)では、次の割合で「譲渡側の前経営者(前代表者)」が関与しています。

PMIにおける役割

譲渡側の前経営者が関与している割合

重要意思決定への関与者

50%

企画・推進への関与者

38%

出典:中小企業庁『中小PMIガイドライン』令和4年3月・P.35(確認日2026年9月12日)。回答数52件のアンケート結果であり、中小M&A全体の統計ではない点にご留意ください。

同ガイドラインは「重要意思決定、企画・推進の役割は、多くのケースで、譲受側経営者だけでなく、譲受側役員や、譲渡側の前経営者等が関与している」と記しています。

また従業員対応の観点でも、「代表者交代があっても、譲渡側経営者が顧問等で残ることを伝えると従業員の安心感の醸成につながることもある」(同P.47)とされています。つまり顧問としての残留は、買い手にとっても売り手にとっても合理性のある選択肢です。問題は、残るかどうかではなく、どう残るかです。

「顧問として残る」の3つの契約形態と違い

会社売却後の顧問契約における非常勤役員・雇用型顧問・業務委託型顧問の違いを検討するイメージ

「顧問として残る」と一言で言っても、法的な契約の型は大きく3つに分かれます。多くの解説記事は「会長・相談役・顧問」を肩書きの違いとして扱っていますが、実務で効いてくるのは肩書きではなく契約の型です。

比較項目

①非常勤役員(取締役・会長)

②顧問・相談役(雇用契約型)

③顧問・アドバイザー(業務委託型)

契約の性質

委任(会社法330条)

雇用契約

委任・準委任(業務委託)

登記

される(取締役の場合)

されない

されない

報酬の所得区分

給与所得(役員給与)

給与所得

事業所得または雑所得

源泉徴収

給与として源泉徴収

給与として源泉徴収

報酬として原則10.21%(後述)

消費税

不課税

不課税

課税取引(インボイス対応が必要になりうる)

社会保険

実態により加入義務が生じる

原則として加入

対象外(国保・任意継続等を自分で選択)

経費の扱い

給与所得控除

給与所得控除

実費を必要経費に算入できる

役員退職金が否認されるリスク

高い(実質的な退職と認められにくい)

中〜高

相対的に低い(ただし実態次第)

会社に対する責任

善管注意義務・任務懈怠責任を負う

労働者としての義務

契約で定めた義務のみ

拘束の強さ

強い

中程度

弱い(稼働日数を限定しやすい)

※上表は、会社法・法人税基本通達・所得税基本通達・消費税法基本通達および日本年金機構の運用に関する公開情報を統合して整理したものです(確認日2026年9月12日)。実際の取扱いは実態で判定されるため、税務・社会保険の詳細は税理士・社会保険労務士への確認が必須です。

肩書きの一般的な使われ方

契約形態とは別に、肩書きにも実務上の傾向があります。東証プライム上場のM&A仲介会社ストライクの解説では、次のように整理されています(出典: ストライク公式サイト/確認日2026年9月12日)。

  • 会長:取締役として登記されることが多く、少なくとも1年は継続するケースが多い。対外的な信用維持の役割が大きい
  • 相談役:顧問と会長の中間的なポジション
  • 顧問:雇用契約も役員としての契約もなく、外部アドバイザーとして関与する立場

これは法令で定められた区分ではなく、実務上の一般的な使われ方です。判断の目安としては、取引先や金融機関への安心感を優先するなら会長(役員として残る)、身軽さと税務上の安全性を優先するなら業務委託型の顧問、という整理になります。

中小企業庁ガイドラインが示す、処遇の決め方3つのルール

本記事で最も重視したい一次情報が、中小企業庁『中小PMIガイドライン』(令和4年3月)です。譲渡側経営者の処遇について、政府が明文で言及している数少ない公式文書です。

ルール1:処遇は「M&A成立前」に決める

同ガイドラインは、譲渡側経営者について「M&A成立後における関係性や、引継ぎにおける役割等を、M&A成立前に明確にする」ことをゴールとして掲げ、取組のポイントとして「譲渡側経営者が残る場合、譲渡側経営者の役割や在籍期間等についてM&A成立前に概ね合意しておく」と記しています(P.43)。

失敗例として挙げられているのが、次の記述です。

「譲渡側経営者について、M&A後の引継ぎのための在籍期間を事前に定めていなかったため、長期にわたって譲渡側経営者の影響力が残り、進めようとしていた改革の抵抗勢力となった。」(P.43)

