種類株式・黄金株がある会社の売却|注意点と整理5ルートを会社法の条文つきで解説
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種類株式・黄金株がある会社の売却|注意点と整理5ルートを会社法の条文つきで解説

黄金株(拒否権付種類株式)がある会社は、そのままでは売りにくい。売却前に整理すべき理由、5つの整理ルートと決議要件、保有者が亡くなっている場合の対応、事業承継税制の黄金株不保有要件まで、会社法・中小企業庁・国税庁の一次情報つきで整理しました。

M&A比較レビュー編集部2026/9/613分で読める

黄金株(拒否権付種類株式)が自社以外の誰かの手に残っている会社は、そのままの状態では売却が難しくなります。実務上の原則は「基本合意(LOI/MOU)を結ぶ前に、種類株式を整理して普通株式だけの状態にしておく」ことです。

理由はシンプルで、黄金株が1株でも残っていると、買い手が発行済株式の100%を取得しても、定款で定めた重要事項を自分たちだけでは決められないからです。そして種類株式の内容は登記事項なので(会社法911条3項7号)、買い手が登記簿謄本を取得した時点で必ず発覚します。隠して進めることはできません。

この記事でわかること

  • 自社に種類株式・黄金株・属人的定めが仕込まれていないかを確認する3ステップ
  • 黄金株が会社売却の障害になる具体的なメカニズム
  • 黄金株・種類株式を整理する5つのルートと、それぞれの決議要件・財源規制の違い(比較表)
  • 黄金株の保有者がすでに亡くなっている場合の進め方
  • 黄金株以外の種類株式(議決権制限株式・役員選任権付株式など)が売却時にどう効くか
  • 登記簿に出てこない「属人的株式」という落とし穴
  • 事業承継税制(納税猶予)を使っている会社が特に注意すべき点
  • 整理にかかる費用と、売却スケジュール上いつ着手すべきか

この記事の対象読者

事業承継対策として過去に種類株式を発行した、あるいは先代・親族・第三者が黄金株を持ったままになっている非上場中小企業のオーナー経営者。これからM&Aで会社を売ろうとしていて、「この状態のまま売れるのか」が気になっている方に向けた内容です。

本記事は会社法・税法にまたがる一般的な情報の整理であり、個別案件についての法的助言ではありません。決議要件を一つ誤ると定款変更や登記が無効・却下になりうる領域です。実際の手続き・税務判断は必ず弁護士・司法書士・税理士にご相談ください。

結論:黄金株は「基本合意の前」に消しておくのが原則

黄金株の整理を基本合意の前に済ませてから買い手選定・条件交渉・成約へ進む会社売却プロセスの流れを示した図

売却を前提にするなら、黄金株は交渉のテーブルに着く前に整理しておくのが実務の原則です。 理由は3つあります。

  1. 買い手は「きれいな100%支配」を前提に価格を出す。拒否権が残るなら、そのリスク分は価格から引かれるか、そもそも検討対象から外れます。
  2. 登記で必ず見つかる。種類株式の内容は登記事項なので、デューデリジェンス(DD)以前に登記簿謄本の段階で発覚します。後出しにする意味がありません。
  3. 整理には他人の協力と法定の手続き期間が要る。黄金株を消すには原則として種類株主本人の同意か、株主総会の特別決議と登記が必要です。交渉終盤に持ち越すと、相手にとって絶好の駆け引き材料になります。

逆に言えば、整理が済んでいれば黄金株は売却の障害ではなくなります。問題は「黄金株があること」そのものではなく、「売却直前まで放置していること」です。

なお、定款に種類株式の定めがあるだけで実際には1株も発行していないケースもよくあります。この場合は種類株主が存在しないため、株主総会の特別決議だけで定款から定めを削除できます(詳細は後述)。自社がどちらのパターンかを最初に切り分けてください。

会社売却の全体像から確認したい場合は、会社売却とは・流れ完全ガイドを先に読んでおくと本記事の位置づけがわかりやすくなります。

自社に種類株式・黄金株があるか確認する3ステップ

「うちは登記簿に何も書いていないから大丈夫」とは言い切れません。 登記簿・定款・株主名簿の3点を突き合わせて初めて、自社の株式の状態が確定します。

ステップ1:履歴事項全部証明書(登記簿謄本)を取得する

法務局で会社の履歴事項全部証明書を取得し、次の欄を確認します。

  • 「発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容」 — この欄に記載があれば、定款上、種類株式が設定されています。黄金株の場合は「◯◯については甲種類株主総会の決議を要する」といった趣旨の記載があります。
  • 「発行済株式の総数並びに種類及び数」 — 「普通株式◯株、甲種類株式◯株」のように、種類ごとに実際に発行されている株数が載ります。ここに種類株式の数が出ていなければ、定めはあるが未発行という可能性が高い状態です。

