MAC条項(重大な悪影響条項)とは?売り手への5つの影響と交渉ポイント・判例をわかりやすく解説
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MAC条項(重大な悪影響条項)とは?売り手への5つの影響と交渉ポイント・判例をわかりやすく解説

MAC条項(重大な悪影響条項)とは、M&Aの契約締結からクロージングまでに対象会社に重大な悪化が生じた場合、買い手が撤退できる条項です。売り手が受ける破談・減額再交渉リスク、日米の判例、契約書で交渉すべきポイントを解説します。

M&A比較レビュー編集部2026/9/2610分で読める

MAC条項(重大な悪影響条項)とは、M&Aの最終契約を結んでからクロージング(代金決済・株式の引き渡し)までの間に、対象会社の事業や財務に「重大な悪影響」が生じた場合、買い手が取引を中止できるようにする契約条項です。 売り手にとっては、裁判で発動が認められるケースは少ない一方、破談や譲渡価格の減額を求められる口実になりうるため、「範囲を狭く・除外事由を広く・基準を客観的に」交渉しておくことが基本です。

この記事でわかること:

  • MAC条項の意味と、契約書への3つの入れ方
  • 売り手が受ける5つの影響(破談・減額再交渉・クロージング遅延など)
  • 「重大な悪影響」に当たりやすい事象・当たりにくい事象
  • 日本と米国の主な裁判例(東京地裁2010年、Akorn事件、AB Stable事件など)
  • 売り手が契約書で交渉すべきポイントと確認チェックリスト

こんな方に向けた記事です: 会社の売却を検討しているオーナー経営者、株式譲渡契約書(SPA)のドラフトを受け取りMAC条項の意味を確認したい方、クロージングまでの期間に不安がある方。

ご注意: 本記事はMAC条項の一般的な仕組みを解説するものです。実際の契約交渉や条項の解釈は、個別の事情によって結論が変わります。契約締結前に、M&Aに詳しい弁護士へご相談されることをおすすめします。

MAC条項(重大な悪影響条項)とは

M&Aの契約締結からクロージングまでの期間に重大な悪影響が生じるリスクを表したMAC条項のイメージ図

MAC条項は、「契約は結んだが、まだ代金を払っていない」期間に起きた想定外の悪化のリスクを、売り手と買い手のどちらが負うかを決める条項です。 条項に該当する事由が起きれば、買い手はクロージングを拒否したり、契約を解除したりできるようになります。

MACとMAEの違い

MACは「Material Adverse Change(重大な悪影響を及ぼす変化)」、MAEは「Material Adverse Effect(重大な悪影響)」の略です。厳密には「変化」と「影響」で言葉が異なりますが、実務上はほぼ同じ意味で使われています。西村あさひ法律事務所のニューズレター(2020年4月8日号)も、両者を厳密に区別せずに解説しています。

なぜMAC条項が必要とされるのか

M&Aでは、最終契約の締結とクロージングが同じ日に行われないことがよくあります。許認可の手続き、取引先の同意取得、従業員への説明、資金調達などの準備が必要なためです。

この間に次のような事態が起きると、買い手は「契約時に想定していた会社と違う」と考えます。

  • 主要取引先が倒産した、または取引を打ち切った
  • 重大な不祥事や法令違反が発覚した
  • 工場や店舗が災害で操業できなくなった
  • 業績が急激かつ長期的に悪化した

MAC条項は、こうした事態が起きたときに買い手が取引から離脱できる「出口」として機能します。逆に言えば、売り手にとっては「契約したのに売却が完了しない」リスクを抱える条項です。

典型的な条文の書き方

日本の株式譲渡契約では、たとえば次のような抽象的な書き方がされます(西村あさひ法律事務所 2020年ニューズレターを基に要約)。

対象会社の事業、資産、負債、財産状態、経営成績、キャッシュフローまたは将来の収益計画に重大な悪影響を及ぼすまたは合理的に及ぼし得る事由が発生していないこと

太字の部分は、MAC条項の適用範囲を広げる表現です。「将来の収益計画」が入ると計画未達まで対象になりうるほか、「合理的に及ぼし得る」が入ると、まだ実際に悪影響が出ていない段階でも適用を主張される余地が生まれます。売り手にとって不利に働きやすい文言なので、ドラフトを受け取ったら最初に確認したい箇所です。

