相続した自社株(非上場株式)を売却する方法|3つの売却先・手続きの流れ・税金を抑える2つの特例【2026年最新】
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相続した自社株(非上場株式)を売却する方法|3つの売却先・手続きの流れ・税金を抑える2つの特例【2026年最新】

相続した非上場の自社株は、第三者へのM&A・発行会社への売却(金庫株)・親族や役員への売却の3つの方法で現金化できます。遺産分割と名義書換の手続き、申告期限から3年以内に使える取得費加算・みなし配当の2つの特例(計算例つき)、売渡請求などの注意点を国税庁・会社法を出典に解説します。

M&A比較レビュー編集部2026/10/912分で読める

相続した自社株(非上場株式)の売り先は、主に「第三者へのM&A」「発行会社への売却(金庫株)」「親族・役員など社内関係者への売却」の3つです。 どの方法でも、売る前に遺産分割と株主名簿の名義書換を済ませる必要があります。相続税の申告期限の翌日から3年以内(相続開始からおおむね3年10か月以内)に売れば、税金を減らせる特例を2つ使えます。

この記事でわかること:

  • 相続した自社株を売る3つの方法と、税金・条件・注意点の比較
  • 売る前に必要な手続き(遺産分割・権利行使者の指定・名義書換・経営体制の確保)
  • 相続発生日から数えた期限(3か月・4か月・10か月・1年・3年10か月)
  • 売却益にかかる税金と、「取得費加算の特例」「みなし配当課税の特例」の使い方(計算例つき)
  • 会社からの売渡請求、事業承継税制を使った株式の売却、2027年からのミニマムタックス強化などのリスク
  • 状況別に「どの売り方が合うか」の目安

この記事は、親や配偶者が経営していた会社の株式を相続し、自分では会社を継がずに売って現金化したいと考えているご家族の方に向けて書いています。 経営に関わったことがない方でも順番に読めば全体像がつかめるよう、専門用語は最初に意味を説明しています。

必ずお読みください: 本記事は、国税庁タックスアンサー(令和8年4月1日現在法令等)と民法・会社法の条文をもとにした一般的な情報提供です。個別の税務・法務の判断を行うものではありません。相続税・譲渡所得の計算は税理士に、遺産分割・定款・株主総会の手続きは弁護士・司法書士に、実際の判断の前に必ずご相談ください。

結論:売り先は3つ、まず「名義」と「期限」を押さえる

相続した自社株を売るときに最初に押さえるべきなのは、「誰に売るか」よりも先に「株式の名義を確定させること」と「税金の特例の期限」です。ここを外すと、買い手が見つかっても売れない、あるいは同じ金額で売っても税金が数百万円単位で増える、ということが起こりえます。

押さえるポイント

内容

売り先

①第三者へのM&A(株式譲渡)②発行会社への売却(金庫株)③親族・役員・従業員への売却

売る前の手続き

遺産分割 → 株主名簿の名義書換。分割前は相続人全員の共有で、権利行使者を決めて会社に通知しないと議決権も使えない

税金

第三者・会社のどちらに売っても、特例を使えば譲渡所得として20.315%の分離課税

特例の期限

相続税の申告期限の翌日から3年以内の売却(相続開始からおおむね3年10か月)

特例の条件

その相続人に相続税が課されていること(配偶者の税額軽減で税額ゼロの人は使えない可能性)

出典:民法898条、会社法106条・133条・134条(e-Gov法令検索)、国税庁「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」「No.1477 発行会社に株式を譲渡したとき(みなし配当)」(令和8年4月1日現在法令等/確認日:2026年10月10日)

会社売却の全体像を先に知りたい方は「会社売却とは・流れ完全ガイド」もあわせてご覧ください。

相続した自社株を売る3つの方法

相続した自社株の売却先となる第三者・発行会社・親族との株式譲渡の合意イメージ

相続した自社株の売り方は、買い手が「社外の第三者」か「会社自身」か「社内の関係者」かで3つに分かれます。加えて、定款に定めがある場合は会社から「売渡請求」を受けて売ることになるケースもあります。