種類株式が登記事項であることの根拠は会社法911条3項7号です(確認日: 2026-09-07)。

ステップ2:現行の定款原本を確認する

登記簿だけでは足りません。 次の2つは登記されないため、定款を見ないと発見できません。

  • 属人的な定め(会社法109条2項) — 「株主◯◯は1株につき100個の議決権を有する」といった、特定の株主に紐づく定め。非公開会社だけが設けられます。登記されないので外からは見えません。
  • 相続人等に対する売渡請求の定め(会社法174条) — 相続で株式が渡った先に会社が売渡しを請求できる定め。あるかないかで、後述する相続ケースの選択肢が変わります。

株主総会議事録を遡り、過去に定款変更をした履歴と、その内容が現行定款に反映されているかまで確認してください。旧定款しか手元にないケースは実務でよくあります。

ステップ3:株主名簿を種類別に突き合わせる

株主名簿で「誰が・どの種類の株式を・何株持っているか」を確定させます。特に確認したいのは次の点です。

  • 黄金株の保有者は誰か(先代/親族/取引先/かつての出資者/すでに死亡している)
  • 黄金株保有者と現経営陣の関係は良好か
  • 名義だけの株主(名義株)が混ざっていないか

株主名簿そのものの正確さに不安があるなら、名義株の整理ガイド(M&A売却前の株主確定)とM&A前の少数株主整理・株式集約 完全ガイドを先に確認してください。種類株式の整理は、株主が誰かが確定していないと着手できません。

3点照合の早見表

確認資料

見つかるもの

見つからないもの

履歴事項全部証明書

種類株式の内容・発行可能種類株式総数・種類別の発行済株式数

属人的な定め、売渡請求の定め、実際の保有者

現行定款

種類株式の内容、属人的な定め、売渡請求の定め、種類株主総会の要否

実際の保有者

株主名簿

誰が何株持っているか(種類別)

定款上の権利内容

黄金株(拒否権付種類株式)とは|1株で決議を止められる株式

黄金株とは、定款で定めた一定の事項について、株主総会や取締役会の決議に加えて、その種類株主だけで構成する種類株主総会の決議を必要とする株式です。 会社法108条1項8号に定めがあり、正式には「拒否権付種類株式」と呼ばれます。

対象事項が種類株主総会で否決されれば、株主総会や取締役会が可決していても、その内容を実行できません。保有株数は1株でも効力は同じです。ここが普通株式との決定的な違いです。

拒否権の対象として定款に定められることが多いのは、次のような事項です。

  • 取締役・監査役の選任および解任
  • 定款の変更
  • 合併・会社分割・株式交換などの組織再編
  • 事業の全部または重要な一部の譲渡
  • 株式譲渡の承認
  • 剰余金の配当、募集株式の発行

事業承継の場面では、「株式は後継者に渡すが、先代が黄金株を1株持って重要事項の歯止めにする」という設計として使われてきました。後継者が育つまでの安全弁としては機能する一方で、会社を第三者に売る段階になると、その安全弁がそのまま障害物に変わります。

会社法108条1項が定める9種類の株式

黄金株は種類株式の一つにすぎません。会社法108条1項は次の9項目について、内容の異なる株式を発行できると定めています(確認日: 2026-09-07)。

号

内容

一般的な呼称

1号

剰余金の配当

配当優先株式/配当劣後株式

2号

残余財産の分配

残余財産優先株式

3号

株主総会で議決権を行使できる事項

議決権制限株式・無議決権株式

4号

譲渡による取得について会社の承認を要すること

譲渡制限株式

5号

株主が会社に取得を請求できること

取得請求権付株式

6号

一定の事由が生じたことを条件に会社が取得できること

取得条項付株式

7号

株主総会の決議で会社が全部を取得すること

全部取得条項付種類株式

8号

一定事項について種類株主総会の決議を必要とすること

拒否権付種類株式(黄金株)