期間を決めないことは、売り手にとって「いつまで拘束されるかわからない」リスクであると同時に、買い手にとっても統合が進まないリスクになります。双方にとって不利益なので、期間の明記は交渉で主張しやすい項目です。

ルール2:見積もれないなら「半年更新」にする

期間の見通しが立たない場合の実務的な解として、ガイドラインは次の提案をしています。

「経営の引継ぎに必要な期間を予め見積もる。合理的に見積もれない場合には、例えば半年更新の契約として、事後的に柔軟に対応できるようにする。」(P.44)

「3年間拘束」と「期間未定」の二択で悩んでいるなら、半年更新という第三の選択肢が公式に提案されていることは、交渉の材料になります。ただし売り手側から見ると、更新されなければそこで収入が止まるという裏返しのリスクもあるため、後述する「更新拒絶時の予告期間」をセットで入れておくのが実務的です。

ルール3:覚書等の書面に落とす

「譲渡側経営者の処遇(引継ぎ期間における役職・役割、報酬、在籍期間等)について、合意の上で、協力関係の前提として書面(覚書等)に明記する。」(P.44)

「M&Aの最終契約時には、M&A成立後における譲渡側経営者の処遇に関する条件を書面で明確にし、引継ぎ後に譲渡側経営者と処遇について争いにならないようにする。」(P.44)

ポイントは「最終契約時に」という時点指定です。株式譲渡契約(SPA)の締結と同じタイミングで顧問契約書または覚書を作る、という段取りにしておくのが安全です。契約書の全体像はM&A SPA(株式譲渡契約書)とはもあわせてご確認ください。

以上の引用はいずれも、中小企業庁『中小PMIガイドライン』令和4年3月版(確認日2026年9月12日)からのものです。

報酬の相場:単一の数字では語れない

先に結論を言うと、M&A後の前オーナーの顧問報酬について、公的な統計データは現時点では確認できていません。 以下は民間各社の実務解説であり、幅を持って読む必要があります。断定的な「相場は月○万円」という記述には注意してください。

出典

示されている水準

前提条件

みつきコンサルティング

従前の役員報酬の3〜5割が目安

出社頻度が週1〜2日程度の場合

みつきコンサルティング

週2日程度の関与で現役時の3〜5割前後。業績責任や取引先関係の維持を伴う場合はより高い

—

M&Aナビ

引き継ぎ期間中は月10〜30万円程度が一般的とする解説

引き継ぎ期間中の元社長

税務研究会「税理士懇話会」事例データベース(2024年11月14日回答分の質問概要)

退任後の業務委託契約で、初めの半年は月100万円、次の半年は月50万円、最長1年で月25万円という段階的に減額する設計

小売業・年商約30億円、役員退職金1億円とセットの事例

パソナ ProShare(M&A限定ではない一般的な外部顧問の相場)

固定契約で月10〜50万円/時間契約で月3〜10万円

経営顧問一般

出典:上記各社の公開解説ページ(確認日はいずれも2026年9月12日)。税務研究会の事例は質問概要として公開されている範囲のみを引用しており、税務上の結論は含みません。

読み解き方:ボリュームゾーンと変動要因を分けて考える

上の数字をまとめると、月10万〜50万円あたりがボリュームゾーン、目安としては従前の役員報酬の3〜5割という整理になります。ただしこれは出発点にすぎず、実際の金額は次の要因で大きく動きます。

  • 稼働日数:週1日なのか週3日なのか。ここが最も効きます
  • 業績責任の有無:単なる助言なのか、売上・取引先維持のコミットを負うのか
  • 会社の規模:年商数十億円規模では、月100万円からスタートして段階的に下げる設計も見られます
  • 取引先・金融機関との関係維持の重要度:前オーナーの人的関係に依存する会社ほど報酬は高くなりやすい
  • アーンアウト条項の有無:業績連動の後払い対価がある場合、顧問報酬とあわせた総額で考える必要があります(M&A アーンアウトとは)

「段階的に減らす」設計は双方にとって合理的

上記の税務研究会の事例のように、引き継ぎの進捗にあわせて報酬を下げていく設計(例:最初の6か月は月100万円 → 次の6か月は月50万円 → その後は月25万円)は、実務上よく機能します。

  • 買い手から見れば、関与が薄れる時期に高い固定費を払い続けずに済む
  • 売り手から見れば、最も負荷が重い初期にきちんと報われる
  • 「いつまでに引き継ぎを終えるか」のスケジュールが報酬表に可視化される