売却ルート

誰に売るか

税金(個人の相続人)

向いているケース

主な注意点

① 第三者へのM&A(株式譲渡)

事業会社・投資ファンドなど

譲渡所得20.315%(取得費加算の特例を使える)

会社を存続させたい/まとまった現金が必要/相続人に経営の意思がない

買い手は通常100%取得を望むため、相続人全員の株式をまとめる必要がある。期間は案件によって大きく異なる

② 発行会社への売却(金庫株)

会社自身

原則は「みなし配当」として総合課税。特例を使えば全額が譲渡所得20.315%+取得費加算

会社に資金(分配可能額)がある/一部の相続人だけが現金化したい

財源規制・株主総会の特別決議・特例の届出書の提出期限

③ 親族・役員・従業員への売却(MBOなど)

後継者・経営陣

譲渡所得20.315%(取得費加算の特例を使える)

社内に後継者がいる

買い手の資金調達。時価より著しく低い価格は贈与税などの税務リスク

(参考)会社からの売渡請求に応じる

会社(定款の定めによる)

会社による自己株式の取得のため、原則として金庫株と同様の扱い(適用関係は税理士に確認)

定款に定めがあり、会社が請求してきた場合

相続人はその決議で議決権を使えない。価格に不満なら請求日から20日以内に裁判所へ申立て

出典:国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」「No.1477」「No.3267」(令和8年4月1日現在法令等/確認日:2026年10月10日)、会社法160条・174〜177条・461条(e-Gov法令検索/確認日:2026年10月10日)

① 第三者へのM&A:会社を残しつつ全株を現金化したい場合

経営を引き継ぐ家族がいない場合、最も一般的なのが第三者への株式譲渡です。会社はそのまま存続し、従業員の雇用や取引先との関係も買い手に引き継がれるのが一般的です。

一方で、買い手は経営権を確実に握るために発行済株式の100%取得を条件にすることが多いため、相続人が複数いる場合は全員が売却に同意し、株式をまとめて売れる状態にしておく必要があります。売却価格は相続税評価額とは別に、交渉で決まります(後述)。

株式譲渡の基本は「株式譲渡とは わかりやすく解説」で確認できます。

② 発行会社への売却(金庫株):一部の相続人だけが現金化したい場合

会社が自社株を買い取る方法です。後継者が会社を継ぎ、後継者以外の相続人が持つ株式だけを会社に買い取ってもらう、あるいは相続税の納税資金を作るために一部だけ売る、といった使い方が典型です。

本来、会社に株式を売ると「みなし配当」として総合課税となり、所得が高い場合は所得税・住民税を合わせて最高で約49%(配当控除後の目安・編集部試算)の負担になりえます。しかし、相続で取得した株式を期限内に会社へ売る場合は、特例で譲渡所得(20.315%)として扱われます。 ただし会社側には次の制約があります。

  • 財源規制:買取価格の総額は分配可能額の範囲内に限られる(会社法461条)
  • 株主総会の特別決議:特定の株主から買い取る場合に必要(会社法160条・309条2項2号)
  • 時価での取引:低すぎる・高すぎる価格は税務上の問題が生じうる

金庫株の税金の仕組みは「M&A前の自己株式取得(金庫株)・配当スキームと税金」で、特別決議の進め方は「会社売却時の株主総会・特別決議 手続きガイド」で詳しく解説しています。

③ 親族・役員・従業員への売却:社内に後継者がいる場合

亡くなったオーナーの右腕だった役員や、別の親族が経営を引き継ぐ場合は、その人に株式を売る方法もあります。税金は第三者へのM&Aと同じく譲渡所得として扱われます。

課題になりやすいのは買い手側の資金です。自社株の価格は数千万〜数億円になることも多く、個人で用意するのは簡単ではありません。金融機関の融資や、買い手が設立した会社が買い取る形(MBO)を検討することが一般的です。また、身内だからと相場より大幅に安く売ると、差額について贈与税などが課される可能性があるため、価格は税理士と相談して決めてください。