9号

種類株主総会で取締役・監査役を選任すること

役員選任権付種類株式

なお、9号(役員選任権付種類株式)は指名委員会等設置会社および公開会社では発行できません(108条1項ただし書)。3号(議決権制限株式)については、公開会社では議決権制限株式が発行済株式の総数の2分の1を超えた場合、直ちに2分の1以下にするための必要な措置をとらなければならないとされています(会社法115条)。非公開会社にはこの制限はありません。

参考:上場企業での事例

上場企業で黄金株が使われる例は極めて限られます。公表されている代表例がINPEX(旧・国際石油開発帝石)で、同社の公式IR「株式情報」には甲種類株式1株・株主数1名として、経済産業大臣が保有する旨が記載されています(INPEX 株式情報、確認日: 2026-09-07)。東京証券取引所の上場規程では、株主の権利内容やその行使が不当に制限されていることが上場廃止の判断要素とされており、拒否権付種類株式は原則としてこれに触れうる一方、投資者の利益を害するおそれが少ないと取引所が認める場合は例外とされています。

※日本製鉄によるUSスチール買収で話題になった米国政府の「黄金株」は、米国政府との合意に基づく仕組みであり、日本の会社法108条1項8号の種類株式とは制度が異なります。混同しないでください。

黄金株が会社売却の障害になる3つの理由

多数の普通株主による決議を黄金株1株の拒否権が止めてしまう仕組みを表したイメージ図

買い手が黄金株を嫌う理由は「気持ちの問題」ではなく、買収後の経営が実際に止まりうるからです。 具体的には次の3点です。

理由1:100%買っても経営を掌握できない

買い手が発行済の普通株式を全部取得しても、黄金株が第三者の手にあれば、拒否権の対象事項は種類株主総会の同意なしに実行できません。買収後に想定される代表的な行動——役員の総入替え、社名や事業目的の変更、グループ内での組織再編、配当方針の変更——が、そのまま止められる可能性があります。買収の目的そのものが達成できなくなるため、買い手にとっては致命的なリスクです。

理由2:価格の引下げ材料になる、あるいは交渉が止まる

不確実性はそのまま価格に反映されます。買い手は「黄金株保有者が将来どう動くか読めない」ことをリスクとして企業価値算定に織り込むため、条件面での譲歩を求められやすくなります。整理の見込みが立たない場合は、検討自体が打ち切られることもあります。

企業価値の考え方については非上場株式の価値算定・株価評価方法ガイド、価格交渉の前提整理はM&A売却価格を上げる9つの方法も参考にしてください。

理由3:登記で必ず発覚し、表明保証にも跳ね返る

種類株式の内容は登記事項です。買い手は初期段階で登記簿謄本を取得するため、黄金株の存在は例外なく把握されます。さらに株式譲渡契約(SPA)では、売り手が「発行済株式はすべて普通株式であり、株式に関する第三者の権利は存在しない」といった趣旨の表明保証を求められるのが通例です。整理しないまま、あるいは把握しないまま契約すると、表明保証違反として損害賠償の対象になりかねません。

契約実務の詳細はM&A SPA(株式譲渡契約書)とはとM&Aの表明保証とはで確認できます。

黄金株・種類株式を整理する5つのルートと決議要件【比較表】

整理の方法は大きく5つあります。どれを選べるかは「保有者が協力してくれるか」「会社に分配可能額があるか」「発行済か未発行か」で決まります。

ルート

必要な決議・手続き

根拠条文

種類株主本人の同意

財源規制

向いているケース

①会社が買い取って自己株式化→消却

株主総会の特別決議(+他の株主への売主追加請求権の通知)

156条・160条、309条2項2号

必要(売主として合意)

あり(461条1項2号・3号)

保有者が協力的で、分配可能額がある

②定款変更で普通株式と同一内容にする

株主総会の特別決議+当該種類株主総会の特別決議

466条・309条2項11号、322条1項1号・324条2項4号

必要

なし

現金を使わずに消したい

③取得条項を発動して会社が強制取得

株主総会(取締役会設置会社は取締役会)の決議+取得日の2週間前までの通知・公告

108条1項6号、168条・169条

発行時に仕込み済みなら不要

金銭対価ならあり(170条5項)

あらかじめ取得条項が付いている

④全部取得条項を付したうえで取得

当該種類株主総会の特別決議+株主総会の特別決議

111条2項、324条2項1号、171条

必要

あり(461条1項4号)

