補助金受給企業のM&Aは返還義務が出る?株式譲渡・事業譲渡別の手続きと注意点【2026年最新】
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補助金受給企業のM&Aは返還義務が出る?株式譲渡・事業譲渡別の手続きと注意点【2026年最新】

ものづくり補助金・事業再構築補助金を受給した会社をM&Aで売却すると返還義務は出るのか。株式譲渡・事業譲渡別の手続き、財産処分承認、みなし大企業リスク、返還額の計算を公式情報で解説します。

M&A比較レビュー編集部2026/7/3012分で読める

結論から言うと、ものづくり補助金や事業再構築補助金を受給した会社でも、M&Aで売却することは可能です。 ただし「どのスキームで売るか(株式譲渡か事業譲渡か)」と「いつクロージングするか(補助事業の実施期間中か、終了後か)」の2つで扱いが大きく変わり、手続きを誤ると交付決定の取消・補助金の返還・年10.95%の加算金が発生します。

しかも、補助金の事業承継承認や財産処分承認は事後申請が認められません。「売却してから事務局に相談する」という順番では、原則として取り返しがつかない領域です。

この記事でわかること

  • 補助金の返還義務が発生する条件(スキーム別・タイミング別)
  • 株式譲渡・事業譲渡・会社分割・合併で必要になる手続きの違い
  • 買い手が大企業だと発生する「みなし大企業」問題とクロージング日の設計
  • ものづくり補助金/事業再構築補助金/新事業進出補助金など補助金別のルール一覧
  • 返還額がいくらになるかの計算式と概算例
  • 無断で売却した場合のペナルティ(返還+加算金+企業名公表+刑事罰)
  • 売り手オーナーが相談開始からクロージングまでにやるべきことの時系列チェックリスト

補助金を受けた会社を売りたいオーナー経営者へ

ものづくり補助金・事業再構築補助金・中小企業新事業進出促進補助金などで設備投資の補助を受けたことがある中小企業のオーナー経営者に向けた記事です。「補助金をもらった機械があるから会社は売れないのでは」「買い手に返還リスクを指摘されて価格を下げられた」といった不安がある方が、自社の状況で何をすべきかを判断できる構成にしています。

⚠️ 本記事は補助金適正化法および各補助金の公募要領・交付規程・公式PDF(確認日 2026年7月31日)をもとにした一般的な整理です。補助金は回次ごとに交付規程や公募要領が異なり、個別事情によって結論が変わります。実際の手続き・返還額の判断は、必ず自社が受給した補助金の事務局と、弁護士・税理士・認定経営革新等支援機関にご確認ください。

まず結論|「スキーム × タイミング」で返還の要否はほぼ決まる

補助金受給企業のM&Aは、次の2軸で見れば整理できます。

補助事業の実施期間中

実施期間終了後(事業計画期間・処分制限期間中)

処分制限期間・耐用年数経過後

株式譲渡

事業承継承認は原則不要/株主変更の連絡は必要。買い手が大企業なら交付決定取消のリスク大

事業承継承認は原則不要/株主変更の連絡は必要。買い手が大企業でも原則は補助対象外にならない

影響はほぼない(報告義務が残っていれば継続)

事業譲渡

財産処分の事前承認が必須。承認されても補助金の一部返納が発生しやすい

財産処分の事前承認が必須。残存簿価相当額または譲渡額ベースで返納

承認不要になるケースがある(要事務局確認)

会社分割・合併・法人成り

事業承継承認申請または財産処分承認申請が必要(補助金ごとに判断が分かれるため事前照会が必須)

同左

同左

ポイントは3つです。

  1. 株式譲渡なら、補助事業者(法人格)が変わらないため原則として承継の承認申請は不要。 ただし事務局への株主変更の連絡は必要で、これを怠ってよいわけではありません。
  2. 事業譲渡・会社分割は、補助事業者や設備の所有者が変わるため、事前の承認が必須。 ものづくり補助金は「事業譲渡(有償・無償を問わず)に当たると判断される場合」は事業承継として認めず、財産処分の手続きに回すことを公式に明記しています。
  3. 事後申請は認められない。 ものづくり補助金の公式資料には「事業承継の事後での申請は承認されません」と明記されています(出典:ものづくり補助金事務局「事業主体が変わる場合の注意事項」2025年10月版、確認日2026年7月31日)。