MBOの仕組みは「従業員承継(MBO・EBO)とは」、親族や知人に直接売る場合の注意点は「親族・知人への会社売却(相対取引)の注意点」で解説しています。

売る前に必ず済ませる4つの手続き

遺産分割協議書や株式名義書換請求書など相続株式の売却前手続きの書類に署名する様子

相続した自社株は、相続が発生した時点ではまだ「あなたの株」として自由に売れる状態ではありません。 次の4つを順番に進める必要があります。

1. 遺産分割前は「相続人全員の共有」になる

相続人が複数いる場合、遺産分割が終わるまで株式は相続人全員の共有(準共有)になります(民法898条1項)。たとえば1,000株を2人の子が相続した場合でも、遺産分割前は「500株ずつ持っている」のではなく、1,000株全体を2人で共有している状態です。

共有物を処分する(売る)には共有者全員の同意が必要とされているため(民法251条)、遺産分割前に株式を第三者に売るには、相続人全員の合意が必要になるのが一般的です。実務では、先に遺産分割を済ませてから売る流れが基本になります。

2. 議決権を使うには「権利行使者」を1人決めて会社に通知する

共有状態の株式は、権利を行使する人を1人決めて会社に通知しなければ、議決権などの権利を使えません(会社法106条)。権利行使者の決め方については、相続人の持分価格の過半数で決められるとした最高裁判決(平成9年1月28日)があると一般に解説されています。

オーナーが亡くなった直後は、新しい代表取締役の選任など会社を止めないための株主総会が必要になることが多いため、この権利行使者の指定は早い段階で必要になります。

金庫株を予定している場合の注意: 会社法162条では、相続人から会社が自社株を買い取る場合、他の株主が「自分の株も一緒に買い取って」と求める権利(売主追加請求権)は原則として生じません。ただし、相続人がその株式で株主総会の議決権を行使した場合はこの例外が使えなくなります(同条2号。公開会社の場合も例外は使えません)(e-Gov法令検索)。議決権を使うかどうかは、売却方法とあわせて専門家に相談したうえで判断してください。

3. 遺産分割協議(株式だけ先に分けることもできる)

相続人の間で、誰がどの株式を取得するかを決めます。遺産分割は全部ではなく一部だけ先に行うこともできるため(民法907条1項)、不動産などの分け方で話がまとまらない場合でも、株式だけ先に分割して売却の準備を進める方法があります。

4. 株主名簿の名義書換(会社の承認は不要)

遺産分割が終わったら、会社に株主名簿の名義書換を請求します。中小企業の株式はほとんどが「譲渡制限株式」ですが、相続で取得した場合は会社の承認なしに名義書換を請求できます(会社法133条・134条4号)。

なお、株主名簿に載っている株主と実際の株主が違う「名義株」が見つかると、M&Aのデューデリジェンス(買収監査)で売却が止まることがあります。心当たりがある場合は「名義株の整理ガイド」を、株主名簿の整え方は「譲渡制限株式の譲渡承認手続き 完全ガイド」をご覧ください。

遺産分割・権利行使者の指定・議決権の扱いは、相続人間の関係や定款の内容で結論が変わります。具体的な進め方は弁護士へのご相談をおすすめします。

相続から売却までのスケジュールと期限

相続税の申告期限と取得費加算の特例期限を管理するカレンダーのイメージ

相続した自社株の売却には、動かせない期限が5つあります。M&Aは準備から成約まで時間がかかることが多いため、相続が発生したらできるだけ早く逆算して動くことが大切です。

期限(相続発生日から)

手続き

ポイント

出典

3か月以内

相続放棄・限定承認の判断

亡くなったオーナーが会社の借入の個人保証人になっている場合は特に重要

民法915条1項

4か月以内

被相続人の所得税の準確定申告

相続の開始を知った日の翌日から4か月以内

国税庁 No.2022

10か月以内

相続税の申告・納付

遺産分割が終わっていなくても延びない。売却が間に合わなくても納付は必要

国税庁 No.4205・No.4208

会社が相続を知った日から1年

会社からの売渡請求の期限

定款に定めがある場合のみ

会社法176条1項

申告期限の翌日から3年(相続開始からおおむね3年10か月)