固定額で長期契約にするより、この形のほうが交渉はまとまりやすい傾向があります。なお、報酬水準の設定は後述する役員退職金の損金性判定にも影響するため、金額を決める前に税理士へ相談することをおすすめします。

期間の目安:契約形態によって相場が違う

期間についても、複数の解説で示されている幅を整理します。ここで重要なのは、役員として残る場合と、業務委託の顧問として残る場合では期間の相場が異なるという点です。

出典

示されている期間

ストライク

顧問の場合は3か月〜1年程度が多い。会長の場合は少なくとも1年継続(取締役として登記されることが多い)

クレジオ・パートナーズ

引き継ぎ期間は6か月〜2年がボリュームゾーン。1か月で退任する例も、3〜5年関与する例もある

M&Aナビ

概ね半年から1年程度は会社に残るケースが大半

みつきコンサルティング

会長・顧問・相談役として支える形では1〜3年

中小企業庁『中小PMIガイドライン』

数値目安は示さず、合理的に見積もれない場合は半年更新の契約を推奨(P.44)

出典:上記各社の公開解説ページおよび中小企業庁『中小PMIガイドライン』(確認日はいずれも2026年9月12日)。法令で定められた期間ではなく、契約で自由に定められる事項です。

ざっくり言えば、業務委託型の顧問なら3か月〜1年、役員(会長等)として残るなら1〜3年が一つの目安です。「長く残ってほしい」と言われた場合、それが役員としての在籍を求めているのか、助言者としての関与を求めているのかを切り分けると、交渉の落としどころが見えやすくなります。

在籍そのものを義務づける条項についてはM&A ロックアップ条項とは(売り手の制約)、特定の人物の残留を成約条件にする条項についてはキーマン条項とはで詳しく扱っています。

最大の落とし穴:役員退職金が否認されるリスク

役員退職金の損金算入が否認されるリスクを税理士と確認するイメージ

ここが本記事で最も重要なパートです。会社売却時に役員退職慰労金を受け取って手取りを増やす設計は広く使われていますが、顧問として残る形によっては、その退職金が税務上「退職金」と認められなくなることがあります。

中小企業庁が名指しで警告している

『中小PMIガイドライン』P.45のコラムには、次のように書かれています。

「譲渡側経営者が残る場合の役員退職金の取扱い
譲渡側経営者に顧問等としてこれまでどおりの勤務形態・報酬でサポートしてもらう場合、M&A成立時に譲渡側経営者に役員退職金(退職慰労金)を支給してしまうと、税務上退任の事実が認められず、役員退職金の損金性が否認されるおそれがある。そのため、譲渡側経営者に顧問として関与してもらう場合は、待遇(勤務形態含む)のみならず、役員退職金の支給時期も慎重に検討することが必要となるため、適宜税理士等に相談する。」(出典: 中小企業庁『中小PMIガイドライン』令和4年3月・P.45/確認日2026年9月12日)

政府のガイドラインが、この論点を正面から警告しています。

根拠となる通達:法人税基本通達9-2-32

税務上の根拠は、国税庁の法人税基本通達9-2-32(役員の分掌変更等の場合の退職給与)です。原文の要旨は次のとおりです(出典: 国税庁ウェブサイト/確認日2026年9月12日)。

「法人が役員の分掌変更又は改選による再任等に際しその役員に対し退職給与として支給した給与については、その支給が、例えば次に掲げるような事実があったことによるものであるなど、その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものである場合には、これを退職給与として取り扱うことができる。
(1) 常勤役員が非常勤役員(常時勤務していないものであっても代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)になったこと。
(2) 取締役が監査役(……)になったこと。
(3) 分掌変更等の後におけるその役員(その分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと。」

読むときの注意点は3つです。

  1. (1)(2)(3)はあくまで「例示」です。 これを満たせば自動的に退職金として認められる、というチェックリストではありません。本文の要件は「地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められる」ことです。
  2. すべての号に「経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く」という除外がついています。 形式的に非常勤役員になっても、報酬を50%以上減らしても、実態として経営の中枢に居続けていれば否認されうるということです。
  3. 「報酬50%減」だけが独り歩きしがちですが、3つの例示のうちの1つにすぎません。

否認されたときのダメージ

否認された場合、支給額は退職給与ではなく役員賞与として扱われます。結果として、法人側では損金不算入となって法人税が増え、個人側では退職所得(分離課税・退職所得控除あり・2分の1課税)ではなく給与所得として課税されます。数千万円〜億単位の退職金を前提にしていた場合、追徴税額は非常に大きくなります。