株式譲渡と事業譲渡のどちらを選ぶべきかの全体像は株式譲渡と事業譲渡はどっちがいい?メリット・デメリット比較で整理しています。

なぜ返還が問題になるのか|補助金適正化法の3つの縛り

補助金の返還リスクの根拠は、「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」(補助金適正化法/昭和30年法律第179号)にあります。M&Aで効いてくるのは主に次の3つです。

補助金適正化法にもとづく財産処分の制限と返還義務のイメージ

① 財産処分の制限(第22条)

補助金で取得した財産は、各省各庁の長の承認を受けずに、交付の目的に反して使用・譲渡・交換・貸付け・担保設定してはならないと定められています。M&Aで設備の所有者が変わる場合(事業譲渡・会社分割)は、この「譲渡」に当たります。

制限の対象となる財産は施行令第13条で定められており、不動産、船舶・航空機等、これらの従物、機械および重要な器具などが該当します。経済産業省系の主要補助金では、実務上単価50万円(税抜)以上の機械装置等が処分制限財産として扱われています(出典:ものづくり補助金 補助事業の手引き(20次締切)令和7年10月、事業再構築補助金 公式サイト「財産処分」、確認日2026年7月31日)。

なお、施行令第14条では制限が適用されない場合として、①補助金の全部に相当する金額を国に納付した場合②処分制限期間を経過した場合が挙げられています。つまり「お金を返す」か「期間の経過を待つ」かのどちらかでなければ、承認なしに処分することはできません。

② 交付決定の取消と返還命令(第17条・第18条)

交付決定の内容や条件に違反した場合、交付決定の全部または一部を取り消すことができると定められています。重要なのは第17条第3項で、補助金額の確定後(=すでに入金された後)でも取消の適用がある点です。「もう受け取ったから終わり」ではありません。

取消がなされると、すでに交付されている補助金について期限を定めて返還を命じなければならない(第18条)とされています。

③ 加算金・延滞金 年10.95%(第19条)

返還を命じられた場合、補助金の受領日から納付日まで年10.95%の加算金を納付する義務が生じます。納期日までに納付しなければ、さらに年10.95%の延滞金が加算されます。

さらに第21条では、返還金・加算金・延滞金は国税滞納処分の例により徴収できるとされています。通常の民事債権よりも回収力が強い債権である点に注意が必要です。

(出典:e-Gov法令検索 補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律同施行令、確認日2026年7月31日)

※ここでの条文の整理は一般的な解説です。自社のケースで取消・返還に当たるかどうかの判断は、弁護士および補助金事務局にご確認ください。

スキーム別|株式譲渡・事業譲渡・会社分割で手続きはこう変わる

株式譲渡と事業譲渡でM&Aの手続きがどう変わるかを比較するイメージ

スキーム

補助事業者(法人格)

設備の所有者

原則必要な手続き

主なリスク

株式譲渡

変わらない

変わらない

事業承継承認申請は原則不要。株主変更の連絡、社名等変更届、GビズID引継ぎ

買い手が大企業だとみなし大企業化(実施期間中なら交付決定取消)/報告義務・賃上げ要件が会社に残る

事業譲渡

変わる

変わる

財産処分承認申請(事前)

残存簿価相当額または譲渡額ベースで補助金の返納が発生しやすい

会社分割

変わる(承継会社へ)

変わる

事業承継承認申請または財産処分承認申請(補助金ごとに判断が異なる)

事後申請不可。無承認なら交付決定取消

合併

消滅会社の権利義務は包括承継

承継される

事務局への事前相談・承継/変更手続き

存続会社が大企業なら中小企業要件を失う

法人成り(個人→法人)

変わる(法人番号が変わる)

変わる

事業承継承認申請(事前)

事後申請は否認される

株式譲渡:法人格が変わらないので「承継」ではない

株式譲渡は、株主が入れ替わるだけで会社そのものは存続します。補助事業者の法人番号は変わらないため、ものづくり補助金では「事業承継」ではなく「社名等の変更」の枠組みで扱われ、事業承継承認申請の対象外です。