実務上の優先度は低い

⑤定款の定めだけを削除(未発行の場合)

株主総会の特別決議のみ

466条・309条2項11号

不要(種類株主が存在しないため)

なし

定款に定めがあるだけで1株も発行していない

(出典: 会社法各条文、RSM汐留パートナーズ司法書士法人「種類株式を廃止して普通株式のみにするには」、確認日: 2026-09-07。どのルートを選べるかは定款の記載と株主構成で変わるため、実行前に弁護士・司法書士にご確認ください)

株主総会の決議要件そのものを整理したい場合は会社売却時の株主総会・特別決議 手続きガイドを参照してください。

ルート①:会社が買い取って消却する(最も一般的)

黄金株の保有者が協力的なら、これが最短ルートです。特定の株主から合意により自己株式を取得するには株主総会の特別決議が必要で(会社法156条・160条、309条2項2号)、取得後に自己株式を消却し、定款から種類株式の定めを削除して変更登記を行います。

見落としやすいのが「売主追加請求権」です。 特定の株主から自己株式を取得する場合、他の株主には「自分も売主に加えろ」と請求する権利があります(会社法160条3項)。会社は株主に対し、法定の期限までにその旨を通知しなければならず(同条2項、会社法施行規則28条)、株主からの請求の期限は原則として株主総会の日の5日前までです(会社法施行規則29条。招集手続を省略する場合等は3日前まで)。この通知を欠いた決議は瑕疵を帯びます。

また、自己株式の取得は分配可能額の範囲内でしか実行できません(財源規制。会社法461条1項2号・3号)。直近の決算内容によっては、そもそも会社が買えないことがあります。

なお、自己株式の取得価格の設定は税務上の論点(みなし配当・低額譲渡の扱い)に直結します。価格を決める前に税理士へ確認してください。

(出典: Authense法律事務所「特定の株主からの自己株式の取得」、確認日: 2026-09-07)

ルート②:定款変更で普通株式にする(現金を使わない方法)

黄金株の内容を書き換えて、普通株式と同じ内容にしてしまう方法です。会社の現金を使わずに済むのが利点ですが、株主総会の特別決議に加えて、当該種類株主総会の特別決議が必要です(会社法322条1項1号、324条2項4号)。

つまり、黄金株の保有者本人が賛成しないと成立しません。保有者との関係が悪化している場合、このルートは使えません。

ルート③:取得条項を発動する

黄金株にあらかじめ取得条項(会社法108条1項6号)が付いていれば、定めた事由の発生により会社が強制的に取得できます。取得日は株主総会(取締役会設置会社は取締役会)の決議で定め、対象株主には取得日の2週間前までに通知または公告します(会社法168条2項・3項)。対価が金銭の場合は財源規制の対象で、分配可能額を超える部分については取得の効力が生じません(会社法170条5項)。

ただし、後から取得条項を付けることは事実上できません。 発行済みの種類株式に取得条項の定めを設けるには、当該種類の株主全員の同意が必要だからです(会社法111条1項)。同じ理由で、種類株主総会の決議を要しない旨の定款の定めを後から設ける場合も、当該種類の株主全員の同意が必要です(会社法322条4項)。「本人が反対しているから条項を後付けして強制取得する」という筋道は成り立ちません。

ルート④:全部取得条項を付して取得する

全部取得条項付種類株式(108条1項7号)に変更したうえで取得する方法です。全部取得条項を付す定款変更には当該種類株主総会の特別決議が必要で(会社法111条2項、324条2項1号)、取得自体も株主総会の特別決議(会社法171条)と分配可能額の範囲内であること(461条1項4号)が求められます。反対株主の株式買取請求(116条1項2号)などの論点も生じます。手続きが重いため、現在の実務では優先度は高くありません。スクイーズアウト全般の比較はM&A前の少数株主整理・株式集約 完全ガイドにまとめています。

※混同しやすい点として、既存の株式に譲渡制限(4号)を新たに付す定款変更は、種類株主総会の「特殊決議」が必要です(会社法111条2項、324条3項1号)。全部取得条項の付与(特別決議)とは要件が違います。

ルート⑤:定款の定めだけを削除する(未発行のケース)

定款に種類株式の定めがあるだけで1株も発行していない場合、種類株主が存在しないため、株主総会の特別決議だけで定めを削除できます。 相手の同意も現金も不要で、変更登記をすれば完了します。