SPA全体の構成や他の条項については、M&A SPA(株式譲渡契約書)とはで詳しく解説しています。

MAC条項は契約書にどう組み込まれるのか

MAC条項は、一般的に「前提条件型」「表明保証型」「解除事由型」の3つの形で契約書に組み込まれます。 どの形で入っているかによって、売り手が負うリスクの中身が変わります。

規定の形

条文のイメージ

売り手への主な影響

前提条件型

「契約締結日以降にMAC事由が発生していないこと」をクロージングの前提条件にする

MAC事由があれば、買い手はクロージングを拒否できる

表明保証型

「基準日以降にMAC事由が発生していないこと」を売り手が表明保証し、その正確性を前提条件にする

クロージング拒否に加え、クロージング後に表明保証違反として補償請求を受ける可能性がある

解除事由型

MAC事由の発生そのものを契約解除事由とする

買い手が契約を解除できる

(出典:西村あさひ法律事務所「M&Aニューズレター」2020年4月8日号、確認日:2026-09-27)

特に注意したいのは表明保証型です。前提条件型であれば「クロージングするかどうか」の問題で終わりますが、表明保証型ではクロージング後にも「表明保証が正しくなかった」として損害賠償(補償)を求められる経路が残ります。表明保証の基本と補償の仕組みはM&Aの表明保証とは、補償額の上限・下限の決め方は補償の上限(キャップ)・下限(バスケット)の解説をあわせてご覧ください。

MAC条項が売り手に与える5つの影響

MAC条項を理由に買い手から破談や譲渡価格の減額を求められる売り手のイメージ

MAC条項の影響は「裁判で発動されるかどうか」だけではありません。 売り手が実際に直面しやすいのは、発動の可能性をちらつかせた減額交渉や、クロージングまでの経営の不自由さです。ここでは5つに分けて整理します。

影響1:クロージング直前の破談リスク

MAC事由に該当すると判断されれば、買い手はクロージングを拒否したり契約を解除したりできます。売り手は、売却を前提に進めていた引退計画・後継者への説明・従業員への告知などが白紙に戻るおそれがあります。

破談後に別の買い手を探す場合も、「一度ブレイクした案件」として条件が悪くなる可能性があります。売却手続きが途中で止まったときの対応は、M&A売却を途中でやめる・破談になる場合の解説を参考にしてください。

影響2:譲渡価格の減額再交渉の口実になる

売り手にとって最も現実的な影響がこれです。西村あさひ法律事務所の2020年ニューズレターは、MAC条項の適用可能性を完全に否定できない状況では、買い手が取引からの離脱を示唆して譲渡価格の減額を求め、売り手が事実上これに応じざるを得なくなる場面がありうると指摘しています。

裁判で最終的に「MACに当たらない」と判断される可能性が高くても、売り手にはクロージングを急ぎたい事情があることが多く、長い紛争を避けるために減額を受け入れてしまうことがあります。「法的に認められにくい」ことと「交渉カードとして使われない」ことは別の問題だと理解しておきましょう。価格交渉全般の進め方はM&Aの価格交渉ガイドで解説しています。

影響3:クロージングの遅延

MAC事由の有無について当事者の見解が分かれると、確認作業や協議のためにクロージングが後ろ倒しになることがあります。クロージングが長引くほど、その間に新たな悪化事由が起きるリスクも増えます。クロージング当日の手続きや必要書類はM&Aのクロージングとはをご覧ください。

影響4:クロージング後の補償請求への波及

前述のとおり、MAC条項が表明保証の形で入っている場合、クロージング後に「実は基準日以降に重大な悪影響が生じていた」として補償を請求される可能性があります。売却代金を受け取った後でもリスクが残る点は、売り手にとって見落としやすいポイントです。