ただし同資料には「株主の変更がある場合は、事務局へご連絡ください」と明記されています。連絡自体は必要であり、黙って進めてよいという意味ではありません。役員変更を伴う場合も届出の対象になり得ます。

また、株式譲渡では会社が背負っている義務も丸ごと残ります。事業化状況報告や賃上げ要件(後述)は買い手の下で会社に残り続けるため、買い手にとっては「引き継ぐ義務」がそのまま将来の返還リスクになるという点が価格交渉に影響します。

事業譲渡:原則として「財産処分」になり、返納が発生しやすい

事業譲渡では設備の所有者そのものが変わるため、補助金適正化法第22条の「譲渡」に該当します。ものづくり補助金の公式資料は、「事業譲渡(有償・無償を問わず)に当たると判断される場合」は事業承継として承認せず、財産処分の手続きに移行すると明記しています。

財産処分の承認を受ける場合は、事前に財産処分承認申請書(様式第10-1)を提出し、承認を得てから処分する必要があります。処分後は報告書を提出し、譲渡額または残存簿価相当額をもとに算出した補助金の全部または一部を納付します。

なお、事業譲渡では許認可も原則として引き継げません。補助金と同じく「承継できるか」を個別に確認すべき論点です。詳しくは会社売却で許認可・免許は引き継げる?をご覧ください。

会社分割:補助金ごとに判断が分かれるため事前照会が必須

会社分割は法的には包括承継ですが、補助事業者が変わり設備の所有者も変わるため、事業承継承認申請と財産処分承認申請のどちらで処理するかが補助金・事案によって分かれます。「会社分割だから承継扱いになるはず」と自己判断せず、スキームを固める前に事務局へ照会するのが安全です。

タイミング別|クロージング日をいつに置くかで結論が変わる

多くの記事が触れていませんが、補助事業実施期間の終了日をまたぐかどうかは、返還リスクを左右する非常に重要な論点です。

段階ごとの扱い

段階

状況

M&Aでの扱い

交付決定前(交付申請中を含む)

採択されたが交付決定はまだ

最も危険。ものづくり補助金は「交付決定前に承継をする場合」を承認しないと明記。さらに「法人成り、事業譲渡、会社分割等により交付申請を行う権利を他者に譲渡することはいかなる理由においても認められません」とされている

補助事業実施期間中

設備の発注・導入・支払いを進めている最中

事業承継承認・財産処分承認の対象。買い手が大企業なら、みなし大企業化により交付決定が取り消される

実施期間終了〜事業計画期間中(原則5年)

事業化状況報告を毎年提出している期間

財産処分の制限と報告義務が継続。株式譲渡であればみなし大企業化しても原則は補助対象外にならない

処分制限期間・法定耐用年数の経過後

設備の処分制限が外れた後

財産処分の承認が不要になるケースがある(設備ごとに期間が異なるため要確認)

新事業進出補助金の公募要領には「事業計画期間終了後であっても、法定耐用年数を経過するまでは処分に制限が課されます」と記載されています。「5年経ったから自由に売れる」という理解は誤りになり得ます(出典:中小企業新事業進出促進補助金 公募要領(第4回)令和8年3月、確認日2026年7月31日)。

実務上の示唆

  • 交付決定前や補助事業実施期間中は、M&Aのクロージングを避けられるなら避ける。 設備の検収・支払い・実績報告まで終えてからクロージングする方が、選べる手続きの幅が広がります。
  • 実施期間中にどうしてもクロージングが必要なら、基本合意の段階で事務局へ照会し、承認取得をクロージング条件に組み込む設計にします。
  • 補助金の残存期間は仲介会社にも早い段階で共有してください。スケジュール設計そのものが変わります。

M&A全体のスケジュール感はM&A売却にかかる期間・タイムライン、クロージングの実務はM&Aのクロージングとは?手続き・流れで解説しています。

見落としやすい「みなし大企業」の落とし穴

買い手が大企業(またはその子会社)である場合、補助事業実施期間中に株式譲渡を実行すると、交付決定が取り消される可能性があります。 補助金受給企業のM&Aで最も見落とされやすい論点です。

みなし大企業の定義(ものづくり補助金 公募要領より)