※ここで示した取扱いは制度の一般的な説明です。個別の案件でどう判定されるかは実態次第であり、税務の詳細は必ず税理士にご相談ください。

退職金の設計そのものについてはM&A 役員退職慰労金の活用・節税ガイド、辞任・登記の手順についてはM&A 役員・取締役の辞任タイミングと手続きガイドをご覧ください。

「顧問」に肩書きを変えても役員扱いになることがある

もう1つ知っておくべきなのが、法人税基本通達9-2-1(役員の範囲)です。

「令第7条第1号《役員の範囲》に規定する『使用人以外の者でその法人の経営に従事しているもの』には、相談役、顧問その他これらに類する者でその法人内における地位、その行う職務等からみて他の役員と同様に実質的に法人の経営に従事していると認められるものが含まれることに留意する。」(出典: 国税庁 法人税基本通達9-2-1/確認日2026年9月12日)

つまり、登記を外して「顧問」を名乗っても、実質的に経営に従事していれば税務上は役員(いわゆるみなし役員)として扱われます。 該当すると報酬は役員給与となり、定期同額給与などの損金算入ルールの制約を受けるほか、前述の退職金否認にも直結します。

「経営に従事している」かどうかは、経営方針・人事・資金調達・製品開発・販売網といった重要事項の決定にどの程度関与しているかで総合的に判定されます。週1日しか出社していなくても、重要な意思決定に常時関わっていれば該当しうる点に注意が必要です。

業務委託型を選ぶ場合に必要な実務手続き

業務委託(準委任)で顧問契約を結ぶ場合、前オーナーは個人事業主として報酬を受け取ることになります。給与とは扱いが変わるため、次の3点を事前に押さえておく必要があります。

源泉徴収10.21%の対象になりうる

所得税基本通達204-15(企業診断員の範囲)は、源泉徴収の対象となる「企業診断員」について次のように定めています。

「令第320条第2項に規定する企業診断員には、中小企業支援法に基づく……登録された中小企業診断士だけでなく、直接企業の求めに応じ、その企業の状況について調査及び診断を行い、又は企業経営の改善及び向上のための指導を行う者、例えば、経営士、経営コンサルタント、労務管理士等と称するような者も含まれる。」(出典: 国税庁 所得税基本通達204-15/確認日2026年9月12日)

これに該当すると、支払側(買い手企業)は原則として10.21%(同一人に対し1回に支払う金額が100万円を超える部分は20.42%)を源泉徴収する義務を負います(出典: 国税庁『源泉徴収のあらまし(令和8年版)』第5 報酬・料金等の源泉徴収事務/確認日2026年9月12日)。

注意点として、契約書に書く業務内容によって源泉徴収の要否が変わりえます。 所得税法204条は対象となる報酬を限定列挙しており、「経営の改善・向上のための指導」に当たらない役務(純粋な技術指導など)は該当しない場合があります。契約書のドラフト段階で税理士に確認しておくのが安全です。

「顧問契約」でも給与と認定されることがある

契約書の名称が「業務委託契約」「顧問契約」であっても、実態が雇用に近ければ税務上は給与と認定されます。消費税法基本通達1-1-1は、事業者(=外注費)に当たるかどうかを「自己の計算において独立して事業を行う者」かどうかで判定するとし、次の4点を総合勘案するとしています(出典: 国税庁 消費税法基本通達1-1-1/確認日2026年9月12日)。

  1. その役務の提供の内容が、他人の代替を容れるかどうか
  2. 役務の提供にあたり、事業者の指揮監督を受けるかどうか
  3. 引渡しを了しない完成品が不可抗力で滅失した場合等でも、既に提供した役務について報酬を請求できるかどうか
  4. 役務の提供に係る材料または用具等を供与されているかどうか

毎日出社し、新経営陣の指揮命令を受け、会社の席と設備を使って働いているという状態であれば、名称が顧問契約でも給与と判断される可能性があります。この場合、会社側は仕入税額控除が否認されて消費税の追徴を受け、源泉徴収漏れも問題になります。売り手側にとっても、給与所得として扱われることで経費算入ができなくなります。

インボイス(適格請求書)への対応

業務委託型の顧問報酬は消費税の課税取引です。買い手企業が仕入税額控除を受けるには、前オーナー個人が適格請求書発行事業者として登録し、適格請求書を交付する必要があります。

  • 免税事業者のままだと、買い手側で控除できない分について値引き交渉を受ける可能性があります
  • 登録すると消費税の申告義務が発生します
  • 経過措置や特例の適用可否は個別事情で変わるため、契約前に税理士へ確認してください