「登記簿に種類株式の記載がある」という理由だけで身構えている会社の一定数は、実はこのパターンです。まずステップ1で発行済株式数の欄を確認してください。

補足:黄金株を買い手側に移す選択肢

理論上は、黄金株を消さずに買い手(または後継者)が買い取る形もあり得ます。黄金株に譲渡制限が付いていれば会社の譲渡承認手続き(会社法136条以下)が必要です。ただし、対価の配分や税務の整理が別途必要になるうえ、買い手が受け入れるかは案件次第です。第一選択にはなりにくい方法と考えてください。譲渡制限株式の承認手続きは株式譲渡とは わかりやすく解説で解説しています。

黄金株の保有者がすでに亡くなっている場合

黄金株は種類株式なので、保有者が亡くなっても消えず、相続人に承継されます。 ここが属人的株式との大きな違いです。相続人が複数いて遺産分割が終わっていない場合、株式は準共有状態となり、権利行使者を定めて会社に通知しなければ議決権を行使できません。誰が拒否権を持つのかが確定しないまま、売却手続きだけが進むことになります。

取り得る対応は主に3つです。

  1. 相続人と合意して、会社が自己株式として取得し消却する(ルート①と同じ手続き。無償で応じてもらえる場合もあります)
  2. 相続人の同意を得て、定款変更で普通株式と同一内容にする(ルート②)
  3. 相続人等に対する売渡請求を行う(会社法174条〜177条)

売渡請求には3つの要件がある

売渡請求は強力な手段ですが、次の要件をすべて満たす必要があります。

  • 対象株式が譲渡制限株式であること
  • 定款に売渡請求ができる旨の定めがあること(登記されないため、定款原本の確認が必須)
  • 会社に分配可能額があること

また、売渡請求の株主総会決議では、対象となる相続人は議決権を行使できません(会社法175条2項)。この仕組みは、状況によっては少数株主側が経営者一族の株式を買い取らせる方向に働きうる点が実務上指摘されています。定めを新たに置く場合は、自社にどう跳ね返るかを弁護士と検討してから判断してください。相続株式の買取は相続税の取得費加算など税務上の特例とも関係するため、税理士への確認も並行して進めるのが安全です。

(出典: RSM汐留パートナーズ司法書士法人「黄金株の株主が亡くなった後の手続き」、Authense法律事務所「相続人等に対する売渡請求」、確認日: 2026-09-07)

相続と株式の承継設計全般は事業承継 遺言・株式信託の活用ガイドも合わせて確認してください。

黄金株以外の種類株式が売却に与える影響【一覧表】

黄金株ほど話題にはなりませんが、他の種類株式も売却時に固有の論点を生みます。 自社に該当するものがないか確認してください。

該当する状況

M&Aでの影響

対応の難易度

黄金株(8号)が先代・親族・第三者にある

100%取得しても重要決議を単独で通せない。価格の引下げ材料、または破談要因

高

黄金株の保有者が死亡し、複数の相続人に承継されている

拒否権の所在が確定しない。遺産分割未了なら準共有として権利行使者の指定が必要

高

役員選任権付株式(9号)が第三者にある

買い手が役員を送り込めず、買収の実質的な意味が失われる

高

議決権制限株式・無議決権株式(3号)が分散している

議決権では支配できても、100%取得には全保有者の合意が必要。買取価格の交渉が発生

中

取得請求権付株式(5号)・取得条項付株式(6号)がある

整理の武器になる一方、条件によっては想定外の買取義務や資金流出が生じる

中

属人的な定め(109条2項)が定款にある

登記されずDDで見落とされやすい。後で発覚すると表明保証違反のリスク

中

定款に定めがあるだけで未発行

実害は小さいがDDで必ず質問される。特別決議のみで削除可能

低

一部の株式を売らずに残す前提で交渉する場合は、一部株式譲渡(過半数・少数持分)の売却ガイドと株主間契約(SHA)とはも確認してください。種類株式ではなく契約で手当てする選択肢もあります。

登記簿に出てこない「属人的株式」という落とし穴

登記簿に記載される種類株式と、登記簿に出てこない属人的株式の違いを対比した図

属人的株式(会社法109条2項)は登記されません。 そのため「登記簿を見たら何もなかった」からといって安心はできません。定款原本を確認して初めて発見できます。

種類株式との違いを整理すると次のとおりです。

比較項目

種類株式(黄金株など)