以下のいずれかに該当すると「みなし大企業」となり、中小企業向け補助金の対象から外れます。

  1. 発行済株式の総数または出資価格の総額の2分の1以上を同一の大企業が所有している
  2. 発行済株式の総数または出資価格の総額の3分の2以上を複数の大企業が所有している
  3. 大企業の役員または職員を兼ねている者が、役員総数の2分の1以上を占めている
  4. 上記1〜3のいずれかに該当する事業者が、発行済株式の総数または出資価格の総額の2分の1以上を所有している
  5. 上記1〜3のいずれかに該当する事業者の役員または職員が、役員の全てを兼ねている

ここでの「大企業」は中小企業基本法の中小企業者以外を指し、海外企業や自治体等の公的機関も含まれます。一方で、中小企業投資育成株式会社、投資事業有限責任組合(LPS)、銀行法上の投資専門会社が保有する事業承継会社等は例外として扱われる旨が公募要領に記載されています。ファンドが買い手になるケースでは、この例外規定の適用可否を事務局に確認する価値があります。

「実施期間中」か「終了後」かで結論が正反対になる

ものづくり補助金の公募要領には次の2つの記載があります。

  • 補助対象外となる事業者として「応募申請以降に…中小企業者等のいずれにも該当しなくなった事業者、及びみなし大企業に該当することとなった事業者
  • ただし書きとして「補助事業実施期間終了日の後に…資本金の額・従業員数を超えることとなった事業者及びみなし大企業に該当することとなった事業者は補助対象外とならない

さらに遵守事項として、「補助事業実施期間中に補助対象事業者要件に該当しなくなった場合や、株主または役員を変更することによりみなし大企業に該当することになった場合等で、辞退・廃止をするべきところその手続きをしない不適当があったものは、事務局において交付決定取消しとします」と明記されています。

新事業進出補助金の公募要領も同様に、「応募申請日から補助事業の完了までの間に株主または役員を変更することによりみなし大企業に該当することとなった場合は、当該補助事業者の交付決定を取り消します」としたうえで、「補助事業実施期間終了後にみなし大企業に該当することとなった事業者は補助対象外となりません」と定めています。

つまり、大手企業グループへの売却を検討している場合、クロージング日を補助事業実施期間の終了日の後に置けるかどうかが、補助金全額を返すか返さないかを分ける可能性があります。

なお、新事業進出補助金には「事業計画期間中における、補助対象外となる事業者や大企業への事業承継においても補助金の交付の目的に反する使用に該当します」という記載もあります。実施期間終了後であっても、事業譲渡等で大企業に承継するケースは別途注意が必要です。

(出典:ものづくり補助金 公募要領(22次締切)2025年12月9日版、中小企業新事業進出促進補助金 公募要領(第4回)令和8年3月、確認日2026年7月31日。公募回次によって記載が変わるため、自社が採択された回次の公募要領で必ず確認してください)

補助金別ルール一覧|自社が受けた補助金で確認すべきこと

事業承継・M&A補助金の公式サイト

補助金は制度ごとに交付規程が異なります。主要な制度の現時点でのルールを横断で整理しました。

補助金

処分制限財産の基準

処分制限期間

報告義務

事後申請

みなし大企業ルール

ものづくり補助金

単価50万円(税抜)以上

減価償却資産の耐用年数等に関する省令+経済産業省告示第64号(令和5年4月26日)等による

補助事業終了後5年間・計6回(毎年5月31日期限)

不可(「事業承継の事後での申請は承認されません」と明記)

実施期間中の該当は交付決定取消。実施期間終了日の後は補助対象外とならない

中小企業新事業進出促進補助金

単価50万円(税抜)以上

減価償却資産の耐用年数等に関する省令を準用。事業計画期間終了後も法定耐用年数まで制限

補助事業完了年度の終了後から5年間

事前承認が前提

応募申請日〜補助事業完了までに該当すれば交付決定取消。実施期間終了後は対象外とならない

事業再構築補助金

単価50万円(税抜)以上の建物・機械器具・備品等

減価償却資産の耐用年数等に関する省令を準用

事業化状況報告あり

不可(「事後申請や交付決定前の承継は認められません」と公式に記載)