取得費加算の特例・みなし配当課税の特例を使える売却期限

この日までに売却(譲渡)していることが条件

国税庁 No.3267・No.1477

確認日:2026年10月10日(国税庁タックスアンサーは令和8年4月1日現在法令等、民法・会社法はe-Gov法令検索)

例:2026年1月6日に亡くなった場合

  • 相続税の申告期限:2026年11月6日
  • 2つの特例を使える売却期限:2029年11月6日まで

相続税の納付に売却が間に合わない場合

相続税は申告期限までに現金で納めるのが原則です。M&Aが申告期限までにまとまらない場合は、次のような方法で納税資金を手当てすることになります。

  • 延納:一括で払えない場合に、要件を満たせば分割で納める(利子税がかかる)
  • 一部を会社に売る(金庫株):会社に資金があれば、納税に必要な分だけ先に会社へ売る
  • 金融機関からの借入:売却代金で返済する前提でつなぎ融資を受ける

なお、物納は自社株では現実的でないケースが多い点に注意が必要です。国税庁の説明では、非上場株式は物納の第2順位とされていますが、譲渡制限株式は「管理処分不適格財産」として物納できません(国税庁 No.4214/令和8年4月1日現在法令等/確認日:2026年10月10日)。中小企業の株式はほぼすべて譲渡制限が付いているためです。

また、遺産分割が終わらないまま申告する場合は、法定相続分で取得したものとして申告・納税します。この場合、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減は使えませんが、申告期限から原則3年以内に分割すれば、修正申告や更正の請求でこれらの特例を受けられます(国税庁 No.4208)。

延納の要件や納税資金の手当ての方法は、財産の構成によって最適な選択が変わります。具体的には税理士にご相談ください。

相続した自社株を売ったときの税金

相続した自社株を第三者に売った場合の税金は、売却益(譲渡所得)に対して20.315%の申告分離課税です。 内訳は所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%です(国税庁 No.1463/令和8年4月1日現在法令等/確認日:2026年10月10日)。

売却益の計算式

譲渡所得 = 売却価格 −(取得費 + 譲渡費用)

ここで注意したいのが「取得費」です。相続で取得した株式の取得費は、相続税の評価額ではなく、亡くなった方(被相続人)が株式を取得したときの金額を引き継ぎます。 取得費がわからない場合は、売却代金の5%を取得費とすることができます(国税庁 No.1464/令和8年4月1日現在法令等/確認日:2026年10月10日)。

創業者が設立時に出資した株式であれば、取得費は売却価格に比べてごく小さい金額にとどまることが多く、売却価格のほとんどが課税対象の売却益になります。 このため、次に説明する「取得費加算の特例」の効果が大きくなります。

譲渡費用には、M&A仲介会社に支払う成功報酬なども含まれるのが一般的です。手数料の目安は「M&A仲介会社 手数料比較 完全ガイド」で確認できます。

会社に売る場合は「みなし配当」に注意

発行会社に売る場合、原則として受け取った金額のうち資本金等の額を超える部分は「みなし配当」となり、給与などと合算する総合課税(所得が高い場合は最高で約49%が目安)になります(国税庁 No.1477)。ただし、相続した株式を期限内に会社へ売る場合は、次の章で説明する特例で20.315%の分離課税に変わります。

「相続税の評価額」と「売却価格」は別物

相続税の計算に使う株式の評価額は、国税庁の財産評価基本通達のルール(類似業種比準方式・純資産価額方式・配当還元方式)で計算します(国税庁 No.4638)。一方、M&Aの売却価格は、時価純資産に数年分の利益を加える方法やDCF法などを目安に、最終的には買い手との交渉で決まります。

そのため、相続税評価額より高く売れることも、低くなることもあります。 2つの金額の違いは「非上場株式の価値算定・株価評価方法ガイド」で詳しく解説しています。

税金を抑える2つの特例と計算例

相続した自社株の売却にかかる税金と特例の効果を電卓で計算するイメージ

相続した自社株を売るときに使える特例は、「相続税の取得費加算の特例」と「相続株式を発行会社に売った場合のみなし配当課税の特例」の2つです。どちらも期限と条件が共通しており、併用できるケースもあります。