属人的な定め(109条2項)

権利が付いている対象

株式そのもの

特定の株主(人)

設けられる会社

制限あり(9号は公開会社は不可)

非公開会社のみ

登記

必要(外部から見える)

不要(定款のみ。登記簿に出ない)

株式が譲渡された場合

権利も一緒に移転する

権利は失われる

相続

相続される

相続されない(効力を失う)

導入の決議

株主総会の特別決議(+種類株主総会)

特殊決議(総株主の半数以上かつ総株主の議決権の4分の3以上・会社法309条4項)

廃止の決議

特別決議+種類株主総会の特別決議

特別決議(309条4項の括弧書きにより、廃止は特殊決議の対象外)

(出典: 会社法109条・309条、RSM汐留パートナーズ司法書士法人「属人的株式とは」、確認日: 2026-09-07)

売却の観点では、属人的な定めは株式が買い手に移った時点で効力を失うため、黄金株ほど致命的ではありません。ただし、DDで「定款に議決権に関する特殊な定めがある」と指摘されれば、説明と手当てを求められます。廃止は株主総会の特別決議で足りるため、発見できさえすれば整理のハードルは高くありません。問題は「気づかずにDDを迎えること」です。

事業承継税制を使っている会社が特に注意すべきこと

法人版事業承継税制(非上場株式等の贈与税・相続税の納税猶予)には、後継者以外の者が黄金株を保有していないことという要件があります。 これは中小企業庁の申請マニュアルに明記されています。

○(先代経営者等)黄金株不保有要件(後継者以外)
会社法第108条第1項第8号に掲げる事項についての定めがある種類の株式とは、いわゆる「拒否権付株式(=黄金株)」です。拒否権付株式を発行している場合には、経営承継受贈者以外の者が有していないことが、認定を受けるための要件となります。
— 中小企業庁『中小企業経営承継円滑化法 申請マニュアル【相続税、贈与税の納税猶予制度】令和8年6月改訂版』p.19(確認日: 2026-09-07)

さらに、認定後に後継者以外の者が黄金株を保有することになった場合は、認定の取消事由にあたるとされています(同マニュアルp.62、施行規則第9条第2項第9号)。認定が取り消されると、猶予されていた税額と利子税を一括で納付することになります。

実務上のポイントは2つです。

  • 「先代が黄金株を持ったまま後継者に株を渡す」という設計は、法人版事業承継税制とは両立しません。 親族内承継とM&Aを併走して検討している会社は、この点で設計が分かれます。
  • すでに納税猶予を受けている会社がM&Aで株式を譲渡する場合、納税猶予は原則として打ち切りになる可能性が高いと考えてください。ただし、譲渡の時期・態様や特例措置の適用状況によって取扱いは変わります。猶予税額への影響は個別性が高いため、株式を動かす前に必ず顧問税理士に確認してください。

制度の全体像は事業承継税制とは(特例措置の期限・要件)、親族内承継とM&Aの比較は事業承継は親族内承継とM&Aどちらが最適かで整理しています。

黄金株の相続税評価は「普通株式と同様」

国税庁は「種類株式の評価について(情報)」(平成19年3月9日付)で、配当優先の無議決権株式・社債類似株式・拒否権付株式の3類型の評価方法を示しており、このうち拒否権付株式については普通株式と同様に評価するとしています(国税庁 種類株式の評価について(情報)、確認日: 2026-09-07)。拒否権が付いているからといって、評価額が上乗せされたり減額されたりするわけではない、という整理です。

なお、非上場株式の評価ルールについては、国税庁に「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」が設置され、2026年4月20日に第1回が開催されています(国税庁 会議資料、確認日: 2026-09-07)。現時点で結論は出ていませんが、評価ルールの見直し議論が進行中であることは前提として押さえておいてください。実際の評価額の算定は税理士にご依頼ください。

整理にかかる費用と期間の目安

確実に言える金額は登録免許税だけです。 専門家報酬には公表された標準額がないため、本記事では相場を提示しません。

項目

金額・水準

変更登記の登録免許税(種類株式の設定・変更・廃止)

金3万円(同一区分のため、複数の登記事由を一括申請しても加算されない)

司法書士報酬(定款変更・登記申請)

事務所ごとに異なり、一律の相場は公表されていない

弁護士報酬(スキーム設計・種類株主との交渉)