公募回次の要領による

事業承継・M&A補助金

枠・経費区分による

交付規程による

枠ごとに報告期間が異なる

交付規程による

交付規程による

雇用関係助成金(厚労省)

経産省系とは制度体系が別

助成金ごとに異なる

助成金ごとに異なる

助成金ごとに異なる

制度体系が異なる

自治体独自の補助金

各自治体の交付要綱による

同左

同左

同左

同左

特に確認しておきたいポイント

  • ものづくり補助金:事業承継が承認されると、承継者は被承継者の一切の権利義務を承継します。給与支給総額・事業場内最低賃金の増加目標を含む事業計画を「縮小することなく」引き継ぐ必要があり、基本要件を達成できなければ承継者(買い手)が返還義務を負うとされています。加点を受けた経営革新計画・事業継続力強化計画がある場合、承継者も事業完了までに承認等を取得する必要があります。
  • 事業再構築補助金:事前承認が必要な行為として、目的外使用/譲渡(有償・無償問わず所有者変更)/交換/貸付(有償・無償問わず使用者変更)/担保設定/廃棄が挙げられています。「無償だから問題ない」は通用しません。
  • 雇用関係助成金:経済産業省系の補助金とは別の制度体系です。事業譲渡では労働契約が当然には承継されず労働者本人の承諾が必要、会社分割では労働契約承継法上の手続きが必要になります。なお、厚生労働省の「事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針」は改正され、2026年5月25日から適用されています。助成金の承継可否は助成金ごとに異なるため、労働局・ハローワークに確認してください。
  • IT導入補助金・小規模事業者持続化補助金:M&A時の承継の扱いを公式資料で明確に確認できていません(現時点では要確認)。必ず各事務局に直接照会してください。
  • 自治体補助金:国庫補助を財源とするものは適正化法の考え方が及びますが、自治体独自財源のものは各交付要綱が根拠になります。個別確認が必要です。

(出典:ものづくり補助金 補助事業の手引き(20次締切)令和7年10月/事業再構築補助金 公式サイト「財産処分」「補助事業実施」/中小企業新事業進出促進補助金 公募要領(第4回)令和8年3月/厚生労働省 各資料、確認日2026年7月31日)

これから補助金を使ってM&Aを進めたい方は事業承継・M&A補助金とは?2026年最新の申請枠・補助額・活用法もあわせてご覧ください。

返還額はいくらになるか|残存簿価相当額の考え方と概算例

補助金の返還額(納付額)を計算するイメージ

財産処分にともなう納付額は、ものづくり補助金では次の式で算出されます。

D = A × C ÷ B
A:譲渡額または残存簿価相当額
B:当該処分財産に係った補助対象経費
C:Bに対する補助金確定額
D:納付金額

残存簿価相当額 = 取得価額(税抜) − 減価償却費累計額で算定します。減価償却の方法は、法人は定率法が原則、個人事業主は定額法とされ、圧縮記帳は考慮しません(出典:ものづくり補助金 補助事業の手引き(20次締切)令和7年10月、確認日2026年7月31日)。

概算例(あくまで考え方の目安)

項目

金額

補助対象経費(B)

1,500万円

補助金確定額(C)

1,000万円

譲渡額または残存簿価相当額(A)

600万円

納付額(D=A×C÷B)

400万円

この例では、譲渡時点の残存簿価相当額600万円に対し、補助率相当(1,000万円÷1,500万円=約67%)を掛けた約400万円の納付が必要という計算になります。加えて、この納付が無承認処分と判断された場合には、年10.95%の加算金が上乗せされる可能性があります。

概算にあたっての注意

  • 上記はあくまで計算式の考え方です。 実際の納付額は事務局が発行する財産処分納付通知書等によって確定します。
  • 補助金は支払を受けた事業年度の収入として計上され、法人税等の課税対象になります。返納が発生する場合の税務処理は顧問税理士に確認してください。
  • 賃上げ要件(給与支給総額・事業場内最低賃金)の未達による返還は、財産処分とは別の計算式で算出されます。付加価値額が増加しておらず、かつ事業計画期間の過半数が営業利益赤字の場合など、一部返還を求めない例外も設けられています。