M&A取引そのものの消費税・インボイスの扱いはM&A仲介手数料の消費税・インボイス対応ガイドで整理しています。

社会保険・年金への影響:65歳以上のオーナーは要確認

顧問として残る場合の社会保険加入義務と在職老齢年金への影響を確認するイメージ

契約形態の選択は、健康保険・年金にも直結します。売却後の生活設計に関わるため、報酬額と同じくらい重要な論点です。

非常勤役員として残る場合

役員は原則として社会保険の加入対象ですが、非常勤役員については実態で判定されます。日本年金機構の通知にもとづく判断例として、社会保険労務士事務所等の解説では次の6点が挙げられています(確認日2026年9月12日)。ただしこれらは一次資料そのものではなく二次情報のため、実際の判定は年金事務所または社会保険労務士に必ずご確認ください。

  1. その法人の事業所に定期的に出勤しているかどうか
  2. その法人における職以外に多くの職を兼ねていないかどうか
  3. その法人の役員会等に出席しているかどうか
  4. その法人の役員への連絡調整または職員に対する指揮監督に従事しているかどうか
  5. その法人において、求めに応じて意見を述べる立場にとどまっていないかどうか
  6. 支払われる報酬が、社会通念上労務の内容に相応したものであって、実費弁償程度の水準にとどまっていないかどうか

業務委託(顧問契約)の場合

雇用関係がないため、健康保険・厚生年金保険の被保険者にはなりません。したがって前オーナーは、健康保険について「任意継続(退職後20日以内に申請・最長2年)」「国民健康保険」「家族の被扶養者」のいずれかを自分で選択することになります。60歳未満であれば国民年金第1号被保険者になります。

この手続きはM&A売却後の社会保険・年金・健康保険の切り替えガイドで詳しく扱っています。

在職老齢年金:同じ報酬額でも契約形態で扱いが変わる

65歳以上で老齢厚生年金を受給している(または受給が近い)オーナーにとって、見過ごせない違いがあります。

日本年金機構によると、令和8年度(2026年度)の在職老齢年金の支給停止調整額は65万円です。基本月額と総報酬月額相当額の合計が65万円を超える場合、超えた分の2分の1が年金から支給停止されます(支給停止額=(基本月額+総報酬月額相当額-65万円)÷2)。この基準額は毎年度、賃金の変動に応じて改定されます(出典: 日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」/確認日2026年9月12日)。

ここで重要なのは、在職老齢年金の仕組みは「厚生年金保険の被保険者であること」が前提だという点です。業務委託型の顧問契約は厚生年金の被保険者にならないため、たとえば同じ月50万円を受け取る場合でも、

  • 非常勤役員として給与で受け取る(厚生年金の被保険者と判定された場合) → 総報酬月額相当額に算入され、年金カットの計算対象になりうる
  • 業務委託の報酬として受け取る → 厚生年金の被保険者ではないため、この計算の対象外

という違いが生じます。年金受給額が大きいオーナーほど、契約形態の選択が手取りに与える影響は無視できません。ただし実際にカットされるかどうかは基本月額(年金額)との合計で決まり、加入歴や受給開始時期によっても変わるため、必ず年金事務所または社会保険労務士に確認してください。

顧問契約書で確認したい17項目チェックリスト

会社売却後の顧問契約書を17項目のチェックリストで確認するイメージ

「書面で明確にする」と言われても、何を書けばいいのかが分からなければ意味がありません。一般的な顧問契約書の必須項目に、M&A特有の項目を加えて整理しました。

一般的な顧問契約で押さえる12項目

  1. 業務範囲(やることと、やらないことの両方を書く)
  2. 稼働日数・稼働時間(週◯日、月◯時間)
  3. 出社義務の有無・勤務場所(リモート可否を含む)
  4. 報酬額・支払方法・支払期日
  5. 報酬に含まれる業務と、別料金になる業務の区分
  6. 実費の負担(交通費・通信費・出張費)
  7. 契約期間と更新方法(自動更新か、更新協議か)
  8. 中途解約条項(定額制なら日割清算の規定を入れる)
  9. 秘密保持義務(契約終了後も存続する旨)
  10. 成果物の知的財産権の帰属
  11. 利益相反・競業に関する取り決め
  12. 反社会的勢力の排除条項