影響5:クロージングまでの経営の自由度が狭まる

MAC条項そのものではありませんが、セットで考えるべきなのが誓約事項(コベナンツ)です。多くの契約では、売り手に「クロージングまで通常の業務の範囲内で事業を運営する」義務が課されます。

後述する米国のAB Stable事件では、MAC条項による撤退は認められなかったものの、売り手が行ったコロナ対応(ホテルの閉鎖・大量解雇など)が「通常の業務運営義務」違反とされ、買い手のクロージング拒否が認められました。MACに当たらないから安心、とは言い切れないということです。誓約事項の詳しい内容はM&Aの誓約事項(コベナンツ)とはで解説しています。

「重大な悪影響」に当たる例・当たらない例

景気悪化や感染症など外部要因が重大な悪影響に当たるかを天秤で比べるイメージ図

一般的には、対象会社に固有の、長期的で大きな悪化はMAC事由に当たりやすく、景気や市況など業界全体に及ぶ一時的な変化は当たりにくいと考えられています。 ただし、最終的な判断は条文の書き方と個別の事情によって変わります。

区分

具体例

判断の傾向

当たりやすい

対象会社の重大な不祥事・法令違反の発覚

会社固有の問題で、影響が長期に及びやすい

当たりやすい

主要取引先の倒産・取引打ち切りによる売上の大幅かつ継続的な減少

会社固有で、収益力に長期的影響がある場合

当たりやすい

売上・利益の急激かつ持続的な悪化(米国Akorn事件)

短期的な落ち込みではなく、持続性がある場合

当たりにくい

事業計画の未達(前期比では減っていない)

計画は予測にすぎないと判断された例あり(東京地判2010年)

当たりにくい

不動産市況の下落による保有土地の値下がり

会社固有でない一般的な事象とされた例あり(同上)

当たりにくい

景気後退・金融市場の悪化・業界全体の不振

除外事由として明記されることが多い

当たりにくい

短期的な業績の落ち込み

米国IBP事件で「長期的な収益力の悪化」が必要とされた

条文次第

自然災害・パンデミック・戦争・関税・制裁

除外事由に明記されていれば原則対象外。ただし不均衡に大きな影響を受けた場合の例外規定に注意

(出典:西村あさひ法律事務所 2020年ニューズレター、牛島総合法律事務所「BUSINESS LAWYERS」2020年5月12日掲載記事、米国デラウェア州裁判所判決。確認日:2026-09-27)

除外事由(カーブアウト)とは

多くのMAC条項には、「たとえ重大な悪影響があっても、次の事由によるものはMACとして扱わない」という除外事由が定められます。典型的な除外事由は次のとおりです。

  • 政治・経済・金融市場環境の一般的な変化
  • 業界全体の変化
  • 法令・会計基準の変更
  • 戦争・テロ・自然災害
  • 当該M&A取引の公表による影響
  • 伝染病・パンデミック(新型コロナ以降に明記する例が増加)

三浦法律事務所のニューズレター(2024年9月30日)によると、近年の米国型の契約では、地政学的状況・サイバー攻撃・武力紛争・社会不安・貿易の混乱・制裁・関税まで除外事由として列挙する例も見られます。

「不均衡な影響」の例外に注意

除外事由を広く定めても、「ただし、対象会社が同業他社と比べて特に大きな(不均衡な)影響を受けた場合はMAC事由に含める」という例外規定が置かれることがあります。景気悪化そのものは除外されても、自社だけが突出して悪化した場合はMACと主張される余地が残る、ということです。

参考:米国での規定状況

米国の調査では、MAC条項の書き方について次のような傾向が報告されています。いずれも米国の非公開会社買収を対象とした2018〜2019年時点のデータで、日本の中小M&Aの実態を示すものではありません。