項目

取得費加算の特例

みなし配当課税の特例

根拠

租税特別措置法39条

租税特別措置法9条の7

対象となる売り先

第三者・会社のどちらでも

発行会社(金庫株)のみ

効果

払った相続税の一部を取得費に加えられる(売却益が減る)

みなし配当とされず、全額が譲渡所得(20.315%)になる

主な条件

その相続人に相続税が課税されている

その相続人に納付すべき相続税額がある

期限

相続開始日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却

同左

手続き

確定申告書に計算明細書を添付

売却する日までに届出書を会社に提出

出典:国税庁「No.3267」「No.1477」(令和8年4月1日現在法令等/確認日:2026年10月10日)

特例1:相続税の取得費加算の特例

相続税を納めた人が、相続した財産を期限内に売った場合、その人が納めた相続税のうち売った財産に対応する部分を取得費に加えられる制度です。取得費が増える分、売却益と税金が減ります。

加算できる金額の計算式(概要)

加算額 = その人の相続税額 × 売った財産の相続税評価額 ÷ その人が相続で取得した財産の価額の合計

※分母には、相続時精算課税を適用した財産や、相続財産に加算される暦年課税分の贈与財産の価額も含みます。加算額が売却益を超える場合は売却益が上限です(国税庁 No.3267)。

計算例(編集部による簡易試算)

前提:相続人Aが相続で取得した財産の価額は3億円(うち自社株の相続税評価額2億円)、Aの相続税額は6,000万円。自社株を第三者に5億円で売却。被相続人の出資額(取得費)は1,000万円。仲介手数料などの譲渡費用は考慮しない。

  • 加算額:6,000万円 × 2億円 ÷ 3億円 = 4,000万円

特例なし

特例あり

売却価格

5億円

5億円

取得費

1,000万円

1,000万円+4,000万円=5,000万円

売却益(譲渡所得)

4億9,000万円

4億5,000万円

税額(20.315%)

約9,954万円

約9,142万円

差額

—

約813万円の減少

この例では、特例の期限を過ぎてから売ると約800万円多く税金を払うことになります。 M&Aは交渉が長引くこともあるため、特例の期限から逆算して早めに動くことが大切です。

※上記は制度の効果をわかりやすく示すための簡易計算です。実際の税額は譲渡費用・他の所得・住民税の計算、後述のミニマムタックスなどで変わります。必ず税理士に計算を依頼してください。

特例2:相続株式を発行会社に売った場合のみなし配当課税の特例

相続した非上場株式を期限内に発行会社へ売った場合、本来ならみなし配当になる部分も含めて、全額を株式の譲渡所得として扱う制度です。総合課税(最高約49%が目安)ではなく20.315%の分離課税になるため、会社に売るときの税負担が大きく変わります。

手続きの流れ

  1. 売主(相続人)が、株式を売る日までに「相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出書」を発行会社に提出する
  2. 発行会社が、株式を買い取った年の翌年1月31日までに、所轄の税務署長に提出する

届出書の提出を忘れて売ってしまうと、特例を使えずに総合課税になるおそれがあります。売買契約の前に、会社の経理担当者・税理士と書類の段取りを確認しておきましょう。 取得費加算の特例と組み合わせて使えるかどうかも、あわせて税理士に確認してください。

配偶者が相続した株式は特例を使えない場合がある

2つの特例は、いずれもその相続人に相続税が課されている(納付すべき相続税額がある)ことが条件です。配偶者は「配偶者の税額軽減」によって相続税がゼロになることが多く、その場合は特例を使えない可能性があります。

誰がどの株式を相続するかによって売却時の税金が変わるため、売却を前提にしている場合は、遺産分割の段階で税理士にシミュレーションしてもらうことをおすすめします。

特例の適用可否・計算・申告は、相続税額の内訳や他の財産の状況で結論が変わります。実際の判断は必ず税理士にご相談ください。

相続した自社株を売るときの6つのリスク

相続した自社株の売却では、通常の会社売却にはない落とし穴があります。特に「定款の売渡請求」と「事業承継税制を使った株式」は、知らずに進めると大きな損失につながりえます。