※返還額の試算と税務処理は個別性が高い領域です。税務・法務の詳細は税理士・弁護士への相談をおすすめします。

承認を取らずに売却した場合のペナルティ

「バレなければいい」は成立しません。 補助事業終了後には会計検査院による実地検査が入ることがあり、違反が発覚した場合の措置は重いものになります。

ものづくり補助金の補助事業の手引きには、「補助事業終了後、会計検査院による会計実地検査が実施されることがあります。検査の際に違反行為が発覚した場合には、加算金を付した上、補助金の返還等の措置がなされるとともに、不正を行った企業名が公表される場合があります。さらに、悪質性が認められた事案については、警察に告訴される場合もあります」と記載されています。

ペナルティ

内容

根拠

交付決定の取消

補助金額の確定後(入金後)でも取消される

適正化法 第17条

補助金の返還

期限を定めた返還命令

同 第18条

加算金

受領日から納付日まで年10.95%

同 第19条

延滞金

納期日までに納付しない場合、さらに年10.95%

同 第19条

強制徴収

国税滞納処分の例により徴収

同 第21条

刑事罰(不正受給)

5年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、または併科

同 第29条

刑事罰(目的外使用)

3年以下の拘禁刑もしくは50万円以下の罰金、または併科

同 第30条

両罰規定

行為者だけでなく法人にも罰金刑

同 第32条

企業名の公表

不正を行った企業名が公表される場合がある

ものづくり補助金 補助事業の手引き

M&Aの文脈では、これらが買い手に引き継がれる偶発債務になり得る点が重要です。売却後に発覚すれば、表明保証違反として売り手に補償請求が及ぶ可能性があります。

簿外の偶発債務がM&Aでどう扱われるかは簿外債務・偶発債務とは?売り手の対策ガイドで解説しています。

買い手はなぜ補助金受給企業を警戒するのか

売り手側が理解しておくべきなのは、補助金は買い手にとって「メリット」ではなく「引き継ぐ義務」に見えるという点です。DD(デューデリジェンス)で必ず論点になります。

買い手が警戒する理由は主に3つです。

  1. 賃上げ要件の達成義務が残る。 ものづくり補助金では、承継者が給与支給総額・事業場内最低賃金の増加目標を縮小せずに引き継ぐ必要があり、未達なら承継者が返還義務を負うとされています。買収後の人件費計画に直接影響します。
  2. 事業化状況報告が最長5年・計6回残る。 毎年5月31日期限の報告業務が発生し、PMIの負荷になります。証拠書類も交付年度終了後5年間の保存が必要です。
  3. 設備の処分が自由にできない。 処分制限期間中は、統合にともなう設備の移設・売却・廃棄・担保設定にも事務局の承認が必要です。買収後の再編計画の自由度が下がります。

このため、買い手は「返還リスク相当額の価格調整」「補助金に関する表明保証の追加」「特別補償条項」のいずれかを求めてくることが一般的です。売り手としては、先に事務局へ照会して結論を確定させておくことが、価格を守るうえで最も効果的な対応になります。

DDで求められる資料の全体像はM&AのDD 売り手の準備チェックリストをご覧ください。

売り手オーナーのチェックリスト|相談開始からクロージングまで

補助金受給企業がM&Aを進める際の手続きの流れ

ステップ1|仲介会社・FAに相談する段階(棚卸し)

  • 過去に受給した補助金・助成金をすべて洗い出す(国・自治体・雇用関係助成金を含む)
  • 補助金ごとに 交付決定通知書/交付規程/公募要領(受給した回次のもの) を集める
  • 補助対象として取得した資産の取得価額・取得日・処分制限期間を一覧化する
  • 補助事業実施期間の終了日事業計画期間の終了日をカレンダーに落とす
  • まだ提出していない実績報告・事業化状況報告がないか確認する

ステップ2|スキーム・スケジュールを決める段階

  • 株式譲渡と事業譲渡のどちらを想定しているかで、必要手続きが変わることを仲介会社と共有する
  • 補助事業実施期間中のクロージングを避けられないかを検討する
  • 買い手候補の規模(大企業/中小企業/ファンド)によるみなし大企業リスクを早期に確認する
  • 補助金事務局に匿名ベースでの事前照会を行い、必要な手続きの種類を確定させる