項目

割合

MAC条項に除外事由を規定している

97%

「合理的に及ぼし得る事由」まで対象に含めている

97%

不均衡な影響の例外を規定している

93%

「将来の収益計画」を対象に含めている

10%

「重大」の判断に金額基準を設けている

2%

(出典:ABA「Private Target M&A Deal Points Study」2018〜2019年Q1、米国の非公開会社買収151件。西村あさひ法律事務所 2020年4月8日ニューズレターによる引用。確認日:2026-09-27)

金額基準を設けている契約はごく一部で、多くは「重大」という抽象的な言葉に判断を委ねていることがわかります。これが、MAC条項の予測可能性が低いと言われる理由のひとつです。

MAC条項をめぐる日本と米国の主な裁判例

日本でMAC条項が正面から争われた公表裁判例は非常に少なく、代表例とされる東京地裁2010年判決では買い手の解除は認められませんでした。 米国では長く「MACは認められにくい」とされてきましたが、2018年のAkorn事件で初めて肯定例が出ています。

日本:東京地裁平成22年(2010年)3月8日判決

非公開会社の全株式を譲渡した事案で、契約には「基準日以後、対象会社の財政状態に悪影響を及ぼす重要な事実が生じていないこと」という表明保証が定められていました。買い手はクロージング後に契約の解除を主張しましたが、裁判所は解除を認めませんでした(判例時報2089号143頁)。

裁判所の判断のポイントは次の2点です。

  1. 営業利益が事業計画を大きく下回った点 — 前期と比べて減少しておらず、事業計画の数値は予測・計画にすぎないとして、表明保証違反には当たらないとした
  2. 保有土地の価格が下落した点 — 不動産市況の下落のように、対象会社の資産に固有に生じたものではない一般的・普遍的な事象は、MAC条項の対象外とした(価格調整の原因になる余地はあっても、解除の原因にはならないとした)

(出典:西村あさひ法律事務所 2020年ニューズレター、牛島総合法律事務所「BUSINESS LAWYERS」2020年5月12日。確認日:2026-09-27)

売り手にとっては、「計画未達や市況悪化だけでは解除は認められにくい」という示唆になります。ただし、日本の裁判例は数が少なく、条文の書き方が違えば結論も変わりうるため、これを一般化しすぎないよう注意が必要です。

米国の主な裁判例

事件名

年

結論

売り手にとってのポイント

IBP v. Tyson Foods

2001年

MAC否定

長期的な収益力の悪化が必要で、短期的な業績悪化では足りないとされた

Akorn v. Fresenius Kabi

2018年

MAC肯定(初)

売上・利益の急激かつ持続的な悪化に加え、データ管理の不備による表明保証違反なども認定され、買い手の解除が有効とされた

AB Stable VIII v. MAPS Hotels

2020年(第一審)/2021年(デラウェア州最高裁)

MAC否定だが買い手勝訴

パンデミックは除外事由の「災害」に当たりMACではないとされた一方、売り手のコロナ対応が通常業務運営義務違反とされ、買い手のクロージング拒否が認められた

(出典:デラウェア州衡平法裁判所・最高裁判所判決、Cadwalader、Hogan Lovells等の法律事務所解説。確認日:2026-09-27)

米国の判例は日本の裁判所を直接拘束するものではありません。ただ、日本のM&A契約、特に大型案件や外資系の買い手との契約は米国型の条項を参考に作られることが多いため、実務上の参考になります。

なお、2026年9月時点で、日本においてMAC条項を主な争点とした2025年以降の新たな公表裁判例は、当編集部の調査では確認できていません。

売り手が交渉すべきMAC条項のポイント

専門家と売り手がM&A契約書のMAC条項を確認・修正して交渉するイメージ

売り手の基本方針は「MAC条項の範囲を狭くし、除外事由を広くし、判断基準をできるだけ客観的にする」ことです。 買い手とは利害が正反対になるため、どこまで譲れるかをあらかじめ整理して交渉に臨みましょう。