1. 定款に「相続人等に対する売渡請求」がある

定款に定めがあれば、会社は相続で譲渡制限株式を取得した人に対して、会社へ株式を売り渡すよう請求できます(会社法174条)。主なルールは次のとおりです。

  • 請求するたびに株主総会の特別決議が必要(会社法175条・309条2項3号)
  • 請求の対象となる相続人は、原則としてその決議で議決権を使えない(会社法175条2項)
  • 会社が相続を知った日から1年を過ぎると請求できない(会社法176条1項)
  • 価格は協議で決め、まとまらなければ請求日から20日以内に裁判所へ価格決定を申し立てられる(会社法177条)

相続人の議決権が排除されるため、他の株主(役員や少数株主など)が多数派になり、亡くなったオーナー家の株式を会社に買い取らせる形で使われる可能性も指摘されています。相続が発生したら、まず定款を確認してください。

2. 相続人の間で売却方針がまとまらない

前述のとおり、遺産分割前の株式は相続人全員の共有です。「売りたい人」と「会社を残したい人」が対立すると、遺産分割も売却も進みません。M&Aでは買い手が100%取得を求めることが多いため、1人でも反対する相続人がいると第三者への売却は難しくなります。 家族間での合意形成は「会社売却を家族・配偶者にどう説明するか」も参考になります。

3. 事業承継税制(納税猶予)を使って相続した株式を売る

法人版事業承継税制で相続税の納税猶予を受けた株式を売ると、原則として猶予されていた相続税と利子税を納める必要があります(国税庁 No.4148/令和8年4月1日現在法令等/確認日:2026年10月10日)。特例措置には、事業の継続が困難な事由がある場合に譲渡対価の額などで猶予税額を再計算し、差額を免除する仕組みもありますが、適用には業績悪化などの要件があります。

相続後すぐに売る可能性があるなら、事業承継税制の適用は慎重に判断してください。 特例措置で相続等が対象になる期限は2027年12月31日までです(同No.4148)。制度の詳細は「事業承継税制とは(特例措置の期限・要件)」と「事業承継税制の特例期限とM&A売却 どちらを選ぶか」で解説しています。

4. 物納で納税できない

前述のとおり、譲渡制限株式は物納できません。「相続税は株式で納めればいい」と考えていると、申告期限の直前に納税資金が足りなくなるおそれがあります。

5. 高額売却では2027年分からミニマムタックスが強化される

所得が極めて高い人の税負担を調整する制度(いわゆるミニマムタックス)は、令和8年度税制改正で見直され、令和9年(2027年)分から強化されます。追加で課される税額の計算に使う控除額が3億3,000万円から1億6,500万円に、税率が22.5%から30%に変わります(出典:財務省 令和8年度税制改正の大綱の概要、国税庁 極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置 特設ページ/確認日:2026年10月9日)。

非上場株式の売却益もこの計算に含まれるため、売却益が単独でおおむね3億3,000万円を超える場合は、2027年以降の売却で追加の税負担が生じる可能性があります(編集部の簡易計算、所得税部分のみ・他の所得なしの場合)。前述の計算例(売却益4億5,000万円)も対象になりうる水準です。売却時期の判断には税理士の試算が欠かせません。

6. 非上場株式の相続税評価のルールが見直される可能性

国税庁は2026年4月から「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を開いており、類似業種比準方式の見直しなど、非上場株式の評価方法の変更が議論されています(参考:国税庁 有識者会議 第1回資料)。2028年1月の施行に向けて検討されているとの専門家の解説もありますが(参考:EY税理士法人 Tax Alert)、2026年10月時点では検討段階で、内容・時期とも確定していません。 すでに発生した相続については、一般的には相続開始時点のルールで評価されます。