M&A特有で追加すべき5項目

  1. ロックアップ義務との対応関係 — この顧問契約の履行をもってSPA上の在籍義務を満たす旨を明記する。ここを曖昧にすると、顧問として残っているのに「在籍義務を果たしていない」と主張されるリスクが残ります
  2. アーンアウト条項がある場合の権限と責任の範囲 — 業績目標の達成を求められるのに、その達成に必要な権限が与えられない状態を避ける
  3. 買い手側による一方的な業務内容変更の禁止(または変更時の協議義務) — 「名ばかり顧問」化と、逆に社長時代と変わらない負荷を負わされる事態の両方を防ぐ
  4. 更新拒絶時の予告期間 — 半年更新型にする場合はとくに重要。◯か月前通知を入れておく
  5. 個人保証(経営者保証)の解除完了を前提条件とする旨 — 顧問として残っている間に保証が残り続ける事態を避ける(会社売却 個人保証・連帯保証 解除方法)

出典:顧問契約書の一般的記載事項については、マイナビProfessional・GMOサイン・アイシア法律事務所の各解説を参照(確認日2026年9月12日)。13〜17は本記事でM&A実務の観点から追加した項目です。

契約書の条項設計は個別性が高い領域です。法務の詳細は必ず弁護士のレビューを受けてください。

ロックアップ・競業避止義務との関係

顧問契約は単体で存在するものではなく、株式譲渡契約(SPA)に定められる各種の条項とセットで機能します。

ロックアップ条項との関係

ロックアップ条項(キーマン条項とセットで設けられることも多い条項です)は在籍を義務づける側の条項、顧問契約は在籍の中身を定める側の契約です。売り手にとって重要なのは、ロックアップ義務を「代表取締役として残ること」で果たすのか、「顧問として関与すること」で果たすのかという点です。負担はまったく違います。

SPAの交渉段階で、「顧問としての関与をもって在籍義務を満たす」と明記できれば、売り手の負担は大きく軽くなります。 逆に、SPAが「役員として在籍すること」と書いてあれば、退職金の否認リスクも社会保険の負担も付いてきます。ロックアップ期間は2〜3年とされる解説が多く見られますが(M&A実務解説各社/確認日2026年9月12日)、法定の期間ではなく契約で定める事項です。この期間をどう過ごすかは手取りにも生活設計にも直結します。

競業避止義務との関係

もう1つ、セカンドキャリアを考えている方にとって重要な論点があります。M&Aの契約実務では、競業避止義務の対象として、単に自分で同業を営むことだけでなく、競合企業の役員・従業員になること、競合企業へ出資すること、そして競合企業の顧問になることまで禁止されるのが通例とされています(出典: 弁護士法人長瀬総合法律事務所の解説/確認日2026年9月12日)。

期間は2〜5年で定められるケースが多いとされますが、これは法律で決まった期間ではなく、契約で定める事項です。譲渡対価には競業避止義務の対価が含まれていると解されるため、十分な対価が支払われている場合には比較的広い制限も有効と判断されやすい一方、対価が低いのに厳しい制限を課すと無効となるリスクが高まると整理されています(参考: 経済産業省「競業避止義務契約の有効性について」/確認日2026年9月12日)。

売却後に「業界経験を活かして他社の顧問・アドバイザーをやりたい」と考えているなら、競業避止条項が同業他社の顧問就任まで禁じていないかを、署名前に必ず確認してください。 条項の有効性の判断は個別事情に左右されるため、法務の詳細は弁護士にご相談ください。 範囲や期間の交渉方法はM&A 競業避止義務の期間・範囲 交渉実践ガイド、制度の基本はM&A 競業避止義務とはで扱っています。

よくある失敗パターンと防ぎ方

失敗パターン

何が起きるか

契約段階での防ぎ方

名ばかり顧問化

業務範囲を決めずに契約し、実際には何の役割も与えられない。報酬に見合う仕事がなく居心地が悪くなる

業務範囲を「やること/やらないこと」の両面で書く(チェックリスト1)

社長時代と変わらない負荷

報酬は下がったのに、責任と稼働だけが残る

稼働日数・時間の上限を数字で明記する(同2)

指揮系統の二重化

従業員が新経営陣ではなく前オーナーを頼り続け、統合が進まない。中小PMIガイドラインも、前経営者の影響力が残り「改革の抵抗勢力となった」失敗例を挙げる(P.43)

意思決定権は新経営陣にあることを契約と社内周知で明確化。関与範囲を助言に限定する

退職金の否認

M&A成立時に受け取った役員退職金が退職給与と認められず、法人側で損金不算入・個人側で給与課税になる

勤務形態・報酬水準・支給時期を税理士と設計する(法基通9-2-32・9-2-1)