交渉ポイント

売り手が望む方向

買い手が望む方向

MAC条項の有無

入れない・削除する

入れる

対象範囲

「現に生じた」悪影響に限定。「将来の収益計画」「合理的に及ぼし得る」を削る

将来の見通しや蓋然性まで含める

除外事由

景気・業界・法改正・災害・感染症・地政学リスク・取引公表の影響などを広く列挙

最小限にとどめる

不均衡な影響の例外

入れない。入れる場合は基準を明確にする

入れる

判断基準

売上高・EBITDA・特定顧客の売上などの数値で線引きする

抽象的な「重大」のまま維持する

効果

契約解除ではなく価格調整で処理する

解除権を確保する

契約締結〜クロージングの期間

できるだけ短くする

準備に必要な期間を確保する

誓約事項との関係

災害時などの合理的な対応は「通常業務」の例外として認めてもらう

通常業務運営義務を厳格に定める

(出典:西村あさひ法律事務所 2020年ニューズレター、三浦法律事務所 2024年9月30日ニューズレター、マールオンライン掲載 東京国際法律事務所の解説を基に編集部作成。確認日:2026-09-27)

ポイント1:抽象的な「重大」ではなく数値で線引きする

西村あさひ法律事務所の2020年ニューズレターは、抽象的なMAC条項に頼るのではなく、「特定の重要顧客への売上高が●%以上減少していないこと」のような客観的な前提条件や、価格調整の仕組みで具体的に合意しておくことが望ましいとしています。

数値基準があれば、売り手は「どこまで悪化したら取引が止まるのか」を事前に把握でき、あいまいな主張による減額要求を防ぎやすくなります。

ポイント2:解除ではなく価格調整で処理する

悪化の程度によっては、取引そのものを止めるのではなく譲渡価格の調整で対応する方が、売り手・買い手の双方にとって合理的な場合があります。クロージング時の純資産や運転資本に応じて価格を調整する仕組みは、M&Aの価格調整条項の解説で紹介しています。将来の業績に連動して対価を支払うアーンアウトや、代金の一部を預けるエスクロー・分割払いも、リスクの分け方の選択肢になります。

ポイント3:地政学リスクなどは個別に明記する

三浦法律事務所の2024年9月30日のニューズレターは、地政学リスクについて、抽象的なMAC条項に頼るよりも、「輸出入規制・経済制裁が講じられた場合」のように一義的に判断できる形で定める方がよいと提言しています。海外取引や輸出入の比率が高い会社は、自社に関係するリスクを具体的に書き出し、除外事由に入れるかどうかを検討しましょう。

ポイント4:契約締結からクロージングまでを短くする

MAC条項のリスクは、締結からクロージングまでの期間が長いほど大きくなります。許認可や取引先の同意など、クロージングまでに必要な手続きを早めに洗い出し、スケジュールを詰めておくことが有効です。売却全体のスケジュール感はM&Aの売却にかかる期間・タイムラインをご覧ください。

MAC条項と関連条項の違い

MAC条項は単独で機能するのではなく、表明保証・前提条件・誓約事項・価格調整などと組み合わさって、売り手のリスクの大きさが決まります。 ドラフトを確認する際は、MAC条項だけでなく周辺の条項との関係も見ておきましょう。

条項

何を定めるか

主に効く時期

売り手のリスク

MAC条項

重大な悪影響が生じた場合の撤退・解除

締結〜クロージング

破談、減額再交渉の口実

表明保証

対象会社の状態が一定の内容であることを売り手が保証

締結時・クロージング時(違反の責任はクロージング後も続く)

違反時の補償請求

前提条件

クロージングを実行するために満たすべき条件

クロージング直前

条件未充足によるクロージング拒否

誓約事項(コベナンツ)

クロージングまで・後に売り手が守るべき義務

締結〜クロージング(一部はクロージング後)

違反による撤退・損害賠償

価格調整条項

クロージング時の財務数値に応じて価格を増減

クロージング時・直後

価格の減額

不可抗力条項

天災等で義務を履行できない場合の免責

契約期間全体

定め方次第で取引の中止

各条項の詳細は、表明保証、誓約事項(コベナンツ)、価格調整条項の各記事で解説しています。M&Aの専門用語をまとめて確認したい方はM&A用語集も便利です。

表明保証違反のリスクを保険で移転する表明保証保険(W&I保険)も、選択肢のひとつとして知っておくとよいでしょう。

中小企業の売却で確認したいMAC条項チェックリスト

中小企業の株式譲渡でも、前提条件や表明保証の一部として「重大な悪影響を及ぼす事由が生じていないこと」が入ることがあります。 大型案件のように長文の条項ではなく一文で済まされていることもあるため、見落とさずに確認しましょう。