ステップ3|意向表明〜DDの段階

  • 補助金関連書類をDD資料に含める(交付決定通知書、実績報告書、事業化状況報告書、財産管理台帳など)
  • 買い手からの補助金に関する質問に、推測ではなく事務局回答をベースに回答する
  • 賃上げ要件の達成状況を数値で示せるように準備する

ステップ4|契約締結〜クロージングの段階

  • 承認が必要な場合は、事業承継承認申請または財産処分承認申請をクロージング前に完了させる
  • 承認取得をクロージングの前提条件(クロージング条件)としてSPAに明記する
  • 株式譲渡の場合も、株主変更の連絡・社名等変更届・GビズID引継ぎの手続きを漏れなく行う
  • 返納が発生する場合は、誰が負担するかを契約で明確にする

最も避けるべきは「クロージング後に事務局へ相談する」ことです。 事後申請は原則として承認されません。

M&A契約(SPA)でどう手当てするか

補助金の返還リスクは、契約書上で次の3点に落とし込むのが実務的です。

手当ての方法

内容

使いどころ

表明保証

補助金の受給内容、交付規程の遵守状況、未処理の報告義務がないこと、無承認処分がないことを売り手が表明・保証する

返還リスクが顕在化していないが、念のため担保したい場合

クロージング条件(前提条件)

事務局の事業承継承認・財産処分承認の取得をクロージングの条件にする

承認が必要なことが確定している場合

特別補償

特定の補助金について、返還が生じた場合の負担を売り手が個別に補償する

DDで具体的なリスクが特定された場合。表明保証の上限・期間の制約を受けずに手当てできる

価格調整(返還見込額を譲渡価格から控除する)で処理するケースもあります。返還が発生するかどうか不明なまま価格を下げるより、事務局照会で金額を確定させてから交渉した方が、結果的に売り手に有利になることが多いという点は押さえておくべきです。

表明保証の基本はM&Aの表明保証とは?わかりやすく解説で解説しています。

※契約条項の具体的な設計は個別性が高い領域です。契約・法務の詳細は必ず弁護士にご確認ください。

特に慎重な準備が必要な企業/比較的リスクが小さい企業

特に慎重な準備が必要な企業

  • 補助事業の実施期間中、または実績報告が完了していない企業:交付決定取消のリスクが最も高い段階です。クロージング時期の再検討が必要になります。
  • 事業譲渡・会社分割での売却を予定している企業:財産処分承認が原則必須で、返納が発生しやすい類型です。
  • 買い手候補が大企業・上場企業グループの企業:みなし大企業に該当すると、実施期間中は交付決定が取り消されます。買い手候補の選定段階から意識が必要です。
  • 賃上げ要件の達成が微妙な企業:買い手が返還義務を負うため、価格交渉で不利になりやすい要素です。
  • 補助金で取得した設備が事業の中核を占める企業:処分制限が買収後の再編計画を縛るため、買い手が慎重になります。
  • 補助金の受給履歴を正確に把握できていない企業:DDで後から出てくると、信頼関係そのものを損ないます。

比較的リスクが小さい企業

  • 処分制限期間・法定耐用年数が経過した設備しかない企業:財産処分の承認が不要になるケースがあります(設備ごとに要確認)。
  • 株式譲渡で、買い手も中小企業である企業:法人格が変わらず、みなし大企業にも該当しないため、株主変更の連絡等の手続きで足りることが多い類型です。
  • 事業計画期間が終了し、報告義務も完了している企業:残る論点は設備の処分制限のみになります。
  • 補助金の受給額が小さく、単価50万円以上の処分制限財産を保有していない企業:財産処分の論点自体が生じにくくなります。

いずれの場合も、「該当しそうだから大丈夫」ではなく、自社が受給した補助金の回次の交付規程を確認したうえで事務局に照会する手順は変わりません。

よくある質問

Q. 補助金を受給した会社は、そもそも売却できないのですか?

売却はできます。補助金適正化法や各補助金の交付規程は「売却の禁止」ではなく、「承認なしに処分してはならない」「要件を満たさなくなったら交付決定を取り消す」というルールを定めているにすぎません。適切な手続きを踏めば、補助金受給企業のM&Aは実行可能です。