更新されないリスク

半年更新・1年契約が更新されず、想定より早く収入が途絶える

更新拒絶の予告期間を入れる(同16)。生活設計は顧問報酬に依存させない

心理的な負担

意思決定権を失った状態での在籍がストレスになる

期間を短く区切る。段階的に減額する報酬設計にして「引き際」を先に決めておく

出典:中小企業庁『中小PMIガイドライン』P.43、およびM&Aサクシード等の実務解説(確認日2026年9月12日)

統合作業全体で前経営者に何が期待されるかはM&A PMI(統合プロセス)とはもあわせてご覧ください。

契約形態の選び方:こんな方におすすめ

業務委託型の顧問(準委任)が向いているケース

  • M&A成立時に役員退職慰労金を受け取る予定がある(実質的な退職と認められやすく、否認リスクを相対的に抑えやすい)
  • 週1〜2日程度の限定的な関与にとどめたい
  • 65歳以上で老齢厚生年金を受給している(厚生年金の被保険者にならないため在職老齢年金の計算対象外)
  • すでに別の活動(他社の顧問、投資、社会貢献活動)を始めている
  • 拘束を最小限にして、早く次のステージに移りたい

ただし、実態として経営に従事していればみなし役員と判定されうる点、業務内容によっては源泉徴収やインボイス対応が必要になる点は前述のとおりです。

非常勤役員(会長・取締役)として残るのが向いているケース

  • 取引先・金融機関との関係が前オーナー個人に強く依存しており、対外的な信用維持が引き継ぎの成否を左右する
  • 買い手からロックアップ・キーマン条項で役員としての在籍を強く求められている
  • 1〜3年かけて腰を据えて引き継ぎたい意向がある
  • 退職金は当面受け取らず、支給時期を後ろ倒しにする設計を税理士と組める

雇用契約型の顧問・相談役が向いているケース

  • 社会保険(健康保険・厚生年金)を継続したい事情がある
  • 一定の出社と定常業務を伴う関与が前提になっている

顧問として残らない方がよいケース

  • すでに引き継ぐべき人的関係・ノウハウが社内に移っており、残る実益がない
  • 買い手が業務内容も期間も報酬も明示しないまま「とりあえず残ってください」と言っている
  • M&A成立時に役員退職金を受け取る設計で、かつ従前と変わらない勤務形態を求められている(退職金否認リスクが最も高い組み合わせ)
  • 新経営陣の方針と自分の考えが明確に対立しており、従業員が板挟みになることが予想される
  • 売却後にすぐ同業でのセカンドキャリアを始めたいが、顧問として残ることで実質的に身動きが取れなくなる

「残らない」も正当な選択です。売却後の生活設計を含めた全体像は会社売却後 オーナーの引退プランと生活資金で整理しています。

進め方:M&A成立前にやるべき5ステップ

  1. 買い手に「役割・期間・報酬・稼働日数」を具体的に聞く。 曖昧な回答しか返ってこない場合、その時点で名ばかり顧問化のリスクが高いと判断できます
  2. 契約形態を決める(非常勤役員/雇用型顧問/業務委託型顧問)。 退職金の受け取り方、年金、社会保険への影響をあわせて検討します
  3. 税理士に、退職金の支給時期と勤務形態の組み合わせを確認する。 法基通9-2-32・9-2-1の判定は実態ベースなので、設計段階での相談が必須です
  4. SPAに、顧問としての関与とロックアップ義務の対応関係を明記する。 同時に競業避止条項が他社の顧問就任を禁じていないか確認します
  5. 顧問契約書(または覚書)をSPA締結と同じタイミングで締結する。 上記17項目を弁護士とチェックし、クロージング後の交渉に持ち越さないようにします

条件交渉を第三者に確認してもらいたい場合はM&Aセカンドオピニオンの活用ガイド、仲介会社選びの段階から見直したい場合はM&A仲介会社 比較(売り手向け)をご覧ください。

よくある質問

Q. 顧問契約を結ばずに、口頭の約束だけで残ってもよいですか?

おすすめしません。中小企業庁も、処遇は書面(覚書等)に明記し、M&A最終契約時に条件を明確にすべきと述べています(『中小PMIガイドライン』P.44)。株式を譲渡した後は議決権も経営権もないため、口頭合意が守られなかった場合に取れる手段が限られます。