株式譲渡契約書のドラフトを受け取ったら、次の項目を確認してください。

  • 「重大な悪影響」「重要な悪影響」「重大な変化」などの文言がどこに入っているか(前提条件・表明保証・解除事由のどれか)
  • 対象に「将来の収益計画」「見通し」が含まれていないか
  • 「及ぼすおそれのある」「合理的に及ぼし得る」など、将来の可能性まで含める表現がないか
  • 景気・業界・法改正・災害・感染症などの除外事由が定められているか
  • 自社特有のリスク(主要取引先・許認可・海外取引・季節変動など)が除外事由や数値基準で手当てされているか
  • 「不均衡な影響」の例外が入っていないか、入っている場合に基準が明確か
  • MAC事由が起きた場合の効果が「解除」なのか「価格調整」なのか
  • 表明保証型の場合、クロージング後の補償請求の期間・上限が定められているか
  • 締結からクロージングまでの期間と、クロージング期限(ロングストップデート)が定められているか
  • 誓約事項の「通常の業務の範囲」に、災害時などの合理的な対応を認める例外があるか

仲介会社は契約書のひな形を用意してくれることが多いものの、売り手・買い手の双方と契約する立場にあるため、MAC条項のように利害が対立する条項について売り手の立場だけで交渉するとは限りません。条項の意味や交渉の余地に不安があれば、売り手側の弁護士に契約書のレビューを依頼するのが確実です。 仲介会社の立場と利益相反の考え方はM&A仲介の利益相反問題とはで解説しています。

MAC条項に特に注意したい売り手・影響を受けにくい売り手

MAC条項のリスクの大きさは、会社の事業特性と取引のスケジュールによって大きく変わります。 自社がどちらに近いかを確認し、交渉にかける力の入れ方を決めましょう。

MAC条項に特に注意したい売り手

  • 業績の変動が大きい業種(季節性の強い事業、受注型のプロジェクト事業、相場の影響を受ける事業など)
  • 売上の多くを少数の取引先に依存している会社 — 主要取引先の離脱は会社固有の悪化とみなされやすい
  • 許認可や行政手続きがクロージングの条件になっている会社 — 締結からクロージングまでの期間が長くなりやすい
  • 海外取引・輸出入の比率が高い会社 — 関税・制裁・地政学リスクの影響を受けやすい
  • 外資系企業や大手企業が買い手の案件 — 米国型の詳細なMAC条項が提示されやすい
  • 事業計画を強気に作っている会社 — 「将来の収益計画」が対象に入ると計画未達が争点になりうる

MAC条項の影響を受けにくい売り手

  • 契約締結とクロージングを同日または短期間で行う案件 — 悪化事由が起きる期間そのものが短い
  • 業績が安定していて、取引先が分散している会社
  • 除外事由が広く、数値基準で線引きされた契約をまとめられている場合
  • 悪化時の処理が解除ではなく価格調整で合意できている場合

ただし、影響を受けにくいケースでも、表明保証や誓約事項の違反による撤退・補償請求のリスクは別に残ります。MAC条項だけを見て「問題ない」と判断しないようにしましょう。

よくある質問

Q. MAC条項を削除してほしいと申し入れてもよいのでしょうか?

交渉として申し入れること自体は珍しくありません。ただし買い手にとってMAC条項は締結後のリスクに対する数少ない防御手段のため、全面削除には応じてもらえないこともあります。その場合は、除外事由の追加や数値基準の導入、効果を価格調整にとどめるなど、条件を修正する方向で落としどころを探るのが現実的です。