このほか確認しておきたいこと:個人保証

亡くなったオーナーが会社の借入の連帯保証人になっていた場合、その保証債務も相続の対象になります。M&Aで売却する際は、買い手側に保証を引き継いでもらう交渉が一般的です。詳しくは「会社売却で個人保証・連帯保証は解除できる?」をご確認ください。

M&Aで売る場合の進め方と相談先

相続した自社株のM&A売却について仲介会社や専門家に相談する打ち合わせの様子

第三者へのM&Aで売る場合、相続の手続きと売却の準備を並行して進めるのが現実的です。 相続発生から売却完了までの流れは、おおむね次のとおりです。

  1. 遺言書・定款・株主名簿・登記簿を確認する(譲渡制限、売渡請求の定め、名義株の有無)
  2. 相続放棄するかを判断する(3か月以内。会社の借入・個人保証の確認)
  3. 会社の経営体制を整える(代表取締役の後任選任。議決権を使うには権利行使者の指定・通知が必要)
  4. 遺産分割協議を行い、株主名簿の名義書換を請求する
  5. 株価を把握する(相続税評価額と、M&Aで想定される売却価格の両方)
  6. 売却ルートを選び、M&A仲介会社・FA・税理士に相談する
  7. 準確定申告(4か月)・相続税申告(10か月)を行う(売却が間に合わなくても期限は動かない)
  8. 売却(クロージング)し、翌年の確定申告で特例を適用する

誰に何を相談するか

相談先

主な役割

相談のタイミング

税理士

相続税申告、株式評価、売却時の税額シミュレーション、特例の適用

相続発生後すぐ

弁護士・司法書士

遺産分割、定款・売渡請求の確認、株主総会・名義書換の手続き

相続発生後すぐ(相続人間で意見が割れそうなら特に早く)

M&A仲介会社・FA

買い手探し、売却価格の目安、交渉、契約手続き

売却の方針が固まりつつある段階(遺産分割と並行で相談可)

金融機関

納税資金のつなぎ融資、会社の借入・個人保証の扱い

相続税の納付に売却が間に合わない見込みのとき

M&A仲介会社は、相続案件の経験や対応できる会社の規模がそれぞれ異なります。比較のポイントは「M&A仲介会社の選び方」と「M&A仲介会社 比較(売り手向け)」、初回相談の準備は「M&A仲介会社への最初の相談 準備・確認事項ガイド」で解説しています。売却を急ぐ必要がある場合は「社長の病気・急な引退で会社を急いで売る方法ガイド」も参考になります。

状況別:どの売り方を選ぶべきか

相続した自社株の売り方は、「会社に資金があるか」「全部売りたいか一部か」「社内に後継者がいるか」の3点でおおむね絞り込めます。

あなたの状況

第一候補

補足

相続人の誰も経営を継がない/全株を現金化したい

① 第三者へのM&A

相続人全員の株式をまとめて売れる状態にする

後継者が会社を継ぎ、他の相続人の株式だけ整理したい

② 発行会社への売却(金庫株)

会社の分配可能額と特例の届出書を確認

相続税の納税資金だけ先に作りたい

② 金庫株で一部売却 + 残りは保有またはM&A

会社の現金が減るとM&A時の売却価格も下がるのが一般的

経営を任せられる役員・親族がいる

③ 親族・役員への売却(MBOなど)

買い手の資金調達と価格の妥当性がカギ

会社から売渡請求を受けた

価格の妥当性を検証

請求日から20日以内に裁判所へ価格決定の申立てができる

第三者へのM&Aがおすすめなケース

  • 相続人の誰も会社の経営に関わる予定がない
  • 従業員の雇用や取引先との関係を守りながら、会社を存続させたい
  • 会社の業績が安定していて、相続税評価額より高く売れる見込みがある
  • 相続人全員が売却に同意している

M&Aをおすすめしない(ほかの方法を優先したい)ケース

  • 相続人の間で売却するかどうかの意見が割れている → まず遺産分割と合意形成を優先
  • 事業承継税制の納税猶予を受けて相続した → 猶予税額の納付が必要になるため、売却のメリットを税理士と再計算
  • 相続税の申告期限が迫っていて納税資金がない → M&Aの成約を待たず、延納・金庫株・借入を検討
  • 会社が債務超過で個人保証が大きい → 相続放棄(3か月以内)も含めて弁護士に相談