公表された標準額なし

黄金株そのものの買取価格

一律の基準はなく、時価または当事者間の合意による

(出典: RSM汐留パートナーズ司法書士法人「登録免許税」、司法書士今井事務所、確認日: 2026-09-07。登録免許税額は改正されることがあるため、申請時点の最新の税額を司法書士にご確認ください)

期間は「法定の手続き期間+交渉期間」で考える

全体で何か月かかるかは、保有者との交渉次第で大きく変わります。公的に示された標準期間はありません。ただし、条文で決まっている最低限のリードタイムはスケジュールに必ず織り込んでください。

  • 特定の株主からの自己株式取得:他の株主の売主追加請求の期限は株主総会の日の5日前まで(招集手続を省略する場合等は3日前まで)
  • 取得条項の発動:対象株主への通知・公告は取得日の2週間前まで
  • 株主総会の招集通知:非公開会社は原則として総会の日の1週間前まで(定款で短縮できる場合あり)
  • 決議後の変更登記:法務局での審査期間が別途必要

つまり、保有者が即座に合意してくれる理想的なケースでも、決議・通知・登記で数週間から1〜2か月程度は見ておく必要があります。交渉が必要なら、さらに時間がかかります。

売却全体のスケジュール感はM&A売却にかかる期間・タイムライン、事前準備の全体像は会社売却 準備チェックリストで確認できます。

買い手のデューデリジェンス・表明保証への影響

種類株式は法務DDの初期段階で必ず論点になります。 買い手側の弁護士は、登記簿謄本・定款・株主名簿・株主総会議事録を突き合わせ、次の点を確認します。

  • 発行済株式の種類と数が、登記・定款・株主名簿で一致しているか
  • 種類株式の発行手続きに瑕疵がないか(発行時の決議・種類株主総会の有無)
  • 拒否権の対象事項が何か、誰が保有しているか
  • 定款に属人的な定め・売渡請求の定めがないか

手続きに誤りがあると、種類株式の発行自体が無効と評価される余地があります(咲くやこの花法律事務所、確認日: 2026-09-07)。これは廃止手続きについても同じで、要件を一つ外せば定款変更や登記が無効・却下になり得ます。だからこそ、司法書士・弁護士を入れて進めることが前提になります。

契約段階では、次のような形で跳ね返ります。

  • 表明保証条項:「発行済株式はすべて普通株式である」「株式について第三者の権利は存在しない」といった表明を求められる。事実と異なれば損害賠償の対象
  • クロージング条件(前提条件):種類株式の整理完了と変更登記を、実行の前提条件として書き込まれる。整理が終わらなければ実行されない
  • 価格調整・エスクロー:整理が終わっていないリスク分として、代金の一部を留保される可能性

DDで何を見られるかはデューデリジェンスとは(売り手向け)とM&A DD 売り手の準備チェックリストにまとめています。

早めに専門家へ相談すべき会社/自社で確認を進めてよい会社

早急に弁護士・司法書士へ相談すべき会社

  • 黄金株を、経営から離れた第三者や関係が良好でない親族が保有している — 交渉自体に時間がかかるため、売却を検討し始めた時点で着手すべきです
  • 黄金株の保有者がすでに亡くなっており、遺産分割が終わっていない — 権利の所在が確定しないと、どのルートも選べません
  • 役員選任権付株式(9号)が第三者にある — 買い手が役員を送り込めず、買収の前提が崩れます
  • 保有者が高齢で、意思能力に不安がある — 判断能力を失うと同意も譲渡もできず、成年後見等の手続きが必要になります。時間との勝負になる典型例です
  • 事業承継税制の納税猶予を受けている — 株式を動かす前に、必ず税理士に猶予税額への影響を確認してください
  • 会社の分配可能額が乏しい — ルート①③④の金銭対価は財源規制にかかるため、使えるルートが限られます

まず自社で確認を進めてよい会社

  • 定款に種類株式の定めがあるが、実際には1株も発行していない — 株主総会の特別決議で削除できます。ただし決議と登記は司法書士に依頼するのが安全です
  • 黄金株を現オーナー自身が保有している — 自分の意思だけで整理できるため、選択肢は多く残ります
  • 属人的な定めがあるが、対象がオーナー自身 — 株式が移転すれば効力を失いますし、廃止も特別決議で足ります