Q. 基本合意書(MOU)の段階でもMAC条項は入りますか?

MAC条項が本格的に交渉されるのは、一般的には最終契約(株式譲渡契約など)の段階です。ただし、基本合意の段階で「最終契約にはMAC条項を含める」といった方針が示されることもあります。基本合意書の役割や法的拘束力の範囲はM&Aの基本合意書(MOU)とはをご覧ください。

Q. デューデリジェンスで開示した問題でも、MAC事由として主張されますか?

米国のIBP事件(2001年)では、買い手が契約時点で認識していた事業上のリスクは、MAC事由として主張しにくいとの考え方が示されたと解説されています。ただし、日本の裁判所でこの考え方がそのまま採用されるとは限りません。事前に開示した事項を表明保証やMAC条項の対象から外す旨を契約書に明記しておくことで、後の紛争を防ぎやすくなります。デューデリジェンスでの情報開示の考え方はデューデリジェンスとは(売り手向け)で解説しています。

Q. 買い手がMAC条項を理由に撤退してきたら、売り手はどうすればよいですか?

まずは買い手が主張する事由が、契約上のMAC事由と除外事由のどちらに当たるのかを条文に沿って確認します。そのうえで、契約どおりのクロージングを求めるのか、価格調整などで再交渉に応じるのかを判断することになります。対応を誤ると売り手側の契約違反を主張される可能性もあるため、回答する前に弁護士へ相談することを強くおすすめします。

Q. MAC条項以外に、買い手の撤退リスクに備える方法はありますか?

大型案件では、買い手が一方的に撤退する場合に違約金を支払う「リバース・ブレークアップ・フィー」を定める例もあります(西村あさひ法律事務所 2020年ニューズレター)。中小M&Aでの採用状況を示す統計は確認できていませんが、クロージングまでの期間が長い案件では、撤退時の費用負担のルールを確認しておく価値があります。

まとめ:MAC条項は「発動されるか」より「どう使われるか」を意識する

MAC条項は、契約締結からクロージングまでに起きた重大な悪化について、買い手に撤退の道を残す条項です。 日本の裁判例を見ると、計画未達や市況悪化だけで解除が認められる可能性は高くありません。しかし売り手にとっての本当のリスクは、発動の可能性を理由に減額を求められたり、誓約事項違反など別のルートで撤退されたりすることにあります。

売り手が押さえておきたいポイントは次の4つです。

  1. 「将来の収益計画」「合理的に及ぼし得る」など、範囲を広げる文言を削る
  2. 景気・災害・感染症・地政学リスクなどの除外事由を広く定める
  3. 抽象的な「重大」ではなく、売上高などの数値基準で線引きする
  4. 締結からクロージングまでの期間を短くし、誓約事項の例外も確保する

契約書の内容は、M&Aを支援する仲介会社やアドバイザーの経験によっても左右されます。契約実務に強いパートナーを選ぶ際の基準はM&A仲介会社の選び方ガイドで、M&A全体の基本はM&Aとはでそれぞれ解説しています。

専門家への相談について: MAC条項の有効性や適用範囲は、条文の文言・案件の事情・準拠法によって判断が変わります。本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。実際の契約交渉や条項の解釈については、M&Aに詳しい弁護士にご相談ください。

参考資料(確認日:2026-09-27)

  • 西村あさひ法律事務所「M&Aニューズレター」2020年4月8日号(2020年4月7日時点の情報)
  • 三浦法律事務所「M&P LEGAL NEWS ALERT #12」2024年9月30日
  • 牛島総合法律事務所「BUSINESS LAWYERS」掲載記事 2020年5月12日
  • マールオンライン(レコフデータ)東京国際法律事務所 連載「Withコロナ時代のクロスボーダーM&Aの実務と新潮流」
  • 東京地方裁判所 平成22年3月8日判決(判例時報2089号143頁)
  • Delaware Court of Chancery / Supreme Court of Delaware:Akorn, Inc. v. Fresenius Kabi AG(2018)、AB Stable VIII LLC v. MAPS Hotels and Resorts One LLC(2021)
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