Q. 買い手から「3年は残ってほしい」と言われました。短くできますか?

交渉の余地はあります。中小PMIガイドライン(P.44)は、引き継ぎに必要な期間が合理的に見積もれない場合の選択肢として半年更新の契約を挙げています。「3年固定」ではなく「半年更新・最長3年」「1年目は週3日、2年目以降は週1日」といった設計を提案すると、買い手側の不安(引き継ぎが終わらないリスク)にも応えられます。

Q. 顧問報酬は、引き継ぎが終わった後も同じ額をもらい続けられますか?

契約次第ですが、実務では引き継ぎの進捗に応じて段階的に減額する設計が多く見られます。関与が薄くなった段階で高い固定報酬を維持しようとすると、更新拒絶の理由になりやすく、また税務上も「経営に従事していないのに高額」という説明が難しくなります。最初から逓減スケジュールを合意しておくほうが安定します。

Q. 会長として残ると、退職金は絶対に認められませんか?

「絶対」ではありませんが、代表権を持つ場合や実質的に経営上主要な地位を占める場合は、法人税基本通達9-2-32の除外規定に該当し、退職給与として扱われない可能性が高くなります。役員として残りたい場合は、退職金の支給時期を後ろ倒しにするなど、税理士と設計を詰める必要があります。

Q. 顧問として残っている間に、他社の社外取締役や顧問を引き受けてもよいですか?

顧問契約の競業・利益相反条項と、SPAの競業避止条項の両方を確認する必要があります。M&Aの契約実務では、競合企業の顧問就任まで禁止対象に含めるのが通例です。競合に当たらない業種であっても、契約上「事前の書面承諾を要する」と定められていることがあるため、引き受け前に確認してください。

Q. 業務委託にすると、確定申告はどうなりますか?

事業所得または雑所得として自分で確定申告することになります。源泉徴収されている場合は精算の対象になり、実費を必要経費に算入できる一方、給与所得控除は使えません。売却益(譲渡所得)の申告とあわせて、初年度は税理士に依頼するのが無難です。

Q. 顧問として残る期間中に、会社の借入に対する個人保証は外れますか?

自動的には外れません。経営者保証の解除は金融機関との個別交渉であり、株式譲渡と同時に完了しないケースもあります。顧問として在籍している間に保証が残り続けると、経営に関与していないのにリスクだけを負う状態になります。SPAおよび顧問契約に、保証解除の完了を前提条件として明記しておくことをおすすめします。

まとめ

会社売却後に顧問・アドバイザーとして残ることは、統合の実務では珍しくない選択です。中小企業庁のデータでも、PMIの重要意思決定に前経営者が関与している割合は50%に上ります(『中小PMIガイドライン』P.35・n=52)。

ただし、「顧問」という肩書きには中身がありません。決めるべきは肩書きではなく契約形態であり、それによって報酬の税務上の扱い、社会保険、年金、そして役員退職金が認められるかどうかまでが変わります。そして、これらはすべて株式を手放す前に決めておくべきことです。

最後にもう一度だけ強調します。役員退職金の損金算入可否、みなし役員への該当性、源泉徴収の要否、社会保険の加入判定は、いずれも契約書の文言ではなく実態で判定されます。形式を整えれば安全というものではありません。税務・法務・社会保険の詳細は、契約形態を決める前に税理士・社会保険労務士・弁護士へご相談ください。

関連記事

主な参照元(すべて確認日2026年9月12日)

  • 中小企業庁『中小PMIガイドライン ~中小M&Aを成功に導くために~』令和4年3月(P.35/P.43〜45/P.47)
  • 国税庁 法人税基本通達9-2-32(役員の分掌変更等の場合の退職給与)
  • 国税庁 法人税基本通達9-2-1(役員の範囲)
  • 国税庁 所得税基本通達204-15(企業診断員の範囲)
  • 国税庁『源泉徴収のあらまし(令和8年版)』第5 報酬・料金等の源泉徴収事務
  • 国税庁 消費税法基本通達1-1-1(個人事業者と給与所得者の区分)
  • 日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」
  • 経済産業省「競業避止義務契約の有効性について」
  • ストライク/みつきコンサルティング/M&Aナビ/クレジオ・パートナーズ/M&Aサクシード/税務研究会「税理士懇話会」事例データベース/パソナ ProShare/弁護士法人長瀬総合法律事務所/マイナビProfessional/GMOサイン/アイシア法律事務所 各社解説

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務・法務判断を代替するものではありません。実際のご判断は税理士・社会保険労務士・弁護士にご相談ください。

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