赤字や債務超過の会社でも売却できる場合はあります。詳しくは「赤字・債務超過会社の売却は可能か」をご覧ください。

よくある質問

Q. 相続税の申告前に株式を売ってもいいですか?

売ること自体は可能です。相続税は相続開始時点の評価額で計算するため、申告前に売っても、相続税の計算の基準が売却価格に置き換わるわけではありません。取得費加算の特例は、売却した年の翌年の確定申告で受けます。相続税の申告前に売った場合でも、特例の期限内であれば対象になります。ただし、所得税の確定申告の時点で相続税額がまだ確定していない場合は手続きの順序が通常と異なるため、申告のタイミングを税理士に確認してください。

Q. 兄弟で相続した株式を、自分の持分だけ売ることはできますか?

遺産分割で株式を分けた後であれば、自分の株式を売ることはできます。ただし中小企業の株式は譲渡制限が付いているため、相続以外の譲渡(第三者への売却)には会社の承認が必要です(会社法136条以下)。また、少数株式だけを買いたい第三者は多くないため、実際には会社(金庫株)や他の相続人が買い手になることが一般的です。

Q. 相続した株式に価値がない場合、売らずに放置しても問題ありませんか?

株主である以上、会社の株主総会の招集通知を受け取るなど、株主としての立場は続きます。会社が事業を続けるのであれば、株式が分散している状態はM&Aや経営の妨げになりやすいため、会社や他の株主に買い取ってもらうなどの整理を検討するのが一般的です。少数株主の整理は「M&A前の少数株主整理・株式集約 完全ガイド」で解説しています。

Q. 会社に売る場合と第三者に売る場合、どちらが手取りが多くなりますか?

特例を使える場合、税率はどちらも20.315%で同じです。手取りの差は主に売却価格で決まります。会社への売却は会社の分配可能額が上限になり、価格も相続税評価額などを基準に決めることが多い一方、第三者へのM&Aは事業の将来性を踏まえた交渉価格になるため、高くなることも低くなることもあります。M&Aでは仲介手数料などの費用もかかるため、手取りベースで比較することが大切です。

Q. 相続した株式を高く売れた場合、あとから相続税が増えることはありますか?

相続税は相続開始時点の評価額で計算するため、後から高く売れたことだけを理由に相続税が増えることは、一般的にはありません。ただし、相続税の申告で株式の評価が適正でなかった場合などは、税務調査で指摘を受ける可能性があります。評価と売却のどちらも税理士に関わってもらうと安心です。

まとめ

  • 相続した自社株の売り先は、第三者へのM&A・発行会社への売却(金庫株)・親族や役員への売却の3つ
  • 売る前に遺産分割 → 名義書換を済ませる。分割前は相続人全員の共有で、議決権を使うにも権利行使者の指定・通知が必要
  • 相続税の申告期限の翌日から3年以内(相続開始からおおむね3年10か月以内)に売れば、取得費加算の特例とみなし配当課税の特例が使える。ただし相続税が課されていない相続人は使えない可能性がある
  • 定款の売渡請求、事業承継税制を使った株式の売却、物納不可、2027年分からのミニマムタックス強化に注意
  • 相続税の申告期限(10か月)は売却が間に合わなくても延びないため、早い段階で税理士・弁護士・M&Aの専門家に相談する

相続した株式を売るかどうかの判断は、税金・家族の合意・会社の状況が絡み合うため、ひとりで抱え込まずに専門家と一緒に整理するのが近道です。会社売却の税金全体は「会社売却の税金・節税 完全ガイド」、生前からの相続対策は「会社売却と相続対策(生前贈与・信託の活用)」、M&A全般の用語は「M&A用語集」もあわせてご覧ください。

ご注意: 本記事は法令・国税庁の公表資料に基づく一般的な情報です。税額・特例の適用可否・遺産分割や会社法上の手続きは、個別の事情により結論が異なります。実際の判断は税理士・弁護士などの専門家にご相談ください。

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