いずれのケースでも、登記簿謄本・現行定款・株主名簿の3点を揃えて相談に行くことで、初回相談の精度が大きく変わります。仲介会社の選定と並行して進める場合は、M&A仲介会社の選び方とM&Aの相談先一覧(税理士・銀行・仲介会社)も参考にしてください。M&A仲介会社は法務手続きの代理はできないため、整理そのものは弁護士・司法書士が担当します。

よくある質問

Q. 黄金株を残したまま、買い手に会社を売ることはできますか?

A. 理論上は可能ですが、買い手が受け入れるかは案件次第です。黄金株を買い手側に一緒に譲渡する形なら成立の余地はありますが、その場合も譲渡制限が付いていれば会社の譲渡承認手続きが必要で、対価の配分や税務の整理も別途生じます。第三者に拒否権が残る前提で買う買い手は、現実にはほとんどいないと考えるのが安全です。

Q. 黄金株の保有者が認知症などで意思表示できない場合はどうなりますか?

A. 本人の同意を前提とするルート(自己株式としての買取、定款変更による普通株式化)はいずれも使えなくなります。あらかじめ取得条項が付いていれば発動を検討できますが、後から取得条項を付けるには当該種類の株主全員の同意が必要です(会社法111条1項)。成年後見等の手続きが必要になるケースもあるため、保有者が高齢の場合は元気なうちに整理しておくことが最も現実的な対策です。

Q. 登記簿には種類株式の記載がないのですが、確認はもう不要ですか?

A. 定款の確認は必要です。属人的な定め(会社法109条2項)と相続人等に対する売渡請求の定め(同174条)は登記されないため、登記簿だけでは把握できません。現行定款の原本と、過去の株主総会議事録を確認してください。

Q. 黄金株を無償で会社に譲ってもらう場合、税金はかかりますか?

A. 無償または著しく低い価額での譲渡は、贈与とみなされる可能性があります。個人間の取引か法人が関与するかによって課税関係が変わるため、実行前に必ず税理士に確認してください。株式の評価については、国税庁は拒否権付株式を普通株式と同様に評価するとしています。

Q. 種類株式の整理は、M&A仲介会社に依頼できますか?

A. 定款変更や登記の代理は弁護士・司法書士の業務であり、仲介会社は行えません。仲介会社ができるのは、整理が必要という論点の指摘、スケジュールへの織り込み、買い手への説明の設計までです。整理そのものは専門家に別途依頼する前提で、予算とスケジュールを組んでください。

Q. 株式譲渡ではなく事業譲渡で売れば、黄金株の問題は避けられますか?

A. 避けられるとは限りません。事業の全部または重要な一部の譲渡は株主総会の特別決議事項であり、拒否権の対象事項に「事業譲渡」が含まれていれば、結局は種類株主総会の決議が必要になります。定款で拒否権の対象がどう定められているかを確認してください。スキームの比較は株式譲渡と事業譲渡はどっちがいい?で整理しています。

Q. 議決権制限株式(無議決権株式)だけなら、そのまま売却しても問題ありませんか?

A. 議決権がないため経営の掌握という点では黄金株ほど深刻ではありませんが、買い手が100%取得を求めるなら全保有者との合意が必要です。買取価格の交渉や、応じない株主が出た場合の対応が論点になります。少数株主の整理と同じ枠組みで検討してください。

まとめ

種類株式・黄金株がある会社を売る場合の要点を整理します。

  1. 黄金株は登記で必ず発覚する。隠して進める選択肢はない
  2. 整理は基本合意の前に完了させる。交渉終盤に持ち越すと駆け引きの材料になる
  3. 確認は登記簿・現行定款・株主名簿の3点照合で行う。属人的な定めは登記簿に出ない
  4. 整理ルートは5つ。選べるかどうかは「保有者の協力」「分配可能額」「発行済か未発行か」で決まる
  5. 後から取得条項を付けることは、種類株主全員の同意が必要で事実上難しい
  6. 保有者が死亡・高齢のケースは時間との勝負。早期着手が唯一の対策
  7. 事業承継税制を使っている会社は、株式を動かす前に必ず税理士に確認する
  8. 確実に見積もれる費用は登録免許税3万円のみ。専門家報酬に公表相場はない

決議要件を一つ誤るだけで手続きが無効・却下になる領域です。自社の状況を3点照合で把握したうえで、弁護士・司法書士・税理士に相談してから実行してください。

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