Q. 補助金を全額返せば、承認を得ずに設備を処分できますか?

補助金適正化法施行令第14条は、補助金の全部に相当する金額を国に納付した場合には財産処分の制限を適用しないと定めています。ただし、実務上は事務局への申し出と手続きが前提になります。「先に処分して後から返す」という順番では、無承認処分として交付決定取消の対象になり得ます。

Q. 株式譲渡なら事務局に何も言わなくてよいのでしょうか?

いいえ。ものづくり補助金の公式資料には「株主の変更がある場合は、事務局へご連絡ください」と明記されています。承継承認申請は不要でも、連絡・届出は必要です。役員変更を伴う場合はみなし大企業の判定にも関わるため、なおさら報告が必要になります。

Q. 補助金の残高が多い会社は、譲渡価格が下がりますか?

一律に下がるわけではありません。ただし、返還リスクの金額が確定していない状態では、買い手は保守的に見積もって価格を下げる傾向があります。事務局照会で「手続きは不要」「返納額は◯円」と確定させておけば、その分の減額交渉を防げます。

Q. 補助金の交付決定通知書を紛失してしまいました。どうすればよいですか?

まず事務局に問い合わせてください。多くの補助金は電子申請システム(Jグランツ等)上に申請履歴が残っています。あわせて、証拠書類は交付年度終了後5年間の保存義務がある点も確認してください(ものづくり補助金の場合)。DDでは通知書の提示を求められるのが通常です。

Q. 補助金の返還金は、経費として損金になりますか?

税務上の取り扱いは、返還の性質(財産処分にともなう納付か、不正受給による返還か)や加算金の有無によって異なります。加算金・延滞金は損金不算入となる可能性があるなど判断が分かれる領域のため、必ず顧問税理士に確認してください。

Q. 承継が否認された場合はどうなりますか?

ものづくり補助金では、事業承継の承認が否認された場合は財産処分の手続きに移行するとされています。承継の道が閉ざされても、財産処分の承認を得て納付する形で取引を進める余地はあります。ただし納付額が発生するため、その負担を誰が持つかを契約で決めておく必要があります。

Q. 補助金の話は、仲介会社にいつ伝えるべきですか?

最初の相談段階です。 スキーム(株式譲渡か事業譲渡か)とクロージング時期の設計に直結するため、案件が動き出してから伝えると打ち手が減ります。交付決定通知書の写しと補助事業実施期間の終了日を、初回面談時に共有できる状態にしておくのが理想です。

まとめ|まずは交付決定通知書の確認と事務局への照会から

補助金受給企業のM&Aで押さえるべき点を整理します。

  1. 売却自体は可能。問題になるのは「スキーム」と「タイミング」。 株式譲渡なら承継承認は原則不要、事業譲渡・会社分割なら財産処分承認または事業承継承認が必要です。
  2. 事後申請は認められない。 ものづくり補助金・事業再構築補助金はいずれも、事後申請や交付決定前の承継を承認しないと公式に明記しています。
  3. 買い手が大企業なら、補助事業実施期間中のクロージングは交付決定取消のリスクがある。 実施期間終了日の後であれば、みなし大企業に該当しても補助対象外にならないとされています。クロージング日の設計が金額に直結します。
  4. 無承認処分のペナルティは重い。 返還に加えて年10.95%の加算金、企業名公表、悪質な場合は刑事罰まで想定されています。
  5. 最初にやるべきは棚卸しと照会。 受給した補助金の交付決定通知書・交付規程を集め、処分制限期間と実施期間の終了日を確認し、事務局に事前照会する。この順番を守るだけで、避けられるリスクの大半は避けられます。

補助金の存在は、正しく手続きすればM&Aの障害にはなりません。むしろ「設備投資の実績があり、認定を受けた事業計画を持つ会社」として評価される側面もあります。問題は、手続きを知らないまま進めて後戻りできなくなることです。

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※本記事は補助金適正化法および各補助金の公募要領・交付規程等の公式情報(確認日2026年7月31日)をもとに作成しています。補助金の制度は公募回次ごとに変更されます。実際の手続き・返還額の判断は、必ず自社が受給した補助金の事務局および弁護士・税理士・認定経営革新等支援機関にご相談ください。

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